Clark Feast / Beast Warp/ビート |
まず、アートワークが秀逸だ。シュールなユーモア、そこはかとない猟奇性、しかしどこか飄々とした表情......そして何より、彼の「手」は分裂して、増殖している。来る日も来る日も休まずに、カッ飛んだトラックを作りまくっているクラークの作品にぴったりである。
いままで出ていなかったのが不思議なぐらいだが、多作な彼による数多くのリミックスのなかから厳選した初のリミックス集である(それでも2枚組30曲の大ヴォリュームだが)。初期の繊細なエレクトロニカ/IDMから、ボディ・ミュージックやエレクトロを飲み込んでエクストリームな方向に振り切った中期、そして最近作『イラデルフィック』でアコースティックな要素を大きく取り込みまた新たな方向に進もうとしているクラークだが、本作はそんな彼の多面性がよく伝わる内容になっている。しかしまた、たんにリミックスのコレクションではなくひとつの流れがある「作品」にしたかったと以下のインタヴューで本人が何度も強調しているが、そうして聴くと不思議と一貫性も見出せる。『フィースト』は電子音が美しいメロディを奏でるテクノやエレクトロニカ、アンビエントが中心を占め、『ビースト』はマッシヴなビートが暴れるクラブ・トラックが並んでいるが、そのどちらも制御装置が故障しているような、明るい壊れ方をしている。マッシヴ・アタックからDMスティス、マキシモ・パークからバトルスにヘルスまで......みんなブッ飛んでいる。そういう意味では、リミックス集とはいえ、自身の土俵で堂々と取り組んだ、立派なクラークの作品である。
おそらく、本作を契機に音としてはまた違うステージに進もうとしているのだろう。エイフェックス・ツインの長い不在の間、彼と比べられ続けたクラークはしかし、「手」を止めなかった。休まずに素早く動かした......と言うよりは、増殖しているようにしか思えないのだ、やっぱり。
「Feast」は散歩しながら聴いたり、座っているときに聴く音楽。だから「Feast(=ごちそう)」と名づけた。座って、比較的、落ち着いて楽しめるもの。それに比べ「Beast(=野獣)」はより攻撃的なクラブ・ミュージックだ。
■ここのところハイ・ペースなリリースが続いていますが、なぜこのタイミングでリミックス盤を出そうと思ったのですか?
クラーク:今年はリミックスのオファーがたくさん来て、そのうちの多くが実現した。2枚組のアルバムをリリースするにしてもこれ以上曲を収録できないから、このリミックス集をまとめたんだ。今後はもうリミックスはやらないと思う。僕のキャリアにおいてリミックスをする時期は終わりを迎えた気がする。
■今年中に作ったものでないのもありますよね?
クラーク:うん、なかには10年以上前のものもあるよ。
■『フィースト/ビースト』というタイトルの由来と、「Feast」と「Beast」に分けた基準を教えてください。
クラーク:「Feast」は散歩しながら聴いたり、座っているときに聴く音楽。だから「Feast(=ごちそう)」と名づけた。座って、比較的、落ち着いて楽しめるもの。それに比べ「Beast(=野獣)」はより攻撃的なクラブ・ミュージックだ。ふたつの言葉は韻を踏んでいて、互いによく合う言葉だと思う。「Beast」はよりクラブ向けの音楽で、もうひとつの方はアコースティックギターが入っていたりして、よりソフトな感じの音楽だ。
■かなりの曲数ではありますが、それでもここに収録された以外にもあなたには膨大なリミックス・ワークがありますよね。権利の関係で収録できなかったものもあるとは思うのですけれども、それ以外に、このリミックス集の収録の基準としたところはありましたか?
クラーク:このコンピレーションに合わないと感じた曲もあり、それらは収録しなかった。このアルバムに入れるにはしっくりこないと感じたから入れなかった。とにかくリミックスならなんでも入れてしまおう、とは考えなかった。このアルバムに入っているのは、数多くのリミックスのなかから選んだ優れたリミックスだ。
■ということは、このアルバムに合うかどうかという基準で選んだということでしょうか?
