「K A R Y Y N」と一致するもの

Hecker - ele-king

 〈エディションズ・メゴ〉のクオリティの高さは折紙付きである。クリスチャン・フェネス&ジム・オルークピタクララ・ルイストーマス・ブリンクマンオーレン・アンバーチ、などなど、今年も安定して充実した作品をリリースしてきた同レーベルだが、このたびフロリアン・ヘッカーの新作のリリースがアナウンスされた。どうやら同レーベルは来年も刺戟的な作品を世に送り出してくれるようである。
 これまでも主に〈エディションズ・メゴ〉を中心に作品を発表してきたヘッカーは、フランスの哲学者クァンタン・メイヤスーとコラボレイトした経験もあり、ある意味ではいま最も知的なサウンド・アーティストだと言うことができるかもしれない(因みに彼は10年前に〈リフレックス〉からも作品をリリースしている)。
 気になる新作のタイトルは『A Script For Machine Synthesis』で、2017年2月24日に〈エディションズ・メゴ〉よりリリースされる。フォーマットはCDと配信の2種類。今回のアルバムでヘッカーはイラン出身の哲学者レザ・ネガレスタニ(Reza Negarestani)とコラボレイトしており、このふたりがタッグを組むのは『Chimärisation』(2012年)、『Articulação』(2014年)に続いて3度目ということになる。
 内容はサウンドとテクストから構成されるコンセプチュアルなものになっているようで、アルバムは“Prologue”、“A Script For Machine Synthesis”、“Credits”という3つのパートに分かれている。長さはそれぞれ7秒、57分21秒、3分13秒。現在、3曲目のトラック“Credits”が公開されているが、加工された音声のみから成るこのトラックは、実質的にはアウトロのようなものだろう。はたしてアルバムの全貌はどのようなものになっているのか――とりあえずいまはこの謎めいた音声を聴きながら、じっくりと妄想を膨らませておこう。

interview with ZORN - ele-king


ZORN - 生活日和
昭和レコード

Hip Hop

WENOD Amazon

 10月末に発売されたZORNの6枚目となるアルバム『生活日和』(昭和レコード)は、2016年にリリースされた日本のヒップホップ・アルバムのなかでも、かなりの名盤だと思っている。元々評価されているラッパーだろうし、筆者がここであえてそう書くまでもないかもしれない。いざZORNをインタヴューできることになり、一聴してみると、印象に残ったのは何よりその地味さだ。ヒップホップは目立ってなんぼみたいな側面が強いし(ショウビズでもあるわけだから当然だが)、グリルやブリンブリンなどに見られる個性もひとつの楽しみ方だったりする。
 だが、ZORNの新しいアルバムはそういった世界から遥か遠くで鳴らされているものだ。アー写には子供たちが渡る横断歩道で、旗を持って立っているZORNが写っている(そう作ったわけではなく、本当にZORNの日常を写したらしい)。地味だからこそ印象に強く残った。
 こう書くと、これだけ多様化した日本のラップのなかで、自分の世界観をそれに見合うやり方で表現しているラッパーは他にもたくさんいると思われそうだが、そういう次元の話ではない。ZORNは地味な表現のなかで、本当に大切な言葉を丁寧に選んで歌っている。それが聴いていてよくわかる。むしろ、これだけ生々しいトピックを選びながら、派手な激情に流されていないことがZORNの特異な点だ。日々インスタにアップされるどこかのお高い店の美味そうなメシより、長く食べ続けたいのは、身近な人間が作る毎日当たり前のように食べているメシの方だろう。ZORNが作ったのは、そういうアルバムだった。
 なお、2016年の締めくくりに12月18日渋谷のWWWXにて、ZORNの『生活日和』リリース記念のワンマンライヴが開催される(すでにSOLD OUTしたとのこと)。充実のZORNに話を聞いた。

現場の仕事も面倒くさいし、マジで大嫌いだった。いまは全然、楽しいし、ずっとやりたいなぁくらいに思っています。このまま音楽をやっていって、アルバムもたくさん売れるようなアーティストになりたいけど、どっちでもいいやみたいな。そうならなくても別にもう全部持っている。

かなりパーソナルな内容ですが、普段はどんな生活を送っているんですか?

ZORN:月曜から土曜まで働いて。現場で仕事して、毎日帰ってきたら、家族で夕飯食べて風呂入って寝る。子供は日常に常にいるんで、日常となればそこになるわけです。で、週末ライヴがあるときは、土曜の夜なり日曜のデイなり全国各地に行くって感じです。リリックを書くのは仕事中か雨の日。雨だと僕は仕事が休みになるので、雨の日に書いています。仕事中には頭で書いてるっていうか。ずっとその……常にこう……1曲ずつ作るんですけど、そのビートがずっと朝起きてから寝るまで頭のなかでかかってるんで。仕事中に作業しながら、ひたすらライムを考える。

そうして作業中に浮かんだライムって覚えていられるものなんですか?

ZORN:覚えてますね。あとはiPhoneにメモしたりとか。この作り方はずっとそうかもしれないです。仕事中に頭で書くっていうか。トラックを聴いて、これだとなったら、そのトラックがずっと鳴っている。僕はドラムとかはほとんど聞いてなくて、上音のメロディだけ聞いて、そのBPMに合わせて頭で書いている。

このアルバムにコンセプトはありますか?

ZORN:やっぱりいちばんは「等身大」。それがいちばん大きなテーマで。とりあえずもういまの日常をひたすら切り取っていこうみたいな感じだったと思うんですけど、派手さとかは全然いらなくて。サウンドとか雰囲気とかを全部込みで、等身大の日常を歌うっていうコンセプト。普遍的なものにしたかったんですね。その普遍性みたいなものも結構自分のなかでテーマでした。別に僕は音楽も服も流行っているものは全然好きなので、そこに否定的なものは何もないんですけど、自分でやるなら、ずっと残るような変わらないもの、全然色褪せないみたいなものが作りたかった。

すごい地味な内容ですよね。

ZORN:言っていることも限りなくもう小さい世界のことなんで。

そうして、自分の身の回りの小さな世界を切り取ることにおいて、ならではの苦労があったりしますか?

ZORN:リリック書くのは楽しいんですけど、でも、それはやっぱりありますよね。昭和レコードは、「いつまで」みたいにレーベルに縛られるという感じはないんですけど、自分のなかで曲を作りはじめて「来週録ろう」と思ったら、それまでに仕上げようと思って進んでいく。それで時間が近づいていくにつれて、書けてなかったりするとだいぶ苦しみます。

今回のアルバムで特にどの曲が、そういった曲なのですか?

ZORN:どの曲も楽しみつつ苦しみつつだったと思うので、総じてって感じですね。等身大だからといって、それでもやっぱり言葉は最大限のこだわりを持って選んでいくので、ただ等身大だからパッという感じではないというか。そう言いたいんですけど、実質そうはいかなかったみたいな感じですかね。時間をかけたり、苦しんだり、そういうものじゃないと、自分で自分の曲に愛着をあまり持てないということもあります。ライヴもこだわっていきたいと思っていますし、同じ曲でも1曲をずっとやっていきたい。もちろんヒップホップって、パッとスタジオに行って、その場でビートを聞いて、その場でパッとリリックを書いて、その場で録るみたいなカッコ良さもあると思うんですけど、僕の場合は、それとは正反対のスタイルです。それもできますけどね。こうやって時間をかけて丁寧にやった方が、いいものだと自分も思えるというか。

「等身大」とか「ありのままの自分」ということを、自分の表現についていう人は少なくない印象があります。ただそういうものに触れた時、必ずしも本当にそうだと思えるわけではありません。AをA’やA’’に歌って等身大と言っている風に感じるというか。もちろん、それが作品のクオリティのすべてを決定すると僕は思いませんが、それでもZORNさんの、とくに今回の作品に関しては、本当に等身大であることが素晴らしいと思いました。Aという現実に対して、Aという言葉、表現で対峙している。

ZORN:本当に細かい歌だと思うんですよね、一個一個が。僕はアルバムを6枚出していて、まだ「現場で働いてます」と言っているわけなんで。それを『My Life』という曲で見せて、そこからですよね。この曲でほぼほぼ見せたので、逆にそこを強みにするというか。みんなもたぶん聴くとき、今回のアルバムに関してもそうですけど、容易に僕の生活が想像できると思うんです。だからすごい楽ですよ、マインド的に。もう、ただ自分でいればいいだけというか。

すごいことを言いますね。「ただ自分でいればいいだけ」とは、なかなか言えないですよ。

ZORN:本当に勇気がいるのは最初だけですね。昔は現場の仕事も面倒くさいし、マジで大嫌いだった。いまは全然、楽しいし、ずっとやりたいなぁくらいに思っています。このまま音楽をやっていって、アルバムもたくさん売れるようなアーティストになりたいけど、どっちでもいいやみたいな。そうならなくても別にもう全部持っている。それが自分の強みだと思っています。音楽の……ラップの活動と自分の家族と仕事と、それを全部一緒にしちゃうっていうか。いちいち分けるのがもう面倒くさくて、全部一緒でいいやみたいな。全部見せようという感じです。

うーん。このアルバムが重要な作品だと思った理由が、少しわかった気がしました。

ZORN:僕のなかでもめっちゃ重要です。久しぶりに真面目に作品を作ろうと思って、作品として臨みました。(前作の)『The Downtown』はラップしようという感じのアルバムで、そこが微妙に異なるというか。今回は残るものを作りたいなという感じだった。「Letter」とかもすごい気に入っています。

僕も「Letter」がいちばん好きです。この曲の話が出たので伺いたいのですが、その……この歌で歌われていることというのは、どういうことなんですか……

ZORN:どういうことというのは……?

