「K A R Y Y N」と一致するもの

claire rousay - ele-king

 ここ数年の注目すべきエクスペリメンタル・ミュージック~アンビエント作家のひとり、テキサスはサンアントニオのクレア・ラウジーが新たなアルバムを発表する。今回のリリース元は〈Thrill Jockey〉だ。『sentiment』と題されたそれは4月19日発売。収録曲 “head” が本日2月6日(火)より配信されています。日本盤CDには完全未発表のボーナス・トラック2曲が追加収録されるそうなので、さあフィジカルを買おう。

EMO AMBIENTの旗手にして歌姫、クレア・ラウジーが、驚くべきアルバムを提げて、遂に日本デビューを果たす。
風景と日常、響きと調べ、知性と情動、ポップ・ミュージックは、ここまでたどり着いた。
間違いなく本作は2024年最高の話題作になるだろう。
全感覚を押し拡げて聴いてほしい。
──佐々木敦

現在、米LAを拠点に活動するアーティスト・ミュージシャンで、エクスペリメンタル・ミュージック(実験音楽)やアンビエント・ミュージックの既成概念に挑戦することで知られているclaire rousay(クレア・ラウジー)が、米シカゴの老舗インディー・レーベルThrill Jcckeyに移籍し、機械的にエフェクトされたヴォーカルとギター演奏を大胆に取り入れ、claire rousay流ポップ・ソングに果敢に挑んだ、(しかし、これまでの彼女の作品とも確実に地続きな)驚きの最新アルバム『sentiment』(センチメント)を4月19日(金)に発表することが決定しました。
アンビエンスを意識した現代的なフォーキー感覚やヴァイオリンをフィーチャーしたメランコリックなメロディーが全体的に流れ、フィールドレコーディングが印象的に散りばめられ、ドローンやミニマル・サウンドも効果的に登場する、エレメンツのバランス感覚が圧倒的に素晴らしい、あるようで無かった革新的なマスターピースとなっています。
日本盤CD(THRILL-JP 59 / HEADZ 263)も、完全未発表の2曲のボーナス・トラックを追加収録して、同時発売する予定です。
このアルバムのリリースに先行し、ファースト・シングルとしてアルバムの2曲目に収録されている「head」(ヘッド)が2月6日(火)より(日本を含む)全世界同時にデジタル配信されます。

アーティスト:claire rousay(クレア・ラウジー)
アルバム・タイトル:『sentiment』(センチメント)
企画番号:THRILL-JP 59 / HEADZ 263
価格(CD):2,200円+税(定価:2,420円)
発売日:2024年4月19日(金)
フォーマット:CD / Digital
バーコード:4582561400988

01. 4pm
02. head
03. it could be anything
04. askin for it
05. iii
06. lover's spit plays in the background
07. sycamore skylight
08. please 5 more minutes (feat. Lala Lala)
09. w sunset blvd
10. ily2 (feat. Hand Habits)
11. ruby
12. shameful twist

tracks 11, 12 …日本盤のみのボーナス・トラック

♯2:誰がために音楽は鳴る - ele-king

 平日の朝の9時台の渋谷行きの電車のなかといえば、そりゃあもう、その1時間前よりは空いているため多少はマシだが、それでもまだ混んだ車内は最悪な雰囲気で、ゲームやメルカリやYouTubeやなんかで時間を潰す勤め人や学生、座席に隙間なくそれでも眉間に皺を寄せた人たちは居心地悪そうに座り、たまにいびきをかいている輩もいると。まあ早い話、幸せとは思えないような人たちでいっぱいだ。だからそんななか、音楽を聴きながらステップを踏んでかすかとはいえ歌まで歌っているうら若き女性がいたら、周囲が視線を寄せるのも無理はない。ただし、そう、怪訝な目で。
 たまたま偶然、彼女はぼくのすぐ前にいた。電車が動いているうちはまだいいが、停車し、ほんの数十秒の静けさが車内に訪れると彼女が歌っているのがはっきりとわかる。聞こえた人はそこで「ん?」と思う。ドアが閉まり、電車ががーっと音を立ててまた走りだすと人びとは手元のスマホの画面に視線を戻す。そして次の駅で停まり、やかましいアナウンスが消えた瞬間、ふたたび彼女の歌が聞こえる。よく見ればその身体はリズミックに動いている、いや、踊っている。目は遠くを見つめ、輝いている。その両耳に突っ込まれたイヤフォンのコードは、彼女の首からぶら下がっているiPhoneに繋がっている。
 ぼくは視線を下方に移動し、目を細め、画面を見ようとする。どんな音楽が地獄行きの車内で、かようにもひとりの女性をキラキラさせるのか、音楽メディアに携わる身として興味があった。ところがしかし、彼女の腰のあたりで揺れている小さなコンピュータは、ぼくの位置からはちょうど垂直に傾いている。そうこうしているうちに電車は終点の渋谷に近づいていく。

