「K A R Y Y N」と一致するもの

Babyfather - ele-king

 ヒップホップの歴史を紐解けば、ハイプ・ウィリアムスという名前に出会う。ハイプは、ミュージック・ヴィデオにおいてラッパーをローアングルで撮った映像作家で、つまり、ラッパーを必要以上にでっかく見せた作家だ。USヒップホップ史には「ハイプ以前/ハイプ以降」という言葉さえある。UKのディーン・ブラントと名乗る男性とインガ・コープランドと名乗る女性が自分たちのプロジェクト名になぜ彼の名前を選んだのかは、いまところ秘密のままである。名前を盗用するにしても、なぜそれが「ハイプ・ウィリアムス」だったのか……、真っ当に想像していけば、ヒップホップ的映像の型=クリシェを作ったことへのおちょくり、パロディ、たんなるジョーク、シニカルなユーモアだったとなる。クリシェを弄ぶこと、おちょくることは、ディーンとインガのハイプ・ウィリアムスの作品に共通した態度だった。だが、そこにはリスペクトもあるように感じさせてしまうところが、彼らのややこしさでもある。
 それはドープでサグなイメージをバラ撒きながら、じつは頭で聴く音楽ということだ。他界した天才フットボーラー/戦術家のヨハン・クライフは、サッカーを足ではなく頭でやった人だった。ハイプ・ウィリアムスにとっての音楽も頭で作るものだった。彼らの音楽は基本インストだが言葉は欠かせないし、言葉は両義的に思えた。そもそも彼らは自身の名前からバイオからすべてをでっち上げて登場したのだから。

 ハイプ・ウィリアムス解散(?)後、しばらくディーン・ブラントなる名義で活動を続けていた彼だが、昨年からベイビーファーザー名義を使いはじめている。ほかにも@jesuschrist3000ADHD名義とか……ややこしい。覚えられたくない、というわけではない、覚えられたいけれど通常の覚え方では覚えられたくないということなのだろう。
 で、baby fatherとは未婚の父を意味する言葉で、スコットランドのヤング・ファーザーズを意識してなのか、あるいは本当に彼が未婚の父なのかはわからない。とにかく彼は2015年にディーン・ブラント名義で『Babyfather』なるアルバムを〈ハイパーダブ〉から配信のみでリリースすると、配信のみでベイビーファーザー名義の『UK2UK』、2016年の1月にはARCAが参加した曲「Meditation」を〈ハイパーダブ〉からフィジカル・リリース、さらに『Platinum Tears』を無料DLでリリースしている。そしてここに〈ハイパーダブ〉からフィジカル・リリースのアルバムのお出ましである。

 「これが私に英国人であることの誇りを与えます(this makes me proud to be British)」という言葉からはじまり、言葉はアルバムのなかで何回も繰り返される。移民の子として生まれ、クラブで働き、苦労しながら俳優になったイドリス・エルバの言葉で、彼にとって(そしてディーン・ブラントにとっても)〝英国人としての誇り〟〝英国人としてのアイデンティティ〟を覚えるのはクラブ・カルチャーであり、音楽というわけだ。ディーン・ブラントにしては、まっすぐなメッセージである。

 実際、新作の『BBF』は途中なんどか引き裂かれながらもUKブラック・ダンス・ミュージックのタフさにおいて楽観的な結末へと展開する。ディーン・ブラント名義の、2012年の〈ヒップス・イン・タンクス〉からの作品2014年の〈ラフ・トレード〉からの作品では、バラードを歌ったり、フォークをやったり、ゲンズブールをへろへろにしたような歌を歌ったりと、わけのわからない方向に走った彼だが、『BBF』の特徴は、彼が明らかにクラブ・カルチャーに寄っていることだ。
 ヒップホップ・ビート、レゲエのダンスホール、ブレイクビート、グライム、ゲットー・ミュージック……いかにもUKらしい、初期マッシヴ・アタックのような、UKの雑食的クラブ・カルチャーから聴こえる多彩なビートの数々、そしてベースとメランコリーがある。Micachuが歌う曲は、マッシヴ・アタックにトレーシー・ソーンが参加した“プロテクション”を彷彿させなくもない。ARCAが参加した“Meditation”もリズムはダブ/レゲエだ。ジャマイカ色はところどころに出ていて、アルバムで躍動するリズムからは、移民が作ったUKのストリート・ミュージックへのシンパシーを感じる。アートワークで描かれている、再開発されたロンドンの嫌みったらしいほど高級で美しい光景に消されているロンドンを描いているのだろう。

 日本でOPNがこれだけ評価されて、(まあ、OPNにクラブというコンセプトはないので比べるのも間違っているのだけれど、同じ時期に注目されたエレクトロニック・ミュージックとして、しかも欧米ではOPNと同じように高評価だというのに)なぜ日本ではハイプ・ウィリアムスが……ディーン・ブラントが……という思いがぼくにはずっとある。あまりにもUK的な捻くれ方が日本では受けない原因なのだろうか。ライヴにおけるストロボもボディーソニックな音響も、頭を使わせる仕掛けも、ぼくに言わせればハイプ・ウィリアムスのほうが上だった
 まあ、取材を受けるわけではないし、過去の数少ない取材でも嘘ばかりだったし、ディーン・ブラントはわかりづらいアーティストのひとりではあるが、この新作は思いのほかダイレクトに響く。何かの間違いで怪しげなラジオ局の電波をキャッチしてしまった、しかもそのラジオ番組では現代の、最高にハイブリッドなUKダンス・ミュージックがかかっていたと、そんな感じのアルバムで、英国人でなくても楽しめる。ひとりでも多くの人に聴いて欲しい。

interview with Hocori - ele-king


Hocori - Duet
Conbini

J-PopSynth PopHouse

Tower

 Hocoriのふたりの話には、「(笑)」が多い。
かたや聞き手への気づかいや持ち前のエンターテインメント精神から。かたや謙虚さや韜晦、自分たちへの客観的な視線から。心地よく笑いが差し挟まれ、空気がほぐされていく。とても自然で落ち着いた間合い。Hocoriの音楽の魅力もちょうどそんなふうだ。

 現在の音楽にかつてほどのカルチャー的な求心力はないかもしれないが、それでもポップ・ミュージックにはまだまだ役割がある。10代のめちゃくちゃさや20代の機動力ではなく、少し引いたような落ち着きの中に、苦みもけだるさも熱もとけているHocoriのダンス・ナンバーは、イヤホンの中でふと筆者を我に返らせ、ときおり忘れがたいフレーズをあたまの中に繰り返しては帰路の足取りを軽くしてくれる。ちょうどいい音で、ちょうどいい距離感で、少し深めに間合いに入ってくる。それは年齢が近いせいもあるかもしれない。本で読むものとも映像として入ってくるものともちがうやりかたで、日常の中にとけこみながら、その風景を少し揺すぶって弾ませてくれる。彼らの息づかいを通して、いま生きている場所へのシンパシーの回路が開いていく。

