ムーア・マザー(カマエ・アイエワ)が新作『The Great Bailout』の詳細を発表した。この作品もまた、コントリビューターが面白い。全9曲のなかには、前作にも参加したメアリー・ラティモアほか、 サンズ・オブ・ケメットのアルバムにも参加していたエンジェル・バット・ダウィッド、エレキング的にとくに嬉しかったのはグレッグ・テイトの『フライボーイ2』でも詳述されている。まったくの独学で宇宙を紡ぐロニー・ホーリー、そしてノイズの使者アーロン・ディロウェイの参加。テーマは、「アフリカとヨーロッパの関係」にフォーカスしたものらしい。まあとにかく、これはまた素晴らしいこ音楽作品になりそうです。
発売は〈ANTI- 〉からで3月8日リリース。先行曲はこちらにて聴けます。
「K A R Y Y Nã€ã¨ä¸€è‡´ã™ã‚‹ã‚‚ã®
いやいや、これには驚きましたな。フットワークを創造的拡大解釈した第一人者たるジェイリン、彼女の新作にはフィリップ・グラスとビョークが参加していることを、レーベル元の〈プラネット・ミュー〉が発表した。アルバムのタイトルは『Akoma』。この11曲入りアルバムは、ビョークをフィーチャーした“Borealis”で幕を開け、フィリップ・グラスをフィーチャーしたエンディング・カット“The Precision of Infinity”で締める。また、クロノス・カルテットもこのアルバムの他の部分でフィーチャーされている。「彼女のサウンドへの入口であり、これまで熱心に追いかけてきた人たちにとっても、いままさに彼女の世界に足を踏み入れようとしている人たちにとっても、新しいアプローチがある」とレーベルの資料には記されている。発売は3月22日。楽しみでしかないっす。
なお、ニュー・シングルのストリーミングは以下です。
https://open.spotify.com/intl-ja/track/0deJe09XxL1usW0WCKiT5S?si=07181fafc8f64b32
最後に来日にしたのが2018年だから、6年ぶりの来日。1976年/1977年のUKパンクにレゲエをたたき込んだひとりです。レッツの素晴らしい経歴に関しては、エレキングの過去の記事を参照してください。
今回は、ドンの18年来の友人である『Hatchuck』とドン・レッツで’23年に設立したクロー ジングプロジェクト『REBEL DREAD HARDWARE 』のローンチを記念したツアーとなる。とにかく、パンクとレゲエが好きな人たちはみんな集合です。
www.rebeldreadhardware.com
2024.01.22. Rebel Dread Hardware
■ツアースケジュール
2/8(木) 東京 DOMMUNE : Talk Session
司会:高木完 トークゲスト:HIKARU (BOUNTY HUNTER)・小林資幸 (PHINGERIN) + more
https://www.dommune.com/
2/9(金) 広島 Club Quattro :DJ with DJ光(BLASTHEAD)
https://www.club-quattro.com/hiroshima/schedule/
2/10(土) 松山 FAKIE STANCE : 映像上映会
https://www.instagram.com/fakiestance
2/10(土) 松山 Bar Caesar : DJ
https://www.instagram.com/barcaezar
2/11(日) 博多 KiethFlack : DJ
https://kiethflack.net/schedule/rebel-dread-hardware-kf30th-01/
2/14(水) 東京 Shimokitazawa Club Que : 映像上映会
https://clubque.net/schedule/3647/
2/16(金) 東京 DJ BAR Bridge SHINJUKU : DJ with 高木完・EMMA・クボタタケシ ・DJ MAGARA (MASTERPIECE SOUND)・ Shoma fr,dambosound
https://djbar-bridge.com/
2/17(土) 岡山 YEBISU YA PRO : DJ with KENJI TAKIMI (Crue-L)
http://yebisuyapro.jp/events/v/1341
2/18(日) 大阪So-Core : DJ
https://socorefactory.com/schedule/2024/02/18/don-letts-rebel-dread-hardware-japan-tour-24/
また、このツアーを記念し、偉大なるパンク・バンド “THE SLITS” のスウェットシャツを、 REBEL DREAD HARDWARE にて制作。デザインは CORNELIUS, GEZAN などのアートワークでも知られる 北山雅和氏が手掛けた。(https://www.instagram.com/ktymmasakazu)
REBEL DREAD HARDWARE official site、VIVA Strange Boutiqueなど、全国の正規取扱店にて 2/8(木)より販売。
“ARI UP FROM THE SLITS” Crew Shirts
(アリアップ フロム ザ スリッツ クルーシャツ) GREY, WHITE / 各 20,350円(税込) / S, M, L, XL
“THE SLITS MEMBER” Crew Shirts
(ザ スリッツ メンバークルーシャツ) GREY, WHITE / 各 20,350円(税込) / S, M, L, XL
REBEL DREAD HARDWARE
https://www.rebeldreadhardware.com
VIVA Strange Boutique
https://www.vivastrangeboutique.com/
90年代黄金期のNYヒップホップを代表するプロデューサー、DJプレミア。ギャング・スターはじめ数多の名曲を送りだしてきた彼の、30年以上におよぶ軌跡をたどった本が刊行される──のだけれど、驚くなかれ、なんとプレミアが手がけた楽曲のすべてをレヴューするという前代未聞の内容に仕上がっている。編者はインディペンデント・マガジンの『DAWN』で、タイトルは『DJプレミア完全版』。河出書房新社より1月26日ころに発売される。これはもっておきたい1冊でしょう。
ヒップホップに革命をもたらしたプロデューサー
DJプレミアが手掛けた楽曲を完全網羅した、世界初のプリモ本!
▼内容紹介
幅広い音楽の知識に支えられ、サンプリングやスクラッチを駆使して数々の名曲を生み出した偉大な才能の30年以上に渡る活動の軌跡を辿った決定版。DJプレミアが手掛けた膨大な楽曲のすべてをレビューするという荒業に挑んだ、前代未聞にして世界初のディスクガイド。
▼DJプレミアとは?
1989年、DJプレミアはラッパーのグールーと共にギャング・スターとしてデビューし、ヒップホップ・プロデューサーとして数々の名曲を生み出してきた。1990年代、ヒップホップの黄金期(ゴールデン・エラ)と呼ばれた時代の名盤にはことごとく彼の手によるものだ。そのプロデュース・ワークはビギー、ナズ、ジェイ・Zといったヒップホップ界のレジェンドたちに留まらず、ディアンジェロ、ジャネット・ジャクソン、クリスティアーナ・アギレラ、アンダーソン・パークなど非常に幅広く、またメジャーからアンダーグラウンドにまで広がっている。彼の名声は90年代のヒップホップの黄金期から30年を経た現在でもシーンに轟き続けており、名実ともにヒップホップ・シーンを代表するプロデューサーとして活躍を続けている。
▼本書の特徴
・国内外のヒップホップを論じる第一線の書き手が集結!
豪華な執筆陣によって、シーンの変遷に沿いながらDJプレミアの軌跡を詳しく解説。DJプレミアの作品リスト&ガイドとして、すべてのヒップホップ・ファンにとってマストな一冊に仕上がっている。
【執筆者/アボかど、池城美菜子、荏開津広、奥田翔、キム・ボンヒョン、小林雅明、斎井直史、高久大輝、高橋圭太、つやちゃん、二宮慶介、橋本修、二木信、宮崎敬太、吉田大、吉田雅史、渡辺志保、DOMO + PoLoGod.、IT'S MY THING、MINORI、Mix Tape Troopers、Renya John Abe、VINYL DEALER BEAT BANDIT】
・充実したコラムで多角的に迫る!