はい……

ZORN:自分の子供が嫁の連れ子ということですね。

はい。曲を聴けばそのことが歌われているのはわかるのですが……。

ZORN:たぶん、こんなことを歌っているやついないし。(自分の子供は)連れ子でという……そこまで踏み込まないと届けられないと思います。自分がまずこう裸になって、ガッて踏み込んでいかないとって感じですね。

だからこそ、広く届く作品になっているのだと思います。いいアルバムをありがとうございました。




戸川純 avec おおくぼけい - ele-king

 10代の頃から歩き慣れた青山通り。デートとか、デートとか、デートとか、したなー。日曜の夜はしかし、人通りがほとんどなくて、ちょっとばかり風情が違う。都心だというのに意外と暗くて、ヨーロッパの夜を思い出す。気分はまさにエクステリアー・ナイト。夜の空気はどこまでも優しい。2日後にはタクシーが歩道に突っ込み、6人も意識不明になったというのに。
 2016年は92歳のシャルル・アズナヴールと82歳のピエール・バルーが相次いで来日し、チャランポランタンの活躍もあってか、なんともシャンソンが気になる年だった。そんな年の夏に戸川純もアーヴァンギャルドのおおくぼけいと新たにシャンソンのユニットをスタートさせた。デビューはサラヴァ東京。ピエール・バルーのお店で、リンディホップのパーティなどがよく開かれている。“蛹化の女”や“諦念プシガンガ”はもちろんだけれども、ここで戸川純とおおくぼけいは(“追悼・戸川京子”でも歌っていた)ジェーン・バーキンのカヴァー“イエスタデイ・イエス・ア・デイ”を演ってくれた。あの切なさと愛らしさはしばらく尾を引いた(戸川純ソロ・ヴァージョン→https://www.youtube.com/watch?v=tO5aK_dkXSs

 外苑西通りをだらだらと下り、久しぶりに青山マンダラへ。カウンターにもたれて2人の登場を待つ。舞台中央にはグランド・ピアノ。距離が近いのでかなり大きく感じる。まずはおおくぼけいが姿を現し、荘厳な始まり。ロココ調の衣装で戸川純もこれに続き、オープニングは“ハスラーズ・タンゴ”。いきなりルイス・フューレイときましたね(その昔、テレフォン・ショッキングに出てきた戸川純が自分の衣装をさして司会のタモリに「フェリーニみたいでしょ!」と、一般大衆を大きく引き離したことを思い出す)。続いてピンクのサングラスを外して“アイドルを探せ”。オリジナルのシルヴィ・バルタンよりも甘えた感じにを強調して歌う(同じく戸川ソロ→https://www.youtube.com/watch?v=MCm5ae3cdow)。シャンソンというより“セシル・カット”や“ジョー・ル・タクシー”などフレンチ・ポップスをよく取り上げることが多いせいか、次は“夢見るシャンソン人形”かなどと勝手に考えていると、なんと“恋のコリーダ”。これが見事にシャンソンと化していて、再びフレンチ・ポップスの代表曲……を独自に解釈した“さよならをおしえて”。いつものバンド編成とは異なるせいか、ヴォーカルが実に強く感じられる。いわゆる声が出ているというやつ。

 選曲とアレンジはすべておおくぼけいによるものだそうだけれど、彼がチャレンジャーだな~と思ったのが“フリートーキング”。戸川は手の振りをつけて歌い、随所で挿し挟まれるピアノの不協和音がいい。腰を痛めているはずの戸川は全身を大きく揺すり、ボクサーのようにスウェイバックを繰り返す。けっこう腹筋があるのかもしれない。ここまでバッグを膝にのせたまま歌っていて、タオルで汗を拭こうと思ったところ、忘れたことに気がつく(じゃあ、あとは何が入ってるんだ?)。MCを挟んで“また恋をしたのよ”(マレーネ・ディートリッヒ)から“プリシラ(I’ve Never Been To Me)”(シャリーン)へ。後者は決めごとの多い戸川ワールドでも、東口トルエンズやゴルゴダといったデュオでしかやらない曲だと決めているらしく、「これが歌えるのが嬉しかった」と新しいユニットを始めた喜びをひと言(昔からですが、首をすくめる動作がまた可愛い)。ちなみにこの曲の一節、「夢のように劇的な私の日々」は『戸川純全歌詞解説集』の副題候補に挙がっていたことも。以後はデビュー・コンサートと同じだったろうか、“王様の牢屋”“クレオパトラの涙”と重々しい曲が続き、ここでまたMC。“戸川純 avec おおくぼけい”が独自につくったコンサート・グッズはモバイル・バッテリーで、「これは本当に便利」と大久保が言えば、いろんな商品について話しているうちに「私は一体、何屋さんなんだろう?」とボケる戸川。ヘンなところが前回よりも息が合っている。

 エンディングに向かって“蛹化の女”“諦念プシガンガ”、そして、僕が前回、最も驚いたアレンジを聴かせる“肉屋のように”。ピコ太郎を思わせるジャーマン・ニューウェイヴ風のシンセ-ベースにブラック・サバスばりの分厚いアンサンブルが襲いじかかる“肉屋のように”は、近年のライヴでは白眉ともいえる完成度を示していたけれど、波打つようなグランド・アピノが印象的なおおくぼけいヴァージョンも一聴の価値アリです。次のライヴはまだ決まってないそうだけど、“肉屋”で“身もだえ”するのが好きな方々は絶対に一度は聴いた方がいいでしょう(つーか、レコーディングしないのか?)。そして、最後は“本能の少女”。本人いわく“蛹化の女”の蝶ヴァージョン。『戸川純全歌詞解説集』をつくってからというもの、同じ曲が以前と同じようには聴こえなくなってしまいましたけれど、この曲もかなりヤバい。「生きてる意味なら自分でつくるわ」と歌詞が変わっているところも上がるし、スタッカート気味のピアノが本当に高揚させてくれる。エディット・ピアフがどれだけのビッチだったかは知らないけれど、こういうのをシャンソンというのではないでしょうか。ちなみにステージから去っていくおおくぼけいの衣装が肩にピンクのヒラヒラをつけていて、これがまた戸川純とはいいコンビネイションでした。アンコールは“バージン・ブルース”(野坂昭如)をジャズで。戸川純、今年最後のライヴがこうして終わり、終焉後もサイン本を求めて会場の外に長蛇の列ができていた。

戸川純ライヴ情報

★1/13 恵比寿リキッドルーム(with Vampillia)

出演:戸川純 with Vampillia / Vampillia / 他
18:00 OPEN 18:30 START
adv.¥4000 (drink別)
問:LIQUIDROOM 03-5464-0800

★1/20 梅田クアトロ(with Vampillia)

出演:戸川純 with Vampillia / Vampillia / 他
18:00 OPEN 19:00 START
adv.¥4000 door ¥4500(共にdrink別)
問:梅田クラブクアトロ 06-6311-8111

★2/1 新宿ロフト 戸川純 / dip ツーマン・ライヴ

出演:戸川純(Vo.)、中原信雄(Ba.)、ライオン・メリィ(Key.)、矢壁アツノブ(Dr.)、石塚 “BERA” 伯広(Gt.) ゲスト:ことぶき光(Key)、山口慎一(Key:YAPOOS,Coherence)

dip ヤマジカズヒデ(Gt. Vo.) ナガタヤスシ(Ba.) ナカニシノリユキ(Dr.)

18:00 OPEN 19:00 START
adv.¥4000  door ¥4500(共にdrink別)
チケット発売 ぴあ(P:317-530)、ローソン(L:71365)、e+、ロフト店頭、通販

萩原健太 + 長門芳郎 - ele-king

 『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』や『70年代シティ・ポップ・クロニクル』が好評の音楽評論家・萩原健太が、新著『アメリカン・グラフィティから始まった』を12月7日に上梓しました。ジョージ・ルーカスが『スターウォーズ』を撮る前に手がけた最初の商業映画『アメリカン・グラフィティ』を読み解きながら、アメリカのポップ・ミュージックの原点を紐解いていく、ほろ苦くも心温まるエッセイです。
 その『アメリカン・グラフィティから始まった』の刊行を記念して、萩原健太と長門芳郎によるトークショウが開催されます。当日はサイン会も実施されるとのことで、これは見逃せないイベントです。きたる12月22日は、忘年会へ行く前にタワレコ渋谷店に立ち寄りましょう。

萩原健太12/7新刊『アメリカン・グラフィティから始まった』発売記念、
パイド・パイパー・ハウスpresents
萩原健太+長門芳郎トーク&サイン会決定!
これは見逃せないスペシャルイベント!!

