「K A R Y Y N」と一致するもの

Nala Sinephro - ele-king

 ロンドンで活動する注目の若手ジャズ・ミュージシャン/作曲家のナラ・シネフロが、なんと、まさかの〈Warp〉からデビュー・アルバムをリリースする。
 同作には、サンズ・オブ・ケメットのドラマー、エディ・ヒックをはじめ、マイシャのジェイク・ロング、ヌバイア・ガルシア、シャーリー・テテーといった今日のUKジャズ・シーンを支える強力な面々が参加。現在、収録曲 “Space 3” が先行公開されている。フィジカル盤はLPのみのようなので、なくなる前にチェックしておきたい。

NALA SINEPHRO
UKジャズ・シーン期待の新鋭、ナラ・シネフロが〈WARP〉と契約!
レア化必至のデビュー・アルバム『Space 1.8』を9月3日にリリース!

カリブ系ベルギー人の作曲家でミュージシャンのナラ・シネフロが〈Warp〉と契約を果たし、デビュー・アルバム『Space 1.8』を9月3日にリリースすることを発表! 合わせてアルバムからリード曲 “Space 3” を解禁した。

Nala Sinephro - Space 3
https://nalasinephro.ffm.to/space-3

“Space 3” は、サンズ・オブ・ケメットのドラマー、エディ・ヒックと、スチーム・ダウンのメンバーで、ウォンキー・ロジックとしても活躍するプロデューサー/マルチインストゥルメンタリストのドウェイン・キルヴィングトンとの3時間に及ぶ即興セッションの一部を切り取ったもので、シンセサイザーの粒子が飛び散るような歓喜に満ちたサウンドとなっている。

瞑想的なサウンド、ジャズの感性、フォーク音楽やフィールドレコーディングを融合させ、独特の世界観を築き上げたナラ・シネフロ。デビュー・アルバム『Space 1.8』は、シネフロが22歳のときに作曲、制作、演奏、エンジニアリング、録音、ミキシングを行い完成させている。本作ではモジュラーシンセやペダルハープを演奏し、友人のジェイムス・モリソン、シャーリー・テテー、ヌバイア・ガルシア、エディ・ヒック、ドウェイン・キルヴィングトン、ジェイク・ロング、ライル・バートン、ルディ・クレスウィックらが参加している。

ロンドンでの精力的なライブ活動を経て、UKジャズ・シーンにその名を轟かせてきたナラ・シネフロは、ガーディアン紙が選ぶ「2020年に注目すべきアーティスト」の一人に選ばれ、ジャイルス・ピーターソンからも熱烈な支持を受けている。

ナラ・シネフロのデビュー・アルバム『Space 1.8』は9月3日に数量限定のLPとストリーミング/デジタル配信で世界同時リリース。NTSのレジデントDJとしても人気を集めている彼女が、革新的レーベル〈Warp〉に加わり、ここからさらなる飛躍に期待が集まっている。

label: WARP RECORDS
artist: NALA SINEPHRO
title: Space 1.8
release date: 2021.09.03 fri

WARPLP324 / 輸入盤1LP

商品情報はこちら:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12050

Tracklisting
A1. Space 1
A2. Space 2
A3. Space 3
A4. Space 4
A5. Space 5
B1. Space 6
B2. Space 7
B3. Space 8

Yuji Shibasaki - ele-king

 ele-kingでもたびたび執筆していただいている柴崎祐二、彼による初の単著『ミュージック・ゴーズ・オン~最新音楽生活考』が刊行される。
 同書は『レコード・コレクターズ』での連載を書籍化したもので、tofubeats、髙城晶平への新規インタヴューをはじめ、書下ろしの論考やレヴューが新たに多数収録されている(登場するミュージシャンについては下記参照)。
 ちなみにもともとの連載は、アーティストが自身の新作について語るタイプのインタヴュー記事ではなく、そのアーティストがこれまで聴いてきたもの、いま関心を寄せている音楽に焦点を当てるというコンセプトでつづけられてきたもの。そのアーティストのことをもっとよく知る機会になるし、あるいは素朴に過去の知らない音楽を探している読者にとっても良きディスクガイドとなるだろう。ぜひお手にとってみてください。

過去の音楽と現在、そして未来の音楽をつなぐ33人の音楽生活

月刊誌レコード・コレクターズの人気連載を書籍化! いま最前線を走るミュージシャンはどんな音楽を聞いてきたのか? 音楽との出会いと、その魅力を縦横に語り尽くす!

柴崎祐二(著)
『ミュージック・ゴーズ・オン~最新音楽生活考』

ミュージック・マガジン
2021/8/19
判型・頁数:四六判・352頁
ISBN:9784943959366
定価:本体1,800円+税

登場するミュージシャン
tofubeats/髙城晶平(cero)/岡田拓郎/見汐麻衣/菅原慎一/Night Tempo/鳥居真道(トリプルファイヤー)/澤部渡(スカート)/KEEPON(キーポン)/nakayaan(ミツメ)/武田理沙/加納エミリ/佐藤優介/VIDEOTAPEMUSIC/櫻木大悟(D.A.N.)/谷口雄/デヴェンドラ・バンハート/プラスチック米/牧野琢磨(NRQ)/サボテン楽団/oono yuuki/エブリデ(wai wai music resort)/菅野みち子(秘密のミーニーズ)/KASHIF/中山うり/入岡佑樹(Super VHS)/町あかり/内村イタル(ゆうらん船)/高橋一(思い出野郎Aチーム)/沼澤成毅(ODOLA)/田中ヤコブ(家主)/コニー・プランクトン(TAWINGS)/井手健介

Junes K - ele-king

 OLIVE OIL と Popy Oil が主宰する〈OILWORKS〉から、福岡のビートメイカー Junes K の新作『DEPAYSEMANN』がリリースされる。「ビートグランプリ CLASH 2019」の優勝者である彼は、エレクトロニカの要素も取り入れた独特のサウンドが魅力だ。ちなみにタイトルの「デペイズマン」とは、「異なるもの同士、意外なもの同士を組み合わせる」というシュルレアリスムの用語「Dépaysement」と似ているが、関係あるのだろうか? いや、コラージュやサンプリングを駆使する彼のことだ、きっと関係あるにちがいない。発売は8月25日。

artist:JUNES K(ジュネス・ケー)
title:DEPAYSEMANN(デペイズマン)
label : OILWORKS Rec.
cat : OILRECCD028
price : 2,100円(税抜) 2,310円(税込)
release : 2021年08月25日
バーコード:4988044867680

[Track List]
1.Air
2.Vibes
3.Fog
4.Surra II
5.Babymann
6.Al Mind
7.Ruby
8.YOOO
9.Olhos
10.Overmind
11.Searching
12.Alice
13.BARRON
14.Primary
15.Art Of Conversation
16.A.I.P
17.Jardin
18.$pirit
19.Blu
20.New York
21.Lightning Bug
22.Morgan
23.Souls
24.Hold On
25.Unreal
26.Clouds
27.Ras
28.Sun

All Tracks Produced by JUNES K
Mastered by Arμ-2
Artwork by JUNES K
Designed by JUNES K

昨年リリースされた“SILENT RUNNING”も各方面から称賛を受け、そのビートの実力を高く評価を集めているJUNES Kが、新たに解き放つ作品“DEPAYSEMANN”をOILWORKS Rec.からリリース!

ビートグランプリCLASH 2019の優勝から、グラフィックデザイナーとしての才能も開花させアートフルな活躍を行うJUNES K。本作では、そのアートの手法でもあるコラージュや、サンプリングなどで異質な構築を繰り広げ、異質な音の輪郭や、ビートの疾走感なども感じさせ全曲インストゥルメンタルの全28曲を収録!さらにマスタリングはArμ-2が担当し、音とビート、さらにはアート的な融合も感じさせる仕上がりに!