 音楽が「私たち(we)」の音楽であることは素晴らしいとされている。「私たち」「コミュニティ」、あー、またか、またその話か。音楽の価値を主張するうえで、この手の社会学的な論調はなんども繰り返されている。まあ、ほんの一時期のレイヴ・カルチャーにはその美しさがあったのかもしれないけれど、だからといって、音楽が「私」の音楽であることが、すなわち個人的な体験であることが悪いということなど……まったくない。
 ことにイヤフォンやヘッドフォンで聴くことのほうが当たり前のこんにちでは、それを取り巻く環境からいっても音楽はおうおうにして「私」の音楽だ。この場合の主語たる「音楽」は、自分のセンスに合う折々の音楽であろう。が、そうではなく、否応なしにそれが「私」の音楽である場合がある。たとえばひとが「悲しみ」に打ちのめされたとき、「私」の音楽はよすがになりうるだろう。
 「悲しみ」、これもまたよく使う言葉だ。シニカルになるひとがいたとしても、ぼくは責めない。ぼく自身も長いあいだそういうところがあった。だが、もう心をあらためた。ニック・ケイヴは昨年の『ニューヨーク・タイムス』のインタヴューでこう話している。「人生とは安定したものでも頼りになるものでもない」
 「悲しみ」は誰の身にも降りかかるだろうし、人生において逃れることのできない経験のひとつだ。地震災害のようなこともあれば、ニック・ケイヴのように家族の急死ということもある。「悲しみ」は、人生を生きていけばいくほど経験する確率が上がるのはたしかだ。スリーター・キニーという、90年代のライオット・ガール時代の最後のほうに登場した女性パンク・バンドが近頃出したアルバム『Little Rope』は、メンバーのひとりが、自動車事故で母親と継父を亡くすという悲劇を経て制作された最初のアルバムで、作中には「悲しみと喪失感」が貫かれている。ぼくは、シリアスな「悲しみ」の音楽があることに感謝する。こうした音楽を心底必要とするときが、おそらく、人は生きていれば訪れる可能性が高い。
 ぼくには、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズの2019年のアルバム『Ghosteen』の良さがさっぱりわからなかった。ケイヴが、ウォーレン・エリスという唯一無二の天才的な音楽家といっしょに、15歳の息子を亡くしたことの悲しみと救済を言葉とサウンドで表現したスピリチュアルな作品、それ以上の言葉はなかった。が、いまは事情があって、ひょっとしたらその核心に少しは近づけるかもしれない、と思ったりもしている。先に紹介した『ニューヨーク・タイムス』の記事は、取材者もまた不慮の事故によって夫を亡くしているためケイヴの心に寄り添いながらの取材となり、ふたりは「悲しみ」という感情についてとことん掘り下げている。(英語には「悲しみ」がよく使われる言葉だけでも「grief、sadness、sorrow」と3種類あり、日本語変換するとすべてが「悲しみ」になるが、それぞれ微妙に意味が違う)
 「悲しみ(grief)はほとんど原子レヴェルで私たちを完全に変えてしまうという点で、並外れた能力を持っている」と記事のなかでケイヴはいう。「grief」とは激しい苦痛をともなう「悲しみ」を意味するが、ケイヴはその「感情」を正視し、悲しみについて書く方法を学んでいった。「私は悲しみのどん底にいた。その空間では、ありとあらゆることが可能だと思えた。私はそうした感情をまったく否定していない。私はそれを不可能領域と呼んでいるが、それは想像力ではなく、想像力に隣接し、死にも近接している」
 「悲しみ(grief)」のどん底にいる人間にとって音楽はほとんど無力だ。とはいえ、弱った心をふたたび立たせるためにはなにか杖のようなものが必要で、音楽はその杖になりうる。ぼくには心の杖が必要だった。ぼくにとっての杖は歌だった。自分のなかから聞こえてくる歌。曲名は明かさないが、日本に住んでいたら誰もが知っているような、それは超有名なポップ・ソングだった。

 NHKの朝ドラ『ブギウギ』に出てくる菊地凛子が格好いいと、年明けに三田(格)さんに教えてもらってからずっと見ている。はからずともぼくは、昨年は松山晋也さんに教えてもらったアイルランドのフォーク・バンド、ランクムに心酔したあまり、自分なりに歌を研究していたのである。歌は、政治的にも歴史的にも文化的にもいろいろあるが、少なくともロックあるいはブルースやソウルに親しんできている我々にとっての歌とは、おおよそにおいて、たとえば賛美歌(hymn)や歌劇、雅楽の歌物のように制度のなかで保存されてこなかった、名も無き民衆たち(正確な意味においてのfolks)の口承文化すなわち民謡の派生系としてある。歌はこれまでも気が遠くなるほどの長い年月のなかで、気が遠くなるほどのたくさんの人たちの心を癒やしてきたのだろう。

 その日もぼくは『ブギウギ』を見てから家を出た。いま自分の目の前では、黒やグレーの疲れた東京人のなかでカラフルな服をまとった若者がひとり、ウキウキしている。そして、もうすぐ渋谷に到着しようとするとき、電車が揺れ、彼女のスマホも揺れ、そしてぼくはついにその画面を見ることができたのである。いっしゅんのことで曲名はわからなかったが、アーティスト名ははっきりと認識できた。Coldplay。
 だからといってぼくがColdplayを聴くことはないだろう。バンドのファンのみんなが、あるいはその多くの人たちが朝の通勤電車のなかで歌って踊っているとは考えにくいからだ。それでも、Coldplayの曲がもっともオルタナティヴな行為の触媒となっていたことは隠しようのない事実だ。あるいは「悲しみのどん底にいた」自分のなかに、ニック・ケイヴがいう「原子レヴェル」での変化がおきてしまっていたと、そういうことなのだろうか。とにかくぼくは、芥川龍之介の「蜜柑」とはまったく別種と思われる晴れ晴れしさを、そのときの彼女から感じ取ったのである。ありがとうColdplay、いや、それは違うな、お礼をいうのは彼女に対してだ。

R.I.P. Wayne Kramer(1948 - 2024) - ele-king

 ぼくの世代でMC5といえば、たとえばザ・KLFの大ヒット曲 “What Time is Love” でサンプリングされた “Kick Out the Jams” の冒頭のMCだったりする。「キック・アウト・ザ・ジャムス、マザーフ**カー!」。もっともこれは、ザ・KLFの前身ザ・JAMsにひっかけた洒落でもあるわけだが、それはそれとて、このフレーズが60年代カウンター・カルチャーのもっとも威勢が良く、もっともぶっ飛んで、もっとも有名な掛け声であることは間違いない。だいたいこれは、音楽史上最初に録音された「マザーフ**カー」であり 「フ**ク」であるという名誉から、リリースからしばらくして問題の部分は「ブラザーズ&シスターズ」に差し替えられている。いまspotifyでアルバムを聴いたらそっくりそこがカットされていた。「キック・アウト・ザ・ジャムス、マザーフ★★カー!」、もともとは「いつまでもジャムってんじゃねぇよ」という意味だったが、当時のオーディエンスがこれを「邪魔物を蹴散らせようぜ、クソ野郎ども」と解釈し、転じて「好き勝手やったるぜい」という革命の合言葉になったのだ。

