「K A R Y Y N」と一致するもの

 いまさらって感じもあるんで、飛ばしていきます。
 前回は……ビザも帰りの航空券もなかったものの、EU加盟国でないスイスに無事入国。かの地のゲストへの歓待ぶりに感心し、まだもう少しつづくはずの旅について夢想しつつ結んだのだった。ローブドア(Robedoor)のブリット・ブラウン(〈NNF〉代表)、アレックス・ブラウン(ローブドア)、マーティン(サンド・サークルズ/Sand Circles)僕の4人はチューリッヒからバーゼルへ入った。

■OCT 18th
 最初にツアー日程を確認した際に、なるほど、18日はバーゼルでデイオフなのね。観光できるのね。と浮かれてみたものの、まさかのハコの名前が〈OFF〉っつーオチでした。この日はよくも悪くもいわゆるパンク・スクワットな場所で音質はもちろん劣悪。集客もマチマチといったところで不完全燃焼であった感は否めない。翌朝にロザーン入りする前にギーガー美術館へ行こうということになり、イヴェント終了後に身内で勝手に『エイリアン』をスクリーンに上映しながら飲みはじめる。僕ら4人が『エイリアン』にエキサイトしている階下にお客さんのひとりが申し訳なさそうに降りてきて『マーチを売ってほしいんだけど……』と言われるまで完全にライヴをおこなったことを忘れていた。ちなみにこのハコっつーか、ビルに宿泊してたわけだが、シャワー風呂がなぜか台所に置いてあるフランシス・ベーコン・スタイルで家人にモロ出しだった。しかも窓際でカーテン無しなので向かいの家にもモロ出し。逆にお返しのつもりなのか、向かいのお姉ちゃんがベランダからオッパイ見せてくれました。これ、バーゼルのハイライト。

■OCT 19th


ギーガー美術館にたたずむアレックス

 ロザーン入りする前にグリュイエールのギーガー美術館へ(R.I.P.)行く。山腹にそびえ立つグリュイエール城への道のりに建立されるこの美術館はパーソナル・コレクションや併設展も含めて予想以上に見応えのあるものであった。ギーガーのイラストレーションとグリュイエールの幻想的なランドスケープが相乗する不思議な感覚には体験する価値があるとここに記しておこう。ロザーンでの衝撃はele-kingのウェブ版にも紙面にも書いてしまったのでこれ以上はクドいため割愛させていただこう。〈ル・ボーグ〉、ルフ・フェスティヴァル、エンプティセット、エンドン最高!

■OCT 20th
 ジュネーヴでこれまで同行してきたサンド・サークル(Sand Circle)のマーティンとの共演も最後となる。そして翌日から代わって同行するカンクン(Cankun)のヴィンセントとホーリー・ストレイズ(Holy Strays)のセバスチャンが合流する。ヴィンセントはモンペリエ、セバスチャンはパリを拠点にするフレンチ・ドュードだ。早速レーヌのハイ・ウルフ(High Wolf)をネタにして盛り上がる。ハイ・ウルフことマックス・プリモールトは素晴らしい。彼と時間を過ごしたことのある人間は彼をネタにせずにはいられないのだ。すべてのツアー・ミュージシャンはそうあるべきではないだろうか?


“サイケデリック・ループペダル・ガイ”、カンクンのステージ

 サンプリング・ループとギター演奏によるリアルタイム・ループで構成される初期サン・アロー以降、〈NNF〉周辺で定番化した「サイケデリック・ループペダル・ガイ」という点では、カンクンもハイ・ウルフに近いスタイルだ。しかしハイ・ウルフがクラウト・ロックをベースとしたワンマン・ジャムであるのに対し、カンクンの展開はもっとDJミックスに近い。ダンス・ミュージックとしてのグルーヴが強いのだ。〈メキシカン・サマー〉からの次回作を期待させられる演奏を披露してくれた。
 セバスチャンのホーリー・ストレイズはなんだろう……僕が聴いた初期の〈NNF〉リリースのサウンドとはだいぶ異なっていて、ラウンジっぽかったり、トリップホップっぽかったり、ジュークっぽかったり、ウィッチハウス的な雰囲気も……まぁ如何せんものすっごい若いのでいろいろやりたいのでしょう。インターネット世代のミュージシャンと少し垣根を感じる今日このごろなのです。
 アナーキスト・バー的なハコ、〈L'Ecurie〉もナイスなメシ、ナイスガイズ、ナイスPAと最高のアテンドを見せてくれた。このハコや〈ル・ボーグ〉のようにアトリエ、ギャラリー、居住スペース、パフォーマンス・スペース、バーを一か所に集約している場ってやっぱり発信力とかアテンドが圧倒的に強いと思う。


〈ル・ボーグ〉にて

■OCT 21st


BUKAのステージ

 マーティンとの別れを惜しみつつも5人編成となりミラノ入り。この日のハコの〈BUKA〉はかなりイケてた。もともと70年代に建てられた大手レコード会社(Compagnia Generale del Disco)のビル、つまりオフィス、ウェアハウス、レコーディングスタジオ、プレス工場や印刷工場が併設される巨大な建造物の廃墟なのだ。このレコード会社は80年代のイタロ・ディスコ・ブームで一世を風靡するものの倒産、88年に建物をワーナーが購入するも90年代半ばに断念、長らく放棄させられていた場所で、その一部を改築し、2012年からアート/イヴェント・スペースとして再生したのが〈BUKA〉である。一部というのは本当に一部の地上階からアクセス可能なオフィス、講堂(70年代風のレトロ・フューチャリスティックなコロッセオ型の講堂! ライヴはここでおこなった)のみで、敷地の大半は完全に打ち捨てられた状態である。もちろん電気も通っておらず、サウンドチェックを終えた僕とブリットらは懐中電灯を頼りに探索、男子たるものはいつになってもこーゆーのに心くすぐられるのである。この日のライヴはURサウンドが収録してくれたようだ。

■OCT 22nd
 この日からフランス入り、初日はモンペリエ。これまでサウンドチェックに入る際に必ずスタッフに訊ねていたことがふたつある。ひとつはDIはいくつあるのか? もうひとつは誰がネタを持っているのか? だ。フランスに入ったこの日からふたつめの問いかけに対するリアクションがあまりよろしくなかった。この日はライヴ終了後にマイクでオーディエンスに問いかけるものの単なる笑いものになってしまった。イヴェント終了後、みんなはディスコ・パーティへ向かうものの僕ひとり不貞腐れて宿に着いて寝た。ちなみにここまであんまり書いてないけどツアー中は男同士ふたりでワン・ベッドでも普通に寝れる。ツアーって恐ろしいよねーって朝起きて横で半裸で寝ているブリットを見て思った。

■OCT 23rd
 フランスのお次はトゥールーズ。前日に引きつづきライヴ・バー的な場所。この日もハコの連中は僕の要求に応じてくれず、このあたりからフランス自体にムカツキはじめるもこの日は対バンのサード(SAÅAD)が爽やかな笑顔でわけてくれた。サードはローブドアやカンクンのリリース元であるハンズ・イン・ザ・ダーク〈(Hands in the Dark)〉がプッシュするドゥーム・ゲイズっつーかダーク・アンビエントなバンドである。先日同レーベルからデビュー・アルバムであるディープ/フロート(Deep/Float)が発売されたようだ。シネマティックなダーク・アンビエント好きは要チェックだ。


ブリットとスティーヴ

 この日の僕のハイライトはシルヴェスター・アンファング(Silvester Anfang)のスティーブがたまたまライヴに遊びに来てくれていたことだ。スティーヴはフランダース発、暗黒フリーフォーク集団フューネラル・フォーク(Funeral Folk)及び現在のシルヴェスター・アンファングII(Sylvester Anfang II)の母体となったシルヴェスター・アンファングの創始者である(ややこしいんですけど改名前はサイケ・フリーフォークを主体とし、改名後はサイケ・クラウトロックを主体とする別バンドなんだ! と力説していた。そのあたりもアモン・デュールに対して超リスペクトってことなんですね)。ベルギーのエクスペリメンタル・レーベル代表格、〈クラーク(Kraak)〉のメンバーでもある彼がなぜここに? というのも嫁がトゥールーズの大学へ通っているとのことで数ヶ月前に越してきたらしい。数年前からアートワーク等を通して交流はあったものの、このようなかたちで偶然会えるとは本当にうれしかった。

■OCT 24th


ソーヌ川に浮かぶハコ〈ソニック〉

 リヨンへ到着。この日の〈ソニック〉はソーヌ川に浮かぶハコ……というか船なのだ。その昔サンフランシスコでバスの座席を全部取り外して移動式のハコにしていた連中を思い出す。リヨンの町並みは息を呑むほど美しい。ユラユラするハコも素晴らしい。ワインもおいしい。音は90db以下だったけれどもまぁまぁよかった。この日も誰もネタをわけてくれなかった。フランス人の田舎モンどもなんかファ……などとヴィンセントに悪態をつきながら床に着いた。

■OCT 25th


パリス・キッズ。

 パリへ到着。僕は今回のローブドアのヨーロッパ・ツアー最終地点であるバーミンガムの〈ブリング・ダ・ライト・フェスティヴァル〉には参加しないのでこの晩が彼らとの最後の共演となる。パリでのショウを仕切ってくれたフランチ・アレックス(アレックスはいっぱいいるので)はフランスのインディ・ミュージックのウェブジン、『ハートジン(hartzine)』のリポーターで、DIYテープ・レーベル、〈セブン・サンズ〉の主宰者でもある。フリー・スペース〈ガレージ・ミュー(Garage MU)〉でのイヴェントの集客と盛り上がりはすさまじい熱気であった。パリのキッズはイケている。今回のツアーでもっともヒップスタティックな客層であったかもしれない。カンクンもホーリー・ストレイズも最終日ということで気合いの入ったラウドのセットを披露してくれたし、ローブドアもこれまででもっとも長いセットを披露した。ネタも大量良質で感無量である。例のごとくチーズとワインとジョイントで夜が白むまで最終日を祝った。僕はパリにもう一日滞在してグスタフ・モーロウ美術館をチェックすることに決めた。パリ最高!

■OCT 26th
 ローブドアのブリット、アレックス、カンクンのヴィンセントと別れを惜しみつつも単身パリに残る。この場を借りてブリットとアレックス、マーティンにヴィンセント、セバスチャンとそして何よりプロモーターのオニトと各地でアテンドしてくれたローカル・メイトたちに心底感謝を表する。あんたら全員最高。

 パリなんかクソだ。グスタフ・モーロー美術館は改装中で閉館していた。門の前で呆然と立ちすくむ僕とブルガリアからの旅行者のじじい。ダメ元でピンポンを連打し、出てきたおばちゃんに作品あるならチョコっとでも見せて~と懇願するも鼻で笑われ門前払い。仕方なくポンピドー・センターへ向かい、クリス・マルケルの回顧上映会を見るが煮え切らず。カフェでレバノン出身のカワイ子ちゃんと談笑して癒されるもメイク・アウトできず。物価も高い。駅のジプシーウザい。パリなんかクソだ。

■OCT 27th


トゥールーズにて、夜景。

 ツアー終了とともに足が無くなったので激安長距離バス、ユーロ・ラインで友人の家へ転がりこむためパリからバルセロナへ向かう。激安なので赤ん坊が泣き叫ぶ車内で隣の席の人の体臭がゴイスーな小便クサいゴミまみれのクソバスを想像していたがンなことはなく、むしろ快適に(ワイファイ有り)移動する。途中で停車したパーキング・エリアで、トイレ休憩がいったい何分なのか、フランス語がまったくわからないので他の旅行者風の乗客に訊ねる。ようやく英語が介せるジャーマン女子がいて助かった。なになに、バルサには瞑想プログラムを受講しに行くだって? ニューエイジだね。スピってるね。次の休憩所でドリフター風のフレンチ男子に話しかける。なになに、とくに目的もなく旅行中? いい感じじゃない。え? ネタ持ってきてんの!? じゃあとりあえず巻こうよ。バスがしっとりとした闇夜の荒野を疾走していく中、僕はこの旅が終わらないことを夢想しながら眠りについた。

 無駄にドリフトはつづく……次回はバルセロナから極寒のNYへ。

Sunda (Million Last Moments) - ele-king

■Profile
ロンドン出身のSundaはここ数年、東京を拠点に2都市間を行き来しながら活動している。UKテクノとハウスを好んだミックススタイルは、アナログ機材と無駄のないハードなパーカッションが特徴的。2014年現在、すでにOneman、Kode9、Ikonika、Moodymanc、Tom Demacをはじめとする多くの海外アーティストとイヴェントで共演している。1月の主催イヴェント『Million Last Moments』ではハウス・ミュージックの大物Tom Tragoも飛び入り参加し、記憶に残るセットを披露した。
 DJ活動の他にはフリーライターとして、「The Japan Times」や「Resident Advisor」などに東京のクラブ・シーンについて原稿を寄せている。

Website: https://www.millionlastmoments.com
Twitter:https://twitter.com/mikesunda

■DJ Schedule
06.21 @ Helsinki、六本木
07.05 Kuromaku @ Trump Room、渋谷
07.12 Urban Nature @ Icon Lounge、渋谷
07.20 444-1 Tokyo @ Louver、新宿

6月TOP10チャート


1
Dark Sky - IYP - Mr. Saturday Night

2
Palms Trax - Raw Jam - Lobster Theremin

3
Call Super - Acephale II - Houndstooth

4
Asusu - Too Much Time Has Passed (Dresvn Remix) - Livity Sound

5
Sisterhood - Doublespeak - Tief Music

6
Throwing Shade - Chancer (Kowton Remix) - Happy Skull

7
NGLY - Speechless Tape - L.I.E.S.

8
Chicago Flotation Device - Untitled 5 - Chicago Flotation Device

9
Minor Science - Hapless - The Trilogy Tapes

10
Mokona - Untitled - Templar Sound

DAIKANYAMA UNIT 10th ANNIVERSARY - ele-king


BADBADNOTGOOD
III

Amazon iTunes

 代官山のユニット──DBS、OPN、デムダイク・ステア、あるいはラシャドからマーク・マッガイア等々、妥協をしないコアなブッキングで知られるハコ──が今年で10周年。そのアニヴァーサリー・イヴェントがシリーズとなって今週木曜日からはじまる。
 で、その第一弾は、今週木曜日(6/26)、トロンからの刺客、最高の殺し屋、3人組のジャズ・バンド、BADBADNOTGOOD(バッドバッドノットグッド)だ。彼らは、オッド・フューチャーのカヴァーをしたことで、タイラー・ザ・クリエイターとの共演も果たしている。ライヴでは、カニエ・ウエスト、ジェイムス・ブレイクのカヴァーを披露するそうだ。また、バンドはフランク・オーシャンのバックも務めている。先日、〈Innovative Leisure〉から新しいアルバム『III』を出したばかり。RZAやブーツィー・コリンズも賞賛するという、彼らの生演奏が日本で見れるのはもちろん今回が初めて。これは注目です!
 サポートするのはジャズ、ハウス、ファンク……、あらゆるグルーヴを吸収しながら進化する、cro-magnon。「ジャズ」というキーワードが浮上する今日、是非、この夜を体験して欲しい。