萩原健太新刊『アメリカン・グラフィティから始まった』発売を記念してタワーレコード渋谷店5Fに期間限定OPEN中のパイド・パイパー・ハウスpresentsとして萩原健太と長門芳郎によるスペシャルなイベントが決定。これは見逃せないスペシャルな組み合わせのイベント。当日はサイン会も実施。


Pied Piper House Presents
萩原健太『アメリカン・グラフィティから始まった』書籍発売記念
萩原健太 + 長門芳郎 トークショー&サイン会

開催日時:
2016年12月22日(木) 19:30

場所:
タワーレコード渋谷店5F
PIED PIPER HOUSE in TOWER RECORDS SHIBUYA 前特設スペース

出演:
萩原健太
長門芳郎

内容:
トークショウ&萩原健太によるサイン会

参加方法:
観覧フリー。ご予約者優先で12月7日(水)発売 萩原健太『アメリカン・グラフィティから始まった』書籍をご購入いただいた方に先着で「サイン会参加券」を差し上げます。サイン会参加券をお持ちのお客様はトークショー終了後、サイン会にご参加いただけます。当日はサイン会参加券とあわせ、ご購入の書籍を忘れずにお持ちください。

サイン会参加券配布対象店舗:
タワーレコード渋谷店・新宿店・池袋店

サイン会参加券配布対象商品:
12月7日(水)発売
萩原健太著『アメリカン・グラフィティから始まった』
ISBN:978-4-907276-74-4

注意事項:
※対象商品のご予約はお電話とタワーレコード・ホームページ (https://tower.jp/) の店舗予約サービスでも承っております。
※【サイン会参加券】の配布は定員に達し次第終了いたします。終了後にご予約(ご購入)いただいてもお付けできませんのでご注意ください。
※トークショー終了後、サイン会を実施いたします。
※サイン会参加券1枚で1名様ご参加いただけます。
※当日は必ずサイン会参加券とサイン対象の新刊書籍をお持ちください。盗難・紛失等による再発行はいたしません。
※当日の混雑具合により入場規制をかけさせていただく場合がございます。
※イベント対象商品は不良品以外での返品をお受けいたしません。
※カメラ及び録音機器等によるイベント模様の撮影及び収録は固くお断りいたします。
※都合によりイベントの内容変更や中止がある場合がございます。あらかじめご了承ください。
※イベント当日は係員の指示に必ず従ってください。係員の指示に従っていただけない場合、イベントへのご参加をお断りすることがございます。

Common - ele-king

 コモンの新譜情報を漁っていて見つけた『ローリング・ストーン』の記事には「先行シングル『Black America Again』のアウトロでスティーヴィー・ワンダーは歌う:『山のような問題を解決するひとつの手段として、人を自分にとって大切な誰かであるかのように思うこと(以下略)』」などと書かれていたので、あれ、これはジェームズ・ブラウンのMC音源のサンプリング部分のことでは、てか『ローリング・ストーン』誌ともあろうものがこんな間違いをするだろうか、とコメント欄を開くと「スティーヴィーじゃない、JBだよ」というどこかの誰かの呆れたような短い一文がぽつんと書かれているだけで別に訂正もされていないところを見ると、ひょっとすると誰もこの曲について大した関心は持たなかったのではないか、と思えてくる。

 しかし、いくら何でもJBとスティーヴィーを取り違えたままでいいものだろうか。

 シカゴ出身のラッパー、コモンの11作目となるアルバム『Black America Again』がアメリカでリリースされたのは11月4日、米大統領選投票日の4日前である。「(ま、いろいろ突っ込みどころはあるけど)どうせヒラリーじゃね?(盛り上がんねぇなぁ)」といった物見遊山なムードだけを感じつつぼんやり日本から眺めていた自分は日本時間の11月9日頃にはやべえ、やばいけど落ち着け、などと極めて凡庸にうろたえておりました。そんな中でふと、本当に偶々コモンの『Black America Again』を耳にして、ああアメリカにはこの人がいた、とようやく自然な呼吸ができるように思えたのでした。

 選挙後、同じくシカゴ出身のカニエ・ウエストが、あたかも面白ポップにひねり過ぎて自分自身を捩じ切ってしまったかのような先月の惨状とは際立って対照的に、かつてカニエと組んで『Be』(2005)/『Finding Forever』(2007)などのヒット作を飛ばしたコモンが見せる姿勢は今作もほとんど揺るがない。相変わらず重層的にメロディアスであることも、生真面目に「一枚目」を務めることなど躊躇わない様子も、先人の遺産への深い敬意と愛着を失わないことも全て含め、何はともあれキャッチーに売れなくては、といった発想ではないのが清々しい。件のシングル「Black America Again」の20分を越すロング・ヴァージョンPVなどはさながら実験映画のようでもあるし。

 アルバムとしては自伝的なリリックにTasha Cobbsのヴォーカルで締めくくられる14曲目“Little Chicago Boy”でシミジミと終わる、というのが無難に常道なやり方であるはずなところにボーナス・トラックのごとく足された(奴隷制廃止から現在に至る150年間の連続性を扱ったAva DuVernay監督のドキュメンタリー長編『13th』(2016)で使用された曲とのこと)15曲目“Letter To The Free”が、そんなリラックス・ムードで聴いている人間に軽く平手打ちを喰らわすかのように鳴り響いてくる。

 「俺らが吊るされた南部の木、その葉」という、ビリー・ホリデイの“奇妙な果実”を本歌取りした一節から始まるこの曲は畳み掛けるように「The same hate they say will make America great again」とトランプの選挙戦キャッチフレーズを折り込み、「Freedom, Freedom come, Hold on, Won't be long」というチャントで終わる。そんなラスト曲を繰り返し聴いていると、元々は『Little Chicago Boy』にする予定だったらしいアルバム・タイトルを『Black America Again』に改めた彼の確かな危機感も伝わってくる。そう言えば、ずっとクリントンを応援していたアメリカの友人(黒人ではないがゲイの映像作家)のことが心配になり、でも事情を何も知らないジャパニーズがいまさら何と声を掛ければ良いもんやら、と途方に暮れながらも投票日から数日後に短いメールを送ったところ速攻で「今や皆がアクティヴィストになっている。確かに解き放たれた感はあるがしかし、この恐怖はリアルなものだ」とこれまた短い返信があった。

 実は冒頭に触れた『Black America Again』について書かれた記事で「アウトロでスティーヴィー・ワンダーが歌う」という記述は間違いではないのであるが、致命的なことにラインが違う。ジェームス・ブラウンの語りに続いてスティーヴィーが10回以上繰り返し実際に「歌う」のは「We are rewriting the black American story(ブラック・アメリカンの物語を書き直すのだ)」というワンフレーズである。果たして歴史なり現実なりが「物語」に回収されていいものだろうか? とは思うものの、何かが危機に瀕しているらしい時に人びとをユナイトさせるのは良かれ悪しかれある種の「物語」である、というのもまた事実である。

 真面目な正論っていつだって何だか息苦しい(よね)、という時代が妙に長すぎたせいか、最早ポップなものは多かれ少なかれふざけたアティテュードをまぶさないと拡がらない、といった情勢は末期的ではありつつもまだ今のところ隆盛だ。が、コレ面白いから見て見て見て(聞いて聞いて聞いて)と氾濫する情報に窒息しそうな自身に気付いた時、ド直球にまともな作品に触れることでこれだけ楽に息ができるのだ、という現実はどう考えても未だ経験したことのない感覚である。

interview with KANDYTOWN - ele-king


KANDYTOWN
KANDYTOWN

ワーナー

Hip Hop

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 太平洋の両岸で社会的な動乱が続く2010年代なかば、日米はトラップの時代にあると言っていい。一方で現在の東京の地下では本当にさまざまな音が鳴っている。パーティ・オリエンテッドなトラップから本格的なギャングスタ・ラップ、けして懐古主義になることのない職人肌のブーン・バップ…。そんな中でも、KANDYTOWNのメジャー・デビュー・アルバム『KANDYTOWN』は、日本のヒップホップ生誕の地、東京のインナーシティに受け継がれる音楽文化のクールネスを結晶化したマスターピースと呼ぶに相応しい。もともと幼なじみでもある世田谷区喜多見を拠点とする総勢16名のこのクルーは、中心人物だったYUSHIを昨年2月に不慮の事故によって失いつつも、けしてその歩みを止めることはなかった。12月22日にはリキッド・ルームでのフリー・クリスマス・ライヴの開催も告知されている。

 ハイプに盛り上がる周囲の喧噪をよそに、KANDYTOWNはあくまで寡黙でマイペースだ。彼らはテレビ番組をきっかけにしたラップ・ブームとも、いまやメイン・ストリームを担いつつあるトラップとも、一定の距離感をキープしている。5年前に震災の暗闇を経験し、いまは4年後のオリンピックにむけてバブリーにざわめく2016年の東京のストリート。マシン・ビートによるトラップの赤裸々なリアリティ・ラップが注目を集める中、KANDYTOWNは1990年代以来の日本のヒップホップの蓄積を正統に継承するサンプリング・サウンドにのせて、強烈なロマンティシズムを描いている。2000年代以降の日本語ラップのリアリズムがつねに時代を切り取ろうと腐心してきたとすれば、彼らに感じるのは、むしろシネマティックな想像力で時代を塗り替えようとする野心だ。考えようによっては、彼らはとても反時代的な存在でもある。

 現在のラップ・ブームの火付け役となった〈フリースタイル・ダンジョン〉は、日本語ラップの「ダディ」であるZEEBRAをオーガナイザーに据え、いとうせいこうという先駆者をキャスティングすることで、黎明期から現在にいたるまでの日本のヒップホップの歴史をうまくパッケージしている。しかし、この10年の冬の時代にアンダーグラウンドなハスリング・ラップの台頭を経験し、震災後にはトラップの本格流入を経由した現在の日本のシーンは、より複雑で多層的だ。断片化と呼んでもいいかもしれない。今回のインタヴューでは、コレクティヴ名義での初オフィシャル・アルバムの制作プロセス、そしてほかでもない2016年にこのアルバムがリリースされた意味を探った。参加したのは、IO、YOUNG JUJU、KIKUMARU、GOTTZ、Ryohu、Neetz、そしてA&RとしてクレジットされたOKAMOTO’Sのオカモトレイジだ。

──アルバム『KANDYTOWN』について

本当にいままでどおりライヴが終わったあとに誰かの家に行って曲を書くみたいな、遊びの延長線上で作ったのがこれですね。(Neetz)
最初で最後かもしれないのでお聴き頂ければと思います。(Ryohu)

まずはアルバムのリリースおめでとうございます。今年2月のYUSHIさんの一周忌にリリースされたIOさんのアルバムを皮切りに、それぞれのソロ・ワークも順調に出していって…ついにKANDYTOWNとしてオフィシャルなデビュー盤ということで。メジャーでのレコーディングにあたって、なにかこれまでとの違いはありましたか?

