「K A R Y Y N」と一致するもの

Jeff Mills - ele-king

 先日のDOMMUNEの放送でも話題になっていたが、まさか本当にこんな時代が来ようとは……。なんとジェフ・ミルズが、本日2月6日発売の『AERA』の表紙を飾っている。同誌ではテクノとクラシックが交錯する流れについても解説されており、これを読んでからジェフ・ミルズ×東京フィルハーモニー交響楽団×バッティストーニの来日公演を聴きに行けば、きっとより深い音楽体験が得られることだろう。そしてこのたび、その来日公演にタブラ奏者のU-zhaanが参加することも発表された。ジェフ・ミルズをめぐり次から次へとエキサイティングな情報が飛び込んでくる今日この頃だが、まずは2月22日にリリースされる新作『Planets』と、同日および25日に開催される来日公演に焦点を合わせよう!

Jeff Mills(ジェフ・ミルズ)来日公演にU-zhaanの緊急参戦決定!
2月6日発売の『AERA』の表紙に蜷川実花撮影のジェフ・ミルズが登場!


2月22日と25日に大阪・東京で開催されるジェフ・ミルズと東京フィルハーモ二ー交響楽団とのコンサートのセットリストに、新たに“The Bells”が加わることがわかった。1996年に発表された同曲はジェフ・ミルズの代表曲でもあり、テクノ・バイブルとも呼ばれる名曲中の名曲。オーケストラとの共演ヴァージョンは作年の東京公演で演奏されたが、大阪では初披露。さらに同曲の東京公演ではタブラ奏者のU-zhaanが緊急参戦する事が決定。ジェフ音響を象徴する同曲にU-zhaanが参加することで、想像がつかない化学変化が起きること必至! なんともスリリングな宇宙空間になりそうだ。

また、ジェフ・ミルズは本日(2月6日)発売の週刊誌『AERA』(朝日新聞出版)の表紙に登場。同号ではジェフ×東フィルの首謀者でもある湯山玲子が特別寄稿。ジェフをはじめ様々なテクノやエレクトロ・ミュージックとコラボレーションをおこなうクラシック音楽界の新潮流「ネオクラシック」について解説。水と油の関係に見える両者が、実は親和性が高いなど、興味深い内容でコンサートの予習に必読の記事だ。

〈U-zhaan コメント〉

ジェフ・ミルズさんと東京フィルハーモニー交響楽団のコラボレーションを初めて拝見したのは、両親と墓参りに向かう車の中で観た『題名のない音楽会(※)』でした。運転していた父に頼んで音量を上げてもらったのを覚えています。共演させていただけるのが、とても楽しみです。 
(※)=2015年9月11日放送。番組では“The Bells”、“Amazon”を東京フィルと共演。

Swindle - ele-king

 2月末にはJリーグが開幕する。ele-king編集部に昔いた橋元優歩、辞めてからサッカーにハマってるんですよね。どんな啓示が彼女の運命を変えたのかは知らないけれど、とにかくあの女はあるときある時間から湘南ベルマーレのサポになった。そりゃあ、チョウ監督はリーグにおいて有能な監督のひとりだが、うーん、人生わからないものです。まあいい、Jリーグ・ファンがひとりでも増えるのはいいことだし、いまは開幕へのワクワク感でいっぱいのとき。清水エスパルスは、主力の怪我さえなければ、ネガティヴな予想を覆してそこそこやるんじゃないだろうか……などとぼくも勝手に妄想している(とくに白崎選手の華麗さがJ1で見れるのは嬉しい)。
 もちろん一般的な見解では、清水は下に見られているチームである。近年の成績を顧みれば低い評価も甘受するしかないのだけれど、それでも清水は熱心なサポーターが熱く応援する魅力あるチームであり、その魅力のひとつにはサンバのリズムがある。たとえば浦和レッズの応援はヨーロッパ的だが、清水のそれはブラジルの影響下にあり、サポーターにはサンバのリズムが染みついている。スウィンドルのアルバムはサンバのリズムからはじまる。

 清水エスパルスが行き詰まったように、ダブステップも行き詰まるのは、ハウスやテクノだって何回も行き詰まっているように当たり前のことであり、しかしその窮地をどのように脱してどのような方向性にいくのかを追っていくのは興味深い。スケプタやワイリーなど、グライムが加速的な勢いで再燃しているUKにおいて、ダブステップは過去のものと見なされているのかもしれないけれど、マーラやスウィンドルのように他文化に開かれていく方向性はいまも継続されているし、この方向性はいまも刺激的だ。マーラの昨年の『Mirrors』に関しては、ele-king界隈ではみごとに評価が割れたが、それは期待の裏返しでもあり、たとえばエキノックスのダンスホールをわがモノとしたデムダイク・ステアの新作に関しては、ほぼ満場一致で肯定である(レヴューがあがっていないだけ)。
 スウィンドルの明るさは、デムダイク・ステアの陰鬱さとは対極とも言える。スウィンドルは、2012年、〈Deep Medi Musik〉からの12インチ「Do The Jazz」で度肝を抜いた男である。高橋勇人がライナーで書いているように、コンクリートの壁を貫通してしまうようなベースとシンセのユニゾン、ラテン・パーカッションの組み合わせの妙は、この若者を一躍シーンの最前列に押し上げた。その1曲で、ダブステップとワールドをつなぐ回路をうながした彼は、2013年にアルバム『Long Live The Jazz』を発表、2015年には本人いわく「平和と愛と音楽の使者」として『Peace, Love & Music』をリリースしている。
 前作からおよそ1年を経てリリースされる『Trilogy In Funk』は、2016年から2017年のあいだに発表してきた3作の12インチをコンパイルしたもので、大きくはブラジル、ロンドン、そしてロサンジェルスでのセッションに分かれている。
 ロサンジェルス編は、USファンクへのアプローチという新境地を見せているが、ディスコ・テイストも加味され、温かいアナログな感覚も注入されている。社会学的見地でいえば、現代のUKのキッズは、戦後おそらく最大級のレベルでUSブラックばかりを聴いていて(だからザ・xxは、インタヴューにおいて海外に出てあらためてUKロックの伝統の偉大さに気がついたと語っている)、そのことはスウィンドルのロサンジェルス編の背景とも無縁ではないかと思われる。もちろんここにあるのはスウィンドルの自己解釈に基づくファンクだ。コピーではない。
 それでもやはりぼくは、ブラジル編と並んでロンドン編が気に入っている。ブラジル編の明るさと感傷には、ロサンジェルス編と同様に彼の成熟がうかがえるわけだが、緊張感のあるロンドン編すなわちグライム・サウンドのエネルギーは、大人びたそのふたつのセッションの真ん中にあり、特別な存在感を示している。そのなかの1曲には、DダブルEのような、本当にシーンの黎明期(90年代のジャングルの時代)からいるMCがいまもフィーチャーされている。
 ハイブリッドな路線か、我らが内部における質を高めるのか、あるいはUSを積極的に取り入れるのか。いくつかの選択肢があり、現状をそのまま出してしまった格好となったアルバムではあるが、スウィンドルは彼のおおらかさで整合性というオブセッションを払いのけている。

special talk : Arto Lindsay × Caetano Veloso - ele-king

 どれでもいい、『ケアフル・マダム』から1曲抜き出してみよう。

WHERE HAIR BEGINS
WHERE IN THE AIR
LEAST WEIGHT DISPLACED
LIKES STRINGS AND SEAMS
CROSSED AND UNCROSSED ROADS

毛がはえはじめるところ
空中で
一番少ない重量が
とってかわった場所
糸や縫い目のように
交差し、交差しない道
“アンクロスト(交差しない)”(喜多村純訳)


Arto Lindsay
Cuidado Madame(ケアフル・マダム)

Pヴァイン

AvantgardeAvant PopBossa NovaNo Wave

Amazon Tower HMV

 ホウェアとヘアとエアーで韻を踏み、髪のイメージを糸や縫い目がひきとり、重力に逆らい逆巻き、縺れあったりあわなかったり――視覚と関係性の官能を二重写しにするこの曲はもとより、アート・リンゼイの歌詞のほとんどが短詩形で詩的ヴィジョンをもつのはDNAのころから変わらない。とはいえ、“Horse”の歌詞のネタ元が「リア王」だったとは、アートの基本姿勢が異質なものの同居にあるとしても、連想ゲームとしてはなかなかに高度である。なにがアートをアートたらしめるのか、詳しくは『別冊ele-king』を手にとっていただきたいが、歌詞、とくにポルトガル語での詩作において、アートはカエターノ・ヴェローゾを意識していたのはもって認めるところである。むろん、カエターノの歌詞は、ことばのイメージが科学反応をおこすアートの歌詞よりも、展開の妙味を読む散文詩的なものだが、詩の背負う世界の飛躍の距離と角度において通ずるものがある。
 本稿は『別冊ele-king』第五号に収録したアート・リンゼイとカエターノ・ヴェローゾの特別対談の、紙幅の関係で割愛した部分である。本書ではおもに音楽についての対話を掲載したが、以下はその前段にあたる、音楽におけることばについて、アートとカエターノふたりきりで語っている。いささか高踏的に思われる向きもあるやもしれぬが、やすっぽい感情やメッセージや思想によらない音楽のことばを考えるヒントに!

