「K A R Y Y N」と一致するもの

FaltyDL - ele-king

 USにおいていちはやくUK発祥のダブステップを導入したプロデューサーのフォルティDLことドリュー・ラストマン、さまざまなサウンドを折衷し、〈Ninja Tune〉や〈Planet Mu〉といった名だたるレーベルから作品をリリース、またみずからも〈Blueberry〉の主宰者として新しい才能(たとえばダシキラとか)を発掘してきた彼が、きたる3月7日、表参道の VENT でプレイを披露する。これは行かねば!


Arca - ele-king

 アルカが明日2月21日、じつに3年ぶりとなるシングルをリリースする……のだけれど、なんと62分もあるらしい。これは、反プレイリスト文化ってことかしら? タイトルは「@@@@@」で、間違いなく『&&&&&』を踏まえたものだろう。何かと何かを結びつける接続詞の5乗から、何かと何かを結びつける前置詞の5乗へ。本人のコメントも、よくわからない単語で埋め尽くされている。アルカ、いったい何を考えているのやら。

[2月21日追記]
 ついに噂のシングルが解禁されました。アートワークもMVもすごいことになっています。終末的な舞台にスクラップされた自動車、そこに張りつけられた家畜のような人体、背後に浮かび上がる「生き生きとした」映像……これはある種の問題提起でしょう。本人によるコメントの翻訳も到着。アルカ、アルカ、アルカ……

ARCA
FKAツイッグスやフランク・オーシャンとも関わりが深いベネズエラ出身の奇才アルカ。
再生時間約62分に及ぶ超大作「@@@@@」が本日配信スタート!!
謎めいたSFの世界観がつまった前代未聞の音楽作品は必聴!!

「@@@@@」は、架空の宇宙からこの世界に向けて送信された信号。その宇宙ではFM海賊ラジオという基礎的なアナログ・フォーマットが、予測不可能に発展し始めたAI(人工知能)を生み出し、コントロールされている知性が司る監視から逃れるための数少ない残された手段なの。“ディーヴァ・エクスペリメンタル” として知られるラジオ番組のナビゲーターは、迫害を受けているため複数の体を通して宇宙空間に存在している。彼女を殺害するには、まず彼女の体を全て見つけ出さなければならないわ……。 ──ARCA

label: XL Recordings
artist:ARCA
title: @@@@@

ビョークやカニエ・ウェストらも賞賛するベネズエラ出身の奇才、アルカが3年ぶりの最新シングル「@@@@@」を明日2月21日に配信スタート!
再生時間約62分に及ぶ超大作がここに誕生!!

ベネズエラ出身ロンドン在住の奇才、アルカことアレハンドロ・ゲルシが〈XL Recordings〉から明日2月21日(金)に3年ぶりに再生時間が実に62分を超える前代未聞の最新シングル「@@@@@」を各ストリーミングサービスで配信開始することを突如発表した。

英ロンドンのラジオ局 NTS Radio で19日(現地時間)に世界初放送され、明日全世界で配信開始されるシングル「@@@@@」は、2013年に公開されたデビュー・ミックステープ『&&&&&』との繋がりがあるといい、それぞれの作品はアルカ自身の言葉を借りると、「変形していく音の量子で構成される音楽的量子」だという観点から類似しているのだという。「@@@@@」のテーマは、“罪”、“祝福” そして “反抗” は、アルカ自身の世界観と並行し、ジャンルの枠を飛び越え変幻自在のアーティストとしてのアルカの立ち位置を不動のものとする異例のシングルとなっている。

また、アルカはフランス人ピアニストのザ・ラベック・シスターズとコラボレーションし、ロンドン・ファッションウィーク・ウィメンズの Burberry 2020年秋冬コレクション向けランウェイショーのサウンドトラックを提供した。

ファッションショーの視聴はこちらから:
https://uk.burberry.com/london-fashion-week/autumn-winter-2020-show/

アルカは、早くからカニエ・ウェストやビョークらがその才能を絶賛し、FKA ツイッグスやケレラ、ディーン・ブラントといった新世代アーティストからも絶大な支持を集める。FKA ツイッグスのプロデューサーとしても名高く、『EP2』(2013年)、『LP1』(2014年)をプロデュースする。2013年にはカニエ・ウェストの『イールズ』に5曲参加、2015年にはビョークのアルバム『Vulnicura』(2015年)に共同プロデューサー/共作者として参加、その後ワールド・ツアーのメンバーとして参加している。

