来るときは、気がつけば来ている、そんなものだ。たとえば昨年末の紙『ele-king vol.4』でも話題にしたブローステップ、あのとき日本ではまだ「何それ?」だった。が、いまではホット・チップが中目黒の部屋でねちねちと嫌味を言うほど身近なものとなっている。好むと好まざるとに関わらず、この時代のレイヴ・カルチャーが上陸しているのだ。
DJ Kentaro Contrast Ninja Tune/ビート |
こうした新しいダンスの波を前向きに吸収しているのがDJケンタロウの『コントラスト』。若干20歳で世界の舞台に躍り出たDJによる10年目のセカンド・ソロ・アルバムで、彼が所属するロンドンの名門〈ニンジャ・チューン〉からのリリースだ。
『コントラスト』にはDJクラッシュやファイヤー・ボール、キッド・コアラなど多彩なゲストが参加しているものの、アルバムに通底するのはベース・ミュージックやドラムンベースといった、今日のレイヴ・カルチャーに欠かせないエートスだ。DJケンタロウという人のカラっとした気質は、ある意味ブローステップさえも受け入れているが、彼の出自であるバトルDJの擦りの美学がなくなることはない。そこはさすが〈ニンジャ・チューン〉一派、ヒップホップを忘れてはいない。
しかしあなた......よりよってこの時期に......、いくら国際的なDJとはいえ、いや国際的だからこそか、日本でこれだけダンスがポリティカルな話題になっているこの時期にダンスのアルバムを出すという心意気が、良い。レイヴ・オン! である。
アメリカでもダブステップがメチャクチャ盛り上がってて。L.A.だと、とくに。スクリレックスとかトゥエルブス・プラネットとか、やっぱりダンス・ミュージックっていうのは、いま、世界でバンドをしのぐ勢いになっちゃってる。
■じゃぁ、よろしくお願いします。
DJ KENTARO:よろしくお願いします。
■あのー、あれですよね。オリジナル・アルバムとしてはセカンド・アルバム(DJ KENTARO『Contrast』)になるんですよね。
DJ KENTARO:はい。
■ DJケンタロウっていうと、ミックスCDとかね、出されているんで。
DJ KENTARO:そうなんですよね。
■意外とたくさんリリースしているような印象を持たれがち、思われがちなんだけど。オリジナル・アルバムとしては今回で2枚目なんだよね。
DJ KENTARO:そう。5年ぶり、なんですよね。
■今回のセカンド・アルバムっていうのは、2012年の6月27日にリリースされるんだけど、「2012年6月」っていう、このリリースのタイミングみたいなものっていうのは必然性があったんですか? それとも、たまたまというか、流れというか。
DJ KENTARO:両方です(笑)。
■ハハハハ。
DJ KENTARO:けど、ぶっちゃけ偶然のほうがデカいです。けど、いろんな偶然も重なって「その日にしよう」っていう風にはなって。あの、まぁ、そうすね。(偶然と必然の)両方あると思います、ぶっちゃけ。意図したものもあれば。けど、やっぱり、ちょっとリリースが遅れたんですよ。ホントは4月だったんですよ。
■あぁ、そうなんですか。
DJ KENTARO:そこででき上がらなくて。
■ほほう。ちなみに、その意図した部分っていうのは、どんなところなんですか?
DJ KENTARO:別に6月にとかって意味はないですけど。この時期に出したい。2012年の中頃には出したいなっていうのがあって。けど「日本盤だけでも4月に出してくれ」って言う話があって。2月中に作らなきゃいけないっていうのがあったんですけど。それはもう物理的に無理で。結局、まぁ、2ヶ月伸びちゃったんですけど。
■その「セカンド・アルバムを出したい」っていうのは、やっぱり自分のなかで出したいものが、それだけ溜まってきたっていうこと?
DJ KENTARO:そうですね。去年もわざわざL.A.まで行って、2ヶ月間レコーディングしてきて。トラックもいっぱい溜まってきて。本当はそこで完成に持っていきたかったんですけど。やっぱ2ヶ月なんかじゃできないし。けど、そこで30曲ぐらいできたおかげで、コラボレーションしたラッパーに投げるトラックとか、いろいろできたんで。すごい成果にはなったんですけど。やっぱりアルバムをひとりで作るっていうのはスゴく大変で。たぶん、次にアルバム出すときも5年ぐらいかかると思う(笑)。
■はははは。で、ちなみに、取っ掛かりというか、今回の『Contrast』を作る取っ掛かりみたいなものは何かあったの?
DJ KENTARO:えーと、やっぱ「アルバムを作りたい」っていうのは前からあったんですけど。最初に作ったのが、このクラッシュさんとの曲("KIKKAKE")で。これが1曲目っていうか、これで基盤ができて。2年ぐらい前なんですけど。
■ へぇぇ。
DJ KENTARO:これをいちばん最初に作ってから、いろいろほかの曲とか、"HIGHER"とか"FIRE IS ON"とかできてきて。
■じゃぁ、そのクラッシュさんと一緒に作ったっていうのが、ひとつの取っ掛かりになったんですか?
DJ KENTARO:なりましたね。けど、そのときは"KIKKAKE"ってタイトルはまだ無くて。アンタイトルドだったんですけど、オレもクラッシュさんと世界で......例えば、ロンドンの〈KOKO〉っていう、伝統的なデッカいところで演ったりだとか(DJ KRUSH VS DJ KENTARO at KOKO/2009年10月3日)。セッションする機会が増えて。クラッシュさんのプレイも生で見る機会が増えて。スゴいやっぱりカッコイイなって。オレと全然違うスタイルなんですけど、やっぱりカッコイイなぁっていう風に思って。で、仲良くなってから、クラッシュさんが家に遊びに来たときに、こう、焼酎とか注ぎながら(笑)。
■はははは。
DJ KENTARO:飲み会的な感じで(笑)。クラッシュさんとサシで飲むなんてなかなかないんで。で、そのノリで曲も作って。したら、その日のうちに結構基盤ができたんですよ。そっからメールでやり取りして。「どうですか?」って。あとは、じょじょに音足していって。この"Kikkake"ってタイトルは、オレがクラッシュさんのインタヴューをウェブか何かで読んで。「キッカケ」って言葉を見て。「あ、イイなぁ」ってボーっと。「クラブで『ケンタロウさん、キッカケでDJはじめました』って若いコとかいたなぁ」とかいろいろ考えて。オレもクラッシュさんキッカケでいろいろ知って......とか、そういうこと、いろいろ考えていて。
■あー。
DJ KENTARO:で、まぁ"KIKKAKE"って。あと、「コントラスト」と「キッカケ」って、オレはイコールだと思ってて。やっぱりキッカケを作るにはコントラストが必要だし、コンストラストを作るとキッカケが生まれるし。何事もっていうか、ホント。抽象的ですけど。そういう意味では、今回の一種の核となってる曲ではありますね、この曲"KIKKAKE"は。
[[SplitPage]]前半戦がダンス・ミュージックで、後半はターンテーブリスト作品とか、ヒップホップっぽい感じとか。あとは、インスト物? っていう意味で、グラデーションのようにじょじょに変わっていくというか。
DJ Kentaro Contrast Ninja Tune/ビート |
■なるほど。あの、聴いたざっくりとした印象なんですけど、すごくエネルギッシュなダンス・アルバムじゃないですか。
DJ KENTARO:はい。
■ で、とにかく、たぶん、このアルバムがもっとも強く伝えることがあるとしたら、ダンス・ミュージックってことかなっていう風に......。
DJ KENTARO:そうですね。やっぱり、クラブ・ミュージック......。
■って解釈したんですけど。ここまでダンスにフォーカスしたっていうのは意図したものなんですか? 自然に出てきたっていう感じなんですか?
