「K A R Y Y N」と一致するもの

Laura Cannell - ele-king

 これは冬のためのアルバムだ。ローラ・キャネル自らがそう説明している。地球の北半球の、ここ日本でもまさに今週からはじまった寒い冬。12月1日にリリースされた、彼女にとって8枚目のアルバムは『真冬の行列』と名付けられている。
 これはいかにも英国風の、宇宙的だが土のにおいがする音楽だ。牧歌的だが厳しさがある。馬車に乗って、森のなかでたき火をしよう。ノーフォークの900年の歴史を持つノリッジ大聖堂内でレコーディングされたその本作について、キャネルは次のようにコメントしている。「大聖堂の内部からの残響を捉え、真冬の世俗的な行列を想像させるシンセサイザーのレイヤーと組み合わせたいと思った。長い音色はステンドグラスや石壁に跳ね返り、長い小島や彫刻の施された柱を通り抜け、トランセプトへと霧のように消えていく」
 すでにキャネルの音楽に親しんでいる人は、この発言に「おや」と思うはずだ。そう、本作には、いつものヴァイオリンとリコーダーのほかにシンセサイザーが使われている。それだけで、興味をそそられるのではないだろうか。アルバム・タイトルもさることながら、“星の記憶” “太陽の行列” “大聖堂のこだま” “夜明けまでの月光を追って” “真冬の鐘” といった曲名もじつにいい。

 ローラ・キャネルの音楽は、ぼくにとって2010年代の喜ばしい出会いのひとつだった。社会のものごとはスマホやネットありきが前提となっている今日において、液晶画面が告げる未来から逃げるように、削除された記憶や歴史の残滓が混在する荒れ地と共振しようとする音楽が生まれ、小さいながらも広く注目されることになるのは必然だ。2023年のベスト・アルバムの1枚がランクムであることと、キャネルのようなアーティストに一目置かれることとは無関係ではない。

 「醜悪な町の広がりを忘れ、むしろ下りの荷馬車を思い浮かべよ」と書いたのは、都市化がすすむロンドンを嘆いた19世紀後半の、後世にもっとも影響を与えたデザイナーであり情熱的な社会主義者であったウィリアム・モリスだったが、古くは詩人ウィリアム・ブレイクや作曲家グスタフ・ホルスト、そして大衆文化の分野ではザ・ビートルズやレッド・ゼッペリン、ケイト・ブッシュにザ・KLF、エイフェックス・ツインやボーズ・オブ・カナダ等々もそうだったように、イギリスの夢想的な文化はことあるごとに、未来を志向するとき田舎道を選ぶところがある。SF的なタイムトラベルが中世ロマンに通じることは、ウィリアム・モリスの『ユートピアだより』にも見て取れよう。キャネルの音楽の基礎はクラシック音楽にあるが、彼女はそのエリートコースから脱し、かつてのセシル・シャープのように農村を訪ねて歌を集めていたわけではないが、先駆者デイヴィッド・マンロウようにアーリー・ミュージックの旋律をもとめて過去を調査した。
 彼女の目的はしかし、中世の旋律の収集ではなかった。キャネルの試みは、古き建造物固有の音の鳴りを捉えること、時空を超えたサウンドの探求であり、前作『Antiphony of the Tree』のように鳥たちとの対話から生まれたサウンドであったりもする(エレキングvol.29のインタヴューを参照)。『真冬の行列』は、高さ69フィートのノリッジ大聖堂の中央で即興演奏したときの録音をもとに作られている。「私の多くのレコーディングと同様、今作も、その瞬間に自分がどう感じるかをたしかめるために、決まったプランなしに臨んだ」と彼女は明かしている。「演奏すること、そして自分には言いたいことがあるのだと信じること、サウンドがどこに行きたいのかを見つけること。私は、教義に基づいて、高度に設計された建てられた美しい空間の神聖なるものに対する葛藤した感情を押し通すことができるだろうか。私は、その瞬間に判断するのではなく、突き進み、演奏を続け、家に帰ったら空間との対話から何が生まれたのかを確認することを学んだ」
 
 ぼくのような彼女のファンのために付け加えると、なかば神秘的ともいえる旋律をもった“星の記憶” には、彼女の音楽には珍しく、少しだけビートが刻まれている。もちろん今作にも、ローラ・キャネルのヴァイオリンとリコーダーによるヴィジョナリーな旋律が演奏され、そして編まれているわけだが、先にも書いたように、今作には彼女にとって初の試みといえるシンセサイザーの伴奏もあって、いままでにないポスト・プロダクションが施されている。今作のひとつの聴きどころとしては、彼女の説明にもあったが、大聖堂内部における反響音とシンセサイザーの抽象音との調和にある。いわばエレクトロニカの時代のフォークで、ひとりの演奏者が作品ごとにコンセプトを変えて、これだけのアルバムを発表するのは並大抵のことではないが、そんな風に、ここでも新たなアイデアが具現化されているのである。

 キャネルが住んでいる英国ノーフォークの美しい田舎町は、ぼくが住んでいる人工的な東京よりもずっと季節の厳しい変化に晒されているはずだ。ゆえに、自明のことだが、ぼくよりも深く自然を感じることができているのだろう。そうしたライフスタイルすべてが彼女の、真冬の冷たく澄んだ空気に溶け込み、白い月や吐息と共鳴する演奏に影響していることは想像に難くない。リコーダーが反響する “大聖堂のこだま” や “真冬の鐘” といった曲からは、彼女が演奏した場のアトモスフィアさえも伝わってくる。
 サウンドのゆらめきと幽玄さは、彼女のすべての作品の特徴ではあるが、ことに今作では突出しているのかもしれない。あるいは、東京も本格的な真冬を迎えているから音楽がより鮮明に聴こえるのかもしれない。なんにせよ、この季節にどんぴしゃりの、これは嬉しいリリースだ。型にはまった音楽に飽き飽きしているあなたが、さらに冬の冷気を愛することができる人でもあるならば、『真冬の行列』もきっと好きになれる。