■Junes K プロフィール
ビートメイカー/グラフィック・デザイナー。福岡県在住。OTAIRECORDが開催する"ビートメイカーのグランプリ"である「ビートグランプリCLASH2019」の優勝者。ビートメイカー達の中ではその制作スピードとクオリティ、類似しない彼独特の世界観が高く評価されている。ヒップホップをベースに、エレクトロニカ的な空気感も含んだその作風は、ともすると退屈に聞こえてしまうヒップホップのインストゥルメンタル作品においてカラフルなサウンドと展開でリスナーを自身の世界に引きずり込む。

Booker Stardrum - ele-king

 ブッカー・スタードラムは、ドラムとエレクトロニクスの融合によって、ジャズ的な細やかなリズムと緻密なエレクトロニカをコラージュさせていく手法を駆使して、魅惑的な心地良さに満ちたミニマルなエレクトロニカを作る才人である。これまで〈NNA Tapes〉から『Dance And』(2015)、『Temporary etc.』(2018)など、2枚のアルバムをリリースしている。この『CRATER』は、彼の三枚目のアルバムである。これまで培ってきたエレクトロニカとジャズ的な要素と、アンビエントなサウンドのムードや質感を巧みにブレンドしたエレクトロニカに仕上がっている。

 ブッカーはロサンゼルスを拠点とするミュージシャン/アーティストで、ニューヨークのエクスペリメンタル・ロック・バンドのクラウド・ビカムズ・ユア・ハンドのメンバーでもある。そのうえリー・ラナルド、ワイズ・ブラッド、ランドレディといったロック系のアーティストや、ヤング・ジーン・リー・シアター・カンパニーのような劇団などとの競演をおこなってもいるのだ。この10年で、彼は多くの録音にも参加し、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、南アメリカなど世界各国での音楽フェスやライヴなどで演奏活動をおこなったという。
 「多彩な活動を展開するドラマ―/電子音楽家」という組み合わせから、イーライ・ケスラーの名を思い浮かべる人も多いだろう。じじつ、即興演奏から電子音楽の作曲まで、ふたりの歩みはとても「似ている」。これはモダンな電子音楽とジャズ・メソッドの電子音楽が、意外なほどに「近い」ということの証左でもあるようにも思う。ドラム/リズムは、音楽の律動・推進性だけではなく、サウンドの多層的なレイヤーに一役(も二役)もかっているのだ。じっさい「ピッチフォーク」の記事では、ブッカー・スタードラムをグレッグ・フォックスとイーライ・ケスラーの系譜に加えているかのような書き方がされていたほどだ(https://pitchfork.com/reviews/albums/booker-stardrum-temporary-etc/)。

 とはいえ彼らとブッカースター・ドラムの音楽性や個性は(当たり前だが)だいぶ違う。ブッカー・スタードラムのサウンドは、いくつもの音響ブロックが接続されて(いわばコラージュ的に)、ひとつの楽曲として成立しているような楽曲である。つまりサンプリングされたと思えるサウンドのループとレイヤーによって成り立っている(自身の演奏が、常に客体化されているというべきか)。このループ感覚が肝だと思う。
 この新作『CRATER』では彼のドラムとエレクトロニクスのサンプリング/コラージュの「交錯的手法」がより洗練され、研ぎ澄まされているように私には感じられた。ドラムとエレクトロニクスのレイヤーの完成度がさらに上っていたからである。
 ちなみに制作にはディアフーフのジョン・ディートリックが全面的に関わっている。デートリックはブッカー・スタードラムと共にアルバムを録音し、ミックスと最終的なマスタリングをおこなったのだから、実質、共作者のようなものかもしれない。録音は2019年と2020年に、ロサンゼルス、アルバカーキ、ブルックリン、アムステルダムなどでされたという。前作『Temporary etc.』が2018年のリリースなので、前作発表以降、さまざまなプロジェクトの合間をぬって制作が続けられてきたとみるべきだろう。

 この『CRATER』には全9曲が収録されている。どの曲もアンビエンスとリズム、ノイズとアンビエントの交錯(つまりエレクトロニカだ)が卓抜である。いわば「ブッカー・スタードラムのサウンドの粋」を聴くことができるアルバムなのだ。
 アルバム収録時間は約38分でコンパクトな長さだが、聴き込んでいくと電子音とリズムの仮想空間を泳ぐような心地良さを得ることができる。細やかなリズムとパチパチと交感するノイズ/電子音のミックスが、聴き手の聴覚に程よい刺激と心地良さを与えてくれるだろう。
 昨今の流行の言葉で言えば「ASMR的な気持ち良さ」があるのだが、とはいえ、むろん「それ」だけでの音ではない。演奏家としても一流でもあるブッカー・スタードラムのリズム感覚は緻密かつ繊細で、単に心地良いアンビエントに陥る前に、音楽としてのダイナミズムも獲得しているのだ。

 1曲目 “Diorama” で展開されるその名のとおりミニチュールなサウンドスケープは、まるでミクロの世界に没入するような感覚が横溢している。2曲目 “Fury Passage” も同様で、細やかなノイズがミニマルにループするサウンドは「都市の民族音楽」のようなムードを醸し出す。捻じれていくようなノイズ・サウンドにマイクロ・リズムが重なって「エクスペリメンタル・ドラムンベース」ともいうべきサウンドの3曲目 “Bend” もまたトライバルなムードを生成している。これらの曲を聴くと、私などは、まるで「芸能山城組『AKIRA』がエレクトロニカ化したようなサウンド」と思ってしまうのだが、これは言い過ぎだろうか。
 続く “Steel Impression” ではリズムがアンビエンスの空気の中に溶け合っていくようなサウンドスペースを展開している。約8分46秒に及ぶトラックで、アルバム中ではもっとも長尺の曲である。乾いたメタリックなサウンドによる音の粒子が堪らない。そして、どこか「声」を加工したようなサウンドによるインタールードな “Squeezing Through A Tube” を経て、アルバム中もっとも「ミニマル・テクノ
」なトラックである “Parking Lot” に至る。これまでのアルバムで展開されていたマテリアルがそのままテクノに援用されたかのような見事なトラックである。“Parking Lot” を経て以降、アルバムは急速にアンビエント化していく。ラスト3曲 “Yellow Smoke”、“Downturn”、“Walking Through Still Air” とそれぞれサウンドの質は違えども、メタリックかつリズミカルなサウンド・マテリアルがアンビエントの持続の中に溶けていくような音響であることは共通している。いうまでもなくどの曲も心地良い。まるでデジタルな仮想空間を浮遊するような気持ち良さである。

 ブッカー・スタードラム『CRATER』はデジタルなサウンドでありながら、有機的なムードも濃厚であり、仮想世界のサウンドのようでもありながらも、現実の都市空間のサウンドトラックのようでもある。繊細な音響でありつつも、その音楽としてのダイナミズムもある。そう、まさに多面性と多層性のエレクトロニック・サウンドに仕上がっているのだ。
 そして重要なのはエクスペリメンタルな音楽でありながらも「暗くない」という点ではないか。これは『CRATER』だけではなく、例えば〈sferic〉からリリースする現代的なアンビエント/エレクトロニカ・アーティストのアルバムや楽曲に共通するムードでもある。
 この不穏な時代にあって、それに抗う(逃避するような)光のような「明るさ」の希求。しかしそれは「感情的」な明るさだけではなく、むしろ「光が眩い」ということに共通するような「現象的」な「光」への希求のようにも思えてならない。そう、エモーショナルとテクノロジーの共存とでもいうべきか。ここにこそ「20年代のモダン・アンビエント」を読み解くヒントがあるのではないかと私は考える。