■LINE UP:
BADBADNOTGOOD
guest: cro-magnon

2014.06.26 THU

OPEN : 18:00
START : 19:00
CHARGE : 前売り 4,500yen (税込 / D別)

TICKET :
チケットぴあ0570-02-9999 [P] 233-203
>>@電子チケットぴあでチケットを購入する
ローソン [L] 70152
e+

INFO :代官山UNIT 03-5459-8630

https://www.unit-tokyo.com/


interview with Yoshida Yohei group - ele-king


吉田ヨウヘイgroup
Smart Citizen

Pヴァイン

RockJazzExperimental

Tower HMV Amazon iTunes

 喉に痛みをおぼえ医者にかかったところ逆流性食道炎のおそれがあるといわれたとき私は若さをうしなった。デュラスの『愛人(ラマン)』の「わたし」が十八歳で年老いたのに較べれば上出来といえるかいえないかわからないがともあれ、好青年が好中年になったと嘯いていたのが名実ともに中高年になったのである。さいきんライヴハウスにとんとご沙汰しているのはそのせいかもしれないと疑ったのであるが、ライヴハウスに行かなければ若手のバンドをまっさきに発見する機会もよろこびもない。

 吉田ヨウヘイgroupをはじめて知ったときも、最初私はジャズのコンボだと思った。〈ピットイン〉の昼の部から叩きあげていこうというような。はたしてそれは彼らの多様な音楽的要素の一部をとればあたらずいえども遠からずであった。バンドをはじめるにあたりラウンジ・リザーズ――この名前を聴いたのはずいぶんひさしぶりだった。というのも、過去10年、いや20年か、主流派から前衛にいたるジャズの古典(原理)回帰によってもっともあおりを食ったのはロフト・ジャズの折衷主義だったと私は思うからである――を模範にしたというだけあって、複数の因子を同居させ異化効果をうみながらそれに違和感をおぼえさせない手腕は、インディ・シーンのなかでも頭ひとつ抜けている。ロックでありジャズであり、ラウンジと室内楽の質感をもち、リーダーであり作詞作曲を一手にひきうける吉田ヨウヘイの歌唱は飾らないものだが女声コーラスが過ぎることでそれは色彩感を増す。そして和製ダーティ・プロジェクターズの異名をとるにいたったファースト『From Now On』につづく『Smart Citizen』は軋みと滲みぶくみのピアノ曲 “窓からは光が差してきた”ではじまり、フルートの前奏が吹き抜ける“ブルーヴァード”の巧緻な組織性を経て、どことなく和的な“アワーミュージック”、エキゾチックなリフレインの“新世界”など9曲を一気に駆け抜けていく。西田修大のギターはいたるところで利いており榎庸介のサックスをはじめ管は曲に厚みをもたらし、盟友・森は生きているの面々を招いた編曲/プロデュースは凝っている。サティとかキンクリとかイースタン・ユース(!)とか、かつて親しんだ音楽を彼の背後に聴くのは加齢のせいばかりとはいえないが、吉田ヨウヘイgroupの音楽は私の胃酸のように逆流性でもなく、音楽の遺産のように過去に縛られていないが、たんに未来を指向しているというほどの自我も幸福感も感傷もない。ただいまがあり音楽があるだろう。

■吉田ヨウヘイgroup
 2012年に結成、ヴォーカル&ギター、アルト・サックスを担当する吉田ヨウヘイをリーダーとするグループ。ギター、ベース、ドラムのほか、テナー・サックス、キーボード、フルート、ファゴットを兼任するメンバーを含む総勢8名の大所帯バンド。2013年に初の全国流通盤CD『From Now On』をリリース、最新作は『Smart Citizen』。吉田ヨウヘイ、西田修大、榎庸介、星力斗、池田若菜、内藤彩、高橋“TJ”恭平、reddamが参加。

とっくにやられていてもいいはずの音楽なのにフォーマットが固定化しているせいでやられていないというイメージ。それを掘りだそうという感じです。 (吉田ヨウヘイ)

私ははじめてお会いするので、バンドのなりたちから教えてください。

吉田:僕は2年前まで会社員だったんです。そのときはギターの西田くんとだけいっしょだったんですけど、音楽を真剣にやりたいと思って会社を辞めたんです。

それは思い切りましたね!

吉田:会社にも「音楽をやります」といって辞めたんです。

どんなお仕事をされていたんですか?

吉田:出版社で記者をやっていました、IT系のビジネス誌でした。

会社勤めしながらバンドをつづける選択肢はなかったんですか?

吉田:ホントに忙しいので、たとえば日曜日を空けてその日に何ヶ月前から予定を入れても、その日にトラブルの類があると仕事を優先しないとマズいので、両立するには向かない仕事でした。

西田さんは昔からの知り合い?

西田修大:僕が大学1年のころに吉田さんは大学院の2年生だったんです。そのときからかわいがってもらっていたんですけど、いっしょにバンドをやろうという話になったのは僕が大学4年のときです。

吉田ヨウヘイgroupがいまのかたちになってきたのはいつくらいですか?

吉田:メンバーは僕が会社を辞めてからひとりひとり誘っていったんです。サックスの榎も途中で入ったんですけど、僕と彼は同じ先生にサックスを習っていて、サックスがもうひとりほしいと思っていたところで仲良くなったので、声をかけたんです。

吉田さんはサックスを習いにいったということはジャズから音楽に入ったんですか?

吉田:もとはロックです。ジャズは途中からで、ちょうどONJQが出はじめた時期に好きになって、サックスをはじめたいと思ったんです。

ONJQというと10年以上前ですね。

吉田:リアルタイムではなかったので聴いたのは7~8年前で、それから2~3年してサックスをはじめたんですね。

榎さんがサックスをはじめられたのはどういうきっかけだったんです?

榎庸介:音楽を意識的に聴きはじめたのはロックからで、そこから年代をたどってビートルズにいって、ザ・フーにいってブルースにいって、最終的にジャズにいきついて演奏したいと思ったんです。ジャズをやるならフロントでサックスを吹いて、ばりばりアドリブをとりたいと思って。サックスをはじめて、大学のジャズ研でやっているうちに「やっぱり誰かに習わないとダメだ」と思って、いまの先生に習いにいったんです。

そこで吉田さんに出会った。

吉田:習いはじめたのは同じ時期で、入って3ヶ月くらいで発表会があって、榎とはそこで会ったんです。そこでしか生徒同士が会う機会はないんですね。

吉田さんはギターは以前からされていたんですよね?

吉田:ギターは中学校からずっとやっていました。

ギターとサックスはまったくちがう楽器ですよね。あまり兼任することはないと思うんですが、なぜサックスだったんですか?

吉田:ONJQを聴いたのと、ラウンジ・リザーズの3枚め(『ヴォイス・オブ・チャンク(Voice Of Chunk)』)にマーク・リボーが参加しているんですけど、それを聴いてびっくりしたんです。ジョン・ルーリーはサックス奏者ですけど、ギタリスト的な感性でサックスを操っている音楽だと思ったんです。

そうかもしれない。

吉田:バンドをやるにあたり、新しいことをやるためにはギターの新しい方法というか道筋を見つけなければいけないと思ったんですけど――

新しい方法というのは、ベイリー的な、あるいはフレッド・フリス的な、ギターという楽器をめぐる方法論の更新ということですか?

吉田:そうです。でもギタリストの感性でサックスを使ったら新しいものが見えてくるんじゃないかと思って、ラウンジ・リザーズの3枚めの音楽性を基本に考えたということと、ONJQが好きになったので、だったらサックスをがんばれるんじゃないかなということですね。

では吉田さんはギターによる作曲とサックスによる作曲、器楽ごとに作曲の方法がちがうと考えていたということですか?

吉田:そうです。ロックにはギタリストが多いしギタリスト的な感性でつくられている音楽だと、ギターをやっているからこそ思うことが多かったんです。サックス奏者のひとがロックをやろうとするのとギター奏者がサックスを演奏してロックをやるのとでは、けっこうちがうだろうなという思いがありました。

いろんな楽器を入れることで音楽の可能性の幅を広げていきたかった?

吉田:サックスとかフルートとか管でロックをやるだけでも、聴いたことがない音楽をつくるためのハードルは下がると思いました。可能性を広げるというより、とっくにやられていてもいいはずの音楽なのにフォーマットが固定化しているせいでやられていないというイメージ。それを掘りだそうという感じです。

とはいえ大所帯になるとバンドの機動力は鈍りますよね。せっかく会社辞めて動きやすくなったのに、メンバー全員に電話して予定を立てるのは大変だったんじゃないですか?

吉田:最初はぜんぜんうまくいかなかったですけど。でもけっこうまじめなひとがそろったというか、時間をともにするうちに仲良くなったというか、そういった感じだったんですね。

ほかのメンバーの方もたまたま知り会ったんですか?

吉田:ドラムの高橋(‘TJ’恭平)くんだけは以前に対バンして、憧れて声をかけたという経緯でして。事情はそれぞれちがうんですけど、ひとりひとり知り合って誘いました。

いまのメンバーにおちついたのは――

吉田:全員がそろったのは今年の1月、レコーディングの2週間前ですね。

吉田ヨウヘイgroupとリーダー名を冠したバンド名にしたのはジャズ的な習わしですか。

吉田:それもあったんですけど、仮でつけたのがそのまま残ったのが大きいです。仕事を辞めるタイミングでそれまでやっていたバンドもやめて、このバンドをたちあげたので、とりあえず名乗っておいて時期が来たら変えようと思っていたんですけど。

西田:もともとはソロでしたから。イメージ的には吉田さんがソロをやるっていうの(で)に俺がギターを弾きにいく、という感じに近かったです。

おふたりともほかのバンドにも参加しているんですか?

榎:固定して活動してるバンドはないんですけど、話が来たらやるかという感じで片足つっこんでいるバンドはいくつかあります。

西田さんは?

西田:俺はこのバンドだけですね。あとよしむらひらくのサポートをずっとやっています。

ラウンジ・リザーズの話がありましたけど、彼らのような音楽をやろうと思っていたわけではないですよね?

吉田:でもそんな感じでしたよ。

西田:あったね。

彼らは80年代のロフト・ジャズのバンドで、いまの20代にはうけなさそうな気がするんですが。

吉田:3枚めが好きなのはめずらしいかもしれませんが、ファースト(『ザ・ラウンジ・リザーズ』)なんかだと菊地(成孔)さんをはじめ、ディスクガイドでよく紹介されていることもあって、わりと知られてると思います。ファーストはけっこうジャズだと思うので、僕らはあそこまでのものは想定していなかったですが、3枚めのジャズかロックかどっちかわからない感は想定していました。

ほかになにか参考にしたレコードなりミュージシャンなり、あげていただけますか。

吉田:僕はダーティ・プロジェクターズがすごく好きなんですよ。ザ・ナショナルとかベイルートとか、ブルックリンのバンドには好きなのが多いですね。

西田:僕はバトルズ、レッチリ、レッド・ツェッペリンですね。

名前を聞くだけでオナカいっぱいというか食い合わせが悪そうですが。

西田:好きな音楽はいっぱいあるんですけど、とくにそれらが好きなのはアンサンブルがいけているところです。

レッチリもそうなんですね。

西田:はい。あのアンサンブルはやはりノリのおもしろさだと思うんです。ジョン・フルシアンテはハネていないけどチャド(・スミス)はハネているとか。単純な熱量と、完成度以前に個々人のプレイヤーが熟達していることで、雑に聴こえるはずのアンサンブルが悪い方向にふれないところが好きですね。

原稿を読み上げるような説明でしたね(笑)。

西田:(笑)そういうことをごちゃごちゃ考えるタイプなんですよ。

榎さんは?

榎:僕は菊地さんから好きで、そこからマイルス・デイヴィスに入っていった感じです。マイルスのいろんなスタイルのバンドをちゃんと自分の色でできる、バンドごとにキャラクターはころころ変えるんだけど芯がとおっている、パーソナリティをちゃんと出せるところが好きです。

どの時期のマイルスがお好きですか?

榎:全部好きなんですよね(笑)。

『カインド・オブ・ブルー』でも『ドゥ・バップ』でも?

榎:『バース・オブ・クール』から『ドゥ・バップ』まで好きです。逆に時期ごとにちがう気がしないんですよね。

[[SplitPage]]

自分が思っているミクロな問題は生活環境が変わっても解決しないし、大きい話でも、PM2.5や異常気象は都市レベルで環境が改善されても避けられない。それでも都市が開発されて、そのなかには幸せなひとや不幸なひとがいっぱいいる。 (吉田ヨウヘイ)


吉田ヨウヘイgroup
Smart Citizen

Pヴァイン

RockJazzExperimental

Tower HMV Amazon iTunes

『Smart Citizen』はヴォーカルとコーラス、アレンジ、ギターのリフレインのつくり方などもおもしろかったです。

西田:“ブールヴァード”ですか?

“ブールヴァード”もそうですし“新世界”も。あとファゴットとフルートとサックスなどの管の使い方もおもしろかったです。アレンジの主導権は吉田さんですか?

吉田:“アワーミュージック”の管楽器のパートをフルートの子がつくったりだとか、いくつかメンバーに託したところもありますが、基本的に9割方、僕が考えています。

ホーンも含め譜面を書くんですか?

吉田:打ち込んでそれを譜面にして渡します。

弦楽器の編曲も吉田さん?

吉田:はい。

ギター・リフのアイデアも西田さんではなく吉田さんですか?

