「K A R Y Y N」と一致するもの

MITSUKI (MOLE MUSIC) - ele-king

「不変推、推増即正」

注目のD.A.N.“夏の終わりの”新曲配信 - ele-king

 あまりにみずみずしく、また、あまりに堂々たるインディ・ロック──「ジャパニーズミニマルメロウ」を掲げる若き3ピース・ユニット、D.A.N.のデビューEP『EP』がすばらしい。リリース・パーティを10月に控え、さらなる活躍に期待が高まる中、新曲1曲が配信限定で発表されるとの報が寄せられた。
 「夏の終わり」に合わせた曲だということだが、長雨が野分の風とともに暑気を振り払ったかと思えば、ふたたび夏の名残りが戻ってきそうな予感のこの頃、9月の終わりをもってようやく、わたしたちはこの曲とともに夏を惜しめるかもしれない。

フジロックのルーキーステージにも出演、いまだセールスが伸び続けている全員まだ21歳の3人組D.A.N.ですが、夏の終わりに合わせ新曲を1曲、配信限定で9月30日にリリースします。
デビューepとはまた一味違う、D.A.N.の新たなセンスが伺えるとてもポップな楽曲です。
都会の夜に合うアーバンな世界を持ち、かつバレアリックなチル効果もあり、涼しくなったまさに今この季節に聴いてほしい最高に気持ちのいい1曲です!
今作は最近ライブでもサポートしてくれている、トロピカルなマルチミュージシャン"小林うてな"嬢がシンセとスティールパンで参加しています。
また、REC&MIXエンジニアは前作に続き、葛西敏彦さんが手掛けています!間違いありません!
そして、この新曲のリリースに伴い、デビューep『ep』と併せた形でリリースパーティーを開催します。
10/19、場所は渋谷WWW、ゲストアクトに、U-zhaan × mabanua、submerseという強力なメンツが揃いました。

■リリース情報

D.A.N.
digital single『POOL』

発売日:2015.09.30(wed)
価格:¥250
発売元:SSWB / BAYON PRODUCTION

itunes
https://itunes.apple.com/jp/album/ep/id1004255038

D.A.N.
桜木大悟 (Gt,Vo,Syn)
市川仁也 (Ba)
川上輝 (Dr)

Guest Player
Utena Kobayashi (Syn,Steelpan)

Engineer
Toshihiko Kasai

○Message
誰にでも大切な記憶の「プール」がある。
その記憶の貯水池が「溢れる」瞬間を見つめた、新曲「POOL」。
夏の終わりの虚無感とともに訪れる記憶の走馬灯。
瑞々しい記憶や切ない記憶、すべての記憶が絡み合い溢れ出して、頭の中を心地よく漂っていく。

誰にでもある大切な記憶の「プール」。
当たり前のように 側にあるひと時、
宝物のような 幸せなひと時、
胸を擦り剥いて 眠れないひと時、
目を見れない 恥ずかしいひと時
その一枚、一枚の記憶の断片が折り重なる広大な貯水池。

いつの間にか化粧された記憶ばかりが溢れていき、胸がいっぱいになる。
ありのままの自分を探し求めてその「プール」を泳ぎ続ける。
きっと愉快でしあわせな桃色の記憶だってあるはずだから。
私たちはそんな記憶の「プール」を泳ぐ生きものだ。

D.A.N.

■イヴェント情報

D.A.N. release party "POOL"

2015.10.19 (mon)
at 渋谷WWW

ACT
D.A.N.
U-zhaan × mabanua
submerse

開場19:00 / 開演19:30
前売¥2,800 / 当日¥3,300(ドリンク代別)

問い合せ:WWW 03-5458-7685

チケット
一般発売:9/12(土)
チケットぴあ【P:276-621】/ ローソンチケット【L:76011】 / e+ / WWW・シネマライズ店頭

○D.A.N.
2014年8月に、桜木大悟(Gt,Vo,Syn)、市川仁也(Ba)、川上輝(Dr)の3人で活動開始。様々なアーティストの音楽に対する姿勢や洗練されたサウンドを吸収しようと邁進し、
いつの時代でも聴ける、ジャパニーズ・ミニマル・メロウをクラブサウンドで追求したニュージェネレーション。
2014年9月に自主制作の音源である、CDと手製のZINEを組み合わせた『D.A.N. ZINE』を100枚限定で発売し既に完売。
6月11日に開催の渋谷WWW企画『NEWWW』でVJ映像も取り入れたアート性の高いパフォーマンスで称賛を浴びる。
そして、トクマルシューゴ、蓮沼執太、森は生きているなどのエンジニアを務める葛西敏彦を迎え制作された、
デビューe.p『EP』を7月8日にリリース。7月にはFUJI ROCK FESTIVAL '15《Rookie A Go Go》に出演。

○U-zhaan × mabanua (ユザーン・バイ・マバヌア)
タブラ奏者 U-zhaanとドラマーmabanuaによるプロジェクト。
レイ・ハラカミ氏の「ユザーンがmabanuaくんとやるのをちょっと観てみたいなー、おれ」という軽い勧めにより結成。
音源リリースは未だないにも関わらず、UNIQLO CMへの楽曲提供や、FUJI ROCK、KAIKOO、りんご音楽祭など全国のフェスにも多数出演。

U-zhaan
ザキール・フセイン、オニンド・チャタルジーの両氏にタブラを師事。yanokami、UA、HIFANA、七尾旅人、SUPER CAR、
大橋トリオ、小室哲哉など多くのアーティストの作品にタブラ奏者として参加している。
憧れのミュージシャンはレイ・ハラカミ。1stアルバム『Tabla Rock Mountain』が発売中。
https://u-zhaan.com/

○mabanua
ドラマー、ビートメーカー、シンガー。Chara、くるり、大橋トリオ、DJ BAKU、COMA-CHI、TWIGY、Eshe、Chet Fakerなどの作品のプロデューサー、
ドラマー、リミキサーとしても活動。またGoogle、キユーピー、UNITED ARROWSなど数々のCM音楽の制作や、
フジテレビ系アニメ「坂道のアポロン」「スペース☆ダンディ」への楽曲提供など、あらゆるシーンで奮闘中。
https://mabanua.com/

○submerse
イギリス出身のsubmerseは超個人的な影響を独自のセンスで 消化し、 ビートミュージック、ヒップホップ、
エレクトロニカを縦横無尽 に横断するユニークなスタイルを持つ DJ/ビートメーカーとして知られている。
SonarSound Tokyo2013、Boiler Room、Low End Theoryなど国内外の人気パーティーに数多く出演。
また、Pitchfork、FACT Magazine、XLR8R、BBC といった影響力のあるメディアから高い評価を受ける。
昨年ファーストアルバ ム『Slow Waves』を、今春最新EP 『Stay Home』を flau/Project Mooncircleよりリリース、ロングセラーを続けている。
https://soundcloud.com/flaurecords/sets/submerse-stay-home
https://soundcloud.com/submerse/slow-waves


無為こそ過激 - ele-king

俺のラップはファッションではない、パッション
怒り 絶望 喜び 希望 色んなそん時がつまってんだ まだ科学じゃ解明できない
一瞬の爆発を秘めている 目にできないから絵にもできない その時その場所じゃなきゃ分からねぇ……──ギンギラギン

 いちばん最後に見たTAMUくんのラップは方南通り裏のスナックでカラオケマイク持ちだしたとき、ではなくて、他のメンバーも来てタクシーで池袋〈BED〉に向かいMONJUが出演する前にマイクを持ち出してフリースタイルをキメだしたやつだったかな、あの時はバッチリキマってたなぁ。いやちがうな、二木くんが高円寺でDJしてるってのを聞いてちょうど卓球BARで飲んでたんで遊びに行ったらマイクを持ち出してフリースタイルはじめた時だな、その時はあんまりキマってなかったなぁ……

 飲んだときの会話で引っ掛かってるのが「自分が描いてきた作品を個展として見せてみたい、その後はぜ~んぶ売ってしまいたい」って言ってたことだったけど、そのパッションという言霊は今週末に結実するんだな。

