「K A R Y Y N」と一致するもの

Machinedrum - ele-king

 アシッド・ハウスの時代にもベテランが後からそのムーヴメントに乗り込んできたことはあった。キャバレ・ヴォルテールやコイルをはじめ、ジーザス&ザ・メリーチェインのメンバーまでもがダンスのムーヴメントへとアプローチした。それからおよそ20年後の現在、ニューヨークからマシンドラムがダブステップの"その後"にアクセスしている。
 2010年の夏、トラヴィス・スチュワートはマシンドラム名義でグラスゴーの〈ラッキーミー〉からシングルを出すと、同時期にベルリンの〈ホットフラッシュ〉からセパルキュア名義(プレヴィーンとのプロジェクト)でもシングルを出している。〈ラッキーミー〉といえば、ジャックス・グリーン(Jacques Greene)という、ここ最近、耳の早いベース・ミュージック・リスナーにけっこう注目されているプロデューサーのひとりを擁するレーベルだが、マシンドラムは2010年には同レーベルからアルバムも発表している。セパルキュアとしての2枚目のシングルも2011年の初頭に〈ホットフラッシュ〉からリリースしているが、10年のキャリアを持つベテランの予期せぬ登場は、ベース・ミュージックのシーンが現在それだけの多様性を持っていることの証であり、このムーヴメントがさらにまた新しいリスナーや世代を巻き込んでいくことの予兆で、実に喜ばしいことだと僕には思える。
 とはいえ、10年前のマシンドラムとはIDMとヒップホップの折衷主義的なアプローチの、当時はアブストラクト・ヒップホップと呼ばれた一群の、まあ要するにプレフューズ73のフォロワーで、そしてフォロワー以上のインパクトがあったわけではない。リリース元も〈Merck〉という、フロリダにある典型的なまでの〈ワープ〉フォロワー・レーベルだった......。
 しかしながら、今年〈ワープ〉からリリースされたプレフューズ73の新作と昨年〈ラッキーミー〉から発表されたマシンドラムのどちらに興味があるのかと言われれば、僕のようなリスナーは〈ラッキーミー〉を指名するんじゃないだろうか。なにせリリース元が〈ラッキーミー〉だし、もちろんプレフューズ73のフォロワーに過ぎなかった人の音楽がベース・ミュージックとの邂逅によってどのように変容したのかも興味深い。マウント・キンビーのようなイノヴェイターが拡張した"その後"にIDMの入り込む余地が大いにあるのは事実だ。そしてマシンドラムは、実際の話、彼の器用なプログラミングと豊富な知識ないしはアンビエントのセンスによって、ベース・ミュージックに集まった多くの耳に衝撃を与えたのである。

 『ルーム(s)』は〈ラッキーミー〉からの『メニー・フェイシズ』 に続いて発表されるマシンドラムの新しいアルバムで、リリース元は〈プラネット・ミュー〉。いま3度目のピークを迎えているこのレーベルからのリリースと いうこともあって、そしてもちろん内容的にも、『ルーム(s)』はさらにまた多くの耳を惹きつけるであろう作品である。ダブステップのドラム・パターンに心地よくハマっているヘッズ、それからフォー・テットやゴールド・パンダのエレクトロニック・コレクションに心酔するリスナーが同じ部屋にやって来たようなアルバムで、オープニング・トラックの"She Died There"がまさにそのことを象徴する1曲だ。これはブリアル・スタイルの2ステップのビートを用いながら、しかしミニマル・ハウスのドープなムードを絡ませることでダブステップとはどこか別の方角に動かしているという、そう、ブリアルとフォー・テットの共作の路線を行きながらそれを追い越そうとするトラックである。全体的に言えば、彼が好むところの複雑なビート・プラミングを披露してはいるものの、難しい音楽というわけではない。随所に流行のR&Bサンプルを巧みに使いながら、あくまでダブステップ以降のビートを強調するアルバム で、なんというか、彼のルックスからはなかなか思い浮かばないような、バカみたいな喩えで申し訳ないけれど「イケイケ」で「ノリノリ」な作品である。
 豊富なドラム・パターンを持っているトラヴィス・スチュワートだが、『ルーム(s)』では出し惜しむことなく......というか、もう手が付けられないほどに勢いに乗っている。それは、ピアノ・ループが印象的な"Come1"のように、あくまでもエレガントに、そしてメロディアスに駆け上がっていく。"Come1"に関して言えば、お世辞抜きにクラウトロック(とくにカン)の銀河にもっとも接近したダブステップだと言えるのではないだろうか。
 その他方では......チョップド・ヴォイスがはしゃぎまくっている"GBYE"や躁状態のIDM系のトラック"The Statue"のような曲は、トラヴィス・スチュワートが〈プラネット・ミュー〉というレーベルに抱いている思いのようなものが具現化した曲ではないかと思えるほど、ゼロ年代前半の〈プラネット・ミュー〉を思い出してしまうのである。まあ、しかしそういう細かいことよりも、僕が主張したいのは、エレクトロニック・ミュージックはいま面白いですよ、マジに......ということなのだ。

Chart by TRASMUNDO 2011.08.03 - ele-king

Shop Chart


1

BUSHMIND

BUSHMIND 『GOOD DAYS COMIN’』 GET MUSIC

2

HIRATUKA DECODER

3

ISEHARA KAIDO BOYS 3TRACKS CD-R(NOT FOR SALE)

4

MANKIND CLASSICS ZINE -DJ HIKARU MIX-

5

WD sounds×jo-G×michioshka PACK TEE SHIRTS

6

PURE LIBERATE HI DISGUST VOL.1

7

DJ FUNK ACE DANGEROUS RAGGA MIX

8

YAHIKO KUCHIBILL

9

PULLING TEETH funerary

10

sunouchi kemm Harmonic Partials

Rei Harakami - ele-king

 「ケンイシイがデモテープのなかからすごい才能を見つけた」と、〈サブライム・レコード〉の山崎マナブから連絡をもらった。とにかくこんなことは初めてだから聴いて欲しいと言われ、そして聴いた。それから数週間後にレイ・ハラカミと電話で話した。初めての電話にしては長い会話だったことをとてもよく覚えている。あれはたしか1997年のことだったから、彼はあのとき26歳だったのか。
 レイ・ハラカミは、まるで彗星だった。多くの耳がテクノ・シーンに変化を要求していた時代に突然のようにやって来たひとりだった。デビュー当時のハラカミの音楽は紛れもなくダンス・ミュージックのスタイルを用いているが、しかしそれは明け方まで続く快楽主義に限定されたものでもなかった。彼の音楽はダンス・ミュージックと括るには躊躇してしまうほど、魅力たっぷりのメロディやハーモニー、それから少しばかりユーモアの効いた展開というものがあった。初期の頃はデトロイティッシュなテクノ・ミュージックにおける新しい才能として紹介され、あるいはUKのプラッドやなんかともっとも近い感性を持っているという説明をされたものだったが、彼は最初から"ハラカミ音"とでも言うべき彼自身の音色やクセというものを持っていた。それは甘く、儚く、美しいトーンであり、そしてまた子供の玩具が奏でるようなブレイクビートに特徴づけられていた。

 1999年のセカンド・アルバム『オパキュ(Opa*q )』は、あるひとつの時代のこの国のテクノ・シーンにおけるマスターピースだが、その翌年リリースされた「Blind/Swap EP」をふくめて、それはハラカミにとってテクノというひとつのムーヴメントなりスタイルを彼なりに意識していた最後の作品でもあった。2001年にリリースされた3枚目のアルバムとなる『レッド・カーブ』は、やりたいようにやったというか、彼がダンスフロアのムードにとらわれずに作った最初の野心作で、そして結果を言えば、もっとも大衆受けした4年後の『ラスト』への伏線となったアルバムであり、彼の音楽がポップのメインストリームに突き刺さる契機をもたらした作品でもあった。

 レイ・ハラカミは取材でもよく喋る人だったが、酒を飲むとさらによく喋る人だった。彼と最後に会ったのは、取材で向井秀徳との対談をお願いしたときだったが、そのときも笹塚の居酒屋の座敷で、よく飲み、くだらない冗談を交えながらよく言葉を発していた。よく知られるように、彼は彼自身の気構えや反骨精神というものをしっかり持っていた人だったけれど、基本的にはおおらかな人だったというのが僕の印象だ。
 彼の作品すべてに言えることだが、レイ・ハラカミの音楽にはバッド・ヴァイブというものがない。彼の代表作のひとつに"Joy"という曲があるように、レイ・ハラカミにとって喜びこそが音楽の原動力だったのではないかと思っている(それがゆえに彼は実験が目的と化したIDMと同一視されることを強固に拒んだ)。『レッド・カーブ』は彼が愛したロバート・ワイアットのように美しい作品だが、思い詰めた悲しみというものはない。彼の音楽は、いつ聴いても驚くほど澄み渡っている。そして、緻密なアレンジがされているというのに、ほろ酔い加減のアンビエントがあまりにも気持ちよさそうに小躍りしているようでもある。レイ・ハラカミ、レスト・イン・ピース。

Chart by JET SET 2011.08.01 - ele-king

Shop Chart


1

HIROSHI WATANABE

HIROSHI WATANABE ISOLATED SOUL »COMMENT GET MUSIC
Kuniyuki、Kaoru Inoueによるリミックスを収録した強力12インチ!『Sync Positive』が好調なHiroshi Watanabeが次に放つのは、デジタル・レーベルとしてスタートしたUndertoneからのフィジカル・リリース!

2

BIBIO

BIBIO T.O.Y.S. »COMMENT GET MUSIC
Mind Bokehの中でも最もダンサブルなキラー曲がシングル・カット!!その別ヴァージョンB-2、アルバム未収の2曲もダンサブルなエレクトロ度高め、またしても超強力盤です。

3

HIKARU

HIKARU LAID BACK TOWN »COMMENT GET MUSIC
『Sunset Milestone』から1年、夏を心地よく演出するHikaruのミックスが今年も沖縄から届きました!Slow Motion Replayが始動させたレーベルSMR Recordsの第3弾は、意外なことにあのHikaru(Blast Head)によるサマー・ミックス!Hikaru自身が撮影した沖縄の港の写真を、ナイジェルグラフの石田氏が加工したアートワークと、楠元伸哉氏(Slow Motion Replay)によるライナーにも注目です!

4

NEBRASKA

NEBRASKA DISPLACEMENT »COMMENT GET MUSIC
Rush Hourが満を持して送り出す気鋭Nebraskaによる待望のニュー・アルバムが到着!!NebraskaことAli Gibbsによる3年振りのリリースとなったニュー・アルバム"Displacement"。Rush Hourデビュー作"A Weekend On My Own"のような清涼な上モノを用いたモダン・ハウスから、ドープなベースラインを唸らせるポスト・ビートダウン~ダウンテンポまで、大充実の内容となっております。

5

UNKNOWN

UNKNOWN TRY TO FIND ME VOL.3 »COMMENT GET MUSIC
Golf Channel人気シリーズ"Try to Find Me"第3弾!!TBDとしてもヒット連発中のJustin Vandervolgen(ex.!!!)によるミックスCDを挟んでのTry to Find Me匿名リエディット12"第2弾。今回も素晴らしい内容です!!

