これは自分がいかに不良だったのかを述べる本ではない。そういう箇所がないわけではないが、アジアン・カンフー・ジェネレーションの後藤正文氏がツアー前の忙しいなか、本書のゲラを読んで、帯コメントとしていみじくも書いてくれたように、これは「反骨と愛」の本だ。
ぼくが仕事させてもらって感じたことのひとつは、NORIKIYOのある種の“無垢さ”、ないしは“一本気”なところだ。換言すればそれは庶民的な小粋さのことである。無粋なことはしない、大きなモノには媚びない。NORIKIYOの言葉には、庶民的があるゆえの反権力、反エリート、負けん気がある(それがポリティカルに表出することもある)。反骨心に溢れていて、あるいは社会の裏側まで知っているかのような風情もある。
が、しかし、愛も滲み出てしまう。NORIKIYOの言葉を特徴付けているもうひとつのことは、ギャングスタかっけーと思わせるムキとは正反対の、ロックの理想主義の精神が注がれていることだ。“゙ジョン・レノンに会いたい”という曲はそうしたNORIKIYOらしさの典型だが、本書には他にも清志郎をはじめとするロック・ミュージシャンたちの名前が何回も出てくる。『路傍に添える』を読んでいると、昨今のファッショナブルなインディ・ロックが失ったモノを神奈川県相模原を拠点にするこのラッパーは執拗に追い求めている/むしろ継承しているように思えてくる。(ぼくが思うに彼の言葉には、庶民性、無頼性、社会性という点において、泉谷しげるを彷彿させるところがある)
8月7日、ele-king booksからNORIKIYOの詩集にして回想録『路傍に添える』が刊行される(※7月30日「Bouquet Tour Final」のライヴ会場、恵比寿リキッドルームでは限定先行発売予定です)。
国際的に活動するグライム・プロデューサー、米澤慎太朗の音楽にのめり込むきっかけが高校時代に聴いたNORIKIYOだったと最近知ってビックリしたのだけれど、本書にはNORIKIYOの有名な『EXIT』から最新作『Bouquet』までの、あるいは語り下ろしによる、彼の言葉という言葉が印刷されている。アイルランドの詩人トーマス・ムーアによれば詩人とは魂の揺さぶりを記述する人であるというが、自由を失った片足を持つ、ひとりの人間の人生への情熱──正直で、魂を揺さぶる熱い1冊をどうぞ。
NORIKIYO
『路傍に添える』
ZAKAIAmazon
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