 桃野はモノブライト、関根はgolf、それぞれ別にバンドの活動があり、彼らはそれらと並行して、つくりたいときにつくり、やりたいことだけをやり、出せそうになったら盤を出すというこの「ホコリ」を積み上げている。そうした緩やかなスタンスに、彼らの音の気持ちよさと鋭さのヒントがあるだろう。ガツガツいくだけが能ではなく、ただ続けるだけが吉でもない。このたびリリースされた5曲入りEP『Duet』を題材に、彼らのありかたについて訊ねてみよう。

■Hocori / ホコリ
ロック・バンドMONOBRIGHTのフロントマン桃野陽介と、エレクトロ・ポップ・バンドgolf、映像グループSLEEPERS FILMにて活動する関根卓史による音楽デュオ。2014年に結成され、2015年7月、ファースト・ミニ・アルバム『Hocori』を発表。アパレル・ブランド〈ユキヒーロープロレス〉とのコラボ盤『Tag』などにつづき、2016年3月、モデルの田中シェンを迎えた企画盤『Duet』をリリースした。

以前お話をうかがってから、少し時間が経ちましたね。Hocori自体はとてもマイペースにご活動されているユニットだと思うんですけれども、この間、おふたりはそれぞれどんなことをされていたんですか? 桃野さんはバンド(モノブライト)のほうが動き出したりしましたよね。

桃野陽介(以下桃野):そうですね。バンドのほうの曲をつくったり、レコーディングのタイミングも近かったので、Hocoriと並行してかなり引きこもり気味に集中していました。引きこもるのは珍しいんですけどね。でも、ライヴもなかったですし。

ああ、年内はなかったですもんね。

桃野:ただ、今回は関根さんがトラックをまるまるやっているので、僕はメロディとか詞だけというか──バンドではけっこう頭を使ってデモをつくっていたけど、こっちのほう(Hocori)では関根さんのトラックに感じたものを乗せていく、というやり方になりましたね。

関根卓史(以下関根):より合作っぽくなっているかもしれないですね。『Hocori』は半分くらい桃野くんのデモから起こした曲があったけど、今回は一からつくっていったんですよ。僕から投げて桃野くんから返してもらう……そういう曲しかないんで。

それは大きくちがいますね。今回の盤を考える上で根本的なことかなと思います。関根さんはSLEEPERS FILMのほうでお仕事として映像をつくったりという時間が長かったんですか?

関根:そうですね。あとはミックスとか、そういう仕事もわりとやっていました。自分のgolfのほうの音源も作っていましたが……、ついに出せなかったですね(笑)。

桃野:ついに(笑)。

ははは。きっと、このHocoriっていうプロジェクトは、その意味ではやりやすいんでしょうね。リラックスしてつくれるというか。

関根:停滞しないっていうか。いい感じに責任が分担されるので(笑)、重くないんですよ。

桃野:そう、重くない。

関根:すごくいいですね、それが。健全って感じ。

あはは。縛られずに、やりたいことだけやれると。

関根:そうですね、やったことのないことをやれたりとか。かなり貴重なことだと思います。

そうやって自分たちのペースを保てるのは、このユニットの肝かもしれないですね。ほんとに、のびのびつくられている感じがします。

今回はもうちょっと「聴かせたくて」つくった感じがあるかなと思います。目の前にいるひとたちに。(関根卓史)

さて、リリースなどを読むかぎりだと、今回の作品はかなりはっきりコンセプトが掲げられていますね。「聴いて見てオシャレになれる新しい1枚の続編」。

桃野:ははは。

とすれば、この一枚の中におふたりの「オシャレ」の観念とか基準が反映されているというふうに読めますが、どうですか? 

桃野:まずは、好きなことをやってますよね。それから、デュエットということを意識しているので、コラボレーションの要素は強いです。あと、以前は曲をつくってから──つまり盤を出してからライヴをやるという順番でしたけど、今回はライヴをすることで「こんな曲も欲しいな」という必要が生まれてきたことも大きいかもしれません。僕だけで歌ってるのもなあ……って。いっしょに歌おうよというノリが出てきましたね。

ライヴのプロセスは今作にとって大きい、と。

関根:それは大きいですね。むしろ、その雰囲気がいちばん先にあるかもしれません。

なるほど、そう言われてみれば『Hocori』はもっとベッドルーム感が強かったかもしれないですね。

関根:そう、それに比べれば、今回はもうちょっと「聴かせたくて」つくった感じがあるかなと思います。目の前にいるひとたちに。

前に向ける感じ、一歩出る感じはよくわかります。まず関根さんにおうかがいしたいんですが、今回も総じてファンキーなシンセ・ポップで、そのあたりは前作の延長上にあるものかと思います。一方で、たとえば音色的にトレンドとして意識したものなんかはありますか?

関根:ああ……トレンドとはけっこう無縁かもしれないです。でも僕の中のトレンドはあって、今回はLinn Drumの音をたくさん使いたかったのと、707(Roland TR-707)っていうリズムマシンも使いたかった。あとはエレキ・ギターを使いたかったですね。

ねえ! そこは印象深かったですよ。1曲目もそうですけど、その次とかも(“Game ft.田中シェン”)。

関根:そうそう、ロングトーンのエレキ・ギターが使いたかったんですよ。そういうふうに、やりたいもののキーワードはあって。自分でちょうどブギーっぽいものとかシンセ・ファンクとかをよく聴いていたので、その影響もあるかもしれないですね。あとは前回いただいたハウスの本(『HOUSE definitive 1974 - 2014』)をずっと読んでましたよ(笑)。

おおー、ありがとうございます。ブギーはやっぱり、ここしばらくは流れが来てたみたいですけどね。その意味では、トレンドは意識せずとも、時代とちゃんとリンクしている部分はあるんじゃないですか。

関根:ああ、自然とそういうところはあるのかもしれないですね。……そうできているのかわからないなあと思いながらつくっていたんですが。

でも、“Free Fall”はファッション・ブランド〈ユキヒーロープロレス〉さんのショーケースで使われるということですよね。それは流行とか世間とも無関係でいられない部分というか。この曲は、ショーケースのお話ありきでつくられた曲ですか?