 あんとき聴いとけばよかったなぁ、見とけばよかったなぁ、ってことになる前に。
 さよならだけが人生だ……

■TAMU 個展 「anmaorenikamauna」xREFUGEE MARKET
2015 9/12(sat)~9/13(sun)
Open15:00~Close22:00
@Time Out cafe & Diner[LIQUIDROOM 2F]
Adv 1000円/1D

〈DJ's〉
PUNPEE
16flip
YODEL
WATTER
CHANGYUU
COTTONDOPE
K.K.K.K.K.
qroix
slowcurv
babysitter
illcommunication

and more

<VJ>
VIDEOBOUILLON www.videobouillon.com


THE BELIEVABLE MEDIA IS AROUND US

DownNorthCamp 1st ALBUM REC初日、皆が新しいリリックをキックする。
あいつだったらどんなラップを乗せるのだろう。

「言いたいこと好きなだけ言えるよ。
まだまだまだまだ…」
TAMUのリリックが頭をよぎる。

描き溜められた作品達に込められた残りの「言いたいこと」を今放出することで、
CPF×DNCのプロジェクトに全員参加した形になればと思い、個展を開催します。

由来となったanmaorenikamauna@docomo.ne.jpは、現在使われておりません!

問い合わせ先:
Dogear Records
Time Out Cafe & Diner 03-5774-0440
LIQUIDROOM 03-5464-0800

https://www.timeoutcafe.jp/news/150912000887.html


第33回:パンと薔薇。と党首選 - ele-king

 それはある晴れた夏の日のことだった。
 鬱気質であまり明るい人間ではない筈のうちの連合いが、爽やかな笑顔を浮かべてロンドンから帰って来た。癌の検査で病院に行って来た男が、また何が嬉しくてこんな陽気な顔で帰ってきたのだろうと訝っていると、彼は言った。
 「ロンドンがいい感じだったよ」
 「いい感じって?何処が?」
 「いや全体的に」
 と言って口元を緩ませている。
 「なんか、昔のロンドンみたいだ。俺が育った頃の、昔のワーキングクラスのコミュニティーっつうか、そういう息吹があった」
 相変わらずわかりづらい抽象的なことしか言わないので、具体的にどんな事象が発生したのでその「息吹」とやらを知覚したのかと問いただしてみると、こういうことだった。

 自分が行くべき病院の場所を知らなかった連合いは、ヴィクトリア駅前のバスターミナルに立っていた。おぼろげにこっち方面のバスだろうなあ、と思いながらバス停のひとつに立っていたおばちゃんに「○○病院に行きたいのですが」と話しかけると、「ああ、それならこのバス停だよ。○番のバスに乗って、11番目、いや待てよ、12番目かな、のバス停、左側に大きなガソリンスタンドと貸倉庫が見えて来るから、それをちょっと過ぎたところでバスを降りて、道路を渡ったら煙草屋があるから、そこの角を右に曲がって100メートルぐらい歩いたら云々」とやたら詳しく説明をはじめ、「ああ、でも、アタシそのバスでも家に帰れるから、一緒に乗って、あなたがバスを降りる時にまた教えてあげる」と言ったそうだ。それを聞いた連合いは感心し、「いやあ、今どき、こういうローカルな知識のある人にロンドンで会えるなんて新鮮です。今の世の中はソーシャル・ディヴァイドが進んで、気安く人に話しかけれらない」と言うとおばちゃんは言ったそうだ。
 「いや、ロンドンは変わるんだ。昔のようなコミュニティ・スピリットが戻って来るんだよ」
 おばちゃんはそう胸を張り、
 「あなた、ジェレミー・コービンって知ってる?」
 と唐突に言ったらしい。
 「ああ。すごい人気ですよね」
 「彼はもう30年もイズリントンの議員だった人だよ。ロンドンっていうとすぐウエストミンスター政治って言われるけど、ロンドンのストリートを代表する政治家だっているんだ」
 バスに乗り込んでもおばちゃんは連合いの隣に座ってコービン話を続けたそうだ。
 「俺はジェレミー・コービンの言うことは全て正しいと思うけど、それと政党政治とはまた別物だから……」
 と連合いが言うと、後ろの席に座っていた学生らしい若い黒人女性が
 「私、実はジェレミーを支持するために労働党に入りました」
 と言い、脇の折り畳み式シートに座っていた白髪の爺さんも
 「ゴー、ジェレミー」
 とこっそり親指を立てていたそうだ。
 「ひょっとしてこれはコービン・ファンクラブのバスか何かですか?」
と連合いが言うと、乗客たちがどっと大笑い。みたいなたいへん和やかな光景が展開され、病院近くのバス停で降りるときにはおばちゃんがまた懇切丁寧に病院までの道筋を教えてくれ、病院に着いてからも心なしか受付のお姉ちゃんも看護師もみんな気さくで親切で、ロンドンがきらきらしていたというのだ。
 「それ、天気がよかったからじゃないの?」(実際、天気がいいと英国の人々は明るい)
 とわたしは流しておいたが、ロンドンであんなポジティヴなヴァイブを感じたのは数十年ぶりのことだと連合いは力説していた。

 それが日本に発つ前日のことで、2週間帰省して英国に帰って来てみれば、SKYニュースの世論調査で党首選でのコービン支持が80.7%などという凄い数字になっていた。
 今年の総選挙で英国の世論調査がどれほどあてにならないかということが露呈されたとはいえ、さすがにこれでコービンが労働党の党首に選ばれなかったら裏でトニー・ブレアたちが何かやってるだろう。

 しかし、たったひとりの政治家がストリートのムードまで変えてしまうというのはどういうことなのだろう。

 わたしも日本語のネットの世界ではけっこう早くからコービン推しをしてきたひとりだと思っているが、正直なところ、「どうせ彼が勝つわけがない」という前提はあった。
 ここら辺の気もちは、立候補当初から彼を全力で支援してきた左派ライター、オーウェン・ジョーンズも明かしているところで、彼も「3位で終わるだろうと思っていた」と書いている。しかも、コービンの立候補を知った時の最初のリアクションは「心配だった」と表現している。彼のいかにも政治家らしくないキャラクターが、「反エスタブリッシュメント」のシンボルとしていろいろな人々に利用されはしないかと思ったという。
 オーウェンとコービンは10年来の友人だ。いわゆる「レフトがいかにも行きそうなデモや集会」でしょっちゅう会っていたからだ。拙著『ザ・レフト』にも書いたところだが、「草の根の左派の運動をひとつにまとめてピープルの政治を」というのは、ここ数年、英国でずっと言われて来たことだ。が、オーウェンは「まだ自分たちにはその準備ができていない」と思っていたという。それがコービンの党首選出馬によって数週間のうちに現実になって行くのを見ると、左派にとっては「嬉しい誤算」というより、「へっ?」みたいな戸惑いと怖れがあったのだ。

 ビリー・ブラッグもその複雑なところをFacebookに吐露している。
「労働党の党首選には首を突っ込まないつもりだった。党員ではなく、支持者として見守るつもりだった。党内の人びとに決定させ、自分はその結果を見て労働党を支持するかどうか決めようと思っていた。コービンが立候補した後でさえ、気持ちは変わらなかった……(中略)……だが、僕の気が変わったのは、トニー・ブレアが『自分のハートはコービンと共にある、などと言う人はハート(心臓)の移植手術を受けろ』と言った時だった。僕は労働党にハートのない政党にはなって欲しくない」

           *******

 月曜日にBBC1の「パノラマ」というゴールデンアワー放送のドキュメンタリー番組で、ジェレミー・コービンの台頭について特集していた。今週の土曜日に党首が発表されるというのに、そこまでやるかというぐらいにアンチ・コービンな内容の番組だった。
 BBCは労働党のブレア派と繋がりが深いとは言え、またこれは露骨な。と驚いたが、メディアがこうした報道をやればやるほどコービン人気はうなぎ上りに盛り上がる。