 1948年、デトロイトの労働者階級(電気技師の父と美容師の母のあいだ)に生まれたウェイン・クレイマーが10代で友人となったギタリスト仲間のフレッド・"ソニック"・スミスといっしょに、ロックンロールとブルースとフリー・ジャズの影響を受けたバンド、モーターシティ5すなわちMC5を結成したのは1965年のことだった。マネージャーはホワイト・パンサー党の党首にして反体制の申し子、大麻解禁論の先駆者ジョン・シンクレア、ウェイン州立大学でのMC5とサン・ラーのジョイント・コンサートを企画したあの男である。
 いまとなってはMC5は、作品よりもバンドを取り巻く物語のほうが有名なバンドのひとつになっているのかもしれない。同じ時代のデトロイトの、史上もっとも素晴らしいロック・バンドのひとつに数えられるザ・ストゥージズと違って彼らは政治的だったし、売れなかったし、リアルタイムではあまり評価もされなかったようだし、クレイマーにいたってはドラッグの売買に手を染め5年ほど刑務所のお世話になったりとか、とてもじゃないが順風満帆な生涯とはいえなかった。だが、庶民の怒りに火を付けるような扇動的なそのギター・サウンドには、ザ・ストゥージズとは違った魅力があったのもたしかだ。それに「キック・アウト・ザ・ジャムス、マザーフ**カー!」、これこそ本来のアナキズム宣言である。ようするに、「俺たちは支配されない権利を主張する」とこのバンドは高々と言ったのだ。そして、こんな連中が愛されないほど世界はまだ冷めていない。プライマル・スクリームがセカンド・アルバムでエミュレートさせたMC5、2008年にはメルトダウン・フェスティヴァルで共演し、そのライヴ盤(『Black To Comm』)も出しているのだからほんとうに好きだったのだろう。他にもある。デイヴィッド・ボウイの “Cygnet Committee” で「キック・アウト・ザ・ジャムス」が歌われていることや、ザ・クラッシュの “Jail Guitar Doors” (シングル「Clash City Rockers」のB面曲)がウェイン・クレイマーのことを歌っていることをぼくが知ったのは、もう、ずっとずっと後のことだった。

 ロック通のなかには1970年のセカンド・アルバム『Back in the USA』のほうが良いという意見もあるが(ニック・ロウ、モーターヘッドはこのアルバムを賞賛している)、ぼくはMC5の傑作は1968年のデビュー・アルバム『Kick Out the Jams』だと思っている多数派のひとりだ。アルバムを聴いていると燃えてくるし、安ウィスキーの力も加われれば暴動を起こそうという気持ちにだってなるかもしれない。MC5にとってのサイケデリックとはひとりで夢想することではなく、書を捨て街に出ることで、羽目を外し、生きたいように生きることことだった。あの轟音ノイズ・ギターは、やったるぞぉぉ、うぉぉぉという雄叫びだったし、しかも、うぉぉぉ、くそったれ、好きなようにやったるぜい、というだけのアルバムでもなかった。ここにはデトロイト出身のブルースマン、ジョン・リー・フッカーも歌った(60年代デトロイトの暴動に関する)戦闘的なブルース曲 “Motor City is Burning” もあれば、アルバムの最後にはサン・ラーのカヴァー曲 “Starship”もある。ロックにおける極めて初期形態の雑食性が萌芽しているのだ。ファンカデリックがその初期において影響を受けないわけがない。デトロイト・テクノ繋がりをいえば、ポール・ランドルフ(いちおうデビュー・シングルは〈プラネットE〉、デビュー・アルバムはムーディーマンの〈マホガニー〉というベーシスト)が、デトロイトが生んだもうひとりのロックの最重要人物、アリス・クーパーの2021年のアルバム『Detroit Stories』にてウェイン・クレイマーとほとんどの曲で共演している。またクレイマーは、収監中の人びとに楽器と指導を提供する非営利団体〈ジェイル・ギター・ドアーズUSA〉のエグゼクティヴ・プロデューサーとしても活動していた。彼が故郷デトロイトへの愛情を忘れたことはなく、2002年にエミネムの半自伝的映画『8 Mile』を観たときには、 「これは俺の息子だ!」と反応したという。
 まったく聴いたことのない人は、まずは“Kick Out the Jams”のオリジナル・ヴァージョンを大・大・大音量で聴くこと(できればスピーカーで、近所迷惑になるくらいの音量で)。もう1曲選ぶとしたら、ぼくはプライマル・スクリームとの共演でも演奏している、アルバム未収録のガレージ・ブルース・ロック “Black To Comm” (ベスト盤に収録)を挙げたい。

 偉大なるウェイン・クレイマー、2月2日に膵臓癌のため逝去。文字通りの激動の75年の生涯、ほんとうにお疲れ様でしたと言いたい。

ALCI & snuc - ele-king

 東海地方を拠点に全国各地を飛び回り活躍するラッパー、ALCIとDJ/ビートメイカー、snucの11曲入りの共作の主題は明確──レゲエ/ダブとヒップホップの融合だ。アフロの要素を散りばめつつ、ルーツ・レゲエあるいはナイヤビンギ、UKのダブを、ある意味では忠実に吸収して表現している。レゲエとヒップホップという組み合わせ自体はいつの時代もつねにいろんな形であるものだが、彼らのルーツとなる音楽へのストレートな向き合い方が本作の最大の魅力で、それがラップの力強さとメッセージを際立たせている。

 1989年にブラジルで生まれ、日本で育ったALCIは、特定のビートメイカーとがっぷり四つで組んだソロ・アルバムをすでに3枚発表している。エレクトリック・ピアノの音を多用しジャズを基調としたISAZとのファースト『365』(2018)、すべての曲でブラジル音楽をサンプリングしたUNIBALANCEとのセカンド『獏-BAKU-』(2020年)、任侠映画めいたサントラ、ハードなジャズ・ドラム、〈モータウン〉の名曲などを用いて物語の起伏を作り出したMr蓮との『TOKAI KENBUNROKU』(2022)だ。また、兄のBRUNOとのラップ・デュオ=日系兄弟として、『ESTA EM CASA』(2015)をはじめ、『くだまく旅の途中』(2015)、『RIVERSIDE GYPSYS』(2016)、『Training Days』(2017)といった作品も残している。