サウンドエンジニアとして第一線で活躍するillicit tsuboiと、ラッパー/ビートメイカーとして活躍するOMSBがDJプレミアの魅力をディープに語り合う特別対談、DJプレミア本人とも交流の深いDJ KAORIへの特別インタビューのほか、“チョップ&フリップ”や“スクラッチ”の解説、DJプレミアの機材史、ミックステープ・カタログなど、多角的にDJプレミアの魅力に迫っている。
・インディペンデント・マガジン「DAWN」によるエディット
2019年11月に創刊されストリート・シーンで絶大な支持を集めるインディペンデント・マガジン「DAWN」が本書を編集。他では読むことのできないドープな一冊に仕上がっている。
▼目次
DJプレミアとは
■プリモワーク1989-1993
ギャング・スターの軌跡
DJプレミアという「ルーツ」
■プリモワーク1994-1996
チョップ&フリップの革新性とその構造
■プリモワーク1997-1999
DJプレミアの機材の歴史
■プリモワーク2000-2004
特別インタビュー DJ KAORI
■プリモワーク2005-2009
特別対談 illicit tsuboi × OMSB
■プリモワーク2010-2014
DJプレミアとスクラッチ
■プリモワーク2015-2019
DJプレミア名言集
■プリモワーク2002-2023
DJプレミアとSNSマーケティング
DJプレミアとミックステープ
執筆者プロフィール/執筆者が選ぶプリモワーク・ベスト3
DAWN 編
DJプレミア完全版
河出書房新社
A5判/249ページ
978-4-309-25737-2
予価2,695円(本体2,450円)
2024.01.26発売予定
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309257372/
80年代後半から90年代前半にかけ、ボアダムズや思い出波止場などで日本のオルタナティヴを切り拓いてきたギタリスト、山本精一。彼が「うた」にフォーカスした羅針盤のファースト・アルバム『らご』(97)がリイシューされる。なんと、初のアナログLP化だ。同時に、セカンド・アルバム『せいか』(98)も復刻される。
羅針盤といえばかつては、LABCRY(昨年なんと18年ぶりに復活!)、渚にてと共に「関西三大歌モノ・バンド」として絶大な支持を誇ったプロジェクトだ。山本精一のキャリアのなかでもっとも慈愛に満ちたバンドであり、日本のインディー・ポップ史にアコースティックな香りを添えた伝説的な存在。2005年にバンドは解散したものの、その後の山本精一&PLAYGROUNDをはじめとした「うた」を主としたプロジェクトに、その精神性はたしかに継承されている。
今回のリイシューは前述の通り『らご』『せいか』という初期作2枚になるが、「うた」路線の真骨頂である名盤『ソングライン』やミニマルなポスト・ロック的アプローチに接近していった後期の作品のヴァイナル化にも期待したい。歌心のある日本のアコースティックな音楽は、近年マヒトゥ・ザ・ピーポーやLampを筆頭に国外でも絶大な評価を獲得しつつある。アコースティックかつ音響的なサウンドの復権を夢見るばかりだ。デジタルな環境でのリスニングが一般化したいまこそ、ぜひレコードの柔らかな音像をゆっくり堪能してはいかがだろうか? とにかく、必携です。
まさに感動的な「うた」がここにある。普遍的なポップ・ミュージックの必要な要素がすべて織り込まれている永遠の名盤の呼び声高い羅針盤のアルバムが遂に初アナログLP化!!
97年にギューン・カセットからリリースされたアルバムを、スリーヴ・アートを変更し、同年、ワーナーから再発売されたファースト待望の初アナログ化!
冒頭の「永遠〈えいえん〉のうた」から、山本精一がこれまでに見せてきた表現とは遠く離れたポップ・ソングが並ぶ。
耳への心地よさと皮一枚下にはヒリヒリとした緊張感が漲っている。むしろ、その人懐こさゆえに、聴き手の弛緩した意識の奥深くに忍び込むような、そんな歌たち。
プロコル・ハルムの名盤『ソルティ・ドッグ』収録曲「巡礼者の道」のカヴァー、「HOWLING SUN」も収録。思えば"うたもの"という不思議な新造語も、山本精一が歌いはじめたことに対応して急設されたものだったと思い知らされる。
アーティスト:羅針盤
タイトル:らご
品番:PLP-8098
発売日:2024年6月19日
定価:¥4,387(税抜価格¥3,980)
レーベル:P-VINE REORDS
山本精一が歌うバンド、としての機能から更に深化した2枚目待望のアナログ化。話し言葉のように作為のない歌声が、歌そのものに同化。ポップ・ソングをある種の擬態とするなら、このアルバムは完璧にその役割を果たしている。目を凝らしても輪郭を捉えることなど出来ない。
かといって曖昧とは無縁。ビーチ・ボーイズへの偏愛を感じさせる「せいか」から、ネオ・アコと呼んでは失礼なフォーク・ソング「アコースティック」、ニューウェイヴな「クールダウン」とまるで山本精一のリスナーとしての遍歴を追っているようでもあり。10分近くの大曲「カラーズ」にはドラマもなく、クライマックスも訪れない。が、一度この歌に囚われたら最後、永久に頭の中で鳴り続ける。
アーティスト:羅針盤
タイトル:せいか
品番:PLP-8099
発売日:2024年6月19日
定価:¥4,387(税抜価格¥3,980)
レーベル:P-VINE REORDS
ひとつには2016年に亡くなったデヴィッド(・ボウイ)へのトリビュートという意味がある。ぼくなりのリスペクトをデヴィッドに示したかったんだ。
ザイン・グリフのニュー・アルバムが完成した。前作『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイズ』から1年という短いインターバルで登場した本作は、1980年代と現代が交差する複層的な構造を持った異色作となっている。
前作『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイズ』も、1980年代に完成間近にもかかわらず日の目を見なかった作品をザインが一から作り直したという1980年代と2020年代が折り重なる作品だった。『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイズ』の経緯とザイン・グリフの経歴については昨年の記事を参照してほしい。
この『ダブル・ライフ』もまた、1980年代の縁がきっかけで誕生したアルバムだ。
ザイン・グリフもその中心にいた1980年代初頭のニュー・ロマンティックス/フューチュアリストの代表的なユニットが、スティーヴ・ストレンジ、ラスティ・イーガン、ミッジ・ユーロらによるヴィサージだった。
ザインはスティーヴ・ストレンジと同じ事務所に在籍していたこともあり、ヴィサージ周辺とは親密だった。
1980年代以降も断続的に続いていたヴィサージは2015年のスティーヴ・ストレンジの死とともに活動を停止したが、2020年にラスティ・イーガンはスティーヴ・ストレンジに替わるヴォーカリストとしてザイン・グリフを迎えてヴィサージの復活を計画した。
まずヨーロッパのフェスでライヴをおこない、新しいスタジオ・アルバムも制作する。ヴィサージの1980年の大ヒット曲 “フェイド・トゥ・グレイ” の共同作曲者であるクリス・ペインも新しいヴィサージの一員で、ザインとクリスはヴィサージのための曲作りに取りかかった。@>
「そう、あれがすべてのはじまりだった。まずはヴォーカリストとして参加してほしいとアプローチされたんだけど、その後曲も書いてくれという話になって、クリスと一緒に曲を書いたんだ。だから当初はヴィサージのためという意識があって、この曲をミッジ・ユーロやスティーヴ・ストレンジだったらどういうふうに歌うだろうかということも考えながら作っていたんだ」
メンバーと仲がよかった上にヴィサージの音楽も気に入っていたため新しいヴィサージへの参加はうれしかったという。
「彼らの曲ではとくに “マインド・オブ・ア・トイ” が好きだった。メロディもリズムも最高だし、ミッジがあの曲を書いたときの思考プロセスも素晴らしい」
しかし世界を襲ったコロナ禍によりニュージーランドに住むザインはヨーロッパへの渡航の手段がなくなり、新しいヴィサージのプロジェクトはフェード・アウトすることになってしまった。
「ヴィサージへの参加がお蔵入りになってしまった後もクリスとは曲を書き続けた。それがいま『ダブル・ライフ』になったというわけだ。ずっとクリスとの共同プロジェクトという認識だったけど、最終的にクリスが “これは君のプロジェクトだ” と言ってくれた。でも彼はこのアルバムのものすごく強力な部分を占めているよ。クリスがいなかったらこのアルバムはあり得ない」
プロデューサーはこれまで多くの大物を手掛けてきたヒラリー・ベルコヴィッチ。