Shapednoise - ele-king

 『Aesthesis』はベルリンで活動する電子音楽プロデューサー、シェイプドノイズ(Shapednoise)の3作目のアルバム作品として2019年の11月にリリースされた。リリース元はスコットランドのファンキーな音楽都市、グラスゴーの〈Numbers〉である。レーベルは、ラスティ、デッドボーイ、アントールド&ロスカなどを輩出するビート製造マシンとして認知されていたが、2015年にはソフィ『PRODUCT』をリリースしたことによって、電子ミュータントの方向にも伸長している。レフトフィールド・テクノの最異端児ペダー・マナフェルトの12インチ「Equality Now」(2016)も出しているし、去年はラナーク・アーティファックスの輝かしいEP「Corra Linn」のリリースもあった。
 2019年にはファッション・ブランド、ニルズ(NILøS)のイベントでシェイプドノイズは来日もしている。この機にその作家像にも迫ってみよう。イタリアはシチリア出身のニーノ・ペドーネはシェイプドノイズ名義として2010年からリリースを開始している。プルリエントことドミニク・ファーナウ主宰の〈Hospital Production〉から出た2013年作『The Day of Revenge』や、後述する〈Repitch Recordings〉からのリリース作品で知られ、そのインダストリアル/ノイズ・サウンドは、奇怪であり、粒子的で、フリーフォームに見えつつもある種の形式美に焦点を置いたサウンドが特徴である。概念やフィクションへの参照など、リスナーの思考にもはたらきかけるプロデューサーだ。
 他の名義では、イタリアの友人プロデューサーたちとのテクノ集団、D.A.S.D.A や、ウィリアム・ギブソンのディストピック・ヴィジョンをコンセプトにしたマムダンスとロゴスとのアンビエント・トリオ、ザ・スプロウル(The Sprawl)としても活動している。デムダイク・ステアのマイルズ・ウィテカーとのボコーネ・デューロ(Boccone Duro)は、そのリリースへの期待が高まるプロジェクトだ。
 レーベル運営の手腕にも触れてみたい。ペドーネはふたつのレーベルを D.A.S.D.A のメンバーであるデヴィッド・カルボーネとパスカル・アショーネと手がけている。ひとつはベルリンのエレクトロニック・アンダーグランドに焦点を置く〈Repitch Recording〉で、ここからは彼らの作品もよくリリースしている。インダストリアルがあり、ハードなテクノがあり、ベルリンの街のイメージ・マップの一端を担っている。
 そしてもうひとつが〈Cosmo Rhythmatic〉であり、彼らの説明によれば、こちらは「抽象的で、ノイジーで、有機的」なサウンドに主眼を置いているという。そのカタログにはミカ・ヴァニーオ(RIP)とフランク・ヴィグローの『Peau Froide, Léger Soleil』(2015)とEP「Ignis」(2018)があり、2019年にはザ・バグが率いるキング・マイダス・サウンド『Solitude』とシャックルトンのチューンズ・オブ・ニゲイション『Reach the Endless Sea』を出している。作品クオリティとカタログの豊かさにおいて、現行のエクペリメンタル系の中では抜きん出ているといっていいだろう。
 そのような裏方としての活動を経て、四年ぶりのアルバムとして発表された『Aesthesis』においても、彼の人選はユニークだ。前作『Different Selves』(Type、2015)から引き続き登場した、サウンド錬金術士JKフレッシュや(彼はゴス・トラッドとスプリット・アルバム『Knights Of The Black Table』を日本の〈Daymare Recordings〉から2019年に出している)、〈Hyperdub〉からアルバムを発表したばかりの知性溢れるプロデューサー/アーティスト、ミーサ(MHYSA)、さらにはコイルやサイキックTVの元メンバーであるドリュウ・マクドウォル、そしてサウンド面で同時代性を共有しているラビットが参加。個と多の間を動くその姿は実にダイナミックだ。2020年に入ってからからも、去年〈Hyperdub〉から鮮烈なデビューを飾った、もっとも注目されているルーキーのひとり、ロレーヌ・ジェイムズのEP『New Year's Substitution 2』にも参加している。
 では『Aesthesis』のサウンド面に迫ってみる。まずは冒頭曲 “Intriguing” は、ランダムに生成されているかのようなサウンド・パターン上で、ミーサの歌唱がイーリーに揺れ動き、ディストーション・サウンドがゆっくりと階層化していくトラックだ。ここでミーサは、アメリカで人気の伝統的ブルース楽曲が、ラヴ・ソングであるのと同時に、国の問題点のメタファーも含有されていることの類似として、アメリカが黒人たちに賠償する未来を想像しているという〔註1〕。 サウンドの流動性やテーマから、ムーア・マザーのアフロフューチャリズムを連想させもする。
 JKフレッシュとの2曲目 “Blaze” では、音がカーブを描きながら減音して無音になるアレンジに引き込まれる。轟音が突如、矛盾するかのように「ゆっくり」と「素早く」無音へと減退するとき、聴覚は音波というよりも、その音の減退に刺激を受けているようだ。そこに飛び込む、フレッシュが得意とするヘヴィなキックがシェイプドノイズによってより捻じ曲げられていく。
 3曲目 “Elevation” では、サウンドの遠近法とハイハットの連打が聴覚に錯覚をもたらす。リズムがあるものの、それを感じさせないほどに「無規則的」にパターン化されたトラックには、「Shapednoise」という名前が示すように、いたずらに前衛を希求するのではなく、ノイズの形式化を目指す美学があるといってよいだろう。
 そうしたスタイルが最高潮に達するのは、アルバムに先行して発表された6曲目 “CRx Aureal” で、ひとつのモチーフがエフェクトや周波数を変えながら、終わりが見えないほど延々と変化していく圧巻なサウンド・スケープを放つ。『Xen』でアルカが見せたようなオーディオ・ファイルの残像劇から、ラビットの無重力遊泳ビート、プルリエントの暴力性、ハクサン・クロークのダークなフロウが一挙に目の前を通り過ぎていく。つまり、2010年代におけるエレクトロニック・アンダーグラウンドが生んだ現代感覚も、ここにはしっかり見てとることができる。それは過激で流動的な変化に富み、身体にはたらきかけるものだ。
 このようなサウンドの裏には興味深いコンセプトがある。アルバム・タイトルに用いられた用語「aesthesis」は「刺激に対する直接的な認知」、「感覚的な経験」を意味する。我々にとって、楽音や音階、音質は、何かを想起させる。特定の音を耳にして何を感じるかは、個人の、あるいは集団的な経験によっても異なる。この「aesthesis」が意味するのは、音が何に知覚されたときに、そういった経験則を経由しないダイレクトな音の認知だ。
 例えば、3曲目 “Elevation” が放つ、ハイハット・リズムが他の音が襞のように重なるなかで鳴り響くとき、それはもはやリズム楽器としては鳴っていない。本人はサウンドクラウド・ラップに着想を得ていると語っているように、たしかにこのリズムはトラップなどでおなじみのパターンである〔註2〕。それにもかかわらず、その音を捉える筆者の認知には、まったくそれとは別用に聴こえる。リョージ・イケダのインスタレーションでホワイトノイズを浴びる感覚に近い。馴染み深いはずのアイコニックな音像が、聴衆の経験では補えないような認知の仕方でここでは展開されている。
 音の認識は、経験と密接に結びついたものでもあるので、これを読んでいるあなたの耳と肌の脳の神経に何が起こるのかは僕に知りえない。だが、それと同時に、タイトルが示す、音刺激への調節的な共時的反応が今作には潜んでいるはずである。それは爆音でのみ現れるのかもしれないし、イヤフォンから適度な音量で鼓膜を通化するのかもしれない。情緒や用意された記号を払いのけ、『Aesthesis』は根源的な音の刺激へと我々を誘う。その意味で、近年における電子音のワイルド・サイドを行く一枚として、今作は野心に溢れた一枚だ。

 註1 hypolink (2019), “SHAPEDNOISE BREAKS DOWN AESTHESIS, HIS NEW LP FOR NUMBERS” https://hyponik.com/features/shapednoise-breaks-down-aesthesis-his-new-lp-for-numbers/
 註2 同上

interview with OTO - ele-king

 江戸アケミの言葉に意味があるように、じゃがたらのサウンドにも意味がある。新作『虹色のファンファーレ』には新曲がふたつある。“みんなたちのファンファーレ”と“れいわナンのこっちゃい音頭”のことだが、これらの曲のリズムやフレーズは、なんとなくノリで生まれたのではない、確固たる理由があった。
 じゃがたらと言えば日本のアフロ・ファンク・バンドという、自動的にそんなタグ付けがされてしまいがちだが、正確に言えば「アフロ・ファンクもやっていた」であって、バンドの音楽性は雑多だった。江戸アケミが他界する直前には、クラブ・ミュージックの時代に接続したブレイクビーツ(「それそれ」)もやっているが、しかし死によってそれ以降の発展は絶たれたままになっていた。
 とはいえこの30年という月日のなかで、サウンド面のリーダーであるOTOは、たとえ熊本の農園で働くようになったとしてもサウンドを鳴らし続けている。その過程において、とくにサヨコオトナラの活動のなかで、OTOは中断していたサウンドの探求を再開させ、そこでの成果をJagatara2020に注入させてもいる。
 サウンドには意味があり、その意味は江戸アケミが書き残した言葉から来ている。
 以下、OTOが音の背後に広がる壮大なヴィジョンについて語ってくれた。

“みんなたちのファンファーレ”におけるバジャンの応用については、話せば長いです(笑)。曲のベースにしたのが、インドのバジャンでした。インドのバジャンは、ロマにも受け継がれて、アフリカ大陸の北部に入って……しかし、インドから仏教が伝来してきたチベット、中国、韓国、日本の経路ではバジャンがあんまり入ってきていない。

『虹色のファンファーレ』の制作背景についてお話を聞ければと思います。

OTO:ぼく自身4曲のものでフル・アルバムができそうだったらやろうかなという構想はあったんです。みんなと話をして、他のプロジェクトも自分の仕事もあったりで時間的に難しいねとなって、今回は2曲が精一杯だなと思いました。そのうちの1曲はインドのバジャン(Bhajan)のスタイルから来ています。

“みんなたちのファンファーレ”のことですね。

OTO:もうひとつはアケミが歌っていた、“へいせいナンのこっちゃい音頭”のアップデート版です。歌詞に「なんのこっちゃい」という部分がありますが、30年経ってさらに世界がひどい状況になっているので、いまこのタイミングで“ナンのこっちゃい音頭”をやりたいと思いました。また、2020年のいま“ナンのこっちゃい音頭”を演るにあたって、アケミとミチロウさんへのオマージュというところもあります。そこは音頭のリズムへぼくも興味があって、音頭には分断を超えるリズムがあるんじゃないかと思っているからです。ミチロウさんもそこに着目していたし、ぼくもそれを引き継ぎたいという気持ちがありました。
 “みんなたちのファンファーレ”におけるバジャンの応用については、話せば長いです(笑)。アケミが亡くなったあと30年生きてきたなかで、ぼくはスウェットロッジ(※ネイティヴ・アメリカンの儀式のための小屋)に入ったことがあったんですね。スウェットロッジにはだいたい10人前後入って、真ん中にチーフがいる。そのサークルのなかでいろんなことを話しました。チーフがクエスチョンを出してそれにみんなが答えていくということをやるんです。何巡目かするときに、「みんなが知っている祈りの歌を歌いませんか?」と言われるんですよね。何回か経験していくなかで、日本人は神ではなくても天に祈る歌をみんな知らない。苦肉の策で“上を向いて歩こう”とかそんな歌を歌ったり。天に祈る歌というものが、日本では現代においてあまり作られていないんだなということに気がついたんです。じゃがたらでまずそれを作りたいなという気持ちがすごくありました。

なるほど。

OTO:で、その曲のベースにしたのが、インドのバジャンでした。インドのバジャンは、ロマにも受け継がれて、だから地中海を回って、アフリカ大陸の北部に入って、その北部の最後あたりにマリの北側のトゥアレグ族という人たちのなかにもバジャンのひとつはあったんです。しかし、インドから仏教が伝来してきたチベット、中国、韓国、日本に来るような経路ではバジャンがあんまり入ってきていない。

バジャンは何年くらい?