“Free Fall”

関根:発端としてはそうですね。むしろ曲のイメージとかは向こうからいただきました。ミュージシャンの方ではないので、具体的にこうつくってほしいというような要望があったわけではなくて、印象だけですけども。「バーンといく!」みたいな。

桃野:感覚的なものを伝えてくださったわけです(笑)。

ははは。でもファッション・ショー的な場所でかかるわけですよね。ランウェイで鳴るっていうようなことを意識しました?

関根:プロレスとかだとオープニングが重要じゃないですか。入口の曲というか。それに相当するものをつくってほしいということだったので、僕らなりに考えまして。……本当にこれで合っているのかというのはわからないですが。

桃野:そもそも〈ユキヒーロープロレス〉の手嶋(幸弘)さんというひとが、ファッションの方ではあるんですが、プロレスとか特撮とか、ヒーロー的要素を取り込んでいらっしゃるんですよ。だから曲のイメージなんかも「闘いの前の男の気持ちを……」みたいにおっしゃって。でも、「闘いの前」といっても……僕は闘ったことがないというか、闘わずに生きてきたわけでして。

関根:30数年間ね(笑)。

あはは! 深夜の愛を歌ったりされているわけですからね。

桃野:そう。でもとにかく熱いものをお持ちの方なんですよね。レスラーのパッションがあるというか。だからファッションと僕らが交わるといっても、このかたがすでに変化球といいますか。ファッション業界において。

ああ、王道ではないと。

桃野:そう、言っていることもそうだと思うんですよね。僕は前の作品のときから、Hocoriでは夜の歌を歌いたいと思っていたところがあるので、その気持ちとうまく合わせられるようなものにしたいなと──言葉はプロレスっぽいものを意識しながらも、夜の男女の雰囲気やメッセージになっていればいいかなって考えていました。

なるほど。歌詞の冒頭のカウントダウンみたいな部分(「3.2.1 Are you ready?」)も、闘いの幕開けを告げるようなイメージだったり?

桃野:そうですね。格闘的な言葉を散りばめてやりたいなというところですよね。

関根:盛り上がっていく雰囲気を解釈するとこうなったという。

「そうでもないひと」代表として、こんなに楽しいことができるよというものを示せたらいいのかなと思います。何か……ポジティヴなものを。(桃野陽介)

なるほど。では「前に行く」雰囲気が感じられるのは、曲そのもののコンセプトでもあるわけですね。……しかし闘ってこなかったひとが考える闘いの曲というのはおもしろいです。

桃野:普通の家庭でしたしね。パンクの人でもないし……。

関根:怒ってない。

桃野:そう、怒れてない。だけど、どっちかというと僕のほうが怒っていると思います、関根さんと比較したら(笑)。

ははは。怒りが根本にある音楽もありますけれども、おふたりのモチヴェーションからは遠そうですね。

桃野:それに、何かに秀でる人生を歩んできたわけでもないので。「そうでもないひと」代表として、こんなに楽しいことができるよというものを示せたらいいのかなと思います。何か……ポジティヴなものを。

怒りを楽しいものに読み替えるというか。その感じはよくわかります。

桃野:いままでより明るい要素を考えようという気持ちは、わりとはっきりあったと思います。

関根:そうだね、すぐマイナーになっちゃうので。

たしかに(笑)。

関根:僕の中では勝手にハードロックっていうのもありました。すごく浅いハードロックだけど。

ギューンっていうのはね、ほんと今回チャーム・ポイントっていうか。すごくいいですよね。関根さんのすごく巧妙な……老獪といってもいいようなプロダクションづくりによって、なんともオシャレに仕上げられていると思います。

関根:ヤなかんじのギターをね……入れてるんですよ(笑)。

だからすごく楽しくつくられていつつ、攻めた曲にもなっていると思うんですが、一方では「お仕事」の作品でもあったわけじゃないですか。

関根:題材をもらってつくったという意味では、まあ、そうではありますね。

そういうのは、Hocoriとしては初めてになりますか?

関根:そうですね。

それは、クリエイティヴの上ではなにか作用があったと思います?

桃野:僕は、何かテーマをいただいてつくるというのが好きなので。マイペースにつくっているのとはちがう刺激があった気がしますね。「ない発想」をいただく、というか。

関根:僕らのプロジェクト自体がそういう発想の下に成り立っているから──

桃野:外部からの刺激でつくる、みたいなね。

関根:そう、もともとこのふたりの間での成り立ち方でもあるから、けっこう自然に受け入れられましたね。何の違和感もなく、Hocoriっぽい音楽として消化できているかなと思います。

ええ、ええ。お仕事というと「割り切る」ものというイメージがありますけど、ぜんぜんそんなふうな感じがないですね。

関根:むしろ楽しんでいるという感じですかね。とくに今回はそういうひととお仕事できている。あくまで僕らのスタンスを理解してくれた上でいっしょにやろうよと言ってくれているので。だから、「仕事」であるために何かができなかったというようなことはないですね。

桃野:そうですね。「男」とか「闘い」とかも、べつに押しつけられるわけではなかったですから。「Hocoriの中のそれをお願いします」というような。

絵を描いていたりとか、発想を楽しむひとなんだなあと思うところがあって、ものづくりを楽しむひとなのかなあと。(桃野)

なるほど。2曲目の“Game ft. 田中シェン”ですけれども。ピアノからはじまって、ファンキーなベースが入ってきて、シンセやらギターやらが入って……って音数が増えていきつつもミニマルな感じが崩れないですよね。抜き差しが絶妙です。これは田中シェンさんが入るということで、詞とかに影響はありました?

“Game ft.田中シェン”

桃野:もともとデュエットというか、コラボ的なものをやりたい気持ちはあって。それは最初のミニ・アルバムの頃からアイディアとしてはありましたね。田中シェンちゃんは、“Lonely Hearts Club”のMVに出てもらっていたので、そこからのきっかけです。インスタグラムとかを見ていても、絵を描いていたりとか、発想を楽しむひとなんだなあと思うところがあって、ものづくりを楽しむひとなのかなあと。歌は聴いたことがなかったんですけど……というか一回も歌ってないかもしれないですけど、そういう心意気のひとはいい声だろうと予想して。きっとお願いしても大丈夫だろう、なんとかなるだろうと思ってお願いしたら、「やってみたいです」ということになりました。

そうなんですね。お願いする前から曲はできていたんですか?

桃野:デモみたいのはありましたよね?

関根:そうですね、でも同時進行だったかな。「これを歌ってください」という感じではなかった(笑)。ちゃんと用意ができている段階ではないのに「やってくれよ」と言っている感じで、ちょっと無茶なお願いだったかもしれません。

でも、まさにそれこそインディ的なつながりというか。準備できたものの上に座ってもらうっていうのじゃなくて、ある意味理想的ですね。

関根:そうですね。いつになったらその曲が出てくるのかなって思われていたとは思いますが。やるって言ったけど、何をやるのかなーって(笑)。

桃野:何かやりたいなあというくらいでずーっと止まっていたので(笑)。

じゃ、田中さんがどんな声だったりヴォーカリゼーションだったりっていうことは何も知らずに進めていった?