「当初、クリスと一緒にこのアルバムのための曲を作っていて、途中でクリスがプロデュースをヒラリーに頼むのはどうかと提案してくれたんだ。彼がいままで手がけてきたのはスティーヴィー・ワンダーやチャカ・カーン、ジャスティン・ティンバーレイク、マドンナ、ボビー・コールドウェルといった偉大なアーティストで、そんな彼がぼくのアルバムに興味を持ってくれるか半信半疑だった。でも、クリスはロスアンジェルスを拠点としているヒラリーとは映画音楽の仕事を通して面識があって、とにかくいまできているものを送ってみようと。するとすぐに “ぼくもぜひこのプロジェクトに参加したいけどいいかい? すばらしい内容だ” と返信があったんだ」
このアルバムのための新曲は、ひとつのつながりを持つ連作小説や映画のようだ。
「最初にクリスと “トリップ、スタンブル・アンド・フォール” を作ったときに、短編映画みたいな世界だなと話して、それにつながる世界を持った “メリー・ゴー・ラウンド” や “ウォーキング・イン・ザ・レイン” に続いていった。それでアルバムの方向性が定まったんだ。曲調はちがっていても一貫したストーリー・ラインがあり、どの曲も映画のスコアのようなドラマテックな展開があると思う」
ユキヒロとリューイチ、そしてYMOへの敬意をこめてレコーディングした。いろいろありがとう、という気持ちの表れとしてね。もちろん、なかでもユキヒロは特別だ。
前作の『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイズ』も架空の映画のサウンドトラックという設定の作品だったが、今回は実際に映画音楽も手掛けているクリス・ペインとヒラリー・ベルコヴィッチが加わって、よりその傾向が高まった。
「そうだね。『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイズ』では音楽的にたくさんのことを学んで、それが今回生かされていると思う。実際、このアルバムの制作と『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイ』は一時期同時進行でもあったし。今回、ヒラリーが短編映画の音楽的なイメージのコンセプトを手助けしてくれた。ヴィジュアルのコンセプトもよくメールで送ってくれたよ」
この新作アルバム『ダブル・ライフ』は1980年代の楽曲のカヴァー(+セルフ・カヴァー)と2020年代の新曲がバランスよく並んでいる。ふたつの時代が交叉したようなタイトルもそこから来ている。
「そう、新旧のブレンドだね。バランスから来ているんだ。現在、過去、それから未来のね。ふたつの人生……昔の人生と、新しい人生」
新曲と並ぶカヴァー作品のうち、最初に登場するのがデヴィッド・ボウイの “ブルー・ジーン” (1984)。1979年に共演したことのあるボウイをこのアルバムでカヴァーしようと思った理由と、その選曲が “ブルー・ジーン” という1984年の曲になった理由を訊いた。
「ひとつには2016年に亡くなったデヴィッドへのトリビュートという意味がある。ぼくなりのリスペクトをデヴィッドに示したかったんだ。もともとはこのアルバムをプロデュースしたヒラリー・ベルコヴィッチが候補曲として “ブルー・ジーン” を送ってきてくれた。すぐにこの曲をカヴァーしようと決めたよ。ぼくにとってはこの曲がデヴィッドを体現しているんだ。なによりロック感がすばらしいし、明るくポップだ。ファンタスティックなエネルギーに満ちてもいる。デヴィッドの最高曲のひとつだとぼくは思っているんだ。結果としてすごくいい出来栄えになったと思う。どこかの時点でぜひシングルとして出したいね」
さらにセルフ・カヴァーで1982年のアルバム『フィギュアーズ』に収録されていた “フラワーズ”。
「もともとはヒラリー・ベルコヴィッチのアイデアだった。彼はむかしからこの曲が大好きだったそうで、今回一緒にやることになって、ぼくにこの曲のことをリマインドしようとしたんだね(笑)。彼が独自のアレンジで再構築して、自分で仮歌まで入れてぼくのところに送ってきたんだよ!(笑) 最初はずいぶん妙に聴こえたけれど、聴き込むうちに次第に気に入ってきて、あらためて彼とふたりで作業を続けて完成させた」
この曲の1982年のオリジナル・ヴァージョンはケイト・ブッシュとのデュエットとなっていた。ケイト・ブッシュとザインはボウイもかつて学んだパントマイマーのリンゼイ・ケンプの劇団で同期であり、その縁でのデュエットだったが、今回、オリジナルのトラックからケイト・ブッシュのヴォーカルを抽出し、ザインが新しく吹き込んだヴォーカルとの再デュエットという形になっている。1980年代と2020年代の両者の共演ということになる。まさに “ダブル・ライフ” だ。
そしてゲイリー・ニューマンの大ヒット曲 “カーズ” (1979)のカヴァー。このアルバムのコラボレーターであるクリス・ペインはかつてゲイリー・ニューマンのバンドのキーボディストでもあった。聴きどころはなんといっても、時間をトリップしたかのようなクリス・ペインによるシンセサイザーの音色作りだろう。1979年のオリジナルのままのアープ・オデッセイのサウンドが2020年代のザインのヴォーカルと融合することで、ここでもふたつの時代の生がクロスしている。
1980年代と2020年代のふたつの人生。
「40年前にはいまこんな人生を送っているなんて想像したこともなかったよ」
成功の道半ばでさまざまなトラブルでロンドンを離れ、故郷のニュージーランドに戻らざるをえなかったザインは、しかし2000年代にミュージシャン〜アーティストとして復活したいまとロンドン在住の当時とはしっかりとした連続性があると感じてもいる。
「とくに音楽的には当時ととても馴染みがある。今回使った80年代当時のヴィンテージ・シンセサイザーやサウンドスケープがこのアルバムを作る上でとてもしっくりきたんだ。あの頃やっていたことと似ているからね。そう、ニュー・ロマンティックス的な」
この『ダブル・ライフ』はまさにニュー・ロマンティックスのムーヴメントと地続きになったアルバムだという思いもある。
「いまぼくやクリス、そしてラスティ・イーガンらがやっている音楽はニュー・ロマンティックスの部類に入ると思う。ニュー・ニュー・ロマンティックと言えるかな(笑)。実際、この40年間、つねにニュー・ロマンティックス的な音楽が消えたことはないし、こういうサウンドが大好きという若い人が増えているんだ」
21世紀に入ってのネット上のアーカイヴの充実でかつてのニュー・ロマンティックスの音楽が若者たちに再発見されているという実感があるという。
「すごいことだよ。YouTubeでぼくの『灰とダイヤモンド』(79年のデビュー・アルバム)を見つけた人たちが、それをきっかけに検索して、さらにあの時代の音楽に惚れ込んでくれているんだ」
もちろん、いま60代となったザインの生活は当時とは一変している。
「ぼく自身のライフスタイルはまったく違う。ロンドンにはたまに行っているけど住んでいないしね。ロンドンに住んでいた頃のぼくは、若くて野心に溢れていた。と、同時につねに不安に苛まれてもいた。成功しなかったらどうしようとね。いまも野心がないわけじゃないけど、若い頃みたいに何でも手に入れたいという感じではないんだ。もっとリラックスして、不安のない人生を送っているよ。むかしは想像できなかったような」
もし、いまの彼が野心に溢れていた若きザインに会ったら、どんなアドバイスをするだろうか?
「若かりし頃のぼくか。……もっとがんばれとハッパをかけるだろうな。それと身の回りのスタッフやチームはかけがえのないものだ、大事にしろと言い聞かせるだろうね。そして、もし夢を持っているなら、その夢の人生を生きるために実現の可能性を想像しようよと」
そして、もうひとつ大事なアドバイスもある。
「CD時代になってもアナログ・レコードは手放さないほうがいいというのは言っておきたい。ぼくはニュージーランドを離れるとき、ロンドンを離れるとき、それぞれレコードを手放して、同じものを三度買い直すことになったからね(笑)」
また、この40年間でもっとも印象深い音楽的な出来事は、やはりDTMやネットの発達によるファイル交換での音楽制作の実現だという。
「そう、ぼくにとっていちばん大きかったのはプロダクション、レコーディングのクリエイションの方法。むかしは人間がスタジオで一緒に作業していたのに、ベッドルームでProToolsなどのプログラムを使って曲を作れるようになった。そうすることによって、人間的な要素が欠けるようになってしまった。だから今回、ぼくとクリスはDTMを使いながらも、なるべく人間的な要素を取り入れているんだ。本物のドラムスを使うし、ヴォーカルも生声だ。ギターもキーボードも本物」
アルバム『ダブル・ライフ』は基本的にすべてリモートで制作されている。ニュージーランド在住のザインとコラボレーターのクリス・ペイン(フランス在住)、プロデューサーのヒラリー・ベルコヴィッチ(アメリカ在住)、そしてイギリスやバルバドスに住む複数のミュージシャンたちは誰とも顔を合わせずに個々にレコーディングの作業を行なった。全員がひとつのスタジオに集まり、何週間も顔を突き合わせてアルバムを作っていたあの頃とは大きくちがう。
もしこのアルバムが昔のように全員でどこかに集まってレコーディングされていたら同じアルバムでもムードは大きく変わったのだろうか?