 英国民を舐めちゃいかん。
 ここは昔パンク・ムーヴメントが起きた国だ。
 「それはダメ」「それだけは絶対にいけない」と言われると、無性にそれがやりたくなるのである。

           *******

 コービンに関する不安は、わたしもずっと継続して持っている。
 過去20年間UKに住んで、これだけ大騒ぎされ、まるで新興宗教の教祖のようにもてはやされている政治家を見たのは、トニー・ブレア以来だ。ブレアはあの通りギラギラとエゴが強力で、もともとロックスターを目指していた人だから、ほんとに教祖になったつもりでパワーをエンジョイできた。が、コービンのような「我」のない普通の人がいきなり国中のピープルから教祖にされたら悲劇的に崩壊しそうな気がするからだ。

 けれどもコービンについて熱く語る若い人たちや地べたの労働者たちを見ていると、ここに至る流れは確かにあったと、それを止めることはできなかったと思わずにはいられない。
 例えば昨年は『パレードへようこそ』という映画の思わぬ大ヒットがあり、英国では北から南まで国中の映画館で観客がエンドロールで立ち上がって拍手していたそうだが、あの映画でもっとも印象的なのはストライキ中の炭鉱の女性たちが有名なプロテストソング「パンと薔薇」を歌うシーンだ。


 私たちは行進する 行進する
 美しい昼間の街を
 100万の煤けた台所が
 数千の屋根裏の灰色の製粉部屋が
 きらきらと輝き始める
 突然の日の光に照らされて
 人々が聞くのは私たちの歌
 「パンと薔薇を パンと薔薇を」

 私たちは行進する 行進する
 私たちは男たちのためにも戦う
 彼らは女たちの子供だから
 私たちは今日も彼らの世話をする
 暮らしは楽じゃない 生まれた時から幕が下りる時まで
 体と同じように 心だって飢える
 私たちにパンだけじゃなく 薔薇もください   
               “Bread and Roses”


 ネットに投稿されている誰かが描いたコービンのイラストに、彼が胸に一輪の薔薇をつけている画像がある。(今ではそんなこたあ誰も覚えてないように見えるが)英国労働党のシンボルも実は一輪の赤い薔薇だ。昨日と今日にかけて、わたしは11人の英国人に「薔薇って何のこと?」と尋ねた。ひとりは「愛」だと言った。もうひとりは「モラル」だと言った。そして残りの9人は「尊厳」だと言った。

 日本で左派が「お花畑」と呼ばれることがあるのはじつに言葉の妙というか面白いが、パンが手に入りにくくなる苦しい時代ほど、人間は薔薇のことを思い出す。

 今週末、英国でついにその薔薇が再び咲くかもしれない。
 長いこと人気のない温室でしか咲かなかったその薔薇が、風雪にさらされる場所に咲いても大丈夫なのか、どうすればわたしたちはそれを枯らさずにいられるのか、これからが本物の正念場だ。

interview with SEALDs - ele-king

 デモで政治を変えられるか? 橋下某に言われなくたって、そんなの無理だと分かっている。だけどデモに変えられるものはたしかにある。それは人びとの、つまり「主権者」の考えや心だ。そして、つまるところそれだけが民主主義を護っていく。
 イラク反戦デモをやっていた時、日本のデモはしょぼかった。警察がデモ隊の隊列を250人ずつに分けさせるのでしょぼく見えたということもあったけど、全体の人数だって欧州の都市に比べたら全然少なかった。それでも、世界のどこかでもっと巨大なデモが起きていることが遠い国の私の勇気にもなった。そういう効用がデモにはある。ので、私はなるべくデモの「アタマ数」になろうと思ったのだった。
 「シーズルのデモは新しい」と言われる。この15年くらいだけど、アタマ数になって来た私から見れば、いつのデモだって新しかった。やってる人たちだって若くなっていってた。「左翼は互いの違いについて語り合うばかりで、ひとつにユナイトしないから勢力を失い、世の中を変えることが出来なくなった」(ブレイディみかこ『ザ・レフト』)──これは英国の映画監督ケン・ローチの言葉だと言うが、日本でもまったく同じだ。いつだって新しいデモがでてくるたびに、なんだかんだと“苦言”が登場するんだ。
 SEALDsは「見せ方」にものすごく拘っている。広告代理店みたい? いや、こう見えてもいままでのデモだってそういうこと考えてはいたんだ。だから「画期的!」と思えるのは、そういうところでもなくて、名前でも素顔でも露出しまくる彼らの“素”が琴線に触れることではないかと私には思える。デモは政治でもあり、ポップ・カルチャーでもある。その効力は緩やかだが、デモのない社会の民主主義は衰えていくばかりだ。
 92年生まれの奥田愛基、牛田悦正、小林卓哉、95年生まれの植田千晶に聞いた。国会はもう最後の攻防、強行採決はまもなくだろう。そのことも含め、デモについて、安保法制について。
 大学生の彼らの、高校生のデモ参加者への視線が、大人たちのSEALDsへの視線と重なり、温かく緩やかな「ユナイト」の兆しに思えた。

僕自身が得たものは……安保法制にやたら詳しくなった(笑)。日本国憲法も全部ちゃんと読んだことなかった気もするし、安保法制に関しても、なんのこと話してるんだろうと思っていたことが、いまは国会を聞きながら「あー、ここは質問しないんだ」「(この議論は)ここで終わっちゃうんだ」ということが分かるようになった。ということは、だいぶ詳しくなったということじゃないかと思います。──奥田

──まず、この間、安保法制反対のデモンストレーションをして来て、個人的に得たものと、この社会が得たと思えるものについて、それぞれの考えを聞かせて欲しいんです。

奥田愛基:得たものかー。失くしたものだったらいっぱいあるんだけど(笑)。時間とか……。

──それは次の機会にぜひ(笑)。

牛田悦正:僕は哲学の研究者になりたいんですけど、なにかを研究する時は観察者視点で上からものを見てでやることになるんです。でも運動に参加して、行為者になって、“よく分からなさ”というか、“先が見えない中で動く”という視点を獲得したというか……。なんかギャンブルなんですよね。上から観察するのは分かりやすい、“分かる”ためのことなんですが、実際にプレイヤーとして、行為者になって率先してやる時には先が見えないし、よく分からない。でも分からない中で、「それが原因なの?」みたいなことが原因となって社会が動いていく。ということを学んだと言うか……抽象的なんですが。
 どうです? (奥田に向かって)助けてくれ。

奥田:あと社会が何を得たか。

牛田:あ、社会が何を得たかっていうと、やっぱり自分が主体になるということ。当事者になって動こうという人が増えて来たことは社会的にとても良いと思っています。

──当事者として動く、ということはいままでは実感としてなかったということですか?

牛田:いや、それまでも実感としてはあったんですけど、思想の流れと言うか、日本社会全体の気持ちのあり方としては、人びとが上から目線でものを見て、たとえば「しばき隊とレイシストがいる、それぞれの正義がある」というようなものの見方から、そうじゃなくて自分が当事者であるという、地に足がついた感じですね。

奥田:以前は、コレクティヴ(集団的)に動くということには抵抗があったんですね、みんな。客観的な事実がないとダメだというような。

牛田:僕なんか、最初のデモの前日のミーティングでは最悪だったもんね。「なんだお前ら、デモやんの?」みたいな感じで。「その前にまず勉強とかした方がいいよ」なんて言ってた。

奥田:そうそう。それを「まあまあ」って。

牛田:やってみて、デモ、大事だなって(笑)。僕の政治哲学観が出来たっていうか。政治と哲学とは別のもの、つまり哲学というのは判断しないんですよ。本当にこれが正しい、全部完璧に正しいとなるまで判断しない、とにかく考える。で、悩む。でも政治っていうのは、確実に間違う。なにかに賭けてみる、決断をする瞬間のことを、僕は政治って考えていて、観察者としてじっくり考えることと、ある局面では選択する──そのふたつを行き来するということを、最近カール・シュミットとかを読んで思ったことです。