 インタヴューの発言にあるように、ジョイ・オービソンを日本に招聘したのがファッション・ブランドのC.Eだった。以来、両者はカセットテープのリリースやロンドンにおけるC.E主催のパーティへの出演など関係は続いている。
 で、この度、初の長編作品『still slipping vol.1』のリリースに合わせ、C.Eが手掛けたマーチャンダイズが発売となった。商品は、Tシャツ1型2色、ソックス1型の計3アイテム。Tシャツには作品のカバー写真を手掛けたロジー・マークスの写真を前身頃に施しています。後ろ身頃にはハンドライティングで描かれたトラックリスト、Joy OrbisonとWill BankheadのレーベルであるHinge Fingerのロゴをプリント。ソックスにはTシャツの後ろ身頃にもプリントされたJOY Oの文字、足底にC.Eのグラフィックを施している。どちらも格好いいです。


Tシャツ
ブランド名:C.E
アイテム名:JOY O T
価格:7,700円(税込)


ソックス
ブランド名:C.E
アイテム名:JOY O SOCKS
価格:2,200円(税込)
問い合わせ先:C.E www.cavempt.com

C.Eのオンライン(www.cavempt.com)とC.Eのショップ(東京都港区南青山5-3- 10 From 1st 201)にて発売中です。

DJ Manny - ele-king

 “Havin’ Fun” をまずはどうぞ。USの風刺アニメ『ブーンドックス』のセリフとジャングルめいたリズムを組み合わせたこの曲が、『Signal In My Head』の核心をなす曲といえるわけではない。しかし、三軒茶屋で遊んで朝まで音楽を浴び、しまいに駅までの帰路においてもダンス・ミュージックを iPhone からえんえんと流すどうしようもない男にとって、この曲は驚きを与えるに十分すぎるサウンドだった。無事に始発に間に合い、家に帰れるかという一抹の不安が消えつつあるなか、僕は──性急で、衝動的で、落ち着かない──フットワークに類されるこのアルバムを、まだひとのまばらな電車の席に座って目を閉じ、丸ごとしっかり聴くことをすでに決意していた。

 しかし、その決意は間違いにも思える。そもそもシカゴのフットワークはフロアの音、ダンスの音、バトルの音であるのに、それを窓から朝日が漏れている電車のなかで、疲れ切った男がひとりになって聴くのはあきらかにシチュエーションとしておかしい、いや、というよりも機能しないはずだ。が、通して聴いてみると、今作はフットワークのそういった典型的な音から好んで逸脱するかのような様相を呈しており、彼が「(フットワークで)誰もやったことのないことをやりたかった」と語るように、ストイックで、激しく、屈強なフットワークに対するイメージを覆し、ハウス、ジャングル、ドラムンベースなどに接近しながら、彼のパートナーへの愛に結実した作品に仕上がっている。

 シカゴ出身のDJマニーは、10代のころからフットワークにかかわり、ほどなくして〈Teklife〉クルーに加入。今作はジューク/フットワークを世に紹介した名門〈Planet Mu〉からのリリースであり、まさにフットワークにおける王道を歩んできた存在。そんな彼がどんな音を聴かせてくれるか期待していたが、どうやらただのストレートなフットワークではないようだ。

 『Signal In My Head』は、誰かを好きになることの喜びで満ち溢れている。そこには対象となる他者(恋人、パートナー)の存在がいたるところに感じ取れ、それはトラック・タイトルやサンプリングのフレーズ、あるいは今作に通底するムードを思えば明らかだ。ハウスを感じずにはいられないハイハットのアレンジメントが印象的な “You All I Need” において、言葉はないものの温かいパッドやタイトルからも恋人へ向けた曲であることがわかる。また、ささやく声とソウルフルなヴォーカルが重なり合いながら「あなたの愛は私が必要とするすべて」と繰り返す “All I Need” はラヴ・ソングに違いないし、“Wants My Body” に至っては「見つけるわ、私の体を欲しがる誰かを」と、フットワークの独特なビートの上にちょっと狂気じみた愛が伝えられる。インタヴューにおいて、10代の彼がフットワークに入れ込む動機のひとつになったのが「女の子」だったことを(あくまで冗談交じりに)語っているのは、彼にとってフットワークは他者存在とセットだということを端的に示している。なにより、彼はシカゴからブルックリンへと移り、そこで SUCIA! というパートナー(ミュージシャンでDJマニーと共作もしている)と共に過ごしていることからも、今作の制作過程において他者の、とりわけパートナーの存在がそのサウンドと方向性に与えた影響は想像以上におおきいのではないだろうか。

 DJマニーによって作られる音のパレットに、シカゴの猥雑なゲットー・ハウスをひとつのルーツとするフットワークの、典型的な汚いワードは存在しない。「ビッチとファック」、その代わり『Signal In My Head』には「パートナーと愛」がある。それは、いままでにリリースされたフットワークとの、DJラシャドトラックスマンのような偉大な先達との違いであり、今作のもっともおおきなストロング・ポイントと言えるだろう。

 フットワークのフォームを踏襲しながら、その枠組みから繰り出されるサウンドは彼のパートナーに対する愛でにじんでいる。DJマニーはパートナーへの愛を乗せることによって、このダンス・バトルのための激しい音楽がフロアやスケートリンクを飛び越え、誰かを好きになることの喜びに伴うロマンチックな感情をアルバムに呼び込む。『Signal In My Head』は疲れくたびれて、朝日を浴びながら眠い目をこすっているような男にも響くようなサウンドだ。なぜなら踊るためのフットワークだけでなく、どこか感情に触れるような部分があるからで、それは体にではなく、心に響くからだ。

Appleblim - ele-king

 シャクルトンとともに〈スカル・ディスコ〉を運営していたローレンス・オズボーンによるソロ3作目。この10年にわたってポスト・ダブステップを模索しつつ、DJにデトロイト・テクノを取り入れてきた成果が全面的に開花したようで、良くも悪くもタンジェリン・ドリームのようになってきたシャクルトンとは対照的に重心を低く設定したリズム重視のビート・アルバムを完成させた。〈スカル・ディスコ〉を閉鎖してから10年後のリリースとなったデビュー・アルバム『Life In A Laser』(18)では何をやりたいのかよくわからなかったものが、ここへきて一気に独自のセンスを開拓したというか。『Life In A Laser』と新作の間に『Ungoverned & Ungovernable(=統治不能)』という実験的なアルバムを挟んだことも功を奏したのだろう。動機はよくわからないけれど、イアン・アービナ著『アウトロー・オーシャン』(白水社)で報告されていた「海=無法地帯」の現状を音に置き換えるという試みがダブステップやデトロイト・テクノに固執していた作曲スタイルを解体し、自由なコンポジションを促すきっかけになったのかもしれない(魔術師のジョン・ディーによって排他的経済水域が提唱されるなどイギリスがパイレーツの国であることは近代国家の成り立ちを考える上でけっこう重要で、海洋覇権の移行=ニシン漁からタラ漁に切り替わる拠点となったブリストルに住んでいたオズボーンがアービナの著作に目をつけるのはなるほど納得がいくし、藤田敏八監督『海燕ジョーの奇跡』を観ると日本にも似たような精神性が宿っている気がしてしまう)。