Mighty Ryeders "Help Us Spread The Message"の謎の巻 - ele-king

 マイアミの小さなレーベルからリリースされたMighty Ryeders "Help Us Spread The Message"は謎多きアルバムであります。オリジナル盤はプロモ盤しかないとか、「Evil Vibrations」が曲の途中でスロー・ダウンする盤もあるなど口コミで多くの逸話を残し、そもそもの希少性もあって今日(こんにち)までミステリアスな入手最難関アイテムに君臨し続けています。
 その不明瞭な部分をVINYL GOES AROUNDチームで検証し、2023年12月20日に発売された本作CDのライナーノーツに執筆/掲載させて頂きました。
 ここではその一部とオリジナル盤と呼ばれる4種類のヴァージョンの音質についても検証した動画を公開します。

□ジャケット

・ファースト・プレスのプロモ盤は表面に「PROMOTIONAL NOT FOR SALE」の印刷。

・ファースト・プレスは張り合わせ式で、セカンド・プレスのジャケットはワンピース。

・ファースト・プレスとセカンド・プレスではレーベルのロゴマークとタイトルのHelp Us部分の網点の質感の印刷が違う(ファースト・プレスの方が印刷が細かい)。

ファースト・プレスプロモ盤ファースト・プレスプロモ盤

ファースト・プレス市販盤ファースト・プレス市販盤

セカンド・プレスセカンド・プレス FULLERSOUND盤

セカンド・プレス・スローダウン盤セカンド・プレス・スローダウン盤

□マトリックスと盤

・ファースト・プレスのプロモ盤と市販盤ではB面のマトリックスの筆跡が違う(音質も若干違う)。

・セカンド・プレスのマトリックスの横に「FULLERSOUND」という刻印の入っているものと入っていないものが2種類あり、入っていないものは「Evil Vibrations」のピッチが後半でスローダウンする。

ファースト・プレスプロモ盤ファースト・プレスプロモ盤

ファースト・プレス市販盤ファースト・プレス市販盤

セカンド・プレスセカンド・プレス FULLERSOUND盤

セカンド・プレス・スローダウン盤セカンド・プレス・スローダウン盤

□音質の分析

やはりファースト・プレスの2枚が優れている。プロモ盤と市販盤ではB面のマトリックスが異なり、音質も若干違う(どちらかに優越をつけ難い)。セカンド・プレスのFULLERSOUND盤の音質は初回リリースに近いが若干レベルが低い。スローダウン盤の音質はさらに少しこもっているように思われる。

動画

さらに詳しい詳細はこちらのライナーノーツをご参照ください。

マイティ・ライダース
マイティ・ライダース
ヘルプ・アス・スプレッド・ザ・メッセージ

PCD-94170

François J. Bonnet & Stephen O’Malley - ele-king

 静謐な不穏。静かな殺気。何か押し殺したような迫力が、この持続音にはある。「何か」がそこに「いる」ような感覚とでもいうべきか。しかし何も「ない」。だが気配は「ある」。いや存在の気配は「ある」。確かに音は鳴っているのだから。
 いや、これは「音楽」のはずだ。確かに霧のような、風のような音は聴こえてくる。それは霞んだエレクトリック・ギターの音。静謐な電子音が鳴っている。ノイズも聴こえる。
 だが、「ここ」にあるのは、「音」だろうか。「ノイズ」だろうか。そもそも「音楽」だろうか。いや、それともそのすべてが「ここ」ではあてはまるとでもいうのだろうか。もちろん、これは音楽だ。『Cylene II』と名付けられたアルバムであり、音楽作品だ。
 しかし、私には、このアルバム『Cylene II』の音は、存在すると同時に存在しないように聴こえてならないのだ。いわば「幽霊の音」がここにある。

 GRM (Le Groupe de Recherches Musicales/フランス音楽研究グループ)の芸術監督であるフランソワ・J・ボネ(カッセル・イェーガー)と、サンO)))のスティーヴン・オマリーのデュオ作品、その二作目である。前作『Cylene』は2019年に〈Editions Mego〉からリリースされたが、本作『Cylene II』は、オルタナティヴ・ミュージック・レーベルの老舗〈Drag City〉からとなった。
  前作『Cylene』は楽吉左衛門=樂 直入による現代焼き物をアートワークに起用していたが、本作『Cylene II』では、前作で撮影を行なっていた Eléonore Huisseの霧に満ちた荒涼とした光景を捉えたような写真を用いている。
 そう、モノから霧ようなアトモスフィアへ。このアートワークの変化は、彼らの音の変化も表しているように感じられた。ちなみにマスタリングは前作『Cylene』ではDubplates & MasteringのRashad Beckerが手掛けていたが、本作『Cylene II』ではGiuseppe Ielasiによるマスタリングだ。録音は前作同様、 INA-GRMで行われた。

 このアルバム『Cylene II』を聴き終わったとき、私は「音の幽霊」というものをどこかに感じとってしまった。単なる妄想。単なる思い込みだろう。音はそこに「ある」のに、「存在しない」。そんな音を聴取したような聴き心地が残った。
 簡単に言えば、アルバム『Cylene II』を一聴したとき、とても不思議な音響だと思ったのだ。オマリーのギターも、ボネのシンセサイザーも、確かに鳴っているにも関わらず、そこにないように聴こえたのである。まるで時間が停滞する世界、もしくは冥界から聴こえてくるようなサウンドのようだ。
 彼らのソロやバンド作品とは違う音だ。さらにいえば彼らデュオの前作『Cylene』のサウンドスケープとも異なっていた。もちろん同じことを繰り返さないのもアーティストのサガとはいえ、『Cylene II』はそのようなこととは異なる何かがあった。何だろうか?

 アルバム『Cylene II』には全6曲が収められている。ギターとシンセサイザーによるドローン/アンビエントといえるが、心を沈静化してくれるような心地よさは希薄である。音はやや硬く、静謐だが微かな痛みを感じるような、現実と非現実が持続するような音響が続く。
 本作ではオマリーのギターの音がまず耳に残る。彼のギターは持続していても、どこか非持続的というか、持続が切断されるような緊張感がつねに横溢していた。
 そこにボネの幽玄なシンセサイザーによるドローンが絡みつく。二人の音の交錯は前作以上に生々しく、現実感を欠いた音響との対比が見事である。じっさいこのアルバムを聴き卯づけていると、音は存在するのにしかし存在しないという奇妙な感覚を持ってしまう。幽霊のようなノイズ/ドローン作品とでもいうべきか。私は、この『Cylene II』のオマリーのギターを聴いていると、不意にミカ・ヴァイニオのノイズのことを思い出した。持続されているにに途切れているような不可思議な切断の感覚を持ったドローンに、どこか近いものを感じたのだ。持続しているにも関わらず、持続が切れていくような音響。