奥田:僕自身が得たものは……安保法制にやたら詳しくなった(笑)。日本国憲法も全部ちゃんと読んだことなかった気もするし、安保法制に関しても、なんのこと話してるんだろうと思っていたことが、いまは国会を聞きながら「あー、ここは質問しないんだ」「(この議論は)ここで終わっちゃうんだ」ということが分かるようになった。ということは、だいぶ詳しくなったということじゃないかと思います。
 あと、高校生を含めて、(政府や法案について)「立憲主義を分かっていない」とか「憲法違反だ」とか語り始めた。立憲主義のシステムをちゃんと理解できる人が世界中にどのくらいいるのか分からないですけど、いま日本では、憲法と権力者の関係性みたいなことがこれだけ連日ニュースで流れている。──それでも安保法制は必要だという人もいるけれど、でも、なんで憲法違反なのか、なんで憲法違反だとダメなのかということを意識したことはなかったんじゃないかと。立憲主義という言葉の意味が分かる人が、この数ヶ月ですごく増えたと思うんです。
 なんでそう思うかと言うと、礒崎さんっていう内閣補佐官がTwitterでつぶやいたんですが、立憲主義という言葉を知らなかったんですよ。東大法学部を出た人が立憲主義を知らなかった。「法の支配という言葉は分かりますが、立憲主義は…」って。つまりその人は法律と憲法の違いが分からないんですよ。そういう人が、この政府を含めて多かった。野党の人だって、これまで「立憲主義」という言葉をこんなに使ったことなかったんじゃないかと思うんで、そういうことも社会が得たことの一つかな。
 単純に怒る、声を上げることが良くなったということもあるけど、一方で牛田くんが問題としている「客観的な事実だけじゃダメなんだ」ということ。個別的な怒りから、客観的な、普遍的な知識まで手に入れつつあるんじゃないかな。民主主義についても「民主主義は数じゃないんだ」ということをTVで一般的に言える。以前、国会議事堂の駅を上がって行くと、「みんなで決めたことはたいてい正しい」という広告があったんだけど、「選挙に行けばいいじゃん、お前たち」という意見がバカっぽく見えて来ちゃった。それまでは「選挙に行けばいい」と言われると、「ああ、なんて真っ当なんだ」という感じだったけど。普通にTV見てても、そういうことに「選挙だけじゃなくて、こういうの(デモ)も大事ですよね」って言い返してくれる人がけっこういる。しかもお昼の情報番組で。これにはすごくびっくりしました。夢みたい。ほんとは当たり前のことなんですけどね。

──それを言わせるだけのものを見せ続けたということでしょう。

牛田:「僕が得たもの」でさっき言えなかったこととつながるんですが、学者とか「エラい」って言われてた人たちも実はたいしたことないんじゃね?ってことが分かって来た。

奥田:おぉぉぉー。 やばそ。

牛田:ほんと、そうなんですよ。学者が言ってることよりも、Twitterでごちゃごちゃ言ってる人の方が正しいことがいっぱいあるんですよ。僕はもう、反知性主義ですから(笑)。

2010年くらいには、みんな脱原発デモに一度は行ったことあって、だけど若い人が溜る場所はなかった。──奥田

そうです。そういう場所がないから紛れちゃう。それはそれでいろんな話を聞けて楽しかったんですけど。──植田

──植田さんはどうですか? ところで植田さんは何歳なんですか?

植田千晶:19です。高3の終わりくらいからデモにいくようになって、友だちが増えました(笑)。それまで、たとえば「秘密保護法って言うヤバいやつがあるんだよ」って友だちに言う時、なにも言えなかった。説明がヘタなんです。いまは一緒にやってる同年代の仲間がいるというのはすごく大きなことです。私は写真を撮ってるんですが、初めて行った脱原発のデモでは撮ってても緊張してた。年代が上の人ばっかりだから、友だちになってもずっと敬語を話してる。可愛がってはくれるんですけど、本当の意味で“楽しむ”というのとは違った。(特定秘密保護法反対の)SASPLのデモで抗議やってて、初めて“楽しいな”って思ったんです。それまでは抗議しても、いつも「法案通っちゃった」「原発再稼働しちゃった」「悔しい」という感情が大きかったけど、初めてポジティヴな気持ちで出来たんです。それが自分にとっては、成功体験……まだ「止めたぞ」という意味では成功していないけど、自分にとっては……大人の人がやってるものに参加させてもらってる感じだったのが、自分たちでやるということで得たものです。

奥田:2010年くらいには、みんな脱原発デモに一度は行ったことあって、だけど若い人が溜る場所はなかった。

植田:そうです。そういう場所がないから紛れちゃう。それはそれでいろんな話を聞けて楽しかったんですけど。
 あと、いまSEALDsで本を作っているんですが、普通に大学だけ行ってたらやらないだろうなということができて、それも楽しい。面白い経験をしてるなって。デザインもやってて、そういう勉強ができる学校みたいなところです。牛田くんに面白い本を教えてもらったり、そういう“知の給食おばさん”みたいな人がいっぱいいる。
 社会に関しては、以前、下北沢のライヴで出会った女の子と連絡先を交換してたんですね。こないだTBSかテレビ朝日の報道番組で私のインタヴューが使われたみたいで、その子がそれを見たって半年ぶりに連絡をくれた。その子が言うには、そういう政治的なことって(自分とは)無関係なことだと思ってたけど、千晶ちゃんがインタヴューで話してたことを聞いて、全然無関係じゃないと思ったんだと言ってくれた。自分の友だちが言ってるとリアリティーが増すということってあるじゃないですか。私の世界、社会にとってはそういう変化がありました。

──なるほど。小林くんはどうですか?

小林卓哉:自分の日常と路上に出る行為のバランスの取り方っていうか、自分たちはこの安保法制を“本当に止める”ということでやってるんですけど、仮にこの法案が止まっても止まらなくても、日本に生きてる限り、問題はたくさんある。たとえば奨学金だったり、あるいは原発だったり。そういう問題があった時に、フットワークを軽くしとくっていうか、自分の日常がいくら忙しくても、サッと、たとえば国会前に出て来られる、そういうフットワークの軽さが身に付いたと思います。
 初めてデモに行ったのは2011年の9月11日、脱原発のアルタ前のデモで、特定秘密保護法の時のSASPLのデモには、牛田に誘われて行ったんです。学生がやるって言うからどんなものかと思って……。サウンドカーって最初に見るとびっくりするじゃないですか。機材もすごくて。これを学生が手配したんだって、この人たちの行動力に感心しちゃった。すごい人たちがいるな、デカい音が出てるぞって(笑)。

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国会前に来てる人で絶望してる人はいないと思うんですよ。だってあんだけ、若い人たちが国会前にいて、当事者として、主権者として、この社会を見直そうとしてるんでしょ。もう希望しかねえじゃん、って俺は思ってる。──牛田

──そもそもこの法案に反対するいちばんのポイントはどこですか? それぞれの思うところを聞かせて。

小林:憲法違反なところがいちばんのポイントですね。権力というのはモンスターみたいなもので、手放しにしとくと暴走するんですよね。で、その権力の一個上にある法が憲法なわけですけど、これを権力がないがしろにするということはどういうことなんだと。政府に「憲法守れ」なんて言わなきゃいけない状態がすごく悲しいですね。

植田:今年の4月くらいにアベちゃんがアメリカに行って来たじゃないですか。その時に──いや、その前があったかもしれない問題(自衛隊幕僚長と米軍幹部の会談問題)がいま出て来てますけど──「夏までには決めてきますんで」って勝手に約束してきたことに、ほんっとにマジかちんと来ました。「勝手に決めるな!」って。

牛田:今の二人の話はそれぞれのシュプレヒコールに反映されてるんです。小林は「憲法守れ!」って言ってて、アチキちゃんは「勝手に決めるな!」って言ってる。これが二つのダメなところで、一つはプロセス。法案の通し方自体が民主的じゃない。それから法案の中身も立憲主義的じゃない。過程だけじゃなく中身も違憲でダブルにダメなんですよ。
 だから何がダメ?って聞かれても、全部ダメって言うしかないんですけど、それが最大の問題です。それからたとえば「中国の脅威」とか、安全保障の政策としてもおかしいってことを、これから奥田くんが言います。