「あまりにすばらしい質問で答えられないよ!(笑) 本当にいい質問だ。みんながひとつの部屋に集まって、しゃべりながら曲をプレイしていたらどうなるかって? ぼくには答えがわからない。今回、ぼくたちはリモートですばらしいアルバムを作ることができたけど、そうだね、いつかはまたみんなで一か所に集まってアルバム作りをすることができればいいね」
自分史上最高傑作だと思っているよ。ぼく自身のあらゆる面を網羅していると思う。
そしてこの『ダブル・ライフ』には3曲のボーナス・トラックが付け加えられている。
ひとつは1982年の高橋幸宏のアルバム『What Me Worry?』にザインが提供した “ディス・ストレンジ・オブセッション” のセルフ・カヴァー。もちろん、昨年1月に逝去した高橋幸宏への追悼の思いをこめたものだ。
「訃報を聞いたときから、彼と仕事したときのことをひたすら思い出していたよ。あれは素晴らしい経験だったなと振り返った。そして、何かをお返ししたいと思った。それで “ディス・ストレンジ・オブセッション” をアルバムでセルフ・カヴァーしようと決めたんだ。とにかくなにかをやらずにはいられなかった」
さらに3月には坂本龍一も亡くなった。
「そう。それもショックだった。彼にはYMOのロンドン公演のときに一度会ったきりだったけれど、音楽はずっと聴いていた。今回カヴァーした “以心電信” も発表された当時に聴いて、それ以来ずっとお気に入りの1曲だった。そこで今回、ユキヒロとリューイチへの追悼を込めてこの曲をカヴァーしようと、友人に英訳を頼んで歌ってみたんだ。この曲はユキヒロとリューイチ、そしてYMOへの敬意をこめてレコーディングした。いろいろありがとう、という気持ちの表れとしてね。もちろん、なかでもユキヒロは特別だ。1982年にお互いのアルバムに参加して、当時彼が借りていたロンドンのフラットでディナーをご馳走してもらったことも覚えている。ずっと一緒に過ごしてお互いをよく知るようになったんだ」
もう1曲2ヴァージョンのボーナス・トラックである “トリップ、スタンブル・アンド・フォール” のリミックスを手掛けたのはヘヴン17のマーティン・ウェア。ザインと同時期にデビューし、現在も精力的な活動を続けているいわば同窓生とのコラボレートだ。
「もともとは『ザ・ヘルデン・プロジェクト//スパイズ』を発表したときにマーティンが彼のラジオ番組でインタヴューしてくれたんだ。インタヴューが終わった後もずっと話していて、彼に “他に何かやっているの?” と訊かれてクリス・ペインと一緒に仕事をしていて、実は “トリップ、スタンブル・アンド・フォール” という曲を作ったばかりだと話したら、“わたしにそのリミックスをさせてくれるかい?” と申し出てくれたんだ。それでファイルをマーティンに送ってリミックスを作ってくれんだけど、インストゥルメンタル・ヴァージョンまで一緒に送られてきた(笑)。ありがたいから両方入れることにした」
この『ダブル・ライフ』はおそらくザイン・グリフの作品のなかで、もっともエネルギッシュであると同時に深い思索を伴い、なおかつポップなものとなった。本人としても大きな手応えを感じている。
「もちろん、自分史上最高傑作だと思っているよ。ぼく自身のあらゆる面を網羅していると思う。『ダブル・ライフ』の醸し出す雰囲気は、聴いたオーディエンスがそれぞれまったく違うストーリーを自分自身のものとして脳裏でヴィジュアル的に思い描かせると思う。それこそがこのアルバムの醍醐味だと思うね。音楽的であると同時にヴィジュアル的でもあるんだ」
この自信作とともに、今年は精力的にライヴ活動をおこなう予定だ。
「まず7月19日に、ここニュージーランドのオークランドでショウがブッキングされている。この『ダブル・ライフ』と『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイズ』の曲を中心にシアトリカルなのライヴになると思う。その中にはがユキヒロと一緒にやった “ディス・ストレンジ・オブセッション” や “使いすてハート” も含めて、ぼくの代表作を網羅したものにするつもりだよ。日本にもぜひ行きたいと思っている。日本のみなさん、今年はぜひ会いましょう!」
ザイン・グリフ オリジナル・アルバム・ディスコグラフィー
『灰とダイアモンド(Ashes and Diamonds)』1980年
『フィギュアーズ(Figures)』1982年
『Child Who Want the Moon』2011年(日本未発売)
『ザ・ヴィジター(The Visitor)』2013年
『ムード・スウィングス(Mood Swings)』2016年
『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイズ』2022年
『ダブル・ライフ』2024年
DJ/オーガナイザーのSoya Ito (dj woahhaus)が主催するパーティーシリーズ〈Mana〉が、ベルリンを拠点とする電子音楽家・bod[包家巷] を迎え、渋谷WWWにて1月27日に開催される。
中国にルーツを持ち、アメリカで育ったのちベルリンに移動したbod[包家巷]は、出自に基づくオリエンタルな美学をノイジーに昇華させたサウンドスケープが魅力のアーティスト。グライム~ダブステップ以降の脱構築的なベース・ミュージックを通過したアンビエントの発信者としても知られ、ヤング・リーンやドレイン・ギャングなど2010年代以降の新たなクラウド・ラップを牽引するストックホルムのレーベル〈YEAR0001〉などからのリリースと謎めいたスタイルがカルト的な支持を集めている。
そんなbod[包家巷]の初来日ツアーの東京編をサポートするのは、ドイツ・ベルリンへの長期留学を経て東京へ帰還した新鋭・Soya Ito。昨年夏にはベルリンでも開催された新世代ユースの実験的パーティー〈Mana〉にて孤高の電子音楽家を迎える。
bod[包家巷]に加えベルリンからレーベル〈Transatlantic〉を主催するDJ・official freestyler、日本に出自を持ち現在はドイツを拠点とするYUI、ルーマニアのA/Vアーティスト・carmen、リベリアの美術家・naptalimを招聘。ローカルアクトにはange、E.O.U、荒井優作、saifa 砕破、dj woahhaus、illequal、itachi、munéoと次世代のエッジーな電子音楽家がラインナップされている。メイン・ステージのWWWを耽美的かつ実験的なリスニングの場とし、サブ・フロアのWWWβをオルタナティヴな2020年代型レイヴ/クラブ志向の場として切り分けていることも特徴的だ。
音楽だけでなくステージングにも注力し、ハイブリッドなクラブ体験を提供する姿勢はまさしくパンデミック以降の潮流だろう。主役のbod[包家巷]はもちろん、2024年のいま東京のアンダーグラウンドなクラブ・シーンで起きているムーヴメントを肌で感じる機会にもなる一夜をぜひ体験してほしい。
〈Mana〉
2024/01/27 SAT 23:30 at WWW & WWWβ
U23 / Early Bird(早割) ¥2,300 | ADV(前売り) ¥2,800
(Over 20 only・Photo ID required)
Ticket: https://t.livepocket.jp/e/arx8e
[WWW]
ange
bod[包家巷][DE]
E.O.U
naptalim[LR]
Yusaku Arai
saifa 砕破
Staging: yoh murata
[WWWβ]
dj woahhaus
illequal
itachi
munéo
official freestyler[DE]
Prius Missile
YUI អ”[RO]
Staging: condo
Lounge Exhibiton: naptalim [LR], 素手喧嘩 sudegenka
Flyer : Shine of Ugly Jewel
〈Mana〉
2023年にリリースされたJPEGMAFIAとの共作『Scaring The Hoes』でのぶっ飛んだ活躍も記憶に新しい我らのダニー・ブラウンが、最新作『Quaranta』をリリースした。
2012年の出世作『XXX』の衝撃──特徴的な甲高い声、露悪的だがユーモアに溢れるリリック、ヒップホップ然としたブレイクビーツからエレクトリックでアヴァンギャルドなビートまで乗りこなす変幻自在のフロウの渾然一体を耳にして、得体の知れないヤバいブツが現れちまった! と直感したときのあの興奮——から約十年、唯一無二のラップのスタイルやヴィジュアル、そしてそのキャラクターによって、彼はヒップホップのオルタナティヴな可能性を拡張し続けてきた。しかも彼のスタイルがスゴいのは、アヴァンギャルドであると同時にポップさを持ち合わせていることだ。
ラッパーにとって、キャラクターは非常に重要な要素なのは言うまでもない。いくらリリックが良くて、ライムやフロウのスキルがあっても、キャラクターが薄ければこの世界で生き延びていくことは難しいだろう。
〈Warp Records〉が一員に迎え入れるほどのジャンルを越境するようなエッジの効いたビートを自身のカラーとしてしまう音楽的な選球眼を持ちながらも、それを乗りこなす彼のユーモアを伴うキャラクターによって、彼というラッパーと彼の音楽は、一層目立った存在感を放ってきた。
しかしこの最新作を前に、当たり前だが彼もひとりの生身の人間であり、わたしたちと同じように様々な悩みを抱える存在であることを目の当たりにするだろう。セカンド・アルバム『XXX』は遅咲きの彼が30歳のときにリリースされたが、『Quaranta』は40歳を迎えた彼なりのブルースにも聞こえる。感情を失ったような声色で、ストレートな吐露を聞かせる脆い場面さえあるのだから。だがラッパーという存在は、それすらもキャラクターの一部として受け入れられる宿命なのかもしれない。
そんな今作における表現を、彼はどのように捉えているのだろうか。彼自身の言葉を聞いてみよう。
人びとは相変わらずラップを「若者のゲーム」として眺め、老けるとラッパーは続けていくことができないだろう、みたいに考えているとも思っていて。だから俺は、その新境地を開拓しようとしているし、「歳を取ってもやれるんだよ」と示そうとしている。
■誤解を恐れずに言えば、あなたのアルバムを聴いてこんな気持ちになることがあるとは思いませんでした。前半の6曲と後半の5曲でまるで別の顔を持ったアルバムだと感じました。前半はこれまでのあなたの作品群と同様、多種多様なトピックとサウンド、ユーモアや怒りを含め多種多様なフィーリングが封じ込められた楽曲群が並んでいます。一方で後半の流れは、等身大のあなたのリアルなストーリーが描かれていて、あなたの傷心、ドラッグやアルコールへの逃避とその虚しさの表現に、共感する人間も少なくないと思います。私も個人的に、今後長い間繰り返し聴き返す作品になりそうです。曲作りには数年間かけていると思いますが、どのようにしてこのようなアルバムの流れができ上がっていったのでしょうか?