Neetz:いや、そんなことはまったくなかったですね。

じゃあレコーディングの日程は順調に進んだ感じですか?

Neetz:わりとスムーズにいったとは思います。

Illicit Tsuboiさんのところで合宿的なことをしたと耳にしたのですが。

IO:合宿というほどでもないと思います。

JUJU:でも2、3日連続でスタジオを空けておいてもらって、行けるメンバーがその間に行って、途中で家帰ったりするヤツもいればまた来るヤツもいるみたいな、そういう状態だったと思います。

インディでリリースした『KOLD TAPE』や『BLAKK MOTEL』、『KRUISE』は基本的にNeetzさんの991スタジオですよね?

Neetz:そうですね。基本は991スタジオでやっていました。

Illicit Tsuboiさんといえば名だたるプロデューサーですが、作業環境が変わったことでの新鮮味はありましたか? 具体的にどういったところが変わりましたか?

GOTTZ:やっぱり全然違いましたね。やっぱり機材が違いますし、Neetzのはベッドルームを開けてやっているスタジオなので宅録という感じなんですけど。全然違ったよね?

KIKUMARU:もう最初初めて声を出したときの録り音が違いましたね。

Ryohu:Tsuboiさんが一人ひとりRECしているときにもうそれぞれのバランスを調整して、EQとかコンプとか全部一人ひとり弄ったりしていて細かいところから違いましたね。

新たなステージでどんなアルバムになるのかなと思っていたのですが、とくに構成がよく練られていると思いました。まずは派手なパーティ・チューンでスタートして、心地よい横ノリの曲で引っ張って、インタールードでブレイク・ダウンした後はメロウに、そして最後はまたドラマティックに盛り上げていく。こうした構成は最初から頭にあったんですか?

Neetz:最初はなくて、とりあえず曲をめっちゃ録っておこうというところから始まって、最終的にできたものを曲順に並べてああなったという感じですかね。でも最初はできた曲を録りまくろうという話で、カッコいい曲を録ろうという意識でしたね。

自分で作った作品は完成後に聴くほうですか? 今回のアルバムを客観的に聴いてみて思うところがあれば。

Neetz:普段はあんまり聴かないですね。

GOTTZ:いまはまだ聴いている最中、という感じですね。
Neetz:作るときからあまり意識はしていないので、いまできたものがこれなんだなという感じですね。

飄々としてますね。

Neetz:これからもそのスタンスは変わらないですね。だから意外とこのアルバムに熱意をこめてというわけでもなく、『BLAKK MOTEL』もそうだったし『Kruise』もそうだったし、本当にいままでどおりライヴが終わったあとに誰かの家に行って曲を書くみたいな、遊びの延長線上で作ったのがこれですね。

事実上のリード・トラックの “R.T.N.”にはYUSHIさんの名前がクレジットされてます。IOさんのファースト・アルバムの一曲目の“Check My Leadge”でもYUSHIさんのラップがフィーチャーされてたし…すごく象徴的に感じました。

JUJU:あの曲はYUSHIがメインで作って、MIKIが軽く足したくらいだと思うんですけど。二人が留学中に作っていた曲ですね。

レイジ:でもほぼほぼYUSHIって感じがするよね。

JUJU:うん、音的にYUSHIだしね。4年前くらいにはあった曲で、多分覚えていないと思うけど当時IOくんとかが録っていましたね。でも当時からバンクロールでやろうとしていて楽しみだねと話していたんだけど、みんなそのビートのこと忘れていて、アルバムを作り始めようというときにMIKIが「このビートあるよ」と聴かせて、ワーッという感じになりましたね。

ほかに序盤で印象的なのは、“Twentyfive”はI.N.Iの有名な曲と同じネタで、ただハットの打ち方が今っぽいですね。

Neetz:そうですね。ピート・ロックが使っているやつ。けっこう使われていたので、叩き方を新しくして新しい感じの音にしようかなと思ってああなりましたね。

JUJU:あれはNeetzがフックを作るのに困っていましたね。

Neetz:そうですね。フックがけっこういい感じで決まったというのが大きいし、みんなもラップをカッコよくカマしてくれましたね。

Neetzさんはいつもどんな風にビート・メイクしてますか? キャンディのトラックは、ビートというよりは上ネタのメロウネスが強く印象に残るイメージなんですが。

Neetz:そうですね。まずは上ネタからですね。まず上ネタを探して、ループしたりチョップしたりして、だいたいそのあとにドラムを付け足してという感じですね。このアルバムではとくに、元の素材を活かす曲が多かったかもしれないですね。

それは意識して?

Neetz:けっこう意識的かも。

影響を受けたトラック・メイカーはいますか? このまえレイジくんから、一時期はみんなプリモのビートでしかラップしなかったといういい話を聞いて(笑)。

Neetz:うーん、俺はジャスト・ブレイズとかドクター・ドレーとかけっこう王道なところですね。

どこかでDJ ダヒがフェイヴァリットだと目にしたのですが。

Neetz:DJ ダヒはそのときにちょうどハマっていたので(笑)。基本はさっき言ったような王道のヤツです。

日米のいわゆる90’Sサウンドは聴いたりしますか? ニューヨークならプロエラとかビースト・コースト周辺だったり、日本だとたとえばIOさんのアルバムが出たとき、どこかのショップの限定の特典で“DIG 2 ME”のISSUGIさんリミックスがあったと思うのですが。

Neetz:プロ・エラは聴いているけど僕らはそんなに影響を受けたりしてないですね。ISSUGIさんのリミックスは聴いたことないな。

上の世代の人たちとは、俺らはあまり交流はないですね。IOくんはブート・ストリートのときからJASHWONさんたちにはお世話になっていて。(JUJU)
IOがブートで働いていたというのが意外だよね。いいよね。(レイジ)

言ってしまえば、キャンディはブーン・バップ的な90’sヒップホップの新世代として位置づけられていると思うのですが、いわゆる上の世代の人たちと繋がっているわけではない?

IO:Fla$shBackSのKID FRESINOだったり、FebbとjjjはJUJUのアルバムで一緒にやっていたりしますね。

ほぼ同世代のFla$shBackSのほうとはつながりがありますね。

JUJU:上の世代の人たちとは、俺らはあまり交流はないですね。IOくんはブート・ストリートのときからJASHWONさんたちにはお世話になっていて。

レイジ:IOがブートで働いていたというのが意外だよね。いいよね。

一同:(笑)

JUJU:めっちゃいい。

高校を辞めて働いてたんでしたっけ?

IO:はい。

JUJU:グロウ・アラウンドで働いているヤツもいて、そういう宇田川の繋がりがあるんですけどそこくらいだよね。

じゃあラップについてお伺いします。キャンディといえばワードチョイスが独特だと言われていますが、今回この曲の作詞は苦労したということや、これはこういうトピックに挑戦してみたということはありますか?

JUJU:一切ないですね。

一同:(笑)

JUJU:メジャーに行ってどうだったということは多分みんなないし、トピックをどうしようとかもKANDYTOWNにはほとんどないし、この人に向けて歌おうとかそういうことも言わないから……あんまりないよね?

Ryohu:でも幻のバースとかありますよ。

カットされたりもするということで。ひとつのビートでラップをするメンバーはどうやって決めてますか?

JUJU:挙手制と推薦制がありますね。バランス制もある。

そのバランスを判断するのは誰?

JUJU:みんなですね。

GOTTZ:でも基本的にラップに関してはビート・メイカー・チームじゃないですか。

なるほど。今回のアルバムはビートはNeetzさんにくわえてMIKIさんとRyohuさんがクレジットされてますね。

Ryohu:はい。

GOTTZ:あとはミネソタとか。わりとそっち側で話し合っていたんじゃないですかね。

Ryohuさんは今回トラック・メイカーとして二曲担当していますが、Ryohuさんといえばやはりシンガーとしての役回りもあります。メンバーのなかにこれだけうまく歌える人がいるのは特色のひとつだと思うのですが。

Ryohu:うーん、欲をいえば、俺は本当は女性シンガーが欲しいですね(笑)。

Ryohuさんの歌声はフェミニンなやわらかさがあって、これだけバランスよく歌がハマっているのはそのおかげかなと考えてました。

Ryohu:でもJUJUもいいフックを作るし、「ペーパー・チェイス、福沢諭吉」のラインなんて考えつかないし(笑)。IOもフック作ったりできるし、僕はそんなに意識してはいないしあんまり考えていないですけどね。できないことはできないし、できるヤツにやってもらってというのはなんとなくあります。

みんなソロ活動を活発に行なってますが、KANDYTOWNとして集まったときに自然に出てくるムードみたいなものはありますか?

Ryohu:KANDYTOWNとおのおののソロはまたちょっと違うはずで、それこそJUJU新しいアルバムも違うし。

JUJU:俺のは全然違いますね。多分ショッキングな感じだと思います。

Ryohu:はは!(笑)

MASSHOLEさんプロデュースの先行シングル“THE WAY”からしてダークでドスのきいた感じで。

JUJU:ああいう系もあるし、ちょっとトラップっぽいのもあるしいろいろあるっす。このあいだ改めてキャンディのほうを聴いて、全然違うと思ってびっくりしましたね。集まるとみんなにとってああいうビートのチョイスが程良いというか、Neetzのビートはみんな出すぎず下がりすぎずという感じが保てますね。

Neetzさんは他のラッパーに曲を提供する機会は増えてきました?

Neetz:いまのところほとんどないですね。本当キャンディ内だけなんで、これからやっていこうという感じですかね。ただ黙々と作っているというか。

この1年くらいでいろんなイベントに出演することも増えて、全然スタイルの違うアーティストと一緒になることもあると思います。そのことの影響はありますか?