OTO:バジャンはかなり古いと思います。3000年前じゃないですか。

中国にも伝わってないんですね?

OTO:中国に行っているかどうかはわからないんですが、たとえば、ウイグルのほうにあるかもしれない。アフガニスタンのほうにまで来ているかも。アフガニスタンはインドに近いからそっちの直流のかたちではあるけど。東南アジアのマレーシアとかカンボジアとかそのあたりを経由はしてきていないんですよね。そのあたりの経由はインドネシア。バリのほうにヒンズー教は行っているので、もしかしたらバリのほうのかたちにはバジャンは行っていると思うんです。

ロマのなかにバジャンがあるんですね?

OTO:ロマのなかにはバジャンがあります。

では、3000年前のワールド・ミュージックですね。

OTO:本当にそう。もしかしたら日本にバジャンが来たときは念仏踊りというかたちで入っているのかも。

“みんなたちのファンファーレ”を初めて聴いたとき、なんてピースフルな音楽だろうと思ったんです。すごく平和な響きですよね。その感覚の理由は、いまの話を聞いてだいぶわかってきましたが、ぼくはこの曲を聞いたとき、この平和な響きの根拠を自分なりに推測してみたんですね。まず、OTOさんがアケミさんと最後に作った“そらそれ”はOTOさんのなかでは満足いかなかった。アケミが離れてしまっている状態がそのまま曲に出ていると言ってましたよね。それと最後のアルバム『ごくつぶし』の最後の曲は“MUSIC MUSIC”ですが、あれはすごくあと味が悪い曲です(笑)。だからじゃがたらのは、なんかもやもやした感じを残して永久保存された。だからOTOさんは、じゃがたらという物語の最後にひとつの区切りをもういちど付ける必要があったんじゃないかと思ったんです。

OTO:過去のことはいま言われたとおり。あと味が悪い部分がぼく的にはあったし、“MUSIC MUSIC”をああいうかたちで『ごくつぶし』のなかに入れてもアケミだってそんなに爽快さがなかったと思うんです。

“れいわナンのこっちゃい音頭”も

OTO:今回の“れいわナンのこっちゃい音頭”は、じゃがたらが音頭を手掛けるとしたらというテーマがまずあった。で、アフリカのハチロクだったり、12/8という言い方をしたりするけど、そういうリズムと音頭との融合を考えたんです。それを考えたのは、音頭は音頭のノリとかスウィング感とかシャッフルリズムに固定されたものがあるんだけど、ぼくはその音頭のシャッフルというリズムにロックされた部分を外して、もっとリズムを自由に変化できるものにしたかった。そうしたら世界中の人が音頭にアクセスできるような入り口にもなるんじゃないかと思った。
 実はその形式に関しては、サヨコオトナラというグループで活動するなかで試みていました。そのバンドの2枚目のアルバム『トキソラ』の“アワ”は阿波踊りの“阿波”だし、日本の「国産み」がはじまったという謂われもある“阿波”、「あいうえお」の「あ」と、「わいうえを」の「わ」で“あわ”のはじめと終わりで陰陽も表したりする。その阿波のエネルギーを文字って、ジャンベの奈良大介さんがマリのヤンカディというリズムをミックスして、それをアフリカのジャンベ・チームとサヨコオトナラと阿波踊りの阿波チームとでミックスして、何年か前に四国の阿波踊りの現場でやったことがあるんです。そのときに良いリアクションがあって、このリズムはいけるなと思った。

OTOさんにとっては今回が初めてではなかったんですね。

OTO:アフリカのハチロクと日本の音頭をミックスすることは今回が初めてではないんです。ただ、今回のほうがよりアフリカ寄りのアレンジで、ホーンもいるので、メロディがもっと生かせる。じゃがたら的なブラスのメロディをミックスした曲にしたいというデザインは最初からあったんです。また、この曲を歌うのにふさわしいのは、TURTLE ISLANDの愛樹(ヨシキ)だろうということも迷わなかった。
 愛樹もじゃがたらのドラムのテイユウもハチロクのリズムがなかなか掴めなくて。シャッフルはできるけど、ハチロクのリズムができなかった。昔のぼくだったら何がなんでも練習してもらって、できるようになるまでやっていたけど、今回は時間の制限もあるし、みんなできる範囲の技術で、できる部分だけやろうとフレーズを簡素化したり、愛樹には愛樹の歌えるリズムで歌ってもらった。ぼくが書いたメロディとは滑らかさが実は違っている。でも江戸アケミだってそれくらい不器用だったし、愛樹の不器用さがアケミとすごく重なって見えました。
 歌入れは、ネットで映像を観ながら豊田のスタジオで録音しました。豊田で愛樹と歌入れをやっていたエンジニアがいて、ぼくは熊本でその歌入れの様子を見て、指示をしたり感想を言ったりして進めていったんです。なんか橋渡しの儀式をしているかのようだったね。ぼくのなかではアケミもこのくらい苦手なところがあったよなと思いながら、愛樹もうまく歌えないと狂ったように「うわー!!」とかなっているし(笑)。

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今回の“れいわナンのこっちゃい音頭”は、じゃがたらが音頭を手掛けるとしたらというテーマがまずあった。で、アフリカのハチロクだったり、12/8という言い方をしたりするけど、そういうリズムと音頭との融合を考えたんです。

いまのお話を聞いて、新曲2曲のなかにはすごくいろんなものが集約されているんだなと思いました。メッセージもそうだし、サウンド的なところもそう。そのサウンド自体がひとつのメッセージになっていることも改めてわかりました。“ナンのこっちゃい音頭”で言うと、アフリカのハチロクと日本の音頭をミックスする。そこはOTOさんがずっと追求しているリズムの実験がいまも継続されているってことですよね。新曲の2曲を聴いてぼくが良いと思ったのは、曲がまったくノスタルジックじゃないってことなんです。たとえば昔のファンが好きそうなアフロ・ファンクやもっと泥臭いファンクを繰り返すのではなく、進化した姿をちゃんと見せている。これはすごいことだと思います。とくに世界のいろんな土着性をどうやって他の文化とミックスして、発展させていくかということは、いまの音楽シーンではグローバル・ビーツという括りで活況を見せています。

OTO:大石始さんが制作した音頭的なものを集めたコンピレーション(『DISCOVER NEW JAPAN 民謡ニューウェーブ VOL.1』)にサヨコオトナラの“アワ”を入れさせてくれないかという依頼があって入ったんです。そのCDでいろんなバンドが音頭にまつわるミクスチャーを作っているんだけど、音頭の跳ねたリズムにウワモノとして和的なものがのっかったり、あるいはそうじゃないものがのっかったりしているぐらいのミックスで、それだと踊りが新しい踊りにならないんです。腰から下は相変わらずただの日本的なリズム感で、ひどく言うと凡庸な音頭感。上だけ好きなように手振りしているような感じで、下半身があまり変わらない。つまり、1曲のなかで腰とステップが変わるようなリズムになっていかないんですよね。自由度がなく、腰から下はずいぶん固定された感じになっていた。だから音頭のミクスチャーはまだまだやり切れていないんじゃないかと思います。