ダニー・ブラウン(以下DB):正直、俺のアルバムのほとんどはそういうふうに構築されてきたと思うけどね。いつだって「ハイ」があり、そして「カムダウン」が待ち構えている。それはきっと、ずっとテープを聴いてきたせいだろうな、テープにはA面/B面があるから。だからその側面、そういった構成を自分のアルバムにつねに含めようとしてきた、というか。そうだね、ずっとそれをやろうとしてきたように思う。あるいはスローにはじまってアップテンポで終わる、だとか。そうは言いつつ、『Atrocity Exhibition』(2016)はそのルールからちょっと外れたんだけど、このアルバム(『Quaranta』)は『XXX』(2011)を再訪しようとする内容だからね。『XXX』も、前半はある意味ハイなノリで、後半はもっとカムダウンっぽい、そういう構成だった。だからまあ、1枚のコインの表と裏のどっちも見せるということ。ドラッグ/アルコールの濫用などなどについて取り上げる際に、それを美化したり、面白おかしい楽しさを描くこともできるわけだけど、そこには別の面があることもちゃんと語る必要があると思う。絶対にアップなノリ一辺倒にしないように心がけてきたし、ストーリーにはいつだってふたつの側面があるものだから。
通訳:人間は誰しも複雑な生き物ですしね。このアルバムで、あなたはご自身の異なる面を表現していると思います。
DB:(うなずいている)
■前作『uknowhatimsayin¿』(2019)においては「プロデューサーのQティップの作品で、自分はそれに出演している俳優のようだ」とのコメントもされていましたが、今作は再び自分自身でアルバムの全体像を描いたのでしょうか。もちろんこれは、Qティップのショウ/パーティであなたが踊っていた、という意味ではないんですが、今回はもっと「自作自演、自分で監督も担当」というフィーリング?
DB:うん、そうだね。っていうか、この作品は何よりも「小説」に近いんじゃないかと思う。それこそ回想録を書いている、みたいな? だから映画で役者を演じる、そういう視点から出てきた類いの作品ではないし、もっとこう、ジャーナル(日記/日誌)にすら近い。たまに自分の思いをあれこれ書き綴ってみたりもするわけで、そうやって外ではなく自分の内面に目を向けている、もっと内省的な面が多い作品だ。
通訳:それはやはり、COVID~ロックダウンの影響だったのでしょうか?
DB:そう、確実にある。間違いなくそう。だから、俺たちみんな、家でじっとおとなしくして、大して何もせずに過ごすチャンスを得たわけで、俺にもひたすら内省し、どうして何もかも間違った方向に向かってしまったのかを考える時間がもたらされた。ただまあ、ぶっちゃけあの時期はもっとパーティすることにもなったけどね(笑)! もっとパーティし、おかげでもっと二日酔いになり、そういうフィーリングを抱える羽目になった、と(笑)。
通訳:(爆笑)。振り返ると、私(通訳)自身もあの時期は何もやれなくて退屈で、しょうがないから飲む、ということが多かったです。あなたにとってもきつい時期だったようですね?
DB:ああ、そりゃもちろん。というのも『uknowhatimsayin¿』を出したばかりだったし、ツアーに出るはずだったからね。あの作品をちゃんとプロモートするチャンスに恵まれなかったし、ファンを前にあれらの歌をプレイすることもできなかった。あれには、やや憂鬱な気分にさせられた。
俺の音楽を聴いては毎回「RAWで耳障りな音楽」と評する人は多いし、人によっては「奇妙だ」とも言われるし、その面をやや抑えめにしたかった。もっとラップのインストゥルメンテーションっぽい感じで、より楽に聴けるようにしたかった。
■アルバムとして、どのようなリリックやサウンドのカラーにしたいというヴィジョンはありましたか?
DB:まあ、40歳を迎えつつあったし、それでも自分にはモチヴェイションがちゃんとあった。だから、歳を取ったからといって、必ずしも衰える必要はない、と。ラップを「若者のゲーム」みたいに看做す人間は多いけれども、俺はとにかくライミングとラップに関しては、年齢を重ねても、自分がまだ絶頂期にいるように振る舞いたかった。だから、それが作品を作りはじめた当初の動機だったんだけど、作業を続けるうちにやがてもっとこう、俺自身のフィーリングを表現する内容になっていき、過去には取り上げてこなかった、もっとパーソナルな題材を語りはじめるようになっていったんだ。でもまあ、概して言えば、じつはそんなにハードに考え込んだりはしなかった。とにかく歌をレコーディングしていっただけだし、そのうち作品のコンセプトが自ずと形になっていった。俺たちみんな隔離処置でめげて疲れていたし、俺はとにかく音楽作りに忙殺されることで気を紛らわせていた。で、いつの間にかこのレコードがどこを目指しているのか、それを俺も見極めたっていうのかな、で、そこからは、その方向に従って考えていくようになったんだ。
■いまの話にあったように、あなたは現在42歳、“Hanami” のリリックで「rap a young man game」「Should I still keep goin' or call it a day?」と歌っています。最近アンドレ3000がジャズ系の新譜『New Blue Sun』リリースに際して「ラップはリアルな生活を歌う音楽だから、歳をとって視力が悪くなったり大腸検査に行くことをラップしても誰も聴きたがらない」と言っていましたが、40代でラップをすることをどう考えていますか? アンドレのようにラップという表現/フォーマット以外で音楽を続ける自分は想像できますか?
DB:ノー! それはないな。ラップ・ミュージックというのは……俺は80年代生まれ、すなわちヒップホップ・ベイビーだしね! つまり俺にとって、生まれてこのかたラップ・ミュージックはずーっと存在してきた、ということ。それにもうひとつ、人びとは相変わらずラップを「若者のゲーム」として眺め、老けるとラッパーは続けていくことができないだろう、みたいに考えているとも思っていて。だから俺は、その新境地を開拓しようとしているし、そうやってみんなに「歳を取ってもやれるんだよ」と示そうとしている。それに俺からすれば、いま現在もベストなラッパーの何人かは、俺より歳上なわけだし(笑)! たとえばジェイ‐Zみたいな人は、歳月とともにまだどんどん良くなっている。だから、うん、人生のこの時点でとにかく俺が感じるのは、できるだけ長く続けていきたいということだね。正直な話、死ぬまでやり続けたい、みたいなところだ。
■サウンド面では、あなたのこれまでの楽曲と同じように、他の典型的なヒップホップの曲とは違った一風変わったユニークさのあるビートやサウンドが肝になっていると思います。
DB:(黙って聞いている)
■どのような基準でビートを選んでいったのでしょう? 今回のアルバムでは、これまでと選ぶ基準に違いがありましたか?