 ジャングルやエレクトロなど多彩なリズムを取り入れた『Infinite Hieroglyphics(=無限の象形文字)』で最も目覚ましい変化を遂げているのがベース。ジュークやジャズ・ベースを予想外に変形させるなどいままで経験したことのないようなベース・ラインがとにかく腰に絡みつき、細かいパーカッション・ワークと組み合わせた“A Madman's Nod”やマッシヴ・アタックがジュークをやっているような“Zephyr”など、ウガンダやエクアドルのクラブ・シーンには期待できないベース・サウンドの醍醐味をこれでもかとぶつけてくる。『Life In A Laser』に収録されていた“Flows From Within”を順当に発展させた路線にはマッド・マイクによる「Red Plane」シリーズを4ヒーローがリミックスしたようなスリルが横溢し、明らかに“Sex In Zero Gravity”を意識した“Shimmered”など「20年後のデトロイト・テクノ」ここにありという感じも(オズボーンは時々URのTシャツを着てDJをしている)。

 テッセラやジョイ・オービソンなど多くのプロデューサーと同じくスペシャル・リクエスト『Soul Music』(13)に影響されてジャングルを再発見し、ハーフタイムかと思えばジャングル以前のブレイクビートをソフィスティケイトさせて応用する感覚もポール・ウールフォード以降の流れを引き継いだものとなるらしい(イギリス人のジャングルに対するこだわりは、ここ数年、80年代のレア・グルーヴ運動に匹敵するものを見せている)。一方で、ベルリンへの移住が影響したのか、ベーシック・チャンネルとスピーカー・ミュージックをカチ合わせたような“Beelike”も素晴らしく(サブ・ベースがぶんぶん唸っていて、確かに“蜂みたい”かも)、まだまだ化学反応が長引く気配を見せている。タイトル曲などともにこの辺りが次の流れになっていくのかもしれず、ジ・オーブ“Little Fluffy Clouds”をサム・ビンガがリミックスしたような“Stand Firm”が個人的にはベストか。最後だけがなんとなく唐突で、マッド・マイク全開になってしまうというか……レイヴに対する強い思いがそうさせるようで、ロックダウンによって、かえってレイヴに対する思いが吹き出し、丸川珠代ほどではないものの、あっという間に異次元に連れ去られる。ロウ・エンド・アクティヴィストことパトリック・コンウェイと組んだトリニティ・カーボン名義のアルバムも前後してリリースされているが、こちらは大して面白くない。

interview with Joy Orbison - ele-king

 ジョイ・オービソンは素晴らしい。なにしろ彼の叔父は80年代末という、まだこのジャンルが超アンダーグラウンドで、海のモノか山のモノかもわからなかった時期から活動しているジャングルのDJ、レイ・キースなのだ。30年ほど昔の話になるが、ぼくは彼の叔父が関わっていたロンドンの現場を経験している。それはいまだ忘れがたきハードコアで、ラフで、労働者階級的で、人種と汗の混ざったパーティだった。メインフロアがラガ・ジャングル、セカンドフロアがハウスという構成で、DJブースの脇には盛り上げ役としてMCとダンサーが立ち並んでいたが、そんな必要などないくらいにオーディエンスの熱狂が並外れていた。あんな汗まみれの現場で長年回してきたDJが身内にいる。しかも13歳にしてターンテーブルでミックスを覚えたら、それはもうUKダンス・カルチャーの申し子と言える才能が磨かれよう。
 じっさい2009年の彼のデビュー・シングル「Hyph Mngo」は出たときから評判で、ぼくもそのハイプに乗せられて都内のレコード店で買ったクチ。ジョン・オービソンまでチェックしていたらそいつはわかってると、当時はそんな空気があったのだ。で、UKガラージの癖のあるリズムとソウルの高揚感をセンス良くミックスしたその12インチ1枚だけで、ジョイ・オービソンをジェイムス・ブレイクやマウント・キンビーらと並ぶ新世代の代表だと豪語したのは大手『ガーディアン』だったが、それは正しくもあり間違ってもいた。ジェイムス・ブレイクやマウント・キンビーは有名になると汗臭いダンスフロアからは離れていったが、ジョイ・オービソンはそこにい続けて……、もちろんいまもそこにいる。

 デビューしてからこの10年あまり、アルバムを出さずにひたすら12インチを出し続けているのも、彼がダンス・カルチャーの一部であることを物語っているわけで、『still slipping vol.1』がジョイ・オービソンにとっての初の長編作品となる。14曲入り(日本盤にはボーナストラックあり)で、まあ普通これはアルバムということになるのだが、本人はこれをミックステープと定義している。その理由は以下のインタヴューで語られているが、うん、なるほどなーと思った。
 まあなんにせよ、『still slipping vol.1』にはUKアンダーグラウンド・ダンス・ミュージックの最良の部分が詰まっていることはたしかだ。90年代初頭におけるその文化は、音楽それ自体に政治性はなかったかもしれないがシーンのあり方は政治的だった。マーガレット・サッチャーが推奨し一般化させた「個人主義」に対して「みんな」だと、「集う」ことを持って反論したのだから。『still slipping vol.1』は、いま再びみんなで「集う」ことを希求している。と同時にUKダンス・カルチャーの定義をもあらためて教示してもいる。西インド諸島からやって来たベースとアメリカ北部の黒人たちが発明したダンス・ミュージックとが混ざり合ったそれは、なにひとつ面白くない日常では得られない興奮をたったひと晩で得るための強力な燃料となって吐き出されるのだ。
 ジョイ・オービソン(本名Peter O’Grady)はよく喋ってくれた。インタヴューは彼のアティチュードがよくわかる内容になっていると思う。ちなみに『still slipping vol.1』のジャケットに写っている女性が彼の従姉妹で、彼にUKガラージを教えてくれた人であり、レイ・キースのパートナーでもある。このジャケットは、彼の音楽がどこから来ているのかを暗示しているのと、ちょっとうがった見方をすれば、XLやUK音楽業界のなかのケン・ローチ的な感覚がこうしたかったのではないかと。間違っているかもしれないが正しくもあるだろう。ジョイ・オービソンが答えている。

うちは「仕事をする」ということがもっとも重要視されている家族で、僕が音楽をやりはじめたとき、僕には別の仕事があった。音楽で生計を立てることができるようになるまで、家族は僕の音楽についてとくに気にしていなかったんだ。

この12年、ずっとダンスフロアのための12インチにこだわってきたあなたがついにアルバムを完成させた、あなたはそれをミックステープと呼んでいます。

JO:僕はとくにアルバムを作りたかったわけじゃないんだよ。エレクトロニック・ミュージックのアルバムで楽しめるものってあまり多くないと思っているし、アルバムというコンセプトに魅力を感じないんだよね。だから敢えてミックステープと呼んだ。結果、自分が作りたいと考えていたものや自分の音楽の聴き方に近いものができたと思う。