いっぽうで“みんなたちのファンファーレ”はスピリチュアルな曲とも言えますよね。

OTO:さっきバジャンのことを話したけど、やっぱりロマの音楽でも人間界のことを歌う歌はあるけど、バジャンはもともと神に向かって祈る歌なので、インドだと神様の名前をコールするだけのシンプルなものもあるし、もっと長く意識的なバジャンでスロウなドローンから入って、瞑想的な時間を15分から20分くらい経て、そこからじょじょに自分の思いを神様に天に近づけていく、捧げていくというバジャンもある。そこでは踊りと歌がミックスされる。いろんな形式があるんです。
 去年、東京ソイソースに出演した時に、南はすごく頼もしくセンターを仕切ってくれました。彼女の資質はもちろん女性だし、江戸アケミの存在とは違いますが、じゃがたらの音楽のセンターになっていました。南は南なりにアケミが亡くなって以来30年間アケミの気持ちと対話して、朝起きたらアケミの写真と話をしてから1日の仕事をはじめるということをやってきた。これはもう立派なバジャンだと思う。自分のやっていることが良いかどうかとか、困ったときもあれば苦しんだときもあれば救いを求めたときもあるだろうし、いろんな思いで南はアケミと対話をしてきたんだなと思います。
 そんな頼もしい南がじゃがたらを自分のバンドだと言えるように “みんなたちのファンファーレ” は最初からじゃがたらのフロントマンに捧げるつもりで作りました。南が歌うキーで南に合う歌いやすいかたちで、メロディを作ったんです。南も詞を書くときにバジャンだからといって、神に祈るとかそういうことを歌う必要もないし、でも今回こういうタイミングで出すから、南が毎日アケミと会話してきたその日々のそのままを描いたんだと思います。
 バジャンはその対象である神の存在に対しての愛を表すことなのですが、そもそも人間には祈るということが大事なんだと思うんです。宗教に入っている人だったら、神様に祈るということをするだろうし、家に仏壇がある信心深いおばあちゃんだったら毎日手を合わせてご先祖様だったり、亡くなった夫と会話したりしてきているんだと思います。南には、彼女がこれまで祈ってきた会話してきた思いそのままでいいんだと伝えました。メッセージを向ける先は、世俗の人たちではなくて、生きている人も含め、亡くなった人も含めて、そこに生かされていることを感謝するつもりで天に歌う気持ちの歌にしたいんだと言ったんです。そこがバジャンの本質だから、天に歌うということを条件に詩を書いてとリクエストしました。すごく悩んでいたけど(笑)。

それだけ言われて悩まないほうが(笑)。

OTO:「たとえばどういうこと?」とか言われて(笑)。「南は毎日そういうふうに過ごしてきたでしょ?」って。そのときの自分の気持ちだったり、毎朝アケミの写真と会おうとするときの気持ちとか、その気持ちそのままでいいんだよと言ったらすぐに書いてきてくれました。

メロディがじゃがたらにしてはすごくわかりやすい。みんなが口ずさめるような。それはあえてそうしたんですよね?

OTO:バジャンはみんなが歌えるようなシンプルで歌いやすいメロディーが特徴です。その形式自体もともと音頭取りみたいなもので、ひとりが歌ったら次は同じ歌を全員で繰り返すんです。トゥアレグの人たちの歌もそうだし、インドもロマの人たちの音楽も通常の形式は8小節のAメロディ、8小節のBメロディがあったら、8小節を2回繰り返して、Bメロの8小節を2回繰り返して、1番ができる。2番があるものもあるけど、1番だけのものが多いですね。歌い手が1番を歌ったら、次はそれを全員が合唱で歌うという感じ。1番をひとりが歌って2番を全員で歌って、また2番をひとりで歌って、2番を全員が歌ってという繰り返し。全員が歌うときはなるべくシンプルで聴きやすいメロディがいいので。

このモザイクレインボーは水戦争を民主運動で戦ったヴェオリアたちに勝利したボリビアのコチャバンバの旗なんです。水戦争があちこちで起きて、インドでも水戦争があるし、南米ではとくにチャベス以降は激化している。日本も麻生が国民には相談しないで勝手に水道を民営化することを決めてしまった。

曲名を“みんなたち”にしたのはなぜですか? そして“ファンファーレ”にしたのは?

OTO:ファンファーレはもともと83年の“日本株式会社”という『家族百景』のカップリングで出たアナログ盤のB面の曲なんです。その曲はちょっと講談風と言いますか、そんな語り口調で、ベタな和風ファンクを弥次喜多道中的なおもしろさのあるコミカルなファンクでやっています。それは株式会社ともいえるような経済繁栄だけが目的の日本をちょっとおちょくった感じです。最後にはアケミの「虹色のファンファーレが聞こえるかい、それがご機嫌の合図だ」という叫びがあるんですよね。それがすごくぼくにとって印象的だった。
 アケミのメッセージはだいたいかりそめの日本及び日本人に対してですよね。外国からいろんな条件を与えられて、その属国になってしまっているかのような、支配されているかのようなシステム。しかもそのなかで、悲しいかな、人びとは一度は過去に反対とかして抵抗しているのだけど、じょじょに染まっていってしまう。システムのなかにどんどんはめ込まれてしまう暮らしに対して違和感もなくしてしまった日本、とくに80年代のバブルに無防備に劣ってしまって。そのことに対して、アケミはそんなわけにはいかないぞ、そんなことが続くわけないじゃないかという警告をよく発していた。「虹色のファンファーレが聞こえるかい、それがご機嫌の合図だ」というのはそういうことに染まらないで、アケミ的に言うと毒されないで、自分の魂にもっと正直になって自由に生きていく道があるよということが言いたかったと思うんです。そのヴィジョンからの呼びかけのサインを“ファンファーレ”という言い方でアケミは言ったんだろうし、それがご機嫌の合図だというのもそのシステムのなかで埋没させられてしまう世界ではなくて、それらからエクソダスして自分の力で脱出したところで、もっとひとりひとりがご機嫌にいこうぜということを言葉は少しずつ変わりつつも彼はずっと言っていた。それは彼の一貫したメッセージだったと思うんだよね。
 ぼくは「虹色のファンファーレ」というのをいつか使おうかなと思っていたんです。13回忌のときまでは「業をとれ30:07」というのがキーワードだったり、“クニナマシェ”というのをタイトルにしていたりしたんだけど、13回忌が終わった時点で、自分の心のなかではじゃがたらの仕事はここで整理が終わりましたというかたちにさせてくださいと。そこから自分自身のことをやらなきゃと思った。でも30回忌にもしも自分が何かできるような状態だったら、「虹色のファンファーレ」でやろうと決めていました。

“虹色”をなぜ“みんなたち”に変えたんですか?

OTO:そこは鍵だね。ぼくはいま奥山で森に入る暮らしをしている。ライヴの本編のいちばん最後にやった“夢の海”の最後のリフレインは「雨が上がれば日はまた昇る」というんだけど、その前は「飛び出そう緑の町へ」というんだよね。江戸アケミのバトンを受け取ったぼくなりのキーワードが「緑の町へ飛び出そう」なんです。ぼくの場合は町ではなくて山のドンツキだし、森の方に入っていった。そして、森のなかの農園の暮らしで、自分のエゴを取るというか、みうらじゅん的に言うと「自分なくし」というコンセプトがありました。
 自分、自分というような考え方って、この世の成功報酬が神への愛の証しだというある種プロテスタンティズムな考え方でもあって、そのトリックが経済繁栄というトリックに繋がっていく。もっと豊かな生活、自己実現しようという、それがエサみたいになって巨大な支配を望む。そういうパラダイムをぼくは甘い罠だったなと思った。じゃがたら的に言うと「ちょっとの甘い罠なら」というところだね。
 じゃあ、それに代わる次のパラダイムは何かなと考えると、いまの社会が強制する働かざる者食うべからず的な自分というものを取ったもの。それともうひとつ、ヒエラルキーの社会構造から外れているものたち。たとえばベスト10の世界。勝ち残る、競争をさせて経済効果を上げるというシステムのなかで、ベスト10に入らないものは落ちこぼれだというような切り捨てをするんですけど、ベスト10やベスト100よりも面白いものがあるという、ロングテール的な存在を認める多様性のある価値観も良いと思う。だから“ファンファーレ”は誰か特定の個人ではなく、“みんなたち”であり、共存していくフォーメーションがぼくはすごく大事だと思っていたんだよね。競争でないし、ヒエラルキーのなかの自己を探すのでもない、輪になっていくお互いが共存しあっていける関係性が大事。お互いがエクステンションになれる存在。人と張り合う必要がなくなる、比べる必要がないコミュニケーション。そういうのを目指していた。