     

ドロレス・ドゥランの歌詞に感激したんだ。彼女の作詞は、ヴィニシウスより優れていると思うこともあった。(カエターノ・ヴェローゾ)

最初にぼくが歌詞に魅了されたうちのひとつは、ジミ・ヘンドリックスだったんだ。ある種ボブ・ディランに影響されているようなひと。(アート・リンゼイ)

アート・リンゼイ(Arto Lindsay、以下AL):歌詞と音楽の関係性について意識的に考えはじめたのはいつなの? 子どものころからだったの? コンポーザーか歌手か誰かきっかけになったひとがいるの? なにかそのへんのことについて憶えている?

カエターノ・ヴェローゾ(Caetano Veloso、以下CV):それが、子どものころからなんだ。ことばとメロディに関係がある、歌詞のある歌について考えることがあったんだ。そういうことが印象に残って、頭から離れなかった。子どものころからそういうことを考えるのが好きだった。ベターニア(註1)の名前も、ある歌にちなんでぼくが名づけたんだよ。あのときぼくは4歳だった。

AL:うわぁ。

CV:大好きな歌だったんだ。カピーバ(註2)の“マリア・ベターニア”。ペルナンブッコのひとだ。その曲はネルソン・ゴンサルヴェス(註3)が録音して、詞が大好きだった。「Maria Bethânia / Tu és para mim / A senhora do Engenho」の「Engenho(構想力、発明の才の意)」がなんなのかもわからなかったけど、なんて美しいんだって思ったんだ(笑)。

AL:はい。あははは。

CV:愛するひとに捧げた曲のタイトルで、至極美しい。成長しながら、そういうことに気づいていったこともある。なんというか、年長者からサインを受け取ったというか。少年だったころに、口笛などめったに吹かない、歌うことなんてなかった父が、母はね、よく歌っていて、いろんな歌を歌うひとだったんだけど、父はメロディとかそういうものが頭に入ることもなかったようでいっさいそんなことがなかった、その父が、誰かと話をしていて、こういったんだ「“Três Apitos(三つの笛)”(註4)はブラジルで作られた最高作だ。なんとすばらしい歌詞なんだ!」と。

AL:うわぁ。

CV:ぼくはすごくうれしい驚きを感じたんだ。ぼくがノエル・ホーザの“Três Apitos”に関心を寄せていたからさ。だって、曲のタイトルはすべてを語っていたし、どんな種類の笛だろうとあれこれ想像させるからね。工場から聞こえてくる汽笛なのか、「apito(笛)」はここで繰り返さないけれど、車のクラクションなのかと。最後にわかるわけだよ、曲の主役が夜勤の守衛なんだってことが。父は、曲が非常によくできているということがわかっていたわけだ。だからなおさら、歌詞について考えた。そうして、他にもいろいろあったわけさ。成長して、18歳のころだったか、ぼくはカイミ(註5)が誰よりも完璧だと思っていた。

AL:そういう理由から?

CV:歌詞と音楽の関係性においてね。「Você já foi a Bahia nega não / Então vá / Quem vai a Bonfim minha nega(愛しい人よ、バイーアに行ったことないのか?/じゃあ、行きなよ/ボンフィンに行く人はね……)」。人が語っているようだと思ったよ。だけど、メロディもそこにあって、語りのすべてのイントネーションが含まれているんだ。疑問符も、句読点も、それでいてこうコロキアル(話し言葉的)、誰かに話しかけているみたいでありながら完全に音楽なんだ。ぼくはそれにとても感激した。そうして、ぼくの音楽の素晴らしい二大素地でもあるノエル・ホーザとカイミのおかげでほかのことにも気がついていったんだ。どちらが先だったか憶えていないけどドロレス・ドゥラン(註6)とヴィニシウス・ヂ・モラエスの歌詞が世に出はじめたころのことを思い出すよ。どちらも同時期に出てきたと思う。ドロレス・ドゥランの歌詞に感激したんだ。彼女の作詞は、ヴィニシウスより優れていると思うこともあった。ヴィニシウスは詩人で、後から作詞家になったからね。彼の詩はより複雑で、彼女がしないようなことを書いていたけど、彼女の詞は音節ひとつひとつまでもが完全に音楽を成していた。アイデアもとても明確で、非常によく書かれていた。ヴィニシウスが優れているとわかるまで、時間がかかったくらいだよ。ドロレス・ドゥランはとても――

AL:カイミのようなんだね。とてもパーソナルで、コロキアル。

CV:そうとてもコロキアル。そしてとてもインスパイアされている。コロキアルなんだけれども、フラットではないんだ。その逆だ。

AL:ぼくの経験を語ると、ぼくはナット・キング・コール、それからドリヴァル・カイミをたくさん聴いた。青春時代の初期に母のレコードを聴いていたんだ。印象に残るものはあったけれど、歌詞と音楽にかんしてそこまで意識的に考えたことはなかった。最初にぼくが歌詞に魅了されたうちのひとつは、ジミ・ヘンドリックスだったんだ。ある種ボブ・ディランに影響されているようなひと。

CV:そうだね。すごくボブ・ディランっぽいね。

AL:完全にボブ・ディランに影響されている。

CV:彼がボブ・ディランの詞が大好きだったのがわかるものね。

AL:彼はそこからスタートして、だけどちょっと息切れしちゃった感じがあるよね?

CV:そう。

AL:ボブ・ディランより音楽的だとも思うんだ。彼はちょっと前衛的なアティテュードがあった。厳密にいえば、ボブ・ディランのケースではなかった。ボブ・ディランは結果的に前衛的になったけれど、ジミ・ヘンドリックスのようにみずから前衛的なスタイルをとらなかった。
 ボブ・ディランはまた詩的な意志を、他のアヴァンギャルドとは異なる詩的なアヴァンギャルドをミックスする。詩人のアヴァンギャルドで、それとフォークロアな音楽との類似性を認識させるね。

CV:アメリカのフォークロアとブルースもね。

AL:ブルースとかカントリーとか古いものすべてね。ヒルビリーとかそういうのもすべて。

CV:フォークとカントリー・ブルースもね。じつはぼくにとってアメリカの曲の歌詞も、とても存在感があったんだ。英語がまったくしゃべれないときから。いまはすこししゃべるけど、あのころはまったくしゃべれなかった。フランク・シナトラとか、ビリー・ホリデイとか、中学生のころみんなと同じように英語を勉強していたからね、なにを歌っているかわかったんだ。でもロックンロールが登場してからは、もう全然わからなくなっちゃった。

AL:そうだね。昔は理解できるように作詞がされたけど、ロックの後は、理解されないように作詞されるようになったからね。

CV:ふたつの意味でね。ことばそのものの選択という意味でも、発声の仕方においても。

AL:どちらかというと発声の仕方においてだと思う。

CV:でもどちらもだよ。歌詞を読んでもあんまりさ……わかる? なんか投げられた感じのフレーズで聴くひとの頭に残るような、とても刺激的じゃない? 聴きながら、歌詞を辿っていける感じのものではないというか……