DJ KENTARO:けど、(アルバム全体を)ダンス・ミュージックだけにはしたくなかったんですよ。前半戦がダンス・ミュージックで、後半はターンテーブリスト作品とか、ヒップホップっぽい感じとか。あとは、インスト物? っていう意味で、グラデーションのようにじょじょに変わっていくというか。そういう流れは作りたくて。前半はイケイケではじまって。じょじょに曲調が転換していって、最後はスクラッチで終わるっていうところは意図して作りましたね。
■もちろん、曲は本当にいろいろ。それこそドラムンベースからの影響もあるし。いろんな要素あると思うんだけど。まぁ、すごくダンスを強く打ち出したアルバムだなと思ったんですけど。
DJ KENTARO:あ、はい。
■やっぱり、それは、いま、欧米ですごくダンス熱が上昇してるでしょ?
DJ KENTARO:ですね。
■やっぱりそこに触発されたものっていうのはありますか?
DJ KENTARO:あ、でも、少なからずありますね。やっぱ、僕は、どっちかっていうと、ロンドンっていうか、ヨーロッパのシーンにドップリ浸かってたんですけど。アメリカとかツアーするようになってから、アメリカでもダブステップがメチャクチャ盛り上がってて。L.A.だと、とくに。スクリレックス(Skrillex)とかトゥエルブス・プラネット(12th Planet)とか、ビッグ・ネームがアメリカからいっぱい出てきてて。あとはデヴィッド・ゲッタ[David Guetta]とかアフロジャック(Afrojack)とか。四つ打ちの、もうジャンルを越えたモノが増えてきてるじゃないですか? 例えば、ヒップホップにハウス入れたり。アフロジャックだったら、ダッチ・ハウスにR&B入れたりとか。だから、やっぱりダンス・ミュージックっていうのは、いま、世界でバンドをしのぐ勢いになっちゃってる。それはたしかじゃないですか。
■ホントそうですよね。
DJ KENTARO:で、逆に言うと、スクリレックスとかも、かつてバンドマンだったんですよ。バンドを辞めてパソコンに移った。っていうタイプが、いま、スゴく多いっていうか。
■あぁぁ。
DJ KENTARO:バンドマンだった人、バンド畑だった人が、パソコン・ミュージックに行って。要は、お客さん的にも「音が鳴ればイイじゃん!」っていう概念になってきてて。バンドが生演奏しても、しなくても、スピーカーから出てくる音が良ければイイじゃんっていう感じで。そういうダンス・ミュージック、DJがスゴい欧米で人気出てますよね。そういう印象受けますね。
■じゃぁ、やっぱり欧米のシーン、レイブカルチャーに触発されたっていう?
DJ KENTARO:そぉっすね。けど、やっぱり......僕もターンテーブリストとしてのアイデンティティがすごくあるので。(アルバムの)後半戦は、そういう感じに終わらせたいなっていうのあって。だから、全部洋楽、全部ダンス・ミュージックってアルバムにはしたくなかったんですよ。日本人だから、日本語の曲も入れたかったし。それこそ和のテイスト、和楽器入れたりっていうのもやりたかったし。最後のフランス人(C2C)と演った曲もある。ま、このまんまっていう感じなんですけど。これが素直な、オレのやりたかったことではあるんですよ。
ドラムンベースの曲も1曲絶対入れたかったし。このメイトリックス・アンド・フューチャーバウンド(MATRIX & FUTUREBOUND)って、僕、スゴいファンで。彼らの曲しょっちゅうDJで使うんで。純粋にリスペクトしてるんすよ。彼らと一緒に、フューチャーバウンドが家に遊びに来て、3日間、一緒に曲作ったのが、これ("NORTH SOUTH EAST WEST")で。
■最近は海外ではどのぐらいの頻度でDJ演ってるんですか?
DJ KENTARO:アルバム制作中はあんまり行ってなかったですね。で、次行くのは7月のヨーロッパとか、ぐらいですね。
■だいたい1年のうち......
DJ KENTARO:年に2回ぐらいヨーロッパ行くんですよ。で、1回ぐらいアジア・ツアーとかオーストラリアとか。
■その1回のヨーロッパってけっこう長いの?
DJ KENTARO:えー、2週間。2週間ぐらいですか? 1ヶ月とか2ヶ月か、そんなには行かないですけどね。
■USなんかは?
DJ KENTARO:この前が2週間。で、あんまり1ヶ月とか演ったことないですね。アメリカ......アメリカがいま、スゴいベース・ミュージック盛り上がってるんで。
■らしいねぇ。
DJ KENTARO:チャンスっちゃチャンスだし。けど、UKのヤツらはそれを見てあんまりよく思ってないとか(笑)。いろいろあるんすよ(苦笑)。
■ ハハハ(笑)。知ってる知ってる。あのー、ブローステップに対してね。
DJ KENTARO:ブローステップ。「ふざけんな! ファック・オフ!」とかスゲェ言ってるし(笑)。
■DJケンタロウはそこはどう思うの?
DJ KENTARO:それを遠くから見てますよ。「「あぁ~」って。やっぱアメリカ人ってもうイケイケの人多いじゃないですか? 気質っていうか。「イッたれ! イッたれ!」みたいな。こう、大ノリっていうか。やっぱ、そういうノリではアメリカ人には勝てないし。けど、イギリスはイギリスで、長い歴史と、ダブステップとかベース・ミュージックとか曇り空な感じとか、いろんな要素がUKにはあるから。オレもそっちの要素はスゴい惹かれてて。
で、やっぱUKから見て、ダブステップ、ブローステップが(アメリカで)盛り上がってるのを、よく思わないヤツらが、やっぱりいて。今度は逆に、イギリスとフランスもやっぱ仲悪いし。
■ダンス・カルチャーの違い、みたいな?
DJ KENTARO:いや、もう国ごと。
■それはまぁ、そうだよね。
DJ KENTARO:歴史的にもあるし。
■それ言ったら、ドイツとイギリスだって仲悪いじゃん。
DJ KENTARO:そうっすね。で、ドイツとフランスは仲良いとか。なんか、そういう、白人内でも、また派閥があったりとか。
■ ふーん、なるほど。
DJ KENTARO:だから、どこでも一緒なんだな。日本でも一応民族っていうのがあるし。例えば、アジア諸国のね? 近所の関係とかもあるし。だから、どこでもある。ヨーロッパなら白人同士でもいがみ合ってて。アメリカとUKでもいがみ合ってて。ま、けど、認め合ったりもしてて。そういうの全体的に見ると、どこ切り取っても一緒っていうか。けど、やっぱりいまのトレンド、ダンス・ミュージックっていうのが完全にテイク・オーヴァーしてて。それをイギリス人、例えば、ドラムンベースにしちゃうと「今いまはシーンも下火」って言う人もいるんで。
■ え、そう? でも、なんか、ほら、でもスクリームとかさ、ああいうダブステップ演ってた人の一部は、最近、みんなドラムンベースになっちゃったじゃん。
DJ KENTARO:え? スクリームがですか?