すごくユートピア的なものですね。OTOさんはアケミさんのメッセージについて、エクソダスというキーワードを昔から言っていましたよね。

OTO:“みちくさ”のうたはもろそれだから。飛び出せって “ゴーグル、それをしろ”にもあるし。
 今回の新曲でもうひとつ重要なことは、たまたま南が農園にひょっこり遊びに来たんです。それがやっぱり大きなきっかけだった。ぼくは、いままで話したように、自分だけが変なところにパラダイムシフトを求めて、みんなから外れて変なことをしはじめているんだろうなと思っていた。理解されないだろうと思っていたところに南がひょっと現れて。南はどういう理由で農園までいきなり来たのかわからないけれども、OTOをちょっと脅かしにいこうとか思って、無邪気な笑顔でぼくの誕生日に現れたんですよね。
 このことがぼくには大きくて……わざわざ来るのは大きな意味があったんだと思う。宇宙的なレベルではどんな意味なんだろう、何が南をこうさせているんだろうと思って、久々に顔を合わせてからはずっと考えた。晩御飯を食べて、夜お酒を飲みながら南と話をすると、「私はいままで自分の踊りを作りたい、自分の踊りを完成させたいとか、そういう自分のやり方でかたちづくりたいと思っていたんだけど、3日前くらいに、もう自分というものはいらないんだな、自分の踊りの「自分」はもういらないなということに気がついた」とかいきなり話はじめたんですよ。自分なしの、自分というものがない踊り。つまり宇宙的レベルの踊りなんだよね。そのことを南が言ったときに、あぁ宇宙的レベルの意志はこのセリフだと思った。ぼくはその南の意識に共振して、ぼくは南と新たに出会っているんだって彼女にも言ったんだよね。今日のこれは新たな出会いだと。ぼくはそれまでバンドではひとりきりだと思っていた。ぼくはひとりだし、30回忌は大変だなと思っていたの。でも意識がずれた人とやりたくないし。意識が同じ人でなるべくやりたいけど、そのときは果たしてじゃがたらのメンバーかなという思いもよぎっていたんです。でも南が訪ねてくれたときにこれで30回忌は少なくとも南とは一緒にできると思った。そして南にぼくは背中を押されたような感じで、じゃがたらのメンバーとやろうと思ったんだよね。
 もともとインドでは、宇宙の創始のエネルギーのブラフマンに対しての祈りがバジャン。そのときに自分というものはないんですね。エゴを取って、地上で肉体を持って生かされていることに、宇宙からのエネルギーに感謝する思いがバジャンだから、「みんなたち」なんです。南の場合は直接ブラフマンということを意識してないし、宗教ということではなく、信仰心というものかもしれませんが、それはあっていいとぼくは思っているから。

じゃがたらは、みなさん個性があってバラバラですよね(笑)。南さんが言っていたけど、まとめるのが本当に大変って。同じタイプの人間ばかりが集まる集合体ではなくて、いろんなやつがいていいんだというところもじゃがたらなんですよね。だからまさにカオスであり、それも含めてのみんなたちであり、天に対する祈りであり。すごくいろんな意味がある。この曲を聴いたときに平和的で、でも薄っぺらな曲ではなくて、すごく不思議なパワーがあると感じました。じゃがたらにしては耳障りがシンプルだし、歌いやすい。これは深い曲なんだと思っていたんですけど、いまのお話を聞いてすごくよくわかりました。
 これはスタジオでOTOさんに教えてもらったことですが、ギターはマリのトゥアレグのフレーズから来ているんですよね。あれは反政府のゲリラ兵士の音楽ですよね。

OTO:そうそう、ウォリアーズです。もちろんそれも意識しています。ティナリウェン(https://www.ele-king.net/review/album/005558/)もそうだし。タミクレストたちもそうだし、みんなグローバリズムに対しての反発で、それをメッセージにしたくて、戦いのために立ち上がっている。そのアフリカ産のファンクにアメリカ産のプリンスのファンクをミックスしています。EBBYのギターのカッティングとテイユウのハイハットはプリンスの曲”kiss”のリズムです。少しハネているファンクです。このスウィング感がポイントです。

リアルな戦士ですよね。

OTO:ぼくはギターをクワに変えた(笑)。向こうはシリアスに銃ですよね。ギターと銃が同じレベル。厳しい現実です。
 ちなみに今回のジャケットのアートワークは、エンドウソウメイ君の絵を使っていますが、この絵は“ナンのこっちゃい音頭”の歌を歌っているアケミなんです。今回の作品名が「ナンのこっちゃい音頭」だったらぴったりだったんだけど、タイトルを『虹色のファンファーレ』にしたので、アートワークにもう一工夫必要になった。そこでモザイクレインボーを入れたんです。
 このモザイクレインボーは水戦争を民主運動で戦ったヴェオリアたちに勝利したボリビアのコチャバンバの旗なんです。水戦争があちこちで起きて、インドでも水戦争があるし、南米ではとくにチャベス以降は激化している。日本も麻生が国民には相談しないで勝手に水道を民営化することを決めてしまった。水の民営化は、10年以上も前に南米を襲っていて、そのときにプリペイドカードを持たないやつは水なんか飲むなってヴェオリアが言っているんですよね。たぶん日本もこれからそうなる。麻生たちが利権をすでに手にしてこれから大搾取が起きてくる。
 それで、コチャバンバは闘争のこの旗を持って、ボリビアの帽子とマントをかぶって、大デモをやって勝利を収めたんです。『虹色のファンファーレ』のジャケットは、厳しいことがこれから日本で起きるから、そのときはみんなの力で戦っていこうという願いです。

Yves Tumor - ele-king

 前作『Safe In The Hands Of Love』で大きく方向転換し、次の時代を切り拓く新世代アーティストとしての地位をたしかなものにしたイヴ・トゥモアが、通算4枚目となるスタジオ・アルバム『Heaven To A Tortured Mind』を4月3日にリリースする。最近ではキム・ゴードンの新作を手がけていたジャスティン・ライセンが、前作に引き続き共同プロデュースを担当。現在、昨秋の “Applaud” 以来となる新曲 “Gospel For A New Century” がMVとともに公開されている。はたして「新世紀のゴスペル」とはいったいなんなのか? イヴ・トゥモアのつぎなる野望とは? 楽しみに待っていよう。

[3月6日追記]
 待望の新作のリリースがアナウンスされたばかりではあるが、このタイミングでイヴ・トゥモアの主演するショート・フィルム『SILENT MADNESS』がユーチューブにて公開されている。ブランド MOWALOLA の主導によるもので、監督は写真家のジョーダン・ヘミングウェイが担当。とても印象的なヴィデオに仕上がっているのでチェックしておこう。

[3月10日追記]
 先日公開された “Gospel For A New Century” が話題沸騰中、じっさいすばらしい1曲でイヴのパッションがひしひしと伝わってくるけれど、それにつづいて昨日、アルバムより “Kerosene!” が公開されている。聴こう。

YVES TUMOR
2020年代オルタナ・シーンの主役、イヴ・トゥモアが最新アルバム『Heaven To A Tortured Mind』より新曲 “Kerosene!” をリリース!

“Gospel for a New Century” は直球のロック・アンセムに聴こえるかもしれないが、謎めいたタイトルと先鋭的なプロダクションは、より壮大なモノの先駆けになっているのかもしれない ──Pitchfork, Best New Track

先日、最新作『Heaven To A Tortured Mind』のアナウンスをすると同時に “Gospel For A New Century” のミュージック・ビデオを公開し、Pitchfork、Stereogum、NPR、New York Times、HypeBeast、Dazed、FACT といったメディアから、今年最もエキサイティングなリリースとして取り上げられるなど、各方面からの期待が高まるイヴ・トゥモアが新曲 “Kerosene!” をリリース!