あらためて訊きますが、あなたがどんな家庭、どんな環境で育ち、それがあなたにどんな影響を与えのか教えて下さい。

JO:僕はある意味、家族に恵まれていたと思うけれど、うちはとくに音楽一家というわけではないんだ。父親は音楽に関してはセンスが良いほうだと思うけれど、音楽は気軽に楽しむというタイプの人間なんだ。音楽に真剣に向き合うということはしてこなかった。ただ昔父が話してくれたのは、彼はサウスロンドンで育ち、そこではレゲエのサウンドシステム文化が主流だったということ。だから彼は子供の頃、友だちとサー・コクソン・サウンドなどのパーティに行ったりしていたんだ。そういう経験が彼のセンスの一部になっていったんだと思う。僕が子供の頃は、家にR&Bやレゲエやソウルのレコードがたくさんあったからね。
 僕には多様な人種の家族や親戚がいるから、その点については恵まれていると思う。そうでなければ僕の音楽の嗜好はまったく違うものになっていたかもしれないからね。僕が生まれたときも父はスティーヴィー・ワンダーを車でかけていたらしい。だから自分の音楽の嗜好について考えるとき、いつも家族のことを思い出す。家族行事などでみんなが集まってパーティをするとき、僕はいつもDJをやらされていたんだけど、家族のみんなはトロージャンから出ているようなレゲエを聴きたがっていた。僕の祖父母はアイルランド人だから僕の家系は主に白人なんだけれど、いろいろな人種が混在しているから多様な親戚・家族になっている。レゲエのような西インド諸島の音楽は、僕のルーツであるアイルランドの伝統の一部ではないけれど、それが僕の家族のサウンドだというのは面白いよね。でもそれは西インド諸島の音楽がロンドンのアイデンティティの一部であることを意味していると思うんだ。それから、僕の従姉妹のリーアンはすごく音楽にはまっていて、その従姉妹がレイ(・キース)と結婚したんだ。僕が12歳か13歳の頃だったかな。だから僕は音楽に関しては、同年代の人たちよりもスタートが早かったと思うよ。だからリーアンの写真をスリーヴにしたんだ。彼女のおかげでいまの僕がいると思うから。リーアンが僕に音楽を教えてくれていなかったから、僕はいまごろ何を聴いていたのか想像もつかないよ。だから僕は幸運だった。リーアンが僕を正しい軌道に乗せてくれたから。

あなたが最初に「Hyph Mngo」をリリースしたときは、従姉妹のお姉さんやお父さん、叔父さん、みんな喜んだことと思いますが、あなたが新しい作品を出すたびに家族や親類から感想を聞かされるものなのですか?

JO:最初のレコードをリリースしたとき、僕が音楽を作って、音楽をリリースしたことを家族もレイも知らなかっよ。当時は友だちと一緒に軽い気持ちで音楽をやっていたからね。うちは「仕事をする」ということがもっとも重要視されている家族で、僕が音楽をやりはじめたとき、僕には別の仕事があった。音楽で生計を立てることができるようになるまで、家族は僕の音楽についてとくに気にしていなかったんだ。音楽で生計を立てられるようになってからは、僕の音楽を意識するようになったけれど、当時は別の仕事で生計を立てていたから、家族は、僕の音楽のことを趣味のひとつだと思って、よくわかっていなかったんだと思う。

レイは僕にこう言った。「お前はクラブという空間では価値がある奴かもしれないが、その空間から一歩出た瞬間に何者でもなくなる。それだけは覚えておけ」

子供の頃から身近にダンス・ミュージックがあり、親類にはトップクラスのDJ/プロデューサーがいたことで、あなたが学んだもっとも重要なことは何だったのでしょう?

JO:音楽という職業が現実的に可能だということを気づかせてくれたことだと思う。“You can't be what you can't see(自分の目に入ってこないものには、なることができない)”という表現があるように、僕は昔カフェでバイトをしていて、洗い物係だったんだけど、バイト終わりに叔父のレイが迎えにきてくれることがあった。そのときの彼はBMWのオープンカーに乗っていて、太いチェーンをいくつも首から下げていて、音楽を爆音でかけていた。子供の僕はそんな叔父を見て、こういう風になりたいなあ、と思ったんだ(笑)。
 そういう意味で、実際に音楽を生計にしている人が家族として近くにいて、それが現実的に可能だと理解できたということが僕にとって良かったと思う。僕の当時の友だちは、周りにDJやプロデューサーみたいな人なんていなかったからね。でも僕にはそういう叔父がいたから、そんな叔父を見て、自分も彼みたいな道を歩むのが可能なんだと思うことができた。時間を費やして音楽を作るということが、仕事として現実的な選択肢だと思えるようになった。

レイ・キースさんからはどんなアドヴァイスがあったのでしょうか?

JO:アドヴァイスはたくさんあったよ。彼は本当は、僕に音楽をやって欲しくなかったんだ。レイはドラムンのシーンに疲弊していたからね。いまでもドラムンベースのシーンは地位を確立できていないというか、本当はもっと評価されるべきだと僕は思っている。いまではダンスミュージックはビジネス化されていて、ダンス・ミュージックの世界に入る人は、この業界で何が達成できて、何ができないかということを承知の上で入ってきている。でもレイや、当時のダンス・ミュージック業界の人たちは開拓者というか、何の前例もなしに手探り状態で成功をつかもうとしていた。彼らが作り上げた彼ら独自の世界で、その週の稼ぎで、その週をやっと暮らすというような生活をしていた。いまはそれも変わったと思う。でも当時はそういう世界だったから、叔父は僕には適さないと思ったんだろう。彼もすごく苦労していたからね。だから、「俺がお前だったらこの道には進まない。他のことをやった方がいい。音楽をやるにしても専門技術を身につけるほうがいい」と言っていた。
 それから、とても記憶に残っているのは……、レイからのアドヴァイスというよりも、クラブでのレイの人に対する扱い方を見たときが印象に残っている。レイがDJをしているクラブに遊びに行ったとき、ある女性が酔っ払ってDJブースに入ってきたんだ。女性はドリンクを片手に持っていたんだけど、それをほぼ全部、レイのレコードバッグに溢してしまった。彼はヴァイナルしか持っていなかったんだよ。昔のドラムンはかなり攻撃的な雰囲気があった。なのにレイはすごく落ち着いていて、礼儀正しく女性をブースの外に連れ出したんだ。それだけだった。そのときの彼の態度はいまでもはっきりと覚えているよ。それで、クラブを出た後に彼にそのことについて話したんだ。そうしたら彼は僕にこう言った。「お前はクラブという空間では価値がある奴かもしれないが、その空間から一歩出た瞬間に何者でもなくなる。それだけは覚えておけ」
 レイは本当に人との付き合いを大切にする人だった。彼がそういう性格だから、いまでも彼は活動を続けられているんだと思う。人といい関係を築いて、何事にもポジティヴに取り組んできたから。ドラムンのシーンという環境にいると、すべての人がレイみたいな道を辿ることができるわけではない。だからそういうレイの姿勢や態度は昔から尊敬していたね。

昔、レコードショップにレコードを買いに来ている人の半数はガテン系の人たちや、技術職の人たちや、小売店で働いている人など、普通の人たちだった。僕の友達の兄や姉などでレコードを買っている人たちは、とくに学歴が高いとか、頭が良いというわけでもない、ただの普通の人たちだった。それが最高だと思った。

この12年間、シングルに拘り続けたのは、それがダンス・ミュージックのフォーマットだからだと思います。あらためて質問しますが、あなたにとってダンス・ミュージックの魅力とはなんでしょう?