■シングルとかで。
DJ KENTARO:え、スクリームがドラムンベース出したんですか? それ知らないっす。へぇぇぇ。
■ちょっと前だけど。ワイリーなんかもそうだし。それとはまた別に、わりと、ほら......新しいタイプのドラムンベース...とか、たぶん、それこそ〈ニンジャ・チューン〉とか、すごくいちばん好きな部分なんじゃないかなと思うんだけどさ。
DJ KENTARO:え、なんすか? 知らない。
■ Dブリッジ(D-Bridge)とかさ。
DJ KENTARO:Dブリッジ。あぁ、ハイハイ。あぁぁ、アイシクル(Icicle)とか。
■面白そうののが出てきてるじゃない? なんか。
DJ KENTARO:あぁ、たしかに。そう、だから、ドラムンベースでも、やっぱり滅茶苦茶ドープな、孤高のシーンしかないんすよ。だから、いま、言ったようなDブリッジとアイシクルとか、いわゆる超ドープなドラムンベースこそが「リアル・ドラムンベースだ」って。例えば、オレが大好きなサブ・フォーカス(Sub Focus)とかペンデュラム(Pendulum)とか、「ああいうのはワックだ」って言っちゃうんすよ。だから、もう、ある意味、「Dブリッジ以外認めねぇ」みたいな。
■ ハハハハ(笑)。イギリス人はそういうところあるよね、昔から。良くも悪くも。
DJ KENTARO:ありますよね。「ドープなモノしかリアルじゃねぇ」みたいな。
■みんなマニアだから。
DJ KENTARO:そう、マニア。ある意味、ダブステップもそうなんですよ。ポスト・ダブステップ。「ブリストル発の、ああいうサウンドじゃないと認めねぇ」って。もうちょっとローファイで、空間うまく使って、いわゆるオールド・スクールじゃないけど、こう......「ポスト・ダブステップ以外はクソだ」って。
■ なるほど。でも、まぁ、それは歴史は繰り返すじゃないけど。
DJ KENTARO:そうそう、ジャングルも、そうじゃないですか。
■1990年代初頭のテクノのときもあったことで。
DJ KENTARO:そうですよね。レイヴからはじまって。
■ それこそ、もうアンダーワールドが「レズ(Rez)」っていうシングルを出した頃は、アンダーグランドでもすごい盛り上がってたんだけど。
DJ KENTARO:はい。
■「ボーン・スリッピー」の頃は、もう「セルアウトしてるから」みたいな。
DJ KENTARO:(苦笑)なるほどね。
■ そういうイギリス人気質っていうのがあるから。
DJ KENTARO:プライド高いからね、イギリス人は。
■ただ、逆に言えば、連中はそれだけ自分らの音楽文化に対して誇りを持ってるし、熱があるってことなんだよね。
DJ KENTARO:そうなんですよね。モチベーション、そんぐらい熱中してるから、言えるっていうのはあるんですけど。
■でもさ、DJケンタロウとしては、〈ニンジャ・チューン〉っていう、すごい拠点もあるわけだから。
DJ KENTARO:でも、やっぱり〈ニンジャ・チューン〉っていうのも、イギリス人のレーベルなんで。彼らもプライド持ってやってるし。彼らの考えもあるし。日本人とは違うバックボーンもあるし。だから、そういう意味でも、オレが〈ニンジャ・チューン〉から出すっていうことの意義は、良くも悪くも、しっかりあると思うんですよ。
■うん、そうだよね。〈ニンジャ・チューン〉って、日本にはあまり伝わってないけど、イギリス国内ではものすごく尊敬されているレーベルだし、〈ワープ〉と並んでイギリスが誇るインディ・レーベルだから。
DJ KENTARO:だから、やっぱり〈ニンジャ・チューン〉の社長も考えがあるわけで。で、やっぱセールスの人も考えがあるわけで。オレも日本人として考えがあるし。だから、そこでぶつかり合いみたいなものも多少あるんですよ。
■ あぁぁ、なるほど。
DJ KENTARO:けど、それを面白いって言ったら変だけど、「じゃぁ、やってやるよ」っていうトコで見てて。だからって相手に嫌がらせするとかじゃなくて。オレの意見をバンバン言う。ピーター(・クイック/ニンジャ・チューン・オーナー)も自分の意見を言ってくる。で、セールスの人も意見を言ってくる。そういうので、アルバムができて。例えば、こういうフィーチャリングのラッパーとかも、リリックは任せるんですよ。何言ってもいいから。まぁ、エディットするけど。で、そういうので生まれる化学反応をそのままパッケージしたりとか。
■なるほどなるほど。面白いね、それは。
DJ KENTARO:で、「これを見てくれ、これがいまの世界だよ」っていうところも簡単にあるし。だから、今のアルバム、今しか出せないアルバム。自ずといましか出せない曲にもなるし......何て言ったらいいんすか、なんか、こう......
■よりアクチュアルなというか。
DJ KENTARO:そうですね......これを日本の自主で出してたら、たぶんこんな音になってないし。〈ニンジャ・チューン〉から出して、マスタリングも〈ニンジャ・チューン〉お抱えでやって、とか。
■ うんうん。向こうのさ、そういうレーベルっていうのはさ、平気でダメ出しするじゃない。例えば、変な話、「いままでAっていうレーベルから出してたのに、何で今回はBから出したの?」ってアーティストに訊いたら、「Aから断られたから」とかね。
DJ KENTARO:はいはい。
■そういう直球なダメ出しってアレだよね。日本ではなかなか無いっていうかさ。
DJ KENTARO:一応、これも3枚契約になってたんだっけな〈ニンジャ・チューン〉と。契約があるんですけど。何枚だったか......(笑)?