西田:ファーストの『From Now On』のほうが自分のアレンジが多かったです。今回もアレンジしているところもありますが、ギターのリフレインを考えたのは全部吉田です。

吉田:たとえば“新世界”だと、60年代のジャズのレコードでヴィヴラフォンを早弾きしているのがあって、これをエレキでやるとおもしろいんじゃないかと、西田くんに聴かせました。こういうのつくるよって。

ある曲を聴いて気に入ったフレーズを管なりギターなりに置き換えることはよくありますか?

吉田:ファーストの曲で、ダーティ・プロジェクターズの曲でベースの裏打ちが恰好いいなと思う曲を、ハイハットの裏打ちに応用したりしたことはありますね。全部ではないけどわりとあるかもしれません。

1曲目の“窓からは光が差してきた”でピアノの背後にノイズがありますよね。それは楽音だけではなくノイズも自分たちの音楽には含むという意志のあらわれですか?

吉田:僕はジム・オルークがすごく好きなんですが、ポップスにそういったものがもっとあるべきだとはいい曲ができたのでノイズを入れてもおもしろいかなと思っただけで、絶対ノイズ的なものを入れていくぞという強い気持ちはないです。

アルバムはコンセプトをもとに構築したのでしょうか? それとも曲がたまって自然とこういったかたちをとった?

吉田:曲ができて自然とこうなりました。

なにがしかのコンセプトがあったわけではなかった?

吉田:そうですね。

『Smart Citizen』というタイトルの由来を教えてください。

吉田:さいきん、「Smart City」という言葉がよく使われているなと思っていたんです。僕はIT系の記者だったので。

“Smart City”というのはどういったものですか?

吉田:都市全体の電力使用量を機械で管理して環境配慮型の社会にしようという動きなんです。そういうことを考えているときに、ふと、教育施設などの整った、お金持ちしか住めないような都市に住んだらどうだろうと思ったことがあったんです──いま僕はお金がないので。それで“新世界”の歌詞を書いたんです。自分が思っているミクロな問題は生活環境が変わっても解決しないし、大きい話でも、PM2.5や異常気象は都市レベルで環境が改善されても避けられない。それでも都市が開発されて、そのなかには幸せなひとや不幸なひとがいっぱいいるだろうなと漠然と思ったときに、そういった都市のなかで暮らしているひとを描けば今回のアルバムは成り立つんじゃないかと思いました。一曲から発想して全部通底させた感じです。

歌詞を書くにあたりそういった前提を置いていたということですか?

吉田:いや、それも後づけです。歌詞については全部主人公がちがっているし、一人称で書いているので自然と生活のいろんな場面をきりとった歌詞になっているかなとは思っています。

恋愛の歌うんぬんではなくて日常の断片を描きたかった?

吉田:僕は歌詞をつくるのが苦手で、放っておくと誰にもなんにもつっこまれないような歌詞しか書けないんですよ(笑)。ヤバイっていわれないことだけが目的になっていることがあるんです。

どうしてそうなるの?

吉田:思いを吐露するのが得意じゃないんだと思います。曲を書くひとにはめずらしい、普通のひとなんです(笑)。西田くんとは長いことバンドをやっているので、歌詞については相談していて、どんな事象でも恋愛に絡めて危ない感じを出していこうという話なんかはけっこう前からしていました(笑)。

西田:人間の体温がない歌詞になるんですよ(笑)。だから恋愛にするとなまなましくなって――

吉田:ディテールを膨らませればさらに恋愛っぽさが増すから、もう、そうしようって(笑)。そうしないとなんで書いているのっていわれがちなんですよ。

でも、言葉でなにかを訴えかけるより情景を描くことでイメージが誘われるところに、私は好感をもちましたよ。

吉田:ありがとうございます。

そして『Smart Citizen』には、全9曲の関係のなかで浮かびあがるものもあるとも思うんです。曲順も吉田さんが決められたんですか?

吉田:僕が決めたんですけど、ライヴでやってきた曲順とけっこうちかいです。

西田:最終的にこれしかないなという感じでしたよ。

ライヴを重ねていくうちに吉田ヨウヘイgroupらしさがうまれていったということですか?

吉田:入って1年目のメンバーが多いので、それはまさにそうでした。

唐突ですが、みなさん何歳ですか?

吉田:僕がみんなより上で32で、西田が今年27。それがふたりいて、あとは23~24歳ですね。

吉田さんがお兄さん役ですね。

吉田:どちらかといえば西田がお兄さんで僕はお父さんですかね。

西田:さいきんそれがほんとうに定着してきましたね。

吉田さんのリーダー・バンドは吉田ヨウヘイgroupがはじめてですか?

吉田:過去にもありますよ。

このバンドでつづけていくという決意をもって会社を辞めたんですもんね。

吉田:でもそれはけっこうゆるいところもあって。彼とやっていたバンドがうまくいけばいいなくらいのつもりで会社に辞めるといったら、辞めるまでの期間でうまくいかなくなったんです。

どうしてうまくいなかくなったんですか?

西田:いろんな理由があるけれども、いちばんは僕と吉田さんの問題ですね。

吉田:西田くんが曲を書きはじめて、作曲もいけるかもという感じになってきたんです。プレイヤーとしては僕より彼のほうがレベルが上で、自分がバンドを仕切れなくなってきたというか、やりたいことがうまくとおらなくなって、メンバーも僕より彼の意見を聞きたいという状況にもなってきて。それだったら僕ももう一度自分のやりたいことをやりきらないといけないと思ったんです。

それがどうしてまたいっしょにやることになったんですか?

吉田:僕と彼はすごくちがうと思っていたんです。僕はフォーキーなうたものをやりたくて、西田くんは演奏力があったのでテクニカルな方向にいきたいのだとばかり思っていました。でも、僕がつくる曲で彼がギターを弾かなくなったら、それまでの自分たちの曲はお互いの影響でつくったものだという感覚が強く出てきたんです。

では吉田ヨウヘイgroupになって、西田さんは離れていた期間があったんですね。

吉田:つくってから半年経って入りました。さっきのリフの話もそうなんですが、僕がつくっている曲にしても、西田の演奏力が計算に入っているから成り立つところもあるんです。自分の創作に切り離せないところで彼とつながっていたことに気づいたので、仲違いしたこともあったんですが、もう一回やろうかという話になったんです。

西田:いまは過去最高に関係がいいですよ。

[[SplitPage]]

俺のギターのスタイルは吉田とつくってきたところが大きかったというものあるんです。吉田さんの曲があって、それに要請されてのプレイがあり、逆に俺がこういったギターを弾けるからこういった曲が存在するというところもあり、それが両輪で進んできたのでいっしょにやるのが楽しいんですね。 (西田修大)


吉田ヨウヘイgroup
Smart Citizen

Pヴァイン

RockJazzExperimental

Tower HMV Amazon iTunes

吉田さんは西田さんを当て書きしていたところがあったということですね。

吉田:そうです。西田くんもバンドを辞めて自分で曲を書いたほうがいいと思っていたみたいですが、そういった欲がじつはあまりなかったと気づいたみたいで。ひとの曲で自分が活きるならそれもやりがいがあるんじゃないかというか。

西田:けっきょく前のバンドのころは吉田さんがリーダーで――もちろんいまもそうなんですが、僕はその次にイニシアチブをとるひと、という感じだったんです。そのころは自分がけっこうな役割を担っていると思っていたし、自覚もありました。でも吉田さんがいなくなって自分がリーダーになったときに負う責任とか、作曲にかかる負担とか、逆にそれで得られるものは、想像していたものとはちがっていました。そうした経験があった上でいまのあり方を選択をしたことで、すごく自分の自我が安定したところもあります。あとはやっぱり、俺のギターのスタイルは吉田とつくってきたところが大きかったというのもあるんです。吉田さんの曲があって、それに要請されてのプレイがあり、逆に俺がこういったギターを弾けるからこういった曲が存在するというところもあり、それが両輪で進んできたのでいっしょにやるのが楽しいんですね。

要求に応えつつ提案することでバンドの音楽性ができてきた、と。

西田:そうですね。スタイル自体がそうなんじゃないかと。

ギタリストで影響を受けたひとは?

西田:ジョン・フルシアンテ、彼は好きです。あとレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロ。でも最初に好きになったのはクラプトンとスティーヴィー・レイ・ヴォーンです。

古き良きギター・キッズですね(笑)。

西田:(笑)ギターをはじめたころはクラプトンとレイ・ヴォーンばっかり聴いていて、“クロス・ロード”をずっとコピーしてたんですけど、あるときレッチリを聴いて、すべてを端折っていっきにミクスチャーにいったんです(笑)。でも一貫しているのは、僕はギター・ヒーローだといわれているひとのギターが好きだということ。俺は目立っているひとが好きだし、いちばんやりたいのはなんといってもギターが恰好いいと思える演奏だったりもするんですね。さっきの話のように、楽器をギターに置き換えるというようなこともやっていきたいんですが。

しかし大所帯のバンドではバリバリ弾きまくるのはむずかしい気もしますね。スペースの問題がありますから。

吉田:それで参考にしようとしたのがマーク・リボーのように、ほかの楽器があっても入りこむのがうまいギタリストだったんですね。

西田:あとはネルス・クライン(ウィルコ)やジョニー・グリーンウッド(レイディオ・ヘッド)も参考にしました。

具体的にどういう点が参考になりました?

西田:いらないことをやっているところです(笑)。

吉田:西田はバンドのなかでひとりだけ飛び道具なイメージなんです。しっかり弾いているんだけど、いなくてもいいような感じでいてほしくて。

いなくなるとなにかが大きく削がれる感じ?

吉田:そうです。楽譜に表せる部分では必要ないことをしているんだけど、すごく印象を残すようなギターであってほしい。その参考になるアプローチはいつも探していますね。

『Smart Citizen』は見事にそうなっていると思いますよ。音色や空間性にも気を配った玄人好みのプレイだと思いましたが、その洗練は新人らしからぬといわれたりしませんか?

吉田:意外にそうはいわれないんですよ(笑)。

西田:ライヴをやっているときの俺たちは「荒(粗)い」という意味を含めて「若い」んだと思うんですよ。でも「音楽たのしいよね、やったろうぜ」という溌剌さは表面的にはあまりないかもしれない。

みなさんにとってライヴとスタジオは同じですか? ちがいますか?

吉田:僕はけっこう同じようなモチヴェーションで臨みます。

アルバムの曲を再現するためのライヴということですか?

吉田:スタジオとライヴがぜんぜん別だというひとがいるじゃないですか。それから較べると7割くらいは同じでいいと思っています。録音ってむずかしいなと思うんです。

吉田さんはご自分で録られたりもしていますね。

吉田:自分で録ったり、エンジニアを入れることもありますが、スタジオとライヴのちがいを考えると、ベストのライヴを録音したとしても、CDの音圧で聴いたらいいと思わないかもしれない。それを同じように感動させたり納得させるには、もっと音が必要だったりすると思うんです。ライヴ感があってそのまま録ったようだといわせるにしても、なにか足すものが要るとか。ですから、ライヴの感動をそのままスタジオで再現できればいいとは思うんだけど、そのまま録ってもうまくいかないとは思っています。

西田さんは、ギター・ヒーローとおっしゃいましたけど、ギター・ヒーローにとってはライヴこそ本領を発揮できる場だと思いますが。

西田:正直にいいますけど、俺はギター・ヒーローに憧れて自信があるところもあるんだけど、基本的に弱気なんです。ギターはライヴだからライヴになればすべてを忘れていけ、といえるかといえば、まだいえない。さっき吉田がいったように、ライヴとスタジオのどちらかに比重を置くという考え方からすると、俺らはすごいフラットだと思うんですよ。でも俺はライヴが好きで、リハーサルが好きなんです。

みんなと演奏するのが好きなんですね。

西田:そうみたいです。たとえば、ギターをジャッと弾いてドラムがパンッと入ったときに音圧が来たとか。ライヴでお客さんがもりあがってくれたら、それが意図したところでもそうでなくてもすごいしあわせだとか。このために生きているんだって思うこともあるけど、音楽的にライヴとスタジオを完全に区別するかといえばそうではないですね。

榎さんはいかがですか?

榎:自分は、ひとりでブースでクリックをもらって演奏するよりも、みんなでいっしょに演奏するほうが単純に楽しいですね。

ロック・バンドのなかでのサックスの位置は不安定なところもあると思うんですが、榎さんは吉田ヨウヘイgroupのなかでどのような役割を担っていると考えていますか?

榎:僕らがふつうのロック・バンドとちがうのは、曲をつくってアレンジしている吉田さんが、サックスも演奏するところだと思うんですね。そのなかで自分は西田さんの立ち位置に似たものを意識しているところはありますね。あってもなくてもいいんだけどすごく大事なもの。ほかの楽器のやるべきことをサックスに置き換える、そこにこのバンドの色があり、評価されているところでもあると思うので、もっとそういうサックスを吹けるようになっていけばバンド自体がもっとおもしろくなるんじゃないかとは思っています。

多楽器主義のバンドがさいきん多いじゃないですか。

吉田:そうですね。

そういうバンドと吉田ヨウヘイgroupを較べてどう思いますか?

吉田:これは僕が思うだけかもしれないですけど、管楽器入りのバンドの多くは管楽器を入れることで管楽器によるパーティ感とか多幸感とかをもたらそうとしていると思うんです。でも僕らは管楽器が入ってもあまりしあわせではない(笑)。狙いはけっこう真逆だと思います。

歌詞でもしあわせな状態がやがて終わるだろうというトーンが支配的ですよね。

吉田:歌詞でいうと、ファースト・アルバムを出してセカンドを録る段階になってから、バンドの調子も上向きになって聴いてくれるひとも増えてきて、もしかしたら今後もっと安定して胸を張って音楽ができるかもと思っていたんです。ファーストのときは不安が強くて、その不安定な状態を吐露するとドロドロした歌詞になるだろうと思っていました。いまはメンバー全員足並みがそろっていて自信が生まれ、でもファーストのころの不安ものこっているからこそ恥ずかしくないと思ったんです。ぎりぎり聴けるような温度感というか。不安と自信が共存した心情を吐露できるのは、いい意味でいましかないだろうから、歌詞ではそれを出しちゃおう、と。その意味では楽観的なんですけどね。

歌詞のなかにみえる街あるいは都市や家というものは吉田さんにとってどういうものですか?

吉田:舞台設定を考えるときにまず思いつくもの、ですかね。歌詞を作るためにディテールを詰めていくと話が転がっています。

自分たちは都市生活者だという自覚がある?