 一方snucは、本作にも客演ラッパーとして参加するRHYDAと『FOODOO』(2021)と『MOGANA』(2023)という2枚の共作を出している。こちらは、ダンスホールやアフロビーツをはじめ世界各地のリズムを貪欲に用いて、RHYDAの縦横無尽に駆け抜けるフリーキーなラップのポテンシャルを引き出す独創的なベース・ミュージックだ。また、後者にはPART2STYLEのMaLによるジャングルのリミックスもある。

 そう考えても、『縁』は音数も抑制されて非常にシンプルだ。“CLEAN HIT” のダブ、硬く鋭いスネアからは〈ON-U〉、たとえばダブ・シンジケートの『Stoned Immaculate』を連想できるだろう。また、土俗的なパーカッションのループとナヴィゲーター役のBLACKJOKERのトークから成る “SKIT” はいわばナイヤビンギで、そのスキットに続く呪術的な雰囲気を醸し出す “JAZZ THING-縁-” はナイヤビンギ・ミーツ・ラップだ。ナイヤビンギとは簡単に説明すれば、ラスタファリアニズムを信奉するひとびとの集会であり、そこで演奏される音楽のこと。録音物となったナイヤビンギの古典といえば、2022年に〈ソウル・ジャズ〉が再発したミスティック・リベレーション・オブ・ラスタファリ『Grounation』が有名だ。

 たしかに『縁』と名付けられ、ナヴィゲーターを配して複数のラッパーやシンガーが次々に登場する本作は集会のようでもある。ALCIがポルトガル語でラップし、ラッパーのSulakとシンガーのカナミaka.Ms.Miiiが参加した “NATURAL BBB” は直球のルーツ・レゲエだ。ALCIのラップからは世俗的欲望を否定しないまでも、世のなかはそれだけじゃつまらないでしょう、と自身の内面を見つめようとする軽やかなスピリチュアリティが感じられる。“我々の世界” という曲で「反骨忘れず爆音の雨」と歌っているように、気持ち良い音楽だが、単なる体制順応的な音楽ではない。

 じっさい、既存の世俗的なゲームのなかで成り上がるストリート叩き上げのラッパーのサクセス・ストーリーや、その熾烈な競争の過程で勃発する小競り合いや罵り合いにときにぐったりしてしまうのは私だけではないだろう。知性と受け取られているものが、じつは論理のすり替えを厭わない世渡り上手の処世術でしかなかったのではないか。その差はあまりにも大きく深刻だが、“バズる” というアテンション・エコノミーの狂騒のなかではその違いにたいして重きは置かれない。そうした価値観がいま最先端という名のエスタブリッシュメントを形成しているようにみえる。生き抜くための努力や意地には何物にも代えがたい尊さがある。金や数字だって重要に決まっている。だから、ゲームの勝利者の栄光を腐したくもない。しかし、ゲームやルールは他にもあるだろうとは思う。

 数字のついてくる最先端や流行と呼ばれるものが、必ずしも時代の突破口となる新しい価値観を提示しているとは限らない。ルーツ・レゲエやダブに向き合ったALCIとsnucの『縁』は、そういうごく真っ当な感覚を持つひとたちに響く音楽にちがいない。ひと呼吸置いて、周りをゆっくり見渡してみれば、この作品のような “我々の世界” がまだまだ広がっているのだ。

Turn On The Sunlight - ele-king

 LAのマルチ楽器奏者/プロデューサー、ジェシー・ピーターソンがカルロス・ニーニョとともに始動したプロジェクト、ターン・オン・ザ・サンライト。かつてレイ・ハラカミともツアーをまわったことのある彼らは、2010年代をとおしてすでに5枚のアルバムを送り出している。
 3月20日にリリースされる新作『Ocean Garden』にはララージはじめ注目すべきゲストたちが多く参加しているが、とくに目を引くのは70年代スピリチュアル・ジャズの重要レーベル〈Tribe〉創設者のひとり、フィル・ラネリンだろう。これまでもビルド・アン・アークなどで若い世代とコラボし、最近は「Jazz Is Dead」シリーズにも登場している彼をフィーチャーしたシングル曲 “Tune Up” は、2月28日にデジタルにて先行配信。楽しみです。

Turn On The Sunlight『Ocean Garden』
2024.3.20 CD / LP / Digital Release

LA音楽シーンで多くのミュージシャンに愛されるジェシー・ピーターソン。彼の呼びかけによって豪華メンバーが集まったオーガニックコレクティヴ、Turn On The Sunlight(ターン・オン・ザ・サンライト)の新作『Ocean Garden(オーシャン・ガーデン)』が、CD/LP/Digitalにて全世界同時リリース!! CDにはジャメル・ディーンらが参加したボーナストラックも収録。

Carlos Niño / Phil Ranelin / 金延幸子 / Josh Johnson / Photay / Fabiano do Nascimento / Randal Fisher / Dwight Trible / Laraaji / Mia Doi Todd / Sam Gendel他、豪華アーティスト参加!!

もしブライアン・イーノとジョン・フェイヒーが出会ったら──そんな妄想を抱いて、ジェシー・ピーターソンがカルロス・ニーニョとスタートさせたターン・オン・ザ・サンライトの長い旅は、このアルバムで素晴らしい場所に到達した。LAの信頼すべき才能ある仲間と築き上げたコレクティヴの軌跡が美しく刻み込まれている。かつてビルド・アン・アークという奇蹟のグループが成し得たことを、ジェシーは継承して前へ進めてもいる。素晴らしいミュージシャンたちが奏でる音と自然音が織り成す有機的な音の広がりは、深く驚異的だ。(原 雅明 ringsプロデューサー)

暖かくて、魅惑的な音に祝福される感覚。心地よい音のテクスチャーと快適なリズム。常に喜びと高揚感を与えてくれる作品です。(ララージ)
このアルバムは、暖かい日差しが頬に触れる感覚と、私たちを想像の世界へと導いてくれる。素晴らしいアルバムです。(金延幸子)