1) Maria Bethânia:1942年生まれのカエターノの4歳年下の妹。トロピカリズモ周辺に出入りし、歌手デビューした65年の“Carcará”で早くも頭角をあらわす。78年の『アリバイ』でブラジル国内に広く知られた。2005年の『キ・ファウタ・ヴォセ・ミ・フェス(Que Falta Você Me Faz)』は全編、文中にも言及のあるヴィニシウス・ヂ・モラエスの楽曲からなるアルバム。カエターノは軍事政権下のブラジルを脱し、亡命したロンドンで1971年に発表した3作目の『Caetano Veloso』に妹に宛てた手紙を模した同名異曲を英語で吹き込んでいる。

2) Capiba(1904~1997):本名ロレンソ・ダ・フォンセカ・バルボサ。ノルデスチ(ブラジル北東部)のカーニヴァルを象徴する音楽形式フレーヴォの作曲家として知られる。

3) Nélson Gonçalves(1919~1998):リオグランデ・ド・スル州生まれ、サンパウロ育ちのシンガー・ソングライター。1950年代(カエターノの幼少期)もっとも人気を集めたラジオ歌手のひとりだった。

4) 20世紀ブラジルのポピュラー音楽を代表するシンガー・ソングライター、ギター/マンドリン奏者ノエル・ホーザ(1910~1937)が1933年に作曲した楽曲名。

5) Dorival Caymmi(1914~2008):バイーア州サルヴァドール出身の歌手、作曲家。のちにハリウッドで成功するカルメン・ミランダの映画『Banana-da-Terra』(1933年)に“O Que É Que A Baiana Tem?”を提供したことで名を知られる。54年に『Canções Praieiras』でデビュー。アントニオ・カルロス・ジョビンやジョアン・ジルベルトにも影響を与えた。カエターノが文中であげているのは“Você já foi a Bahia(君はもうバイーアに)”の一節。

6) Dolores Duran(1930~1959):ボサノヴァ成立前の1950年代に活躍した歌手、作曲家。ジョビンの“Por Causa de Você”、“Estrada do Sol”などの共作者でもある。

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DNAのやることは強烈だった。ロックの先端の、エッジというか、ぼくには非常に印象が強かった。ラディカルな経験を思い起こす。歌詞はそれでいて、コミュニケーションへの切迫感があった。(カエターノ・ヴェローゾ)

理念そのものにとても迷いや疑問があった。芸術に横たわっていた哲学的な理念や、60年代からきた、それらの理念の源に疑問があった。それで、ぼくたちはなにか突っ込んでいこうとするところがあったんだ。(アート・リンゼイ)

AL:ヘンドリックスのやったことがおもしろいと思うんだよね。ヘンドリックスは、三つ、四つ、五つくらいのパターンでことばと音楽とを関係づけるというか。ポルトガル語でなんて言うのかわからないんだけど、彼は「ポエティック・デヴァイス」のレパートリーをもっていた。詩的な仕掛けというのか、くりかえして、拍子やアップ、ダウンと関係があって、抑揚とリズムと……彼は早くに亡くなったんだよね。彼が27歳で亡くなったのを忘れるくらい。若すぎたよね。ぼくは作詞をはじめたとき、あなたの最初のインプレッションと似たような、歌詞を会話のようにしたかった。しかしよく聴いて、文字を追えば、より複雑で抽象的で独特なものになるように。歌ったときにまるで自然に響かなければいけないと。DNAの初期の歌詞はすべてそうだった。まるでなんというか……

CV:うん。DNA(の曲)は、ひとがまるで差し迫って主張している感じする。

AL:そう。とても……プレッシャーがかかっていた。

CV:そのスタイルに真の緊急性があるようだった。とても美しいと思う。とても、なんというか……DNAのやることは強烈だった。ロックの先端の、エッジというか、ぼくには非常に印象が強かった。ラディカルな経験を思い起こす。歌詞はそれでいて、コミュニケーションへの切迫感があった。フレーズがとても――

AL:投げられている感じ?

CV:そうなんだけど、よく聴くと、各パーツとても統合的で、いろいろなものが含まれている。とても濃い。

AL:ぼくが思うに、それはあの青春、衝動、願望とがすべて混ぜ合わさった――

CV:青春のバイタリティだね。

AL:そう、青春のバイタリティ。理念そのものにとても迷いや疑問があった。芸術に横たわっていた哲学的な理念や、60年代からきた、それらの理念の源に疑問があった。それで、ぼくたちはなにか突っ込んでいこうとするところがあったんだ。

CV:ぼくは66年から67年ころに確固たる意志をもってそうしようとしはじめた。ぼくは、ほんとうはわざと、子どものときに会得した美的感覚に背いたんだ。

AL:なるほど。でもその後背いたことにさらに背いたよね。

CV:そうだね。背いたことに背いた。いくつか美しい作詞をしたからね。

AL:いや、待って。たくさんだよ。

CV:幼少期から青年のときまで身につけた美的感覚に背いた、その多くが、世に出てきた当時は誰にもそう美しく捉えられなかったんだ。いまでこそ、容易に美しいと認識されるけれど。

AL:その通りだね。英語ではテレグラフと呼ばれるものがあるんだ。なにが言いたいかというと、ある文章が、その方向に要約されるというか。文章それぞれが、世界観がある。別々の異なった世界観が。

CV:それは、ぼくよりあなたのほうが強いよね。ぼくの作品にもいくつかそんなところに行き着くものがあるけれど、でもあなたのほうがずっとそうだよね。でも、よく考えてみたら、アメリカ文学の伝統は、ブラジル文学の伝統というかポルトガル語文学のそれよりその傾向があるよね。テレグラフに寄りかかるところが。

AL:そうね。でも、おもしろいよね。例えば、20世紀の終わりの詩をみてみると、ブラジルの詩はとても具体的で、なんというか、ミニマリストだ。

CV:そうだね。ミニマリストだね。長詩だったビート派と同じ時代にしてね。

AL:ジョン・アシュベリー(註7)とか、そのへんはみんなとても長いよね。苦痛にすら感じるほどに、終わりのない感じ、リズムがない。だけどこの会話とアシュベリーを関連させられる唯一の共通点はコロキアルということだ。彼はさまざまな文章を寄せ集めて、混ぜ合わせて、すべてどこからかとってきて小さな変更を施しただけのような。

CV:ちょっとレディ・メイドみたいなね。レディ・メイドのパーツを寄せ集めた感じ。でも興味深くて、美しい。彼特有の良質な空気感をそれで作り出すから。でも、おもしろいね、あなたがそう話し始めたとき、エズラ・パウンド(註8)について話しているように聞こえたよ。そうそれで、アシュベリーは、リオで見たことがあるよ。彼はリオでおこなった講演で、エズラ・パウンドは大嫌いだと語っていたよ。エズラ・パウンドが書いたものはすべて醜いといったんだ。「ugly」という言葉を使ったからね。彼はエリザベス・ビショップ(註9)が好きだと語っていた。彼にとってアメリカの偉大な詩人であると。

AL:うわぁ。クレイジーだ。

CV:フラメンゴ公園での講演だった。

AL:憶えているよ。たしかワリー(註10)とシーセロ(註11)とが招いたんだ。

CV:そう。それにジョアン・ブロッサもね。ジョアン・ブロッサと、それにジョアン・カブラル・デ・メロ・ネトもね。

AL:ジョアン・カブラルもいたのは知らなかった。

CV:ジョアン・カブラルはすごかったよ。信じられないようなことがあったんだ。ジョン・アシュベリーは唯一のアメリカ人だった。講演の最後に客席からの質問も受けたんだ。3人に対しての質問が客席からあった。こんな質問だった、「ご自身の作品を、声に出して読むことは好きですか?」と。ジョアン・カブラル・デ・メロ・ネトを敬愛するジョン・ブロッサが最初の回答者だった。彼はこう答えた「私にとって詩は、自分自身で声に出して読み、満足できたときにはじめて存在する。だから、ひとり読み上げて、詩の音も含め楽しむのだ」と。それから、ジョアン・カブラルにマイクが渡って彼はこう言った「いや。私は自身の詩を読むのが大嫌いだ。正直、この世にぼくの本を手にとって、ぼくの詩を声に出して読む人がひとりたりともいてほしくない。ぼくは年齢とともに視力が弱くなってきたが、耳が聞こえなくなった方がよかった」って。