吉田:いや、それしか思いつかないんです。松本隆さんや松山猛さんが好きなので、語彙が豊富だったら「一張羅の涙」とか、見たこともない組み合わせのセンテンスをつくってみたいんだけど、なにも思いつかない(笑)。日常的な言葉を設定しているからそうなるんです。

[[SplitPage]]

僕は元ネタがあったほうがハードルが高く感じられるんです。その曲を元にそれを越えるクオリティの曲をつくる。そういった感覚があるので、ゼロからつくらないようにしています。配分でいえば、全体の五分の一くらいを自分から出てくるものにしたい。 (吉田ヨウヘイ)


吉田ヨウヘイgroup
Smart Citizen

Pヴァイン

RockJazzExperimental

Tower HMV Amazon iTunes

曲を書くときって、どういう順番ですか? 詞はたいへんだとおっしゃいますが、メロディや和声進行、リズムなどの要素でどこから先に生まれるという決まりのようなものはありますか?

吉田:曲ごとにちがいます。 “ブールヴァード”であれば、あるレコードからリズムの元ネタをもってきて、その上に乗せる管楽器のパートをまたちがうレコードからもってきて、それが3つか4つたまってあるとき頭の中でバッと混ざったので、それでつくりました。

それらの音楽がつながるのはどういったときなんでしょう?

吉田:自分だったら、このマテリアルならこの時代性から切り離して自分の曲にできるって思うことがあるんです。レコードを聴いていると。このリズム・パターンとシンコペーションだったら自分のものとして吐き出せるな、とか。それが自分の頭のなかで混ざれば、ということですね。

ゼロからつくるより、なにかに対応してつくっていく?

吉田:いろいろ試したんですけど、僕は元ネタがあったほうがハードルが高く感じられるんです。その曲をもとに、それを越えるクオリティの曲をつくる。そういった感覚があるので、ゼロからつくらないようにしています。配分でいえば、全体の五分の一くらいを自分から出てくるものにしたい。

いわゆるオリジナリテイ、クリエティヴィティとは真逆の考え方ともいえますよね。

吉田:レコード屋で働いていることもあって、作曲の原動力にするための曲を聴ける時間が増えたんですよ。そうすると、パクるということを作曲の起点に置いたとしてもネタ切れの心配がない(笑)。

使える/使えないというかつてのDJのような観点で音楽を聴いているということですか?

吉田:感動する音楽で自分と関係ある、感動するけど自分とは関係ない、自分とはまったく関係ない、音楽をこの3つくらいに分けていて、聴くとすぐそのレールに乗るんですよ。

榎さんは吉田さんの考えに同意できますか?

榎:僕はそのような考え方ではないですね。でもなにかを聴いたとき、自分のいきたい方向性からの距離でそれをとりいれるかどうかは決まってくると思うんです。ここまでであれば自分の演奏にもスパイスとしてとりこめるんだけど、これ以上離れるとスパイスにすらならない。その線引きはたしかにあって、その遠さでグラデーションみたいになっているイメージはあります。

西田:たぶん俺は吉田さんとやっている期間が長くて、どこまでが自分本来の考えで、どこまで吉田さんとの作業のなかで出てきたものかわからなくなっている部分はありますね。俺も音楽を聴くときはそういうところがあるし。とくにさいきんはギターに集中しているぶん、「この曲のこのコード進行でこの洗練されぐあいでこのビートの精確さのときに、ギター・ソロがこんなふうに入ってくるとダサいけど、ファズの音色でこういったふうに入れた場合はアリだから、ジミヘンのような音色でサックスの運指を参考にして弾くんだけど、弾き方の粗さとしてはジミー・ペイジで、上に乗るものはスティーリー・ダン」――みたいなことはいつも考えますよ(笑)。

こみいっていましたがわかりやすい譬えでしたね(笑)。

西田:そういったことを吉田といつも話しているんですよ(笑)。

最初にいった、あるべきなのにいまだない音楽を掘り出す方法がそれなんでしょうか?

吉田:「素材としてロックで使われていないけどロック的な感性で聴いてもいいと思えること」をみつけることに僕は興味があって、それをレア・グルーヴやジャズからとれるとうれしいんですね。

西田:積み上げていくほうがむずかしいし、おもしろい。でもそれをさらに越えるものが真っ白な状態から出てきたら、夢のような話だとは思いますけどね。

やっているうちにそういうようなところに来ることもあるんじゃないですか。

吉田:作曲のレベルはそういうことをやっているうちに上がっているとも思うので、何枚かアルバムを経たあとに機会があれば、手法としてまっさらな状態からつくりはじめることもあるかもしれません。

メンバー同士のかねあい、バンド内の関係性の変化もあって、音楽もまた変わっていくかもしれないですもんね。

吉田:音楽のアイデアを言葉できちんと伝えることができるようになりたいと思っているんです。それが自分だから思いつくのではなくて、アイデアそのものがおもしろいからほかのひとが乗れるものであってほしい気がしています。西田とはそれが共有できる感じになってきているので、全員に浸透したらもっと楽しいですね。自分がつくるよりも各パートのひとたちが楽器の特性をふまえつつ曲にしていけたら……そこまでいきたいですね。

東京のインディ・シーンのなかで吉田ヨウヘイgroupと距離感がちかいのはやはり森は生きているですか?

吉田:仲良しだからあまりわからないですね。

ライバル関係ともいえると思いますが。

吉田:たしかに西田くんと森は生きているの岡田(拓郎)くんはすごいバチバチしているし(笑)。

西田:ほんとに(笑)。

なんで?

西田:俺は彼を尊敬しているので、「うれしいよ」という前提で聞いてほしいんですけど、互いにギタリストとして意識できる対象だと思っています。世界が狭いかもしれませんが。たとえば、俺のライヴを彼が観にくると、「今日はプレイ内容としてはアレなんだけどあそこはもうちょっとああしたほうがよかったんじゃない」と意見を言う(笑)。逆に俺が彼らのライヴを観に行って、演奏の後に会うと、「マジおまえには会いたくなかったわ」とかいわれますもんね(笑)。

duennlabel - ele-king

 カセットテープ作品のリリースで知られる福岡のduennlabelが東京で、伊東篤宏ともにイベントを主催する。ライヴ出演には、イクエモリ──ジュリアンナ・バーウィックとの共作も記憶に新しい、ニューヨーク在住の、元DNAというキャリアを持ちながら、現在多方面にわたって活躍しているサウンド・アーティスト──も出演する。ほかに、浅野達彦や白石隆之といったベテランから、新世代のあらべぇなどなど。信用に値するメンチです。
 そこらへんの電子音楽には飽き足らない方は、ぜひ、西麻布に足を運んでみよう!

【伊東篤宏 presents...TRONITO feat duennlabel 】
6月28日(土)
19:00~5:00...
¥3000(1D)~24:00
¥2500(1D)24:00~

LIVE:
イクエモリ
伊東篤宏 [OPTRON]
ADJ [山本ムーグ+木村豊]
ダエン[duennlabel]
浅野達彦
REBUSTAPE NoiseElectronicDivision
Yagi
Canooooopy
KΣITO [Keito Suzuki]
drowsiness

DJ:
小林径 [New Tribe]
白石隆之
あらべぇ
Takeshi Kagamifuchi [Hz-records]
HARRY:淑蘭◎ [BULLET'S/SECOND LOBBY]

.............more!!!!!!

VJ
UCNV
中山晃子
JULIETTA

duennlabel
https://duennlabel.tumblr.com/

https://pastevent.tumblr.com/

BULLET'S
https://bul-lets.com/


■ Dum Dum Girls @ Prospect Park 6/21/2014

 6月も毎週のように、たくさんのイヴェントが開催されている。2週目はノースサイド・フェスティバル、3週目は、恒例のマーメイド・パレードがコ二ーアイランドで、メイク・ミュージックNYがNY中でおこなわれ、プロスペクト・パークでは、ダム・ダム・ガールズ、ホスピタリティ、ティーンというインディロック・ファン感激のラインナップのフリーショーが開かれたセレブレイト・ブルックリンという以前レポートした、チボ・マットと同じイヴェントである(ロケーションは違う)。

 公園内では、家族やグループによるBBQがそこかしこである。その良いにおいの間をすり抜けていくと、バンドシェル=ステージが見える。たくさんの人が芝生に寝転がったり、ピクニックをしている。

 現在夏のフェスティバルを慣行中のダム・ダム・ガールズ、コチェラサンフランシスコでは、アート作品のようなコスチュームで登場したが、ファミリーフレンドリーの今回のショーでは、よりコンサバな衣装だった。彼女たちのショーでは、いつも黒ずくめの彼女たちが白で登場したりなど、コスチュームの話題が絶えないのだ。

 ダム・ダム・ガールズのライヴは何度見ても、そして、見るたびに「なんて痛いんだろう」と思う。金髪から黒髪になったディ・ディ・ペニーが歌っているときは、彼女に何かが憑依しているようにも見えるし、歌に何かを封入して、祀り上げているようにも見える。
 今回は、新アルバム『Too True』からの曲がほとんどで、ライヴには、サードギター(男性)が入り、全体的にタイトで凝縮された演奏だった。ライヴの後半では、新作から、アルチュール・ランボーのもっとも有名な詩──「酩酊船」を歌にした“Rimbaud Eyes”を演奏すると、「End of Daze EP」に収録されたザ・スミスのもっとも有名な曲のカヴァー、“There Is a Light That Never Goes Out’”を披露した。
 そのとき、ディ・ディはギターを弾かず、ハンドマイクで歌に集中した。絶望の淵を生きる若者の心情を綴ったモリッシーの悲しい歌を、彼女は、限界の限界まで搾り出すような声で歌う。ザ・スミスの音楽がいまでもアメリカで生きていることを証明するかのように、観客の歓声は半端なかった。
 ラストソングの”Coming Down”を歌い上げたとき、オーディエンスは拍手喝采。野次もあったが、それらは一切無視で、MCもなし。それが彼女たちのスタイルだ。

 ホスピタリティ、ティーンが残念ながら見逃してしまったが、見た人に聞くと、「ティーンは見るのに面白いライヴだった」、と。
 たしかティーンは、ヒア・ウィゴー・マジックの元メンバーがやっているバンドだ。ヒア・ウィゴー・マジックといえば、最近ジョン・ウォーターズがリリースした新しい本(ヒッチハイク本?)でジョン・ウォーターズがたまたまヒッチハイクしたのがツアー中のヒア・ウィゴー・マジックで、彼らが「たったいまジョン・ウォーターズをピックアップした」ツイートしたことで、ジョン・ウォーターズがヒッチハイクしているのがばれてしまった、などなど(著者はブック・サイン会に行った)面白いネタがある。

セットリスト: ダム・ダム・ガールズ @ プロスペクトパーク
6/21/2014
Cult of Love
I Got Nothing
In the Wake of You
I Will Be
He Gets Me High
Too True to Be Good
Are You Okay?
Rest of Our Lives
Bedroom Eyes
It Only Takes One Night
Under These Hands
Rimbaud Eyes
Lord Knows
There Is a Light That Never Goes Out
(The Smiths cover)
Lost Boys & Girls Club
Coming Down

Diamond Version - ele-king

 現代アートは、メディアと人の関係を批評的にリ・プレゼンテーションする。ゆえにポップ・アートは大量に消費される複製品をネタにしてきた。そして消費社会特有の空虚な隙間から不意に表出する死を拡張させていく。空虚/死。そこにおいて美の価値判断は転倒し、結果として批評性が生まれる。その批評性ゆえ、作品の価値も生じる。価値はトレードされ、金銭を生む。
 たとえば、アンディ・ウォーホル、リチャード・ハミルトン 、ロイ・リキテンスタイン、ゲルハルト・リヒター、リチャード・プリンスを思い出してみよう。彼らは消費社会のきらびやかな(もしくは捨てられた)空虚に、積極的にアジャスト/アディクトしてきたアーティストたちである。彼らは空虚なきらめきを、クールに模倣し、コピーし、ウィルスのように増殖させる。
 そして2014年、ダイアモンド・ヴァージョンは、彼らの方法論を意図的に借用する。そう、広告やマーケティングに塗れた世界に「反撃」を加えるために。

 ダイアモンド・ヴァージョンはカールステン・ニコライとオラフ・ベンダーによる音響エレクトロ/インダストリアル・ミュージック・ユニットだ。
 カールステン・ニコライは、ドイツの電子音響レーベル〈ラスター・ノートン〉を主宰するドイツ出身のアーティストである。彼はアルヴァ・ノト名義で多くの電子音楽作品を発表してきた。また、池田亮司とのユニットcyclo.や坂本龍一とのコラボレーションも知られており、まさに現代電子音響シーンの最重要人物といえる。さらに本人名義で多くのインスタレーション作品を制作しており、高い評価を得ている。
 オラフ・ベンダーも同じくドイツ出身のアーティストだ。〈ラスター・ノートン〉からバイトーン名義で音楽作品をリリースしている。彼は、1996年にフランク・ブレットシュナイダーとともに〈ラスター・ミュージック〉を設立した。後にカールステン・ニコライの〈ノートン〉と合併し、〈ラスター・ノートン〉が生まれたというわけだ。いわばドイツ電子音響シーンの中心人物というべき人物である。その作風はエレガンスと攻撃性が同居したメカニカル・エレクトロニクス・ミュージックといえる。

 2012年、この2人がダイアモンド・ヴァージョンというユニットを組んだという報は、彼らの音楽を追いつづけてきたリスナーに瞬く間に広まった。 ダイアモンド・ヴァージョンは、アナログ盤でのEPシリーズをリリースし、勢力的なライヴ活動を世界各地で行う。2013年には日本にも訪れた。EPシリーズには、映像作品(PV)も同時制作され、ユニット/トラックのテーマを増幅させる役割を担っている。
 カールステンとオラフの生み出すトラックは、これまでの電子音響テイストから最先端のデジタル・ジャーマン・エレクトロ(インダストリアル)へと変貌した。だがその変化は、近年の2人のサウンドからするとさほど意外ではない。たとえば、2011年にリリースされたアルヴァ・ノト『Univrs』、バイトーン『Symeta』の音響エレクトロなサウンドの系列に繋がる音ともいえる。また、ノトとブリクサ・バーゲルトのannbも重要だ。さらには〈ラスター・ノートン〉自体も、近年、エレクトロ、インダストリアル化しつつあり、00年代初頭のクリック/グリッチな音とは一線を画する音楽作品をリリースしているのだ(ちなみにダイアモンド・ヴァージョンのリリースは〈ラスター・ノートン〉ではなく、老舗〈ミュート〉から)。
 そして本作『CI』は、リリースまで時間をかけてこともあってか、とにかくクオリティが高いアルバムに仕上がっている。ビートもノイズもすべてが磨き挙げられ、まさにダイアモンドのようなきらめきを放っているのだ。