 とくに4曲め“Ghosts of Precognition”に注目したい。この曲は11分44秒というアルバム中、もっとも長尺のトラックだ。オマリーのギターとボネのシンセ(電子音)の絡み合い、変化、浸透していくさまを聴き取ることができる。この曲は、本作中でももっとも音の変化がダイナミックに行われており、抽象的な音による交響曲のような趣さえある。この曲以降、この『Cylene II』にはある種の硬質なダイナミズムを獲得する。空間と空気を切り裂くような、まるで音の裂け目のようなサウンドを生成していくのだ。とくにオマリーとボネの音の交錯が実になまなましい。素晴らしいドローン楽曲だ。
 だが、あえていえば、アルバム前半の静謐なムードの方が、『Cylene II』ならではの幽霊のような音響に満ちていたともいえなくもない。特に2曲め“Rainbows”だ。曲名がもたらす色彩的なイメージが音響にはなく、どこか灰色の世界がここにはある。静謐で霧のような音響。「ある」のに「ない」という不思議な質感。そのようなノイズ、サウンドで構成されていたのだ。聴いても聴いても掴み切れない感覚とでもいうべきか。だからこそより強く耳を澄ますし、その音を感じ取ろうと感覚を全開にもする。それは「聴く」という行為に自覚的になる時間ともいえよう。

 前作『Cylene』から4年(ジム・オルークと池田亮司による再構築アルバム『Cylene Suisse Redux』から2年)、ついにリリースされたこのデュオの新作『Cylene II』は、音の不在と存在、持続と非持続、静謐さとダイナミズムという音響の両極を往復しながら、しかしどこか存在しないような夢のような、幽霊のような音響空間が実現されている。極めて独特の音響空間がここにある。

Tujiko Noriko - ele-king

 おもに〈Mego〉~〈Editions Mego〉からのリリースを中心に、00年代から活躍をつづける電子音楽家、ツジコ・ノリコ。その5年ぶりの日本ツアーが決定している。最新作『Crépuscule I & II』をもとにしたライヴになるそうで、京都、東京、福岡の3都市をめぐる。東京公演ではベルリンの映像作家 Joji Koyama がAVを手がけるとのこと。詳しくは下記より。

Tujiko Noriko Japan Tour 2024

1/09 Tue at Soto Kyoto
https://soto-kyoto.jp

1/11 Thu 18:30 at WWW Tokyo w/ Joji Koyama LIVE A/V
https://www-shibuya.jp/schedule/017371.php
TICKET https://t.livepocket.jp/e/20240111www *限定早割販売中

1/13 Sat at Artist Cafe Fuokuoka
https://artistcafe.jp

tour promoter: WWW / PERSONAL CLUβ

薄明かりのサウンドスケープ。エレクトロニカの伝説、フランス拠点のTujiko Norikoが5年ぶりの日本ツアーを開催。東京公演ではベルリンの映像作家Joji KoyamaとのライブA/Vを披露。

2001年のデビュー以来00年代のDIYなサウンドスケープのムーヴメントから生まれたエレクトロニカを始め、アートを軸とした電子音楽シーンで映像含む数多くの作品をリリースし、映画、パフォーマンス、アニメーション、インスタレーションの音楽制作含む数々のコラボレーションを果たして来たTujiko Norikoが、本年明けに老舗Editions Megoからリリースした映像作家Joji Koyamaとの大作『Crépuscule』(薄明かり)を基にしたライブを携え、京都、東京、福岡を巡る5年ぶりの日本ツアーを開催。

https://www.instagram.com/koyama_tujiko/


Tujiko Noriko

フランスを拠点に活動するミュージシャン、シンガーソングライター、映像作家。2000年、Peter RehbergとChristian Fenneszが彼女の最初のデモテープを発見し、アルバム『少女都市』でMegoからデビュー。アヴァンギャルドなエレクトロニカ周辺で高い評価を受け、Sonar、Benicassim、Mutekなどのフェスティバルに招かれ、世界中で演奏活動を行う。これまでにEditions Mego、FatCat、Room 40、PANから20枚のアルバムをリリースし、高い評価を得ている。2002年のアルバム「Hard Ni Sasete」はPrix Ars ElectronicaでHonorary Mentionを受賞。

映画、ダンス・パフォーマンス、アニメーション、アート・インスタレーションなどの音楽を手がけ、著名なミュージシャン、Peter Rehberg,、竹村延和、 Lawrence Englishらとコラボレーションしている。2005年には初の映像作品「Sand and Mini Hawaii」と「Sun」を制作し、パリのカルティエ財団や東京のアップリンクなどで国際的に上映された。2017年、Joji Koyamaと共同脚本・共同監督した長編映画「Kuro」はSlamdance 2017でプレミア上映され、Mubiでも上映された。2020年から21年にかけて、彼女の音楽作品はレイナ・ソフィア美術館で開催された展覧会「Audiosphere」(主要な現代美術館で初めて、映像もオブジェも一切ない展覧会)に出品された。

2020年にはサンダンスとベルリン国際映画祭で上映された長編映画「Surge」の音楽を担当し、2022年にはla Botaniqueでプレミア上映されたミラ・サンダースとセドリック・ノエルの映画「Mission Report」の音楽を担当した。

Joji Koyamaとの最新アルバム『Crepuscule I&II』をEditions Megoからリリースしている。

https://twitter.com/tujiko_noriko

ディスコグラフィー

'Shojo Toshi' 2001 (Mego)
'Make Me Hard' 2002 (Mego)
'I Forgot The Title' 2002 (Mego)
'From Tokyo To Naiagara' 2003 (Tomlab)
'DACM - Stereotypie' with Peter Rehberg 2004 (Asphodel)
'28' with Aoki Takamasa 2005 (Fat Cat)
'J' with Riow Arai 2005 (Disques Corde)
'Blurred In My Mirror' with Lawrence English 2005 (ROOM 40)
'Melancholic Beat' 2005 (Bottrop-boy)
'Solo' 2006 (Editions Mego)
'Shojo Toshi' 2007 (Editions Mego)
'Trust' 2007 (Nature Bliss)
'U' with Lawrence English and John Chantler 2008 (ROOM 40)
‘GYU’ with tyme. 2011/12 (Nature Bliss/ Editions Mego)
‘East Facing Balcony’ with Nobukazu Takemura 2012 (Happenings)
‘My Ghost Comes Back‘ 2014 (Editions Mego/ p*dis)
'27.10.2017' with Takemura Nobukazu 2018 (Happenings)
‘Kuro’ 2018 (pan)
‘Surge Original Sound Track Album’ 2022 (SN variations/Constructive)
‘Crepuscule I&II’ 2023 (Editions Mego)
‘Utopia and Oblivion’ 2023 (Concept compilation album from Constructive)