Yves Tumor - Kerosene! (Official Audio)
https://youtu.be/N0c7lVHMyaY

“Kerosene!” で表現されている型に収まることのない創造性は、まさに新たなポップ・アンセムの誕生を感じさせる。ファジーなギターリフ、ビヨンセとのコラボでも話題となったダイアナ・ゴードンの美しい歌声、そしてイヴ・トゥモアの唯一無二な歌声は、90年代のオルタナティヴ・ミュージックが持っていた力強さを思い起こさせると同時に、2020年代でしか存在し得ない多様性を含んでいる。

また、現在イヴ・トゥモアはUKでのムラマサのサポートを終え、YVES TUMOR & ITS BAND としてのヘッドライン・ツアーを開始しており、今までのマイク一本で行ってきたスタイルから更にスケールアップしたパフォーマンスを世界中で披露する予定となっている。

待望の新作『Heaven To A Tortured Mind』 (4月3日発売) のリリースを発表し、メイクアップ・アーティストでビョークやリアーナらとも仕事をしているクリエイター、イサマヤ・フレンチ (Isamaya Ffrench) が手がけた新曲 “Gospel For A New Century” のミュージックビデオも話題沸騰中のイヴ・トゥモアが、主演を務めるショートフィルム『SILENT MADNESS』が公開された。本ショートフィルムは、ナイジェリア出身の気鋭デザイナー、モワローラ・オグンレシによる人気急上昇中のブランド MOWALOLA が公開したもの。監督は写真家のジョーダン・ヘミングウェイが務めている。トップクリエーターたちが集結した映像世界は必見。

SILENT MADNESS
https://youtu.be/zCXbEzVScIE

YVES TUMOR

奇才イヴ・トゥモアが最新アルバム
『HEAVEN TO A TORTURED MIND』を4月3日にリリース!
新曲 “GOSPEL FOR A NEW CENTURY” をミュージックビデオと共に解禁!

世界的評価を獲得した前作『Safe In The Hands Of Love』で、退屈なメインストリームに一撃を与え、独特の世界観で存在感を放っている奇才イヴ・トゥモアが、新章の幕開けを告げる新作『Heaven To A Tortured Mind』を、4月3日(金)に世界同時でリリース決定! 新曲 “Gospel For A New Century” をミュージックビデオとともに解禁した。特殊メイクやレーザーが生み出す強烈なヴィジュアルが印象的なビデオは、ロンドンを拠点に活躍するトップメイクアップアーティストで、ビョークやリアーナらとも仕事をしているクリエイター、イサマヤ・フレンチ(Isamaya Ffrench)が手がけている。

Yves Tumor - Gospel For A New Century (Official Video)
https://youtu.be/G-9QCsH3OQM

その評価を決定づける鋭利な実験性はそのままに、サイケロックとモダンポップの絶妙なバランスをさらに追い求めた本作では、共同プロデューサーにスカイ・フェレイラやアリエル・ピンク、チャーリーXCXらを手がけるジャスティン・ライセンを迎えている。2018年の最高点となる9.1点で Pitchfork【BEST NEW MUSIC】を獲得したのを筆頭に、New York Times、Rolling Stone、FADER、NPR などの主要メディアがこぞって絶賛するなど、その年を代表するアルバムとして最高級の評価を得た前作『Safe In The Hands Of Love』。その音楽性について The Wire は「ここには、Frank Ocean と James Blake が探ってきたものの手がかりが確かに存在するが、何よりも Yves Tumor は黒人の Radiohead という装いが、自分に合うかどうかってことを試して遊んでいるのかもしれない」と解説している。昨年は、Coachella、Primavera などの大型フェスにも出演を果たし、多くのファンを獲得しているイヴ・トゥモア。抽象に意味を与え、不協和音すら調和させ、現実の定義を壊す。哲学めいた制作アプローチを経ても、聴くだけで思わず惹きつけられるずば抜けた表現力と音楽性の高さは、「新世紀のゴスペル」と題された新曲がまさに証明している。

奇才イヴ・トゥモアの最新作『Heaven To A Tortured Mind』は、4月3日(金)に世界同時でリリース。国内盤CDには、ボーナストラック “Folie Simultanée” が追加収録され、歌詞対訳と解説書が封入される。アナログ盤は、シルバー盤仕様と通常のブラック盤仕様の2種類が発売される。

label: BEAT RECORDS / WARP RECORDS
artist: Yves Tumor / イヴ・トゥモア
title: Heaven To A Tortured Mind / ヘヴン・トゥ・ア・トーチャード・マインド
release date: 2020.4.3 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-635 ¥2,200+税
国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説書・歌詞対訳封入

TRACKLISTING
01. Gospel For A New Century
02. Medicine Burn
03. Identity Trade
04. Kerosene!
05. Hasdallen Lights
06. Romanticist
07. Dream Palette
08. Super Stars
09. Folie Imposée
10. Strawberry Privilege
11. Asteroid Blues
12. A Greater Love
13. Folie Simultanée (Bonus Track for Japan)

商品情報
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10860

食品まつり a.k.a foodman - ele-king

 みなさんお待ちかね、名古屋が世界に誇る鬼才、食品まつりことフードマンが新作EPを3月6日に上梓する。タイトルは「Dokutsu」で、これは洞窟だろうか。今回は新たにロンドンに起ち上げられたレーベル〈Highball〉からのリリースとなっており……こちらはカクテルのハイボールだろうか。現在、先行シングル曲 “Kazunoko” のMVが公開中。なんだか無性にお酒が飲みたくなってきます。

artist: Foodman
title: Dokutsu
label: Highball
catalog #: HB001
release date: March 6th, 2020

tracklist:

A1. Kazunoko
A2. Hirake Tobira
A3. Imo Hori
B1. Oshiro
B2. Konomi
B3. Kachikachi

boomkat / disk union / TECHNIQUE / JET SET / amazon / iTunes

The Cinematic Orchestra - ele-king

 昨年美しいカムバック作を送り出したザ・シネマティック・オーケストラが、同作のリミックス盤をデジタルで3月に、ヴァイナルで4月にリリースすることになった。リミキサーに選ばれているのは彼らのお気に入りのアーティストたちだそうなのだけど、アクトレスケリー・モランドリアン・コンセプトフェネスラス・Gメアリー・ラティモアにペペ・ブラドックにアンソニー・ネイプルズにと、そうそうたる面子である。これはチェックしておかないとね。

THE CINEMATIC ORCHESTRA

『To Believe Remixes』の 12inch 2作品が4月24日(金)にリリース決定!
本日、TCO 自身によるリミックス “Zero One/This Fantasy (feat. Grey Reverend) [The Cinematic Orchestra Remix]” が公開!

その名の通り、映画的で壮大なサウンドスケープを繰り広げるザ・シネマティック・オーケストラ(以下 TCO)が、実に12年振りとなったスタジオ・アルバム『To Believe』(2019)のリミックス版となる『To Believe Remixes』の 12inch 2作品を4月24日(金)にリリース決定! デジタル配信では3月6日(金)に先行リリースとなる。本日、TCO自身によるリミックス “Zero One/This Fantasy (feat. Grey Reverend) [The Cinematic Orchestra Remix] ”が公開!