 だが真に重要なことは彼らが、あるクリティカルな意識で、自らの「ポップ」化に向かい合っている点でもある。本作『CI』は、オフィシャルのアナウンスにも書かれているとおり「ブランドスローガンの派手な広告、そして狡猾なPRなどのマーケティング合戦の時代への反撃」として制作されたという。CIとはコーポレイトアイデンティティの略であるのはいうまでもない(「企業ロゴ」をテーマとしたアルヴァ・ノト『Univrs』にも通じるテーマだろう)。
 ふたりは、ある戦略的な方法論をユニット/アルバム・コンセプトに導入したように思える。自ら「ポップ」になることで通俗的なポップを打つとでもいうべきか。ここで私なりにダイアモンド・ヴァージョンの「4つのポップ/アート戦略」を提示してみる。

●ポップ/アート戦略1「ミュージック/コンテクスト」
 クラフトワークなどジャーマン・エレクトロニクス・ミュージックの伝統と現在形/型である。エレクトロなビートを導入し、同時に80年代中期のキャバレー・ヴォルテールのような流行のインダストリアル/テクノへも接近している。また、ペットショップ・ボーイズのニール・テナント、元祖スーパーモデル・詩人のレスリー・ウィナー、オプトロンを駆る伊東篤宏 、〈ラスター・ノートン〉からアルバムをリリースしたばかりのKyokaなど、多彩かつ個性的なゲストの参加によって、 音楽のコンテクストの複雑化と錯乱を実現している。また、声の導入も重要なポイントといえよう。

●ポップ/アート戦略2「アート/クリティック」
 末期資本主義社会(=グローバリズム社会)において「流通するイメージ批判=ポップ・アート」としてのデジタル・ミュージックを成立させている。世界に溢れる広告的なイメージをPVの映像などに引用することで、その本来の機能を停止し、ダイアモンド・ヴァージョンなりの新しいクール/ポップへと変換。EPシリーズのPVのみならず、アルバムのアートワークにも引き継がれているコンセプトである。そのPVはデイヴィッド・ブレア『WAX』を想起してしまう。

●ポップ/アート戦略3「サウンド/アディクト」
 その磨き上げられた音響と音圧がアディクトを促す。このアルバムのミックス/マスタリングは精密かつ端正である。また、全体にマイナーコードのトラックが多く、そこに硬質なダイアモンドのようなビート、ベース、ノイズがストロボのように点滅しているのだ(ロック的な、ともいえる)。高音と低音の見事なコントラスト、そこはかとないダークさ。この音の良さが聴覚へのアディクトを生む。ゆえに、あの異物感に満ちたkyoka参加のトラックが際立つ。

●ポップ/アート戦略4「ポップ/イコン」
 その3つのポップ戦略から本作の存在意義が見えてくる。それは「ポップ/イコン」化である。メディア批判を内包しつつも、それ自体がクールで現代的なポップ/イコン足りえること。真のポスト・モダンの実現。ゆえにアルバム・タイトルが『CI』なのだともいえる。彼ら自身がデジタル・ポップ・アートなのである。

 「コンテクスト」「クリティック」「アディクト」「イコン」。この4つポップ戦略によって、ダイアモンド・ヴァージョンは自らをポップ/イコン化する。彼らはサウンドによって流通する広告イメージを意図的に模倣する。そして、その模倣によって、ウィルスのように社会に浸透する広告イメージの効用を停止させてしまうのだ。
 ポップ・アートの伝統とでもいうべき方法論である。それゆえ、このユニットの音楽やヴィジュアルには、微かなノスタルジー(いわゆる90年代初頭のビデオアート的な?)を感じてしまうのだが、何より重要な点は、この研ぎすまされたデジタル・サウンド/ビジュアルによって、現在でもポスト・モダン/ポップ・アートが成立してしまう点にある。私は、そこに時代のモード(の本質)を感じてしまう。世界、メディア、飽和、危機、模倣、反撃。そのような身振りが、いままた、とてもクールなのだ。

 クール・ビューティなダイアモンド・ヴァージョンのトラックを耳に注入すること。それは「世界」へのアジャストであり、同時にアゲインストだ。この疾走する両義性こそ、ダイアモンド・ヴァージョン、最大の魅力でもある。

interview with BORIS - ele-king

■CD(ALBUM+SINGLE)

BORIS - NOISE
Tearbridge

NoisePsychedelicRock

Tower HMV Amazon iTunes

■アナログ盤
BORIS - NOISE Daymare

Amazon

 海外のアーティストとの交流の中で、お互いの国のアーティストやシーンに関する意見交換は必至であり、筆者の経験においてはその中でボリスの名が挙がらないことはまずない。名義の表記にはそのときどきの音楽性の差によって使い分けがあり、ロックの中心へと向かう大文字のBORIS、ロックの外側へ向かう小文字のboris、たとえばそうした二項の往復の中に、90年代から誰よりもワールドワイドに活動をおこなってきた彼らだからこそのジャパニーズ・ヘヴィ・ロックがある。2011年発表の『New Album』からはメジャー・リリースとなり、彼らは日本のロック史における新たなる地平線を提示した。
 そして、このたび最新作『Noise』が発表される。ボリスにおけるインターナショナルとは、ボリスにおけるフィジカル・リリースとは、ボリスにおけるノイズとは、ロックとは? アルバム・タイトルとは裏腹に、近年でもっとも音楽的な作品となったともいえる『Noise』の深淵にダイヴする! ……ということでインタヴューに向かいましたが、なにぶん過去の思い入れも深いバンドなのでおそろしいほど緊張してしまい筆者はほとんどホワイトアウト状態でありました。(倉本)


■BORIS / ボリス
1992年に結成され、現在はAtsuo、Takeshi、Wataの3人体制で世界的な活動を続けるロック・バンド。これまでにおびただしいリリースがあるが、2000年代には『Amplifier Worship』『あくまのうた』『PINK』などの成功によって海外からも絶大な支持を集めるようになる。2011年に初のメジャー・リリースを行い、活動をさらに多元化させた。最新作は本年リリースの『NOISE』。

A:Atsuo
T:Takeshi
W:Wata
N:野田

当初はすごくブルータルでノイジーなアルバムになりそうな予感だった。それで、そのタイトルが降りてきて、終わってみたら逆にいちばん音楽的なアルバムになっていたんです。(Atsuo)

はじめに、今作『NOISE』は、ロックの中心へ向かうもの=大文字BORISとしての作品、という認識で間違いないでしょうか?

A:う~ん……。なんか、完成したら今までの中で一番音楽的なアルバムができたなと思って。だから今回は大文字BORISでいいかなーと。

毎回、最初に小文字borisか大文字BORISかというコンセプトを決めているわけではないのですか?

A:そうじゃないですね。

完成していく段階で振り分けるんでしょうか?

A:まぁ、だいたいそうかな……。作っている段階では何も考えてないことが多いので、できあがったら「こっちだね」みたいに。

アルバム・タイトルが『NOISE』とのことですが、ボリスは過去作も含めて象徴的なアルバム・タイトルが多いように見受けられます。先ほどおっしゃった、いままででいちばん音楽的であるアルバム『NOISE』に込められた意味は何でしょうか。

A:プリプロが全体的にでき上がった頃ですかね、タイトルとしてフッと「Noise」って言葉が降りてきて……。去年の春ぐらいですかね、「あぁ、もうこの感じでいこう」と。当初はすごくブルータルでノイジーなアルバムになりそうな予感だった。それで、そのタイトルが降りてきて、終わってみたら逆にいちばん音楽的なアルバムになっていたんです。

前作『Heavy Rocks』ですが、なぜ再びかつてと同じタイトルを冠したのでしょうか? BORISにとっての「Heavy Rock」に対する再定義ともとらえられるのですが。

A:あの時は、『Attention Please』と『Heavy Rocks』を同時にリリースしたんですが、その兼ね合いの中で、Wataのヴォーカル曲だけの『Attention Please』に対して、その当時の「Heavy」感を詰め込むという感じで、アルバム相互のキャラが別れていった。それで『Heavy Rocks』と同じタイトルでもいいかな? ってなりました。

ジャケットのデザインも同一で色ちがいということだったので、ボリスとしてのへヴィ・ロックの再定義があったのかなと思いまして。

A:そうですね。ただ、非常に感覚的なものですよ。言葉でこう定義するって感じでもなく、いまはこんな感じかなと。僕らのフィーリングとしての「Heavy Rock」が、あのときはあんな感じだった。

ロックのヘヴィ性に対する感覚の変化であると。

A:そうですね。やっぱり僕らの意識の中だけではなく、周りの状況、認識も変わっているじゃないですか。それってすごく大きいことですよね。

買ってくださるお客さんが手に持って、開封して、聴くという、フォーマットそれぞれのシチュエーション、流れまで含めてデザインしています。リスナーが作品に触れている、見ている時間も音楽の重要な要素です。(Atsuo)

なるほど。逆に僕にとってボリスの変わらない部分ということで、ひとつお訊ねさせてください。
 ゼロ年代半ばからヴァイナルの需要がグンと伸びた理由のひとつに、プロダクトとしてのフェティッシュなマーケットの拡大があげられると考えています。時期的に捉えてもボリスのフィジカル・リリースの方法論はそれらのパイオニアとも言えると思います。また音質の点でもCDとヴァイナルのマスタリングを明確に差別化してきたと思います。ボリスのフィジカルへの異常ともいえるそのこだわりとは何なのでしょうか。

A:CDとLPでもフォーマットが結構違うじゃないですか。サイズであったり、収録面が分かれていたり。買ってくださるお客さんが手に持って、開封して、聴くという、フォーマットそれぞれのシチュエーション、流れまで含めてデザインしています。リスナーが作品に触れている、見ている時間も音楽の重要な要素です。

出会いってことでしょうか?

A:はい。経験していく過程というか。それもイメージして。やっぱり音だけの世界観じゃなくて、聴いていただける人がいて、手に取ってもらうっていう経験があって、参加してもらうところまで含めて作品ですね。

まだ僕の手元に届いていない、来る『NOISE』2xCDと2xLPのフィジカルへのこだわりがあれば教えて下さい。

A:国内盤は友だちのReginaっていうデザイン・チームのリョウ君にやってもらいました。ジャケットはもう公開されていますけど、彼なりの「Noise」をこちらに提示してくれています。

印刷とか毎回異常にこだわっているじゃないですか。今回はどうなんですか?

A:国内盤に関してはそういったところ、ギミックではなくてもっとこう……見えない空気感とか、そういうところをつくり込んでいる感じかな。海外盤の方は僕がデザインを担当していて、そっちはまあ特色とか光沢感とかのギミック有り。Web上では絶対再現できないような。僕はそういうデザインしかできないんで(笑)。

でもそこはやっぱりすごく大事じゃないですか。僕は音源を買う要素としてそこがなければはじまらないみたいな部分もあったりするので。

[[SplitPage]]

僕らは、いろんな曲の連なりがあって、アルバムの中でのそういう作品世界っていうものを追っていくようなアルバム・バンドなんですよ。(Atsuo)


BORIS - NOISE
Tearbridge

NoisePsychedelicRock

Tower HMV Amazon iTunes

■アナログ盤
BORIS - NOISE Daymare

Amazon

逆にダウンロード販売とかって抵抗はありますか?

A:あぁ~……

どのあたりが苦手ですか?

A:あぁ~……。ちょっといまのは小さい文字にしといてもらえますか? フォントサイズ落としてもらっていいですか?

(一同笑)

わかりました(笑)。ただ、ボリスはアンチ・ダウンロードなイメージありますよ。

N:しかし、ボリスは頻繁に海外に行かれているわけで、アメリカなんかは本当にダウンロードが普及しているじゃないですか?

A:ただそのぶんアナログも伸びていますからね。

一般的にもそこは二極化していると思いますよ。たとえばボリスのリリースはプロダクト的にも価値があるので、音を単純に聴く行為を越えてみんな買うと思うんですよ。だからダウンロードのマーケットには単純に影響されない気がしますけど。

A:海外のレーベルからも、ボリスは他のバンドに比べてデジタル販売のパーセンテージがすごく低いって。フィジカルは売れるんだけど、もう少しデジタル伸ばしてくれないかって言われています。でもずっとこんな感じでやってきたので、とにかくわからないんですよ、ダウンロードって。実際自分が買ったことないし。さっきの話に戻りますけど、CDとかLPって自分が経験してきたように、手に取るところまでをイメージして作品づくりにフィードバックしていけるんですけど、ダウンロードは実際買ったことがないのでイメージしづらい。i-tunes、i-podももちろん使っていますけど、取り込む場合WAV、AIFFそのまま。とりあえずみんなmp3とかに圧縮するのは卒業した方がいいと思うなあ。ハードディスクも安くなっているし。

でもいまはそれだけで成立しているレーベルとかアーティストもいますよね。フィジカルのリリースがいっさいないレーベルとかもあるじゃないですか。

T:逆に「なぜそれで成立させられるの? どうやったらデジタルの売上げを伸ばせるの?」 ってこっちからレーベルに質問したい(笑)。

A:僕らは、いろんな曲の連なりがあって、アルバムの中でのそういう作品世界っていうものを追っていくようなアルバム・バンドなんですよ。

アルバム・バンド!?