■なるほど。まぁ〈ニンジャ・チューン〉にしてみたら、DJケンタロウは、かつて自分たちがいた場所みたいな存在じゃないですか。だってコールドカットなんていうのはさ、だって初期はまさにアレですよ、ターンテーブルによるサンプリングだけで音を作ってた人たちなわけだから。
DJ KENTARO:(万感込めて)そうっすねぇ。で、「忍者」が好きで〈ニンジャ・チューン〉って(レーベル名に)したわけだし。日本の文化も好きだったろうし。だから共感できる部分もあるんすけど。けど、やっぱりお互いの主張もあるし。
■じゃあ、シンドかったりするわけだ。そういうやりとりが。
DJ KENTARO:まぁ、オレは楽しいですけどね。けど、やっぱりそういうのしっかり見据えて。(相手の意見に耳を傾けながら)「ウンウンウン」って考えますね。で、こう、フィーチャリング勢も色んな人がいるんで。例えば、イギリス人。メイトリックス・アンド・フューチャーバウンドもイギリス人で、例えば、フォーリン・ベガーズ[FOREIGN BEGGARS]も、イギリス人だけど、ひとりはドバイのヤツで、ひとりは黒人、で、バックDJは白人とか。
■じゃぁ、そこはスゴくインターナショナルな感じなんだね。
DJ KENTARO:だから、黒人英語、白人英語、上流階級英語とか、イギリス訛りとか、英語圏の......小っちゃいコダワリっていうのもあるんすよ。だから、やっぱり黒人が言う英語を、白人の前で言うと「ハ?」ってなったり。オレもそこまでわかんないから。そういうのが知り合いにいて。黒人同士だったら「ヘイ」「ワッツアップ、ブロ」とか、上流階級同士の「ヘイ」とか、なんかあるんすよ、言い方が。オレもわかんないですけど、そういうニュアンスみたいなのが向こう行くと、日本以上にムチャクチャあって。だから、ロンドンって細分化しまくって、白人は白人で固まって、日本人は日本人、アジア人はアジア人って。
■なるほどなるほど。イイ話だね。いま、ケンタロウ君が話してくれたような、猥雑な熱量みたいなものはスゴく出てるなと思いましたね。ダンス・ミュージックの良いところだね。
DJ KENTARO:だから、まぁ、何を作ってもいいんすよね。絶対、いまの音になるから。もうまかせていいっていうか。ラッパーにしても何にしても。ソイツが言いたいこと言えばいいっていうか。それをバーンってパッケージして、「ハイ、みんな、これがいまの地球だぜ」っていうところもあるし。
■なるほど。
DJ KENTARO:そういう、狙い、じゃないけど。まぁ、そういうのも面白いかなとか。
[[SplitPage]]〈ニンジャ・チューン〉っていうのも、イギリス人のレーベルなんで。彼らもプライド持ってやってるし。彼らの考えもあるし。日本人とは違うバックボーンもあるし。だから、そういう意味でも、オレが〈ニンジャ・チューン〉から出すっていうことの意義は、良くも悪くも、しっかりあると思うんですよ。
DJ Kentaro Contrast Ninja Tune/ビート |
■ あの、変な話、じゃぁさ、具体的にいまの向こうのシーンって若いじゃない? ダブステップとかブローステップしても。
DJ KENTARO:ウンウンウン。たしかに。
■ああいう若い連中、若いDJ、若いプロデューサーとかが出てくるなかで、DJケンタロウから見て「コイツはヤルな」って思ったヤツっている?
DJ KENTARO:若いのっすか? ジョーカーとか、あと、若くないけどサブ・フォーカス。オレと同年代、ちょっと上なんですけど。サブ・フォーカスとか、もうドラムンベースでは断トツ。群を抜いてますね、オレのなかで。
■それはプロデューサーとして?
DJ KENTARO:そう。作る音楽が。サブ・フォーカスは断トツ1位ですね、オレのなかで。若いプロデューサーっていう意味では、それこそスクリレックスとか。ま、正直、オレちょっと飽きてるんですけど。まぁ、けど、いろいろ超盛り上げて。あんだけポップにしたって功績はスゴいし。ま、音楽的にはオレはちょっとよくわからないけど。ジョーカーとか、それこそジェームス・ブレイクとか、あと誰だろうな、若いの......若いの......あ、アメリカいっぱいいますね、若いのは。アメリカとUKだったらブリアル。ブリアルは、若くないのか。
■まぁ、若くはないけどね。
DJ KENTARO:けど、ブリアルの音ってポップじゃないけど。オレけっこう好きで。なんか、あのチリチリした音で。空間っぽいテクノっぽい感じもあるし。
■初期の、それこそ『STRICTLY TURNTABLIZED』とかの頃のクラッシュさんとも似た感性を思ってるよね。
DJ KENTARO:たしかにたしかに。リズム・パターンが2ステップとかUKガラージ、ブロークン・ビーツみたいな。ツン・ツン・タン・ツン・ツン・ツ・タンみたいな不規則な感じとか。暗ぁい、灰色な、ロンドンっぽい感じがブリアルがやっぱり......オレとやってることはぜんぜん違うけどスゴい好きなんですよね。
■はぁ、なるほどねぇ。
DJ KENTARO:ブリアル、スゴい暗いけど(笑)、ムチャクチャクリエイティヴだと思います。
■ちなみに、海外のそういう盛り上がりに対して、日本のシーンっていうのは当然気になるわけでしょう?
DJ KENTARO:ハイ。
■ DJケンタロウから見て、最近の日本のシーンって言うのはどういう風に見える?
DJ KENTARO:日本のシーン......けど、クラブ風営法とかっていう面ではいろいろ。例えば、オレも京都の〈WORLD〉で演ってるときに中止になったりとか。まぁ、ニューヨークで演ってるときもあったんですけど。
■最近ね。ようやくそれがおおやけで文字になって、クラブ風営法に関する疑問っていうのは。
DJ KENTARO:法律っていうか。
■『エレキング』のサイトにも載せたら、スゴく反響があって。あと、ちょっと前にね、朝日新聞の方にも載ったらしいね(朝日新聞2012年5月16日水曜日・朝刊・文化面|https://bit.ly/L4G2N2)。
DJ KENTARO:ほぇぇ。
■何で日本では踊ると違法になるのか? っていう(苦笑)。
DJ KENTARO:これ面白いですね。「踊ると違法」っていう。バーだったらいい。バー営業だったらOK。
■変な話、そもそも先進国で、ナイトクラビングがない国があるとしたら、おかしいでしょう? ファシズムかっていう。
DJ KENTARO:たしかにたしかに。ないですもんね、他には。そんな国。
■現代の民主主義国家の都市として、ホントどっかに欠陥があるとしか思えないっていうね。オレ、昔、調べたことがあって、第2次大戦後のダンスホールが、売春斡旋を兼ねてたのね。
DJ KENTARO:あぁ。(現在の「クラブ」とはイントネーションの違う)「クラブ」みたいな。
■ それを取り締まるために「ダンスホール」という言葉が使われてるんで。それを、変な話......クラブを潰すために利用することもできる。あと、やっぱほら、クラブに対するすごくネガティヴなイメージがあるじゃない?
DJ KENTARO:「ドラッグやったり、ケンカして、なんか悪いことやって......」って。ウン。
■だいたいクラブがなくてもドラッグの問題はあるからね。
DJ KENTARO:まぁ、夜の水商売ですから。結局クラブって。水商売、だけど、「やってることは音楽ですよ」っていうのは言いたいし。
■ウン
DJ KENTARO:なにが原因なんですかね。ホント、オレ、よくわかんない。
■ヒドい話ですよね。でも、さすがにこういう風に表立って議論されるようになった分だけ。
DJ KENTARO:マシっていうか。
■イイかなと思って。少なくとも、クラブという場所自体は悪いことしてるわけじゃないから。文化を作ってるわけだから。
DJ KENTARO:うん。むしろ。
■アートだからね(笑)!