JUJU:同い年で頑張っているヤツもいるし、ポジティヴに制作を頑張ろうという影響は受けますけど、あんまり具体的な影響はないよね。

Neetz:あんまり影響されないですね。どちらかというと例えばRyohuが4月にアルバムを出して、WWWとかでかいところでライヴをやったりして、そういうところに刺激を受けますね。

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──2016年のシーンについて

むこうにいるキッズは、常にヤバいものが更新されていくわけじゃないですか。だからあいつらの世代のスターはリル・ウェインやT.I.だし、ビギーや2パックを追う前に小学生くらいから自分の世代のスターが目の前にいるから、別に追う必要がないというか。(GOTTZ)


KANDYTOWN
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いま日米問わずトラップの時代みたいなところがあるじゃないですか。アメリカだとそれに対してケンドリック・ラマーやアンダーソン・パークといった90年代回帰の流れもある。このまえ、アトランタのリル・ヨッティというトラップのラッパーが、2パックとビギーなんて5曲も知らねえよ、みたいな発言をして、それがちょっとした議論になって…。

Ryohu:ヨッティが「そんなの知らなくてもいいじゃん」って言ったヤツですよね。

JUJU:それにアンダーソン・パークが噛みついたんですよね。

GOTTZ:「知らないことをいばるな」って(笑)。

一同:(笑)

GOTTZ:日本に住んでいても俺らは日本語のラップをそんなに聴かないから。ようはむこう(アメリカ)のものを掘っているじゃないですか。でもむこうにいるキッズは、常にヤバいものが更新されていくわけじゃないですか。だからあいつらの世代のスターはリル・ウェインやT.I.だし、ビギーや2パックを追う前に小学生くらいから自分の世代のスターが目の前にいるから、別に追う必要がないというか。そのナウだけを聴いていたらそうなるんじゃないですか。

じゃあどちらかというとヨッティ派?(笑)

GOTTZ:いや、俺はもちろんアンダーソン・パークの言っていることもわかりますよ(笑)。

JUJU:kiLLaとか日本の若い子もきっとそうなんですよ。一緒に遊んで2パックの曲とかをかけてても知らなかったりするし、いまの若い子は本当にそうなんだと思う。別になんとも思わないけど、知ってたほうがいいとは思うし「カッコいいのになんで?」と思うだけ(笑)。

GOTTZ:ヨッティのあれは、元々チーフ・キーフが言った言葉に対してなんじゃないですか? あれはチーフ・キーフが最初に「俺はビギーも2パックもほとんど知らねえよ」と言ってたんですよ、たしか。

まあことさらトラップとヒップホップを対立的にとらえる必要もないとは思うんですが、オーセンティックなヒップホップが過去のブラック・ミュージックから続く歴史性を背負っている部分が強いのに対して、たとえばヨッティなんかは韓国のBIG BANGの大ファンだったり、ネット時代というか、グローバル時代ならではのポスト・モダン的な側面がより強く出てる印象があります。日本だとBCDMGは宇田川を拠点として、トラップもやればブーン・バップもやる、ようは断片化したシーンをきちんと俯瞰する王道的な仕事を意識的にやってる。KANDYTOWNは世田谷ローカルの仲間たちで好き勝手にやってきた部分もあるけれど、言ってみれば昔ながらの東京のインナーシティのヒップホップのクールネスをオーセンティックに継承しているところもあって。

IO:俺とJUJUとDONYがBCDMGに所属してプレイヤーとしてやっていて、ああいうところにキャンディがあるというよりは、どちらかというとキャンディは帰ってくる場所というか。

やっぱり地元から愛されているヤツは間違いないと思うから、そういうところを見て俺もやろうと思ったし……(JUJU)

日本の同時代のトラップ・アーティストを聴いてフィールすることはありますか?

JUJU:そんなに聴いてるわけじゃないですけど、俺は会ったら喋るし普通に仲いいです。曲を作ろうという話はしますし、YDIZZYとかkiLLa組は「曲聴いてください」といって送ってくるからそういうときは聴きますね。(KANDYTOWNの)みんなが聴くというのは聞いたことないし見たこともないですね。みんなが自発的に誰か他のアーティストの曲をかけてるのはないです。

Neetz:俺は日本語ラップだとKANDYTOWNしか聴いてないです。

一同:(笑)

JUJU:そういう感じなんで、そこに関してはみんなリル・ヨッティって感じですね。

GOTTZ:あ、でもRYUGO ISHIDAの“YRB”(ヤング・リッチ・ボーイ)はけっこう聴いてたけどね。中毒性がある感じ(笑)。

JUJU:まあ別にトラップをそんなに意識して聴かないですね。

IO:ポジティヴなことを言うといろんな色があって、聴く人にとってもいろんな選択肢があるなかで俺らにフィールしたら聴いてくれればいいと思う。ただいまヒップホップ・ブームと言われているじゃないですか? それがブームで終わらないで根づいていければカルチャーになるし、先の世代がラッパーになったらリッチになれるという本当にアメリカみたいな文化になればいいと思うっすね。

BCDMGのコンピレーションではSWEET WILLIAM さん、唾奇さんとジョインした”SAME AS”が印象に残ってます。オデッセイの“ウィークエンド・ラヴァー”のネタで唾奇さんが「時給700と800」ってぶっちゃける感じのラップを最初にかまして、フックで「fameじゃ満ちないpainとliving」とJUJUさんが応えてて…IOさんが時どき使う「チープ・シャンペン」ってワードじゃないけど、単にきらびやかなだけじゃないKANDYTOWNの魅力が引き出されてる感じがしました。

JUJU:唾奇とかはすごくいいと思うというか、いまの時代だとお金があるように見せがちだと思うんですよ。でもああいう感じで来るじゃないですか。沖縄にライヴをしに行ったときに沖縄の人たちの唾奇に対するプロップスがハンパなくて、みんな歌ってたし「おい! 唾奇ぃ!」みたいな感じになっていて、それがすごくいいなと思ったんですよ。やっぱり地元から愛されているヤツは間違いないと思うから、そういうところを見て俺もやろうと思ったし、なによりIOくんが「唾奇とやるからやろうぜ」と言ってきてくれて、IOくんが言ってるならと思って、一緒にやったんですよ。

IO:唾奇は単純にカッコいいんです。俺のスタイルとは違うけど、俺にないものを持ってるし、やろうと思ってもできないスタイルでやっていて、そこにカッコいいと思う部分がある。だからシンプルに一緒に曲をやってみたいと思いました。

じゃああのコラボレーションはIOさんから持ち込んだ感じですか?

IO:ですね。

レイジ:あとそうだ。シーンとのつながりで言うと、あまり明かされていないんですけど、意外とSIMI LABと仲いいんですよね。いまはもう影響を受けたりしていないと思うし一緒にやっていないけど、俺から聞きたいんだけど、昔一緒につるんでたときは、オムスとかQNから影響受けたりしたの?

JUJU:俺はラップを始めたときにYUSHIとQNくんが一番近くにいてくれたからね。

レイジ:QNが最初にヤング・ジュジュをプロデュースしようとしてたのも、もう5、6年前だよね。

JUJU:そのときは本当に恵まれていたというか、周りの人がスゲえと言っている2人がいつも遊びに連れて行ってくれて、リリック書けとか一言も言われたことないけど、あの人たちは「やる」となったら15分でビートを作って、10分でリリックを書いて、5分で録って、(そのペースで)1日5曲録るみたいな人たちだったからそれに付いてやっていて、音楽への姿勢はあの2人から影響を受けましたね。フラフラしてるんだけど、レコ屋に入ってビートを選んだら家に帰って作り出すまでがすごく早いというか。「バン!」となったらしっかりやるという感じだったり、当時はすごく影響を受けたと思いますね。

レイジ:ちゃんと盤になった音源で、一番最初に世に出たYOUNG JUJUのラップって“Ghost”だっけ?

JUJU:うーん、IOくんたちともやってた曲があったと思うけど、ちゃんと流通されたのはそうかもしれない。

レイジ:QNのサード・アルバムに入っている曲だよね。そこの繋がりはみんな知らないだろうけどけっこう古いもんね。

Ryohu:意外とね。でも感覚的にはKANDYTOWNと同じというか。

レイジ:そうとう近いし、ずっと一緒にやってたもんね。中山フェスタとか一緒に出てたし。

JUJU:YUSHIの家に泊まるときも、オムスくんがいてIOくんがいてRyohuくんがいてみたいに意味わかんない感じだったもんね。

レイジ:オムスとQNが遊ぶのもYUSHIの家だったしなあ。

黎明期のその時期、相模原と喜多見のコネクションがあったということですか?

JUJU:SIMI LABのマイスペースかなにかに「ウィード・カット」(YUSHIの別名義。ドカット)って入ってたのを俺が見つけて、「YUSHI、SIMI LAB入ってんだ。名前入ってたよ」と言ったら、「絶対入ってねえ。いまから電話する」と言って電話して「俺入ってねえから!」とずっと言っていたことがあったりしましたね。

レイジ:SIMI LABの結成前からつるんでるんだよね?

Ryohu:いまの感じになる前からだね。

JUJU:QNくんがずっとYUSHIをSIMI LABに入れたがっていて「名前だけでもいいから入ってくれ」と言っているのを俺は見てたけど、YUSHIは「俺はBANKROLLだから無理」みたいなことをずっと言ってましたね。

それはYUSHIさんはBANKROLLでバンといきたいから、ということで?