6

SHAFIQ / OM MAS KEITH

SHAFIQ / OM MAS KEITH DNA (SPLICE MIX) / THE GIRLS A PLAYER »COMMENT GET MUSIC
All City Dublinによる話題のLA10"シリーズに、番外編ボーナス・ディスクとなる0番が登場! 遅れて参戦してきたのは何と!ShafiqとOm Mas Keith、つまりSa-Raの2人です!

7

MURO

MURO TROPICOOL BOOGIE 6 »COMMENT GET MUSIC
ディスコ、ファンク、ブギーはもちろん、レゲエ、カリブ、トリニダード産スティール・パンものなど織り交ぜつつ、国やジャンルを軽々と飛び越えた真のクロスオーバー・ミックス!

8

MAX ESSA

MAX ESSA IBERIA EXPRESS »COMMENT GET MUSIC
盟友John Dalyの主宰するFeel Musicからは'08年の"Instant Yellow EP"以来3年振りのリリースとなる、川崎在住のバレアリック派Max Essa。リリースラッシュが続きますが、クォリティは相変わらず高い!!

9

COBBLESTONE JAZZ

COBBLESTONE JAZZ MEMORIES (FROM WHERE YOU ARE) »COMMENT GET MUSIC
Matthew Jonson、Tyger Dhula、Danuel TateのトリオにThe MoleことColin de la Planteも参加してのカルテット編成で発表した傑作アルバム『The Modern Deep Left Qualtet』以来となる新作は面を分けての二部構成で送る強力大作です!!

10

HOLY GHOST!

HOLY GHOST! S.T. »COMMENT GET MUSIC
超オススメ★DFAからのシングルが全てヒットしてきたブルックリンのCut CopyことHoly Ghost!。驚くほどポップでブリージンなインディ・ニュー・ディスコ超傑作です!!

なんだこりゃ? - ele-king


interview with Ken Sumitani - ele-king


STEREOCiTI
Kawasaki

Mojuba Underground

Amazon

 シカゴ/デトロイト・フォロアー、ミニマル以降のモダン・ハウスのなかで、いま、世界中から注目を集めているDJ/プロデューサーがステレオシティの名義で知られている炭谷賢である。
 東京を中心にDJとしてキャリアを積んできたステレオシティは、2008年にスペインの〈ディープ・エクスプローラー〉から「Citifunk EP」でデビューすると2009年にベルリンのドン・ウィリアムスが主宰する〈モジュバ〉からリリースされた「Early Light」が早くもスマッシュ・ヒット、ローレンスやダニエル・ベルのプレイリストにもあがったその野太いキックのディープ・ハウスは、発売から2年以上たったいまも国内各地にあるクラブやDJバーで鳴り響いている。こうしたことは、消費が早いクラブ・ミュージックのなかでは珍しいことだ。
 今回〈モジュバ〉からリリースされたファースト・アルバム『Kawasaki』はステレオシティが生まれ育った街である川崎を走る列車のフィールド・レコーディングで幕を開ける。そしてシカゴ、デトロイトへの愛情のもとに作られた粗野で荒々しくも繊細なディープ・ハウスが続いていく。美しいサウンド・スケープをもったアルバムなら良く見かけるが、タイトル曲の"Kawasaki"も含め、しっかりとストーリーが展開されていくアルバムは近年では珍しい。
 アルバムは3.11以前に作られたものであるが、職人的な細部へのこだわりで丹念に作りこまれた楽曲は時代性を超越する強度を持ったものだ。そしてこのご時勢に3枚組みのLPをリリースしたところにも意気込みを感じる。DJの腕もたしかなもので、自分と白石隆之さんとWHYでオーガナイズしているパーティ〈Sweet〉にもゲストで出演してもらった。

全盛期の〈MANIIAC LOVE〉はぶっ飛んでて面白かったよね。"SLOWMOTION"とかもハマってたよ。ハード・ハウスのパーティとかで、麻布の〈Mission〉とかもたまに連れてかれたけど、けっこう嫌いじゃなかった。

METAL:国内盤CDのライナーを執筆しているのは白石隆之さん。デトロイティッシュ・サウンドの日本人プロデューサーでは草分け的な存在ですよね。

STEREOCiTI:白石さんのことは、実はそんな昔から知ってたわけじゃなくて......実際に会う前に、白石さんの方からMyspaceでコンタクトしてくれたことがあったんだけど、実際に顔を合わせたのは去年。安田くん(WHY)が紹介してくれたんだよね? その頃、白石さんが長野の〈Human Race Nation〉から出したリミックス(G.I.O.N./Jack Frost - Takayuki Shiraishi Remix)がすごい好きで。それで白石さんのアルバム『SLOW SHOUTIN'』(2002年/Pickin' Mashroom)を買って聴いたら「2002年の時点でこんなことやってた人がいたんだ」ってびっくりして、すごく好きになって。で、それから自分のDJでも白石さんの曲を使ったり、LOOPの〈Sweet〉にDJで呼んでもらったりとか、交流ができていった感じ。

METAL:アルバムの話に入る前に、音楽的な背景を聞いておきたいんですけど。

STEREOCiTI:もともとブラック・ミュージックはジャズから入って。ジャズっていうのは、モダン・ジャズね。高1のとき、最初にコルトレーン聴いて、そこからずっとジャズ集めてて。ジャズ聴いて、なんだろ......音楽の「間」みたいなのを最初に意識したのかな。ギターでバンドもやってたよ。前に〈Deep Explorer〉からリリースした曲では、自分でギター弾いてる。今回のアルバムではギターは弾いてないけど、"A day"って曲でベースを弾いてる。

METAL:最初はレゲエのDJだったんですよね。

STEREOCiTI:そうそう(笑)。ボブ・マーリーが好きで。若いとき横浜で働いてた頃に、まわりの人種もレゲエが多くて、みんなヤーマン、ヤーマン言ってる感じで(笑)。そういうなかで育ってたから自然とレゲエが好きになって、ジャマイカの煙たい空気感とか、ダーティーでヤバい感じにも憧れたし、その流れでレゲエのDJをやりはじめた。ダンスホールね。その後もっとモダンなビートが好きになって、その流れとレゲエがうまくクロスオーヴァーした感じが面白くて。その直後にちょうどアシッド・ジャズのムーヴメントがあって乗っかって、その後トリップホップって流れ(笑)。それは学校(桑沢デザイン研究所)に通ってた頃だったんだけど、その頃学校の友だちなんかと六本木の〈Juice〉(現在はBullet'S)でイヴェントはじめたの。で、その頃、人を踊らせる究極はやっぱりハウスにあるんじゃないかと思って聴きはじめたんだよね。でもその頃はよくわからないからもうテキトー。ニューヨークもシカゴもUKもごちゃまぜで。それで、自分の好みを追っていったら、その頃の音ではテクノがそうで。それでデトロイトとか聴いて、DJでテクノをやってる頃に、〈MANIAC LOVE〉に入っていった感じ。

WHY:テクノを最初にいいと思ったのも「間」みたいな部分なんでしょうか?

STEREOCiTI:いやぁ、超踊れる、ぶっ飛べるみたいな。単純なところだよ、ほんと。

METAL:その頃の決定的な、強烈なパーティ体験ってあるんですか?

STEREOCiTI:全盛期の〈MANIIAC LOVE〉はぶっ飛んでて面白かったよね。"SLOWMOTION"とかもハマってたよ。ハード・ハウスのパーティとかで、麻布の〈Mission〉とかもたまに連れてかれたけど、けっこう嫌いじゃなかった。90年代の、ただれたパーティ感は面白いよね。初期のパーティ体験がずっと地下だったから、クラブ・ミュージックにはずっと地下のイメージ持ってる。

WHY:それで〈MANIIAC LOVE〉の"CYCLE"でハウスのDJをはじめた頃から、いまみたいなスタイルなんですか?

STEREOCiTI:デモテープ聴いてもらって「いいね」って言ってもらったのはハード・ミニマルなんだけど、実際"CYCLE"ではじめた頃は、いまで言うテック・ハウス。「テック・ハウス」って言葉大嫌いなんだけど(笑)。〈Prescription〉とか〈Guidance〉、〈KDJ〉とかが好きで。その頃のセットはディープ・ハウス......いまとあんまり変わらない感じのディープ・ハウスからスタートして、〈Paper Recordings〉とか〈Glasgow Underground〉みたいなUKっぽいっていうか、ちょっとグルーヴがあったまった感じで山崎さん(Sublime)かWADAさんに繋ぐ、という感じ。

WHY:ブースで照明をいじりながらWADAさんがDJやってる姿を見ていて、DJのやり方を覚えたって言う話でしたけど。

STEREOCiTI:やり方っていうか、クセね。WADAさんのクセはついた。 1曲1曲EQ全部違うし、出音をちゃんと聴くってところとかそうだし。ミックスの仕方は自分とはちょっと違うんだけど、テクノのミックスってこうやってやるんだ、っていうのは、全部やっぱりWADAさんから学んだかな。

METAL:僕の場合なんですけど、WADAさんのDJを近くて見てて、EQ以外で学んだのはディスコDJのメンタリティなんですよね。客もよく見てるし。

STEREOCiTI:わかるわかる、本当そう。エンターティナーというか、あれがDJだよね。

METAL:使ってるネタ自体は大ネタってほとんど使わないんだけど、場の雰囲気に合わせた踊らせ方をする。

STEREOCiTI:そうだね、それは本当に俺も学んだところ。場の流れを作るというか、場を見てるよね。好きな曲をかけるだけ、っていうようなDJいるからね、やっぱり。

WHY:その"CYCLE"時代や、TAKAMORI.Kさんとやってた"Better Days"の頃は、本名のSumitani名義でDJしてたんですよね。"STEREOCiTI"と名乗る経緯、由来は?

STEREOCiTI:10年ぐらい前にシカゴに1ヶ月ぐらい滞在してたの。シカゴに友だちが住んでて、そこに泊まってたんだけど、そのアパートメントの裏庭の壁にスプレーで「STEREO CITY」って書いてあって。アーティスト名はそこから来てる。で、その友だちの実家がデトロイトで。ちょうどサンクス・ギビング・デイの頃で、実家に帰るっていうからデトロイトまで一緒に車でついて行って。

METAL:シカゴ~デトロイト、どうでしたか?