DJ KENTARO:そうっすね。福岡の〈CLUB O/D〉もヤラれたらしくて。
■そうそうそう。そういう意味では、いま、ダンス・ミュージックのアルバムを出すっていうのは、また別の、良い意味で前向きな意味もあって。
DJ KENTARO:そうですね。今回、そういう復興ソングみたいなものも、あえて入れなかったんですよ。世界から出すっていうのもあるし。全体的なメッセージを受け取って欲しいっていうのもあるし。そういう意味では、ダンス・アルバムとして、後はターンテーブリストとして、っていうか。オレもプロデューサーとDJ両方とも、二足の草鞋なんで。上手く落とし込みたいなっていう狙いは一応あって。
■僕はもうここ数年、クラブにはあんま行ってないんだけど、たまに耳にするのは、人によっては、日本のクラブのエネルギーがね、海外に比べると下がってるんじゃないか? っていう。クラブ・カルチャー、下火なんじゃないかと。それはやっぱり感じますか?
DJ KENTARO:......どうなんすかね。オレ......例えば、ハウスってこと? テクノってことですか?
■イヤ、全体的に。クラブ・ミュージックっていうことで。
DJ KENTARO:たしかに地方は、仙台の話すると、動員数は少なく。
■まぁぁ、仙台は、さすがにしょうがないかなっていう気もするけどね。
DJ KENTARO:まぁ、そうっすね。けど、地方はどこもそういう感じがしますね。福岡とかもそうだし。京都とかでもクラナカさんとかも言うし。大阪はなおさらだし。東京もね。そんなにメチャクチャ入ってるってわけじゃないし。だから、まぁ、そういうのを深く考えると、こう、危機感を持たないとなって。そ東京のクラブ、それこそ〈HARLEM〉だ〈Asia〉だって、それも無くなりはじめたらとんでもない。そこまでいって動き出すっていうのはないけど。まぁ、そこまでなったら、さすがヤバいですね。〈Asia〉閉まって、〈ageHa〉閉まって、〈VISION〉(SOUND MUSEUM VISION)閉まってまでは......なんないですけど。もし、なったら。
■DJブース越しのお客さんは、昔のほうがハジけてる感じがする?
DJ KENTARO:あぁぁ......最近......こないだ岡山(岡山YEBISU YA PRO |2012年5月5日)でやったときはクソ盛り上がりました。アンコール3回ぐらい来て。
■やっぱり場所によっては、ぜんぜんエネルギーがあるんだね。僕もたまに行くとそのクラブの熱さを感じて燃えることがあるよ(笑)。
DJ KENTARO:〈ageHa〉であった〈Sonar〉(SonarSound Tokyo|2012年4月21日、22日)とかどうだったんすかね。オレ行かなかったけど。
■スゴい盛り上がっていたよ。3千人以上入ったっていうし。
DJ KENTARO:ね? 人もメチャクチャ入ったって。
■そうなんだよね。クラブが元気ないっていう人もいるけど、ディミトリ・フロム・パリスとDJヘルで2千人近く入るとか、僕の時代では考えられない動員だから、そういう意味では盛り上がっているんだなーとは思う。〈Sonar〉なんか、アレだけ新しいメンツで盛り上がったんだから大したものじゃない? ラスティであんなに人が踊るとは思わなかったもん。
DJ KENTARO:あ、ホントすか。へぇぇ、ラスティ、ラスティ、ヤバいな。
■音がちょっとね......DJはハドソン・モホークのほうが良かったですけどね。ああ、DJケンタロウの新作は、ラスティのアルバム(『Glass Swards』)とちょっと似てる感じもしましたね。
DJ KENTARO:あ、けど、それ、言われましたね。オレもラスティの音好きだし。彼と一緒にライヴも演ったし。ただ、彼、DJヘッタクソなんすよ。ライヴは上手いんだけど。
■はははは(笑)。でもさ、ダブステップの人ってさ、DJ......オレもラマダンマンっているじゃないですか? ポスト・ダブステップのラマダンマンって知らない?
DJ KENTARO:いや、わかんないっす。
■昨年末、日本に来たときに聴きに行ったんだけど、4つかけているんですよ。でもさ、ダブステップで4つ打ち掛けても、それって、テクノでやってるヤツらに敵わないから(笑)。ずーっとミニマルとか回してるヤツらに。だから、トラックは面白いんだけど、DJはまだまだかなとかって思ったりしたこともある。
DJ KENTARO:そうですね、たしかに。だってラスティとかもメチャクチャ若いですよね。まだ22~3歳でしょ、たぶん。
■そうだねぇ。でも、あの情報量っていうかさ。1曲のなかにそれこそレイヴもあって、ダブステップもあって、グライムもあるような感じは、今回のDJ ケンタロウのアルバムと似てるというか。情報量の多さ、その圧縮した感じというか。
DJ KENTARO:ラスティ......マッドリブもそうだけど。マッドリブもDJ全然ダメで、昔、〈フジ・ロック〉で演ったときとか酷かったもん。自分で謝ってたもん。「ソーリー」って(笑)。
■だったらイイじゃん(笑)
DJ KENTARO:そうそう(笑)。いや、でも、ピーナッツ・バターウルフに怒られてましたよ(笑)。「そんなこと言うな!」って。
■ ハハハハ! ケンタロウのアルバムは、カラーリングが絶対......いろんな色になりますよね。
DJ KENTARO:そうですね。けど、一応、「まとまりはついたかな」っていう気はしてます。前回と違って、マスタリング・エンジニアも今回超良くて。ケヴィンってヤツがイイ腕してて。
[[SplitPage]]オレはCDJ使わなかったけど、パソコンでセラートっていうのが生まれて。「自分の作った曲すぐ掛けれんじゃん」っていうので、オレも導入して。で、いつしか割合が、じょじょにデジタル増えて。
DJ Kentaro Contrast Ninja Tune/ビート |
■さっき言ってた、自分の出発点というか、自分の出自であるコスリというかね、スクラッチを後半のクライマックスに持ってきてるわけだけど。DJ ケンタロウがどこらやって来たのかって言うと、いわゆる「DJバトル」って言われるシーンだから。
DJ KENTARO:そうですね、一般的に。
■で、その「DJバトル」が日本でもすごく注目されて、みんなが夢中になったのって、1990年代末から2000年代頭......。
DJ KENTARO:そうですね。2003年、2004年ぐらいまでかなぁ。
■......ぐらいまでで。そこからほんのわずか10年も経っていないにもかかわらず、エクイップメントであるとか、DJカルチャーを巡るツールが激変したでしょ。
DJ KENTARO:進化しまくってますね。
■ そのことに関してはどういう風に思いますか?