AL:うわお。あはは

CV:それで、アシュベリーにマイクが渡って、「ご自身の詩を声に出して読まれることに対してどう思いますか」と質問されて彼は言ったんだ。「それでお金がもらえるならね」と(笑)。それぞれの特徴が表れているよね。ジョン・アシュベリーのユーモア・センスはとてもアメリカ的だ。この返答はハードな皮肉であると同時に、アメリカ的なものを反映している、アメリカン・ジョークだよね。

AL:とてもアメリカ的だ。わかる気がするんだ。エズラ・パウンドをいま読むと、彼はとても他の言語の形式を模倣する人だったのがわかる。それを英語で読む人は――

CV:まるで英語ではないように感じるんだね。

AL:なにか偽りのようなものがあって、まるで彼が英語そのものに喜びを感じていないように感じるんだよ。

CV:ぼくは英語話者ではないのでわからないけれど、エズラ・パウンドの作品をいくつか読んだとき、そのページでぼくは迷子になったよ。中国語の要素があったり、表意文字があったり。文章はオリエンタルなものに似ているかと思えばコロキアルな、ちょっとアメリカっぽい平俗なものが入ってくる。

AL:コラージュのようだよね。

CV:そうして語調が変わる。すごく魅力的だったけど、ぼくは迷子になってしまったよ。でも、ひとつ言っておくと、インターネットとかいう技術のおかげで、エズラ・パウンドが詩を読んでいる映像を見たんだ。なんとも美しいんだ。叫びがあって、そのうちに重低音な声ですごくコロキアルになって、そのあとまた別のものがくる……すばらしく美しかった。詩が非常に美しくなる。

AL:探してみる。彼が読んでいるのは見たことがない。

CV:ぜひ聞いて見てほしいね。

AL:ジョン・ケージ(の朗読)を聞いたことある?

CV:ケージはリオで見たよ。直接、読んでいるのを見た。

AL:彼自身の文章を?

CV:(ジェームス・)ジョイスの文章を(註12)。

AL:彼自身が語を刻みながら?

CV:そう。

AL:ぼくはニューヨークで見たよ。いままで見たなかで最高なパフォーマンスのうちのひとつだった。

CV:最高だよね!? すばらしいと思ったよ。彼は『フィネガンス・ウェイク』の一節を読むんだ。

AL:そう。ハシッ、キッ、ハシッ、キッ(とケージを真似る)。ぼくと同じ作品を見ているかわからないけど、彼は言葉を刻むんだ。

CV:ほんとうに小さなピースにしてしまう。

AL:音節の小さな一部だけが聞こえるんだ。

CV:子音の一部のあとに文章全体とかね。

AL:ぼくも見て、すごく感激したんだ。パフォーマスとして。経験として。芸術の……なんだか定義しないでおいて、とにかく信じられないパフォーマンスだった。

CV:T・S・エリオットが自身の詩を読んでいるのは見たことある?

AL:聞いたことがあるけど、実のところあまり憶えていないよ。エリオットを読むのは大好き。

CV:美しいよね。エズラ・パウンドのような苦しみはない。すべて美しく、英語も美しい。でもエズラ・パウンドが読んでいるのを聞くと、そっちの方がもっと好きなんだ。

AL:あなたがそういうのなら聞かないといけないな。エリオットは、ひととして最悪だったというか、抑制された、存在することに問題を抱えていたというか。プロテスタント的なものが強いというか。

CV:カトリックに改宗したんだよね?

AL:より一層人間らしくなくなっていったというか……

CV:それとも、英国国教か。彼は、アメリカの近代的なプロテスタンティズムよりもクリスティアニズムのよりフォーマルな伝統的なほうへ行ったんだね。

AL:あの当時はなかったものだけど。でも……ぼくはとてもよく聞いたのはバース(註13)だ。音読するバース…

CV:それは聞いたことがない。

AL:なんと! これこそ信じられないほどにすばらしいよ。彼はとても皮肉的で、本は……読んだことある?

CV:読んだよ。

AL:彼はとても気を楽にしてくれるというか…

CV:クレイジーだよ。

AL:そう、クレイジー。でもそこまでではないよ。2回読むと、とてもよく書かれているとわかるんだ。

CV:そうだね。とてもよく書かれている。

AL:彼はとても調節された韻律をもっていて、安定していて、とても……とても皮肉的でおもしろい。エリオットとはとても異なっていて、パウンドが音読しているのは見たことがないけれど、彼は南部の人で、アフリカの影響を受けたアメリカの要素があって、リズムがあり、グルーヴがあり、流れるようなグルーヴ感のある読み方なんだ。(了)

7) John Ashbery(1927~):現代アメリカを代表する詩人。アッシュベリーとも。作風はポストモダンを経由した実験的なもので、米国の主要な文学賞を数多く受賞している。翻訳書に『波ひとつ』(書肆山田)、『ジョン・アッシュベリー詩集』(思潮社)。

8) Ezra Pound(1885~1972):アイダホ州ヘイリー生まれのアメリカの詩人。20代でヨーロッパに渡り、イギリスでイェイツやT・S・エリオットらと親交をもち、パリ、イタリアと移り住むなかで、長文の自由韻律詩を発表し、俳句、漢詩、能などの東洋文化の紹介者として活発に活動した。第二次大戦中、ムッソリーニを支持し反ユダヤ主義をとったかどで告発され、米国に強制送還ののち、精神障害を理由に12年の病院暮らしをおくる。退院後イタリアで没したが、死後20世紀モダニズム運動の中心人物と見なされた。

9) Elizabeth Bishop(1911~1978)アメリカの詩人。マサチューセッツ州ウースター生まれ。1951年の南米旅行で立ち寄ったブラジルに15年間居住し、その間発表した『北と南/寒い春』でピューリッツァー賞を受賞。ほかに全米図書賞、全米批評家協会賞の受賞歴もある、20世紀アメリカを代表する詩人のひとり。

10) Waly Dias Salomão(ワリー・サロマゥン、1943~2003):詩人、作詞家、音楽プロデューサー。トロピカリズモ運動の立役者のひとりであり、ガル・コスタの“Vapor Barato”やベターニアの“Mel”、“Talisma”の作詞者でもある。

11) Antonio Cicero(アントニオ・シセーロ):1945年、リオ・デ・ジェネイロ生まれのブラジルの詩人、作曲家、作家。1993年ワリー・サロマゥンとともに「Banco Nacional de Idéias(アイデアの国立銀行)」をたちあげた。スペインの前衛詩人ジョアン・ブロッサ、具象派の詩人ジョアン・カブラル・デ・メロ・ネトらが参加した後述のイベントもその一環だと思われる。

12) ケージが講演などで話すことばを作曲作品と見なしていたことは主著『サイレンス』(水声社)所収の文章などでもあきらかだが、カエターノの言及する、ジョイスの集大成『フィネガンズ・ウェイク』を朗読するのは1970年の“ロアラトリオ”。ケージはこの曲で、『フィネガンズ・ウェイク』からのランダムなテキストの引用と、作中に言及のある音を録音した音源と、小説に登場するダブリン市内の環境音とを組み合わせる。

13) ピンチョンらとならぶ、米国ポストモダン文学を代表する小説家ジョン・バース(John Barth、1930~)を指すと思われるが、バースが朗読活動をおこなっているかは不明。またバースは南部出身でもない。発言者に問い合わせたが、期日まで回答を得られなかった。追って修正の可能性あり。