DB:うん、だから今回はまさにそれをやりたくなかった、という。つまり、俺の音楽を聴いては毎回「RAWで耳障りな音楽」と評する人は多いし、人によっては「奇妙だ」とも言われるし、その面をやや抑えめにしたかった。それよりも、今回はもっとラップのインストゥルメンテーションっぽい感じで、より楽に聴けるようにしたかった──とりわけ、今回のアルバムで取り上げているような題材を歌う場合はね。というのも「風変わりなサウンド」って、奇妙さそれ自体を狙ってやってることが多いって気もたまにするんだ。ほとんどもう「お前に理解するのは無理」、「お前にこれはゲットできない」というか、ヒップホップの通(つう)じゃないとわからない、みたいな。で、俺はとにかくもっとラップのインストゥルメンテーションに近いサウンドにしたかった。ギターを多く使い、かつ、もっとシンセも重用して。だから、バンドが演奏していてもおかしくない、俺の耳にそう響くビートを選んでいったわけ。とは言っても──(苦笑)質問者氏はやっぱりまだ「風変わり」に聞こえるって言ってるんだから、どうなんだろうなぁ、(笑)俺にはまだちゃんとモノにできてないのかも……。
通訳:ははは! 私(通訳)はあなたの音楽はもちろん、トーク番組『Danny’s House』やポッドキャスト『The Danny Brown Show』も好きです。
DB:ああ、うん。
通訳:だから、あなたがこう……天然でエキセントリックな人なのは重々承知というか。
DB:(笑)ヒヒヒヒヒッ!
通訳:ですので、あなたが「奇妙さ」を狙ってやっているわけではないのはわかっているつもりです。
DB:うん。だから、自分としてはヘンじゃないものを作ろうとするんだけど、そのたび、毎回そういう結果になってしまうんじゃないかと(苦笑)。「これ、別に奇妙じゃないだろ」と俺が思っていても、周りは「いやー、やっぱ妙だよ」って反応で。たぶん、それが俺って人間だってことなんだろう(笑)。
通訳:(笑)「普通」をやるのに、あなたは逆に人一倍苦労するってことかもしれませんね。
DB:(笑)いやぁ、これが俺そのものなんだろうし、正体を偽ることはできないよ。
[[SplitPage]]ピッチの高いテンションのアガった声を使うときの自分は、キャラクターのようなものなんだ。ところが今回のアルバムでは、そのキャラクターを脱皮した。俺はもうあの男とは別の人間なんだ、と。
■本作では特にカッサ・オーヴァーオールが複数曲に参加し、本アルバムには彼のカラーも多く反映されているかと思います。彼のどこに惹かれ、どのような流れで共作にいたったのでしょう。
DB:まあ、俺たちレーベルが同じだからね。
通訳:ですよね。
DB:だから、むしろ彼ら(レーベル側)のアイディアだった、ってのに近かった。でも、うん、歌の多くはまだほとんどデモに近い段階だったし、彼はそれらの楽曲に生命を吹き込んでくれた。彼がこのプロジェクトのMVP的存在なのは間違いない。
通訳:なるほど。あなたの側から率先して「コラボをやらないか?」とカッサに接触を図ったわけではない、と。所属レーベルが同じということで、少々業界的なお膳立てというか、そういう面もあった?
DB:いやいや、そんなことないって! ほんと、レーベル側がああやって調整してくれて、俺は最高にハッピーなんだよ! だからまあ、よくある話ってこと。そこはまあ、自分の周囲を素晴らしいチームに固めてもらっていることでもたらされる恩恵だよね。彼らは問題や課題を解決してくれたり、あるいは「この人ならこの曲にぴったりなんじゃないか? あの人はどう?」云々の案を出してくれるから。っていうのも、俺自身はもっと内向的な奴だし、ほんと、あれこれたくさんの人に自分から働きかけたりはしないから。そこだね、チームがいてくれる抜群なところは。
■カッサとの共作で印象的なエピソードがあれば教えてください。
DB:んー、っていうか、彼の拠点はロンドンだったんだよ。で、俺はデトロイトでアルバムを録音したからね。インターネットの美点だよ、クハハハハハッ!
通訳:彼とあなたとは、すべてリモート作業だった、と?
DB:ああ。
通訳:そうなんですか! いや、音源を聴くと非常に見事に溶け合っているので、てっきりおふたりで一緒にスタジオに入ったのだろう、とばかり……。
DB:ノー、ノー! っていうか、じつはまだ対面したことすらない(笑)!
通訳:マジですか?
DB:フハハハハハッ! ぜひ会いたくて、ワクワクしてるけどね。すごく楽しみだ。
通訳:はあ、そうなんですね……。
DB:でもさ、俺の作業の仕方ってそういう感じなんだ。長いこと一緒にやってきた、過去のプロジェクトにも数多く参加してきたポール・ホワイト。彼とだって、初めて実際に会ったのはコラボをやりはじめてから、それこそ7年くらい経った後だったし。
通訳:えっ、そうだったんですか!
DB:だから、インターネットの美点ってこと(笑)!
ラップをやってる連中は誰もがスーパーヒーローみたいなものだしね、つまり、等身大以上に大げさに誇張したヴァージョンの自分を演じているっていう。
■(笑)了解です。ちょうど話が出たのでお訊きしますが、今作にも参加しているそのポール・ホワイトやクェル・クリス、あのふたりはあなたにとってどのような存在ですか? 共謀者? コラボレーター? 両者のビートがあなたにもたらしてくれるものはなんでしょうか?
DB:クェルはデトロイト出身だから、あいつとは俺のキャリアのごくごく初期の頃から知り合いなんだ。俺の祖母の家に遊びに来て、祖母が留守の間にふたりでつるんで一緒に音楽を作って遊んだりしていた。俺がクェルに出会った頃って、デトロイトの中心地に俺たちみたいな連中があまり多くいなくてね。つまり、そうだな、たぶん「オルタナティヴなブラック・ガイ」とか、そんな風に呼ばれる類いの連中は少なかった、と。だからほんと、出くわしたなかで(子どものように高い声の口調で)「おっ、こいつ、なんか自分に似てる!」みたく感じた人間は唯一、彼だけだった。俺たちはそういった十代の経験を共有してきたし、うん、つねに尊敬し憧れてきた対象だね。というのも、彼は決して同じ一カ所に留まっていない、というか。俺がクェルと知り合って以来、あいつはたぶん7カ所くらい引っ越ししてきたし、絶えず動いていて、絶対に同じ場所に長い間じっとしていない。で、ある意味そこが、彼の音楽をどこかしらインスパイアしてるんじゃないかと思う。彼の音楽はいつもレベルが上下して変化するし、スタイルもじつに様々でころころ変わるから。
で、ポール・ホワイト。彼は、あるとき俺にビートを送ってきてくれたんだ。で、俺の元にはたくさんの人間からビートが送られてくるんだけど、こと彼のビートに関して言えば、ほとんどもう「これは俺のために作られたビートだ」に近い感じだった。だから、「ああ、遂にプロデューサーが見つかったぞ」みたいな? 彼のビートは俺のラップみたいに響くというか、彼のビートは俺にとにかく「ラップしちゃる!」って気にさせるものなんだ。だから彼とずっと一緒にやってきたし、それにこのアルバムはある意味『XXX』にとっての続編みたいな作品なわけだし、レコーディングに取り組みはじめたとき、『XXX』で一緒にやったのと同じプロデューサーと仕事したいと思ったんだ。スカイウォーカー、クェル、ポール・ホワイトらとね。
■あなたのトレードマークのテンション高い声は “Tantor” “Dark Sword Angel” “Jenn’s Terrific Vacation” くらいで、それ以外の8曲は地声に近い声でラップをしています。過去の曲も含め、リリックの内容やトラックのサウンドに応じて声のトーンを使い分けているのでしょうか。あなたのなかの使い分けの基準を教えてください。
DB:んー、まあ、地声に近い、よりディープなトーンのあの声も自分はつねに使ってきたと思うけどね。たとえば、もっとシリアスめなトピックを歌うときだとか。ただ、このアルバムではいつも以上に自分自身をもっと人間らしくしたかった、というか。だから、ピッチの高いテンションのアガった声を使うときの自分は、キャラクターのようなものなんだ。ところが今回のアルバムでは、そのキャラクターを脱皮した。もっとも、今後はあのヴォイスを使わないとまでは言えないけれども、そうだな、俺はもうあの男とは別の人間なんだ、と。あの時点では、あの声はほとんどもう「キャラクター」みたいな感じだったし、要するに俺自身ですらなくなっていた。俺は、滑稽で面白おかしくなろうとしてあのヴォイスを使っていたんだよ。低めの地声で歌うよりもあの甲高い声で歌う方が、もっとパンチが効いたジョークになるだろうと思うし。だからあれはまあ、キャラクターのなかに入っているようなものなんだ。それにほら、ラップをやってる連中は誰もがスーパーヒーローみたいなものだしね、つまり、等身大以上に大げさに誇張したヴァージョンの自分を演じているっていう。
通訳:(笑)なるほど。
DB:そういうこと。低めの声で歌うときの俺は、ありのままの自分でいるってことだよ。
■その高いトーンの声があなたのトレードマークとされていることをどう感じていますか? あなたの作り出した一種の「頓狂なキャラクター」に縛られていると感じることもあるのでしょうか?