DJ KENTARO:まぁ、アナログ......をやって〈DMC〉とかも勝ったし。例えば、自分のオリジナル・ブレイクスも作って。っていう時点から、ちょっとずつ変わってきたっていうか。元々は売ってるランD.M.C.でも何でも、レコードに入ってる溝の範囲内でやってるからカッコイイって美学があったじゃないですか? そういうのでずっとDJバトルがあって。そのうちオリジナル・ブレイクスっていう概念が生まれて。自分でレコード・プレスする。その時点で、もうワックだなんだっていう話は出てきてたんですよ。「自分で逆算して作れちゃうじゃん」って。例えば、リズム・パターンも自分で決めて、作りたいルーティン、逆算してできちゃう、と。「そんなのワックだ」っていうのも初期からあったんすよ。だから、売り物のレコードだけでやんないと面白くないみたいな。
だけど、だんだんそれ(オリジナル・ブレイクスありき)が主流に、主流まではいかないけど、オレも自分でオリジナル(・ブレイクス)出して優勝したし。それが過ぎて、今度はデジタル。オレはCDJ使わなかったけど、パソコンでセラート[Serato]っていうのが生まれて。「自分の作った曲すぐ掛けれんじゃん」っていうので、オレも導入して。で、いつしか割合が、じょじょにデジタル増えて、アナログがだんだん、3割、2割、とかなってきて。いまはもう数枚しか現場に持って行かない状況なんすよ。やっぱりオレも海外とか行くと、ロスト・バゲージとか細かい問題があったりして。レコード無くなるし。
■重たいの運ぶから、最近は金取られるしね。
DJ KENTARO:金取られるし。10万とかかかる。「ギャラ全部なくなっちゃうよ」とか、いろいろ事情があるから。だから、海外はどうしてもセラートで。クラッシュさんもいまセラートで演ってるけど。ムロさん[DJ MURO]でさえ、海外は7インチ・セットでしか行かないと。やっぱりそれも......。
■そこで7インチ・セットで行くところが、またイイね。
DJ KENTARO:カッコイイっすよね(笑)。だから、それをムロさんはアナログでしっかりやってる。あと、仙台のGAGLEのミツさん(DJ MITSU THE BEATS)も、ミウラさん[DJ Mu-R]もアナログで演ってたり。オレも少なからず、そこは感じてて。けど、オレはアナログ、いまでも家に。5000枚ぐらいあって。かなり売っちゃったんですけど、けど、それはもうプロモとか、ハッキリ言って要らないレコードで(苦笑)。オレの買ってきたレコードとかお気に入りは5000枚ぐらい家にあって。そういうアナログ・セットの、3時間、4時間っていうロングセットを、その棚ごと持って来て、今年どっかで演りたいなっていうのがあって。まぁ、漠然とですけど。そういうアナログ・セットをコンセプト的に演りたいなっていうのがあって。やっぱり、オレも、デジタルになると、もちろん便利だけど、溝飛ばすとか、もともと入ってる曲のアレとかっていうのが楽しかったのになぁ、とかって正直考えたりしてるし。
■デリック・メイなんかは、もうDJと呼ばれている職業の......
DJ KENTARO:デリック・メイ。
■そう、テクノの。彼がミックスCDを自分が出す理由は、そのDJという職業がもういなくなってしまうから、その記録として、オレは(ミックスCDを)出すって言っているんだけどさ。
DJ KENTARO:なるほどぉ。
■DJケンタロウやクラッシュさんの時代だったら、すごく練習するわけじゃない。
DJ KENTARO:そうですね。ターンテーブリストたちとか、大会に出るDJとかは。
■まずピッチを合わせる。「どうやったらピッチが合うんだ?」っていうところからはじまって。どうしたら上手く、カッコ良くミキシングができるのかとか。あと、バトル系なわけだからさ、当然、その速さであるとかね。リズム感であるとか。
DJ KENTARO:ジャグリングとか、そうですからね。
■トレーニング、努力しなければできなかったことがさ、もう努力しなくてもできるようになっちゃったじゃない。
DJ KENTARO:スポーツ。〈DMC〉とか、スポーツとかって言われますからね。言われないですか? スポーツっぽいって。
■ スポーツ。アハハハ(笑)。スポーツっていうのはアートじゃないですか。
DJ KENTARO:まぁ、そうですよね。動き早いし、結構忙しいし。それがいまやボタンひとつだからね。
■だから、なんかこう、思いがあるんじゃないですか? ターンテーブリストとして。いまのパソコンDJに対して。要はピッチはボタン、ポーンとかっていう新しく出てきた世代に。あまりにも便利になってしまって。
DJ KENTARO:そうですね......で、いまの若いコ、ターンテーブル、触ったこと無いっていうコ、いるんだなぁと思って(苦笑)。
■けっこういる。
DJ KENTARO:けっこういるんですよね。「あ、いるんだ」って目の当たりにしたときに、「え、ピッチコントローラー、スゴォい」みたいな感じで(笑)。喜んでるコがいて。
一同:(笑)
DJ KENTARO:「そうなんだ!」って。
■ だって、DJ ケンタロウって、ハッキリ言って、まだ若いよね。
DJ KENTARO:30歳ですよ、一応。けど、まぁ......。
■ぜんぜん若いよ!
DJ KENTARO:ハハハハ。
■時代の速度、速すぎない? 自分が歳を取っただけ?
DJ KENTARO:けど、正直オレもアナログからデジタルに移行してきたっていう流れもあって。セラートとトラクター(TRAKTOR)両方持ってるし。いまはセラート使ってやってて。オレもいま、デジタルの恩恵っていうのは受けてDJ演ってる。取り敢えず海外でツアーできて、自分の曲もすぐ掛けれて。例えば、「あ、今日はレゲエっぽいのいこう」、「今日はテクノ掛けてみよう」とかってパッとプレイリスト作ったり。ある意味、その場で〈ビートポート〉で買ったり。もうイヴェントの1時間前まで仕込めるわけですよ。だから、そういう便利さっていうのはあったけど。
いままでは、持ってきたレコードのなかでどうにかストーリーを作るっていう制限があったから、逆に、オレっぽさが出ててたのかなぁっていうのも考えたんですよ。オレが買ってきたレコードしかないから、オレっぽさが出てた......とか、まぁ、だから、どっちがイイかわかんないっすけど。デジタルDJになってきてて、ピッチなんか合わせなくても、「ハイ、SYNCボタン。これだけ」みたいなっていうのは、そのうち、そこに人がいなくなるだろうな。それこそ遠隔操作でイイっていうか(苦笑)。ミックスCD掛けて終わりみたいな。そんなんなったらもうDJとかじゃないですけど。(改めて)たしかにそうっすわ......そう考えてみれば、DJって今後どうなっていくんだろう。あんま考えたたことねぇわ。
スタッフ:DJミキサー自体はもうWi-Fiの機能が積んであって。パソコン画面も付いて、要は、Wi-Fiでミキサー上からデータにアクセスにしにいくから、もうパソコンも要らなくなるように、いま......
DJ KENTARO:ミキサーだけってこと?