A:シングルをポンポン切っていくようなバンドじゃなくて、曲の連なりである種の世界観、世界を探検して、その報告をするみたいな作品づくり。だからアルバムごとにカラーが変わってきたりもするんですけど。シングル1曲でも買えるようなダウンロードのシステムってまだぜんぜん馴染みがない。

T:それは正直な気持ちですね。


僕、本当にメルヴィンズのコレクターだったんですよ。プロモ盤からリミテッドのシングルまで、とにかくどんな手を使ってでも……みたいに。それは自分にとってすごくいい経験だったし、豊かな時間だった。それをもしボリスに対して感じてくれている人がいるとしたら、とてもうれしいことです。(Atsuo)

N:でも、ここ10年で日本のロックというか日本の音楽、それこそいろいろな、灰野敬二からボリスまですごくマーケットとして大きくなったんですよね。とくにアメリカなんかは、アメリカでメディアをやっている人間と話しても、10年前に比べて明らかに日本の音楽に対する好奇心であるとか興味みたいなものが増えているなという実感があるんですよ。やっぱりそういう日本の音楽、たとえば灰野敬二でもボアダムスでもボリスでも、そういうものを買っている人たちというのは、モノとして自分の部屋に置きたいという欲望がすごく強いリスナーだと思うんですけれど、そういう感覚って海外に行って感じられたことはあります? 日本のバンドということで逆に注目を浴びているというような。ボリスにとってそれが本意なのか不本意なのかはわからないですけど。

A:いろいろな誤解込みでボリスがこういった状況になっているとは思っています。単純に日本語がわからないわけじゃないですか、彼らは。僕ら日本語で歌っているし。だから逆にいろいろな情報を取りこぼさないようにフィジカル・フォーマットを買ってくれていたりとか、やっぱり情報を求めてくれているんじゃないかと思いますね。

N:たとえば僕らがかつて向こうのバンドに対してすごくミステリアスな気持ちを抱いていたように、いまアメリカに住んでいるような人なんかが、日本のバンドやボリスに対してミステリアスな気持ちを抱いているというような印象は感じますか? そのあたりはボリス的にはどうなんですか?

A:そうですね、それは実際に自分も経験してきたことで。僕、本当にメルヴィンズのコレクターだったんですよ。プロモ盤からリミテッドのシングルまで、とにかくどんな手を使ってでも……みたいに。ブートのビデオまで取り寄せたりしてね。とにかくどんな些細なことでも知りたかった。それは自分にとってすごくいい経験だったし、豊かな時間だった。それをもしボリスに対して感じてくれている人がいるとしたら、とてもうれしいことです。

僕もそのあたりはお訊きしたかったのですが、たとえば日本のサイケデリックとかって、欧米ではある種のブランドのようなものになっていたりします。ボリスはかなり初期の段階からワールドワイドな活動をされていたわけで、失礼な意見になってしまうかもしれませんが、そういった海外からの日本のロックへの先入観といったもので捉えられてしまうことへの抵抗感はありましたか?

A:……んー、いや? (笑)

すいませんでした……。

A:僕らは「サイケ・バンドです!」 みたいなノリでもないし。「メタル・バンドです!」とも言えないし。非常に宙ぶらりんな感じなんですけど、海外ではどちらのシーンにも受け入れてもらっている感覚がある。たとえば去年〈オースティン・サイケ・フェス〉に出させていただいたんですけど、あそこに出ると、「わ! 俺らすごくメタルっぽいな!」と思ったり、以前出演した〈朝霧JAM〉でも「やっぱり俺らメタルっぽいなー」とか。

T:黒い服着ているの俺らしかいない。

(一同笑)


僕らは「サイケ・バンドです!」 みたいなノリでもないし。「メタル・バンドです!」とも言えないし。非常に宙ぶらりんな感じなんですけど、海外ではどちらのシーンにも受け入れてもらっている感覚がある。(Atsuo)

A:逆に、このあいだロンドンでやった〈デザート・フェスト〉っていう、3日間ストーナー、ドゥームとかそういうヘヴィなのばっかり出るイヴェントだと、「あれ? 俺らサイケ・バンド?」みたいに、周りの状況によって自分たちに見えるボリスの姿がなんか微妙にズレたりする。話を戻すと、海外ではメタルの市場ってやっぱりすごいデカいじゃないですか。

めちゃくちゃデカいですよね。

A:すごいですよね。同時にサイケデリックの市場ってのも、プレミアがついていてもちゃんとお金を出して現物を買うっていう、もはや骨董品収集レベルのガチな方々がたくさんいる、すごく手堅い市場なんですよね。だからそういったふたつのシーンからサポートしてもらっているのは本当にありがたいですね。

[[SplitPage]]

やっぱりある種、向こうのロックの歴史の流れにはまっちゃっている部分がある。でもツアーに出れば出るほど自分たちが「うわっ、超日本人だなー」みたいに思うこともやっぱりある。それを僕らなりに消化したというのが『New Album』だったんですけど。(Atsuo)

メジャーからの初リリースとなった『New Album』からJ-POPやJ-ROCK、ビジュアル系やアニソン等の“J”を全面的にフィーチャーしたものとなりましたが、それはやはり前述の欧米におけるボリスの捉えられ方を破壊したいという欲求だったのでしょうか?

A:そうですね。やっぱりある種、向こうのロックの歴史の流れにはまっちゃっている部分がある。でもツアーに出れば出るほど自分たちが「うわっ、超日本人だなー」みたいに思うこともやっぱりある。行き来しているからこそ見えてくる日本のカルチャーの面白さもある。それを僕らなりに消化したというのが『New Album』だったんですけど。根底には、いかにバンドっていう概念を捨てていくかっていうようなアーティストとしてのヘヴィさがあった上で、エクストリームに「ポップです」というところに向かっていった。ノイジーなまでにね。たとえばこの〈エイベックス〉が築き上げてきたような、アーティスト主導ではなくて企画先行で生まれる音楽であったり、デザインとしての音楽、そういうところにピントを合わせた作品でしたね。

N:ちなみに海外へ行って向こうのジャーナリストによく訊かれる質問とかってありますか? 日本ではあまり訊かれないような。

A:次は誰とコラボレーションしたいですか? って絶対訊かれますね。それは何か変なんですかね?ボリスのスタンスは(これまでのコラボレーション相手にサンO)))、メルツバウ、灰野敬二、ザ・カルトのイアン・アストベリー等)。

いや、僕はそこはいろんな意味で気になりますよ。僕の認識ではボリスは大きなバンドなんですけど、それでもたとえば細かいスプリットのリリースが絶えないじゃないですか。ボリスの規模のバンドになるとそういった形でのリリースはやらないバンドも多いですし、また、失礼かもしれませんがコラボレーションの相手もけっして有名なアーティストでない場合が多かったりとか。そのあたりにこだわりを僕は感じています。このあいだのJマスシスのレーベルからのヒープとのスプリット7インチしかり。

A:バンドの規模が大きくなっていくとコントロールしづらくなることもやっぱり多くて……もう、本当にめんどうくさいですよね、昨今のリリースに関する実務量は。

(一同笑)

A:CD作って、ヴァイナル、僕らの尺だと絶対2枚組になる。そしてデジタル。海外リリースでは、デジタル・ダウンロード用のジャケットをつくるのも当たり前なので、ジャケットだけでも3種類作らなきゃならないし、マスターも3種類。とにかくどんどんめんどうくさくなっている。

(一同笑)

N:それぞれのニーズがありますからね。

A:そういった中で、すべて自分たちでハンドリングできたり、フッと出せる、作ってすぐ出せるというようなものが、やっぱりどうしても欲しいんですよね。そのスピード感というか。曲作って、レコーディングして、出して、もうお客さんの手元にある、みたいな。もちろんダウンロードとかネットで共有するのではなく、形あるものでね。実際ヒープとの7インチも僕らまだ持ってないですから。

(一同笑)

あの7インチはボリスからアプローチしたものなんですか?

A:あれはJからのオファーです。アメリカ・ツアーの際に僕らのサウンド・エンジニアとしてついてくれているノエルっていうお爺ちゃんがいて──ジミヘンを3回も観たことある人。

すごいですね。

A:当時クリームも13thフロアエレベーターズも、バブルパピーも観たことあるって、ロックのバイブルみたいなお爺ちゃんなんですけど、彼はダイナソーJr.のPAもやっていて、先に「ヒープってバンドがノエルのことを歌った曲を作ったから、ボリスもなんかノエルのことで曲書いてみてよ」って言われて、それで。

ジョー・ヴォルクはどこで?

A:ジョー・ヴォルクはポーティスヘッドの〈ATP〉に出ていた。彼のライヴがすごく良くて。

T:僕らと同じステージの出演だったんですけど、サウンド・チェックでの彼の音と歌がとにかくすごくて、なにこの人みたいな。僕らそのときは彼のことを知らなくて。

A:彼のアルバム、じつはジェフ・バーローがプロデュースやっていたりするんですけど。そのライヴのときに声をかけて話したりして、それからですね。本当のところ、顔が見える関係性の中でリリースとか作品づくりとかをやっていけたら楽しいですね。


昔から聴いてきてくれているようなお客さんは、相当耳が肥えている方々なので、表層がどんなものであろうと「ボリスはやっぱりボリスだよね」って言ってくれる。(Atsuo)

N:でもあれですよね。成田さんというプロデューサーをつけて〈エイベックス〉から出したということは、それまでのボリスのイメージを更新するといった意味合いがあったとおっしゃっていましたが、以前お話したときに、ボリスはどうしても海外のほうが比重が大きくなって、たとえば10年前に比べて海外で知名度が高い日本のバンドが増えてきたと思いますし、ele-kingで以前、アシッド・マザーズ・テンプルのインタヴューを掲載したらすごくアクセスがあってビックリして。平均して月に3000以上、アメリカからのアクセスがあるんですよね。日本の情報に飢えているアメリカ人がおそらく読んでいると思うんですけれども、そういった意味ではボリスはいまの状況の先陣を切っていったひとつだと思うんです。
 以前お話したときには、海外の音楽シーンの中ではガッツリ機能しきれているのに、日本だと自分たちがいまひとつ機能しきれていないんじゃないかというようなこともおっしゃっていましたね。それもあって前回から〈エイベックス〉からリリースされていたりするわけですが、実際出してみて、前作の反応はどうだったんですか? たとえば倉本くんのようなドゥーム・メタル・ファンには複雑なものがあったと思うんですよ、正直な話。いろいろなリアクションがあったと思うんですが、そのあたりはいかがでしょう?

A:なんて言えばいいのかな。前回の『New Album』に関しては、「わかりやすすぎてわかりにくい」。担当も言っていましたけど、「わかりやすすぎて売りにくい」と。

(一同笑)

だから、ある意味で『New Album』はボリス史上もっとも尖ったアルバムだったと思いますよ。

A:そうですね、シニカルな感じじゃないですか。べつに、すげぇ売れよう! と思ってあれを作ったわけでもないし。

(一同笑)

A:どうしても作品が批評的になってしまう。〈エイベックス〉から出すことでバカ売れするような期待も最初からなかったですし。まぁ、あれはあれで、メジャーからリリースするという部分もコンセプトの中に入れた、僕らなりの切り込み方だったんで。

N:それまでのファンからのリアクションはどうだったんですか?

海外のファンのリアクションとかも気になりますね。

A:とりあえず、昔から聴いてきてくれているようなお客さんは、相当耳が肥えている方々なので、表層がどんなものであろうと「ボリスはやっぱりボリスだよね」って言ってくれる。『New Album』からついてくれたお客さんもいたりとかして、よけい混沌とした状況にはなっていますよ。

(一同笑)

それはボリスが混沌とした状況を求めているというふうに捉えてよいのでしょうか?

A:はい。基本的に「いいものはいいじゃん」というスタンスでいたいので。それぞれの主観でね。

N:スタイルとかではないということですね。

おっしゃっていただいたように、長年誰よりもワールドワイドに活動してきたボリスにしか見えない世界があるわけですが。日本と外の往来の中でボリスが再構築されつづけてゆく感覚と、その共有の繰り返しによって、つねに世界も更新されていくということでしょうか。

A:そうですね。もちろんアルバムだけの評価ではなくて、ツアーであったり、ライヴであったりがバンドとしての説得力であると基本的には思っています。

『New Album』まではバンドっていう概念をとにかくブッ壊すみたいなことをやってきた。徹底的にやったので、今回はちょっと肩の力を抜いて普通のバンドっぽく3人で……そういえば3人でインタヴュー受けるのは何年ぶりだろう。(Atsuo)

成田忍氏との制作がエクストリームな形で表れた『New Album』から継続するような形で、前作『praparat』での共同作業、そして今作『NOISE』へと至ったわけですが、『New Album』と比較すると、今作『NOISE』は成田氏のエッセンスがボリス本来のサウンドに自然に落とし込まれている気がします。はじめに成田氏に仕事を依頼するに至ってから今作まで、共同制作を積み重ねていく中でお互いのヴィジョンの変化はありますか?

A:そうですね、『New Album』の時点では成田さんはそこまで僕らのことを理解していたわけでもないし、でもだからこそ良かったというか。

その状況だからできたことって意味でしょうか?

A:そうですね、あの作品はね。成田さんはリリース後もほとんどのライヴを観に来ていただいていて。ボリスのツイン・ギターというかベースレスになる編成に着目してくれていたり。成田さんなりのボリス観みたいなものを更新していただいて。その間にジョー・ヴォルクの12インチとアソビ・セクスとのスプリット、デッド・エンドのトリビュート等も一緒に制作させていただいて、次々に新しい関係の仕方が見えてきました。で、『New Album』のときは〈Peace Music〉のエンジニアの中村さんがぜんぜん噛んでいなかった。その当時からバンドと成田さんと中村さんの三角形でやれたらいいんじゃないかなーと思っていたんですよね。『New Album』まではバンドっていう概念をとにかくブッ壊すみたいなことをやってきた。徹底的にやったので、今回はちょっと肩の力を抜いて普通のバンドっぽく3人で……そういえば3人でインタヴュー受けるのは何年ぶりだろう。

(一同笑)

A:まだ一言もしゃべってない人がいるけど(笑)。

W:こういった現場に馴れていないので……。

[[SplitPage]]

バンドの中での三角形と、バンドとプロデュース、エンジニアの三角形がバランスよく進行しましたね。(Atsuo)


BORIS - NOISE
Tearbridge

NoisePsychedelicRock

Tower HMV Amazon iTunes

■アナログ盤
BORIS - NOISE Daymare

Amazon

A:それで今回『NOISE』ではバンドに立ち返って演奏に集中して。表層的なテクスチャーとか肌触りみたいなポスト・プロダクション部分を成田さんに。サウンド・エンジニアの中村さんが音楽としての骨格の強さを構築してくれました。バンドの中での三角形と、バンドとプロデュース、エンジニアの三角形がバランスよく進行しましたね。

ボリスは過去作品をかえりみても、外に仕事を振らずにすべて自分たちで完結していた時期もあると思うのですが、現在そこを外に振ってゆくということは、そこに新たな可能性を見い出しているということでしょうか?