クラーク:そのとおり。作品をアルバムのように仕上げたかった。単なるコンピレーションではなく、一連のプレイリストとして良いものであるような作品を作りたかった。
■あなたのリミックスだけでなく、あなたの曲をほかのアーティストがリミックスしたトラックも挟まっていますよね。アルバムの流れで聴くといいアクセントになっているんですけど、どうして自分のリミックスだけにせず、収録しようと思ったのですか?
クラーク:じつはビビオからあの曲のリミックスを出せって、長い間せがまれていたんだ。ネイサン(・フェイク)からもしつこく言われていた。だからようやくリリースできたというところだ。ネイサンのリミックスは、以前12インチでリリースを試みたんだけど実現しなかった。"グロウルス・ガーデン"、あの曲はとても気に入っている。嵐のようなクラブ・トラックだ。
でもほかにもアルバムには、友人のバンドのベージュ・レザースのような、まだレーベル未契約のアーティストなども収録してある。彼らのアンビエント・トラックをリミックスした。アルバムの最初のトラックだよ。だからこのアルバムには、まだリスナーが聴いたことのない音楽もけっこう入っているんだ。
■そもそも、リミックスは依頼があればけっこうすんなり引き受けている感じですか? それとも、けっこう慎重に選ぶほうですか?
クラーク:けっこう慎重なほうだよ。その決断が難しいときもある。時間がないときは、とにかくできない。だから忙しいときは断ってしまうね。リミックスにおいては大体の場合、友人の曲をリミックスするのは楽しい。ある意味、ビッグなバンドの曲をリミックスするよりも楽しい。だから友人の曲をリミックスするほうが断然好きだね。
[[SplitPage]]属しているという意識はあまりない。このアルバムにはアコースティックな要素も結構入っているから、アルバムを通してさまざまなスタイルが聞こえてくると思う。だからどこかに属しているという感じはとくにないね。
Clark Feast / Beast Warp/ビート |
■アルバムとして通して聴くと非常にあなたの色が強く、率直に言ってクラークのオリジナル・アルバムと言われれば信じてしまいそうです。かなり自由に原曲を触っているように思うんですけれども、どうでしょう? そうではなくて、逆に、ひとのトラックであることで制約を設けることはありますか?
クラーク:自由はある。原曲の要素を全く入れずにリミックスと称している作品は好きじゃないけれど、僕がよくやるのは、曲のヴォーカル・ラインだけを取り、曲を変形させてしまう方法だ。だから僕にとっては、ヴォーカルを扱うことがリミックスの一番良い点だと考えているんだ。ヘルスの曲はヴォーカルしか使ってないし、DMスティスの曲もそう。僕がリミックスをやる上で一番好きなことはそれなんだ。ヴォーカル・ラインを取って、それを違ったテクスチャーやメロディに載せてみる。
■では、逆に制約を設けることはありますか?
クラーク:いやあまりない。それはしないようにしている。
■オリジナルのトラックを作るときと、リミックス・ワークの最大の違いはどこにありますか? さきほどの質問とは逆に、リミックスだからできることってありますか?
クラーク:リミックスの方がずっと解放的になれる。アルバムに取り組むほど真剣に取り組まなくていいからね。普段だったら探求しようとしないようなアイディアを、リミックスで探求することができる。だけど、リミックスは大抵1週間くらいの締め切りがあるから、早く仕上げなければいけないというプレッシャーもある。
■そんなに早いんですか。
クラーク:そう。だから自分の腕を試す良い試験のようなものだよ。アルバムの音楽を作っているときは、その制作活動を続けていればいい。それがどれだけかかってもいい......何年かかってもいいんだ。だからタイトな締め切りがあるのも良いことだと思う。だけど、マッシヴ・アタックのリミックスにはとても時間がかかって結局仕上げるまで3カ月かかった。とにかく時間がかかったんだ。なぜかはわからないけど。トラックはシンプルなんだけど、バージョンが5つくらいできてしまって、そこからが大変だった。
■さきほどの質問とは逆に、リミックスだからできることってありますか?