JO:失礼な表現として捉えてもらいたくはないんだけど、ダンス・ミュージックはミュージシャンではない人たちのための音楽だと僕は思っている。パンクと同じだ。パンクは、コードをいくつか学んだら自分を表現するために、すぐにやれる音楽だ。ダンス・ミュージックもそう。アシッド・ハウスやシカゴ・ハウスやディープ・ハウスなどのルーツを辿ると、作っていた人たちは機材を学びながら音楽を制作していた。ダンス・ミュージックには誰にでもできるオープンさがあるんだ。僕はポップ・ソングを作曲することはできない。でもダンス・ミュージックは、音楽制作を学んでいる最中の人でも作ることのできる。そういうダン・スミュージックの一面が昔から好きだったね。エリート主義的な感じがないから。
 最近は少しエリート主義な感じも出てきたかもしれないけど、僕が子供の頃は、そんな感じはまったくなかった。昔、レコードショップにレコードを買いに来ている人の半数はガテン系の人たちや、技術職の人たちや、小売店で働いている人など、普通の人たちだった。僕の友達の兄や姉などでレコードを買っている人たちは、とくに学歴が高いとか、頭が良いというわけでもない、ただの普通の人たちだった。それが最高だと思った。万人のための音楽だと思ったから。
 天才じゃなくても最高のダンス・ミュージックを作れるんだ。ダンス・ミュージックの名曲を作ってきた人たちというのは、必ずしも……説明するのが難しいんだけど、とにかくダンス・ミュージックのそういうところが僕はすごく好きなんだ。自分でもできそうな感じがする。僕だっていまだに何の楽器も弾けないし、音調についてもよく分かっていない。でもダンス・ミュージックという文脈においてなら理解できるんだ。それがパンクに通じていて、僕はそれと同じ理由でパンクも好きだ。天才である必要もないし、楽器の名手である必要もない。クリエイティヴなことができれば、面白いものが作れるということ。

では、次にあなたの、その音楽の作り方についてお聞きします。あなたは最初、ガレージやダブステップにのめり込んで、数年後にはデビュー・シングル「Hyph Mngo」をリリースし、これがものすごい評判となった。しかしあなたはその後、「Ellipsis」やBoddikaとの一連の共作、〈Doldrums〉からリリースされた「BB」などの作品で、ハウスやテクノとの混合を試みていきますよね。音楽を作る上であなたはUKらしさというものをつねに意識していると思いますが、それはたとえば、いかにジャングルやガラージといったUK的な要素をハウスやテクノのフォーマットに落とし込むのかということなのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?

JO:その通りだと思う。僕が作るものには、自分が受けた影響や自分が聴いている音楽のUK的なエネルギーを加えたいとつねに思っている。僕がもっとも影響を受けているのはUKの音楽だ。いまでもUKでリリースされている新しい音楽や、自分の周りで起こっている活動などが自分の音楽の影響になっている。僕が最初にレコードをリリースしたとき、僕や周りのリスナーは、UKの音楽を聴いて育った人たちで、そこからヨーロッパの音楽や、僕の音楽よりももう少し抽象的な音楽に目を向けていた人たちが多かったと思う。それを前提として僕は自分なりのアイデアを作り上げていった。
 僕もベルリンのシーンに興味があったし、ドイツのテクノも聴いていた。でも、そこにUK的な要素を加えたいという思いがつねにあった。おかしなことに、少し前までUKの音楽はあまり真面目に捉えられていなかった。僕たちは20代の頃からヨーロッパやアメリカのクラブでDJをしていたけど、当時、とくにヨーロッパではUKのダンス・ミュージックは歓迎されていなかった。もしくは、陳腐なくらいUKっぽいダンス・ミュージックならオッケーだった。だから僕たちは苦労したよ。僕たちがDJするときは、すごくUKらしさを出すか、UKらしくないふりをするかの二択しかなかった。

とはいえ、ダンス・ミュージックにおいて自分のサウンドをクリエイトすることはとても難しいと思います。

JO:たしかに自分のサウンドをクリエイトするのは難しい。ダンス・ミュージックの良いところは、機能性がベースになって作られているところだ。クラブ環境という設定で聴くのが前提だから機能性が重要視される。だからあまり仰々しくなったり派手なダンス・ミュージックは作れない。コードが変化するダンストラックなんてあまり聴いたことないだろう(笑)? 機能重視というのはそういうことで、僕はダンス・ミュージックのそういう所が好きなんだ。でもそういう領域において自分のアイデンティティを作っていくのは難しいことだと思う。だからミックステープのような作品を作る方が適していると思ったんだ。僕のミックステープから1曲だけを聴いても、あまりアイデンティティが感じられないかもしれないけれど、ミックステープを通しで聴くと僕のアイデンティティが浮上してくるかもしれないだろ? 

たしかに。ちなみに、とくに尊敬しているテクノ、ハウスのプロデューサーは誰ですか?

JO:リカルド・ヴィラロボスは昔から好きだね。彼のレコードはずっと集めてきたよ。リカルドの良いところは彼の音楽を聴いているとその世界に引き込まれるし、それに僕がやっている音楽とはまったく違うから面白いと思うんだ。あとは何だろうな……最近はあまりエレクトロニック音楽を聴かないんだよ。以前は膨大な量のエレクロトニック・ミュージックを聴いていたけれど、最近はそのペースも落ちてきて、あまり聴かないんだよね。ポルトガルのリズボンにある〈プリンシペ〉というレーベルの若手プロデューサーの音楽を集めていて、すごく刺激を受けるね。
 ただ、従来のハウスやテクノやエレクトロニック・ミュージックには、最近あまりイノベーションが起こっていない気がする。固定概念がなくて、他人の意見を気にせずにいろいろな音楽を聴いている若い子たちのほうが面白いものを作っていると思う。彼らから直接的な影響はないにしても、彼らの意欲やエネルギーを感じると、僕もワクワクしてくる。UKのグライムやジャングルも同じ理由で好きだ。そのシーンにあったエネルギー。そのシーンにいた人たちは決して音楽の専門家でも熟練のミュージシャンでもなかったけれど、素晴らしい音楽を作った。素直な音楽なんだ。考え過ぎたり、自分を疑うことを一切しないで、自分が良いと思ったものを純粋に共有する。そういう音楽が僕に刺激を与えてくれる。

ちなみにジョイ・オービソンという名義は、ロイ・オービソンとジョイ・ディヴィジョンの合体ということだそうですが、なんでもこのふたつになったんですか? 

JO:そういう風に考えたことはなかったね。

その情報は違ってましたか?

JO:DJをやりはじめたとき、フライヤーに載せる用の名前が必要だと友だちに言われた。その当時、バンド名がある人物の名前だったり、俳優の名前だったりすることが流行っていた。他にもいくつか名義があったんだけど、この名前だけ残ったんだよ。何でこの名前にしたんだっけなぁ……でも当時、僕がいたシーンでこういう名前のアクトはいなかったから、あえてこういう名前にしたというのは覚えているよ。ダンス・ミュージックの名義ではバカっぽい感じのものもあったけれど、ダブステップはシリアスな感じの名義が多かった。僕はシリアスではなかったし、お客さんに僕のことをシリアスに捉えてもらいたくなかった。いまでもそう思うところはあるよ。僕は、ジョイ・オービソンと呼ばれるのが気に入っているわけじゃないけれど、この名前を見ると、少しふざけているというか、お茶目な感じがするから、つねにそういう軽い感じをリマインドしてくれる名義なんだ。
 僕は他のミュージシャンやアーティストとスタジオでセッションをしたりするんだけど、スタジオでみんな僕のことをジョイと呼ぶんだ。それが僕の名前だと思ってるんだろうね。若い子なんかはきっとロイ・オービソンも知らないと思うし。そういうのって面白いと思う。

では、この名前には、まったく異なるモノをミックスしたいというあなたのコンセプトも含まれているのでしょうか? ロイ・オービソンとジョイ・ディヴィジョンというミュージシャンやバンドをイメージしていなかったとおっしゃっていましたが、その辺はいかがでしょうか?