ターン・オン・ザ・サンライト
マルチインストゥルメンタリスト、作曲家、プロデューサーのジェシー・ピーターソンは、ターン・オン・ザ・サンライトの中心人物であり、絶えず続く糸である。5枚のアルバムとその他のさまざまなコラボレーションを通じて進化し続けるグループのサウンドは、結成時から変わることなく高揚への希望に根差している。友人のカルロス・ニーニョとともに、ジェシーは妻のミア・ドイ・トッドをはじめ、ララージ、ルイス・ペレス・イクソネストリ、カバーナ・リー、パブロ・カロジェロ、SKカクラバ、サム・ゲンデル、ファビアーノ・ド・ナシメント、ヒロ・マキノ、リカルド・ディアス・ゴメス、デクスター・ストーリー、アンドレス・レンテリアなど、長年にわたって音楽仲間である彼らに、彼らの魔法で力を貸してくれるよう呼びかけてきた。

【リリース情報】
アーティスト名:Turn On The Sunlight(ターン・オン・ザ・サンライト)
アルバム名:Ocean Garden(オーシャン・ガーデン)
リリース日:2024年3月20日
フォーマット:CD / LP / Digital
レーベル:rings / plant bass
オフィシャルURL:https://www.ringstokyo.com/turn-on-the-sunlight-ocean-garden/

[CD]
品番:RINC118
JAN:4988044097605
価格:¥2,860(tax in)
販売リンク:https://diskunion.net/portal/ct/detail/1008787482
[LP]
品番:RINR16
JAN:4988044097636
価格:¥4,400(tax in)
販売リンク:https://diskunion.net/portal/ct/detail/1008787495

21世紀の視点からその思想と生涯を解説する

オーネット・コールマンが共演し、スクリッティ・ポリッティが曲名で共感を表明し、坂本龍一がドキュメンタリー映画のサウンドトラックを制作したフランスの哲学者。

サイモン・レイノルズやマーク・フィッシャーが音楽を論じる際に用いた概念「憑在論」の本家本元にして「脱構築」の発明者。

ポップ・カルチャーにおいてもひときわ大きな存在感を放つ20世紀最高の知性のひとり、ジャック・デリダの生涯と思想を、21世紀の視点から新たに解説しなおす。

★用語解説つき

四六判/ソフトカバー/464頁

目次

イントロダクション
第1章 キッド
第2章 フッサール、ほか
第3章 起源の問題
第4章 ジャック・デリダ
第5章 出来事、ひょっとすると
第6章 『グラマトロジーについて』
第7章 真理が女だとすれば、どうだろうか
第8章 万人ここに来たれり
第9章 掟の前で
第10章 について
第11章 出来事が起こった
謝辞

訳者あとがき
用語解説
索引

ピーター・サモン(Peter Salmon)
1955年生。オーストラリア出身、UK在住の作家。テレビやラジオのショート・ストーリーを多数手がけつつ、『ガーディアン』や『シドニー・レヴュー・オブ・ブックス』などさまざまな新聞や雑誌に寄稿。小説『コーヒー・ストーリー』(2011年)で『ニュー・ステーツマン』のブック・オブ・ザ・イヤーを受賞。UKの『ピッチフォーク』的存在たる音楽メディア『クワイエタス』では、デリダと音楽の関係についての文章も執筆している。

伊藤潤一郎(いとう・じゅんいちろう)
1989年生。新潟県立大学国際地域学部講師。著書に『ジャン=リュック・ナンシーと不定の二人称』(人文書院、2022年)、『「誰でもよいあなた」へ──投壜通信』(講談社、2023年)。訳書にナンシー『アイデンティティ──断片、率直さ』(水声社、2021年)、同『あまりに人間的なウイルス──COVID-19の哲学』(勁草書房、2021年)など。

松田智裕(まつだ・ともひろ)
1986年生。立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員。著書に『弁証法、戦争、解読──前期デリダ思想の展開史』(法政大学出版局、2020年)、訳書にジャック・デリダ『思考すること、それはノンと言うことである──初期ソルボンヌ講義』(青土社、2023年)など。

桐谷慧(きりたに・けい)
1986年生。東京大学大学院教務補佐員。論文に「「『幾何学の起源』序説」におけるデリダの「生き生きした現在」の解釈について」(『フランス哲学・思想研究』第28号、2023年)、共訳書にパトリック・ロレッド『ジャック・デリダ──動物性の政治と倫理』(勁草書房、2017年)など。

横田祐美子(よこた・ゆみこ)
1987年生。立命館大学衣笠総合研究機構助教。著書に『脱ぎ去りの思考──バタイユにおける思考のエロティシズム』(人文書院、2020年)、共訳書にボヤン・マンチェフ『世界の他化──ラディカルな美学のために』(法政大学出版局、2020年)、カトリーヌ・マラブー『抹消された快楽──クリトリスと思考』(同前、2021年)など。

吉松覚(よしまつ・さとる)
1987年生。帝京大学外国語学部特別任用講師。著書に『生の力を別の仕方で思考すること』(法政大学出版局、2021年)。共訳書にマルタン・ジュベール『自閉症者たちは何を考えているのか?』(人文書院、2021年)、ジャック・デリダ『講義録 『生死』』(白水社、2022年)、ジャック・デリダ『メモワール』(水声社、2022年)ほか。


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Angry Blackmen - ele-king

 オルタナティヴ志向に磨きをかけるクリッピングやPhewとのコラボレートで知られるワシントンのモデル・ホームなどを追い、不穏なインダストリアル・ビートで押し通すクエンティン・ブランチとブライアン・ワレンのデビュー・アルバム。シカゴ出身で、16歳ぐらいで活動を始めたらしく、2人ともケンドリック・ラマーとアール・スウェットシャートに強く影響を受けたという。さらにブランチはMFドゥーム、ワレンはチャンス・ザ・ラッパーやリル・ウェインの名前もフェイヴァリットに挙げている。マンブル・ラップが出てきた頃にリル・ヨッティーだったかがノトーリアス・B.I.G.なんか聴いたことがないと言い放ち、並み居る古参たちから不興を買っていたけれど(それはそれで僕はいいと思うけれど)、ワレン&ブランチはヒップホップの歴史に精通しているようで、メンタル・ヘルスを初めてラップで扱ったのはグランドマスター・フラッシュ “The Message” だと考え、それこそノトーリアス・B.I.G. “Suicidal Thoughts” へのオマージュとして “Suicidal Tendenciess” でアルコール依存についてラップするなど全11曲を『The Legend of ABM』に詰め込んだ。