Joji Koyama

ベルリンを拠点に活動する映像作家、アニメーター、グラフィック・アーティスト。短編映画、アニメーション、ミュージックビデオ(Four Tet、Mogwai、Jlinなど)は国際的に上映され、ロンドン短編映画祭や英国アニメーションアワードで受賞。2015年には初の短編ビジュアルストーリー集「Plassein」を出版。Tujiko Norikoと脚本・監督を務めた長編映画「Kuro」はスラムダンス映画祭でプレミア上映され、MUBIで世界中に配信された。様々なメディアやコンテクストで活動し、最近のコラボレーションには、絶賛されたアルバム「Crépuscule I&II」に基づくTujiko NorikoとのツアーライブA/Vプロジェクトがある。

jojikoyama.com
instagram.com/jojikoyama
twitter.com/jojikoyama



Tujiko Noriko - Crépuscule I & II [Editions Mego / pdis]

まだEditions Megoになる前のMegoの初期、過激な作品群の中に思いがけない作品が登場しました。PITA、General Magic、Farmers Manualなどの歪んだハードディスクの中から、全く異なる種類のリリースが現れたのです。コンピュータで作られたものでしたが、よりソフトな雰囲気、雲のような音、そしてメロディーさえもありました。それは日本人アーティスト、ツジコノリコの記念すべきデビュー作『少女都市』(2001年)であり、彼女のキャリアをより多くの人々に紹介しただけでなく、Editions Megoの門戸をより幅広い実験的音楽形態に開くことになりました。

電子的な抽象性、メロディー、声、そして雰囲気というツジコノリコ特有の合成は、彼女の神秘的な言葉の周りを音が優しく回り、歌として構成された感情的な聴覚実験の連続へと変化していくため、他の追随を許さないものです。彼女はMegoからのデビュー作以来、ソロ作品やコラボレーションを重ね、また女優や監督として映画界にも進出するなど、進化を続けています。

PANから2019年にリリースされたサウンドトラック『Kuro』以来の新作となる本作では、映画というメディアが彼女の音楽に与えた影響を聴くことができ、視覚的な記号が手元にある刺激的なオーディオに呼び起こされます。インストゥルメンタルのインタールードは、タイトルと一緒に映画の風景を思い起こさせ、映画の形式を再確認させます。これは、深い人間的な存在感を持つ合成音楽です。内宇宙の幻想的な領域を彷徨う人間の心が、通常はそのような人間的な傾向を崩すよう促す機械を通して、絶妙に表現されています。その温もりと静寂、そして夢のような空間が、ツジコノリコという作家の個性であり、この『Crépuscule』は、その力を見事に証明しています。

「Crépuscule(薄明かり)」というタイトルこの音楽の夢遊病的な性質を見事に表現しており、夜行性の変化が広い意味での静寂を呼び起こします。「Crépuscule I」は短い曲のセレクションで構成され、「Crépuscule II」は3曲の長めの曲で構成され、これらの曲とムードが呼吸するためのスペースを提供しています。本作は、リスナーが彼女の目を通して世界を見ることを可能にし、機械に人間味を与える彼女の巧妙な手腕により、穏やかな不思議な世界がフレーム内にフォーカスされています。

Track listing:

Disc 1
1 Prayer 2′ 22”
2 The Promenade Vanishes 6′ 18”
3 Opening Night 4′ 30”
4 Fossil Words 8′ 10”
5 Cosmic Ray 3′ 26”
6 Flutter 4′ 18”
7 A Meeting At The Space Station 11′ 38”
8 Bronze Shore 6′ 46”
9 Rear View 3′ 22”

Disc 2
1 Golden Dusk 12′ 50”
2 Roaming Over Land, Sea And Air 23′ 58”
3 Don’t Worry, I’ll Be Here 18′ 45”

INFO https://www.inpartmaint.com/site/36264/

 2024年2月に東京および大阪での公演を控えるワンオートリックス・ポイント・ネヴァー。そのスペシャル・ゲストとして、なんとなんと、ジム・オルーク石橋英子の出演が決定! オルークは最新作『Again』にも参加していたわけだけれど、ここ日本でついに彼らがおなじステージに立つ、と。
 またこのアナウンスに合わせ、『Again』収録曲 “Nightmare Paint” のMVが公開されている。監督はアンドリュー・ノーマン・ウィルソン。目から出る光線でCDを焼く? なんとも印象的な映像なので、こちらもチェックしておこう。

DJ HOLIDAY - ele-king

 今年日本でも公開されて話題になった映画『ルードボーイ』、UKにおいて先駆的かつもっとも影響力のあったレゲエ・レーベルの〈トロージャン〉の物語である。で、この映画のヒットもあってか、このところ日本でも60年代、70年代のスカ、ロックステディ、アーリー・レゲエが静かに注目されているという。そんな折に、DJ HOLIDAYがまたしても〈トロージャン〉音源を使ったミックスCDをリリースする。
 〈トロージャン〉には膨大な量の音源があるわけだが、DJ HOLIDAYはそのなかから、クリスマス〜年末年始という、人恋しいこれからの季節に相応しいラヴリーな20曲を選んでいる。ロックステディの女王、フィリス・ディロンとアルトン・エリスによる甘々のデュエット曲“Love Letters ”からはじまるこの『Our Day Will Come』、有名曲のカヴァーも多く、きっといろんな人が楽しめるはず。ハードコア・バンド、Struggle for Prideのフロントマンとはまた別の表情の、珠玉のレゲエ集をどうぞお楽しみください。

DJ HOLIDAY (a.k.a. 今里 from Struggle for Pride)
Our Day Will Come : Selected Tunes From Trojan Records
TROJAN/OCTAVE-LAB

フォーマット:CD
発売日:2023年12月20日 (水)