STEREOCiTI:その友だちはドラマーで、彼の仲間たちがダウンタウンに住んでて、その連中がみんなトラック作ってたんだよね。やっぱりダウンタウンてもともと危なくて、人なんかあんまり住んでない......そこにしか住めない黒人しかいない場所だったんだけど、若いアーティストがどんどん引っ越してきて暮らし始めてる時期だったんだよね。だから結構白人も多かった。デトロイトでは、IBEX(Tony Ollivierra......Neil Ollivierra=The Detroit Escalator Companyの実弟)も一緒に遊んでた。後でこっちで会ったら覚えてなかったけど(笑)

METAL:リクルーズとかも同じ一派ですよね。

STEREOCiTI:リクルーズはあの辺の大学生で、たしかダウンタウンからはちょっと離れたところに住んでたんだよね。

METAL:デトロイトで「第二世代以降」と呼ばれる人たちとの交流があって、彼らがそこで作っていた音楽が、自分の核になってきた部分ってあるんでしょうか。

STEREOCiTI:全然ない。リクルーズは「この人すげえなぁ」と思って研究したところも実はあるんだけど......曲は好きなんだけど、ああいう白人っぽいグルーヴは、自分のやりたいところではなかったんだよね。それよりも、ハウスにしても黒人がやってるもの。当時だったらリック・ウェイドやケニー(・ディクソン)、セオ(・パリッシュ)、あの辺のもっさりしたハウスのグルーヴが好きで。ゴスペルっぽいハウスとか、エディ・フォークスとか。いまは逆にデトロイトのハウスよりもテクノのほうが好きなんだけど。
 黒人のグルーヴが好きなんだよね。ファンクというか、ずれた感じ、粘ってる感じが好き。グルーヴに関しては、一時期ノー・ミルクと一緒にすごい研究してたんだよね。ここをこうズラすとこうなる、みたいな。ディスコとか聴いて、「なんでこのグルーヴが出るんだろう?」とか研究したよ。だから自分の曲もイーヴンっぽく聴こえても実はイーヴンじゃない。個人的な好みだけど、きっちりイーブンに貼っつけてるトラックとかは、聴いた瞬間ダメ。あとドラムマシンのイーヴンと、シーケンス・ソフトとかで置いたイーヴンは全然違うんだよね。ドラム組む時も、ドラムマシンのノリそのままで作りたい曲以外は、全部自分で細かく組んでグルーヴ作ってるから。そういう作業は好きかな。

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10年ぐらい前にシカゴに1ヶ月ぐらい滞在してたの。シカゴに友だちが住んでて、そこに泊まってたんだけど、そのアパートメントの裏庭の壁にスプレーで「STEREO CITY」って書いてあって。アーティスト名はそこから来てる。で、その友だちの実家がデトロイトで。


STEREOCiTI
Kawasaki

Mojuba Underground

Amazon

METAL:じゃあアルバムの話に入ると、ファースト・アルバムのタイトルに「川崎」という、自分の地元の名前をつけたのは?

STEREOCiTI:ジャケにこんなでっかく「川崎」とかなってるから、そこをすごく押してるみたいになってるけど......最初このデザインが出てきたときはびっくりして(笑)。

METAL:自分のデザインじゃないんですか?

STEREOCiTI:違う違う。これは〈モジュバ〉のトーマス(Don Williams)のデザイン。「漢字はやだ」って言ったんだけど、「ヨーロッパでウケるから我慢しろ」って(笑)。だからジャケットの漢字バーン! に関してはホントは不本意なんだけど、タイトルを"kawasaki"にしたのにはそれなりの経緯や意味があって。なんだろう、自分の生まれ育ってきた場所や、昔から来た部分を、すごい引きずってる時期に作ったのね、アルバムの曲群を。作ってる途中で気付いたんだけど、地元に置いてきちゃったものっていうか、心残りもけっこうあったりして。すごい地元が嫌いで。ろくな街じゃないから。何もないし、文化もないし、良いところ何にもないから(笑)。早く出たいと思ってたんだけど、作った曲を後から見ると、どうしても「川崎」が色濃く出てしまっていたんだよね。

WHY:川崎が色濃く出ている部分って、どういうところなんですか?

STEREOCiTI:それは超個人的なところだから、実際に川崎っぽいかっていうとわからない。多感な時期を過ごした中で染みついた、拭えないものってことだね。それが、自然に吐き出されたビーツやメロディとかに表れていると思って。だから「これはちょっと、1回ケリをつけないとな」みたいに思って、そこでアルバムのタイトルを考えたときに自然と「川崎」って出てきた。「地元に恩返ししたい」とか「地元が好きだから/嫌いだから」とかじゃなくて、ただ自分の作品にそれがすごい出ちゃってたから、"kawasaki"っていうタイトルがいちばん自然にハマったっていうか。

METAL:川崎で生まれ育った自分が作った音楽だから"kawasaki"だっていうことですか?

STEREOCiTI:うん、本当にそんな感じ。アルバムタイトルに"kawasaki"ってつけることで、自分の中で収拾つかなかったいろんなものをうまくまとめられる感じがしたのね。だからタイトルはぶっちゃけ後付けで、川崎をイメージして作ったアルバムってことでは全然ないんだよね。だけど、さっきも言った川崎......それまでの自分ってことだけど、それが色濃く出すぎていたから、そこに収拾をつけたくて。例えばアルバム最後の"Day By Day"なんかはいちばん最近に作った曲なんだけど、この辺は自分で聴くと、ノスタルジックな感じがないというか、古い曲とはけっこう違ってて。

METAL:1曲目は、電車の音から始まりますよね。

STEREOCiTI:あれは貨物列車の音で、実家の近所の踏切で録音したの。南武線の浜川崎支線っていう、二両編成の路線があるのわかるかな? 一時間に一本しかない電車なんだけど、そこを貨物列車が一緒に走ってるのね。京浜工業地帯に貨物線が引き込まれてて、向こうで積んで、また出てきて、って、常に貨物が行き来していて。そのそばに住んでたから、地元にいるときは毎日毎日あの音を聞いてた。

METAL:で、電車の音にポエトリーが乗ってきますよね。どんな内容なんですか?

STEREOCiTI:川崎ってこんな街だよ、っていう。"This Town, it's Empty"っていう節があるんだけど、空っぽの街だよっていう。まぁ空っぽで何もないけど、子どもはどこでも同じように笑ってるし......っていうようなこと。だけどそれをみんなに知ってもらおうとは思ってなくて。自分で込められればよかったから、声を加工して、外人でも聞き取れないようにして。単純にイントロをつくりたかった、っていうのもあるし。

WHY:1970~80年代の川崎には公害訴訟とかありましたけど、子どもの頃は、公害問題も深刻だったんですか?

STEREOCiTI:いちばん深刻な時期は過ぎてたんだけど、ぜん息の子どもはまわりにいっぱいいたし。常に鉄粉が飛んでるから。空は毎晩真っ赤だしね。だから、日本鋼管(NKK。現・JFEエンジニアリング)で働いてる人のための町っていうか。経済においては、すごく重要な街ではあると思うんだよね。ただ日本の歪み......いま出ている放射能もそうだけど、公害問題ってのが、川崎にはもっと前からいまと同じようにあって。もっと辿ると戦争時代も、負けてるのに勝ってるぞ、って国がウソついててさ、ずっと同じだよね。

METAL:そういう視点は昔から持ってたんですか?

STEREOCiTI:昔は対して考えてなかったけど、単純に、大人になったらいろいろ考えるよね。

METAL:反原発デモにも参加してますよね。

STEREOCiTI:最近なかなか参加できないんだけど、やめちゃダメだよね。国に対してモノを言える機会ってそんなにないから、それをやめちゃいけないよね。効果もあると思ってる。やっぱり言っていかないと......日本人ってけっこう「言ってもしょうがない」って感じで、日本の腐った部分は変わんねえや、って諦めてる部分も多いと思うんだけどね。自分もそうだったし。でも発していかないとはじまらないからね。

WHY:アルバムは3.11の前にはできてたんですか。

STEREOCiTI:できてたね。

WHY:8曲目の"Downstream"って曲名、辞書で引いたら「使用済み核燃料の処理工程」という意味なんですけど、じゃあこれは偶然なんですね。

STEREOCiTI:ホント? それはちょっと、予言じゃない(笑)?

METAL:いやでも、あの曲の「闇」は僕も気になってましたよ(笑)。

STEREOCiTI:あれ、いちばんライヴ感っていうか、ノリで作った曲だよ(笑)。いちばんフロア向けっぽいかなと思ってるんだけど。"Downstream"ってのは、単純に水が川を流れていくようなイメージで。比較的最近作った曲なんだ。さっきも言ったように、アルバムの最後のほうはもう「川崎」からだんだん離れて、収束に向かってきたところなんだよね。今の気分に近い曲なんだ。ノスタルジックでもないし、メロディアスでもないし、もっと違う方向に向かってる。この曲でサンプリングしてるボイスはジム・モリソンなんだけど、これまた全然原発とは関係ないよね(笑)。

METAL:これ、ドアーズなんですか。

STEREOCiTI:うん。"An American Prayer"の最後の曲(An American Prayer/The End-Albinoni: Adagio)。オリジナルにレコーディングしたもの以外のボイスものは全部サンプリング。ネタ集みたいのはいっさい使ってなくて、サンプリングするってのは一応ポリシー。

METAL:デトロイト・エスカレーター・カンパニーの『Soundtrack[313]』が好きだっていう話があったじゃないですか。デトロイトのフィールド・レコーディングで作られたアルバム。

STEREOCiTI:あれはすごく好きだし、かなり影響を受けてるかもしれない(笑)。サウンド的にもだし、コンセプトとか、フィールドレコーディングの部分の印象とか。あれがダンス・ミュージックかというとまた微妙なところだけどね。俺の中でのデトロイトのイメージはあんな感じ。実際に行って感じた印象と近いね。

METAL:で、2曲目の"Expanses"からアルバム本編に入るわけですが、楽曲の構成は、基本的にはミニマル・テクノですよね。ハットの入り方にしろ、曲の展開にしろ。グルーヴはハウスと言ってもいいのかもしれないけど。同時に、サウンドスケープにはラリー・ハードに通じるような繊細的な部分もあって。そのふたつが核にあるのかな、と感じていたんですけど。

STEREOCiTI:ミニマル・テクノはあまり意識して作ったことないんだけど......逆にテクノ作りたいけどできない(笑)。自分が好きで聴いてて「こういうのやりたいな」って思ったのと、自分のやりたいように作ったら出てきた曲がまったく違ったのね。昔のムーディーマンみたいなざっくりしたのが作りたいのに、自分で作ってみたら音数も少なくて緻密な感じのものになってたり。だから「自分がやるのはこうじゃないんだな」って思った感じかな。