A:そうですね。いや、できるんですけどもうボロボロになるんですよ。

どういうことですか?

A:全作業を受け持つと……。曲とバンドの関係性が猛獣ショウみたいな、猛獣使いみたいな……。

(一同笑)

A:……猛獣っていうよりはキメラだよね?

T:なんか見たことがない想像上の生き物みたいな。

A:お互いがこう鞭でバシッ! ガブッ! って噛まれたり、いつも戦っている感じがあった。その暴れているイメージをどうにか焼き付けるのにかなりの労力、集中力を使う。それは自分たちで暴れさせているんですけどね(笑)。曲とつくり手がお互い暴走し合ってボロボロになってゆく。けっこう疲れるんですよね。

なるほど(全然わかっていません)。ただ、先ほどのお話にあったみたいに、作っている段階では大文字BORISなのか小文字borisなのか、はたまたBorisなのかということは考えていないとおっしゃっていましたが、それでも小文字borisは大文字BORISやBorisに比べるとジャム色は強いように感じていました。しかし、要はすべて同じようにジャムから生まれて、それに対しての外の方々の作業の中で聴こえ方が変わってゆくということなんですかね。

A:ここ何年かはTakeshiがデモをつくって、それをバンド・アレンジしていくっていう手法も取り入れていますけど、基本はジャムですね。今回のリード曲、“Quicksilver”も、ジャムって「あ、できた」みたいな感じでした。ジャムだから、基本的に繰り返しとかサビみたいな構造的な作曲をしていない──日本の音楽の方法論的な部分でいうサビってところがなかったり、リフレインがホント少ないんですよ。どんどんどんどん展開していっちゃう。

個人的な好奇心でお訊きして申し訳ないのですが、生活の中のどれぐらいの時間を制作に割いていますか? ボリスは3人での活動歴がとても長いと思うのですが、普段どのくらい3人で制作に臨んでいるのか、いち音楽家の僕としては単純に気になります。

A:平日は仕事しよう! というふうに決めていますよ。

平日はガッツリですか?

A:うん。昼から。やることがなかったら「ちょっと録ろうか?」みたいな感じ。

T:リハーサルスタジオに入って、レコーダー回して。

A:一応、皆さまのおかげでこうして生活させていただけているので、ちゃんと仕事として捉えています。

スッゴイっすねー……(溜息)。

A:このやり方がいいのか悪いのかはわからないですけどね。ツアー中に刺激を受けることが多いので、帰ってきたら直ぐ「スタジオ入ろうか?」ってなりますね。

自然の現象と音楽が生まれる現象って同じことじゃないですか。音楽って空気が振動している現象であるし、水が降っていることとか、火が燃えていることとか。そういう自然の現象に匹敵する情報量がないと、人の目とか耳って楽しめないんじゃないかな? (Atsuo)

話が飛んでしまいますが、名作『flood』以降、現在まで僕にとってボリスは水のイメージがまとわりついています。それはリリックであったり、タイトルであったりさまざまな形ではあるのですが。しかし同時にボリスはデザート・ロックにはじまるようなカラッカラのドライヴ・チューンが根底にあるとも捉えられますし、そういった意味では相反するふたつの要素が混在しているようにも思います。そのあたりは意識的なのかなと。

A:いや……、僕が「雨男」ってくらいですよ。

(一同笑)

A:そういった自然の現象と音楽が生まれる現象って同じことじゃないですか。音楽って空気が振動している現象であるし、水が降っていることとか、火が燃えていることとか。そういう自然の現象に匹敵する情報量がないと、人の目とか耳って楽しめないんじゃないかな? なんかグリッドに沿ってやる音楽とか、均一なループとか、規則的なことは僕らにはできないし(笑)。
グダグダなズレとか、オーガニックな感じでしか演奏ができない。そういった意味では今回『NOISE』はかなりそっちの方に寄っていったかな……。

T:構築するってことより、自分の内面から自然にグワァーって流れ出てきてしまうような、そういう意味でのオーガニック感。

A:単純に一点でアタックを「ダン!」って合わせるアレンジにしても「ダワァン」とハミ出ちゃうみたいに合わない。合わないときの情報量っていうか、そういう表情が出ちゃうことが僕ららしさなのかなって、ここは「良さ」として再認識しています。

僕はそのあたりをすごく深読みしていて、ボリスはメルヴィンズの同名曲に由来するように、アメリカの乾いた音楽の影響で生まれていながらも、たとえば日本の文化や民族性において、湿度──という表現を僕はしばしば用いますが──そういった部分を意識的に落とし込んでいるというふうに捉えるのは考え過ぎでしょうか?

A:影響受けてやっても同じにはならないですよね。体の大きさも違うし、楽器の鳴りも違うし。

電圧とかも違うッスよね。

T:湿った空気を震わせているのか、乾いた空気を震わせているのか、とかもね。

A:あんな大きな体の人たちと、こんな細い華奢な女の人(Wata)が同じ条件でギターを弾いてもやっぱりぜんぜん違う音になる。そういったことを思う機会もたくさんあったけど、逆に日本人らしいグラデーションというか、階調の多さみたいなものも売りになると思っています。

[[SplitPage]]

日本ってマジックミラーで囲われていて、内側からは外が見えるけど外側からは内が見えない。(Atsuo)
ジャムの曲が形になって行く過程で、言葉を加えたりギターのフレーズを入れたりしていくとき、常にそれらの「日常性」は考えます。(Takeshi)


BORIS - NOISE
Tearbridge

NoisePsychedelicRock

Tower HMV Amazon iTunes

■アナログ盤
BORIS - NOISE Daymare

Amazon

ボリスの楽曲や詩からは昭和歌謡を強く感じることがあります。実際に花太陽雨のカヴァーをやっていたりもしますし。僕が海外でボリスが好きな子に出会ったりすると、PYGのことを訊かれたりして。海外のファンはボリスの和製音楽のバッググラウンドにすごい興味を持っていると思うんですよ。

A:欧米のロック史に匹敵するくらい日本のロック史には濃いものがありますよね。でもぜんぜん外側には伝わってない。向こうの人もどうやって掘り下げていいかわからない。ジュリアン・コープが書いた『ジャップ・ロック・サンプラー』にしても主観的でまだホントに入り口みたいなものですよね。パッと見でも日本には本当に変なカルチャーがいっぱいある。音楽の歴史だけでも、たどっていったら「すごいものがあるんじゃないか?」って、みんな興味持っているんじゃないかな?

N:レコード・コレクターからすると(日本は)最後の秘境と言われていますからね。いまはインターネット社会でこれだけ情報がアーカイヴ化されているでしょ? でも日本の音楽の歴史だけは世界に知られていない。

A:日本ってマジックミラーで囲われていて、内側からは外が見えるけど外側からは内が見えない。ずっとそういう状況で日本人が中で好き勝手に空騒ぎしている。でもそういったカルチャーがネットの時代になって断片的にどんどん漏れ出している。外側からしたら興味が沸くでしょう。クオリティ高いですからね、日本文化は。僕らはそういう意味では(外から)正当に評価されていないと思う。彼らだって日本の音楽からの影響も強く受けているわけですから。

N:外は感覚的な部分でそれを感じているから好きなんだと思いますよ。

僕も彼らはイメージだけですけどそれを感じているのだと思いますね。

N:それにサウンドの上でも癖みたいなものが向こうの人は聴くとわかるみたいですよ。ひとつ言われているのが、アメリカの植民地主義じゃないですが、日本は戦後にアメリカの文化をおもいっきり与えられた。コカコーラを飲んでアメリカ的な文化をどんどん取り入れようというふうになった。そしてギターから何から実際に取り入れている。けれども日本は植民地化されることへの反発心があって、それが音楽の中に表出している。向こうの人はそういう分析の仕方をしているんです。

A:力道山的な。

N:そうそうそう。

(一同笑)

N:それが大雑把になると三島由紀夫からきゃりーぱみゅぱみゅまでいっしょになってしまうのですけど。それぐらいおもしろがってはいるんですよ。

A:過去の歴史の構造によって、日本人の表現活動が全部シニカルに見えちゃうことってありますよね。

N:でもむしろシニカルに見えているというよりはやっぱりミステリーに見えているんじゃないですか。僕らがアモンデュールを見るような感じで向こうは見ている気がしますけどね。

A:僕らの場合は表層的なロック・フォーマットがアメリカン・オルタナティヴみたいなものだったんで、アメリカのシーンにはハマりやすかったのかなとは思いますね。

N:あとは時代的なものもあったんでしょうね。そういうものが求められているというか。

A:そういう雰囲気はありましたよ。ボアダムスがあって、ギターウルフがあって、メルトバナナがあって、次の日本人は誰? 他に誰か日本人のアーティストはいないの? みたいな空気を当時は感じましたね。

N:僕はそれっておもしろい状況だと思うんですよ。ジュリアン・コープがたとえでたらめだとしても、あれだけ書いたってことは大したもんなんですよ。本当に資料がないので。


ロックってもっと危険で馬鹿馬鹿しく、下劣なものなんです。だからこそ人々の日常に寄り添える部分があると思うんですよね。(Atsuo)

話は変わるのですが、僕がボリスにのめり込むきっかけとなったのはゼロ年代後半のパワー・アンビエントとかヘヴィ・ドローンがキテた時期だったんですけど、当時たとえばサン O)))とボリスのコラボレーション『Altar』が暗示するように、スティーヴン・オマリーや、他にはアイシスのアーロン・ターナー等、インターナショナルなネットワークで世界観を共有していたと思うんです。また、当時、さまざまな背景でヴィジョンを交錯させていた仲間は現在ではそれぞれいい具合に異なるフィールドで活動しているように見えます。彼らのような長年のミュージシャンシップからの現在のボリスへのリアクションというのは気になりますか?

A:「それぞれの役割」があるな、とは思います。君がそっち行くなら僕こっち、みたいな。お話に出たアーロンやスティーヴンは昔からの友人で、3人ともアースの『2』を当時から、まわりの誰も評価していないのに絶賛していました。他にはジム・ジャームッシュの『デッド・マン』のサントラも僕らは注目していたりした。それぞれ別の場所にいても同じフィールを共有していた記憶はあります。それぞれのバンドが活動していく中でそれぞれの立ち位置みたいなものが生まれていって。サン O)))はああいった現代音楽というかコンテンポラリー・アート寄りな方向にいって。僕らは……ロックというか──

ボリスはアート志向な表現に抵抗感を感じていると何かのインタヴューで読んだことがあるのですが。

A:抵抗感というのは彼らに対しての抵抗感ではなくて、自分たちが「アーティスト」と呼ばれることに対する抵抗感、高尚なものとして捉えられることへの抵抗感ですね。

ただ、ボリスは過去作品を聴く上でも、現代音楽の方向性にいって何ら不思議ではないというか、むしろすごいものができ上がるだろうって確信もあったりします。そこでボリスがロックにこだわるのはなぜだろうとも思います。

A:やっぱりロックってもっと危険で馬鹿馬鹿しく、下劣なものなんです。だからこそ人々の日常に寄り添える部分があると思うんですよね。そういうロックの日常性みたいなものに魅力を感じますね。人々の生活とか社会システム、すなわち日常の中で人々の手元まで届くというところに可能性を感じます。日常が変わらないと何も変わっていかないと思う。人々の日常に寄り添える音楽でありたいとは思いますね。

T:ジャムの曲が形になって行く過程で、言葉を加えたりギターのフレーズを入れたりしていくとき、常にそれらの「日常性」は考えます。言葉にしても高尚な言い回しではなくて、普段使うような響きの言葉をできるだけ選ぶようにしている。ギター・フレーズも僕やWataが弾いたりするわけですからどうしても手癖になってしまう部分があるんですけど、意識的にキャッチーにしてみたり、明るい気持ちで弾いたり……。誰でも弾けるとか、誰でも口ずさめるとか、そういった日常性、距離感がグッと近くなるようには意識していますね。

ボリスの打ち込みが聴いてみたいんですけど今後期待できますでしょうか?

A:音源としてはあり得る……いや、どうだろう?

日本盤『Smile』(海外盤とはミックスが異なっていた)の冒頭は若干ダンス・ミュージックっぽかったですよね。

A:石原さん(石原洋『Smile』のサウンドプロデューサー)のリミックスでああなっていますね。あの頃はリズムマシンもよく使っていた。テンポが揺れるようなものを使っていたんですよ。もうオモチャ。微妙に早くなったり遅くなったり。やっぱりそういうもの、エラーが起こるようなものに魅力を感じる。打ち込みは打ち込みでそういう音楽の良さももちろんわかっているんですけど、このメンバーでライヴでやるとなると、僕らがべつにやらなくてもいいことかな、と思ってしまいますね。録音作品としては全然アリだと思うんですけどね。

少し機材の話が出たところでお訊きしたいのですが、ボリスのテープエコーはスペースエコーなんですか?

A:はい。

201ですか? (※Roland Space Echoの型番)

A:アンチ201です。

(一同笑)

A:リヴァーブはいらない。

ボリスのギター・サウンドにテープエコーは最高の相性だと思います。

A:150がないとツアーに出ない、この人(Wata)。そこで重要なのが、リヴァーブ・ユニットが入っていない150なら、軽くて運びやすい。

僕は機材が好きなのでそういった部分のこだわりも気になりますね。昔からボリスはオレンジのイメージが強かったりするのもありますし。テープエコーは壊れますよね。

W:壊れますよ。何回も。

A:いままで10台くらいは買っているよね。

W:何個か壊して、それぞれの部品を集めて修理したり。

N:音デカいですよね。

A:最近はわりと抑えめなんですよ。歌にピントを合わせたいので。でも今年の頭から昔の曲を演奏するセット、それこそ『Amplifer Worship』の曲を入れたり。当時以上にグッと音量を上げるパートもやっているんですが、会場の電源が落ちたりしちゃって。

(一同笑)

アンチ201です。リヴァーブはいらない。(一同笑)  (Atsuo)

ボリスは演奏環境へのこだわりは強いと思いますが、アメリカはどこもかなりローファイじゃないですか、そのあたりはどう対処しているんですか?

A:基本的にステージの上で音のバランスは作ってあるので、あとは外音がデカく出せるか出せないかだけなんです。会場のスペックがよければよりいいですけど。結局先も話したエンジニアのノエルはもう耳が遠くなっているので、自分に聴こえるようにグーッと上げてしまうんですね。だから大丈夫です。

(一同笑)

これからNOISEワールド・ツアーがはじまるわけですが、どのようなアーティストとステージを共有するのでしょうか?