JO:イメージしていなかったけど、昔からダンス・ミュージックとはまったく関係無いアーティストや人物を引き合いに出して、自分のことを説明してきたというのは覚えている。僕のWikipediaのページにも自分が受けた影響が挙げられているけれど、それは僕が当時挙げていた影響なんだよ。少し抽象的にしたかったんだと思う。ダンス・ミュージックやエレクトロニック・ミュージックにはシリアスな一面があって、殺風景でテクニカルなベッドルーム・プロデューサーみたいなイメージがある。僕はそうなりたくなかったし、僕はテクニカルでもない。だからバンドなんかを影響として挙げていたんだよ。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインなんかも挙げていたんじゃないかな。僕の音楽はまったくマイ・ブラッディ・ヴァレンタインとは似ていないけどね(笑)! 自分の音楽に近いかもしれない音楽を教えたらいろいろとばれちゃうだろ(笑)? ダンス・ミュージックという枠組みから出て、まったく違うものを引き合いに出して話せるということの方が面白いと思うね。

その通りで、あなたの初期の影響に、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインが挙げられています。また、ビーチ・ボーイズ、ヨーゼフK、GGアレンなのどのロック・バンド/アーティストもあると聞きますが、いまでもダンス・ミュージック以外からの影響はありますか?

JO:もちろんあるよ。僕は家でエレクトロニック・ミュージックをあまり聴かない。DJをしているとDJをしている週末はずっとエレクトロニック・ミュージックを聴いているから、家では聴かなくなるんだ。僕の叔父も家ではドラムンベースを聴いていなかった。なぜ家で聴かないのかと訊いたら、週末はそれをずっと聴いているからと言っていた。いまの僕もそれと同じで、少しは聴くけれど、積極的には聴かない。たとえば僕はスロウダイヴというバンドが大好きなんだけど、僕の音楽に彼らの影響は少し出ている気がする。今後の作品にもそういう影響が少しずつ出ていくと思うけれど、僕はあまりジョイ・オービソンというプロジェクトを困惑させたくないんだ。ジョイ・オービソンのパンク・アルバムなんて誰も聴きたくないだろう(笑)? だからジョイ・オービソンはこういうサウンドというのがある程度明確にあったほうがいいと思う。僕は他のアーティストの音楽のプロダクションもやっていて、自分の名前をクレジットに入れたり入れなかったりする。プロダクションをやるときは、自分のアーティスト名義とは関係なしに、さまざまなスタイルやサウンドで実験できるから楽しいよ。でも、GGアレンは挑発的な回答として挙げただけかもしれない。いまなら影響として挙げないだろうな(笑)。

アルバムは2019年のEP「Slipping」の進化型ということですが、「Still Slipping」とはどういうニュアンスなのでしょうか? 最後の曲も“Born Slipping”なわけで、この「Slipping」とはどんなニュアンスなのか教えて下さい。

JO:僕はなぜか「Falling」や「Slipping」という表現に惹かれるというか、「Hyph Mngo」のB面に「Wet Look」という曲があって、そこには「I’m falling and I can’t get up」という声が入っている。また「81b」という曲の内容も「falling(落ちる、転ぶ)」ことについての声が入っている。そして『Slipping』のシリーズ…。「Slipping」の意味としては、「You're caught slipping」という表現があってそれは、自分のいるべきではないところにいるところを見つかってしまうという意味があるんだ。そして僕の解釈としては、ずれている(場違い)というイメージもある。僕は、自分のやっている音楽活動は、適当に上手くやって人を納得させるという、ずるいところがあると思っている。僕は熟練したミュージシャンでもないし、素晴らしいアーティストというわけでもないからね。でもやれることはやってる。「Slipping」は自分の活動のそういう性質を捉えている表現だと思うんだ。
 僕には、最初からずれている(born slipping)という感覚があるんだ。ガールフレンドからも「You’re punching above your weight(自分の実力ではかなわない相手と張り合っているわね)」と言われているんだけど、そういう態度が好きなんだよ。それは父親の影響があるかもしれない。父親は貧しい育ちだったけれど、エンジニアとしての仕事を熱心にやって、貧しい生活から抜け出した。そんな父親を最高だと思う。だから僕も実力以上のことをしようとするという姿勢が大好きなんだ。あまりインタヴューでこういうことは話さない方がいいと思うんだけど、僕はミュージシャンとしての資格があるわけではないからね。だから「Slipping」は、自分のベストを尽くすという姿勢を素直に表している表現だと思う。

ダンス・ミュージックやエレクトロニック・ミュージックにはシリアスな一面があって、殺風景でテクニカルなベッドルーム・プロデューサーみたいなイメージがある。僕はそうはなりたくはなかった。

UKの新進気鋭のプロデューサーを6人ほどフィーチャーしていますが、これにはどんな意図があったのでしょう? また、あなたが他の誰かと共作することを好むのは何故でしょう?

JO:コラボレーションするのが好きなんだよ。音楽の最高なことのひとつは、自分のまわりや、自分の街や、自分のシーンで起きていることと繋がることができることだと思う。自分だけの世界にこもって1人で作業していたら、外の世界と食い違いが生じるかもしれないし、個人的にも面白いと思わない。今回のミックステープにフィーチャーされているプロデューサーのほとんどはロンドンにいる僕の友だちで、僕たちはよく一緒に仕事をする。彼らとはたくさんの音楽を一緒に作ってきたんだけど、今回はそのなかでもミックステープに合うものを収録した。だから他にもたくさん彼らと作ってきた音楽があるんだよ。

日本のファッション・ブランドのC.E.からはカセットテープも出していますし、彼らのパーティでDJもしていますが、この先もC.E.となにかやる予定はありますか? 

JO:もちろんやりたいと思っているよ! C.E.のトビーとは昔からの友だちで、今回のミックステープのグッズとしてトビーが企画したC.E.とのコラボアイテムを出す予定なんだ。パーティもまた一緒にやると思うし、いろいろなコラボレーションをやっていきたいと思う。僕が日本でやったパーティは全部、C.E.絡みなんだ。本当に感謝しているよ。すごく良かったからね。C.E.のパーティは音楽だけじゃない。カルチャーなどが包括された集まりになっているからこそ、最高だと思う。

UKはとりあえクラブも通常営業に戻っていますよね。あなた自身の活動もCovid-19以前に戻っていけそうですか?

JO:どうだろうな。来週末にギグがあるから、1年以上ぶりのギグになるけれど、まだ先のことはわからない。しばらく様子を見ることにするよ。奇妙な感じはするけどね。僕は今後についても注意深く行動したいと思っている。僕はイギリスの政府を信用していないから、政府のいうことを鵜呑みにしないで、自分たちで考えて正しい決断をしないといけないと思う。早く通常の生活に戻って欲しいとは思うけれど、正しいタイミングでそうなって欲しい。急かすことではないと思うんだ。ダンス・ミュージックやダンス・カルチャーはそもそもみんなが自分自身を表現できる場であり、みんなが解放されたり、息抜きができる特別なところなんだ。その場所が、リスクの可能性のある場所になってしまうとなると本来の意味をなさない。本末転倒だよ。だから今後どうなるかはまだわからないね。もちろん通常の生活に戻って欲しいと思っているけどね。

ralph - ele-king

 初めて “斜に構える” を聴いたとき、素朴にかっこいいなと思った。「交わる気はねえ」「馴れ合いなら首を吊ればOK」と、シーン外部の視座を持った低い独特の声が、EGL & Double Clapperz によるコールドなダブステップ・サウンドと調和している。既存の日本のラップ/ヒップホップに宣戦布告しているようにも聞こえた。この組み合わせなら、ふだんラップばかりを聴いているわけではない自分でも入っていける──ニュース記事を書いた当時そう昂奮したのを覚えている。紙エレ最新号で彼らをフィーチャーした動機も、そこにあった。
 ひとつ裏話を明かせば、表紙をだれにするかしぼりこむ過程で、じつは ralph も候補のひとりにあがっていたのだ(ものすごく悩み、迷い、議論を重ねた結果、これまでのキャリアに敬意を表し ISSUGI を選んだが)。ちなみに Double Clapperz についても補足しておくと、彼らは Tohji がデビューするきっかけになったアーティストでもあった。
 ともあれ2017年の “斜に構える” 以降、ralph は少しずつ名をあげていくことになる。2018年に DBridge、Double Clapperz、Kabuki とのコラボ曲 “Hero” に参加、2019年には初のEP「REASON」を発表し、昨年2月の “Selfish” でより広汎に注目を集めることに成功。つづけて同曲を収めるセカンドEP「BLACK BANDANA」を送り出し、オーディション番組「ラップスタア誕生!」で圧倒的な存在感を誇示、みごと優勝を果たした(同年末には Leon Fanourakis & YamieZimmer とのコラボ曲も投下)。そうして去る6月末にリリースされたのが、彼にとって初のまとまった作品となるこの『24oz』だ。