METAL:じゃあ、曲を作っていく工程で、今回のアルバムのような作風になった感じなんですか。

STEREOCiTI:いや、志向としては初めから。本当は初めからフロアで超機能するトラックとか作りたかったんだけど、うまく形にならなくて。で、生っぽい音を使ったりとか、自分で弾いた楽器と合わせて作ったりとかして、ようやく曲が完成するようになってきて。その辺が〈Deep Explorer〉から出したような曲だね。初期の曲はもっと生っぽいっていうか、ゆるいんだけど、本当はもっとエレクトロニックなのがやりたかった。で、だんだんその術を覚えてきたというか、作り方がわかってきて、いまみたいな作風になってきたって感じかな。

WHY:曲を作りはじめてから、楽曲が〈Deep Explorer〉からリリースされるまで、10年ぐらいのあいだがあるわけですよね。

STEREOCiTI:うん、ずっと曲作ってたけど、全然完成に至らなくて。なんでかっていうと、自分がいいと思う音楽のところまで、自分の曲を持っていくことができなかったから。

WHY:その10年のあいだ、どういう思いで曲を作り続けてたんですか。

STEREOCiTI:なかなか完成しないから「どうしたもんかな」ってずっと思ってて。いろんな人から「とりあえず完成させればいいんだよ」って言われたりしたけど、自分でいいと思わなかったら発表できないから、どこにも送ったこともないし。自分がさ、いろんな音楽を聴いてきて、いいと思う音楽と大したことねえなって思う音楽の差があって、自分のなかで「いい」っていうレヴェルまでいかない限り、自分で出す意味ないわけでしょ。中途半端で出す意味もないし。それなりにいろいろ聴いてきたわけだから、自分でやる以上は、自分のなかでOKを出せるレヴェルに行き着くまでは外には出せないな、っていう。でも微妙なラインで、「これどうなのかな? まぁ、いいと思うんだけどな」みたいなところで外に出し始めて、引っかかってくれたのが〈Deep Explorer〉やラス・ガブリエルで、「あ、これでいいんだ」みたいな。

METAL:まぁ、評価っていうのは、わからないですよね。

STEREOCiTI:音楽なんて、人に聴かせてナンボだから。自分だけのエゴで成り立ってるもんじゃないから、人の評価っていうのは大事なことだけど、自分のなかで、人に聴かせるだけのOKを出せない限りは外に出せないというか。そこまでに時間がかかったっていうことなんだよね。

METAL:自分の思うとおりに機材を使いこなせるまでにも、それなりの時間がかかりますよね。

STEREOCiTI:それもあるよね。まぁいまでも全部なんて使いこなせないんだけどね。

METAL:レイ・ハラカミさんなんかは、ひとつのソフトを、自分の身体として考えているっていう。

STEREOCiTI:そういうのはすごいと思う。ダンサーの表現みたい。

METAL:そう考えると、打ち込みと楽器演奏って、まったく変わらないんですよね。

STEREOCiTI:うん、それは変わらないと思う。自分の音楽ってディープ・ハウスみたいな感じでやってるけど、結局やってることはブルースだと思ってる。それを生っぽい、RAWな部分を前面に打ち出すんだったら生楽器やればいいわけなんだけど、もうちょっとロジカルなというか、構築的な部分でのブルースをやりたくて。あんまり機械的でもないし、かと言って生っぽくもないのがいいというか。1曲1曲に、必ず生っぽいっていうかライヴ感は残してる。一発で全部出して混ぜてって作るタイプではないから、そういう意味でのライヴ感はないんだけど、人間っぽさをどうしても入れないと気が済まないっていうか。フレーズ一発でも、そこに自分のソウルが投影されない限りは、いい曲できても「誰かの曲みたいだな」とか「かっこいいけど、なんか違うな」ってのは全部消しちゃうし。

METAL:アルバム聴いていても、曲自体にいっさい妥協がないですね。

STEREOCiTI:妥協はいっさいない。それは言い切れる。好かれる好かれないは別として、自分のなかでOK出せるところまではいってる曲しか出してないからね。本当にすごいなって思うアーティストがいっぱいいて、そこまではいけてないけど。生で弾いて表現できるのが理想なんで、そっちもこれからもっとやっていきたいし。

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川崎ってこんな街だよ、っていう。"This Town, it's Empty"っていう節があるんだけど、空っぽの街だよっていう。まぁ空っぽで何もないけど、子どもはどこでも同じように笑ってるし......っていうようなこと。

METAL:ブルースだと誰が好きなんですか。

STEREOCiTI:俺、ジミヘン好きなんだけど、もっとルーツ的なところでいうと、Tボーン・ウォーカーとか、ハウリング・ウルフとか......。

METAL:ロバート・ジョンソンは?

STEREOCiTI:ロバート・ジョンソンはねえ、好きなんだけど、自分の気持ちとはちょっと違うというか。ドラッギーだよね、あの人。アルバムを聴いてると、すごく暗ーいところに持ってかれる。やっぱり悪魔的というか(笑)。

WHY:その、闇に吸い込まれる感じって、賢さん(STEREOCiTI)の作品やDJの特徴だと思うんですけどね。アルバムでは"Expanses"が象徴してると思うんですけど......「心に影を落とす」っていう表現ありますけど、そういう感じでふっと暗くなる感覚って、世に溢れてる「ディープ・サウンド」のなかでも独特というか。さっき「ブルース」って言葉が出てきて、あぁ、あの暗さはブルースだったのか、って思ったんですよ。

METAL:これは白石さんの言葉なんですけど「闇の暗さの種類の違い」ってのがあって......。

STEREOCiTI:あ、それわかる。俺ね、モノ作るときとか、DJもなんだけど、「満たされない部分」ってのをすごい意識してて。その「足りない部分」をどう表現するかっていうのが自分も好きみたい。いっぽうではけっこう打算的な部分もあって、DJするときもそうなんだけど「人の記憶にどれだけ訴えるか」ってのをすごい意識してるんだけどね。

METAL:打算的ってことかわかりませんけど、アルバムのなかだと"A day"はすごくきれいな曲で、ローレンスが賢さんの曲を気に入ってるっていう理由が、これ聴くとすごくわかる感じしますね。

STEREOCiTI:これは代々木公園の曲なの(笑)。ちょうどあの辺住んでた頃に作った曲。昼間をイメージしてる曲ってあんまりないんだけど。映像的な音楽ってすごい好きだから、どうしても映像と絡めたくなるっていうか。例えば"Hotel Maroc"は、以前行ったモロッコの、華やかな表面の裏の、現地のベルベル人の私生活の土っぽいイメージで作った曲だし、"Klass"は、Naoki Shinoharaがやってる"klass"っていうパーティをイメージして作った曲。そんな風に、映像的なイメージから作ってる曲は多い。アルバム全体を通しての映像ってのは意識してないんだけどね。並べて気持ちのいい感じにしただけで。ただ最初の"kawasaki"と、最後の""Day By Day"は、全体の収拾をつけるために、イントロとアウトロで合わせて作ってる。やっぱりアルバムとして通して聴けるアルバムが好きで。アルバムとして成り立っていてすごい好きなのが、KDJの1stだったり、トータスの『TNT』とか。アルバムを通してひとつの世界観があるのを作りたかったんだよね。

METAL:白石さんなんかもまさにそういうタイプで、世界観、コンセプトの構築から入って、流れをつくって、っていうタイプですよね。

STEREOCiTI:俺はその逆。デザイナーだからかもしれないけど、元からある曲をどうはめていくか、どううまくまとめるかで映像やストーリーを作ったり、全体の辻褄を合わせていく感じなんだよね。まぁでも、深層に、芯に確実に流れている部分があるからまとめられるんだけどね。ホントにバラバラの曲たちではないからね。やっぱり自分で何百回も、死ぬほど同じ曲を聴きながら作ってて、それでもやっぱりいいな、何回聴いてもいいな、と思う曲だけを残してきたわけだから。

METAL:でもほんと、サウンド的、デザイン的な部分で取りざたされる作品は近年でもいろいろあるけど、こうしてコンセプトを立てて、しっかりストーリーテイリングされた作品ってのは、最近では珍しい種類のアルバムだと思うんですよ。

STEREOCiTI:そう言ってもらえるのも、自分がそういう映像的な部分が好きだし、ストーリーを作るのが好きだから、うまくデザインしてまとめただけで。さっき「打算的」って言ったのはそういう意味。

METAL:まぁでも、自身にとってもひとつのモニュメントというか、区切りというか。

STEREOCiTI:そうだね。いままでは後ろを見過ぎていたというか、これまでの精算に時間がかかっていたわけで。きちんと精算できたのかはわからないけど、一応の区切りにはしたいなぁと思っていて。

METAL:じゃあここから先は、まったく新しいことをはじめようと思ってる?

STEREOCiTI:そんなに理想があるわけでもないし、新しいことをやるぞ! みたいな気分ではないんだけど、単純に変わるだろうな、とは思ってる。

METAL:(唐突に、同席していたSTEREOCiTI夫人に対して)ステレオさんの曲は好きですか?

夫人:好きです。

STEREOCiTI:彼女のために音楽をやってるっていうのもあるから。アルバムのね、盤の内側にエッチングで文字が掘ってあるじゃない? 実はここにメッセージが入っていて。A面にしか入れてないし、これは言わなきゃ誰も気付かないと思うんだけどね。

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シーンを育てるっていう意識がクラブ側に薄いから人任せ......オーガナイザー任せ、外タレ任せになってるのをすごく強く感じる。そこは皆が協力して、いちばん変えていかなきゃいけないところだなぁと思ってて。

METAL:6月には、ベルリンとスウェーデンでDJしてきたんですよね。そのことも聞きたいんですけど。

STEREOCiTI:前回のベルリンは〈Panorama Bar〉だったけど、今回は〈Berghain〉の〈Garten〉でやった。夏だけ開ける野外スペースね。こっちでDon Williamsとやることが決まったんで、他にどこかヨーロッパでできないかな、と思っていろいろメールしてたら、前から好きだったスウェーデンの〈Aniara〉(レーベル)の連中が一緒にやろうって言ってくれて。街のなかのちょっとした森みたいなところで、彼らはそこで毎週のように野外パーティやってて。自分らでサウンドシステム持ち込んで、ビール買ってきて、告知してってスタイルで。その日も400人ぐらい集まったんだけど、それはすごい面白かったな。すごい雰囲気がよくて。彼らはドラッグもやらないからお酒だけで、ダーティーな感じはなくて、喧嘩もなくてピースフルで。最後のゴミ拾いまでクタクタになりながら一緒にやって。そういうの一緒にできたのがすごく。ノリも合ったし。
 ベルリンは2回目だけどとくにイエー! っていう感じじゃなくて、地元じゃないけど落ち着く場所みたいな感じだね。前に行ったときとは自分のDJの傾向も変わってきてる部分もあるんだけど、楽しくできたかな。前とは違って夏で、あったかいし、外だし、みんなゆるくて、ゴロゴロしてる人もいるし、コンテナのダンスフロアの中の人はガッツリ踊ってるし。今回は期間が短かったからあんまりいろんな場所は行けなかったんだけど、前よりも面白かった。ベルリンに対しては特別な感情はいまはなくて、すごい自然にすーっと入ってくる感じ。東京と全然似てないんだけど、すごく馴染むよね。電車はずっと走ってるしさ、俺らみたいな人にとってはパラダイスだよ。