TRACK LIST
1. Phyllis Dillon & Alton Ellis / Love Letters
2. B.B Seaton / Lean On Me
3. B.B. Seaton / Thin Line Between Love And Hate
4. Louisa Marks / Keep It Like It Is
5. Lloyd Charmers / Let's Get It On
6. John Holt / When I Fall In Love
7. Merlene Webster / It's You I Love
8. Slim Smith / Sitting In The Park
9. Pat Kelly / Somebody's Baby
10. Alton Ellis & The Flames / All My Tears
11. Derrick Morgan / Tears On My Pillow
12. Judy Mowatt / Emergency Call
13. The Heptones / Our Day Will Come
14. The Paragons / Maybe Someday (Oh How It Hurts)
15. Rudies All Around / Joe White
16. The Gaytones / Target
17. Ken Boothe / Why Baby Why
18. Ken Boothe / Now I Know
19. Owen Gray / I Can't Stop Loving You
20. Derrick & Naomi / Pain In My Heart /


〈TROJAN RECORDS 〉
イギリスに移住したジャマイカ人、リー・ゴプサルが1967年に設立した、イギリス初のレゲエ・レーベル。もともとは彼と同じように、移民としてイギリスで暮らすジャマイカ人たちのためにジャマイカ音楽を発信していたが、その音楽は労働者階級の白人にも浸透し、ある意味、その後のUKベース・ミュージックの下地を作っていく。リー・ペリーをはじめ、ジャマイカの一流アーティストたちによる名盤は数多く、また、アートワークも格好いいので、いまでも人気のレーベルであり続けている。

ele-king vol.32 - ele-king

 弊社サイト、エレキングをお楽しみのみなさん、こんにちは。早いものでもう12月、紙エレキング32号、刊行のお知らせです。今回はレコード店とアマゾンのみ、明日(15日)に先行発売されます。なお、書店は25日発売です。詳しくは公式ページをご参照ください。そして、これはもう、単刀直入に申し上げますが、ドネーションだと思って購入していただければ幸いです。たとえば、最近で言えばガゼル・ツインルーシー・レイルトンワジードなどのインタヴューを楽しんでいるリスナーは日本では少数かもしれません。しかし、日本ではとくに後ろ盾のないこうした海外アーティストや作品の紹介、ほかでは読めないコラム(たとえば小川充のジャズ・コラムから三田格の映画評NY在住のジル・マーシャルのポップ・エッセイなど)を継続するには、やはりどうしてもみなさんのご理解とサポートが必要です。ひとりでも多くの読者が購買者になっていただければ、エレキングもより記事を充実させることができます。以上、編集部からのお願いでした。

 さて、それでは紙エレキング32号を簡単に紹介します。特集は「2010年代という終わりとはじまり」、それと「2023年年間ベスト・アルバム」です。まずは前者について、これはいつかやりたいと思っていた企画で、ちょうどそのディケイドを代表するひとり、OPNが新作を出したことがあって今回やることにしました。きっちり10年代というよりは、リーマンショック(2008年)からコロナ前(2019年)まで、このおよそ10年で、まずは音楽を取り巻く状況がドラスティックに変化したからです。これは、かつてレコードやCDで音楽を聴いていたことがある世代にはわかってもらえる話だと思います。また、これは90年代にリアルタイムで音楽を聴いてきた世代にしかわからない話になってしまいますが、ゼロ年代になって更新の速度がいっきに落ちたと言われている音楽シーンが、それではテン年代になってどうなったのかという問題もあります。と同時に、web2.0以降の環境が、あるいは世界規模の大衆運動が音楽にどのように影響を与えたのかなど、その10年はあらためて整理したいトピックでいっぱいです。何が名作と言われているのかは、もう、それこそインターネットを見ればすぐにわかることなので反復する必要はないでしょう。おもに、そうした最大公約数からこぼれ落ちている大切な事柄に焦点を当てつつ、構成してあります。複数のライター諸氏が選んでくれた「10年代の名盤/偏愛盤」はいろんな人が見ても楽しいと思います。
 「2023年年間ベスト・アルバム」に関しては、ひとつだけエクスキューズをここに書いておきます。ぼく(野田)の印象になってしまいますが、2023年は、とくに大きな波はなく、いくつものさざ波があった、そんな1年だったと思います。いつもこの順位を決める際に指標としているのは、良い悪い/好き嫌い/上手い下手といった相対的な価値観ではなく、その斬新さが社会にとってどんな意味があるのかという(これも相対的と言えるかもしれませんが)、その一点です。2023年の多くの音楽にも、もちろんその強度はあるのですが、なにかが突出していたというよりは、みんな均等に良かったという印象です。なので、今回の年間ベストの1位から3位の3枚に関しては、エレキングというメディアの個性がいつもよりよく出ていると思います。
 ある意味こうした事態は、スウィフティーズやリトル・モンスターズが読者ではないであろうエレキングにとっては、歓迎すべきことかもしれません。とはいえ、いまのこのさざ波のような奇妙な感じは、2024年も続くのかどうか、それとも大きな波の前触れなのか、これからも期待と不安を抱えながら、見守りたいと思います。そのためにも、(しつこくてすいません)紙エレキング32号をどうぞよろしくお願いいたします。