DB:たまには、ね。というのも、作ってきたどのアルバムでも低い声を使ってきたのに、どうやら人びとが「ダニー・ブラウン」と認識するのはあの声だけらしいし。うん、ときどきそう感じることもある。それに、前2作では過去以上に低い声を使ったわけだし、それでも人びとはやっぱり……だけどまあ、あれが俺のサウンドだってことなんだろうし、他のみんなから俺を際立たせてもいるんだろうろうね。それに、俺が好きなラッパーの多くがいまもあの高い声を使っているし、別に俺が作り出したものでもなんでもないんだよ。ファーサイドにしろ、ヤング・ジー(Young Zee)にしろ、エミネムにしろ、俺は高音域を使うラッパーの多くを尊敬してきたから。
通訳:そうやってあなたが声を使い分けるのは、違う仮面を取っ替え引っ替えするような感覚なのでしょうか?
DB:いや、仮面だとは思わないな。むしろエモーションってことだよ。だから、ラップをやりながらジョークを飛ばしてるときの俺は、もっとハッピーで「ワヘーイ!」みたいなお気楽なノリの、自分のなかのおバカ野郎な面が出ているだけであって。対してもっと真面目なトピックの場合はそういう声では喋らないだろう、もっとシリアスなトーンを使う、と。それだけのこと。そうは言っても結局のところ、それだってやっぱり「俺」なんだけどね。楽しく遊んでるときとか、普段の会話のなかでもあの声は飛び出すし。
通訳:なるほど。仮面と言ったのは、「仮面の背後に隠れる」という意味ではないんです。仮面を被ることで、逆にその人間の本性が表に出ることもあるわけで、興味深いなと。
DB:ああ。そうだな、俺が仮面として利用しているのはむしろ、コメディだってことじゃないかな? 特に、ごくシリアスな題材を取り上げる場合は、あまりにデリケートなネタだから表現するためにはジョークにするしかない、という。お笑い芸人の多くは苦悩型の人間だし、ある意味、彼らは自分自身の痛みをあざ笑っている。だから俺としてはむしろ、お笑いで覆っている、というか。
通訳:はい。それにお笑いやユーモアは、ネガティヴさに対する最大の武器にもなりますしね。
DB:ああ、絶対そうだね。
■30歳で作った『XXX』から『Quaranta』までの十年を振り返ってみて、ラッパーとしての活動のなかであなたが得たものと失ったものはなんでしょうか?
DB:そうだな……得たものといったら、たぶん禁酒して素面になったこともあって、いまの方がもっと、安らぎを得ているんじゃないかと。で、失ったものと言えば……ネガティヴな感情すべてを水に流したことで、それに伴うもろもろも失ったね。で、物事をもっと肯定的に眺めるようになりはじめている。十年経ってもいまだにこれをやれているだけでも、自分はなんて運が良くて恵まれているんだろう、そう気づいたわけ。キャリア初期の自分はとかくネガティヴな物事に集中し過ぎだったと思う。「やった、成功した!」と栄光に浸ることもなかったし──っていうのも、成功できるなんてこれっぽっちも思っちゃいなかったからね。つねに苦悩し、破滅が来るぞと不安に苛まれていて、「いつなんどきこれが終わるかわかりゃしない」みたいな感じだった。だから、あの頃、ああいうポジションにいるだけでもどれだけ恵まれていたか、そこに自分が気づいていたら良かったなと思う。
[[SplitPage]]自分の手柄だってふうには思えないんだよね、「神様がゴーストライターをやってくれてる」っていうか。
■個別の曲についても聞かせてください。“Tantor” はアルケミストのプロデュースですが、彼のなかでも特別ユニークなネタをサンプリングしたビートに思えます。以前の “White Lines” も非常にユニークなビートでしたが、彼があなたとのコラボ用にチョイスするのでしょうか? それともあなたが複数の選択肢のなかから選ぶのでしょうか?
DB:彼が、5本くらいビートを送ってくるんだ。で、そのなかから気に入ったものを俺が選ぶ。まあ、彼は「かの」プロデューサーっていうのかな、俺が聴きながら育ったお気に入りのプロデューサーのひとり、みたいな存在であって。だから彼と仕事できるチャンスが訪れるのはいつだって、それこそが「自分は成功した!」と感じる瞬間だね。「ああ、やったぜ! 俺も遂に、これだけ長い間尊敬してきた人と仕事できるようになったんだ」と。うん、でもあの歌はほんとまあ、俺が(声色をダミ声に変えてふざけ気味な口調で)「まだイケてるぜ!(still got it!)」ってところを示そうとしている(笑)、そういう曲のひとつ。ほら、『XXX』の頃の俺はああいう曲をしょっちゅう作っていたし、だから自分にはいまもまだああいうことをやれる、そこを証明したかったわけ。
■“Tantor” はミュージック・ヴィデオも非常にユニークです。チープなロボットのキャラクターには、あなたのアイディアも反映されたものでしょうか?
DB:いいや。っていうか、俺のビデオのどれひとつ、自分でアイディアを出したことはないよ。そこまでクリエイティヴな人間じゃないし、ビデオに関しては一切、自分の手柄を誇ることはできない。
音楽でなんらかのエモーションを喚起したい。とにかく聴き手をそのライドに乗っけて、単なるBGM以上のものを彼らに感じてもらおうとしている。つい耳をそばだて、「おや?」と注目するような何かを。
■また、本作のジャケットのアートワークもあなたの表情が非常に印象的ですが、 これに込められた意図を教えてください。
DB:とにかくまあ……なかに収められた音楽がどんなふうに見えるかを示したかった、みたいな? ほんと、文字を絵で表現するマッチアップ(例:象=elephantの絵はE、など)みたいなものだよ。それにさっきも話したように、このアルバムでは以前よりも自分に人間味をもたせたし、だからよりピュアな己の姿を見せている、と。大体そんなところかな。ああ、しかも古典的な雰囲気もあるポートレートだよな。いまどきはAIが使えるし、それこそ……宇宙ロケットからスカイダイヴィングしているイメージだの、どんなものだってやれるわけだけど、だからこそクラシックなものに留めようとしたんだ。シンプルに。
■ “Ain’t My Concern” が本アルバムのフェイヴァリットとのことですが、鍵盤の和音がフック部分ではなんとも言えない浮遊感と、ヴァース部分では不協和音による緊張感のコントラストが効いています。これはクリス・キーズによるものですか?
DB:うん。彼とクェルはいつも一緒に作るから。ふたりはプロダクション・パートナーの仲だ。あれはとにかくまあ、ある種の一般教書めいた歌だね。ヒップホップに対する思いだったり……「俺はいまだにヤバい奴だぜ(I’m still a badass)」って感じているし、要はそうやって自分の威力を誇示しようとしてるっていう。まだ、筋肉はバッチリついているぜ、とね。
■はい、もちろん。“Y.B.P” ではブルーザー・ウルフをフィーチャリングして軽快にデトロイトでの日々を振り返っていますが、ブルーザーたちとの〈Bruiser Brigade Records〉の今後の予定や計画を教えてください。
DB:うん、ウルフの作品はもうじき出る。あのアルバムはでき上がっているから、近々出るよ。機会があればいつだって仲間と仕事したいし、それに『XXX』ではデトロイトについて語った歌をたくさん書いたわけで……まあ、自分の出自に関する歌はつねにやってきたんだよな。そうすれば人びとにもいまの俺の立ち位置がわかるだろうし、自分の生い立ちやヒストリーみたいなものを明かす、という。
■ “Jenn’s Terrific Vacation” におけるカッサ・オーヴァーオールのプロダクションは生ドラムを生かした、大変複雑で作り込まれたものになっています。あなたの囁き声を素材にした後半の作りも見事で、そのような複雑な楽曲のプロダクションとジェントリフィケーションをテーマにしたメッセージ性のあるリリックが両立しているところがスゴい曲だと思います。このリリックのアイディアをどのように思いついたのでしょう?
DB:じつを言うと、あれはもともとジョークとしてはじまった歌だったんだ。
通訳:(笑)そうなんですね。
DB:だから、俺はダウンタウンで暮らしていたし、とにかくああいう言葉が口をついて出て来たし、それであの「Jenn’s Terrific Vacation」というフレーズを思いついたってわけ。で、ある日スタジオであのビートを耳にして、さて、これをどう料理しよう? と悩んでいて。だからまあ、何もかもが一気にクリックして形になった、ガラス瓶で雷電を捕まえるシチュエーションっていうか、そういう曲のひとつだったね。あんまり深く考え過ぎずにやるっていうか、ビートに合わせて長いことえんえんとラップしているうちに、ある日突然「あっ、これだ!」と掴めて、そこから先は何もかもがスムーズに流れていく。自分はそういうふうに、「このビートで何をやればいいだろう?」と考えあぐねながらとりとめなく過ごすことが多いと思う。で、ある日突如としてインスピレーションがパッとひらめいて、となったら即座にそれに飛びつき、双手で掴む。だから、自分の手柄だってふうには思えないんだよね、「神様がゴーストライターをやってくれてる」っていうか、その日の自分はたまたまラッキーだっただけ、みたいな。クハッハッハッハッ!