レイジ:いや、BANKROLLはもうKANDYTOWN内でバーンと行ってたっす(笑)。

JUJU:俺はBANKROLLを見て好きになっていってラップやったり、周りの同い年のヤツや年下のヤツがBANKROLLを好きになっていった雰囲気がKANDYTOWNの流れとすごく似ている気がしているから、みんな(KANDYTOWNを)好きになるんじゃねえかなとほんのり感じてますね。あのとき俺がヒップホップを好きになっていった感じとこの流れの感覚が近いというか、いまこうやってBAKROLLと曲を出したりしているのがなにかあるといいなと俺は信じてますね。

聞いていると、なにかヒップホップよりも先に出会いや絆がある感じですね。

Ryohu:そうですね。だから表現がヒップホップだったというだけで、というかそれしかできないということもあるんだけど(笑)。いまさらギターとか弾けないし。

ニューヨークでもクイーンズとブロンクス、ハーレムとかでそれぞれ色があるじゃないですか。東京もそんな感じになってきたと思います。

JUJU:日本はそれがまだすこしできていない部分があるというか、認め合うことがないというか、出てきた人をどうしても蹴落としちゃうような風潮があるんじゃないかなと感じますね。でもやっぱり下から人は出てくるものだし、それは認めなきゃいけないし、それに勝る色を持ってなければいけないし、人のことをとやかく言うよりも自分の色をしっかり持って、いろんな色があるのがヒップホップなんだということを世間の人がわかってくれれば、もっと面白くなると思いますね。

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──ラップ・ブームについて

結局自分たちがカッコいいと思うことをやっているので、別にどう解釈されてもいいんですね。リリックにも出てくるんですけど「ホント気にしない」って感じですね。(KIKUMARU)

いまヒップホップ・シーンを考えると〈フリースタイル・ダンジョン〉という番組の影響はかなり大きいと思うのですが、この前KIKUMARUさんとBSCさんとディアンさんで出演されていましたよね。あれはどういう経緯で?

KIKUMARU:話が来て、3人での出演にルールが変わったと言われたんで、それでやるんだったらあの3人でやるよ、という感じでした。

Ryohu:それこそKIKUMARUはBボーイ・パークで優勝してるんで、キャンディでは一番バトルをしっかりやって成績も残ってるし、ちゃんと実力もあるかなという。

Neetz:シーンに名前が出たのはKIKUMARUが一番早かったですね。

KIKUMARU:5年前くらいですね。

IO:(小声で)それ知らないですね。

一同:(笑)

いまのバトル・ブームについてなにかあれば。

Neetz:俺はポジティヴだと思うんですけどね。それがヒップホップかと言われればわかんないですけど、そこが入り口になって自分の好きなところに行き当たってくれればいいと思うし、実際みんなフリースタイルしててすごいなと思うし。自分がクールだと思っていることがそこにあるかと言ったらないですけど、あれはあれで俺はすごいなと思う。

JUJU:ある種のスポーツですよね。

IO:俺にはできないことだと思う。それが日本のテレビに映ってて、いままでになかったことだし、色んな捉え方はあると思うけどポジティヴなことだと思う。ブームで終わらずに、根づいていって、ラッパーで成功すれば、リッチになれるというのが当たり前の文化になればいいなと思います。

レイジくんはどうですか?

レイジ:バトルっすか? あれはラップであってヒップホップではないかなというか、べつにあそこの勝ち負けには興味ないんじゃない。ヒップホップというよりかは、あれはとにかくラップという歌唱法が流行っている感じがする。

スタイルとしてのヒップホップと歌唱法としてのラップを分けて、だけどいまはそういうヒップホップという言葉の重みが嫌で、意識的にラップって言葉を使う人たちもいますね。

JUJU:うーん、でも、みんなやることやろうって感じですね。

レイジ:俺が見ているとKANDYTOWNというもの自体がシーンみたいな感じなんですよね。ここのメンバー同士で影響を受けあってるし、メンバー同士で盛り上がって成長していってるシーンという感じだから、メンバーが増えたり減ったりすることはないだろうけど、他のひとになに言われても全部「ああ、まあいいんじゃないですか」って感じだと思う。

たとえばひと昔まえのアーティストがメジャー・シーンに切り込んでいくときには、良くも悪くもヒップホップとか日本語ラップのシーンをレプリゼントしているような感覚があったと思います。だけどシーン自体がこれだけ多様化しているいま、どれだけそういう感覚があるのか。KANDYTOWNはどうですか?

JUJU:全然ないっすよね。

Neetz:喜多見って感じするよね。

レイジ:KANDYTOWNをレペゼンしているという感じですよね。

KIKUMARU:他人を見てなにか思うところがあっても、いざビートがかかっているところでリリックを書くとなったら、そういうのはみんな関係してないと思いますね。良くも悪くも周りじゃないっていうか。ブームがどうとかもとくに考えてないですね。

レイジ:でもこの人たちはずっとこの人たちだけで生活しているから(笑)、周りの影響は生まれないっすよ。誰々がどうでとかもほとんどなくて、違う世界の人たちだと思うんですよね。

JUJU:うまく説明できないけど、俺らはカッコつけるところが独特というか。でもほかの日本語ラップのヤツに会えば「みんないいヤツじゃん」と思うし、「お互い頑張ろう」ってポジティヴな気持ちになるだけっすね。

今回のアルバムだと”GET LIGHT”のヴィデオはリーボックのCMもかねたタイアップになってます。最近はラッパーがCMに出る機会も増えてるけれど、あれはそういうブームには関係ない感じというか。

レイジ:あれはマジでヒップホップですよね。

JUJU:でも俺らはあれがそんなに超カッコいいとか、特別だとかは思ってない(笑)。そのへんからちょっと違ってると思いますね。

そのズレが面白いというか、自分たちは全然シーンを背負っているつもりはないのだけれど、結果的にバトル・ブームとは関係のないところで王道的なスタイルを引き継いで、メジャーなフィールドで勝負してるっていう。そのズレについてはどう思いますか?


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レイジ:メジャー・デビューっていっても、ただ単にメジャーのレーベルから1枚リリースしたというだけだと思うんですよ。

JUJU:アルバム作ってても、メジャーだからどうこうってのは一切ないですね。言っちゃいけないこととかダメだとか言われたことないし、全然なかったよね?

レイジ:気を使ってリリックを変えるとか全然なかった。

JUJU:みんないつも一緒にいるから緊張とかわかんないし、仕事が多くなったとかはあるかもしれないけど変わったことはそんなにないよね。

ある意味でコミュニティ・ミュージック?

JUJU:そうだと思うけどなあ。RyohuくんやIOくんの新曲のほうが100倍気になるし、俺らは元々世に出さない人たちだから。

レイジ:そうね(笑)。世の中では誰も知らないけど、KANDYTOWN内ではマジでアンセムみたいなヒップホップ・クラシックがいっぱいあるんですよ。この惑星の人たちって感じですよね(笑)。ここは外国ですよ(笑)。

JUJU:「Neetzがこういうビート作ったってよ」というほうが「ヤベえ!」と思うし。

Ryohu:NeetzからのGmailが一番アガるよね。

レイジ:それ最高だね。

Ryohu:あんなにワクワクしてメールを開けることはないかもしれない。

一同:(笑)

レイジ:俺はそこが東京っぽい感じがしますけどね。東京のローカル。東京っていろんなところからいろんな人が来てずっとソワソワしているイメージだけど、そんな東京でもローカルはある。だっていわゆる田舎でも、イケてる人ってその地元に根づいてるじゃないですか。結局東京が都会で地方が田舎ということじゃなくて、場所がどこだろうがイケてるやつはイケてるし、自分のローカルをちゃんと持って、そのなかで周りを気にせずやれているヤツはいる。だからKANDYTOWNが周りのシーンを気にしないというのも別にカッコつけているわけじゃなくて、近場に気になる人がいてそっちにしか興味がないから、NeetzからのGmailがブチあがるとか、そういうのはこの世界があるからなんだ、という。だから江戸っ子ってうのかな。本当の意味で東京の雰囲気でやれている感じがしましたね。

世田谷の喜多見からKANDYTOWNが出てきて、それはそこにYUSHIさんという人間が1人いたからということがあるじゃないですか。街って、たんに物理的な場所というんじゃなくて、人と人のつながりがつくってる。

レイジ:そうかもしれないっすね。

通常版のジャケットがYUSHIさんの描いた絵になってます。メジャーで勝負するアルバムの中心に、とてもパーソナルな歴史を置いているということが、そのローカル感の象徴かなと思います。

KIKUMARU:そのジャケはめっちゃ派手だと思いますけどね。そういうジャケってなくないですか(笑)?

JUJU:YUSHIの絵にするアイデアは元からあったと思います。

IO:MIKIと話していてジャケットを絵にしようということになって、YUSHIの家に行ったときに絵を見ていて、ほかにもいっぱいあるんですけど、とりあえずこの絵のインパクトが強くて。アルバムが出来たら、結局それになってました。

IO:たしかレコーディングが終わったくらいかな。

Ryohu:レコーディングが終わってすぐくらいですね。ミックスしている合間に同時進行でアートワークも決めました。

レイジ:通常版はペラペラの紙一枚で、メジャーから出てるのにストリート・アルバム感がハンパないっすよね(笑)。

今回は豪華版、通常版ともに歌詞カードが入ってません。これはポリシーというか、明確な意志があるんですか?

JUJU:そこはポリシーですね。

レイジ:なんて言ってるんだろうなというワクワクがあるもんね。

Ryohu:聴いてもらえばいいかなと。

Neetz:別に読んでもらえなくてもね。

YUSHIさんの存在を意識して聴いてみると“GOOD DIE YOUNG”や“THE MAN WHO KEW TOO MUCH”などドキッとするようなタイトルもある。でも別にシャウトアウトしているわけでもないし、このバランスも自然にこうなったんですか?