METAL:ヨーロッパのパーティが東京と決定的に違う部分ってあるんですか。

STEREOCiTI:あのねぇ......(長考)。スウェーデンでいちばん感じたんだけど、ゲストを呼んだときのもてなし方が全然違う。めちゃめちゃもてなしてくれるっていうか、行った経験がある人はわかると思うんだけど、アーティストに対するリスペクトが全然違う。すっごいナイス。とにかく喜ばせようとしてくれるっていうか、メシにカネ払わせるな、とか。日本でももちろんあるけど、呼んだアーティストに対して、そこまでちゃんとアテンドしてる人ってなかなかいないな、って気がするんだけどね。逆に、気遣いが足りなかったような話の方をよく聞くからね。まぁでも、俺のまわりの人たちはそんなことないか。
 客の反応やパーティの雰囲気的にはそんなに変わらないと思うんだよね。ベルリンの連中に言うと「いや、日本とドイツは全然違う。ドイツの客は、キックが四つ打つのをずっときれいに続けてあげないとすぐ離れていっちゃう」とか言うけど......。

METAL:日本のDJのレヴェルって、別に低くないと思うんですけど。

STEREOCiTI:日本のレヴェルはね、高い! ドイツの連中がそうやって言うのも、俺は「いや、そうじゃないよ」ってすごい感じて。オーディエンスは本当に、おんなじなんだよ。ただDJが上手いか下手かなだけで。グルーヴちょっと変えてあげたりとか、展開つくってあげても、しっかりやればついてくるんだよ。日本に来る海外のアーティストがよく「日本人は耳がよくて、広くて、ノリもよくて」って言うじゃない? そうではないと思うんだよね。やっぱりそいつの腕次第だし。俺は、オーディエンスを見て「違わないな」ってすごく感じて。向こうが逆にシビアな部分もあって、オーガナイザー側は、〈Panorama Bar〉でもどこでも、遠くでずっと、客の動きも含めて見てるんだよね。それで良くないと、もう呼んでくれない。そういうシビアな部分はビジネス的にも確立されてるから、日本よりも勝負していかないとダメだろうなってのはある。でもオーディエンス側は全然変わらないよ。どっちも好きで聴きに行って踊ってる奴らなわけだから。

METAL:日本人のDJやトラックメーカーで、とくに注目してる人とかいるんですか。

STEREOCiTI:うーん......ひとり名前を出すといっぱい挙げなきゃいけなくなるからなぁ(笑)。誰だろうなぁ。みんないいからなぁ......。日本といえば、最近思うんだけど、クラブの看板パーティとかレジデントDJとか、クラブ側がDJが育てていくシーンってのがないじゃない? DJも決まった人を取っかえひっかえでさ。昔は「タテ枠」ってのがあって、金曜日は必ずこのパーティで、このDJで、ってのがあったんだけど。〈MANIAC LOVE〉の"CYCLE"にしてもそうだし。

METAL:箱やパーティが増えすぎたんですかね。

STEREOCiTI:やっぱり客が減って、クラブ側の経営自体が変わって、レジデントを育てる余裕がなくなったのかな。お抱えのパーティを持つよりも、いろんな客を入れて増やしていきたい、という発想が台頭したんだろうけど、クラブがいままさにやんなきゃいけないことは、レジデントを持つことだと思うんだよね。そうしないともう、客も離れてきてるし、単価も高いし、アーティストもどんどん日本から離れていってるし。シーンを育てるっていう意識がクラブ側に薄いから人任せ......オーガナイザー任せ、外タレ任せになってるのをすごく強く感じる。そこは皆が協力して、いちばん変えていかなきゃいけないところだなぁと思ってて。

METAL:僕も、震災後に〈eleven〉でIsolee、Adaとのパーティが流れて、その時にキヒラ(ナオキ)さん、RYOSUKEさん、KABUTOさん、YAMADA(theGIANT)さんを集めてパーティーやったんです。腕はこれでちゃんと入るような状態に持ってかないと、この先ないよねって。

STEREOCiTI:そうでしょ。外タレに頼り切ってるけど、曲がよくてもDJはそんな良くない人も多いわけでさ、日本人のほうがよっぽどいいんだし。日本人って輸入モノ好きだし、外タレだと人入るけど......って言ってもそんなに入んないけどね。でもドメスティックいいなってのはみんな気付いてるわけで。そこをもっとやっていかないと、先がないんですよ。やっぱり。クラブを、ある意味90年代みたいに戻していくというか、人を集めていくには値段も下げなきゃいけないし、DJのレベルも上げていかなきゃいけないし、クラブ側の意識ももちろん変えなきゃいけないし。それでこそオーディエンスがついてくるものだから。「オーディエンスが離れていっちゃった」ってそのせいだけにするものではなくて。怖いけど変えていかないといけない時期だと思うんだよね。
 ヨーロッパと同じことを日本もできるか、と言ったらそう単純な話ではないんだけど、やっぱり向こうは、エントランス・フィーは全部オーガナイザー側に返ってくるわけ。クラブ側はバーの収益だけで運営している。そういうシステムじゃないと、DJにはまずお金が入らないよね。DJにお金が入らないと、プロが育たないわけ。競争率が低いからレヴェルも上がらないよね。個々人はレヴェル高いのにいまひとつ勢いが出ないっていうのは、出てこれる場所がないからだよね。数ばっかり増えて、プロフェッショナルの意識が育たない。それがすごい致命的で。

METAL:DJっていうのは、本質的に必要経費がかかりますからね。もちろん、好きでやってるのが前提としてあるんですけど......。

STEREOCiTI:本当にそうで、そこにクラブが頼りすぎてる。もうちょっとアーティストが出てこれるシステムができないと。ギャラが1万、2万じゃどうにもなんないでしょ。でもやっぱりクラブ側も大変で、儲けが出てないからしょうがないんだけど。エントランスのフィーをDJ側に頼るんであれば、クラブ側はバーを工夫してもっと儲けようとかあってもいいけど、そういうの出てこないでしょ。もうちょっと切羽詰っていいと思うし。DJ側もDJ側でさ、もっと意識を高めてかないといけないと思うけどね。いままでのシステムがクラブシーンに定着しちゃってるから......。

METAL:経済市場の動きによって、そうならざるを得なかった部分もありますよね。

STEREOCiTI:そうそう、いちど保守的になっちゃったから、そこからなかなか抜け出せない。ひとつ思ってるのはさ、地方にいろんないいDJがいて、シーンもあるんだけど、彼らを東京に呼ぶのって難しいじゃない? 東京のDJが地方に出て行くことはあるんだけど、向こうの人をこっちに呼ぶシステムがあまりにもなくて、俺はそれをやりたいんだけど。やっぱり小箱とか中箱とかだとフィーの返りが少なくて、交通費とかギャランティーを出すのが、東京はすごい難しいんだよね。例えば〈LOOP〉の"SWEET"ぐらいの規模のパーティでもっと呼べればいいと思うんだけど。クラブはあまりお金を出せないし、こっちにも返りがないからお金を出せないし。それはやっぱり悪循環だし、日本全体が盛り上がっていかないよね。そこは何とかしたいな。

WHY:「『これぐらい集客が見込める』という裏づけがないから、地方からのゲストDJにはお金を出せない。外タレなら出せるかもしれないけど」という言い分ですよね。

STEREOCiTI:だってそれはさ、シーンがその人を紹介していかないと、人が入るようにならないわけでしょ。最初から入るわけないんだから。地価が高いっていうけど、もし地価が下がったらクラブがフィー下げるかっていうと、日本人の性格的にどうかなって思うけどね。

WHY:ベルリンはともかく、他の大都市と比べて東京の地価がそこまで突出して高いわけじゃないですもんね。

STEREOCiTI:そうそう。どこもそんなに安くないんだよね。それでも回してるからさ。じゃあ東京もお客を増やすためにはどうしたらいいかってことだよね。クラブ離れが激しい中で。野外ばっかりじゃん。まぁ夜中に遊ぶってこと自体がみんな......。

METAL:そこは僕強く言いたいんですけど、クラブで遊んでたほうが若くいられるんじゃないかと(笑)。

STEREOCiTI:夜遊びはたしかに老化防止になるね(笑)。俺もそう思う。

METAL:透さん、アゲイシさん、WADAさん、みんな若いですよね。DJやり続けてると、ああいうオヤジになれるって(笑)。

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俺、人の反応はもちろん見るけど、「あ、ノリ悪いからこっち行こうかな」っていうのはまずやらないし、そこで変えちゃうのは合わせすぎっていうか、それは違うと思っていて。


STEREOCiTI
Kawasaki

Mojuba Underground

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WHY:話を戻すと、賢さんが自分でやってるパーティは〈KOARA〉の":::Release:::"だったり、〈OATH〉の"日本オシロサービス"だったり、エントランスフリーの箱が中心だというのは、現行のシーンの問題点を改善するための動きであるわけですか。

STEREOCiTI:そうだね。週末にパーティをやるのは大変だし、お金かかかるし、ってのもあるけど、みんなからもお金を多くとらないでパーティやりたいっていうのがある。自分らのまわりにいるいいDJ、トップのDJたちを、どれだけお金かけずに提示できるかっていうのがひとつのテーマで。それによってクラブ側も影響を受けてくれて、エントランスでそんなにお金とれないなっていう風潮になってくれたら、っていう希望があるんだよね。〈Room〉の"moved"も、本当はエントランスで1500円とればいいんだけど、1000円でやってる。だから上がりが少なくて、やっぱりなかなか地方のゲストを呼べないんだよね。"moved"は一緒にやってるmaakoが転勤でいなくなっちゃうから一旦休むんだけど、"moved"はせっかく育ててきたいいパーティだから、maakoが戻ってくるまでひとりでやっていこうかな、っていうのも実は考えてる。

METAL:ご自身の、DJとしての話も聞きたいんですよね。

STEREOCiTI:自分のDJを何なんだろうって考えるときはあるんだけど、自分でわかるのは......。

METAL:まぁDJって、その場その場ですよね。

STEREOCiTI:基本はそうだよ、もちろん。だけど自分の好みで選曲して持っていくわけで、その選ぶ作業は自分の世界なわけだよね。俺、「現場の雰囲気に合わせてどうこう......」っていうのは、ぶっちゃけ関係ないと思ってて。単純にそのとき、現場にパーッと入った空気感で組み立てていけばいいと思うんだ。俺、人の反応はもちろん見るけど、「あ、ノリ悪いからこっち行こうかな」っていうのはまずやらないし、そこで変えちゃうのは合わせすぎっていうか、それは違うと思っていて。何ていうかな......DJも人対人だから、自分のエゴを出しすぎちゃいけないんだけど、自分のエゴなしでは成り立たないよね。そのバランスがすごく難しいんだけど。