エレキング編集長 野田努

L’Rain - ele-king

 ブルックリン育ちのミュージシャン兼キュレーターのロレインことタジャ・チークは、3作のアルバムを通じて、彼女が「approaching songness(歌らしさへの接近)」と呼ぶ領域間で稼働してきた。その音楽は、記憶と連想のパリンプセスト[昔が偲ばれる重ね書きされた羊皮紙の写本]で、人生のさまざまな局面で作曲された歌詞とメロディーの断片が、胸を打つものから滑稽なものまで、幅広いフィールド・レコーディングと交互に織り込まれている。それはつねに変化し、さまざまな角度からその姿を現す。ニュー・アルバム『I Killed Your Dog』の “Our Funeral” の冒頭の数行で、チークはオートチューンで声を歪ませて屈折させ、息継ぎの度に変容させていく。焦らそうとしているわけではなく、一節の中に複数のヴァージョンの彼女自身を投影させるスペースを作り出そうとしているのだ。高い評価を得た2021年のアルバム『Fatigue』のオープニング・トラックは、「変わるために、あなたは何をした?」との問いかけではじまっている。ロレインは確かな進化を遂げながら、その一方でチークは、これまでの作品において、一貫性のある声を保っているのだ。ループするギター、狂った拍子記号、糖蜜のようににじみ出る、心を乱すようなドラムスなど、2017年の自身の名を冠したデビュー盤でみられた音響的な特徴は、『I Killed Your Dog』でも健在だ。同時にロレインは、これまでよりも人とのコラボレーションを前面に打ち出している。今回は、彼女とキャリアの初期から組んできたプロデューサーのアンドリュー・ラピンと、マルチ・インストゥルメンタリストのベン・チャポトー=カッツの両者が、彼女自身と共にプロデューサーとしてクレジットされているのだ。チークが過去の形式を打ち破ることを示すもっとも明白なシグナルは、気味が悪くて注意を引く今作のアルバム・タイトルに表れている。『I Killed Your Dog』の発売が発表された際のピッチフォークのインタヴューでは、これは彼女の「基本的にビッチな」アルバムであり、リスナーの期待を裏切り、意図的に不意打ちを食らわせるものだと語っている。また他のインタヴューでは、最近、厳しい真実を仕舞っておくための器としてユーモアを利用するピエロに嵌っていることに言及している。これは、感傷的なギターとピッチを変えたヴォーカルによる “I Hate My Best Friends(私は自分の親友たちが大嫌い)” という1分の長さの曲にも表れている。(念のため、実際には彼女は犬好きである。)
 メディアは、ロレインの音楽がいかにカテゴライズされにくいかということを頻繁に取り上げている。だが、チークが黒人女性であり、予期せぬ場で存在感を発揮していることから、これがどの程度当たっているのかはわからない。その点では、彼女には他のジャンル・フルイド(流動性の高い)なスローソン・マローン1(『Fatigue』にも貢献した)、イヴ・トゥモア、ガイカやディーン・ブラントなどの黒人アーティストたちとの共通点がある。「You didn’t think this would come out of me(私からこれが出てくるとは思わなかったでしょ)」と、彼女は “5to 8 Hours a Day (WWwaG)” で、パンダ・ベアを思わせるような、幾重にも重ねられたハーモニーで歌っている(「この歌詞の一行は間違いなく、業界へ向けた直接的な声明だ」と彼女はClash Musicでのインタヴューで認めている)。
 『I Hate Your Dog』 では、チークがこれまででもっともあからさまにロックに影響された音楽がフィーチャーされているが、彼女のこのジャンルとの関係性は複雑なものだ。最初に聴いたときに、私がテーム・インパラを思い浮かべた “Pet Rock” について、アルバムのプレス・リリースにはこう書かれている──2000年代初期のザ・ストロークスのサウンドと、若い頃のロレインが聴いたことのなかったLCDサウンドシステム──これには、一本とられた。
 彼女の初期のアルバムと同じくシーケンス(反復進行)は完璧で、各トラックを個別に聴くことで、その技巧を堪能することができる。これは、トラックリストに散りばめられたスキットやミニチュアに顕著で、アルバムのシームレスな流れに押し流されてしまいがちだ。33秒間という長さの “Monsoon of Regret” は、微かな焦らしが入ったような、混沌とした曲であり、“Sometimes” は、アラン・ローマックスがミシシッピ州立刑務所にループ・ペダルをこっそり忍び込ませたかのような曲だ。
 “Knead Be” がアルバム『Fatigue』の言葉のないヴォーカルとローファイなキーボードによる1分間のインタールードで、ヴィンテージなボーズ・オブ・カナダのようにワープし、不規則に揺れる “Need Be” をベースにしている曲だと気付くには、注意深く聴き込む必要がある。この曲でチークは、そのトラックに沈んでいたメロディーの一節を、小さい頃の自分に、物事がうまくいくことを悟らせる肯定的な賛歌へと拡大した。ただ、その言葉(「小さなタジャ、前に進め。あなたは大丈夫だから」)はミックスの奥深くに潜んでいるため、歌詞カードを見ないと、何と歌っているのか判別するのが難しい。
 初期の “Blame Me” のような曲では、チークはひとつのフレーズのまわりを、まるでメロディーの断片が頭の中に引っかかってリピートされているかのようにグルグルと旋回する。『I Killed Your Dog』では、何度かデイヴィッド・ボウイの “Be My Wife” のようなやり方で、一度歌詞を最後まで通したかと思うと、またそれを繰り返して歌う。あらためて聴き返すと、彼女が足を骨折した後に書いたバラード調の “Clumsy(ぎこちない・不器用)” ほどではないが、歌詞は、その歌詞に出てくる問いかけ自体に回答しているかのように聴こえる。“Clumsy” では曲の最後に、冒頭で投げかけた問いへと戻る。「想像もつかないような形で裏切られたとき、(自分が足をついている)地面をどのように信頼しろというの?」
 彼女はまだ、答を探り続けているのかもしれない。
 終曲の “New Years’ UnResolution” は、チークがアルバムを「アンチ・ブレークアップ(別れに反対する)」レコードと表現したことを端的に表している。この曲でも、歌詞がループとなって繰り返されるが、今回はその繰り返しの中で、歌詞が大きく変えられているのだ。彼女はその言葉には、別れた直後と、かなりたってから、後知恵を働かせて書いたものがあると説明している。バレアリックなDJセットで、宇多田ヒカルの “Somewhere Near Marseilles -マルセイユ辺り-” と並べても違和感のない、ダブ風のキラキラと揺れる光のようなグルーヴに乗せて、チークは、陰と陽のような、互いを補いあう2つのヴァースを生み出している。

ひとりでいるのがどんな感じか忘れてしまった
雨を吐いて 雪を吐き出す。
日々は、ただ古くなっていく
何も持たないということがどんなものか知っている?
どんなものかは知らないけれど
あなたは今夜ここに来る?
私から電話するべきか あるいは無視するべき? 私は……する
恋をするということがどんな感じか忘れてしまった
太陽を飲み込んで 雪を吐き出す
日々は、古くはならない。
何かを持っているということがどんなことか知っている?
ふたりともそれを知っている。
ただ真っ直ぐに私の目を見て
あなたから私に電話するべきか あるいは私を無視するべき? あなたは……する

 彼女はいまや、人生を両側から眺めることができたのだ。


L’Rain - I Killed Your Dog

written by James Hadfield

Across three albums, L’Rain – the alias of Brooklyn-raised musician and curator Taja Cheek – has operated in an interzone that she calls “approaching songness.” Her music is a palimpsest of memories and associations, interleaving fragments of lyrics and melodies composed at different points in her life, with field recordings that range from poignant to hilarious. It’s constantly shifting, revealing itself from different angles. During the opening lines of “Our Funeral,” from new album “I Killed Your Dog,” Cheek contorts and refracts her voice with AutoTune, morphing with each breath she takes. It isn’t that she’s playing hard to get, more that she’s making space for multiple versions of herself within a single stanza.