Ryohu:自然にですね。こういう曲を書こうということも決めていないので、1人が書いてきて「じゃあ俺も(書く)」という感じでしたね。あとはトラックが上がってきてこの曲はこういう風に書こうというのも、例えばNeetzが作ってきたトラックに“Dejavu”と書いてあったら、なんでそう名づけたかはわからないですけどみんな“Dejavu”について書こうみたいな感じでしたね。いままでそういう風に作ってきたのでいままで通りですね。

YUSHIさんを連想させるといえば、Ryohuさんのソロでいえば“Forever”という曲もありますね。

Ryohu:あれは一応YUSHIについてだけではないですけど、(YUSHIの)命日の日に書いたんですよね。直接的に言うのは嫌だったんで含めながら書きましたけど、(YUSHIが)中心にはいましたね。KANDYTOWNのそれぞれのメンバーにとっても、YUSHIはデカい存在だということですね。絶対出したくないでしょうけど、メンバー全員がそれぞれ思うYUSHIを書く曲があったら面白そうですよね。

豪華版のほうの写真はレイジくんが撮影したもので…最初のほうの扉に「PLAY LIKE 80’S」という言葉があって。リリックにもよく出てくる印象的で謎めいたワードですが、誰の言葉ですか?

Neetz:これはIOくんじゃない?

IO:これは俺がたまに言ってたやつですね。

その心は?

IO: PLAY LIKE 80’S。

レイジ:バブリーなギラギラ感だね。

IO:わかんないけど、なんか調子いい。

みんな90年代生まれですよね?

IO:はい。本当は「Like 80’sのように弾くシティ」と言っていて……。

Ryohu:それもおのおの感じ取ってもらってほしいですね。

KIKUMARU:結局自分たちがカッコいいと思うことをやっているので、別にどう解釈されてもいいんですね。リリックにも出てくるんですけど「ホント気にしない」って感じですね。

90年代生まれだったら物心ついたときは00年代だったと思うんですが、ようはあまり明るい時代じゃないというか、10年代の始まりは震災もあったし、いまは若者の貧困がどうこうとか言われちゃう時代じゃないですか。だけど、そんな中でも自分たちの楽しみ方というか、遊び方を持って、最高にカッコつけて、きらびやかに歌舞いてみせる。その感じが東京ネイティヴのクールネスの2016年の最新形なのかなと思います。ああ、俺の意見言っちゃった(笑)。なにかあればどうぞ(笑)。

Neetz:ありがとうございます(笑)

Ryohu:でもまたいまからアルバムを作ることになったら、同じものは出来上がらないだろうなと思います。

みんなスタイルが変わっていく?

IO:それはわかんないっす。そのときカッコいいと思ったものをやるし、もしかしたらいきなりトラップを始めるかもしれないし(笑)

Neetz:俺は(アルバムが)もっと続いている感覚があるんですよね。

70分でもまだ足りなかったということですか?

Neetz:いや、気持ち的にはもっとこのアルバムは続くと思っていて、今回のはそのなかの一部というか、最初の部分がファースト・アルバムになっている感覚ですね。これがKANDYTOWNのすべてというわけではないですね。

Ryohu:みんなソロでは違う感じで出すんじゃないの?

KIKUMARU:良くも悪くも変わりはすると思います。

Ryohu:きっといい方向に変化するんじゃないですか。

KIKUMARU:でもみんなまだあんまりソロを出してないから変化がわかんないっすよ。

IO:俺はキャンディでやっているときもソロでやっているときも、あまり意識は変わらないんですよ。

今後はソロ作に集中する感じですか? たとえばセカンドについて考えたりはしますか?

IO:キャンディのセカンドがどうなるかはタイミングですね。

JUJU:キャンディのセカンドは10年後くらいでいいんじゃな~い。

IO:とりあえずDONYやMUDもみんなソロ出しますね。

レイジ:MUDのソロも作るの?

JUJU:これから。

IO:俺らみたいなのを「ちゃんと出せよ」と言って動かしてくれる人がいないとちゃんとした形では出さないと思うけど、いつも通りみんなで遊んでいるときに曲を作るとは思いますね。あとはなにを出すにしろ、音の色は変わるかもしれないですけどKANDYTOWNのままだと思う。コンセプトを決めてこういうアルバムを作ろうということはないと思いますね。

最後に一言ずつもらってもよろしいですか?

Ryohu:最初で最後かもしれないのでお聴き頂ければと思います。

Neetz:本当にドープなアルバムができたと思うので(笑)、チェックしてほしいです。

IO:よかったら聴いてください。

KIKUMARU:いま作ったものが俺たちのいまなんで次出せるかわかんないですけど、おのおののソロやミックスCDがこれから出ると思うので、KANDYTOWN全体をチェックしてもらえたらと思います。

Ryohu:はい、頂きました~。

一同:(笑)

GOTTZ:アルバムのテーマは「KANDYTOWNのファースト・アルバム」です。

JUJU:ヤバい、俺まで早かった。よかったら聴いてください、っすね(笑)。

レイジ:ええ!? それだけ?

Ryohu:これが公開される頃には自分のアルバムも出るんじゃないの?

JUJU:11月23日にも俺のソロ・アルバムが出るから、そっちも聴いてください。このメンバーで作れて本当によかったなと思うんで、いまの若いキッズたちはこれからそういうのを目指して頑張ってほしいし、ラップを続ければいいことがあるよというのがアルバムのテーマじゃないですけど、俺はいまラップ続けていてよかったと思いますね。

GOTTZ:「間違いないヤツらと仲間になれ」ってDONY JOINTが言っていたけどまさにそれですね。

レイジ:俺は携われてよかったですよ。

今回レイジくんが音楽的にもディレクションに関わるのかと思ったのですが、そうではなく、あくまでまとめ役だったそうで。

レイジ:まとめ役というか、簡単に説明するとKANDYTOWN側のスポークスマンという感じなんですよ。レーベルと細かいことをやりとりしていただけなんで。

制作で一番印象深かったのは遅刻がとにかく多かったこと聞きましたが(笑)。

レイジ:遅刻はつきものですけど、こないだのワンマン見てて、ラップがカッコよければなんでもいいやと思いましたね(笑)

一同:(笑)

レイジ:どんどん遅刻していいよ! と思いました。遅刻しないでラップがカッコよくなくなるくらいだったら、遅刻しまくってラップカッコいいほうがいいですよ。

なるほど。ありがとうございました。

キャンディタウン:ありがとうございました!

Oval - ele-king

 ダンサブルでソウルフルなクラブ・トラックを詰め込んだ6年ぶりの新作『Popp』が好評のオヴァル。「ポストR&B」なんて言葉が囁かれたり、「ポップに旋回した?」なんて指摘が飛びかったり、リリース後も色々と波紋を呼んでいる同作ですが、そんなオヴァルがこの12月に、2年ぶりの来日を果たします。
 それにあわせて、なんともスペシャルなイベントが開催決定! 12月21日(水)、タワレコ新宿店にて、畠中実氏と松村正人氏によるマーカス・ポップへの公開インタヴューがおこなわれます。それと同時に、オヴァル自身によるサイン会も開催。いずれも滅多にないイベントです。この貴重な機会に、あなたもトーク&サイン会に参加しちゃいましょうー!

OVAL『popp』発売記念トーク&サイン会

内容:トーク&サイン会
出演:Markus Popp(OVAL) + 畠中実 + 松村正人
開催日時:2016年12月21日(水) 20:00 start
場所:タワーレコード新宿店10F

'90年代中盤、CDスキップを使用したエポック・メイキングな実験電子音響作品を世に送り出し、エレクトロニック・ミュージックの新たな可能性を提示し続け、世界中にフォロワーを拡散させた独ベルリン在住の音楽家、オヴァルことマーカス・ポップ。
ファンキーでダンサブル、ハウシーでソウルフル、万華鏡のようにカラフルな、オヴァル流クラブ・トラックを全編に配した最新アルバム『popp』を携えて、12月20日(火)より約2年ぶりの来日公演が開催されます。
この来日公演にあわせて、インストア・イベントが急遽決定。
前半は、聞き手にICCの主任学芸員の畠中実氏と元『STUDIO VOICE』編集長の松村正人氏を迎え、公開インタヴューをおこないます。
後半は、オヴァルのキャリア的にも珍しい、マーカス・ポップのサイン会となります。
『popp』はタワーレコード渋谷店・新宿店スタッフが選ぶ年間ベスト「渋谷・新宿アワード2016」にも選出されており、この2店舗で購入した方がサイン会に参加していただけます。
この貴重な機会に、ぜひご参加ください。

参加方法:観覧フリー。
タワーレコード新宿店または渋谷店にて、10月19日(水)発売の新譜『popp』(HEADZ 214)、または旧譜『o』(HEADZ 143)、『OvalDNA』(HEADZ 157)をお買い上げいただいた方に、先着でサイン会参加券を差し上げます。
サインは、対象商品のジャケットにいたしますので、イベント当日忘れずにお持ちください。

対象商品:
OVAL 『popp』(HEADZ 214)
OVAL 『o』(HEADZ 143)
OVAL 『OvalDNA』(HEADZ 157)

対象店舗:タワーレコード新宿店、渋谷店
問い合わせ先:タワーレコード 新宿店 03-5360-7811


now available
OVAL(オヴァル)『popp』(ポップ)
oval 2 / HEADZ 214
価格:¥2,200 + 税

マーカス・ポップはポップをアップデートする
佐々木敦

軽やかで鮮やか、圧倒的に心地よく、オヴァル史上最も「ポップ」な作品でありながらも、非常に刺激的なサウンドが満載の革新的な最新作。
日本盤のみボーナス・トラック2曲収録。