 全体のテーマは資本主義、アフロ・フューチャリズム、マスキュリニティ(男らしさ)とインテリ寄りで(クリッピングの歌詞はギャングスタ系)、映画『アイ・アム・リジェンド』の原作『地球最後の男』を骨組みとして採用しているらしい。サウンドがあまりに攻撃的なので、そうは思えなかったけれど、英語のニュアンスがちゃんと聞き取れるリスナーには哀愁がにじみ出ている歌詞がとてもいいらしく(そういうことがわかる人は羨ましい)、声の響きはどこかエミネムに通じるものがある。ジャケットに写っている女性はタイトル曲 “The Legend of ABM” で「業界に旋風を巻き越すためにブライアンとクエンティンが戻ってきました」と日本語のナレーションを入れているユキ・フジナミ。これまでに5枚しかシングルをリリースしていないのに、自らを伝説と称して「帰ってきた」と表現するのだから、その自信はなかなかのもの。

 先行シングルは “Stanley Kubrick” 。出来上がった曲が映画みたいだったからという理由でこのタイトルにしたらしい。ブリープ強めで最初から個性が際立ち、続く “FNA” で畳み掛けるラップと金属音の軋みも切迫感が滲み出る。自己愛を意味する “Amor Propio” や “Magnum Opus” はまさしくモデル・ホームばりで、ハーシュ・ノイズを敷きつめた “Dead Men Tell No Lies” はナイン・インチ・ネイルズが孤独を訴えた “The Day the World Went Away” に強く影響を受けた曲だという。 “FUCKOFF” はもう怒り狂ってるだけ。 “Outsiders” はマシンガンのようなビートで、 “GRIND” だけがカチャカチャと金属音が鳴る小気味のいいアクセントになっている。タイトルからしてスロッビン・グリッスルみたいな “Sabotage” は映画『テルマ&ルイーズ』のモデルとなり、シャーリーズ・セロンが映画『モンスター』(03)で演じたシリアル・キラー、アイリーン・ウォーノスのインタビューを元にしているという。普通とは異なるものの見方を提示したかったのだとか。サウンドだけでもそれは充分だけど。

 ワレン&ブランチはまだ若い。細部がまだ拙いというか、彼らが持っているヴィジョンにスキルが追いついているとはさすがに言いがたいところもある。とはいえ、パッションは充分で、すぐにも飛躍的な伸びが期待できるだろう。セカンド・シングルが “Riot” (17)というタイトルだったりと、重いものが弾けているような存在感はどうしてもURを思い出してしまうし、ブラックライヴスマターを時代背景として育った世代がどうなっていくかという興味は抑えられない。

 ちなみにアングリー・ブラックメンと契約したのはこれまでにデス・グリップス、クリッピング、J・ペグマフィア、USガールズなどを送り出してきた〈Deathbomb Arc〉で、荘子itらのドス・モノスやBBBBBBBなども同レーベルと契約している。

Janis Crunch - ele-king

 熊本出身のシンガーソングライター/ピアニスト、ジャニス・クランチを紹介しよう。
 モダン・クラシカルな作風を特徴とする彼女は2011年にファースト・アルバム『I just love the piano』を発表、同年にはシンガポールの(近年は冥丁の作品で知られる)〈KITCHEN. LABEL〉から、haruka nakamuraとの共作『12 & 1 SONG』を送り出してもいる。ともに近年LPでリイシューされており、注目のほどがうかがえよう。
 それから12年。長い期間を経てセカンド・アルバム『xaoc(ザオック)』がリリースされることになった。独特のヴォーカルとピアノに加え、ストリングスをフィーチャーした新作はすでに1月12日より配信がはじまっている。フィジカルも準備中とのこと。
 ちなみにリリース元は〈YUUI〉。2022年に設立されたレーベルで、今回のジャニス・クランチのアルバムが第1弾作品にあたる。今後も「古い/新しい」の二項対立にとらわれず、「美しさ」に焦点を絞りながら、再発も含めてさまざまな音楽を手がけていく予定だ。
 ジャニス・クランチと〈YUUI〉、ともに注目しておきましょう。

artist: Janis Crunch
title: xaoc (読み:ザオック)
label: YUUI
release: 12 January, 2024

tracklist:
01. Requiem (Dear My Grandma)
02. 悲しき狼のワルツ
03. きらきらブルー
04. melancholic magic
05. POISON APPLES
06. Mass in E
07. Time won't come back
08. エターナル
09. ほんの少しの
10. The last song
11. The Lullaby of Itsuki

1月のジャズ - ele-king

 2024年1回目のコラムだが、1月は年初でリリースが少なく、紹介すべきものがこれといってない。そこで、2023年を振り返ってリイシューや未発表作品からピックアップしたい。特にアフリカや南米のアーティストで目につく作品が多かった。



Vusi Mahlasela & Norman Zulu, & Jive Connection
Face To Face

Strut

 『フェイス・トゥ・フェイス』は1994年に録音された未発表作品で、スウェーデンの音楽プロデューサーのトルステン・ラーションのアーカイヴから発見された。アフリカ南部のバントゥー系民族であるソト族のフォーク・シンガーのヴーシ・マハラセラ、南アフリカのシンガー・ソングライターのノーマン・ズールーと、スウェーデンのジャズ~ソウル集団のジャイヴ・コネクションが共演した記録である。ちなみにジャイヴ・コネクションにはリトル・ドラゴンのドラマーのエリック・ボディンや、スウェーデン民謡グループのデン・フールなどで演奏するベーシストのステファン・バーグマンらが在籍した。

 スウェーデンは昔からジャズが盛んで、ドン・チェリーらアメリカから移住したジャズ・ミュージシャンも少なくない。南アフリカでは元ブルーノーツのジョニー・ディアニが移住している。ジョニー・ディアニなどのジャズ・ミュージシャンはアパルトヘイトから逃れるために他国へ移住したのだが、そうした反アパルトヘイト運動を支援した国のひとつがスウェーデンで、政府はアフリカ民族会議への資金援助をおこなっている。そのANC議長だったネルソン・マンデラが反逆罪で投獄された後、出所して初めて訪れた国がスウェーデンである。1994年のマンデラ大統領就任式で歌を披露したのがヴーシ・マハラセラで、ノーマン・ズールーを含めて彼らと交流を深めていたジャイヴ・コネクションが一緒に録音したのが『フェイス・トゥ・フェイス』である。