桃野:まるで知らなかったですよね?

関根:そんなことありえるのかという。ほぼぶっつけ本番なかたちでしたね。

すごい(笑)。でも結果とてもハマりましたね。

関根:めちゃくちゃよかったですね。

桃野:やっぱりよかったじゃん! と。「ジャケ買い」に近いものがありましたけどね(笑)。やっぱいいジャケっていいアルバムなんだなという喜びに近いものが。

ははは。でも、それを曲でもって実証したわけですから、結果オーライというか。もともと歌い上げるようにはつくられていませんしね。どちらかというとコーラスっぽい感じで。

関根:そこはそうかもしれませんね。

では、彼女が歌ってくれるものとしてではなくて、いちおうご自身の曲のような感じで言葉をつくられているわけですね。

桃野:そうですね……二人称的なものを出した歌をHocoriでやりたいなと思っていたので、どっちみちハマるような気はしてましたかね。さすがに別のひとでもいいとは言いませんけれども、歌として「二人の関係」を歌うものであれば大丈夫かなあと。

二人称的というのは、二人の関係性に焦点があたるものっていう意味ですかね。なるほど。

桃野:そうなればいいなあと。“God Vibration”もそういう曲のつもりなんです。でも今回はとくに夜の営みっぽい曲なので……それはできたらかわいいひとがいいなあと。

ははは!

桃野:欲望が注ぎ込まれていますね(笑)。

かつけばけばしくないというか、少し中性的な雰囲気もあって、素敵な方ですよね。サウンドの点ではどうですか。とくにそういうことには左右されることなく?

関根:そうですね、これ自体はかなりミニマルにつくったもので……ベースラインだけで曲の展開を構成していく感じなので、どう料理してもいいトラックだなあと自分では思っていて。そこに桃野くんがおもしろいリリックとメロディを持ってきてくれたので、奇妙な感じで。これは成功だなあと感じました。

どんどん空気が入れ替わってもいいと思っているし、濃くなってもいいと思ってるし。さらに違和感を乗せられるひとをくっつけられれば楽しい、みたいな。(関根)

桃野さんも本当に桃野節というか、独特のフロウをお持ちですからね。ああ、これこれ、きたぁ! っていう。はっきり記名性を持った歌唱ですよね。しかも関根さんのトラックに対してこってりめというか……

関根:そうですね(笑)。こってりしたものが乗ってくるのが本当に楽しくて。

桃野:Hocoriはそれが売りですね(笑)。どんなに濃くしてもけっこうちゃんとマイルドに混ざるという。僕はけっこう安易なので、この曲なんかはトラックをもらったときに「ピアノではじまる曲かあ」と、すぐにホール&オーツを思い浮かべたので、じゃそういう感じにしようと思いまして。

関根:PVが送られてきましたね。“プライヴェート・アイズ”のPVが。

ははは!

関根:ぜんぜん思っているものがちがったんですけど、やっぱいいなと思いましたね。おもしろいです。

Hocoriはマインドもインディだし、音楽もわざわざポピュラリティにおもねるようなものじゃないのに、プロダクションが本当に整ってるんですよね。そこはあんまりインディ感がないというか。目立たないけどキメが細かい。今回は他のゲスト迎えられて、きっと手ごたえがおありだと思います。

関根:二人とも閉じたものにする気はなくて、どんどん空気が入れ替わってもいいと思っているし、濃くなってもいいと思ってるし。さらに違和感を乗せられるひとをくっつけられれば楽しい、みたいな。

この曲は現段階での、そのひとつの極点かもしれないですね。

関根:ああ、そうかもしれないですね。僕ら的にも。いちばんわからなかったかもしれない。最後まで。いったいどうなるのかが(笑)。

桃野:(田中シェンさんの)歌知らないでやってますからね。

関根:きっと良いに違いないということだけで、全員をつれていった。

ちゃんと駅に着きましたね。

関根:ほっとしたって感じです。

前回のインタヴューでも言っておられたとおり、桃野さんの独特の韻律と語呂合わせというか、意味はわからないんだけどこれでしかない、なぜかストンとはまる、というものがあるじゃないですか。フレージングふくめ。

桃野:ははは。いや、その、この曲の詞の場合は、行為をどう音楽的に伝えるかという問題もあったので……。

結果バンド名でそれをほのめかすという(笑)。
※(「a-ha ABBA リフレインしてAH-BA」“Game”歌詞より)

桃野:ABBAとかa-haという形で(笑)。

こういう奇蹟みたいなものがあるわけですよね、関根さん。

関根:これが来るとほんとに僕は楽しくて。なんだよこれ、と思って(笑)。

桃野:意味はないわけですから、「a-ha」とか言ってても。

あー、すごいエイティーズとか好きなんだなー、くらいにも聴こえますしね。

男二人組っていうと、どうしてもエレキ・ギターとヴォーカルみたいなスタンスですもんね。エイティーズって。(桃野)

“狂熱の二人”なんですけども。これはもう、最強感がやばいです。無敵感というか。男声コーラス最強ですね。

桃野:これはライヴで先にやってたんですよ。

関根:それがすごくよくって。ウケもよかったし、僕らも楽しいから。……僕と桃野くんの声って、ぜんぜん合わないんですよね。合わないというか、ちがうというか。だから録るとすごくおもしろいんですよ。

ヴォーカルの比重がわりと半々ですよね。

関根:曲名で「二人」って言ってるだけあって、かなり「デュエット」な曲になりましたね。

桃野:ライヴでよかったっていうこともありますけど、盛り上がるというか、明るいのもひとつやっとこうか、ということで。

関根:明るくなってるかは謎だけど(笑)。まあ、二人で歌えるいい感じのが欲しいということになって。

Hocoriでこんなにがっつり関根さんが歌われるのは──

関根:初めてですね。Cメロ歌っちゃってますよ。

ははは。私はこの曲がいちばん好きなんですよ。男性が二人で暑苦しく歌うっていうのがいいですよね。

関根:最近あんまりないですよね。そこは思いましたね。

ホール&オーツはちがうとはいえ、少しそういう気分もあったんですかね。

桃野:男二人組っていうと、どうしてもエレキ・ギターとヴォーカルみたいなスタンスですもんね。エイティーズって。

関根:(ギターに対して)オマエ、出てきちゃったな、みたいなパターンすごくあるもんね。ずっと後ろにいたのに(笑)。でもまあ、僕はどうせ出るならがっつり出ようと思って。そこはすごく意識しましたね。
 でも、僕と桃野くんの声が混ざると、びっくりするくらい僕の声が前に来ないんですよね。自分のをめちゃくちゃ前にしないとそろわない。ほんと、恐ろしいくらい出てこないんですよ。

いや、恐ろしい声をしていらっしゃいますから。それは単に声量の問題とかではなくて?