Slowly Rolling Camera - ele-king

 英国のバンドやミュージシャンの音楽性を形容するとき、折衷的という言葉が使われることがある。いろいろなジャンルの音楽、複数の音楽的傾向を取捨選択し、その融合の中から自身の個性を確立していくことが、英国の音楽には多い。ジャズ・ロックなどはその最たる例であるし、UKソウルやUKレゲエもそうした産物である。アシッド・ジャズからクラブ・ジャズに至る流れは、そうした英国の折衷主義が如実に表れたものである。スロウリー・ローリング・カメラというバンドは、こうした折衷主義という言葉が実によく似合う。まだマイナーなバンドだが、結成は2012年のカーディフに遡り、女性シンガーのディオンヌ・ベネット、キーボードのデイヴ・ステープルトン、ドラマーのエリオット・ベネット、サックスやトロンボーンのデリ・ロバーツから成る4人組である。メンバーはカーディフの音楽サークルの顔見知りで、それぞれ別のバンドでそれまで10年ほど活動しており、デイヴとエリオットはデイヴ・ステープルトン・カルテットで純粋なジャズもやっている。デイヴは〈エディション・レコーズ〉を2008年から運営し、自身の作品のほかにキース・ティペット、ノーマ・ウィンストンなど英国ジャズ界の大御所の作品もリリースしている。ほかにロバート・ミッチェルのパナセア、カイロス・カルテット、ガールズ・イン・エアポーツなど、英国コンテンポラリー・ジャズの最前線も紹介し、非常に意欲的なレーベルだ。

 スロウリー・ローリング・カメラがファースト・アルバムを発表したのは2013年。ジャズにソウルやファンク、ロックを融合したサウンドは、メンバーのほかにゲスト・プレイヤーたちの力を借りて作られた。デイヴはコズミックでフューチャリスティックなシンセからヴィンテージ感溢れるオルガンやローズまで多彩に操り、デリは管楽器意外にエレクトロニクスも担当。そして、ディオンヌの深くエモーショナルな歌声、生ドラムとプログラミングを併用し、ドラムンベースなどを咀嚼したエリオットのリズムといった構成で、重厚なダブル・ベースによるジャズを基調に、ギターなどに見られるロック的なテイスト、ヴァイオリンやチェロなどストリングスの導入による陰影に満ちて壮大なサウンドスケープを見せている。アシッド・ジャズ~クラブ・ジャズ的な要素とコンテンポラリー・ジャズ的な要素が一体となったサウンドで、リチャード・スペイヴンなどに共通するところもあるが、ディオンヌの歌が個性のひとつになっており、よりソウルフルな印象を与える。メランコリックでダークな色彩を帯びたテイストから、ダウンテンポ系ではマッシヴ・アタックやポーティスヘッドからジェイムズ・ブレイクなどを引き合いに出すUKのメディアもあったが、個人的にはシネマティック・オーケストラ、トゥ・バンクス・オブ・フォー、4ヒーローあたりを彷彿とさせる作品だった。

 それから3年ぶりに発表したセカンド・アルバムが『オール・シングス』である。ゲスト・ミュージシャンでは、ギターにシネマティック・オーケストラでも演奏し、リチャード・スペイヴンともコラボするスチュアート・マッカラムを招いている点が目に付く。基本的には前作の流れを引き継ぐ音楽性だが、全体的にエレクトロニックな要素がより強まった印象だ。“ザ・フィックス”や“ハイ・プレイズ”などがその代表で、クラブ・ミュージックとしてのエモーションやダイナミズムが前作に比べて濃厚だ。“ザ・ブリンク”のリズム・セクションとファンキーなディオンヌのヴォーカルは、明らかにクラブ・ジャズを意識したものだ。ビリンバウなどブラジル楽器も用いた“デルーシヴ”、オーケストラルなサウンドの“シニシレーション”あたりは、『トゥー・ペイジス』や『クリエイティング・パターンズ』の頃の4ヒーローが蘇る作品。ダークな味わいに富むコズミック・ジャズの“オビリヴィオン”は、シネマティック・オーケストラやトゥ・バンクス・オブ・フォーなどから受け継がれるUKクラブ・ジャズの神髄と言えるだろう。USのジャズとは全く異なる価値観や方法論を持つこのアルバムは、折衷精神が強い英国だからこそ生まれるものなのだ。

Shobaleader One - ele-king

 続・音楽を破壊すべし――スクエアプッシャー率いる覆面バンド、ショバリーダー・ワンからふたたびele-king編集部にインタヴューが届けられました。相変わらずとても興味深い内容です。
 待望のアルバムは3月8日に日本先行でリリース。4月には来日ツアーも決定しています。東京(4/12)、名古屋(4/13)、大阪(4/14)の3都市をまわります。リリースおよび来日公演の詳細はこちらをご覧ください。
 それでは以下、新たなインタヴュー全文をお届けします。

Company Laser :俺がギグを悪用してるなんて話、信じるなよ。その件で何か聞いてるか?

Squarepusher:ショバリーダーが浮遊しているとかっていう話なら幾つか。でも俺は自分で見たことないから、そいつが本当に良いものなのかどうか確かめたいね。そしてこの馬鹿げたミッションのことは忘れるんだ。

■では、あなた達はフォローアリーダー(※先導者の後を追え)に従うんですね。それでは意味がないのでは? それについてはどう感じてます?

Strobe Nazard:俺がどれほど無意味に感じてるかって?

Squarepusher:自分達が模倣されているかどうかについては、あまり考えても仕方ないと思う。プロテクトが必要なのは、アイディアを自分自身で実行した時だ。ミュージシャンはそれぞれが一定量の仕事をこなしてこそ真似できるようになる。創作の技法はどこにでも転がってるんだよ。

■ですが、ミュージシャンが進歩するにつれ、次のような発言やオリジナリティのある音楽を残せるようになるのは確かですよね。

Arg Nution:オリジナリティを気に掛けるやつなんているのかよ?

■ですが、音楽で表現する様々な精神状態に到達するために、人は特別な技術を用いる努力をしてはいませんか? 様々な音楽の感じ方を体験したり、音楽的アイディアを得る方法の1つとして、睡眠不足があると言いますよね。あるいは意識に変化をもたらすような薬物(サブスタンス)についてはどうでしょう?

Arg Nution:俺の本質(サブスタンス)に変化をもたらしてみるってのはどうだ?

■はい?

Squarepusher:こいつは音楽の良心となるべきものなんだよ。だが様々な薬物の使用というのは、人をそういった主張へと導く建物を取り巻いている神秘性を経験するための安易な手段なのさ。さもなければ、そうあるべきだとされる態度を演じるために、人は危険な心理的領域に踏み込んで、アーティファクト(人工物・芸術品)を持ち帰って来なくてはならない。そこで音楽の気体状態が形成されるんだ。このアーティファクトは、そういった移行サービスにとって申し分のない音楽的な精神状態にすぎない。これはミュージシャンとしてのブラウザの概念だが、俺にとってはむしろプロとしての作品に近いね。

■ということは、もしかしたら私達は、ミュージシャンが自分達の音楽的な努力について語っていても、そういった話を信じるべきではないのかもしれませんね。

Arg Nution:信じられるなら、どんなおとぎ話でも信じればいいさ。

■大抵のミュージシャンが口にすることだけれども、実際には嘘をつく機会がなかったこと、何か思い付きますか?

Company Laser:ミュージシャン達がビジネス会議を開くおかげで、圧力がかかっているテーマについては有意義なことは何も語れないってのはよくあるね。

Squarepusher:そういう厄介な状況では、アーティスト自身が満足するようなことは何も伝えられないんだよ。伝記的な部分に空白状態があるのは忌み嫌われる。そして他の誰かがケチをつけるんだ。それどころか大抵の場合、自分が言ったハッタリやデタラメな話を、他の連中が膨らませる方が望ましいのさ。

■では、このインタヴューでこれまで語ったことの中にデタラメはありますか?

Arg Nution:「では、このインタヴューでこれまで語ったことの中にデタラメはありますか?」だとさ。

■私をイラつかせようとしてるんですね、でも今、現実が段々と……どうぞ、真似してもいいですよ。

Strobe Nazard:俺達の発言は全部デタラメなんだよ!