スタッフ:ミキサー内で全部完結できるようにしてるって言ってた。Wi-Fiを積んでデータにアクセスする。要は、手ぶらでクラブに行って、「あ、付いてる? じゃぁ......」って言って、ケンタロウの家のサーバにアクセスして、データから呼び出して。やっていくっていうところをいま(エンジニアは目指してる)。第2の......っていうか、この先はそこらしいですよ。
DJ KENTARO:だから〈ドロップボックス〉(Dropbox)にアクセスして。
スタッフ:そうそう。そういうこと。クラウド上にアクセスしにいくミキサー。もうパソコンだよね。
DJ KENTARO:やっべぇ......。
■ケンタロウは、早熟だったから、デビューが若すぎたね。同世代のさ、友だちとかね。それこそアナログなんて、ほとんど聴いてないだろうし。
DJ KENTARO:アナログを? え? 同世代で? あ、DJ以外か。それはもう、そうですね。アナログっていうのはDJしか持ってないものだったんで。アナログ・フォーマットで音楽リスナーって、たぶんいないと思いますね。
■いないよね。もうね。
DJ KENTARO:DJしか聴いてないと思います。
■だからさ......ケンタロウがまだ30歳ってところが素晴らしいよね(笑)! 20歳で世界デビューですからね。
DJ KENTARO:そうっすかね。もう10年経った感じはあって。オレも世界チャンピオン(2002年・DMC世界チャンピオン)っていうのはイイけど、もうそろそろ10年経ったし、その肩書きをずっと引っ張る必要はないのかなって。
■でも、やっぱり、正直言って、クラブ・カルチャーを知らないコたちは気の毒だなって思うこともあって。ロックしか知らないコたちってのはホント可哀想でさ。
DJ KENTARO:あぁ。
■いちどクラブ文化を好きになった立場からすると、なんでそんなにスターを崇めながらって思ってしまうんだよね。クラブ・カルチャーっていうのはさ、自分たちが楽しむものじゃない。
DJ KENTARO:ホントっすね。主役はお客さんですからね。
■欧米でクラブ・カルチャーが、新しい世代によってスゴく盛り返してきたでしょ。デジタル環境の普及、ソーシャル・ネットワークの普及と比例して、クラブが盛り上がっている。それってよくわかる話だよね。当たり前だけど、やっぱ身体性が欲しいんだよね。
DJ KENTARO:(満足できない)からライヴに来る。それはイイことっすよね。
スタッフ:僕、最近、SNSをピタっと止めたんですよ。そうしたら「アイツ生きてる?」ってウワサが(笑)。
■まあ、たしかにSNSが果たしている役割は大きいけど、そこだけに依存しちゃうのは怖いね。
スタッフ:人とのコミュニケーションが、SNS基準になってて。
DJ KENTARO:でも、その感じ、オレにもわかる、わかるよ。オレもそうなる。そこだけになっちゃってて。とくに若い世代はそうですよ。20歳代はみんな(SNSが音信不通になったら)「え? 大丈夫??」みたいな。
■そこで認識し合ってるんだね。
DJ KENTARO:ウチらの世代は、まだマシだよ。逆に言うと、どっかで誰かがFacebookにオレの写真を上げてくれてれば、「あー元気なんだな」ぐらいの。けど、20歳代、オレの妹とかの世代は、FacebookとかTwitterとかやってないと「大丈夫? 生きてる?」みたいな。
■昔はね、それこそ、行きつけの飲み屋に顔出さないと「アイツ、生きてる?」みたいなね。電話に出ないとかね。
スタッフ:レコ屋で出会う人とかいましたからね。
■そうそう。「アイツ、最近、レコード屋に来ないな」とかね。そういう意味では、クラブは音楽が好きな人にとって砦みたいなところがあるよね。ミレニアルズがクラブに走るのは、すごく理にかなっているよ。
DJ KENTARO:でも、そのいっぽうで......〈コーチェラ〉(Coachella Valley Music and Arts Annual Festival)で、2パックのホログラム、見ました? あれとかもね......コンセプトとかあったんだろうけど。2パック蘇らせて、横にスヌープ(・ドッグ)と(ドクター・)ドレーがいてみたいな。2パックがホログラムでライヴしたんですけど。「えぇぇ...」みたいな。
■へー!
DJ KENTARO:だから、そのうちビギー(ノトーリアス・B.I.G.)とかもライヴやるんだろうなみたいな。
■ ハハハハ(笑)。死人だらけのフェスみたいな。
DJ KENTARO:ジミ・ヘンドリックスが出てきたり。ニルヴァーナのカート・コバーンが出てきたり。
[[SplitPage]]オレもいま、デジタルの恩恵っていうのは受けてDJ演ってる。取り敢えず海外でツアーできて、自分の曲もすぐ掛けれて。例えば、「あ、今日はレゲエっぽいのいこう」、「今日はテクノ掛けてみよう」とかってパッとプレイリスト作ったり。ある意味、その場で〈ビートポート〉で買ったり。もうイヴェントの1時間前まで仕込めるわけですよ。だから、そういう便利さっていうのはあったけど。
DJ Kentaro Contrast Ninja Tune/ビート |
■はははは。ところでさ、DJ KENTAROみたいな人とかさ、クラッシュさんみたいな人、あるいはゴス・トラッドとかさ、日本人のDJっていうのは、海外と日本を往復しているわけだよね。その落差みたいなものをより......なかなか僕も最近海外に出る機会がなくなっちゃったんだけど。昔、1990年代は、そういう落差ってあんまり感じなかったんだけど。
DJ KENTARO:どういう落差ですか?
■いや、もう文化的な。ユース・カルチャーのあり方の。欧米との格差みたいなもの。いまの日本のポップ音楽は90年代よりも内部に閉じている感じでしょう。内需も大切だけど、どんどん国際化していってる外国とは逆行しているというか。
DJ KENTARO:あぁ、ありますね。それに、やっぱり、クラブに関して言えば、向こうって、逆に、夜の選択肢が少ないっていうか。飲み屋とか無いし。クラブでしか酒飲めないから。みんな来るんですよ、クラブに。オヤジからオバちゃんから、若者はもちろん。
何でかって言うと、酒飲みたいときに、バーが空いてるところもあるけど、バーは午前1時に閉まる。1時以降飲みたい時はクラブに行くしか無い。けど、日本って選択肢があって。飲み屋、カラオケ、ボーリング、クラブって。クラブなんて選択肢の1個に過ぎなくて。いくらでも酒飲んだり遊んだりできるから、けど、法律の関係もあって、向こうではクラブでしか酒が飲めないから。やっぱりいつでも来るんすよね。
で、社交場にもなってて。みんなとくにその日のゲストに興味が無いから。取り敢えず飲んで。「あ、なんか演ってんな」、「お! いまの曲カッケェ」ぐらいで。けど、それで良いと思うんですよ、クラブって。で、(出演者側も)だんだん新しいファンをキャッチしたりとか。お客がいちばん楽しんでるっていう状況が目に見えるっていうか。オレの方、別に見てないヤツもいるし。フロアの真んなか見て踊ってる。それこそ自分が楽しんでる状況。日本はもう少し音楽的に真摯だから、やっぱりステージしっかり見て、ちゃんと聴いてる。それの良いところもあると思うんですけど。真摯過ぎて「ウァァァ」って感じにならない。
■やっぱり、日本人ってコミュニケーション下手じゃない。外国の人に比べて圧倒的に。
DJ KENTARO:まぁ、英語を喋れないですからね。
■コミュニケーション能力っていうかさ。苦手だし。だから、どっちかって言うと人と会うよりはさ。
DJ KENTARO:家でパソコンしてるほうが。
■ 自分のベッドの上でパソコンしてるほうが楽だとは思うんだよ、たしかに(笑)。僕も若い頃は、電話出るのも抵抗あった人間だったから。でも、人間っていうのは、当然、ひとりでは生きていけないものであって。
DJ KENTARO:そういう集いの場みたいな。
■ そうそう。だからなおさら、クラブ・カルチャーに頑張ってもらいたいなっていう気がしてね。今回のアルバムっていうのは、日本がもしいま、欧米みたいにすっごくダンスが盛り上がってたら、違った内容になってたかもしれないよね。それはない?