関根:たぶん占めてる音域が全然別だと思うんですよ。

桃野:僕は中域をずーん! とひた走るような声なので。

関根:僕のほうはもうちょっと上と、下に滲んでいるので……いくらやっても絡まないんですよ。

桃野:ドンシャリが(笑)。たぶんいちばん耳にくる中域を僕ががっつり占めちゃっているから。

関根:でも逆に言えば、うまくヴォーカルを配置できるんですよ。なので、音像としては一体になっていると思います。ミックスのイメージとしては真ん中が桃野くんで、まわりが全部僕、というような。そこはおもしろかったですね。

桃野:サビとかすっごい混ざりましたよね。

だからといって、強い個がひとつあって、それをもうひとつが包んでいるというよりは、ちゃんと競合しているというか。「狂熱の二人」っていう感じがしますよ。ということは、歌詞とかは自分の部分だけ分担して?

関根:そうですね、いちおう考えて。

桃野:でも掛け合いをしようというときは、関根さんが「こんなメロどう?」って投げてくれたものに歌詞をつけたりはしました。

音なりメロディなりを優先してつくられているということですよね。ものすごく複雑な詞というわけじゃないですから、もともとそこまで作りこむということはないのかなとは思いますが。

関根:そうですね。

それこそクラシックなヒップホップみたいな、みんなでワイワイやってる感じ、それでコーラスまでやっちゃうようなイメージをなるべく持てればいいなって。(関根)

この曲は本当に好きなんですよ。つくる上で、仮想のライヴァルというか、これに対抗しようというようなものがあったりしました?

関根:それは、まったくないんですよ。すごくオリジナルなものだと思います、その意味では(笑)。なにか、「できちゃった」という感覚がありますね。

桃野:『狂熱のライヴ』って意味ではレッド・ツェッペリンですが(笑)。

関根:名前だけね! 

桃野:あの雰囲気はすごくイメージしたんですけどね。「ギターがこっちは歪んできたぞ、どれどれこっちも……」みたいな。

関根:まあ、ノリはね(笑)。

ははは!

桃野:そう、ノリは(笑)。でも、いびつさ、ということだと、レッド・ツェッペリンはすごくいびつですよね。

関根:うまいのかうまくないのかよくわからない。

桃野:たぶん、どっちかの比較で言えばうまくないのかもしれない。でも、4人混ざったときのノリみたいなものがかっこいい。その意味ではこの曲もそういう揺れがあるような気がします。

関根:僕はHocori全般について、ポップス──も、そうなんですけど、わりとヒップホップに近いイメージを持ってつくっているところがあるんですよね。たとえば“狂熱の二人”とかも、それこそクラシックなヒップホップみたいな、みんなでワイワイやってる感じ、それでコーラスまでやっちゃうようなイメージをなるべく持てればいいなって。この曲もほとんどワン・ループでつくっているんですけど、それこそアフリカ・バンバータだったりとか、みんなでガヤガヤとやってるノリが出てたらいいなって思います。まあ、比較になっているかどうかはわからないですけど(笑)。

トラック自体が、そういう空気なりノリなりを乗せるための枠というか乗り物になっているというか。それはたしかに感じられますよ。

関根:そうですね、そういうものがあるようになればいいなというふうには思っています。気持ちとしてはカニエ・ウェストに近いというか(笑)。

ええ、ええ。曲がとても開かれたものだっていうのはわかります。趣味性はあるけどけっして閉塞しないし。

関根:やりたいことやりつつ、みんなと混ざって、それで新しいものにしようと考えているというか。ヒップホップのひとたちのそういうマインドが好きなんです。「いいよね」とか言いながら、ほんとにいいかどうかわからないものをみんなでつくっていっちゃう、みたいな。すごくシンプルなことをやっているんだけど楽しい、という感じ。

「作曲」ではなくて、なにか空気を混ぜていくというような考え方ですかね。

関根:そうですね。だから枠組はシンプルなほうがいいし、それでいて特徴がちゃんと出たほうがいいし、きれいにまとまらないほうがいいし。

でもほんとに、そのシンプルなベースラインがとても艶っぽかったり、とにかく洗練されているんですよね、関根さんのつくられる音っていうのは。しかし、いま「みんなと混ざる」っておっしゃいましたけど、実際は二人ですよね(笑)。二人だけど「みんな」って雰囲気は、言われればたしかに感じますね。

関根:二人だし、閉じた空間という気がするけど、でも何かいろんなものを巻き込んでつくっているイメージではあるというか。

桃野:想像はしていますね。いろんなひとを巻き込むような感覚は。しかし“狂熱の二人”っていう曲で、歌い出しが「狂熱の二人」っていうのは……

(一同笑)

桃野:もう、すごいベタな……。でもサビ始まりなんだ、みたいな(笑)。

関根:洒落たタイトルはなんだったんだ、って(笑)。

ツェッペリンを下敷きに感じさせつつ、でもすごいテンションのタイトルで素敵ですよ。普段使わない言葉じゃないですか。

関根:言い過ぎ感がありますよね。

そう、過剰さがいいですよね。邦題つけたひとはすごいと思うんですけど、「熱狂」はあっても狂熱ってふつう言いませんから。

桃野:マスタリングのとき、間違えられてましたからね、この曲。「熱狂の二人」になってました(笑)。普段使わない言葉だから、パッと見て「熱狂」ってインプットされちゃったんでしょうね。

その違和感は大事なものだと思いますよ。ほんとのところはどこから付いたタイトルなんですか?

桃野:先に詞ができていたんで……。でも、もともとは英語のタイトルで縛りをつけていたんですけど、1曲くらいは日本語もいいんじゃないかと。それに「狂熱の二人」でしかないという感じもあったので(笑)。ライヴでもずっと呼び名がない状態たったんですよ、この曲は。

あと、「の」の用法も特殊。『進撃の巨人』の「の」みたいな。どういう「の」なんだっていうところにもインパクトというか違和感があります。

桃野:それは、『狂熱のライヴ』だったので……。

いや、「ライヴ」ならわかるんですけど、「二人」っておかしなことになりませんか(笑)。そういう違和感が、詩ってものを生む。

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ちゃんと前に進んだ感じは僕らの中にもありました。まったく関係のない別のことをやったわけではなくて、前の作品を踏まえた上で、音楽的に前に進めたのかなと。(関根)

ではぜひ4曲目のお話も。これは「4曲目」というよりも“Intro”(『Hocori』収録)のリ・エディット的という……?