 ヴーシの歌は自由を求めての闘争に彩られており、南アフリカの伝統的な寓話に基づく『プロディガル・サン(放蕩息子)』や、児童虐待に対する嘆きを歌った『フェイスレス・ピープル』などを力強く歌う。音楽的にはジャズやアフリカ民謡だけでなく、レゲエやダブ、ファンク、ポスト・パンクなどの要素を交えたものとなっており、実に興味深い。“フェイスレス・ピープル” はカーティス・メイフィールド風のニュー・ソウル的な歌や演奏にダビーなエフェクトを交え、まるでガラージ・クラシックと言ってもおかしくないようなものだ。ニューウェイヴとアフロ・ディスコが融合した “プッシュ” はピッグバッグを彷彿とさせ、強烈なダブ・サウンドの “フェイス・トゥ・フェイス” や “ルーツ” はデニス・ボーヴェルがミックスしているかのよう。アフロ・ジャズの “ウマザラ” にしても、楽器の録音やミックスなどダブやレゲエを意識したものとなっている。



Orchestre Poly-Rythmo De Cotonou Dahomey
Le Sato 2

Acid Jazz

 オルケストル・ポリリトモ・デ・コトヌー・ダホメイ(別名T・P・オルケストル・ポリリトモ)は西アフリカにあるベナン共和国のコトヌー出身の楽団で、1968年にシンガー兼ギタリストのメロメ・クレマンによって創設され、1980年代の終わりまで活動した。アフリカ民謡、アフロビート、ハイライフ、アフロ・キューバン・ジャズ、サイケデリック・ファンクなどが融合した音楽を演奏し、地元のヴードゥー教にも繋がりを持つ存在だった。欧米諸国などでは長らく知られざるバンドであったが、2000年代に彼らの音源がUKの〈サウンドウェイ〉から紹介されて広まり、ガーディアン紙は「西アフリカで最高のダンス・バンドのひとつ」と評価している。そうした再評価を受けて2009年にバンドは再結成され、2枚の新録アルバムの発表とワールド・ツアーもおこなうが、創始者のメロメは2012年に亡くなった。

 アルバム・リリースは数十枚に及び、原盤はどれもが入手困難なものだが、〈アナログ・アフリカ〉ほか欧米のレーベルもリイシューを手掛けている。1974年作の『レ・サト』は2021年にUKの〈アシッド・ジャズ〉からリイシューされ、その第2弾として同年に録音された『オルケストル・ポリリトモ・デ・ラ・アトランティーク・コトヌー・ダホメイ』が『レ・サト・2』としてリリースされた。原盤は『レ・サト』と全く同じレコード・スリーヴで販売されており、裏面に第1弾と異なるカタログ番号が記載されるという体裁だったため、長らく謎のレコードとされてきたもので、彼らの作中でももっともレアな1枚である。原初的な歌と催眠的なファンク・グルーヴに包まれた10分を超す “ジェネラル・ゴウォン” はじめ、伝統的なヴードゥーの儀式とパーカッションによるポリリズムが結びついた独特の世界を作り出している。



The Yoruba Singers
Ojinga’s Own

Soundway

 ヨルバ・シンガーズは1971年に結成された南米のガイアナ共和国のバンドで、アルバムは1974年の『オジナズ・オウン』、1981年の『ファイティング・フォー・サヴァイヴァル』のほか、リーダーのエズ・ロックライフとヨルバ・シンガーズ名義による2009年作『アー・ウィ・ライク・デム・ソング・ディス』などがある。隣国のトリニダード・トバゴのカリプソやスティールパン演奏の影響を受け、ほかにジャマイカから流れてくるロックステディやルーツ・レゲエ、ガイアナ住民の祖先であるアフリカの伝統的な民謡などを育み、プロテスト・ミュージックへと昇華したのがヨルバ・シンガーズの音楽である。ヨルバというアフリカのナイジェリア南西部に住む部族をグループ名に冠している点で、彼らのルーツ的なところが見えてくる。欧米では全く知られた存在ではなかった彼らだが、2018年に『ファイティング・フォー・サヴァイヴァル』がUSの〈カルチャーズ・オブ・ソウル〉からリイシューされ、陽の目を見ることになる。そして2023年には『オジナズ・オウン』がUKの〈サウンドウェイ〉からリイシューされた。

 彼らの初期のレパートリーは、農園での労働の合間に歌ったり、または宗教儀式の場で歌われるといったもので、『オジナズ・オウン』はそうした彼らの姿をとらえた素朴な作品集である。演奏は原初的な打楽器やギター、フルートなどによるシンプルなもので、10名ほどのコーラス隊が合唱するというスタイル。“オジナズ・オウン” や “アンコンプレヘンシデンシブル・レディオマティック・ウーマン” など、ガイアナの自然や大地、生活や宗教と密着したプリミティヴな作品集である。



Terri Lyn Carrington
TLC And Friends

Candid / BSMF

 現在のUSジャズ界のトップ女性ドラマーであるテリ・リン・キャリントン。1965年生まれの彼女は、ウェイン・ショーターの1988年作『ジョイ・ライダー』への参加で名を上げ、1989年のリーダー・アルバム『リアル・ライフ・ストーリー』でグラミー賞にノミネートされるなど、着実にキャリアを重ねていった。女性アーティストのみで結成されたモザイク・プロジェクトを興すなど、ジャズ界における女性演奏家の地位向上を謳うリーダー的な存在でもある。父親のソニー・キャリントンがサックス奏者だったこともあり、7歳のときからドラムをはじめた彼女は、11歳でバークリー音楽院に奨学金を受けて入学した天才児で、在学中にさまざまなプロ・ミュージシャンとのセッションをはじめ、16歳のときの1981年に自主制作でアルバムを作ってしまった。それが『TLC・アンド・フレンズ』である。一般的に『リアル・ライフ・ストーリー』がファースト・アルバムとされる彼女だが、実は『TLC・アンド・フレンズ』が正真正銘の幻のデビュー・アルバムなのである。