DJ KENTARO:そう、ですね。けど、一応、このアルバムを〈ニンジャ・チューン〉、UKから出すっていうことは、やっぱり意識しました。日本語の曲も、ホントは「入れないでくれ」っていう風に言われて。
■ あぁ、そうなんだ。
DJ KENTARO:向こうも「日本語の曲出してもしょうがない。意味ないから」っていうのもあって。ファースト(『ENTER』)でもあったんですけど、今回も「1曲だけは入れさせてくれ」って言って。「わかった」って。だから、この曲("FIRE IS ON")っていうのは外人は皆飛ばすコーナーだ、と......ってぐらい言ってくるんですよ、やっぱり。
■厳しいねぇ(笑)。
DJ KENTARO:「日本語の曲なんか入れるくらいなら、女ヴォーカル入れてよ」みたいな。「英語のヴォーカル入れようよ」みたいな。
■けど、日本語の曲を入れたかったっていうのは、やっぱり日本人に聴いてもらいたかったっていうことだよね。
DJ KENTARO:そうですそうです、はい。だから、これ、日本先行で出てるのもあるんですけど、日本人の人もにも聴いて欲しいっていうのはデカいし。もちろん、これはイギリスでもアメリカでも流れるし。やっぱり、クラッシュさんの曲とかファイヤー・ボールの曲とか、日本の人に聞いて欲しいし。
■ファイヤー・ボール。有名な横浜のダンスホール・クルーじゃないですか。
DJ KENTARO:そうっすね。
■これは意外な感じがしたんだけど。
DJ KENTARO:あ、ホントですか。
■いや、僕が単に勉強不足なのかもしれないけど。変な話、DJクラッシュとファイヤー・ボールが一緒に演るっていうことは、あんまり無いでしょう?
DJ KENTARO:たしかに。同じアルバムに、っていうのは。
■それはどういう狙いがあったんですか?
DJ KENTARO:やっぱり〈レゲエ祭〉(横浜レゲエ祭)とかも出させてもらったり。ファイヤー・ボールのアルバムとか、DVD(『FB THE MUSIC VIDEO』)のDVJスクラッチ・リミックスみたいなのやったり。一応、仲良くさせてもらってて。
■ あぁ、そうなんだ。でも、前からレゲエとかもやってるもんね。
DJ KENTARO:で、マイティ・クラウンとかとも仲良くさせてもらってて。彼らの音楽も好きだし。オレ、メンバーのチョーゼン・リーさんのアレンジとかもやってて。その流れで「オレの曲にも参加してくださいよ」「あ、イイよイイよ」ってなって。で、今回アルバムのタイミングでやったんで。オレがやりたかったことがやっとできた。〈ニンジャ・チューン〉のアルバムに入れたっていうこともすごい意義深いし。日本語の曲なのに〈ニンジャ・チューン〉、UKから出して、欧米でも売られてっていうのもありますね。
■シーンが細分化してるじゃない? そこをクロスオーヴァーさせたいっていう意図はあったの?
DJ KENTARO:ありましたね。来月演るイヴェント(BASSCAMP 2012| 2012年6月30日)もなんですけど、ベース・ミュージックがテーマなんですけど、ハウスのDJの女のコとか、ドラムンベースのアキさん、マコトさんみたいな第一線でやってる人、クラッシュさん、オレ、マイティ・クラウン、ファイヤー・ボールとか、みんな。ぜんぜん違うシーンの人たちが集まって。バトルっぽくもしたいんですけど、バトルっていうのもポジティヴな感じ。みんな刺激しあって、「すげぇカッコイイじゃないっすか」みたいなことが、お互い生まれて。いま、日本だけじゃなくて、世界中、スゴい細分化して戦いの場に立たされてるっていうか。どこもそうなんすけど、いろんなジャンル。イギリスとフランスの関係......わかんないけど、すっごいヒドいらしいし......。
■ ハハハ(笑)。でも、イギリスもさ、広い音楽業界っていうレヴェルで見ると、いまは細分化じゃなくて、むしろ混合っていうか、交じり合ってて。エラいなぁって思うのは、多少センスは悪かったかもしれないけど、レディオヘッドみたいな、ああいう大物、スタジアム・ロック・バンドが、あんなマイナーな人たちにリミックスさせたりとか。ビョークは、まぁ昔からやってるけど。
DJ KENTARO:ですよね。
■J-POPの誰かがケンタロウやゴス・トラッドやオリーブ・オイルにリミックスを頼むなんてことはないわけでしょう。イギリスは、口悪いわりに、そこの所はしっかりしてる(笑)
DJ KENTARO:口は悪いっすよぉ......超上から目線(苦笑)。
■上から目線(笑)! メチャクチャ上から目線だよね(笑)。でも、オレね、イギリス人で「スゲェなぁ」って思うところはね、自分たちの文化に誇りを持ってるでしょ。それはスゴいと思う。
DJ KENTARO:ビートルズって言われたらかなわないっすよ(笑)。
■そうなんだよね。それはもう、ホントに悔しくてさ(笑)。
DJ KENTARO:だから、まぁ......しょうがない(笑)。
■しょうがない(笑)。
DJ KENTARO:スイマセーンって感じで(笑)。
■ でも、ケンタロウとかさ、ゴス・トラッドもそうだし、最近はまた日本からも出てるじゃないですか、少ないとはいえ。インターナショナルな舞台へ。
DJ KENTARO:ま、一応、頑張ってはいる。でも、差別野郎はいますよ。それはいますよ、向こうにいっぱい。会った瞬間、「ジャップか」みたいな。税関でもそうだし、イミグレ(ーション)。で、Oビザ見せた途端に「お、人間国宝ぉ」とかって。コロッと態度変えるんですよ、ビザ見せた途端に。「なんだ、お前、そんな言葉知ってんの?」って。
■なるほどね。わかりました。じゃぁ、そんな感じで。ありがとうございました。
※6/30(土)アルバム・リリース・パーティ「NIXON presents BASSCAMP 2012」が開催!!
アルバム参加面子をはじめ、DJケンタロウと共鳴しあう強力なゲスト・ラインアップに加え、メインステージ を演出する壮大なLEDショウと共に伝説の一夜を作り上げる!
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2012.06.30(土)@新木場ageHa
OPEN 22:00 ADV ¥3,300 / DOOR ¥4,000
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