Squarepusher:Strobeは矛盾してるのさ。今言った一文は「うそつきのパラドックス」(※「この文は嘘だ」という命題は真か偽か、いずれにしても矛盾するということ)の一例みたいだろ。

Company Laser:その問題の方が面白いね。むしろ、自分の作品について語っているミュージシャンの話が真実かどうかなんて、そんなの誰も気にしないだろ? って感じ。音楽業界がこれまで築いてきたのは、常軌を逸した物語を求め、それを聞いたら真偽にかかわらず議論を終わらせるっていう土壌だろ。証明書の有効性を公表せずにいる方が都合がいいって話でさ。それで、人の発言について真実を語るのが難しくなる。事実に基づく報告よりも、大げさに誇張した表現をする熱意の方が受け入れられるんだよ。

■特に現在の政治的意思の状況を考えますと、真実を語るということは重要なんではないでしょうか?

Strobe Nazard:俺達の発言は全部本当だよ!

■それが疑わしくなり始めてきたんですよ!

Arg Nution:俺はこうしてあんたと同じ部屋に腰を下ろして喋ってるってことに疑問を感じ始めているぜ。

Company Laser:この件に関して、まともに話さなくてもいいという権利があることが、事態を難しくしているんだよな。俺達もちょっと冷静にならないと。今の政治情勢は、この宇宙の他のどの場所ともかなり異なってるだろ。もしかしたら政治的な部分では合意が成されていて、正直であることが期待されていると分かれば、あんたもホッとできるかもしれない。地上の問題については、何かの破壊を促し、そいつをぶっ壊しているボーブ(愚かな奴ら)は受け入れられないというのが、あんた達の間で浸透している一般的な考えだろ。互いの結びつきを断ち切り続けているというのは嘘だね。

■でもあなたは先ほど、私が嘘ばかりついていたと言いましたよね?

Strobe Nazard:彼は嘘をついていたね。

■ちょっと目まいがしてきたんですが……窓を開けていただいてもいいですか?

Company Laser:俺は想像の星に魚を集めさせ始めたんだ。そこには何でも加えられる、特定の星の魚(ヒトデ)に関するどんな思い出でも、どういった見た目の魚の星がいいかという例でもいい。俺は収集を始めているんだ。

Squarepusher:俺にも幾つかあるぜ、ちょっと待ってな。

Arg Nution:気分は良くなったかい?

■ええ、大丈夫だと思います。あなたがアイディアを生む際、あらゆるネタを集めまくることが重要なのはどうしてでしょうか? 例えば“50 Cycles”という曲がありますが、詩が頭に浮かんで、あなたのクリエイティブな文体がそのプロセスに寄与するよう、そういった言葉が聴こえてくるということですか?

Squarepusher:でも俺は、テキスト形式の音楽という形で曲を書くのが楽しいんだよ。曲は注意を払わないやり方で書かれるべきだからね。俺はそういうことはしないから。名前を電車の軌道整備士(※ジェイムズ・ジョイスの小説『ユリシーズ』に、スクエアプッシャーと呼ばれる軌道整備士が登場)から取った場合、どこまで許されるのかってことを言いたくて書いているのさ。

■正にその通りですね、制約なんて、なぜあるんでしょうか? 冷蔵庫のボトル入りの水をお渡ししても?

Company Laser:あんた、名前は?

■私の名前はスティーヴンです。

Arg Nution:でも俺の名前はインタヴュアーじゃなかったっけ?

 アルバムおよび来日公演の詳細はこちらから。

Laurel Halo × Hatsune Miku - ele-king

 昨年ベルリンのCTMフェスティヴァルで発表されたローレル・ヘイローの新しいプロジェクト、「スティル・ビー・ヒア(Still Be Here)」。これはクリプトン・フューチャー・メディアのソフトウェア「初音ミク」にインスパイアされたもので、Mari Matsutoya、Darren Johnston、LaTurbo Avedon、Martin Sulzerとの共同プロジェクトとなっている。そのスティル・ビー・ヒアが1月31日、“Until I Make U Smile”および“As You Wish”と題される2曲のMVを公開した。

 大きな文化現象となってしまったことで、かえってその勘所が見えづらくなってしまった感のある初音ミク~ボーカロイドだが、近年少しずつ音楽の文脈からそれを捉え直す流れが生まれてきているように思われる。かつてデトロイト・テクノにどっぷり浸かり、OPNことダニエル・ロパティンらと共同作業をおこない、〈ハイパーダブ〉から作品を発表してきたローレル・ヘイローのようなアーティストが、まさにいま初音ミクとがっつり向き合うというのは、何かひとつ大きな突破口になるような気がしてならない。今後の動きに注目である。

https://www.aft3r.us/still-be-here/

P Money - ele-king

「俺はここにいる」というメッセージ

 10年以上のキャリアでmixtapeやEP作品をハイペースで発表し続けているロンドンのMCピー・マニー(P Money)が、15曲収録のデビュー・フル・アルバム『Live + Direct』を〈Rinse〉からリリースした。これまで、ダブステップやドラムンベースのトラックで名前をご存じの方もいるかもしれないが、彼はキャリアの中で一貫してグライム・サウンドでラップしてきた。今作もトレンドであるトラップの影響を受けたグライム・チューンの上でマイクを握った曲が多く、USヒップホップから入った人でも聴きやすい。

 さて、オープニングトラックのIntroを聴いたとき、このアルバムが単なるヒット曲の寄せ集めではなく、ひとつの作品であることを確信した。シーケンスが重なり合っていく4分のトラックの上で、不在の父に対する報われることのない期待、義理の弟、彼のグライム・クルーとなるOGzとの出会い、トラブル、母への愛をラップする。そして、なぜアルバムを出すのか? という創作の原動力につながる、複雑な感情が表れている。

I had hate for my creator
Only used to see him in the paper
Mum tried to get me to stop stressing
Looking at the front door, wondering and guessing
Now there ain't a thing that could make me forgive him
Once upon a time my dad asked me how old I was on my birthday
Man I thought he was kidding

俺はお父さんを嫌ってた
彼は紙の上でしか見たことがなかった
ママは俺が父にこだわらないようにさせた
家の玄関を見て、考え、想像した
今でも彼を許すようなことはない
いつか、お父さんは誕生日に俺が何歳になったか聞いた
俺はからかわれてるかと思った
(“Intro”)

 15歳の時、濡れ衣で裁判所に呼び出されたP Moneyはそんな父に頼ろうとする。

I called my dad, sent him texts, left him voicemails
But the guy wouldn't pick up
And there's me thinking he would've fixed up
Then randomly out of the blue I got a text from him
Saying "it's gonna be alright, good luck"
Oh my days, what the fuck

お父さんに電話した、テキストを送ってボイスメールを残した
あの男は電話を取ろうとしなかった
俺はお父さんがこの問題を解決できたと思ったんだ。
そして、出し抜けにこんなメッセージが届いた
“きっと良くなるさ、グッドラック”
なんてこった !
(“Intro”)

 TR.02“Panasonic”では、Street Fighterのサンプルとともに、イギリスのグライムにおける自身の存在をボーストし、Stormzyを迎えたTR.04“Keepin' It Real”では、音楽に対する姿勢とフェイクとリアルの境目についてこだわる。OGzを率いて自身が運転するバンで周る彼が言うなら、それはとてもリアルな表現である。

 Terror Danjahの歌フックとP Moneyのスキルが冴える(複雑な)恋愛ソングTR.06“Contagious”、信頼に足る「Man」であるかをへらへら近寄ってくるクソ野郎に問うた“Don't Holla At Me”を挟み、TR.11“Gunfingers”へつながる。

 Skepta、Wiley、JMEをゲストに迎えたこの曲からは、アルバム・ジャケットでBorn & Bred フェスティヴァルのステージから、学生が集まる小さなクラブまで全てのショーをロックするP Moneyの姿が目に浮かんだ。そして、ラスト・ソングの“10/10”へ向かっていく。音が注意深く選ばれたSir Spyroのシリアスな雰囲気漂うトラックの上で、彼はイギリスのManchester、Bristol、Leedsなど各都市でショーを完全にロックする。フードを深くかぶった彼のライヴ映像が入るMVも素晴らしい。