OVAL Live in Japan 2016

2016.12.20 Tue
at TOKYO TSUTAYA O-nest
open 19:00 / start 20:00
advance ¥3,500(+1D) / door ¥4,000(+1D)

2016.12.22 Thu
at KYOTO METRO
open 18:30 / start 19:30
advance ¥3,500(+1D) / door ¥4,000(+1D)

more information:HEADZ(tel. 03-3770-5721 - https://www.faderbyheadz.com

Alicia Keys - ele-king

「朝目が覚めた瞬間/メイクを一切したくないことだってあるでしょ/自分らしさを隠さなきゃいけないなんて/誰が決めたの/メイベリンの化粧品で覆い隠しているのは自信かもしれないのに」 “ガール・キャント・ビー・ハーセルフ”

 クラシックの素養もあるし、気高く凛としていたので、デビュー当初は才色兼備の「いいとこのお嬢様」だと思っていた。だが初来日時のライヴを観に行った時、PAの具合が悪かったのだったか何だったか、理由ははっきり覚えていないが、ステージ上のアリシアが「チッ!」と言ったのを聞き、「あ、お嬢様じゃなかったんだ」と了解した。だが宣伝の戦略としての優等生イメージはその後もずっと続いたため、本人も次第にそれが重荷になって、虚飾をすべて取り払いたくなったのだろうか。先ごろ唐突にすっぴんの画像を自らを公開し、その一撃で、見事に虚飾の放擲を完遂した。
 大きなアフロ・ヘアに覆われたすっぴんの横顔をジャケットに据えた新作『ヒアー』には、そうしたアリシアの心持ちがストレートに反映されている。歌声はどこまでもナチュラルで、バックの演奏も音数を削ぎに削いで、とてもシンプルだ。だがそれで十分、足りないものは何もない。それどころか、まっすぐに胸の奥深くに届く音楽となって結実している。
 前半は綿花畑で歌われていたワーク・ソングを彷彿させるプリミティヴな曲を含め、ブルージーな曲が多いが、デビュー作からして『ソングス・イン・A・マイナー』だったアリシアのこと、こういう曲への気持ちの乗せ方は天下一品だ。プロデュースはほとんどをアリシアとスウィズ・ビーツ夫妻を含むチームのイルミナリーズが手がけているが、ファレル・ウィリアムスのプロデュース曲もある後半の数曲は明るく軽やかな曲調に変化して、すっぴんのアリシアの歌声は可愛らしくもサバサバして気持ちがいい。それに続く終盤は、ザ・ウィークエンドとの仕事で名を上げたイランジェロとアリシアの共同プロデュース曲を含めてトレンドもさり気なく押さえつつ、スピリチュアルなマイナー調にも戻る、という作りだ。ゴージャスさとは対照的な清楚な音世界は心身の鎧を脱ぎ捨てたアリシアの心持ちそのものであろうし、曲想がグラデーション的に推移する全体のスムースな流れも、ナチュラルな感情の流れの表れだろう。そして全編を通じて言えることは、歌声が力みのない自然な表現を伴っているのはもちろん、どこにも奇をてらったり意表を突いたりする要素がないということ。その結果、とても清々しい作品になっている。
 さて、かねてからSNSなどで、政治的なメッセージを発信することも少なくなかったアリシア。本作収録曲の歌詞ではストレートな表現はしていないが、そのかわりに婉曲な表現や実生活の描写を通して、メッセージをそこここに忍び込ませている。
 例えばこれは個人レベルで考えることもできるが、反戦ひいてはトランプ次期米大統領が主張する排外主義の批判にも繋がる。「聖なる戦争の爆弾を磨く代わりに/もしもセックスが神聖なら/そして戦争が淫らなら/そしてそれが勘違いじゃないなら/なんて素晴らしい夢なの/愛のために生きて/終りを恐れることもなく/許すことが唯一の真のリベンジ/そうすればわたしたちお互いを癒し合って/感じ合える/お互いの間に立ちはだかる壁を壊すことができる」“ホーリー・ウォー”

 そして“ホウェア・ドゥー・ウィー・ビギン・ナウ”ではLGBT(性的少数者)の人々へのエールを歌う。
 知らず知らずのうちに心に幾重にもまとわりついた、本来は必要のない余計なものが、戦争や差別をはじめとする世の中の不条理を、実につまらない理由から生じさせる。アリシアはそれを小難しい言葉でダイレクトに語るのではなく、日常生活の中にある言葉で日常の風景に引き寄せて綴り、誰にでもわかりやすく受け入れられる形で提示しているように思う。

 最後に、最近アリシアがフェイスブックにアップしていた引用の言葉を紹介しよう。
 「The pain taught me how to write and the writing taught me how to heal」 – Harman Kaur
(「苦しみは書き方を教えてくれて、書くことは癒し方を教えてくれた」)

 我々リスナーがこの包容力のあるアルバムに癒されるだけでなく、これを作ったすっぴんのアリシアも、自ら癒されていたのなら嬉しいことだ。

EQUIKNOXX - ele-king

 いま紙エレキングの年末号で死ぬほど忙しいのですが、重要なニュースを告知し忘れておりました。イキノックスが来日します!! 予告として言ってしまいますが、今年の年間ベスト30で、イキノックスは、満場一致でかなり上位に選んでおりまして、ダンス/クラブ系ではダントツ1位っすわ。
 まずはネットで探して聴いて。これ、ダブステップ/グライムの“次”を探していた人なら、間違いなく、「うぉ!」と唸りますよ。そして、このプロデューサーがジャマイカ人だと知ったら、さらに驚くでしょう。いや、ジャマイカの音の革新力、まったくいまも衰えていませんわ。UKのクラブでも大流行だっていうし。すげーよ、ホント、ダンス・ミュージックは更新される!

NGLY - ele-king

 河村祐介にL.I.E.S.を任せたのが間違いだった。今年の始めにエレキング・ブックスから発刊された『クラブ/インディ レーベル・ガイドブック』で河村祐介はなかなかいい仕事をしている。どのレーベルを取り上げるかという段階から参考になる意見をたくさん聞かせてくれたので、多くはそのまま丸投げしてしまったし、風邪を引いたとウソをついて会社を休んで残りの原稿も一気に書いてくれる……つもりが本当に風邪を引いた時はアホかと思ったけれど、WorkshopやPrologueなど作品のチョイスは総じて素晴らしかった。Further Recordsなどは実態がよくわかっていなくて僕も勉強になった。そうか、そんなレーベル・コンセプトがあったのか。断片的にしか分かっていなかった。いや、さすがである。河村祐介に頼んで本当によかった。まったくもって「ありよりのあり」だった。
 だがしかし。L.I.E.S.で2ページも取ったというのにNGLYはピック・アップされていなかった。送られてきた原稿を見て「え!」と思ったが、もはや差し替える時間はない。サブ・レーベルのRussian Torrent Versionsにはいくらなんでも入っているだろうと思ったのに、こっちにもリスティングされていなかった。ガン無視である。NGLYを入れないとは……。それはこのような業界で働く者としてどうなんだろうか。「Speechless Tape」がどれだけの注目を集めたと思っているのか。もはや形骸と化したインダストリアル・ミュージックをディスコ化し、ファッションとして再生させた野心作ではなかったか。三浦瑠璃に絶望している人のためのエレクトロ入門ではなかったか。それにしてもRussian Torrent Versionsとはフザけたレーベル名だよな~。

 そして、ついにアルゼンチンからシドニー・ライリーによるファースト・アルバムである。このところコロンビアのサノ(Sano)、ロシアのフィリップ・ゴルバチョフ、あるいはファクトリー・フロアやゴールデン・ティーチャーといったイギリス勢にも脈々と流れているボディ・ミュージック・リヴァイヴァルの総仕上げである。パウウェルがポスト・パンクをユーモアとエレクトロで刷新すれば、NGLYはニュー・ビートをファンクショナリティと最近のアシッド・エレクトロでアップデートさせたといえばいいだろうか。そう、アシッド・ボディ・ミュージックとでもいうか、ガビ・デルガドーがDAFからデルコムに移り変わる時期に遣り残した官能性をマックスまで引き出し、SMちっくに攻め立てるのである。何かというとクラシックの素養が漏れ出すアルゼンチンの音楽シーンからこんなに退廃的なヴィジョンが噴出してくるとは。ディジタル・クンビアでさえもう少し健康的だったではないか……(ニコラス・ウィンディング・レフンは『ネオン・ディーモン』のサウンドトラックをNGLYに担当させるべきだった)。

 オープニングからスロッビン・グリッスルのディスコ・ヴァージョンに聞こえてしまう。威圧的だけれど重くないビートが次から次へと繰り出され、ドレイクやビヨンセといったメジャー・チャートに慣れきった耳を嘲笑う。単なるドラッグ・ミュージックでしかないというのに、もう、ぜんぜん逆らえません。とくにハットの連打が圧巻。空間処理もハンパない。逃避するならこれぐらいやってくれよという感じ。バカだなー、オレ、いつまで経っても。

 異次元緩和やらアベノミクスにTTP推進とあくまでも豊かさの綱渡りに固執する日本に対し、経済的なデフォルト状態であることを楽しんでいるかのようなアルゼンチン。かつて経済学者のポール・サミュエルソンは、世界は豊かな国と貧しい国、そして日本とアルゼンチンに分類できると語ったことがある。映画を観ていると悪趣味極まりないし、女性に対する抑圧はヒドいのかなとも思うんだけど、アストル・ピアソラ、セバスチャン・エスコフィエ、ファナ・モリーナ、カブサッキ、アレハンドロ・フラノフ、ソーダ・ステレオ、ボーイング、アナ・ヘルダー、ディック・エル・ディマシアド、チャンチャ・ヴィア・スィルクイト……と、音楽は、ほんとに豊かな国なんだよなー。そしてNGLY がこのリストに加わったと。

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