関根:そうですね。「リ・エディット」ということにしたんですけど、僕の〈Conbini〉ってレーベルにはもうひとり相方がいて、〈ENNDISC〉っていうレーベルをやってるひと(DEGUCHI YASUHIRO)なんですが、そのひとといっしょに前の作品の1曲をぐちゃぐちゃにして、再構築して。そしたらこうなったという感じです。

リ・エディットというかたちだからこそできたことかもしれないんですが、最初、わりと流行とは無縁のところでつくった盤だとおっしゃっていたじゃないですか。でも、この曲はある意味でいちばん流行を感じるというか。

関根:いまっぽい?

そうそう、いまっぽいと感じましたね。それこそオルタナR&Bみたいなものから〈PCミュージック〉みたいな音楽性までの間をとるような。

関根:たしかにそれは多少あるかもしれないですね。

それはやはり「リ・エディット」みたいなかたちだからこそできた実験、みたいなことでしょうか?

関根:そうですね、Hocoriらしさみたいなものを僕も出口さんもつかめているからこそ考えられることというか。もともと歌が入っていて、それもすごくよかったんですよ。もともとのアレンジに歌詞をつけていたものがあったんです。でもそのまま出してもおもしろくないということで、再構築しようと。それはわりと気軽な感じでやったんですけどね。

あ、気軽な感じで。唐突に終わる感じもありますね。やりかけ感というか。

関根:いい曲っぽいんだけど……みたいな(笑)。

そうそう、いい曲っぽいんだけどここまでなんだ? という感じ。5曲目を1曲としてカウントするかどうかはいったん措くとして(“Game”のインスト。コンセプチュアルな1曲と考えることもできる)、4、5曲というコンパクトなものなのに、けっこう多彩な音楽性が盛り込まれているんですよね。前作からは基本的な方向性は変わらないながらも、すごく異なった作品だと思います。

関根:そうですね。煮詰められた感じもしますしね。ちゃんと前に進んだ感じは僕らの中にもありました。まったく関係のない別のことをやったわけではなくて、前の作品を踏まえた上で、音楽的に前に進めたのかなと。

桃野:より混ざって、ちゃんと音をつくれる体制になったんじゃないかなという気がしますね。

世界中でいちばん僕が僕の声に飽きているんです! そこをどう楽しくやるか。(桃野)

関根さんに対して、前回から差別化してとくにやってほしかったこととかはありました?

桃野:一方的な要望はとくになかったですけど、いっしょに歌いたいというのはありましたよ。やっぱりgolfのフロントマンというのもあるし。Hocoriで関根さんの声を聴きたいなということは大きかったと思います。……僕の歌にいちばん飽きているのは僕なので。

関根:あはは!

桃野:たぶんそうなんですよ。世界中でいちばん僕が僕の声に飽きているんです! そこをどう楽しくやるか。音楽は自分が楽しい、大好きなものなんだけど、その音楽をやる上で自分の声をどう楽しむかという問題がありますからね。そのときに、コーラスだったりとか、ちがう声というものが僕にとってはすごく大事で。

声って、プロダクションというのとはまた別のレベルでも意味を持ちますもんね。

関根:そうですね、かなりのレベルで音楽の識別子になるというか。絶対的におもしろいものですし。絶対にそこがオリジナルになりますから。

桃野:最終的に、決定的にちがってくるものは声ですからね。

たしかにそうですね。ひとの声を聞くときは音楽的な耳で聞いてしまうものですか?

桃野:僕、けっこう誰の声か当てるの得意なんですよ。テレビっ子なんですけども。いつも当てっこしてるんです。「あ、いまの声は有村架純ちゃんだ」とか。……まあ、主にドラマです。

(一同笑)

桃野:CMの曲なんて、たまにわからないときは調べたりして。

テレビっ子のドラマ好きというのは以前もおっしゃっていましたけれど、言葉とか世界観にも影響ありますもんね(笑)。関根さんのことはヴォーカルとしてはどう見えます?

桃野:僕は好きですね。最初に聴いたイメージは、やっぱりバンド畑からすると、マシュー・スウィートの──

ああー! たしかに。

桃野:そう、ちょっとハスキーというか、なんというか。あの声の感じがあって、じつはギター・ポップとかはめっちゃハマるんだろうなとか思いながら聴いてはいて。……だからマシュー・スウィートだと思ってしゃべります。

ははは!

桃野:ははは! そういうイメージを、初めてしゃべったときにも持ちました。歌声のほうがいいですけども。

Hocoriのまわりには、どこかギター・ポップ的なものも感じられるかもしれないですね。直接的に参照する部分はないと思うんですけど、成分の中に含まれているというか。お二人ともそこは共通していますか?

桃野:もともとの立ち位置みたいなものにはあるかなと思います。

関根:僕自身はそんなに熱心に聴いていたわけではないんですけど、やっぱり言われることが多くて。

へえ。いまピンときました。

自分らからただ自然に流れ出しているものが、懐かしいものになっているというか……原体験が出てきているんでしょうね。(桃野)

桃野:僕はモノブライトとかで「いい曲」風にしたいなと思うときは、基本マシュー・スウィートの『ガール・フレンド』(1991年)を聴きますね。いい曲いっぱい入ってるんで。

ははは! でも、なるほどですね。「いい曲」の概念そのものになっていると(笑)。

桃野:あれはほんと、そうですよね。まずあのアルバムを聴いて、それで方向性を決めるんですよ。でも、そうやってつくっていくとだいたいコード感が近くなってしまって。

リアルタイム……じゃないですよね?

桃野:いや、僕その頃、小3ですもん。さすがにあんな毛皮のコートを羽織って「寒いね」みたいなことは……

(一同笑)

ちょっとませてますね。

桃野:まだしも『キミがスキ・ライフ』(2003年)とかなら、奈良美智さんのジャケットとか可愛いですけど。

それもまたちょっとませてるとは思いますが(笑)。でも流行云々は意識しないながらも、お二人ともちょっと古いものに気持ちが惹かれるんですかね。そういう、ある種「懐かしい」モードはこれからのHocoriにも基本的に引き継がれていくものです?