METAL:レコードを選ぶ段階も場のひとつというか。

STEREOCiTI:そうだね。その段階で想像してるわけでしょ。この場面ではこれを持ってって、こういう感じでいけばいいんじゃないかな、とか。そこを現場で崩しちゃうのは違うなと思っていて。流れ的に組んでいくのはもちろん現場だし、現場の空気で変わりはするしそこが醍醐味なんだけど。だから適当にレコードを詰めて持っていくってことはまずしないしね。俺、DJの前は1週間ぐらいかけて選曲するし。

WHY:さっきアルバムの話で出た「人の記憶に訴えかける」っていう部分、改めて聞きたいんですけど。

STEREOCiTI:それはすごいあって。計算してやってるっていうか「ここでこうすればみんな好きなんじゃないの?」みたいなのはDJみんなあると思うんだけど、そこをわかりやすく出していく部分はすごいあるかな。結局、打算的なんだよね。あんまわかりづらい感じにはしないというか。俺、自分ですごいDJわかりやすいなと思うしね。

METAL:そこ、悩みませんか? 自分のキャラが明確になってくると、自分に飽きてくる部分ってのがあって。でも人を引きつけていこうとするときに、他人から見た自分の個性ってのはどうしても意識する部分ってあるじゃないですか。

STEREOCiTI:俺は単純に、そのときの気分で変わるのね。自分のなかですぐ飽きるから、自分に正直にやっていっても、飽きないようにできるってのは自分の強みかもしれないね。あと、自分のDJは、他の人のDJよりブレがあると思っていて。ブレというか振り幅ね。その時の気分で凄い変えてくるから。なんか意表をつきたくなる、みんなが思ってないところに行きたくなるっていうのはすごいあるんだよね。

METAL:たしかに、"SWEET"に初めて出てもらったときも、あそこまでピッチを落としてくるとは思ってなくて。ああいう「ディープなハウス」っていう括りでやってるパーティで、いちばんピッチが遅いときにいちばん盛り上がるっていうのは面白かったですね。

STEREOCiTI:あれもさ、ただ遅くすればカッコいいと思ってやったわけじゃなくて、それでなおかつ盛り上げるつもりで行ったから。BPMは関係ないんだよ、ってところをやりたかったんだよね。それにあのときは白石さんの曲を中核にして組み立てたから。そのときそのとき、自分のなかでテーマを置いていくんだよね。自分のなかで楽しまないとつまんないから。DJも表現として楽しみたいっていう部分があって。

METAL:そういえば震災後は、すぐにDJに戻れたんでしたっけ。

STEREOCiTI:DJは、1週間ぐらいしてから〈Combine〉でストリーミングしたの。それはすごく評判よくて、みんな「癒された」とか言ってくれて。

METAL:僕らの場合、約1週間後の3.19に初めて、一緒に"SWEET"やってたSCANDALって奴のパーティでやったんですよ。そのときに「不安のなかで踊ること」っていうのが相当重要だったと感じたんです。

STEREOCiTI:それはすごい感じた。

METAL:ダンス・ミュージックだったり、芸術の本来的な意味合いがしっかりわかったというか。普段のクラブで「エロス」っていうものは感じるけど、タナトス、死っていうのを初めて意識したときに、「ダンス」っていうのがこんなにも重要なものとして認識できた時間は、いままでの日本になかったと思うんですよ。デトロイトやニューヨークのスタイルは僕ら模倣してきたけど、そういう場所にあった死生観......例えばデトロイトだったら友だちが撃たれて亡くなるだとか......。

STEREOCiTI:ニューヨークやシカゴにもHIV問題があったわけで。

METAL:そうそう。アメリカにはつねにそういう形で「死」が間近にあったんですが、日本人は初めてそこをしっかり認識できたというか。

STEREOCiTI:たしかに。そういうときに「生」の楽しみをより実感できたというか、本当にそれを求めたっていうのはあるよね。音楽でともに涙を流すというような。基本的に現場主義だから、それまでストリーミングにはあんまり興味なかったんだけど、震災後に「いま自分ができることをやりたいな」と思ったときにストリーミングがあって、初めてやってみよう、と。そこでストリーミングに対する意識が変わった。あれはやって良かったな。ある程度自分に影響力が出てきて、それをわかった上でやったから。自分のエゴとかいうことではなくて、何かできることを考えた時にね。

WHY:震災の影響で、オーガナイズしていたパーティも流れましたよね。

STEREOCiTI:まぁでも、それはしょうがないと思ってる。たまに起こるんだよ、こういうことって。生きてると。ていうか、まだ「3.11」は終わってないし。

WHY:じゃ最後に"kawasaki後"というか、最近のフェイヴァリット・レコードをいくつか挙げてもらえればと。

STEREOCiTI:夏っぽいので5枚選んだんだけどね。うち2枚は、エドガー・フローゼ(Tangerine Dream)。こっちはブラジルかどこかの映画のサントラ。観てないけどすごい下らなそうな映画だよね(笑)。今度、〈Jazzy Sport〉から出すミックスCDに入れてるのがこの辺で。Interiorsは知ってる? これ細野晴臣さんプロデュースで、メンバーの野中英紀さんっていう人が、後に細野さんとフレンド・オブ・アースっていうユニットをはじめるんだけど。結構、マルチプレーヤーが好きなんだよね。この鈴木良雄さんもベーシストだけど、打ち込みからピアノからベースから、全部ひとりでやってて。

METAL:やっぱりシンセには魅力を感じるんですか。

STEREOCiTI:そうだね。ジャズとシンセの融合とか凄い好きだし。

METAL:やっぱり、シンセの魅力がテクノの魅力っていう部分ってありますよね。

STEREOCiTI:うん、それは絶対そうでしょ。打ち込みの部分が好きだから、今ここにいるわけで。この清水靖晃さんもそうだね。全部自分で打ち込んで、弾いて。この"案山子"っていうアルバムも夏がテーマみたいで、"セミ取りの日 "とか"海の上から"とか、ジブリっぽくていいよね。......全然黒くないセレクトだよね(笑)。まぁ、もともと黒いものに影響を受けてる人たちではあるんだけど。本当に黒くてグルーヴィンなところには、いまはちょっと飽きちゃってるんだよね。そこから派生した、より自分と近いものに今は寄ってる感じ。

METAL:やっぱり、日本的な情緒感みたいな部分は絶対にあるんでしょうね。

STEREOCiTI:うん、それは歳とればとるほど出てきた。感じざるを得ないし、それを拒否しなくなってきた。自分のなかで受け入れられるようになってきたかな。

The Greg Foat Group - ele-king

 このアルバムは2ヶ月近く前に都内の輸入盤店で噂となって、あっという間に売り切れている。クラブ系からインディ・ロック系にまで幅広く受け入れられていることからも、ある種の"時代の音"とマッチしたことは明らかだ。しかもそれがジャズの再発レーベルとして知られる〈ジャズマン〉からのリリースというのが驚きだ。UKのジャズ・ピアニスト、グレッグ・フォートのファースト・アルバム『ダーク・イズ・ザ・サン(太陽は暗い)』は、いま、チルウェイヴ世代/ポスト・ダブステップの世代にも拍手されているジャズの1枚である。

 ザ・グレッグ・フォート・グループは、本作の前にデビュー・シングルとなる10インチを限定で発表しているが、それがまず多くの耳と目を惹きつけている。ちょうどそれは、キティ・デイジー&ルイスとも似ているところがある。100%アナログ録音による反デジタル主義を完璧に遂行したもので、アートワークからその録音方法や音質など細部にわたって気を配っている。
 さてさて、先日僕はオッド・フューチャーやクラムス・カジノの無料ダウンロードにハマってハードディスクの容量が心配だと書いたら、親切な友人から「その認識は甘い」との指摘を受けた。そして、彼はダウンロード文化の現状を教えてくれたわけだが、僕としては自分の脳天気さを痛感するしかなかった。ああー、これかー、すごいなー。デジタル文化のそうした無法地帯を知れば知るほど、ミックステープもプロモーションというよりはどうせ無料で聴かれるんだから......という諦念がうながした切実な状況とも言えなくはない。USインディにおけるアナログ盤とカセットテープへの回帰もそういう意味ではミックステープと裏表の関係で、いずれにしてもデジタル文化が音楽産業にとって必ずしも前向きなものではなかったことを証明している。音楽とはいまや「何を表現するのか」のみならず、それをどのように伝達させるのかというところまで考えなければならない。面倒な話だが、80年代にアナログ盤工場を容赦なく閉鎖させていった日本にとっては輪をかけてゆゆしき問題だろう。
 よってキティ・デイジー&ルイスのような執念にも似たアナログ主義もデジタル消費への抵抗という点において意味がある。が、いっぽうではこうしたレトロ趣向には中道(MOR=Middle of the road)という落とし穴があるのも事実だ。これはいち部のジャズ系が陥ったパターンで、結局はイージー・リスニングやソフト・ロック、スムース・ジャズ、二流のボサノヴァ、あるいはオールディーズやアバといったいわばMORのコレクションへと展開する。それはまあ、責めるべきではないかもしれないが、極端な話、雑貨屋で売っている部屋の装飾物と変わりのないものだ。チルウェイヴにもそうしたリスクはある。ネオン・インディアンがもし最初に"シュド・ハヴ・テイクン・アシッド・ウィズ・ユー(アシッドを君とやるべきだったかい?)"を発表しなければ、本当にポスト・アバやポスト・デュラン・デュランの階段を上がっていっただけなのかもしれない。そこへいくと『ダーク・イズ・ザ・サン』は強い気持ちが入ったアルバムだ。チルウェイヴとも共通するメロウなフィーリングを有し、アンビエント・テイストも含まれているが......この音楽は基本的にはソウルフルに迫ってくる。

 ザ・グレッグ・フォート・グループは、ベース、ギター、ドラム、パーカッション、サックス、トランペット、トロンボーンなどの演奏者を従えてのバンドで、フォートはピアノ、ハモンド・オルガン、シンセサイザー、そしてハープシコードを演奏している。フリューゲルホルンやハープシコード、あるいは12弦ギターといっった古典的な楽器の美しい響きを際だたせながら、彼は『コスモグランマ』と同じような方向性を展開している。アートワークやタイトルが暗示するように、サン・ラーの宇宙旅行のようなコズミック・コンセプトが見える。
 ハープシコードとダブルベースを使ったドラマティックなオープニング・トラックの"タイム・ピース1"、12弦ギターのコード弾きからはじまるファンキーでグルーヴィーな"ダーク・イズ・ザ・サン・パート1"も素晴らしいが、フリューゲルホルンの温かい響きを擁した"ハロー・オールド・フレンド"と6/8拍子の"ダーク・イズ・ザ・サン・パート4"が出色のできだと思う。アルバムの録音はスウェーデンのほかロンドンのドリス・ヒルでもおこなわれていると記されているが、市の北にあるドリス・ヒルと言えば4ヒーローの本拠地だ。実際に彼らが関わっているのかどうか......そこはわからない。"敢えて"そうしているとしか思えないほど、ネットを検索してもこのアルバムに関する情報はないのだ。反デジタル、反ネット社会、反電子イクイップメント......それなりの気骨を感じるし、たしかにこのコズミック・ジャズはスタイルこそ違えど『パラレル・ユニヴァース』の感性とそれほど離れてはいない。

Chart by UNION 2011.07.30 - ele-king

Shop Chart


1

DJ HIKARU

DJ HIKARU Laid Back Town SMR RECORDS / JPN »COMMENT GET MUSIC
多くのお問合せを頂いたHIKARUのミックス最新作!ほっこりと体も心もいい具合に、空気に溶け込むよな音が収められたこの季節にハマる世界観。聴くべし!