奥田:(笑)コバタクが言ってるのは、国家権力というのは暴力装置で、暴力を唯一使えてコントロール出来る機関なんですよね。だから警察の存在を否定する人はいない。自衛隊はグレイだけど、でもたとえば北朝鮮が攻めて来た時にも発砲しちゃいけないと思ってる人もいないんですよ。ただし、その(今回の法整備によって)ストッパーが無くなることは、ただ単に“武力行使出来るようになる”ことよりもヤバいこと起こってくると思うんです。つまり憲法の歯止めがないままに一内閣が決定しちゃうことでどんな戦争にも参加できてしまう。武力行使に関して、いつ出来るか、どういうふうに使うかということを、ぶっちゃけ内閣に一任しちゃうという状況は、「国家が集団的自衛権を使えるとか武力行使を出来る」ということよりとは次元が違うおかしさだと思う。
 安全保障上の議論で言っても、たとえば今回、兵站=後方支援の活動をするということですけど、後方支援の活動と言ったら、国際法上、武力行使と一体なわけなんですね。“武力行使と一体”ということは、即ち憲法九条に反しているんです。しかも兵站活動は戦場ではいちばん狙われる。兵站を叩いて最前線をすっからかんにするというのが戦場のセオリーなわけで、政府が「後方支援だからいいじゃないか」というのは間違っている。たとえば日本に攻撃してる敵国の後方で補給部隊が支援してる時、普通はこれ(補給部隊)を攻撃するじゃないですか。でも今回の政府解釈だと、「兵站活動は武力行使じゃないので攻撃してはならない、攻撃できない」と言い始めたんです。それって国防上で考えてもおかしいでしょう。本来、個別的自衛権で両方対応できるのに、それを個別的自衛権で対応しませんって言い始めたということは、むしろ国防上も危なくなるんじゃないですか? 
 それから、後方支援やPKOでも武器を使えるようにするということで、これから武器を揃えなきゃいけない、訓練しなきゃならないのに「軍事費は上げない」って言ってるんです。嘘だと思いますけど、軍事費を上げないまま海外に派兵していくことになると、結果的に日本の国防や周辺領域に関しては使える予算が減るわけですよね。海外の戦争に行くことで自国の防衛が手薄になる?
 というふうに、相手の議論に乗ってあげるとしても、「中国が、北朝鮮が」って言ってることと、作られようとしている法律がかなり違うんじゃないですか。
 僕がいちばんまずいと思ってるのは、「新三要件があるから歯止めが利きます」と言ってることも、こないだのDOMMUNEでも”カッパくん”というのが紹介したんですけど、新三要件の第二と第三が法律に明文化されてない。つまり法律の専門家が見たら、パッケージで言ってることと法律の内容があまりにかけ離れているからこれは無理だと。
 憲法学者の人たちも、たぶん彼らがここまで言うことってないと思うんですよ。「“民主主義を守れ”というけど、民主主義がどうあれ憲法は憲法です」というのが彼らの役割なんで。それがいま奇跡的に立憲主義と民主主義が一致しちゃってる。一緒の立場で言える、というのは、それだけ状況が悲惨だと言うこともであるんですけど。
 だって、立憲主義の説明を憲法学の権威に言わせなくていいんじゃないか問題っていうか、そんなこと公民の教科書に書いてある。それがいま、大まじめに政府が「合憲です」「こういう解釈もあります」とかこじつけようとしてる。でも、彼らがそれを自覚的やっているのかということも、僕は最近疑っているんです。確信犯なのか本当にバカなのか? またバカとか言うと産経新聞に怒られるからなるべくバカって言わないようにしてるんですけど、確信犯だとしたら国民をバカにしてると思うし、天然なら、あまりにも憲法上の議論や安全保障の議論を理解してないんじゃないかと思いますね。

牛田:それを確信犯だとしても分からずにやってるとしても、こないだ山口二郎さんが言ってたんですけど、ジョージ・オーウェルの『1984』に出て来たニュー・スピークだって。言ってることとやってることが完全に違っているんだけど、それを聞かされ続けると「あら、できちゃうんじゃない?」みたいになってしまう。スチャダラパーのボーズも「安倍さんはめちゃくちゃなこと言ってるのに嘘つき過ぎてて、だんだんほんとっぽくなってくるから怖い」って言ってた。

奥田:SEALDsへの反論で、武藤議員とかも「日本が攻められたらどうするんだ?」と言うけど、日本が攻められたら現在の政府解釈の個別的自衛権で対応できますよって。そうじゃなくて、日本が攻められてもないのに攻撃するのはダメですよね、って言ってるのに。

──ものすごく詳しいですね。政府や政府よりの論者は「反対派は法案も読んだことがない」「戦争とか徴兵とという単語に情緒的に反応している」と繰り返していますけど、そこも彼らは見誤ってますね。みんなで勉強するんですか?

奥田:勉強会とかするんです。こないだ密着取材をしていたNHKの人に言われたんですよ。「SEALDsの主要メンバーの方が、ぜったいに議員とかより安保法制について詳しいよ」って。「この件についてどう思います?」って聞いてもちゃんと答えられる議員はあまりいなくて、コメントが使えないことがけっこうあるんだけど、SEALDsで同じように聞いても使えなかったコメントはないから。…て言うことは(笑)

──最後の質問ですが、おそらくはまもなくこの法律は成立してしまうと思います。だけど、その時に絶望しないために必要なことってなんだと思いますか?

奥田:これで通って絶望する人って本当にいるのかなあ。絶望したってポーズをする人はいるだろうけど…。だって日本社会でももっともっと悲惨だったことっていっぱいあるじゃないですか。もともと声を上げようが上げまいが通ると言われていたわけだし。だって絶望的な社会でしょ、そもそも。
 たとえば俺たちが生まれたのは90年代の初めで、バブルは崩壊してた。小学校の時に見せられたのがホリエモンのビデオで、「ホリエモンみたいになりなさい」って言われた(笑)。社会が相手にしてくれないから、自分で生きていくしかない。「ホリエモンを見てみなさい、君たちがゲームで遊んでる間にホリエモンは自分でゲームを作ったんですよ、エラいでしょう?」って言われて、「たしかになあ」と(笑)。90年代の終わり頃に見た映画とかも、なにもかもぐちゃぐちゃになってみんな死にました、みたいなものが多かったし、そういうのが面白いと思ってた。小学校のときは「バトルロワイヤル」があったし、「エヴァンゲリオン」はもうスタンダードになってた。自分の命と引き換えに世界も終わるとか。何が正常かよくわからないと言うか、この世界が安定してて、「自由とか平和とか大好き」なんていってるけど、そいつの“日常”大丈夫?みたいな…。まったくアナーキーの歌詞じゃないけど、「核兵器、戦争反対、でもどうする明日のご飯代」(Anarchy - Moon Child feat. Kohh)という感じで、きれいごと言ってるやつよりも、本音でいかに悲惨だって言ってるやつの感覚の方が超真っ当だよね。

牛田:で、だけど俺らは悲惨じゃない、というところを説明した方がいいよ。

──あ、悲惨じゃないの?

奥田:だから逆にいうと、悲惨なことがスタンダードであって……

牛田:そうそうそう。

小林:閉塞感のネイティヴなんだよね。

──閉塞感のネイティヴなんだ。

牛田:超いい言葉、それ。

奥田:バブルから経験してそれがあった、というんじゃなくて、生まれた時からずっとダウンだった。で、ダウンの中で面白いものあるよね。

牛田:ダウン極めて行くと面白いよね(笑)。大人が絶望絶望言ってると、「分かった分かった」って。俺ら最初からそれだったから。最底辺から始まってるんで、あとは上がるしかないっしょ。

──ポーズで絶望するやつはいるかもって言われたけど、いまのおとなも過去に何度も何度も失望して絶望もして、でもなにかあればまた誰かから立ち上がり始めて、でもまた負けて、というふうにして、そしてまた国会前に来てたりするんですけどね。

奥田:自分自身が社会的なことに向かっていけたのはいつ頃からなのかはけっこう分かんなくて、高校3年前ではぶっちゃけ、どうなろうが楽しいことは楽しいし、それが本音だったかどうか今となっては分からないけど、社会がどうなろうが関係なかった。なんにも期待してなかった。

小林:俺もそうだった。

──高3で何が起きたの?