Zero One/This Fantasy (feat. Grey Reverend) [The Cinematic Orchestra Remix]
https://www.youtube.com/watch?v=LT-eJVqECWk

『To Believe Remixes』では TCO のお気に入りのプロデューサーやアーティストがリミックスやリワークを行っており、エレクトロニックミュージックの鬼才アクトレス、注目のマルチプレイヤー、ケリー・モラン、凄腕キーボーディストのドリアン・コンセプト、チェリスト兼ボーカリストのルシンダ・チュア、アヴァンギャルドのレジェンドであるフェネス、人気コンテンポラリー・ピアニストのジェームス・ヘザー、そして故ラス・Gらが参加している。また、既にデジタルリリースをしているLAのハープ奏者メアリー・ラティモア、伝説的なハウスプロデューサーであるペペ・ブラドック、そしてアンソニー・ネイプルズらがリワーク、リミックスをした楽曲も収録されている。

今週末にはセックス・ピストルズ、ボブ・ディラン、ローリング・ストーンズ、レディオヘッドらもライブを行ってきたロンドンの由緒正しきベニュー、ブリクストン・アカデミーでのライブを控えるなど精力的な活動を行う TCO の『To Believe Remixes』は2枚の12インチヴァイナルとデジタルで4月24日にリリース!

The Cinematic Orchestra『To Believe』
自ずと風景が浮かび上がる奥行きのあるそのサウンドは、本作でますます磨きがかかっている。ストリングスは、フライング・ロータスやカマシ・ワシントンなどの作品を手掛けてきたLAシーンのキーパーソン、ミゲル・アトウッド・ファーガソンが手掛け、ドリアン・コンセプト、デニス・ハムなど、フライング・ロータス主宰レーベル〈Brainfeeder〉関係のアーティストが参加しているのも見逃せない。またヴォーカリストには、先行シングル “A Caged Bird/Imitations of Life” のフィーチャリング、ルーツ・マヌーヴァを筆頭に、グレイ・レヴァレンドやハイディ・ヴォーゲルといった TCO 作品に欠かせないシンガーたちに加え、ジェイムズ・ブレイクの新作への参加も話題となったシンガー、モーゼス・サムニーとジャイルス・ピーターソンが絶賛するロンドンの女性シンガー、タウィアも参加。透徹した美意識に貫かれた本作は、デビュー・アルバム『Motion』から数えて、20周年を迎えた彼らの集大成ともいえる傑作である。

『To Believe』は心を打つ素晴らしい作品だ。美しく構築され、強い芯がある……傑作だ ──The Observer

本当に素晴らしいカムバック作だ……最近の物憂げなムードをリフレッシングで豊かなダウンテンポミュージックで表現している ──The Independent

華麗でシンフォニックなソウルミュージック……12年の時を経て戻ってきた力強いステイトメントだ ──GQ

label: NINJA TUNE
artist: THE CINEMATIC ORCHESTRA
title: To Believe Remixes
digital: 2020/03/06 FRI ON SALE
12inch: 2020/04/24 FRI ON SALE

TRACKLISTING

ZEN12536 (輸入盤12inch)
A1. Wait for Now (feat. Tawiah) [Mary Lattimore Rework]
A2. The Workers of Art (Kelly Moran Remix)
B1. A Caged Bird/Imitations of Life (feat. Roots Manuva) [Fennesz Remix]
B2. To Believe (feat. Moses Sumney) [Lucinda Chua Rework]

ZEN12539 (輸入盤12inch)
A1. To Believe (feat. Moses Sumney) [Anthony Naples Remix]
A2. A Promise (feat. Heidi Vogel) [Actress' the sky of your heart will rain mix 2]
B1. Wait for Now (feat. Tawiah) (Pépé Bradock's Dubious Mix)
B2. Zero One/This Fantasy (feat. Grey Reverend) [The Cinematic Orchestra Remix]

DIGITAL ALBUM
1. Wait for Now (feat. Tawiah) [Mary Lattimore Rework]
2. The Workers of Art (Kelly Moran Remix)
3. Lessons (Dorian Concept Remix)
4. A Caged Bird/Imitations of Life (feat. Roots Manuva) [Fennesz Remix]
5. Wait For Now (feat. Tawiah) [BlankFor.ms Remix]
6. To Believe (feat. Moses Sumney) [Lucinda Chua Rework]
7. A Caged Bird/Imitations of Life (feat. Roots Manuva) [James Heather Rework]
8. Wait for Now (feat. Tawiah) [Pépé Bradock's Just A Word To Say Mix]

1. Wait for Now (feat. Tawiah) [Pépé Bradock's Wobbly Mix]
2. Lessons (Ras G Remix)
3. The Workers of Art (Photay Remix)
4. A Promise (feat. Heidi Vogel) [PC’s Cirali mix]
5. Zero One/This Fantasy (feat. Grey Reverend) [The Cinematic Orchestra Remix]
6. A Caged Bird/Imitations of Life (feat. Roots Manuva) [Moiré Remix]
7. To Believe (feat. Moses Sumney) [Anthony Naples Remix]
8. A Promise (feat. Heidi Vogel) [Actress' the sky of your heart will rain mix 2]

label: NINJA TUNE / BEAT RECORDS
artist: THE CINEMATIC ORCHESTRA
title: To Believe
release date: NOW ON SALE

国内盤CD BRC-591 ¥2,400+税
国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説書封入

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Awich - ele-king

 ラッパーとして誰もが認めざるをえない絶対的な強さを持ちながら、一方で美しさや色気、母性などもしっかりと兼ね備え、さらに日本語と英語+沖縄の言葉であるウチナーグチもシームレスに織り交ぜて、ラップだけでなく歌も見事にこなし、トラップを含む最先端のヒップホップ・サウンドから四つ打ちやオルタネイティヴなものまで様々なトラックを網羅する、文字通りの唯一無二のアーティスト、Awich。男女問わず、ここまで死角のないラッパーは日本では非常に稀であろうし、LAを拠点とするアジア系のヒップホップ・コレクティヴである 88rising と Red Bull によるドキュメンタリー・ムーヴィー『Asia Rising - The Next Generation of Hip Hop』にて日本のヒップホップ・シーンを代表するひとりとして大々的にフィーチャされたことも、彼女の持つポテンシャルを考えれば、当然のこととも言えるだろう。そんな Awich の評価を絶対的なものにしたのが、“Remember” や “WHORU?” といった数々のヒット・チューンを放ったデビュー・アルバム『8』であるわけだが、そこから約2年が経てリリースされた待望のセカンド・アルバム『孔雀』もまた、『8』と同様に彼女の魅力を最大限に伝える作品になっている。

 前作に続き、今回も YENTOWN の Chaki Zulu がトータル・プロデュースを担当しており、プロデューサーとしても半数以上の曲も彼自身が手がけている。その中でも核となっているのが、2018年にリリースされた2つのEP「Heart」と「Beat」にそれぞれ収録されていた “Love Me Up” と “紙飛行機” の2曲だろう。一見、ラヴ・ソングかのようにも思わせて、リリックを聴くと思わずニヤリとさせられてしまうメロー・チューンの “Love Me Up” に、EGO-WRAPPIN' の名曲 “色彩のブルース” をサンプリングするという絶妙なセンスで、昭和的なノスタルジックを醸し出しながら、Chaki Zulu と Awich という組み合わせならではの、他にない新しさを作り出した “紙飛行機”。この2曲をアルバムの冒頭と中盤に配置した時点で、すでに鉄壁の構えができ上がっている。そして、KANDYTOWNIO をフィーチャしたシングル曲 “What You Want”、EP「Beat」に収録済みの kZm をフィーチャした “NEBUTA” など、今回もまたゲスト参加曲が粒ぞろいなのだが、DOGMA と鎮座Dopeness を従えた “洗脳” は個人的にはアルバム中でもダントツに好きな曲のひとつで、リリックのテーマといい、“紙飛行機” とも通じる昭和な空気感なども含めて実に中毒性が高く、Chaki Zulu の演出の上手さに感服させられる。さらにピリピリするようなパワーチューン “Poison” でのゆるふわギャングの NENE とのコンビネーションも想像を超える素晴らしさで、OZworld との “DEIGO” での沖縄の青空と海がそのまま頭の中に飛び込んでくるようなイメージの作り上げ方も実にお見事。インタールードを合わせて全20曲かつ1時間超という。いまどき珍しいボリューミーな内容ながら、上手に緩急つけて巧みに流れを作り、ラストの “Arigato” までリスナーを楽しませてくれる。