“What have you done to change?” asked the opening track of her widely acclaimed 2021 album “Fatigue.” L’Rain has certainly evolved, but Cheek has maintained a consistent voice throughout her work to date. Many of the sonic signatures from her self-titled 2017 debut – looping guitar figures, off-kilter time signatures, phased drums that ooze like treacle – are still very much present on “I Killed Your Dog.” At the same time, L’Rain has become a more collaborative undertaking: She’s quick to credit the contributions of producer Andrew Lappin – who’s been with her since the start – and multi-instrumentalist Ben Chapoteau-Katz, both of whom share producer credits with her this time around.

The most obvious signal that Cheek is breaking with past form on her latest release is in the album’s lurid, attention-grabbing title. As she told Pitchfork in an interview when “I Killed Your Dog” was first announced, this is her “basic bitch” album, pushing back against expectations and deliberately wrong-footing her listeners. She’s spoken in interviews about a recent fascination with clowns, who use humour as a vessel for hard truths. In this case, that includes a minute-long song of gooey guitar and pitch-shifted vocals entitled “I Hate My Best Friends.” (For the record, she loves dogs.)

Media coverage frequently notes how resistant L’Rain’s music is to categorising, though it’s hard to say how much this is because Cheek is a Black woman operating in spaces where her presence wasn’t expected. In that respect, she has something in common with other genre-fluid Black artists such as Slauson Malone 1 (who contributed to “Fatigue”), Yves Tumor, GAIKA and Dean Blunt. “You didn’t think this would come out of me,” she sings on “5 to 8 Hours a Day (WWwaG),” in stacked harmonies reminiscent of Panda Bear. (“That line is definitely a direct address to the industry,” she confirmed, in an interview with Clash Music.)

“I Hate Your Dog” features some of Cheek’s most overtly rock-influenced music to date, although her relationship with the genre is complicated. According to the press notes for the album, “Pet Rock” – which made me think of Tame Impala the first time I heard it – references “that early 00’s sound of The Strokes and LCD Soundsystem that L’Rain never listened to in her youth.” Touché.

Like her earlier albums, the sequencing is immaculate, and it’s worth listening to each track in isolation to appreciate the craft. That’s especially true of the skits and miniatures scattered throughout the track list, which can get swept away in the album’s seamless flow. The 33-second “Monsoon of Regret” is a tantalising wisp of inchoate song, reminiscent of Satomimagae; “Sometimes” is like if Alan Lomax had snuck a loop pedal into Mississippi State Penitentiary.

It takes close listening to realise that “Knead Be” is based on “Need Be” from “Fatigue,” a one-minute interlude of wordless vocals and lo-fi keyboards that warped and fluttered like vintage Boards of Canada. Here, Cheek takes the wisp of melody submerged within that track and expands it into a hymn of affirmation, in which she lets her younger self know that things are going to work out – though her words of encouragement (“Go ’head lil Taja you’re okay”) lurk so deep in the mix, you’d need to look at the lyric sheet to know exactly what she’s singing.

On earlier songs such as “Blame Me,” Cheek would circle around a single phrase, like having a fragment of a melody stuck in your head on repeat. Several times during “I Killed Your Dog,” she runs through all of a song’s lyrics once and then repeats them, in the manner of David Bowie’s “Be My Wife.” Heard again, the words sound like a comment on themselves – no more so than on the ballad-like “Clumsy” (written after she broke her foot), when she returns at the end of the song to the question posed at its start: “How do you trust the ground when it betrays you in ways you didn’t think imaginable?” It’s like she’s still grasping for an answer.

Closing track “New Year’s UnResolution” – which best encapsulates Cheek’s description of the album as an “anti-break-up” record – also loops back on itself, except this time the lyrics are significantly altered in the repetition. She’s explained that the words were written at different points in time, both in the immediate aftermath of a break-up and much later, with the earned wisdom of hindsight. Over a shimmering, dub-inflected groove that wouldn’t sound out of place alongside Hikaru Utada’s “Somewhere Near Marseilles” in a Balearic DJ set, Cheek delivers two verses that complement each other like yin and yang:

I’ve forgotten what it’s like to be alone
Vomit rain spit out snow.
Days, they just get old.
Do you know what it’s like to have nothing?
I don’t know what it’s like.
Will you be here tonight?
Should I call you or should I ignore you? I will...
I’ve forgotten what it’s like to be in love
Swallow sun spit out snow
Days, they don’t get old.
Do you know what it’s like to have something?
We both know what it’s like.
Just look me in the eye.
Should you call me or should you ignore me? You will...

She’s looked at life from both sides now.

TESTSET - ele-king

 TESTSETの曲でいちばん好きなのは “Moneymann” だ。ピキピキときしむ電子音やファンキーなベースがカッコいいのはもちろんなのだけれど、理由はもっと単純で、カネが生み出す関係性やそれが引き起こす状況を歌っているとおぼしきリリックに、日々カネのことばかり考えているぼくはどうしても引きこまれてしまうのだ。さりげなく挿入される日本語の「さりげない さりげない えげつない」には何度聴いてもドキッとさせられる。ほんとに、そうだよね。だから、今回のライヴを迎えるにあたってもこの曲をもっとも楽しみにしていた。
 ふだんはフラットな恵比寿ガーデンホールのフロアに段差が設けられ、椅子が用意されている。どうやら着席の公演のようである。にもかかわらず、照明が落とされるやいなや一斉に、オーディエンスのほぼ全員が立ち上がった。まあそりゃそうだろう。ファンクネスあふれるTESTSETの音楽はからだを揺らしながら体験したほうがいいに決まっている。

 響きわたる鳥の鳴き声。1発目はアルバム同様、“El Jop”。電子音の反復とギターの残響がいやおうなくこちらのテンションをあげてくる。そして待ち望んでいた曲はすぐにやってきた。印象的なコインの音に導かれ “Moneymann” が走りだす。ステージ後方には株価の変動をあらわしているかのようなグラフ、数値化された世界が映し出されている。ライヴだと一層なまなましさが際立つというか、円安に物価高がつづく今日、この切迫感にはほかのオーディエンスたちもきっとハッとさせられたにちがいない。