奥田・牛田:震災ですよ。

奥田:震災が起きた時に、どんな映画とかどんな小説よりも断然、現実の方が悲惨。そのあとには、「日本社会はありとあらゆるものが終わった」みたいな話がポーズにしか見えなくなった。

牛田:そうそう。でも国会前に来てる人で絶望してる人はいないと思うんですよ。だってあんだけ、若い人たちが国会前にいて、当事者として、主権者として、この社会を見直そうとしてるんでしょ。もう希望しかねえじゃん、って俺は思ってる。

──それはねえ、憎らしいほど見抜かれてる(笑)。

植田:たとえこの法案は通ったとしても、私の生活はまだ続いていくから絶望してる場合じゃないんですよ。バイトしなきゃ。稼いで生きていかなきゃいけない。

──そうして、生きていく限りは「主権者」だと。

植田:そう。この社会とつきあっていかなきゃいけないわけだから、そうやって絶望する暇があったら、ご飯を食べたい(笑)。

牛田:時間のムダなんですよ、絶望するのは。

──たしかに。そうやってどんだけムダにして来たか。

牛田:でも絶望してる人たちって、諦めきれない人たちでもあるでしょう。この絶望的な状況を諦めきれないっていうか。俺らは最初からそうなんで受け入れてる。社会がダメなんてことは当然で、もう諦めてるんですね。

奥田:震災の後、「ヒミズ」が映画になって、見ちゃったら絶対落ちるだろうと思ってみなかったんだけど、結局見ちゃって、でもラストが漫画と全然違ってたんで、あとで園さんに「どうしてああいうふうにしたんですか?」って聞いたら、「希望に負けました」って言われた。諦めることを諦めたって。

牛田:“諦めることを諦める”って超重要なんですよ。絶望なんてくだらねえなって笑い飛ばす。

奥田:「守りたい普通」とか「守りたい日常」とか言ってたけど、すでに日常だいぶヤバいぞって。日常自体が壊れている。それでも生きていかなきゃいけないんだっていうのが勝つ(笑)。

──絶望も捨てたもんじゃなかったんだ。

奥田:今日、高校生がコールしてたけど、彼らはもうこういうことすらいわないんだろうなって思う。社会が絶望的で、とか、バブル崩壊がどうしたとか。
内向的で鬱屈的な高校生とか、俺らが読んでたものにはスタンダードだったけど、あの子たち見てると、もうこれが当たり前で、絶望的な中でも、また絶望しても立ち上がれちゃう。
ただ、少子高齢化とか年金のこととか、くそみたいなことばっかりだけど、それが新しい状況とも思わないんだろうな。

──SEALDsも、安保法制だけで終わる予定ではないんですね?

奥田:そうです。安保法制が通ろうが通るまいが、主権者であることには変わりないし、民主主義の問題は俺たちの問題であることも変わらない。安保法制だって、通ったあとも俺たちの問題なんですよ。次の選挙も、結局その主体は俺たちなんだと、そのことが信じられるんであれば、絶望する必要ないでしょう。まだやることいっぱいある。

牛田:安保法制通ったあとで、みんな死ぬわけじゃないから。


※この新しいヴァイブを感じたければ、今週金曜日(9/11)、18:30~21:30、国会議事堂前へ。

HOUSE OF LIQUID - 15th ANNIVERSARY - ele-king

 目下注目のバンド、ゴートの今年出したアルバム・タイトルが『リズム&サウンド』、そう、ベルリンのミニマルにおけるひとつの頂点となったベーシック・チャンネル(レーベル名であり、プロジェクト名)の別名義からの引用である。ボクは、そして彼に、つまりゴートの日野浩志郎に、ベーシック・チャンネルのふたりのうちのどちらにより共感を覚えるのかと訊いたら彼は「モーリッツ」と答えたのだった。(もうひとりのオリジナル・メンバー、マーク・エルネトゥス派かと思っていたので、この答えはボクには意外だった)
 モーリッツ・フォン・オズワルドは、トリオとして、今年は、アフロビートの父親トニー・アレンの生ドラミングをフィーチャーした新作『サウンディング・ラインズ』をリリース、相変わらずのクオリティの高さを見せたばかりだ。注目の来日となる。

 なお、共演者には、先日素晴らしいアルバム『Remember the Life Is Beautiful』を出したばかりのGONNO、そして、日本のミニマリスト代表AOKI takamasaとベテランのムードマン

9.18 fri @ LIQUIDROOM
feat. dj
Moritz Von Osawld
GONNO (Mule Musiq, WC, Merkur, International Feel)
MOODMAN (HOUSE OF LIQUID, GODFATHER, SLOWMOTION)
feat. live
AOKI takamasa (Raster-Noton, op.disc, A.M.) and more to be announced!!

Open/ Start 23:00
Advance 3,000yen, Door 3,500yen (with Flyer 3,000yen), 2,500yen (Under25, Door Only)
Ticket Outlets: PIA (273-309), LAWSON (71728), e+ (epus.jp), DISK UNIOIN (Shibuya Club Music Shop/ Shinjuku Club Music Shop/ Shimokitazawa Club Music Shop/ Kichijoji/ Ochanomizu-Ekimae/ Ikebukuro), JET SET TOKYO, Lighthouse Records, TECHNIQUE, clubberia, RA, LIQUIDROOM
※ 20歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため、顔写真付きの公的身分証明書をご持参ください。
You must be 20 and over with photo ID.
Information: LIQUIDROOM 03-5464-0800 https://www.liquidroom.net

9.19 sat @ 大阪 心斎橋 CIRCUS
出演:Mortitz von Oswald, DJ Yogurt (Upsets, Upset Recordings), SEKITOVA
Open/ Start 22:00
Advance ¥2,500, Door ¥3,000 共に別途1ドリンク
Information: 06-6241-3822 (CIRCUS) https://circus-osaka.com

モーリッツ・フォン・オズワルト・トリオ
サウンディング・ラインズ


Pヴァイン

Amazon


小原泰広、写真展 - ele-king

 10年ほど昔、都内のとある中古盤/古本屋に入ったら、壁一面にSFPというハードコア・バンドの写真が貼ってあって、それを撮っていたのが小原泰広だった。以来、『remix』時代を入れて、けっこう長きにわたって撮影をお願いしている。
 小原といえば、基本、ハッセルブラッドというお洒落なスウェーデンのカメラにモノクロのブローニーフィルムを入れて、しかし時代錯誤的なまでにがっつりした、無骨な写真を撮る男だ。DJで言えば、いまどき重たいレコードケースを運ぶようなもので、重たいカメラバッグを持って、いちいちフィルムを回している。デジカメどころかスマートフォンでバシバシ撮るようなこの時代に、刃向かっているのか馴染めないだけなのか……あるいは、そうでもしなければ撮れない何かがそこにはあるからなのだろう。

 小原泰広の写真展が恵比寿リキッドルームの上、KATAにて開催される。ele-king読者にはお馴染みの彼だが、ele-kingに載っているアーティスト写真とはまたひと味違った、写真家・小原泰広の世界が待っているだろう。どうぞ、足をお運びください。

2015.09.16 ~ 2015.09.23
YASUHIRO OHARA PHOTO EXHIBITION『BUSINESS DEVELOPMENT』

会 期 : 2015年9月16日(水) – 9月23日(水祝)

営業時間 : 13:00 – 20:00

入場料 : 無料

会場 : KATA (東京都渋谷区東 3 -16 – 6 LIQUIDROOM 2F)
会場では、ZINEやグッズの発売もあり。

EVENT
9/16(水) OPENING PARTY 18:00- DJ STRAWBERRYSEX OVERALL
9/20(日) 15:00- DJ COMPUMA CHANGSIE AKINOBU MAEDA
9/23(水) CLOSING PARTY 15:00- DJ 2MUCH CREW and more