 前半はこれまでの ralph のイメージを踏襲している。本人が「ハードなモードをチョイス」(“Zone”)と宣言しているとおり、「圧倒的闘争心」「かっさらうこの土地を」(“Roll Up”)、「まだ足りねえ work in progress」(“WIP”)と、リリックは戦闘的で野心に燃えている。トラックや声質に惑わされて見落としてしまいがちだが、ralph のラップの魅力はストレートに日本語の表現を追求するところにある。トラップやマンブル・ラップのスタイルを採用するラッパーが多い新世代のなかにあって、まさにその点こそが ralph を特異な存在たらしめているのだ。ゆえに比較的ことばも聴きとりやすく、ぼくのようにすぐ疲れてしまう中年のおっさんにはありがたい(高速なのでそれでも大変だけど)。
 トラックも進化している。エスキー・クリックとストリングスを活用した “Zone”、太いベースのうえで弦をより壮大に響かせる “Roll Up”、ミニマルな弦の反復を背後に敷いた “WIP”(SEEDA が客演)と、これまでのグライム~UKドリルの路線を引き継ぎつつ、新たな試みがなされている。紙エレ最新号のインタヴューで UKD は、2019年の “No Flex Man” で初めてサンプリングを導入したことを明かしているが、その手法は後の “Selfish” や「BLACK BANDANA」の “FACE” における印象的な声使いに結実。今回のストリングス使いは、それにつづく新境地と言えよう。

 より興味深いのは後半だ。スキットを経て本作はがらりと様相を変える。「いつものたまり場 ここも居場所ではないなと思うよ」「負けた数だけはだれにも負けねえ」(“RUDEBOY NEEDS”)と、リリックは内省的な側面が目立つようになっていく。クライマックスは EGL 手がける “Villains” だろう(愛知は知立の C.O.S.A. が客演)。ラップはハード・モードを解除し、感情を噛みしめ、しぼり出すようなスタイルへと変化。「善を盾にとったヒーローが俺たちの粗を探す/この音止めたきゃ殺せ いまここで」と、みずからをヴィランに見立て叙情的に単語を紡いでいく彼の姿はかつて見られなかったものだ。端的に、エモい。
 ことばを噛みしめるようなこの表現法からぼくは、『LIFE STORY』以降の BOSS の発声を思い浮かべた。THA BLUE HERB について ralph は「聴きすぎて身に染みついてる」と上述のインタヴューで語っているが、今回の表現法は彼が「ラップスタア誕生!」の決勝で見せたパフォーマンスと似ている。あのとき ralph は、「未来は俺等の手の中」というフレーズで自身の出番を締めくくったのだった。彼のなかで BOSS の存在はそうとう大きいにちがいない。
 そんなラップにあわせ、トラックのほうも変化している。声ネタを活かした “Window Shopping” や、おなじく声ネタと感傷的なピアノが主導権を握る “RUDEBOY NENE” は、従来の ralph にはなかったサウンドだ。これらの曲は、プロデューサーたる Double Clapperz のルーツの一端が、グライムやUKドリルといったストリート・ミュージックにだけでなく、tofubeats に代表される10年代前半の、ネット発カルチャーにも存していることを確認させてくれる。あるいは〈TREKKIE TRAX〉の Carpainter が手がけた2ステップの “D.N.R”(若手シンガーの AJAH が客演)。同曲はダンス・カルチャーとの接点を確保しており、ぼくのようにヒップホップにどっぷりつかっているわけではない人間のこころを確実につかむ1曲に仕上がっている。

 独特の声質によるストレートな日本語のラップ表現と、グライムやUKドリルから影響を受けたトラックとのマッチング。そのねじれこそ ralph の音楽が持つ最大の魅力であり武器だった。だが本作後半では、ラップもトラックもさらに表現の幅を広げている。
 紙エレのインタヴューで ralph は「リスナーの耳を成長させ」たいと語っていた。それはおもに日本ラップ/ヒップホップ・ファンを想定した発言なのだろうが、多くの趣向を凝らしたこの『24oz』は、ぼくのようにふだんラップをそれほど聴かないリスナー、来るべき新たな訪問者たちにもドアを開放してくれている。閉じないラップ・ミュージックの好例だ。

DMBQ - ele-king

 3年前、13年ぶりのアルバム『KEEENLY』を発表したDMBQ。コロナ禍によりライヴを休止していた彼らが、ふたたび爆音を打ち鳴らす。まずは9月26日@札幌、10月8日@名古屋、10月14日@広島の3公演。後二者では「DMBQと○○」という形式で、DMBQと交流のあるバンドとの2マンが予定されている(おとぎ話とLOSTAGE)。12月には渋谷、大阪での開催も視野に入れている模様。楽しみにしていよう。
(ちなみに10~11月にはイギリスやEUでの公演も控えているとのことで、海の向こうとこの国のコロナ状況の違いを痛感させられます。)

コロナ禍によりしばらくライブ活動を休止していたDMBQが、いよいよライブ活動を再開する。

復帰第一弾に選んだのは、地元札幌Bessie Hall。久しぶりの札幌でのライブで休止からの再スタートを切る決意だ。続いて名古屋、広島ではクラブクアトロとタッグを組んだ新企画「DMBQと○○」を開催。毎回DMBQと交流のある1アーティストを招聘した2マン形式でのライブを開催してゆくシリーズで、今回の名古屋ではおとぎ話と、広島ではLOSTAGEとの競演を果たす。12月には同シリーズで渋谷、大阪でも開催予定だ。いずれの公演も感染症対策に則り客席数を制限して開催される。チケットはチケットぴあ、ローソンチケット等で8月14日より発売予定。

また、10月~11月にかけてUK, EUへのツアー、フェス参加も予定。日々変わりつつあるコロナの状況やワクチン、出国・帰国の際の自主隔離への対応次第という所もあり詳細はまだ決まりきっていないとのことだが、海外活動の多いDMBQらしく、コロナ共生へとシフトを切りつつあるヨーロッパの状況をいち早く体感してくる予定とのこと。

公演情報:

DMBQ 札幌公演

9月26日(日) 札幌BESSIE HALL
開場16:00 開演16:30 チケット¥3500+1D
お問合せ:ベッシーホール 011-221-6076 Wess 011-611-1000

DMBQ Presents
「DMBQと おとぎ話」


10月8日(金) 名古屋クラブクアトロ
開場18:15 開演19:00 チケット¥4000+1D
お問合せ:名古屋クラブクアトロ 053-264-8211

DMBQ Presents
「DMBQと LOSTAGE」


10月14日(木) 広島クラブクアトロ
開場18:15 開演19:00 チケット¥4000+1D
お問合せ:広島クラブクアトロ 082-542-2280

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