 この度リイシューされた『TLC・アンド・フレンズ』は、ケニー・バロン(ピアノ)、バスター・ウィリアムズ(ベース)、ジョージ・コールマン(サックス)という、1960年代より活躍してきた名手たちとの共演となっている。そして、父親のソニー・キャリントンもゲスト参加して1曲サックスを吹いている。バップを中心としたオーソドックスな演奏だが、アレンジも自身でおこなうなどすでに神童ぶりを発揮するものだ。楽曲はコール・ポーターの “恋とはどんなものかしら”、マイルス・デイヴィスの “セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン”、ソニー・ロリンズの “セント・トーマス” と “ソニー・ムーン・フォー・トゥー” など大半がカヴァー曲で、ビリー・ジョエルの “素顔のままで” もやっている。そうしたなか、唯一の自作曲の “ラ・ボニータ” がラテン・タッチのモーダル・ジャズとなっており、とても16歳とは思えない奥深く豊かな表現力を見せる。

Terry Riley - ele-king

 「Ambient Kyoto」でお馴染みの〈Traffic Inc.〉運営のフリースペース、「しばし」(sibasi)(https://sibasi.jp/)にて、テリー・ライリーのラーガ教室と、フィールドレコーディングのワークショップが開催される。鎌倉にて、月1回のラーガ教室を開いているテリー・ライリーだが、京都で初。3月〜4月の土日に計8回の開催。
 なお2月には同所で、フィールド・レコーディングのワークショップも。著書『フィールド・レコーディング入門 響きのなかで世界と出会う』が第1回音楽本大賞「大賞」&「読者賞」を受賞した柳沢英輔、サウンドエンジニアの東岳志がガイド役。

◉テリー・ライリーのラーガ・レッスン
KIRANA EAST in KYOTO

[日時]
3月
23日(土)、24日(日)、30日(土)、31日(日)
4月
6日(土)、7日(日)、13日(土)、14日(日)

・受講回数に制限はありません。

[タイムテーブル]
土曜日のクラス(共通)
16時~   受付開始 
16時半~  弟子のSARAによる基礎知識の説明及びウォーミングアップ
17時~   テリー・ライリーによる【ラーガ】レッスン(約1時間)
日曜日のクラス(共通)
11時半~  受付開始 
12時~   弟子のSARAによる基礎知識の説明及びウォーミングアップ
12時半~  テリー・ライリーによる【ラーガ】レッスン(約1時間)

※ 参加者全員受付時に抗原検査と体温測定を受けて頂きます。
抗原検査で陽性、もしくは【風邪の症状、】体温が37.5度以上の場合はレッスン受講はできません。
受講料は半額お返しいたします。ご了承ください。

[開催場所] しばし(京都市左京区岡崎)
※詳細は、お申し込み後にお伝えします。
[参加費]1回8,000円
[申込受付定員]各回15名限定
[申込受付開始日時]
3月開催クラス:2024年2月3日 正午より受付開始
4月開催クラスの受付については、後日改めて告知します。
[申込受付サイト]
https://peatix.com/group/15152856

[備考]
・テリー・ライリーによる指導内容は、毎回異なることが予想されます。
 →テリー・ライリーによるラーガレッスンは、カリキュラムはなく一回完結形式で行われます。
  歌うラーガは、当日テリー・ライリーの判断で決まります。その為、毎回異なることが予想されます。
・何時から参加しても料金は一律です。
・お客様都合のキャンセルや日程変更は受け付けておりません。
 ご了承の上、お申し込みください。

◉フィールドレコーディングのワークショップ
The View Up Field Recording


[日時] 2024/2/11(日)14:00-18:00
[参加料金] 4,000円
[ガイド] 柳沢英輔、東岳志
[予約フォーム] https://forms.gle/WPSaNMUtLYzx8dhb8

しばしでは、日常の中に潜む豊かな世界を、様々な角度から見つけていき、他の分野に繋げていくワークショップを企画しています。

フィールドレコーディングは野外録音の側面だけでなく、
聴くという行為を通して、目の前にある言葉にならない出来事を
どう捉えていくかの道筋を作ってくれそうです。

この数年、身の回りにあるものに目を向けることが見直されつつあります。
日常では聞こえてこない音のレイヤーを意識することで新たな視点の発見があります。

今回はフィールドレコーディング的な感覚とは何か、座学の後、近所へ散歩に出かけ、実際に録音機材や耳を使って、小さな音、遠くの音、水中の音などを聴きながら、聴覚体験を深めたいと思います。
散歩でお貸しできる機材もありますが、有線のヘッドホン(イヤフォン)は各自お持ちください。
もちろんマイクやレコーダーなど録音機材をお持ちの方はご持参ください。

[ガイドプロフィール]


柳沢英輔
東京都生まれ。音文化研究者、フィールド録音作家。京都大学大学院アジア·アフリカ地域研究研究科修了。博士(地域研究)。主な研究対象はベトナム中部高原の少数民族が継承する金属打楽器ゴングをめぐる音の文化。フィールドのさまざまな音に焦点を当てた録音·映像作品を制作し、国内外のレーベルや映画祭などで作品を発表している。主な著書に『ベトナムの大地にゴングが響く』(灯光舎、2019年、第37回田邉尚雄賞)、『フィールド·レコーディング入門―響きのなかで世界と出会う』(フィルムアート社、2022年、第1回音楽本大賞·読者賞)など。
https://www.eisukeyanagisawa.com/


東岳志
奈良県生まれ。サウンドエンジニア。
2000年にフィールドレコーディングを始め、その手法で音楽の録音に従事。身体に関する知識を深め、食の領域にも活動を広げる。京都で「山食音」を立ち上げ、自然、食、音楽の融合する場を提供する。現在はサウンドインスタレーション製作やフィールドレコーディング音源の提供、ライブ録音などを行う。AMBIENT KYOTOでは音響担当。
https://takeshiazuma.com/

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