(イベントの日は22:00まで)

Profile
小原泰広(オハラヤスヒロ)

1976年愛知県出身
2002年東京造形大学卒業
2004年から3年間のアシスタントを経て
2007年フリーランスフォトグラファー

音楽誌やカルチャー誌、CDジャケット、広告等で活動 

-info-
KATA https://kata-gallery.net
LIQUIDROOM 03-5464-0800 https://www.liquidroom.net

VOGUE FASHION'S NIGHT OUT - ele-king

 OPN, Rezett, Joy Orbison……。過去のコレクションや主催イベントにおいて、Sk8ightTingとToby Feltwellが率いるファッション・ブランドC.Eはカッティング・エッジなアーティストたちを迎えてきた。今回その歴史に新たな精鋭が加わることに。
 その名はOndo Fudd。説明不要のカルチャー・アイコンWill Bankhead主催の〈The Trilogy Tapes〉からのシングル「Coup D'État」で知られる彼だが、そのキャリアで特筆すべきことはCall Super名義での活動だろう。Special RequestやAkkordのリリースで知られる〈Houndstooth〉から去年リリースされたアルバム『Suzi Ecto』は、彼のテクノやハウス、IDMへの深い造詣が、ベース・ミュージックとも有機的に絡み合った新世代の到来を告げるような一枚だ(今回が初来日)。
 イベントはVOGUE FASHION'S NIGHT OUTにてC.Eが期間限定で出店するショップが会場となる。入場料無料で年齢制限もないので、新しいサウンド&ヴィジョンに飢えている全世代の方々、今週末は迷うことなく会場へ!

VOGUE FASHION'S NIGHT OUT

2015.9.12 (Sat)
18:00 - 22:00

会場:
CAV EMPT SHORT TERM RETAIL EXPERIMENT at BEAUTY&YOUTH UNITED ARROWS
3F, 2-31-12 Jingumae, Shibuya-ku, Tokyo 150-0001
東京都渋谷区神宮前 2-31-12 ユナイテッドアローズ原宿本社ビル 3F
https://goo.gl/maps/5ER8Q

DJs:
Ondo Fudd (The Trilogy Tapes)
1-Drink
Toby Feltwell (Cav Empt)

連絡:
03-3479-8127
www.cavempt.com
www.beautyandyouth.jp

■ Ondo Fudd
Call Superという別名義でも知られるOndo FuddことJR Seatonは、現在はベルリンを拠点に活動するUK出身の音楽プロデューサーである。Will Bankheadが主宰するUKのインディペンデントレーベル「The Trilogy Tapes」から昨年2月に発表した<Coup d'Etat>はカルト的な人気を誇る。来る9月25日にはCall Super名義でニューEP<Migrant>を「Houndstooth」よりリリース予定。
https://soundcloud.com/the-trilogy-tapes/sets/ondo-fudd-coup-detat-ep

■ Toby Feltwell
英国生まれ。96年より「Mo'Wax Records」にてA&Rを担当。
その後XL Recordingsでレーベル を立ち上げ、Dizzee Rascalをサイン。
03年よりNIGO®の相談役として<A Bathing Ape®>や<Billionaire Boys Club/Ice Cream>などに携わる。
05年には英国事務弁護士の資格を取得後、東京へ移住。
11年、Sk8ightTing、Yutaka.Hと共にストリートウエアブランド<C.E>を立ち上げる。
https://www.cavempt.com/

■ 1-Drink
TECHNO、HOUSE、BASS、DISCOの境界を彷徨いながら現在にいたる。 DJユニット"JAYPEG"を経て現在は個人活動中。 ときどき街の片隅をにぎわせている。
https://soundcloud.com/1-drink

■C.E (シーイー)
デザイナー:Sk8ightTing (スケートシング)
ディレクター:Toby Feltwell (トビー・フェルトウェル)

Sk8ightTing がToby.F、Yutaka.H の2 人と共に2011 年にスタートさせたストリートウエアブランド。Philip K. Dick の著書『UBIK』に登場する女性のタトゥー“Caveat Emptor”(ラテン語で“買い手が品質の危険性を負う”の意)がブランド名の由来。シーズンテーマはありません。

2013年3月、2014年9月にはMercedes-Benz Fashion Week TOKYO内のイベントVersus Tokyoにおいて映像と音楽を用いたプレゼンテーションを発表。同年2014年12月にはロンドンのTete Britanで開催された、Late at Tete Britanでもプレゼンテーションを行いました。

www.cavempt.com

まわるまわる! - ele-king

 オープン・リール・アンサンブルをご存じだろうか。オープンリールを楽器として「奏でる」この奇妙なオーケストラは、音の楽しさにくわえ、視覚的なライヴ・パフォーマンスも傑出しており、坂本龍一の〈commmons〉からデビュー作を出したのち、ISSEY MIYAKEのパリコレクションのために曲を書き下ろすなどの商業的な仕事のほか、オープンリールを解析した世紀の奇書『回典 ~En-Cyclepedia』の刊行や、飽かずあらたなコンセプトや挑戦をみせるライヴ活動など、持ち前のエクスペリメンタリズムをフル「回転」させながら、このたびセカンド・アルバムを発表した。リード・トラックのPVがついに公開、というニュースが届いたので、ぜひ観て(聴いて)いただきたい。ついでにいろんなライヴ映像なんかも上がっているはずなので、クルージングしてみてはいかがだろう。ついついと、この回転の渦から出られなくなるかもしれないけれど──。
 後日、ele-kingではインタヴューも大公開!

■Open Reel Ensembleの2ndアルバム『Vocal Code』から、錯視(目の錯覚)の効果を利用したMV「空中特急」が公開!!

9月2日(水)発売! Open Reel Ensembleの2ndアルバム『Vocal Code』から、錯視(目の錯覚)の効果を利用したMV「空中特急」が公開された。

旧式のオープンリール・デッキと現代のコンピュータをドッキングさせた圧倒的なパフォーマンスで世界中を熱狂させているOpen Reel Ensemble。”声”をテーマした今作では、七尾旅人、森翔太、Babi、Jan(GREAT3)、神田彩香、クリウィムバアニー等、豪華ゲスト陣が集め実験的ポップスに挑んだ意欲作。

今作のリード曲であり、中心メンバーの和田永が歌う楽曲「空中特急」のミュージックビデオは、錯視(目の錯覚)の効果を利用した映像となっている。映像はメンバーの吉田匡、吉田悠が監督、編集を担当。オープンリールを楽器として扱いメディア・アートの世界でも注目を集めるワンアンドオンリーな存在の彼らならではのユニークなミュージックビデオが公開された。


Open Reel Ensemble - 空中特急 short version (Official Video)

真ん中にある黒い点を目を離さずに見続けると
静止していた「空中特急」の世界が動き始めます。
※錯視の効果には個人差があります


■Open Reel Ensemble
Vocal Code
2015/09/02 release
PCD-25180
定価:¥2,500+税
https://p-vine.jp/music/pcd-25180

01. 帰って来た楽園 with 森翔太
02. 回・転・旅・行・記 with 七尾旅人
03. 空中特急
04. ふるぼっこ with クリウィムバアニー
05. Reel to Trip
06. 雲悠々水潺々
07. Tape Duck
08. アルコトルプルコ巻戻協奏曲 with 神田彩香
09. NAGRA
10. (Life is like a) Brown Box with Jan
11. Tapend Roll
12. Telemoon with Babi

A$AP Rocky - ele-king

 ずば抜けたラップに脳みそまで痺れるビート、誰もがうらやむウェアとキックス。あとは、最高のトリップとセックス。それ以外にいったい何がいる? ここには崇高なスピチュアリティも、深淵な思想もない。メランコリアや感傷も存在しない。A$AP ROCKY(エイサップ・ロッキー)はぶれない。ディオールのジャケットを着て『フォーブス』の長者番付リストに載るようになっても、相変わらずコデインなんていう貧乏人のドラッグをやっている。黒い肌のジェームス・ディーン。あるいはラップするヘンドリクス。彼の声はいつも、ひどく醒めて、乾いている。