 あらためて、演者は4人。向かって左から永井聖一(ギター)、LEO今井(ヴォーカル)、砂原良徳(キーボード)、白根賢一(ドラムス)が横一列に並んでいる。背後のスクリーンやメンバーの近くに設置された電光の棒も込みでステージをつくりあげるという点において、TESTSETのライヴはコーネリアスのそれと似ている(今井が動いたりMCを入れたりするところは異なるものの)。つまりはメンバーのキャラクターなり人間性なりにたのまないということで、ようするにテクノだ。ファンクに寄った曲が多いのもなるほど、テクノのルーツのひとつに想いを馳せれば不思議はない。

 アルバムとおなじオーダーで4曲が終わると、今井が最初のMCを放つ。「ほぼ全出しセットでまいります」。今年のラスト・ライヴということで、気合いがみなぎっているのが伝わってくる。じっさいこの日は『1STST』から全曲が演奏され、「EP1 TSTST」からもいくつかピックアップされていたように思う。METAFIVEの曲も披露され、TESTSETのファンク・サウンドがMETAFIVEの発展形であることを再確認させられる。
 ゆえにもっとも注目すべきは、終盤に差しかかったころに差し挟まれた高橋幸宏のカヴァーだろう。インタヴューで砂原が「いちばん好き」だと発言していた81年のアルバム、『NEUROMANTIC』のオープナーだ。スクリーンには雨の映像が流れている。歌詞をググってみると、たしかに窓を雨が伝っている。「だれかがここにいたはずなのに/痕跡さえもない/ただ顔の記憶だけが」。このバンドの出発点がどこにあったのかを思い出させる、なんともせつない追悼──であると同時にそれは、どこか鎖を断ち切るようなポジティヴな意味合いを含んでいるようにも受けとれる。彼はもういないんだ、と。

 MCで今井は「来年はもっとたくさんライヴをやる、新しい曲もつくっていく」と語っていた。もしかしたら、TESTSETがほんとうにはじまるのはこれからなのかもしれない──そんな期待を抱かせてくれる、熱気に満ちた一夜だった。

Say She She - ele-king

 これだけ世界情勢が荒れるなかにあって、当たり前に多様な文化が混ざっている音楽を聴くと胸が温かくなる。ブルックリンのディスコ・ソウル・バンド、セイ・シー・シーが奏でているのは洒落たパーティにピッタリのダンス・ミュージックで、その会場には多彩なバックグラウンドを持ったひとたちが集まっているのが想像できる。
 実際、セイ・シー・シーのフロントに立つ女性シンガー3人は人種的にもバックグラウンド的にもバラバラだが、彼女たちが生み出す清々しいハーモニーがバンドの最大の売りになっている。チカーノ・バットマンの元バッキング・シンガーでありニューヨークのファンク・バンドであるエル・ミシェルズ・アフェアのゲスト・シンガーも務めていたピヤ・マリク、元79.5のナイア・ガゼル・ブラウン、サブリナ・ミレオ・カニンガムによる掛け合いを聴いているだけで楽しいのだ。バンドのアンサンブルはヴィンテージなソウルやファンクを感じさせつつ、ドリーム・ポップやインディ・ロックに通じる軽さもある。本人たちはロータリー・コネクション、リキッド・リキッド、グレイス・ジョーンズ、トム・トム・クラブといった7、80年代に活躍したアーティストからの影響を公言しているそうだが、ジ・インターネットカインドネスクルアンビンといった10年代以降のインディとクロスオーヴァーするR&B/ソウル、ファンク・アクトが好きなひとも気に入るサウンドだと思う。

 本作は熱い注目を集めた2022年のデビュー作『Prism』につづく2枚めで、おもにリモートでの制作だったという前作に比べてぐっとバンド感が強まったアルバムに仕上がっている。シンガーの3人が先導しつつ手練れのプレイヤーとスタジオに入って制作されたとのことで、いっしょに演奏することの楽しさを記録するように曲数も倍増し、何より曲調のヴァラエティが広がった。現在はLAのファンク・バンドであるオレゴンのメンバーを含む7人編成となっており、バンドとして本格的なスタートを切ったアルバムと言っていいのではないだろうか。きらびやかなシンセ・ファンク “Reeling” のオープニングから、メロウなソウル・チューンの “Don’t You Dare Stop” や涼しげな “Astral Plane”、そしてベースが自然と腰を揺らすパーティ・ディスコ・ナンバー “C’est Si Bon” と、とにかく気持ちよさそうにアルバムは進んでいく。アナログ・テープによるレコーディングにこだわったらしくノスタルジックな風合いもあるが、本人たちのエネルギーが溌溂としていて後ろ向きな印象を受けない。
 そこにはおもにふたつの理由があると思う。まずひとつは、インド系のマリクのルーツに通じるような非西洋の音楽の要素がそこここに現れてスパイスになっていること。とくにサイケ・ロックと南アジアの旋律と70年代ファンクを混ぜたような “Bleeding Heart” はアルバムのなかでも目立って個性的な楽曲で、現代に向けてマルチ・カルチュラルな音楽を鳴らそうとする意思を感じさせる。
 もうひとつは現代の女性であることをテーマにしている点で、これはセイ・シー・シーの音楽の魅力と直結している。つまりこれは、いまを生きる女性たちの重なる声なのだ。若い女性を見くびる中年男をコケにする “Entry Level” や中絶の権利を訴える “NORMA” など今日的なフェミニズムと連動する曲があるのだが、それがパーティ・チューンとして鳴らされていることがとても大切だ。ジャネール・モネイスーダン・アーカイヴスらによるある種のシスターフッドを示す音楽は、サウンド自体が楽しいことで社会変革をアップリフティングなものとして表現している。現代の女性のひとつの闘い方である。そしてセイ・シー・シーの3人は声を揃えて宣言する――「We won't go back」、つまり、わたしたちは前に進むと(“NORMA”)。

 それにしても、タイトル・トラックにしてクロージングの “Silver” はひときわ心地いい。軽やかなドラミングとファンキーなベース、ドリーミーなシンセと戯れる清涼な歌声。基本的に、世界に対して心を開こうと聴き手を誘う音楽なのだ。こんなときこそ、パーティ・ミュージックに合わせて身体を揺らさなければ。

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