関根:どうなんだろう、わからないですね。たしかに言われてみればちょっと懐かしいものなんですけどね、全部。

桃野:自分らからただ自然に流れ出しているものが、懐かしいものになっているというか……原体験が出てきているんでしょうね。10代のときに刺激を受けたものが、リアルタイムではないにしろ、身体に染みついたものとして出てきている。

関根:でも、どうしたって懐かしくて哀しい感じになるんだよね、たぶん。

ああ、「どうしたって」そうなる。それはほんとにこのユニットの個性ですね。“God Vibration”のPVとか、あの駐車場のターンテーブルで外国人が踊っている感じ……あの切ない、夜が回って音楽が回ってっていう感じ。あそこには回るということが醸し出すノスタルジーみたいなものがありますよね。その上でHocoriの音楽はホログラムみたいに回るんですよ。

桃野:アナログ世代ではけっしてないんですけどね。でも、回るっていうのは何かあるかもしれないですね、音楽との間に共通するものが。

メリーゴーランドとか、懐かしいものは回る(笑)。

関根:繰り返す、とかね。それはあるかもしれないです。

どうしたって悲しくなるというのは、どうしたって懐かしくなるってことでもあるというか。

関根:意識しなくてもついて回るのかなあ。限りなく未来感を描いているつもりでも、僕らがやるとどこか懐かしくなってしまう。

桃野:未来っていうのはすでに懐かしいですよね。……これ、なんかカッコいい言葉じゃない?

ははは。でも、わかりますよ。『未来世紀ブラジル』とかっていうとほんとに懐かしくなってしまいますけども。

桃野:どのみち全部懐かしいものってことにもなっちゃうかもしれないですよ。自分たちが新しいものだと思ってつくっていても。ポストロックとかが出てきたときも、無理してんなって感じたりしましたもんね。これ、ジミヘンとかがセッションでやるようなことじゃない? 無理して新しくない? って。ジミヘンのライヴの余韻の部分を曲として出しているのがトータスみたいな感じがしてて。

ああ、なるほど。当時は「壁紙の音楽」って呼ばれていたくらいなので、当たっているんじゃないでしょうか。マイク前でエゴを剥き出しにして歌うのに対して、壁紙みたいな音楽がポストだという。

和感を大事にしているというのは、新しさを求めているということでもあって。毎回、新しいプロダクションをつくっているイメージではありますね。(関根)

では、本当に「狂熱のライヴ」をやることはないんですか?

関根:やりたいよね。

桃野:びっくりするほどライヴの予定が決まってないんですけどね(笑)。

いや、コンセプトの上だけでも(笑)。今回はぜったい哀しくしないぞ! とか。

関根:それは、ぜんぜんあり得ますね。

それでもどうしても哀しくなってしまうなら、それも素晴らしいですね。なんでしょう、お二人から考えつかないような音って。

桃野:なんだろう……。

関根:スタイルじゃないんだろうと思うんですけどね。ジャンルとかではない部分で新しさがあると、思いもよらないことになるかもしれない。

桃野:かといって、トム・ヨークみたいに工事現場の音を録って……っていうような方向もはたして新しさなのかどうか。本当に新しいものって、何なんでしょうか……。

そういう話になってきますよね。

桃野:新しいものなんて生まれうるのか、みたいな。

関根:僕の中では、Hocoriの作業というのは、「○○みたいに」っていうふうに思ってつくらないことが多いんです。本当に。違和感を大事にしているというのは、新しさを求めているということでもあって。毎回、新しいプロダクションをつくっているイメージではありますね。アウトプットとして新しい感じが出ていないのは、まあ、キラキラな音にしていないからですかね……。

ああ、なるほど。キラキラふうに想像させるところはあると思うんですけど、実際キラキラじゃないですよね。

関根:だから、新しい音楽という意味ではすごく意識してつくっているんですよね。自分たちでコントロールできないもの同士がぶつかったところに何かないかなあとずっと思っている、というか。

桃野:本当に新しいものを探すのはすごく大変なことなので、やっぱりいま新鮮な音を探すということになるかもしれないですね。それが違和感につながるものなんですかねえ。

Hocoriは、お互いが違和感を与えあっているわけですもんね。

桃野:そうですね。僕は、ソロで、ひとりで音楽活動をやるというのはぜんぜん考えられないタイプで。たとえば「関根さんがやろうとしてたのはこういうことか」って、発見することで何か新しい要素に出会いたいんです。そうじゃないと自分の楽曲が退屈に感じちゃうんですよ。

ただでさえご自身の声に飽きているのに(笑)。それで、違和感に出会いにくいソロ活動はあんまり考えられないと。

桃野:僕はそうなんですよね。予想しかつかない。予想通りでしかない(笑)。ソロってそうじゃないですか!?

(一同笑)

桃野:だから、予想通りを新しいと思ってやれる方というのがうらやましいです。それでユニットを組んだりバンドを組んだりということになりますね。

それはおもしろいですね。ソロだからこそほんとにやりたかったことがやれる、というわけではない。

桃野:そうですね。

Hocoriは新しい記号を準備するとかそういう派手な新しさを示すユニットではないと思うんですけど、「そういえばあまり聴いたことがない」という意味では攻めていますよね。ただ、趣味が良すぎて。すごく地味な差を突いてくるわけじゃないですか、関根さんなんて。けっしてわかりやすい新しさじゃないんですよね……。

関根:わかりやすくはないかもしれないですよね(笑)。

雑食的にいろいろなものを取り入れるけど、いまのプロダクションでやるし、流行もうまく入れるけど、最終的には強烈な個性に落とし込んでいく──そういう感じが好きなんです。(関根)

では、音楽にこだわらずにいまかっこいいな、おもしろいな、と感じるものは何でしょう? ポップ・ミュージシャンでもあるわけなので、流行と切れてはいても、何がかっこいいかという感度はバリバリ働いているわけじゃないですか。

桃野:テレビばっかり観てますね……。いまパッと思いつくのは、ハリウッドザコシショウですかね。去年、自分の中で大ブレイクした芸人さんなんですよね。最近は天変地異というか、こんなものが理解されるんだろうか、っていうようなものがボンボンと注目されていて、お笑いってすごいんですよ。僕はグランジが好きだったんですけど、なにか、そういうひっくり返されるような驚きがあるんです。ニルヴァーナみたいな。

ちょうど話題になっていますね。賞を取られた?