 ラップは声なきものに声を与えると言われる。そして、P Moneyは「俺はここにいる」というメッセージを繰り返し発している。それは紙の上でしか知らない父に向けて、パーティでたまたま遊びに来たお客さんに向けて、ビックフェスのショーを観にくるファンに向けて、生で直接伝え続けることだ。ダブステップからグライムへとトレンドが移り変わっても、彼のラップはUKにあり続けるという宣言でもある。

Jesse Osborne-Lanthier - ele-king

 ジェシー・オズボーン・ランティエは、ベルリン/モントリオールを拠点とするサウンド・アーティストだ。彼はソロに加えて、バナルディーノ・フェミニエーリとのフェミニエーリ・ノワール、ホボ・キューブズとのザ・エイチ(The H)というユニット活動もおこなっており、2015年にはロバート・リッポックとの『タイムライン』を、2016年にはグリーシャ・リヒテンバーガーとの『C S L M』をリリースするなど、コラボレーションにも積極的。リリースは主にカセットとデータ(リヒテンバーガーとの作品はLP/データ)を中心におこなわれ、〈ホエア・トゥーナウ?〉や〈ハルシオン・ヴェール〉など、知る人ぞ知るレーベルから作品を送り出してきた。そのサウンドは、聴き手の知覚の磁場を不安定に拡張するかのように強烈である。

 そのジェシー・オズボーン・ランティエが、2016年に〈ハルシオン・ヴェール〉からリリースしたアルバムが、この『アズ・ザ・ロウ・ハンギング・フルーツ・ヴァルネラビリティーズ・アー・モア・ライクリー・トゥー・ハヴ・オールレディ・ターンド・アップ』である(以下、『ATLHFVAMLTHATU』)。私には、この『ATLHFVAMLTHATU』こそ、2010年代のインダストリアル/テクノの現在形を示すアルバムに思えた。ヒップホップやグライムをルーツに持っているように聴こえながらも、それらの要素は、ノイズの中に焼け焦げ、まるで残骸のようなノイズとして放出されていたからだ。融解ではなく、焼き尽くされた感覚。まさに、この不穏な時代を象徴するような感性である。その衝動の連鎖のごときサウンドは、メタリックで乾いた感覚をリスナーの耳に残す。まるで鉄屑の美学のように。彼のリズムは、自身の衝動的な律動そのものだ。やや古い映像だが、3年前のライヴ映像を観ても、それはわかる。

 肉体の衝動。そして光の衝撃。この強烈な暴発感覚は、本作『ATLHFVAMLTHATU』でも同様だ。衝動と鉄屑のように乾いたサウンドは、より緻密に、強靭になり、同時に、一種の(奇妙な)ノイズ・レイクエム的な終末感覚を醸し出していた。そう、2010年代のインダストリアル/テクノが、ある種の同時代性を持っていたとするならば、この「世界が終わっていくこと」の意識/無意識を、強く反映した音楽だったからではないか。じじつ、1曲め“ノース・フェイス・キラ”から、まるで「空爆」のような壊れたビート、爆発のようなノイズが炸裂する。まさに「世界の終わり」の感覚である(むろん、それが一種のフェイクであったとしても問題はない)。

 だからこそアルバムの終曲=終局である“ヴェロシティ、バイロケーション、パイロキネシス”は、どこか讃美歌のように響いているのだろう。爆風と瓦礫。その果てにあるハーモニー。なんという美しい構成か。まさに崩壊していく「世界」へのノイズ・レクイエム。そして、その終末感覚こそが、本作を含む2010年代的なインダストリアル/テクノ、最大のテーゼといえる。いわばダークで物語性の強いテクノ。「ダーク・テクノ」。

 しかし、である。2017年以降、それは一定の役割を終えることになるのではないか。ノイズだとか、ミュージック・コンクレートだとか、エクスペリメンタルだとか、アンビエント/ドローンだとか、それら言葉の記号性が有効性を持ちえた時代が終わったともいえるし、より内実を伴いつつ、現実的な応用の時代に入ったともいえるし、そもそも世界は、いったん清算すべき時の直前に来ているのが、いまや明確になったからだ。世界は終わる。ゆえに物語は終わった。では、世界の無意識を反映する先端的音楽に、どのような方向性があるのか。ひとつは、ヴァーグのように、この世界のダークを鏡のように映しだすブラック・メタル・ダーク・テクノへと進む道があるかもしれない。

 もうひとつは霧のようなアトモスフィアがさらに押し進まれていく傾向だ。これはウォルフガング・ヴォイトが2016年のタスク・フェティヴァルで披露したライヴ/映像が、そのモデルとなるのではないか。現象の生成。

 さらに、もうひとつは、より電子音の即物性や生々しさを追及するモードである。近年のモジュラーシンセ・ブームを経由したものだが、より電子音パルスの衝撃が聴覚と体を揺さぶるタイプのものだ。それはもはやモノのように、そこにある。その本年最初の重要な作品が、〈ラスター・ノートン〉からリリースされたジェシー・オズボーン・ランティエのEP『アナロイド、アンライセンスド、オール・ナイト!』になるのではないか、と思うのだ。

 『アナロイド、アンライセンスド、オール・ナイト!』は、パリでのライヴ・セットの2時間前に制作・録音されたものだという。そのせいか収録された全4トラックは、即物的かつ即興的電子音の運動感覚とジェシー・オズボーン・ランティエらしい前のめりのメタリック・リズム感が生々しく横溢しており、シンプルながら、まさにパルスの衝撃のような中毒性がある。このマテリアル・オブジェクト的なパルス感覚こそ、2010年代的なインダストリアル/テクノ「以降」を示す兆候に思えてならない。
 私はこのEPを聴きながら、イヴ・ド・メイがベルギーの〈アントラクト〉からリリースした『レイト・ナイト・パッチング 1』を思い出した(なんとなく名前も似ている)。『レイト・ナイト・パッチング 1』もまた、イヴ・ド・メイがモジュラーシンセを用いて一晩で作り上げた即興的音響テクノである。『レイト・ナイト・パッチング1』は、〈スペクトラム・スプールス〉からリリースされた『ドローン・ウィズ・シャドウ・ペンズ』(2016)のダークで緻密な音響空間と比べると、即物的な電子音の集積による楽曲であり、その評価は賛否両論であったが(たしかに『ドローン・ウィズ・シャドウ・ペンズ』以降の過渡期的音源であるのは事実だ)、しかし、私などは、そのマテリアリズム/テクノに、インダストリアル/テクノ「以降」の兆候を強く感じてしまった。これは『アナロイド、アンライセンスド、オール・ナイト!』にも繋がる感覚である。

 2010年代前半的なダークなインダストリアル/テクノの物語性(世界の終焉のような。つまり『ATLHFVAMLTHATU』的)から、2010年代後半的なマテリアリズム(人間以降のモノ世界。つまり『アナロイド、アンライセンスド、オール・ナイト!』的)への移行である。音楽から「物語性」が漂白された世界へ。つまりはマテリアル・テクノロジカルな電子音楽へと変化(ある意味では遡行、ある意味では進化)しつつあるのだろう。

 ボノボことサイモン・グリーンの新作『マイグレーション』のタイトルを目にしたとき、まず連想したのは空港の入国審査ゲートであり、昨今の話題であればトランプ大統領が掲げるアメリカとメキシコとの間に国境の壁を設けるという公約だ。メキシコからアメリカへの不法滞在者の流入防止、アメリカ経済や労働者の保護、麻薬対策、安全保障などの側面からの施策であり、移民から成り立っているアメリカ社会が直面する問題である。考えてみれば、ボノボの前作『ノース・ボーダーズ』も『北の国境』というタイトルだった。どこの国境か明確ではないが、たとえばアメリカとカナダの国境と解釈すれば、今回の『マイグレーション』からはアメリカの南の国境線が想起される。アメリカだけでなく、こうした移民や難民問題は世界中で勃発しており、ヨーロッパ諸国でも移民の受け入れの是非を巡って意見が対立し、日本も今後どうなるのか他人事ではない状況である。ボノボ自身はアルバム・タイトルに明確な社会的意味を持たせるアーティストではないが、『マイグレーション(移住・移民)』についてはネガティヴな側面からとらえるのではなく、自身の人生と照らし合わせた上で肯定的なものとしてとらえているようだ。