■ “Down Wit It” では、ストレートな言葉で元恋人との関係のありのままを伝えるリリックが衝撃的です。盟友のポール・ホワイトのビートは、とてもエモーショナルで1980年代のメランコリーを感じさせます。リリックの構想は先にあって、このビートを選んだのでしょうか。それともこのビートを聴いてありのままを語ることになったのでしょうか。
DB:まず、ビートがあった。でまあ、何かを乗り越えるための最良の方法って、とにかくそれについて語ること、というときだってあると思う。だからほんと、あれはそういう歌だし、そうすることによって胸のつかえを下ろすことができる。それについて話せば、それに対する気分も楽になるっていう。俺はつねに、音楽をひとつのセラピーの形態として使ってきたからね。音楽のなかで何かについて語るとき、普段の会話で話すようなことに触れようとしている。あの曲も、そういうもののひとつだ。
■また “Down Wit It” のリリックのなかで「lost my emotion」と歌っているように、あなたの感情を殺しているようなフラットな歌声が非常に印象的で、表面的にエモーショナルな歌い方よりも、あなたが抱えていた空虚さが一層感じられる気がしました。あなたはラップをする際の「エモーション」をどのように考えているか教えてください。ラップをする際の最大のエンジンと言えるでしょうか?
DB:うん、そうだと思う。やっぱり、そこを捉えたいわけでさ。俺の音楽を聴く人びとには、何よりも、「感じて」欲しいんだ。聴いていてつい一緒にラップしたくなるのであれ、なんであれ……音楽でなんらかのエモーションを喚起したい。とにかく聴き手をそのライドに乗っけて、単なるBGM以上のものを彼らに感じてもらおうとしている。つい耳をそばだて、「おや?」と注目するような何かを。それに、今作で取り上げたトピックは誰もが経験するようなものばかりだし。そこもさっき話した、もっと人間らしい面に回帰するって点と関わっているし、要するに「俺も君たちと全然変わらないよ」と。「俺も、みんなと同じようにめちゃめちゃで駄目な奴なんだ」ってね(苦笑)! まあ、そんなところ。
■ “Hanami” はスヴェン・ワンダーの既存の曲が元になっていますね。彼の “Hamami” のビートにどのように辿り着いて、どんなやり取りがあってこの曲が生まれたのでしょうか?
DB:ポールと盛んに作業をしていて、まだ隔離期間中だった時期に彼がいろいろとビートを送ってきてくれて。あれは本当にDOPEなビートだと思ったし、今回はもっと実験的なスタイルに向かおうと思っていたしね。だからあのビートを耳にしたときは、「マジかよ!」みたいな? あれを聴いたときは、こう……アルバムの1曲目を鏡に映したイメージみたいだな、と思った。だからA面B面それぞれにDOPEなトラックがあるのは良いな、と。あの曲では、作った時点で俺の感じていたことをすべて出している。
■「Hanami」とは日本語の「花見」でしょうか。桜の花を愛で祝う宴会のことなんですが。
DB:ああ、知ってる。
通訳:3~4月に、日本人は桜の木の下に集まり、飲んで楽しむんです。その意味合いは曲に影響していますか? それとも、たまたまあのタイトルだった、ということ?
DB:うん、そんなところ。クハハハッ! そこについては、そこまで深く考えていないんだ(苦笑)。
■また “Hanami” のフックで「Can't get time back, time after time」と歌っていますが、もし一度だけ過去に戻れるとしたら、いつの時点に戻って、なにをやり直したいですか?
DB:ノー。一切、何も変えない。っていうのも、過去の出来事をやり直してしまったら、いまこうしてここにいる自分は存在しないから。人生は旅路だと思うし、そこで味わった経験を通じてつねに学んでいるわけで。だから、何ひとつ変えないだろうと思う。とにかく、俺の物語の一部を成している要素だしね。現在の自分を形作ってくれたのがあれなんだし、いまの俺は自分自身に満足しているから。過去をやり直して変えることには、乗り気になれない。
■『ガーディアン』のインタヴューで、ファンたちの前でライヴをすることが一種のセラピーになっているとの発言がありました。日本にもあなたのライヴで一緒に歌いたいと思っている多くのファンがいます。音楽そのものがパワフルとはいえ、ラップ・ミュージックはやはりリリックがベースですよね。母国語も異なる国にもあなたの音楽のファンがたくさんいることをどのように感じていますか?
DB:めちゃ最高だと思ってる! っていうか、俺がよく聴く音楽にしたって──だから、そこがインターネットの美点だよな。英語以外の歌詞でも、Google翻訳にかけることができるんだし。でも、さっきも話したように、多くの場合俺は音楽を通じてエモーションを掻き立てようとしているし、エモーションは、そのエネルギーをたんに聴く以上に、実際に肌で感じるものへと翻訳/変換してくれるって気がする。というわけで、日本にもファンがいるのはDOPEだし、いつか日本に行って、ライヴをやれる日が来るのが待ち遠しいよ!
通訳:はい。来日を楽しみにしているファンはたくさんいますので。
DB:だよね、うんうん。なんとか日本に行けるよう、トライしているからさ。
■最後に、日本のファンにぜひメッセージをもらえると嬉しいです。
DB:うん、もちろん。日本に行けたらいいなと心から思っているし、君たちみんなと楽しい時間を過ごし、日本のカルチャーを体験したくて仕方ない。まだ行ったことのない国のひとつだけど、もう長いこと、日本に行こうと努力はしてきたんだ。ただまあ、じつはいつもビビってたんだけどね、俺のクスリ歴のせいでやばいかも? って(苦笑)。ヒヒヒヒヒ~ッ! だけど、いまの俺はもっとクリーンだし、酒をやめて素面になったから、日本に行けるはず。日本を味わい、最高の体験をしたいな。
通訳:了解です。というわけで、もう時間ですのでこのへんで終わりにします。今朝はお時間をいただき、本当にありがとうございます。
DB:こちらこそ、ありがとう!
通訳:あなたはいま、ロンドン滞在中に取材を受けてらっしゃいますが、今日のロンドンはめっちゃ寒いです。どうぞ、暖かく過ごすようにしてくださいね。
DB:ああ、もちろん。ほんとそうだよな、ありがとう!
メンフィス・ソウルはソウル・ミュージックの入口にあり、
なおかつ出口にあるようなそんな音楽だった──
日本におけるソウル・ミュージック研究の第一人者が解き明かす、
メンフィス・ソウルの奥深い世界
著者10年ぶりの書き下ろし!
オーティス・レディングとO・V・ライトの、
ほぼ同時に録音されたひとつの曲の謎を巡る南部ソウルの物語
四六判/ソフトカバー/320頁
著者
鈴木啓志(すずき・ひろし)
音楽と物理をこよなく愛する男。ソウル・ミュージックとのかかわりは深く、1964年高校2年の頃からのめりこんだ。大学時代はブルースとソウルのファン・クラブを友人と結成。そのまま執筆と紹介に明け暮れた。昭和23年函館生まれだが、ほぼ東京っ子。おもな著書に『ブルース世界地図』(晶文社)、『R&B、ソウルの世界』(ミュージック・マガジン)、『ソウル・シティUSA~無冠のソウル・スター列伝』(リトル・モア)など多数。本書は、『ゴースト・ミュージシャン』(DU BOOKS)以来10年ぶりの書き下ろしとなる。
目次
序文 ザッツ・ハウ・ストロング・マイ・ラヴ・イズ
第1章 50年代のバンド・リーダー達
第2章 60年代に興ったダンス/インスト・ブーム
第3章 人種混交
第4章 タイムキーパー
第5章 ゴールドワックス
第6章 チップス・モーマンの仕事
第7章 ハイ・サウンド
第8章 ドラマーXの謎
第9章 オーティス・レディングはメンフィス・ソウルの王者と言い切っていいのか
第10章 ファンクの時代
第11章 サウンズ・オブ・メンフィス
第12章 メンフィス・アンリミテッド
第13章 宴のあと
あとがき
【オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧】
◆amazon
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