A:アトラス・モス、セレモニー、ナッシング、マリッジズ、サブローザ、マスタード・ガス & ロージズにマスター・ミュージシャンズ・オブ・ブッカケとかですね。サポートには昔からの友達もいるし、楽しみですね。今回はツアーに出るのが楽しみになるアルバムになった。今まではこんな感覚なかったですね。

また今後の海外ツアーを経ることで今回の『NOISE』までのボリスの感覚がさらにアップデートされていくわけですね。

A:6月の国内のライヴはアルバムの全曲披露をやるんですが、そこから海外ツアー用にまたセットを変えて向かうつもりです。アメリカ・ツアー後、日本でも9月に東名阪で行ないます。日本に戻ってきた頃には『NOISE』の曲も成長したものが聴かせられるんじゃないかな。

ボリスはパフォーマンスをおこなう上で日本と海外の環境の違いを実感していると思いますが、今後国内のライヴ環境の変化に対するヴィジョン等はあったりしますか?

A:だいぶ変わってきている気がします。去年から国内でもライヴをたくさんするようになって、やれば変わってくるものだな、と実感しています。お客さんもチケットの買い方とかを覚えたりしたんじゃないかな?

え?

A:いや、日本のライヴでもどんどん外人のお客さんが増えているんですよ。

T:以前、浅草のホテルから新代田フィーバーに電話がかかってきて、「そちらに行くにはどうやって向かえばいいんですか?」って問い合わせが入ったことがあって、どうやら宿泊中の外人さんが観に来たいってことだったんですけど。

(一同笑)

それもすごい話ですね。

A:浅草観光協会に話を通した方がいいのかもしれないね(笑)。

T:主要ライヴハウスへの経路とチケットの買い方だけでも。

LIQUIDROOM 10th ANNIVERSARY ele-king night - ele-king

 勝負事などいまどき流行らない。みんなでワキアイアイとするのが、音楽の現場だ。対バン同士、楽屋ですれ違ったときに社交辞令で挨拶はするものの、心の奥底では「オレらがあんたらを食ってやる」ぐらいの気合いをたぎらせるようなことなど、まずない……この2バンドをのぞいては。
 オウガ・ユー・アスホールvs森は生きている、の「vs」は言葉のアヤでも飾りでもない。これは、いま、どちらのバンドの音楽がオーディエンスを揺さぶるかの、対決なのだ。この火花散る舞台こそが、ele-kingが10周年を迎えるリキッドルームと一緒にやるに値するものだと信じている。そして、この真剣勝負こそが、伝説の夜を作るだろう。

 簡単な勝負ではない。どちらも手強いバンドだ。オウガ・ユー・アスホールは、いま、下手したら、日本でもっとも魅力的なトランス・ロック・バンドへとなっているかもしれない。最近のライヴでは、クラウトロック最高のロックンロール・バンド、ラ・デュッセルドルフのよろこびいっぱいの陶酔感すら自分たちのモノにしてみせている。音楽は魔法だ。このバンドは、オーディンスを踊らせるし、あちら側の世界を見せる。
 夢を見せる……という意味では、森は生きているも、ただいま赤丸急上昇、とんでもないバンドだ。彼らの音楽に充満しているのはボヘミアニズムで、つまり、どう生きたって自由だろうという心構えが、美しい音楽となっている。1969年ぐらいのピンク・フロイドのような、柔らかく、透明感のあるフォーク・ロックを現代的にアップデートしたかのような彼らの音楽を聴いたなら、誰もがふだん忘れているであろう、たまらなく心地良い夢を見れるだろう。
 どこか共通点を持ちながら、しかし、どこかまったく異なっているふたつのバンドだが、フェアに見て、今日の日本では、突出した2バンドである。ロックとは何だ? と問われたときに、「雑食性だ」という答え、つまり、ありとあらゆるものに接続して変容するアマルガムだという答えがあるなら、このふたつのバンドは、いま、最高にキレのあるアマルガムである。ele-kingでは、この2バンドの12インチ・シングルをリリースするのだが、その詳細はまた別の機会に。

 10月2日木曜日、伝説の夜へようこそ。彼らの真剣勝負を見届けるために、そして夢を見るために、来て欲しい。(野田努)

■OPEN / START 18:00 / 19:00
■ADV ¥3,500(税込・ドリンクチャージ別)
■LINE UP OGRE YOU ASSHOLE/森は生きている
■TICKET チケットぴあ [232-675] ローソンチケット [79610] e+ LIQUIDROOM 7/13 ON SALE
■INFO  LIQUIDROOM 03(5464)0800
https://www.liquidroom.net/schedule/20141002/19248/

interview with S. Carey - ele-king


S.Carey
Range of Light

Jagjaguwar / ホステス

FolkIndie Rock

Tower HMV Amazon iTunes

 アルバムのクレジット、そのサンキュー・リストにボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンの両親の名前を見つけてにっこりしてしまう自分もどうかと思う。だが、『レンジ・オブ・ライト』はそういうところで産み落とされた作品だ。
 のちに人数が増えていったボン・イヴェールのライヴ・バンドのごく初期からのメンバーであり、パーカッションを中心としたマルチ・プレイヤーであり、学生時代はクラシックを学んでいたというS.キャリーことショーン・キャリー。ウィスコンシンはオークレアのおらが村のスター……もとい、地元のヒーローであるジャスティンを中心とする音楽コミュニティから才能を発揮するミュージシャンのひとりだが、そこは驚くほど親密で、家族的な絆によって成立している。かつてのヒッピー・コミューンではない……が、しかしどこまでもピースフルな繋がりがそこにあるように感じられる。そもそもアメリカの片田舎からボン・イヴェールの痛切な美しさを誇る音楽が発見されたとき、そこにひとびとはヒューマニティを嗅ぎ取ったのだから。

 『レンジ・オブ・ライト』はS.キャリーとしてのソロ2作目であり、まだまだ習作という印象を残した小さなフォーク・アルバムだった前作『オール・ウィ・グロウ』に比べれば、クラシックの素養を生かした緻密なアレンジメントが耳を引く。とくにジャスティンが参加した“クラウン・ザ・パインズ”のねじれたストリングスの上昇と下降、ラスト・トラック“ネヴァー・エンディング・ファウンテン”における控えめに見えてそのじつ華麗でゴージャスなオーケストラはアルバムのハイライトだろう。オーウェン・パレットやスフィアン・スティーヴンス、あるいはザ・ナショナルのブライス・デスナーのように、現代インディ・シーンにおけるオーケストラ・アレンジャーとして頭角を現していく予感はある。
 そして一貫して繊細なムードで紡がれるアルバムのテーマは、圧倒的なものとして目の前にある自然、その母なるもの、そのものであるという。21世紀における自然主義者による音楽の実践、それがS.キャリーだ。

 それにしても、ジャスティンもあんな繊細な音楽を作りながら、穴の開いたスニーカーを履いて寝巻きみたいな格好でライヴ・ステージに立つような男だが、ショーンからも思っていた以上に素朴な回答が返ってきて笑ってしまった。のんびりしている連中……いや、地に足が着いていると言っておこう。

■S.Carey / S.キャリー
ボン・イヴェールのドラマーとして活躍するマルチ・インストゥルメンタリスト。クラシックの英才教育を受け、大学でパーカッションを学んだ。2010年に〈ジャグジャグウォー〉からファースト・フル・アルバム『オール・ウィー・グロウ』をリリース。本年発表の『レンジ・オブ・ライト』にはボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンもゲスト・ヴォーカルとして参加している。

彼と演奏したかったし、彼の美しい音楽の一部になりたかった。ボン・イヴェールとしての最初のライヴで5曲叩いたんだけど、あまりにも僕が曲をしっかり覚えていたからジャスティンも驚いたんじゃないかな。

このアルバムが日本デビュー盤となるので、基本的なことからいくつか訊かせてください。もともとあなたはボン・イヴェールのファンで、志願してバンドに加入することになったんですよね?

S.キャリー(以下ショーン):『フォー・エマ・フォーエヴァー・アゴー』は僕がジャスティンとはじめて演奏しはじめたときにはまだリリースされていなかったんだけど、彼はインターネットに音源を全部上げていたんだ。当時ボン・イヴェールが誰なのか誰も把握していなかった。だけどどんどん僕らの小さな街でそれがジャスティンの新しいプロジェクトだって話が浸透していったんだ。そのときドラムのパートをすべて覚えて、加えてヴォーカル・ハーモニーもしっかり覚えた。彼と演奏したかったし、彼の美しい音楽の一部になりたかった。ボン・イヴェールとしての最初のライヴで5曲叩いたんだけど、あまりにも僕が曲をしっかり覚えていたからジャスティンも驚いたんじゃないかな。それに僕は歌えたからね。ジャスティンの声とうまく溶け込んだんだ。それで最初のライヴから抜擢されたんだ。

それまではどんな音楽に夢中だったんですか? 学校ではクラシックを学んでいたそうですが。

ショーン:幼い頃はフォーク音楽とビーチ・ボーイズを聴いていたな。それからU2にレディオヘッドを聴くようになって、そこからはジョン・コルトレーン、マイルス・デイヴィス、アート・ブレイキーなどのジャズ。その後は20世紀のクラシカル・パーカッションを学習しはじめたね。

いま、どれくらいの数の楽器を演奏されるんですか?

ショーン:いちばん自信を持ってるのはドラムとピアノだよ。だけどギターとベースも弾けるんだ。

僕がボン・イヴェールを聴いていて思うのは、そこにとても理想的なコミュニティがあるということなんです。いろいろなひとが集まって、なにか豊かな感情を奏でている、というような。あなたにとって、あなたがいるウィスコンシンの音楽コミュニティはどのようなものなのでしょうか?

ショーン:とても良いコミュニティだよ。地元でプレイしているバンドのなかにもたくさん良いバンドがいるし、ここの音楽性のレベルは、こんなに小さな街にしてはとても高いんじゃないかな? 昨夜公園にバンドを3組聴きに行ったんだけど、彼らのミュージシャンシップには驚かされたよ!

ではアルバムについて訊かせてください。前作『オール・ウィ・グロウ』に比べて、アレンジメントの面で非常に凝った作品だと思ったのですが、まず、このアルバムに取りかかるモチヴェーション、入り口はどのようなものだったのでしょうか?

ショーン:たくさんあるよ。音楽を書くのが好きなんだよね。目標を立てることができるし、方向性を定めてくれる。それと同時に自分の音楽を作ること、曲を書くことに関してはまだ初心者な気もするんだ。だから今作ではもっと自分が得たいものに焦点を当てたよ。いまはもっと成長した自分がいると思うね。プロデューサーとしても、作曲家としても、人間としてもね。それが音楽を通して聴こえるといいな、と思うよ。

クラシックや現代音楽の要素が前作よりも強くなったように思うのですが、そこも意識されていましたか?

ショーン:とくに意識はしていなかったよ。だけど大学で学んだパーカッションの技術とフォーク・ソングを書く美学はどうしても融合させていきたくてね。それが少しわかりやすく表れているようでうれしいよ。

クレジットにはたくさんのゲスト奏者の名前がありますが、あなたとしては、大勢で作り上げた作品だと捉えていますか? あるいは、かなりの部分であなた自身がコントロールされたのでしょうか。

ショーン:自分はプロデューサーであり、船のキャプテンでもある感じだね。だけど参加してくれたミュージシャン全員の意見のほうがこのアルバムに反映されているよ。だからこそ素晴らしい作品ができたんだと思ってる。

自然はつねに僕のインスピレーションの源でもあるし、再生させてくれる力も持っている。そしてそれについて書こうと思ったんだ。

『レンジ・オブ・ライト』というタイトルは自然主義者のジョン・ミューア(註:カリフォルニア州の長距離自然歩道であるジョン・ミューア・トレイルの名前の由来にもなっている、ナチュラリストの草分け的人物)が山脈につけた名前から取ったということですが、彼がどんな人物か簡単に教えていただけますか。また、彼のどんなところに惹かれるのでしょうか。

ショーン:ミューアは国を渡りまわった自然主義者なんだ。その間発見した点を彼は細かく書き留めて、植物学、生物学、そして地理学のさらに深いところを掘った。彼は冒険者で、最終的にカリフォルニアのシエラ・ネヴァダの山脈に心惹かれたんだ。彼は自然、そしてアメリカに残る原風景に人生を捧げて、環境保護主義者のうちでは欠かせない人物となった。彼の自然に対しての見解は美しくて、スピリチュアルなんだ。そういったところですごく心通ずるものがある気がするんだ。

アルバムのジャケットのイメージや歌詞において、あるいは音楽的にも、自然というモチーフが非常に重要になっています。どうしてあなたは音楽で自然を描こうとするのか理由は思い当たりますか?

ショーン:自然は僕の人生に置いて大きな部分を占めている。いままでもそうだったし、これからもそう。自然はつねに僕のインスピレーションの源でもあるし、再生させてくれる力も持っている。そしてそれについて書こうと思ったんだ。

数多くの楽器を演奏するあなたですが、では、歌うことについてはどんな風に考えていますか? 歌うことと楽器を演奏することでもっともちがう点はどういったところですか?

ショーン:僕は自分の声もひとつの楽器として捉えているから、その点では大したちがいいはないね。

『オール・ウィ・グロウ』でも本作でも、あなたの作品では過去の記憶というものがモチーフのひとつになっていると思います。幼いころの経験や記憶がテーマのひとつになっている理由はなんでしょう?

ショーン:なんでだろうね。曲を書きはじめて、出てきたのがこういったアイディアだったんだ。アルバムの方向性っていうのは実際何曲か作り込んで、それから一度客観視してみないとわかんなかったりするものなんだよ。

ザ・ナショナルのブライス・デスナーは昨年クロノス・カルテットにスコアを提供していましたし、あるいはオーウェン・パレットのようにストリングスのアレンジをこなすインディ・ミュージシャンの活躍が目立っています。クラシックの知識を生かした活動をする彼らにシンパシーは感じますか?

ショーン:そうだね、僕はアレンジには向いてる気がするよ。ただもっとアレンジできる機会が必要なだけでね。

ミュージシャンとして、やってみたいことを教えてください。

ショーン:いまはこのアルバムのツアーに集中しているけど、日本でライヴをすることは僕の夢だよ!

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727