クラーク:あるよ。リミックスする曲には他のアーティストの声が入っている。それを扱うことができるんだ。あと、原曲をどのようにして自分のサウンドにしていくか。どのように自分の音の特徴を加えるか、という醍醐味がある。ここに収録されているリミックス曲からも僕のスタイルを聴き取ることができると思う。
■とくに印象に残っているトラックがあれば教えてください。
クラーク:1枚目に入っているDMスティスの曲はとても気に入っている。彼は素晴らしい声の持ち主だと思う。僕は彼のヴォーカルをいじったり、いろいろ操作するのに何時間も費やしたよ。彼とはリミックスについていい話もできたし、彼もこのアイディアに賛成してくれた。よい経験だったよ。とても楽しくリミックスができた。
■リミックスをやってみたいアーティストはいますか?
クラーク:いつかビビオのリミックスをやってみたいね。彼には借りがある気がするしね。ネイサンも同様。あ、でもネイサンのリミックスはアルバムに入ってるね。あれは結構前にリミックスしたものだ。ほかにはレディオヘッド、モグワイなどやったら面白いと思う。
■じつにさまざまなジャンルの、ヴァラエティ豊かなラインアップになっていることで、あなたの自由な立ち位置が表れていると思うのですが、あなた自身はどこかに属しているという意識はありますか?
クラーク:属しているという意識はあまりない。このアルバムにはアコースティックな要素も結構入っているから、アルバムを通してさまざまなスタイルが聞こえてくると思う。だからどこかに属しているという感じはとくにないね。
■では、共感できるアーティストはいますか?
クラーク:もちろん。オープンな考え方で音楽に取り組めるひと。そういうひとだったら誰でも共感できる。特定のことを求めるのではなく、オープンな考えを持って音楽に取り組んでいるひと。
■アートワークが面白いですけど、あれはどういったところから出てきたアイディアなのでしょう?
クラーク:僕がガールフレンドとオーストラリアから帰る途中に、彼女が雑誌を買ったんだ。その雑誌にアルマ・ヘイサという写真家の作品が載っていた。でも、フランクフルトから電車で帰るという経路をもう少しで選ばないところだったんだ。別のフライトで帰ろうと思っていた。だから、駅であの雑誌を買っていなければ、このアートワークは実現していなかっただろうね。だから偶然だった。そして、マネージャーに彼女に連絡を取ってもらった。
彼女の作品は本当に素晴らしいと思う。画質がブリーチされたというかフラットな感じがする。とても好きだ。それから折り紙のようなイメージ。僕の音楽に対するアプローチにとても合っている気がする。複雑で何重もの層になっているところなんかがね。アルマはドイツ人の写真家だ。いま、住んでいるのはロンドンかな。
■ここ数年では、やはり『イラデルフィック』が大きな分岐点であったと思うのですが、このリミックス集を出したことが、今後のあなたのキャリアや作品に影響することはありそうですか?
クラーク:これからはバンドとのコラボレーションをたくさんやっていきたいと思っている。リミックスは、ある意味、コラボレーションの機会を増やすための扉を開けてくれるようなものだと思っている。リミックスができるということは、ほかのひととも仕事ができるという意味だから。今後はバンドとたくさん仕事をしていきたい。だからこのリリースは、その方向に向けての第一歩と言えるかもしれない。
■もっとアコースティックというか生演奏の音楽と関わっていきたいということでしょうか?
クラーク:そのとおり。リミックスをするのは、それに向けての第一歩のようなものだ。
■恐らくここに収められたリミックス・トラックも例に漏れず、あなたはとにかく作曲をし続けていることで知られていますが、その原動力はいったいどこからやって来るのでしょうか?
クラーク:何かを作っていないと落ち着かない、ソワソワした感じと、自分を前へ進めて制作するという気持ちがつねにあるんだ。はっきりとはよく分からない。でも僕にとって創作活動とは自然にそういう風になっている。
■では、つねにアイディアで溢れているという感じですか?
クラーク:まあ、そうだね。だけどそのアイディアは常により良いものへと進化させていかなければならない。だから同時にたくさんのアイディアを捨てるということもしている。すべてが良いものとは限らないから。アイディアはつねに更新され発展され続けなければいけない。だから修正作業がたくさんある。修正の繰り返しだよ。