 デビュー作ゆえの衝撃という意味も含めて、『8』というクラシックを超えるのは容易ではないが、アーティストとしての成長もしっかりと示してくれた今回のアルバム『孔雀』。Chaki Zulu との鉄壁の布陣で今後も作品を作り続けて欲しいと思う一方で、より様々なアーティストやプロデューサーとの組み合わせなどによって、いままでとはまた異なる彼女の新たな魅力を次作で知ってみたいとも思う。

Five Deez - ele-king

 これは絶妙なタイミングである。昨今大いに注目を集める「ロウファイ・ヒップホップ」だけれど、その源流としても位置づけられる00年代ジャジー・ヒップホップの名盤、ファイヴ・ディーズの2作が本日2月19日、同時にリイシューされている。とくに前者収録の代表曲 “Latitude” の Nujabes によるリミックス・ヴァージョンは、昨年の舐達麻のヒット曲 “FLOATIN’” でサンプリングされ話題となったばかり。まさにタイムリーな再発といえよう。
 また、その Nujabes の10周忌追悼イヴェントが今週末から東京・大阪・福岡の3都市で開催され、ファイヴ・ディーズ、ファット・ジョン、ペース・ロックが来日、さらに〈Hydeout〉の黄金期を支えた DJ Ryow a.k.a. Smooth Current などの国内アーティストたちも集結する。こんな機会なかなかないので、合わせてチェックしておこう。

Moor Mother + Brother May - ele-king

 2020年、2月16日、22時30分、ロンドンのオーバーグラウンド線の車中でこれを書きはじめた。たったいままで、僕はフィラデルフィアの詩人/音楽プロデューサーのムーア・マザーのライヴを観ていた。

 ロンドンで2月14日から16日にかけて行われた、ムーア・マザーのレジデンシー・ライヴの最終日。会場は実験者たちが集まるカフェ・オト(僕はここで先月エヴァン・パーカーを見たばかりだ)。3日間の出演者は強者揃いだった。ノイズによる思弁的パワーで「ブラック」の存在容態を1980年から問い直している、P・ミシェル・グレゴとトラヴィス・オノらによるバンド、ONO。カザフスタン-イギリス人ヴァイオリン奏者/作曲家のガライア・ビセンガリーヴァ(Galya Bisengalieva)。ロンドンのヴォイス・アーティスト/作曲家のイレーヌ・ミッチェナー(Elaine Mitchener)。最初の2日間では、彼らがインプロヴァイズする美しい前衛的なフロウのなかで、ムーア・マザーが自作と即興詩を披露したそうだ。

 そうそうたるラインナップのなかで、なぜ僕が最終日を選んだかというと、この日の出演者がロンドンのMCブラザー・メイだったからに他ならない。彼は、いわゆるヒップホップでも、グライムのMCでもない。ミカチューやコービー・シーらが結成したバンド/プロダクション・チームのカールの構成員としても知られ、そこでは太鼓も叩いている。彼の参加曲はミカチューのEP「Taz And May Vids」(2016)などで聴くことができ、去年は彼女とメイの共同のプロデュースでアルバム『Aura Type Orange』を出している。現在もアルバムの制作に取りかかっているそうだ。

 僕は何度か彼のライヴを体験しているが、初めて観たのは2017年、セルフタイトル・アルバムを〈XL〉から出した、アルカのロンドン公演での前座のことだった。出演者にはミカチューの名前しかなかったが、ブラザー・メイがMCとして現れ、まだほとんど無名だったにも関わらず、アブストラクトなビート上で、情熱的なラップをきめながら開場を沸かしていた。彼のライヴを見れば、(あるいは彼のインスタをフォローすれば)、ブラザー・メイのファンキーさがよくわかる(インスタでもけっこうわかる)。

 この日のメイはいつも以上にホットだった。オールドスクール系のグライム・ビートから、ファンキーなテクノ・グルーヴまで、炎のようにセットは進んでいった。去年のアルバムよりも、未発表曲がメインで、パワフルな808キックとギターが絡み合うミカチュー・プロデュースの新曲に心を持って行かれた。

 バックDJはいない(ミカチューは会場にきていたけど)。手元にある一台のCDJとミキサーで、一曲ごとに区切りつつ、曲間のMCでオーディエンスと会話することも忘れない。僕は前の方の椅子に座ってしまったのだが、振り返ると、ソールド・アウトで満杯のカフェ・オトの後方はフロアの様相を呈していた。クルーのコービー・シーもステージに上がってマイクを握り、「前に進み続けろ、ラヴ!」と最後に一言。僕は立って拍手を送った。

 それから20分後、いよいよ、ムーア・マザーのはじまりだ。暗転する前に、すっと彼女はステージに現れた。星が輝くようなアブストラクトなシンセ・ラインがはじまり、それが徐々に重低音のドローンへと変化する。「今日はブラザー・メイがビートでラップだったから、自分もビートでいく」という一声で、激しいビートが降ってきた。2019年の『Analog Fluids of Sonic Black Holes』には、これまで以上にアブストラクトなサウンド表現が多かったが、今夜はずっと明確なリズムが鳴っていた。

 そこにあの突き刺さるポエトリーが飛び込む。ひとこと、ひとこと、明瞭に、ビートを変形させながら、声がこちらに、投げられてくる。彼女のドレッドロックは激しく揺れる。新作アルバムから“After Image”などの楽曲を披露したとき、トラックの持つパワーにも驚かされてしまった。この日はビートの強度が強い、2016年作『Fetish Bones』からの楽曲も多かったように思う。

 迷宮のように入り組んで聴こえるときもある音源からは想像もつかないほど、ムーア・マザーの手元の機材は実にシンプルだった。トラックを操るラップトップ、マイク、数台のエフェクター(オクターヴァーやディレイ)、そしてミキサー。シンセやオシレーターの類はない。エフェクトを延々と操作することはないが、彼女にとって、それらも身体の一部なのだろう。アイデンティを歌い、「私は誰だ!(Who is me)」と連呼するとき、エフェクトはその声を生成変化させ、言葉とサウンドの中間項となるメディアとして機能していた。

 巷にあふれる英語表現を使えば、ムーア・マザーはまちがいなく、「woke」である。彼女は人種的にも、政治的にも誰よりも目が覚めていて、サウンド/詩を武器に世界の動乱と対峙している。それと同時に彼女が宇宙からのメタな視点へと向かうのは、そこからしか見えない景色があるからだろう。この夜も、人種、社会、福祉……、と生活領域を横断し、「ファック・マネー!」と率直な怒りをあらわにする。一方で巨視的なパースペクティヴから「世界の終わりはもうすでにはじまっている」と我々に警鐘を鳴らしていた。

 ストリートからの問題提起という意味では、ムーア・マザーは『Small Talk At 125th And Lenox』を出した1970年のギル・スコット=ヘロンのようでもあり、SF的想像力を駆使する意味では、時空間を捻じ曲げて人種やジェンダーを描く『キンドレッド』のオクタヴィア・バトラーとも重なる。

 だが、それら言葉の先人と決定的に違うのは、ムーア・マザーは電子音楽家でもあり、言葉が届かない場所まで、そのサウンドの力は唄われるべきものを運んでいくことができる、ということだ。英語のネイティヴ話者でもない僕が、この夜のすべてを言葉だけで理解できたわけではない。しかし、詩人を名乗る者のパフォーマンスに生で全身を傾け、外から強力な力で心をこじ開けられた気分になったのは初めての体験だった。

 最後までハードなビートが鳴り続けた40分ほどのステージの最後に、ムーア・マザーはブラザー・メイを再びステージに上げ、ヒップホップのトラックでフリースタイルのラップをはじめた。それまでの緊張した雰囲気は一挙にほどけた。その姿はパフォーマンスに没頭する激情の詩人ではない。普段歩いているフィラデルフィアのストリートでも、彼女はこんな感じなのだろう。

 開場前、早く着きすぎて外で待機していたら、「いま何時? 今日開場何時だっけ?」と、中からふらっとタバコを吸いに出てきたリハ中のムーア・マザーに話しかけられた。詩人はゆったりと変革のときを待っているようだった。

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