 デビュー時からニルヴァーナやジミ・ヘンドリクスをフェイヴァリットにあげ、ザ・ヴァーヴの“BITTER SWEET SYMPHONY“を丸ごとサンプルしていたROCKYが、今回のアルバムでロックやブルーズ的なアプローチを取り入れたことに驚きはない。ヒューストンやアトランタ産のトラップとチルウェイブを融合させたこれまでのサウンドに、ゴスペルやロック・シンガーによるコーラスまで加わって、音のテクスチュアは混沌としている。
 初っぱなから聖霊を呼び出すゴージャスなイントロ“HOLY GHOST”に続き、一転してミニマルなビートで冷酷な勝利宣言を表明する“CANAL ST.”、あのM.I.A.が「新しいビッチにしゃぶってもらいなよ」と連呼するトリップ・ホップ的な“FINE WHINE”を経て、“JD”のインタルード的導入までの流れは、ひたすらダウナーでサイケデリック。それ以降も、ダークで享楽的なノリはいよいよ強まっていく。稲妻のようなシンセが飛び交い、スモーキー・ロビンソンの歌声が塗りつぶされ、ほとんど爆発音に近いスネアとベースが炸裂する。ROCKYはひたすら膨大な言葉をスピットし続ける。覚醒と酩酊を往復しながらも、そのフロウは決してぶれない。流麗なライミングで金言めいたものを口にしたかと思えば、「ケツを振れよガール、プッシーを濡らせ」と下品な煽りも忘れない。
 サウンド面での特徴はもうひとつ、KANYE WESTやLIL WAYNE、MOS DEFといった大御所と並んで最多曲数でフィーチャーされた無名のギタリスト、JOE FOXの存在だ。ROCKYがニューヨークの路上で偶然ピックアップしたという彼の、ハーモニーというよりは分裂症的なイメージを与える歌声が、本作の印象を決定づけているのは間違いない。
 けれど、最も異色で印象深いのは、ROCKY本人が陶酔感たっぷりの歌声を披露する“L$D”だろう。曲の前半は完全にビートレス。愛と、セックスと、一瞬のサイケデリアを成分とするこの4分間のトリップだけが、グロテスクな享楽と神経症的な焦燥に満ちたアルバムのなかで唯一、幸福と呼べる瞬間をもたらしている。狂騒からの逃避先が出会ったばかりの女とのアシッド・セックスというのも救えない話だ。それでも、この不埒でロマンティックな逃避行は、どうにも抗いがたい魅力を放っている。ハーレム生まれの黒人が歌舞伎町で見るハリウッドの夢、といったエキゾティシズムを漂わせるミュージック・ヴィデオも、息をのむほどに美しい。このきらめく数分間の快楽の芳香には、善悪の境界線を危うくさせる強烈な引力がある。

 かつて「俺が欲しいのは女と金とウィードだけ(PUSSY, MONEY, WEED, THAT’S ALL I REALLY NEED)」というパンチラインを生み出したROCKYは、本作でもヴィラン(悪党)のペルソナを演じ切ることを選んだようだ。爆発的な成功がもたらした苦悩に身悶えしながらも、そこに内省はない。冒頭で呼び出した聖霊も早々に追い払い、シャンパンとコデインに酩酊して悪態をわめき散らし、アシッドを口に放り込んで他人の恋人を奪い取る。悪逆を尽くすその姿はしかも、セレブリティ好きの紳士淑女の口にも合うように、あくまでクールでスタイリッシュにスタイリングされている。この辺のあざといセルフ・ブランディングも、Y-3のパーカに身を包んでコンビニ強盗に押し入っていた前作の延長上にある。最近の悪党は、メゾン・マルジェラやリック・オウエンスを着ているのだ。
 すでに多く指摘されているが、今回のアートワークでROCKYの顔面を彩る紫の痣は、このアルバムのリリース直前、おそらくはコデインの過剰摂取で急逝したA$AP MOBの精神的支柱、A$AP YAM$への追悼を意味している。しかし、その盟友に捧げられたと思われる“M’$”や“WAVYBONE”に、型通りの哀悼の言葉は見当たらない。そこで代わりに繰り返される「金を生み出せ」というアグレッシヴなメッセージはそのまま、A$AP(Always $trive And Prosper)の哲学そのものでもある。どんな困難にぶつかろうと、自分たちのビジネスを貫徹すること。それがA$APファミリーの追悼の流儀だということだろう。

 薬物は人にフィジカルな絶頂と疲労を往復させることで、人生の盛衰を早回しに見せてくれる。極端な快楽は痛みに似ているし、快感と苦痛は同じように人の顔を歪ませる。それでも、ROCKYは倫理や情緒にすがらずに、あくなき衝動と欲望を肯定する。ラップにつきまとうセクシズムや拝金主義、暴力やドラッグといったネガティヴなイメージへの反発から、まっとうな社会的メッセージや詩的な技巧を誇るアーティストが持ち上げられることは多い。けれど、崇高な思想や美しい詩をありがたがるだけなら、大統領のスピーチを聴くか、大人しく読書でもしてればいい。いまや現代のコンシャス・ラッパーの代表格となったケンドリック・ラマーだって、あのメッセージの表層的なモラリティのみをすくいとって賛美することなんて絶対に不可能だ。万が一そんなマヌケなことをするのなら、ラップを聴く意味など一ミリもない。
 この男は、キング牧師の演説の夢を見て、全米で相次ぐ黒人への凄惨な暴力事件のニュースを眺めながら、セックスとドラッグに溺れている。この退廃と混沌は、ポリティカル・コレクトネスに対する幼児的な反発ではない。心臓を氷漬けにし、致死量のドラッグを体に流し込み、南部の熱病にうなされてカス・ワードを口走る。良心的徴兵拒否によってチャンピオン・ベルトを剥奪されたコンシャスなモハメド・アリではなく、衝動まかせに対戦相手の耳を食いちぎる獰猛なマイク・タイソンの時代に、この音楽は生まれた。善悪の彼岸をひた走る人間にとっては、大統領の肌の色が黒だろうが白だろうが関係ない。この確信犯の反知性主義こそは、すべてのラップ・ミュージックをラップ・ミュージックたらしめる、根源的な力なのだ。
 アメリカだけじゃなく、状況は違えど、日本もこんなご時勢だ。気付けば震災以降、安易な涙を誘う感動ポルノや、相対主義どまりのシニカルな社会的メッセージばかりが蔓延している感は否めない。たとえそのフェイムがセレブリティ的なメディア露出によるものだとしても、ROCKYは現在の日本で、おそらく最も名の知れたヒップホップ・アイコンのひとりだ。洗練されたファッションや表面的な音楽スタイル以上に、この吹っ切れた悪の表現の与えるインスピレーションは大きい。ポリティカル・コレクトネスに中途半端な色目を使う優等生や、ケチな露悪をもてあそぶ反動的な卑怯者は知るよしもない、本物の悪人の享楽がここにはある。世界の悲惨を目の前にして、善人は泣くが、悪人は無理にでも不敵に笑う。悲劇を悲劇とも思わないタフな快楽主義は、ときに涙を乾かし、切実な怒りに寄りそう、強力な番犬にもなるのだ。

 豪勢にめかしこんで地獄めぐりの旅に出た。いったんは悪魔に取り憑かれ、魂だけは奪われずに帰還した。ありとあらゆる悪徳にまみれ、もがき苦しみ、それでも懺悔も贖罪もしない。どんなに虐げられても生き延び、繁栄する地下の帝国で短い一生を謳歌する。馬鹿で愚かだと思うんならそれで構わない。この音楽は強靭な生の哲学であり、大罪人の敬虔な祈りであり、善悪の彼岸への招待状だ。大事なことなので、最後にもう一度。ずば抜けたラップに脳みそまで痺れるビート、誰もがうらやむウェアとキックス。あとは、最高のトリップとセックス。それ以外にいったい、何がいる?

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