Bonobo - Migration

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 2013年の『ノース・ボーダーズ』の制作に入る前、ボノボは長年生活したロンドンを離れ、ニューヨークへと移住している。明確な移住の意思に基づくものというより、その前作である『ブラック・サンズ』(2010年)のツアーで3年ほど世界中を旅し、そこから帰って腰を落ち着けた先がニューヨークだった。そして、『マイグレーション』は『ノース・ボーダーズ』のツアー後、ロサンゼルスへ移住して作られた。偶然ではないだろうが、ここ数年来のボノボはアルバムを発表し、大掛かりなワールド・ツアーをおこない、その後に新しい土地での生活が始まり、そして新作を作るというサイクルになっている。どこか無意識の中で越境や移動というイメージが彼にはあり、それが音楽を作ったり、ライヴをする上でのモチベーションの源となっているような気がする。そもそも、ツアーのときは一年の大半を旅路で過ごしており、そうした移動や流浪の中からボノボの音楽は生まれていく。ニューヨークにしろ、ロサンゼルスにしろ、長く定住するというイメージではなく、ツアーとツアーの合間に骨休みをし、英気を養う場所という感覚なのだろう。インタヴューでも語っているが、今回ロサンゼルスに移住したのも、今音楽的に面白い街である、いろいろなミュージシャンが集まっている、トレンド・エリアであるといった理由からではなく、自分にとって音楽制作に没頭できる環境があったからだということだ。ロサンゼルスというと、ハリウッドやビバリーヒルズに代表されるセレブなイメージを抱く人が多いかもしれないが、ボノボは静かな東側のエコパークに住み、自宅スタジオでコツコツとトラック制作に励んでいる。そして、彼はロサンゼルスの明るく輝かしい面だけでなく、ホームレスも多くて荒んだ側面、格差社会が広がる問題点も冷静に見ている。

 『マイグレーション』は、こうしたロサンゼルスでの生活が100パーセント反映されたものかというと、決してそうではない。最終的にロサンゼルスの自宅スタジオで完成させてはいるが、作品の多くはツアー中、移動中に作曲し、アイデアを膨らませていった。たとえばライのミロシュをフィーチャーした“ブレイク・アパート”は大西洋を横断する飛行機の中で作曲し、ベルリンのホテルで録音している。チェット・フェイカー改めニック・マーフィーをフィーチャーした“ノー・リーズン”、モロッコの伝統音楽を演奏するイノヴ・グナワをフィーチャーした“バンブロ・コヨ・ガンダ”は、現在彼らが住むニューヨークでの録音だ。アフロ・ハウス調の“バンブロ・コヨ・ガンダ”に顕著だが、ニューヨークでの録音作品はダンサブルな傾向が強い。2ステップ調の“アウトライナー”は、彼がレジデントDJを務めるニューヨークのクラブ、〈アウトプット〉での経験から生まれている。ほかにも香港の空港のエレベーター、シアトルの雨、アトランタの洗濯乾燥機、ニューオリンズのエアボートのエンジンなどさまざまな音をフィールド・レコーディングスで録音し、作品の中に混ぜている。こうした具合に、『マイグレーション』からはどこか旅をしているようなイメージ、どこかに定住するのではなく世界を移動しているような感覚が得られる。

 『マイグレーション』の制作に取り掛かる前、ボノボは近親者を亡くし、その葬儀でイギリスのブライトンに戻り、自身の出身地や故郷について改めて考えることがあったそうだ。彼の父親はブリティッシュ・フォーク・シーンに関わってきたミュージシャンで、その家族や親類は世界をさすらうように生きてきた。ブライトン、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスとボノボが移住してきたのも、そうした流浪の一族だからかもしれない。ボノボは父親の影響でギターやピアノの演奏を始め、幼少期には父親や仲間たちのセッションするところをよく目にしてきたそうだ。伝説的なフォーク・シンガーのピート・シーガーの歌を引用した“グレインズ”は、そうしたボノボの中にあるルーツ的な世界を浮かび上がらせており、今までのフィンクやグレイ・レヴァランドなどフォーク系アーティストをフィーチャーした作品から繋がる曲である。ボノボはタイトルである『マイグレーション(移民・移動)』について、「世界には多くの場所があり、いろいろな人がそこを行き来し、いろいろな人が住む。人間と場所や環境は相互に作用している。人間が移動することで、文化もある場所からある場所へ運ばれ、受け継がれるものなんだ」といった趣旨のことを述べている。彼のルーツにあるブリティッシュ・フォークもまた、異なる場所に運ばれ、そこで新たに紡がれていくのである。

 ボノボの音楽の本質は、世界のさまざまな場所を旅し、そこに住む人たちとの交流があり、いろいろな音楽を吸収し、そうした中から育まれているということだ。もともと彼の中に備わっていた音楽性が、それまでとは異なる場所や人との出会いから化学反応を起こし、新たなものへと洗練されていく。彼の今までの歩みは常にそうしたものだった。〈トゥルー・ソウツ〉からデビューした当時、ジャジーでオーガニックなサウンドを取り入れたブレイクビーツ・アーティストだったボノボ。〈ニンジャ・チューン〉へ移籍してからは、ヴォーカリストたちをフィーチャーするとともに、次第にストリングスなどを取り入れて有機的かつスケールの大きなサウンドを見せていく。『ブラック・サンズ』の頃にはライヴ・パフォーマンスのスキルに磨きを掛け、視覚的にも訴えるシネマティックなサウンドとともに、ポスト・ダブステップやUKガラージを咀嚼したダンサブルなサウンドの両面を見せる。『ノース・ボーダーズ』ではエリカ・バドゥと共演し、USのR&Bへのリンクと影響を浮かび上がらせ、世界的なアーティストとしての立ち位置を揺るぎないものとした。それから4年後にリリースした『マイグレーション』も、ボノボの人生の旅を反映したものであり、だからこそ彼の楽曲はエレクトリックな佇まいであっても、ヒューマンな温もりや感情の動きに沿うような美しさが感じられるのである。

Anohni - ele-king

 アノーニ、怒っています。昨年リリースされたアルバム『Hopelessness』でテロや死刑や環境破壊について激しくかつ流麗に歌い上げ、アメリカという国の希望のなさ=ホープレスネスをあぶり出してみせたアノーニですが、トランプの大統領就任を受け、女性こそが道を変えるというメッセージとともに新曲“Paradise”を公開しました。

 まさに「ホープレスネス」という言葉が何度も登場するこの新曲は、3月17日にリリースされる新作EP「Paradise」に収録されます。同EPはアルバムに引き続き、ハドソン・モホークおよびOPNとのコラボレイション作品となっています。

A N O H N I
ブリット・アウォード2017ノミネートも話題のアノーニが
3月リリースの最新EPより、新曲“PARADISE”を公開!

本年度のブリット・アウォード2017にて「ブリティッシュ女性ソロ・アーティスト」部門にノミネートされたアノーニが、最新アルバム『HOPELESSNESS』に続く、最新EP「PARADISE」を3月にリリースすることを発表し、タイトル・トラックを公開した。

ANOHNI: PARADISE

アルバム同様、〈Warp Records〉所属の気鋭プロデューサー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとハドソン・モホークのふたりとのコラボ作品となっている“PARADISE”には、電子音と政治的な歌詞の衝突を通して、活動家たちの発言をサポートし、ポピュラー音楽に対する既成概念を破壊しようとするアノーニの姿勢が表れている。

本作には、完全未公開の新曲やライヴでのみ披露されている楽曲など計6曲が収録される。

label: Rough Trade
artist: ANOHNI
title: Paradise

release date: 2017/03/17 FRI ON SALE

[TRACKLISTING]
1. In My Dreams
2. Paradise
3. Jesus Will Kill You
4. Enemy
5. Ricochet
6. She Doesn’t Mourn Her Loss

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