2

MOUNT KIMBIE

MOUNT KIMBIE Carbonated HOTFLUSH / UK »COMMENT GET MUSIC
2010年に発表したファースト・アルバム『CROOKS & LOVERS』が大ヒットを記録し、隆盛を極める(ポスト)ダブステップ・シーンにおいて、JAMES BLAKE、BURIALと並び新たな音楽的地平を切り開く存在へと登り詰めた、DOMINIC MAKERとKAI CAMPOSによるユニット・MOUNT KIMBIE。本作「CARBONATED」はアルバムからの最後のシングル・カットで、タイトル・トラック以外は全て新曲&リミックス音源という構成。アンビエンス漂うシンセ・ループと物音サンプリング、声ネタのカットアップというMOUNT KIMBIEの特徴がよく表れたM-2"Flux"、深い海の底へと落ちてゆくような冷厳なサウンドスケープM-3"Bave's Chords"、モダン・テクノの最前線PETER VAN HOESENによる、ヘビーなベースラインとフラッシュバックするような多幸感溢れるウワモノの対比がすばらしいリミックスM-6など、オリジナル/リミックス問わず様々な可能性を感じさせるトラックが詰まった要注目作!

3

LARRY HEARD/MOODYMANN/OSUNLADE

LARRY HEARD/MOODYMANN/OSUNLADE Moxa Vol 1 - Follow The X REBIRTH / ITA »COMMENT GET MUSIC
イタリアのREBIRTHレーベルからLARRY HEARD、MOODYMANN、OSUNLADE収録のコンピレーション12"が登場!!イタリアのクラブTHE MOXAがコンパイルした今作。LARRY HEARDの未発表トラック"Winterflower"をA-サイドに、限定リリースで即売り切れとなったカタログKDJ36番、MOODYMANNの"I'd Rather Be Lonely"をB-1に、OSUNLADEによる今コンピレーションのために制作されたB-2"Moxa's Theme"の3トラックを収録した1枚!!

4

VARIOUS ARTIST (Compiled by AME)

VARIOUS ARTIST (Compiled by AME) Individual Mythologies MUSIC 4 YOUR LEGS / JPN »COMMENT GET MUSIC
収録曲には20年以上精神病院で働いていたというトム・ファッジーニ、フランスのプログレ・バンド「エルドン」の中心人物にしてキング・クリムゾンのロバート・フリップの影響を色濃く映すリシャール・ピナス、アンダーグラウンド・テクノ・シーンで話題のSANDWELL DISTRICT所属、サイレント・サーヴァントの別名儀トロピック・オヴ・キャンサー、テキサス出身の無名のエレクトロニック・アーティストJ・D・エマニュエル、あのヤン・イェリネックとも繋がりがあり薬剤師の経歴を持つ異色の電子音楽家ウーズラ・ボグナー等、これまでほとんどクラブミュージック文脈では知られることの無かったアーチスト達がAME(アーム)の手によってセレクトされ纏められている。

5

COS/MES & CHIDA

COS/MES & CHIDA 12 Inches For Japan ESP INSTITUTE / UK »COMMENT GET MUSIC
独特なスタンスでカルトな人気を誇るLOVEFINGERSのレーベルESP INSTITUTEからの新作は日本が世界に誇るCOS/MESと、絶好調のene主催CHIDAによる強力カップリング。深いリヴァーヴと絶妙な湯加減のアシッド感を散りばめたCOS/MESサイド、そしてオリエンタルなヴォーカルパートをフィーチャーしたスローモーハウスを披露したCHIDAサイド、共に見事なサウンドスケープを感じさせてくれる仕上がり。限定レッドカラーヴァイナル!

6

PAPERCLIP PEOPLE

PAPERCLIP PEOPLE 4 My Peepz/Parking Garage Politics PLANET E / US »COMMENT GET MUSIC
CARL CRAIGによるPAPERCLIP PEOPLEのリミックス12"がリリース!!リミキサーにDUBFIREとLOCO DICEを起用した話題盤!!A-サイドには1998年にリリースされた"4 My Peepz"をピッチアップ、タイトにグルーヴィーにDUBFIREがリミックス!B-サイドでは1996年にリリースされたアルバム『Secret Tapes Of Dr. Eich』に収録される"Parking Garage Politics"をDESOLATのオーナーLOCO DICEがリミックス!!

7

ULTRAFUNK

ULTRAFUNK Gotham City Boogie/Indigo Country (Scotti Re-Edit) SUN SOUND / ITA »COMMENT GET MUSIC
イタリアンジャズの最重要人物PAOLO SCOTTI主宰DEJA VUレーベル傘下に立ち上がった新レーベルSUN SOUNDから12インチシングルが入荷!BATMANのカバーでもある"Gotham City Boogie"はTHEO PARRISHもかねてからプレイしているあのトラック!RAHAAN~SADAR BAHAR辺りのセットをも彷彿とさせるベースラインとストリングス~ホーンのコントラストも見事!

8

ABOUT GROUP

ABOUT GROUP You're No Good (Theo Parrish Remix) DOMINO / UK »COMMENT GET MUSIC
UKの『DOMINO』レーベルからABOUT GROUPの「You're No Good」を Theo Parrish がリワーク!!Hot ChipのAlexis Taylorと、This HeatのドラマーCharles Hayward、ピアノ演奏家Pat Thomasに、実験的アプローチな作品をリリースするインテリジェンスユニットSpring Heel JackのメンバーJohn Coxtonよるグループ。B-1にはSpring Heel Jackのもう一人のメンバーAshley Walesによるリミックスも収録したヴァイナル・オンリーの1枚!!

9

SUN RA

SUN RA Mike Huckaby Reel To Reel Edits KS ART YARD SERIES / NED »COMMENT GET MUSIC
『DEEP TRANSPORTATION』、『S Y N T H』を主宰するデトロイトの重鎮Mike Huckabyがリエディットした話題盤!!アルバム「On Jupiter」収録の実験的ディスコトラック"UFO"に、1974年リリースの宇宙回帰が色濃く表れた"The Antique Blacks"をリエディットした限定盤!!

10

VARIOUS ARTISTS

VARIOUS ARTISTS 50 Weapons of Choice No. 10-19 FIFTY WEAPONS / GER »COMMENT GET MUSIC
MODESELEKTORがMONKEYTOWNと並行して運営するレーベル・50 WEAPONSのコンピレーション・シリーズ第2弾が登場! 前作はアーティストの意向により一部ショップのみの取り扱いとなっていましたが、今回は遂に一般流通! 50 WEAPONSは12"主体のレーベルとして09年から本格稼動し、ダブステップ~テクノ~ダウンビート等を自在に行き来する先鋭的なサウンドを紹介してきました。本作ではこれまでに12"でリリースされたそのカッティングエッジなトラックを選りすぐった全10曲を収録! VENOM & DAMAGEとして活躍するBENJAMIN DAMAGEによるフロア直撃のUKファンキーM-3や、RUSH HOURやTEMPAなどに作品を残すルーマニアン・COSMIN TRGのBERGHAIN系硬質テクノM-4/M-9、MODESELEKTORのトラックをBOK BOK(NIGHT SLIGS)がリミックスしたM-6、そしてPLANET MUからのアルバムも好調なFALTY DLのつんのめるようなビートとクールな声ネタのカットアップが冴えるM-7など、どこを切っても個性的なバラエティーに富んだ作品集となっています!

Chart by Underground Gallery 2011.07.30 - ele-king

Shop Chart


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LEGOWELT

LEGOWELT Sark Island Acid Ep (L.I.E.S.) »COMMENT GET MUSIC
コレです!既にDJ HARVEY、TIM SWENNYがプレイ中のアシッド・チューン! [Crwme Organization]や[Clone]からのリリースでお馴染みの、アシッド・オールドスクール・マニア、LEGOWELTが、NYの注目アンダーグラウンドレーベル[L.I.E.S.]から新作をリリース!ジワジワと勢いを増してくるアシッドグルーブに、渦巻くように響くシンセやアトモスフェリックなコードを鳴らし、様々な表情を見せながらトリッピーに飛ばしてくる「Sark Island」、[Trax]からのVIRGO作品を彷彿とさせる、降り注ぐような幻想的なシンセを鳴らした「Backwood Fantasies」、太くドライブ感のあるグルーブにオルガンやクラシカルなシンセメロを響かせた「Sea Of Nuhuhu」の 3トラックを収録。ハウス、テクノ、アシッド好きは是非!

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V.A

V.A In Loving Memory 4:4 | + Special 1 (Styrax) »COMMENT GET MUSIC
すごい凄い面子による、完璧なコンピレーション!何がなんでも買ってください! ポスト・デトロイト、ベルリン・ダブテックの影響下にて、アンダーグラウンドな活動を続けてきた[Styrax]から超スペシャルな4枚組コンピレーションが登場!2008年に超限定盤として2枚組でリリースされ、あまりの枚数の少なさに、日本まで入って来ていなかった幻のコンピレーション「In Living Memry4:4」が、更に2枚を加え、4枚組にヴァージョン・アップされて待望の再リリース!今回もプレス枚数は少なく、今後コレクターズ・アイテム化間違い無しのスペシャルな作品です!

3

V.A

V.A Fouke Le Fitz Waryn Ep (Crow Castle Cuts) »COMMENT GET MUSIC
限定300枚!夏っぽいギター・ソロが◎な、トロピカル・ディープ・ハウス!ビーチで聴きたい!!! あまり名の知られていないマイナーなレーベルですが、これは手放しでオススメ!ベルギー[We Play House]クルーが参加した前作が、コアなファンの間で話題を集めた、新興レーベル[Crow Castle Cuts]の最新作!特筆したいのは、その[We Play House]クルーでもあるMAXIM LANY & LEMARHKULARによる、サマー・フィール・ディープハウス!「Exotic Guitar」というタイトルに偽りのない、エキゾチックでトロピカルな印象を受ける、夏らしい開放感が満ちた、ギター・ソロが全面にFeatされた、心地良さ、爽快さは、ここ最近リリースされたハウスの中でも、ずば抜けています!B1に収録されたLUV JAMによる、柔らかい音で構成されたアンビエンス・ハウスも秀作!

4

ARTIST UNKNOWN

ARTIST UNKNOWN Analogue Solutions 007 »COMMENT GET MUSIC
CARL CRAIG「The Climax」、「Poi Et Pas」などの大ネタ使いながら、SLLEPARCHIVEやMIKE PARKER、GIORGIO GIGLIをも凌ぐような、かなり中毒性の高いドープ・スペーシー・ピプノ・ミニマルに! ローファイな質感で90年代のマニアックなテクノをエディットしながらどっぷりとその世界観にハメてくる[Analogue Solutions]の一連のリリースですが、今作もファンの期待にバッチリ答 える素晴らしい仕上がり!! ずっしりと重みのあるビートにヒプノティックに蠢きながらぐんぐん上昇していくスペイシーなシンセにエフェクティブに重なるボイス・サンプルがうねりながら展開していくキラー・トラックA1が◎!! これは使えます!

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COS/MES & CHIDA

COS/MES & CHIDA 12 Inches For Japan (ESP Institute) »COMMENT GET MUSIC
先日のUKツアーも好評に終わった COS/MESとDJ CHIDA氏によるスプリットシングルが、LOVEFINGERSが主宰する要注目レーベル[ESP Institute]から限定レッドヴァイナル仕様にて緊急リリース。まず Side-Aでは、自身が数年前までに主宰していたハードコアパーティーアニマル'sパーティー「Dancaholic」の名前を引用し、同パーティーの最もコアな深くカオスな時間帯を表現したかのようなエレクトリック・ブギー・ハウス「Danca」。Side-Bには、同レーベルの看板的に活躍を魅せる COS/MESが、カリンバ風のシンセを鳴らしたオーガニックムード漂うパーカッシブ・トラックに、スピリチャルなコーラスを響かせた、壮大な世界観のあるアフロ・コズミックなディスコトラック「Hey Yah」。どちらもとにかく間違いありませんね~!

6

MILES

MILES Facets Ep (Modern Love) »COMMENT GET MUSIC
UK発人気ディープ・レーベル[Modern Love]新作はMLZことMILES WHITTAKERによる激ドープなインダストリアル・アバンギャルド・ミュージック!! まるで生き物のように意志を持った電子音が絡み合いながらカオスの様相を見せながら物凄いテンションで鼓膜に突き刺さる殆どノイズとノイズのぶつかり合いの末のフラットな地表へと導かれていかれる、そんな凄みを感じる一枚!!

7

LOUI$ - Magic Dance

LOUI$ - Magic Dance Pink Footpath (Blow Records) »COMMENT GET MUSIC
またもや UKよりカルト級にレアな1枚が原盤仕様にて復刻!!今回は 85年に[Blow Up Disco]からリリースされた LOUI$が手掛けるイタロディスコ「Magic Dance」。80'sシンセディスコ全開な イタイケなヴォーカルが堪らない Side-Aのヴォーカルヴァージョン「Magic Dance」も勿論悪くはないのですが、オススメは断然Side-Bに収録された同曲のインスト/ダブヴァージョン「Pink Footpath」。バレアリックなダヴィーなシンセ、哀愁のギターのカッティングリフが◎な、最高過ぎるコズミック・フュージョン・シンセ・ディスコ。オリジナルはホント見かけませんので、是非この機会をお見逃し無く!

8

V.A.

V.A. Twentyfour Ways (Smallville) »COMMENT GET MUSIC
LAWRENCE主宰、[Smallville]新作は、サンセット・ムード満載の、メロウ・ディープ・テック・コンピレーション12インチ!MR.FINGERSファンから、インテリジェンス・テクノ好きの方まで、オススメです! 往年のSTASISやB12辺りを彷彿とさせる、ピュアでエモーショナルな、アーリー・デトロイト・インフルエンス・トラックのC-BEAMS、ぼんやりと浮かぶ淡いコード・シンセと、柔らかいハウス・グルーヴがマッチしたCHRISTOPHER RAU、繊細なウワ音の響きが心地良い、ウォーミーなテック・チューンのBENJAMIN BRUNN、清涼感に満ちた空間処理が素晴らしいSMALLPEOPLE & RAUの4トラックを収録!

9

V.A

V.A Psychedlic Pernambuco (Mr. Bongo) »COMMENT GET MUSIC
またもや[Mr.Bongo]、本当に良い仕事をしてくれました!!今回は数年前の奇跡のアルバム再発も大きな話題を集めたLULA CORTESらを擁する、ブラジル北東部"レシーフェ"を中心とするムーブメント「サイケデリック・シーン」をリードしてきた、現地の伝説的レーベル[Rozenblit]に残される、サイケデリック縲怎tォーク縲怎Aシッド・ロックな名音源を全19トラック収録した、素晴らしすぎる内容のブラジリアン・コンピ・アルバム! 前述のLULA CORTESはもちろん、こちらも以前US[Time-Lag]からアルバムがリィーシューされていたMARCONI NOTARO、ミナス方面の方からも人気のフォーキーコンビ GERALDO AZEVEDO & ALcEU VALENcAらの作品を中心に収録。もし原盤で全てを揃えようと思うモンなら、余裕で「ン?十万」行くことは間違いありませんので、ブラジル方面のファンの方はとりあえずコレを押さえておいて何ら問題ないと思います!

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GLOBAL COMMUNICATION

GLOBAL COMMUNICATION Back In The Box (Mix) (Nrk) »COMMENT GET MUSIC
2011年度 No.1ミックスCDとの呼び声が高い、テクノの歴史を知る為の資料としての価値もある2枚組! UKの名門レーベル[Nrk]が誇る"BACK TO THE 90'S"なミックスCDシリーズ「Back In The Box」の新作は、90年代初頭から活動する大ベテラン、テクノ/アンビエント史に燦然と輝く名盤「76:14」でも知られるTOM MIDDLETONとMARK PRITCHARDによるユニット・GLOBAL COMMUNICATIONが登場!とにかく収録曲の内容が濃いんです!DEERICK MAY、JUAN ATKINS、CARL CRAIGといった、パイオニア達のレア・トラックはもちろん、その初期デトロイト・テクノ影響下にて、一時代を作ったBARIL(exBLACK DOG/PLAID)、STASIS、AS ONE (KIRK DEGIORGIO)などの、インテリジェンス・テクノ勢の、今ではお目にかかることすら難しい貴重な音源が、フルに詰まった、テクノの歴史を知る為の資料としての価値もある、最高の2枚組!

少年ナイフ - ele-king

 少年ナイフには"Ramones Forever"という曲がある。2007年のアルバム『fun! fun! fun!』に収録された曲で、モーターヘッドの"R.A.M.O.N.E.S."と並んでグっとくる名曲である。個人的には聴くたびに泣く。この原稿を書くためにさっき聞き直したが、やはりちょっと泣きそうになった。ある日ラジオでラモーンズの曲を聴いて次の日にレコードを買いに行く。そしてギターを買ってバンドをはじめたパンク・ロック少女がやがてラモーンズのオープニング・アクトをつとめることになる......というストーリーが歌われている。少年ナイフのリーダーであるなおこさんの体験がもとになっていると言っていい内容の曲だ。
 本作『大阪ラモーンズ』はタイトルどおり、全曲ラモーンズのカヴァー・アルバムである。革ジャンにジーンズという姿でレンガ壁の前に立ったモノクロのジャケも雰囲気が出ている。リリースの経緯、ラモーンズとの交流などはオフィシャルサイトに詳しく書かれているので参照されたし。

 ラモーンズといえば、数多のメジャー・アーティストを集めた『ウィー・アー・ハッピー・ファミリー』というトリビュート・アルバムが2003年にリリースされている。マリリン・マンソンによるダウンテンポで陰鬱なアレンジの"KKK"のようにひねりを効かせたものもあれば、オフスプリングによる"アイ・ウォナ・ビー・シディテッド"のようなストレートなものある。振り幅はさまざまだったけれども(ちょっと速くしたメロコア・カヴァーみたいなのがいちばんつまんないと思う)、「大阪ラモーンズ」の場合はほとんどひねりを加えずシンプルに演奏されている。ラモーンズの場合は意外とコードの弾き方ひとつをとっても曲によって細かく変えていたりするのだが、そこまで厳密にコピーしているわけでもない。そのあたりの大らかさもナイフらしい。

 "電撃バップ"ではじまり"ピンヘッド"で終わる全13曲、基本的には代表曲が中心だけれども、あまり取り上げられる機会のない曲もある。なかでも『ロード・トゥ・ルイン』収録の"She's The One"なんかはあまり知られていない曲だが、とてもナイフに似合っている。ラモーンズの曲としては少々異色の部類に入る"ウィ・ウォント・エアウェイヴズ"は原曲以上にヘヴィな演奏だ。そういえば"電撃バップ"と並んでラモーンズの代表曲である"ロックンロール・レディオ"はやっていないが、何か意図があるのだろうか。先述のKISS以外にも、日本でも原爆オナニーズやK.G.G.M.など多くの名カヴァーが存在するだけに「いまさらやらなくていいか」というくらいのノリなんだろうとは思うが......。
 結成30周年を迎えたバンドのこのリリースについて「原点回帰」という表現をよく見かける。が、そもそもおそらく少年ナイフは「原点」を忘れたことはない。その時々で新しい音楽を吸収することはあっても、根っこにはつねにラモーンズやバズコッコスといった音楽がある。それはラモーンズの音楽にはつねに50年代のガール・グループやビーチ・ボーイズがあるのと同じことだ。ティーンのときに影響を受けた音楽をずっと大事にするということも少年ナイフがラモーンズから受け継いだことのひとつだ。もうひとつ、ラモーンズから受け継いだもっとも大きい要素は、シンプルで人懐っこく、とぼけたユーモアがあるところだろう。

 ラモーンズは結成22年にして解散した後、主要メンバーのジョーイやジョニーが燃え尽きたかのように次々とこの世を去った。ドキュメンタリー映画『エンド・オブ・ザ・センチュリー』を観るとメンバー間の確執や長年のツアー生活の疲れなど、想像以上にストレスフルなキャリアだったことがうかがえる。しかし、少年ナイフにそれは感じない。結成30周年を迎えながらその瑞々しさはまったく失われる気配がないのだ。イースタン・ユースの吉野寿はかつて少年ナイフについて「あの佇まいに憧れる」「あんなふうにまっすぐにロックと向き合えたらなあ」といった発言をしているが、おそらくそれは誰にでもできることであり、しかしやはり誰にでもできることではないのだ。

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