桃野:でも、新しいというよりは、スタンスはずっと一貫していて、時代のほうがはまったという感じなんです。

関根:僕、その賞を獲ったネタを見たんですけど、たぶんあれでもめちゃくちゃポップスに落とし込んだんじゃないかな。でも、それってすごく大事だなって思った。本当にアンダーグラウンドなんだけど。僕も昔からすごく好きだったんですよ。

桃野:ものまねってものを破壊して、めちゃくちゃ似てないことをやっているだけなんですよ。あえて言葉で説明するなら。ただの破壊活動なのに、それを成立させるものが何なのか……。

関根:漫☆画太郎だよね。

桃野:音楽でいうと誰だろう。レジデンツとか? ……それは音楽なのか? ってところまで行っているのに、ちゃんと音楽として成立させるっていう、ちょうどそんな感じなんですよ。

へえー。やっぱり、シーンが成熟しているからこそ賞をもらえる、みたいなところもあるんでしょうか。

桃野:それはあるんでしょうねえ。

関根:いろんなタイプのひとが出てオッケーな状態にはなっているのかもしれないですよね。

そこは音楽も難しいですよね。産業としては行くとこまで行ってどん詰まっているのに、それを破れるようなものを見つけて評価できるのかというと……。

関根:あそこまでバンっと出られるかというと、難しいかもしれないですね。

桃野:ジャンルももういっぱいあってよくわからないし。だから、そのひとの発想に触れるということになってくるのかな。

「ひと」はたしかに違和感の源泉ですよね。関根さんはどうですか? 最近カッコいいと思うものは。

関根:僕は、ベタですけど、去年はあれを聴いていたんですよ。ダニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスペリメント。

おお!

関根:すごく好きで。さっき言っていたようなことと重なるんですけど、とにかくみんなで何かおもしろくていいものをつくろうというムードがすごくあるんですよ。それで、雑食的にいろいろなものを取り入れるけど、いまのプロダクションでやるし、流行もうまく入れるけど、最終的には強烈な個性に落とし込んでいく──そういう感じが好きなんです。去年は本当に、そればっかり聴いてましたね。

へえー。関根さんの映像にもそういうムードはあるかもしれないですね。

関根:どこかちゃんとジャンクで、でもどこかリッチな部分が残っているという感じ。それが好きなんですよ。音楽ではそれが衝撃的にヒット作でした。僕の中では。

「ホコリまみれ」になった音楽を楽しめたらいいなと思いますね。(桃野)
いまの出会いの中に、きっと次の出会いが入ってるんじゃないかっていう感じ。そこでハプニングは起こると思うんですよね。(関根)

固有名詞がきけてうれしいです。Hocoriはプロジェクトをふたりで完結させるつもりでもないというお話でしたが、ここから考えられる展開としてはどんなことがあるんでしょうか?

桃野:この企画盤をつくって、「ホコリなもの」──プライドという意味ですけど──って、意外とひとつじゃないなと思ったんです。音楽一筋ではなくて、大なり小なり、みんな何か持っているじゃないですか。マンガでもテレビでも。誰かの中に、そういう「ホコリなもの」を感じたときに、コラボなんかをやっていければなと。ユキヒーロープロレスさんだったら、自分のファッションという土俵に特撮とかプロレスを持ってきたりしているし、シェンちゃんだったらイラストとか。そうやって「ホコリまみれ」になった音楽を楽しめたらいいなと思いますね。

わざわざ「どうコラボレーションするか」って、形から考える必要はない。

関根:ひたすらハプニングを期待していますね。

期待というのは、「ハプニングを獲りにいく!」という能動的な意味ではないですよね(笑)。

関根:どこかにいつも転がっているものなんですよ。きっと(笑)。

そのスタンスはいいですね。いまっぽいとすら言えるかも。獲りにいかなくてもあるじゃないか、出会えるじゃないかと。

関根:出会えるんじゃないかと思うし、いまの出会いの中に、きっと次の出会いが入ってるんじゃないかっていう感じ。そこでハプニングは起こると思うんですよね。何もないところに突然生まれるわけではないかなって。

音楽のありかたとしてすごく健康──健康というとヘンなニュアンスが混じりますけど、やりたいときにやって、出せるときに出すっていうのが、それが音楽だっていうところがあると思います。祝福すべきありかたじゃないですかね。

関根:気持ちのいい音楽のやり方、つくり方ですよね。そうじゃなきゃいけないって……やっぱりちょっと思います。

桃野:こういうことって、なかなか、意外と成立しないですから。あと、曲数的にはやっと8曲9曲ってくらいになるので、ようやくツーマン・ライヴができます(笑)。

関根:ようやく。これまでは30分以上できないっていうのがあったので。

ははは。でも、今回ライヴの中から発想された曲があったように、ライヴができるとまたいろいろ動いていきそうですね。

桃野:まだ決まってないですけど、そうですね。

音楽的には、「夜の音楽」が「昼の音楽」になったりという展開はないですかね? 4曲めなんて資料には「この曲を通して伝えたいことは『深夜0時、僕の電車で。走らなきゃいけない愛(レール)がある』」って書いてありますから。

関根:ははは! だからなんだよ、っていう。この曲は歌詞をCDに載せていないので、代わりに何が重要なのかを言おう、って(笑)。

桃野:簡潔に書こう、って(笑)。

ははは。その「夜感」ですよ。そのテーマはやっぱり不動なんでしょうか。

桃野:いや、昼に愛が落ちていれば、拾いにいきますよ。でも、何か、落ちてる感じがしないんですよね。それでやっぱり夜ばっかりになってしまう。

昼に愛が落ちていれば、拾いにいきますよ。(桃野)

では、何か年齢が上がるなりいろんな変化を迎えることで、昼の音楽が出てくるかもしれないですね。

桃野:高齢者になれば昼の愛が見つかるかもしれないですね。

それはきっと早朝ですね(笑)。

関根:早朝の愛。カロリー低そうでいいね。

桃野:でもまだこの年齢だと、みんな日中働いて……っていうサイクルになるじゃないですか。だからやっぱりまだ夜ですかね。

以前も言いましたけど、若いひとがポップスで夜の愛を歌うっていうのは、いまはけっこう珍しくないですか。夜の愛っていうテーマを歌うのは難しいんだなって。

桃野:昼にがっつりした愛があると、それは夜までがっつりつかっちゃうことになると思うので、10分以上の尺がないと歌いきれなくなると思いますね。

関根:そうなの(笑)?

桃野:夜だったらもう、バッと表現できるんですけど、昼はきっと尺が必要です。

ユニットのイメージが曲のテーマといっしょになって入ってくるというのは、すごくおもしろいことだと思います。Hocoriは夜の愛。──そんなふうに単純に考えてはおられないでしょうけど、突発的な人たちではないということは重要だなと。

関根:そうですね。そういう、何か同じものを見ているところはあると思います。そこがガラッと変わることがあるかどうかはわからないですけど。

桃野:バンドでやれないことをやっているという面もあるので、ひとつのテーマ性を持った歌詞をどこまで書きつづけられるのかというチャレンジもありますね。

なるほど。いつか切り干し大根のように低カロリーな愛を歌われるときにも、きっと関根さんは絶妙のトラックを準備してくださると思うので、年を経るのも楽しみにしています。

Ryu Okubo - ele-king

 オオクボリュウ、通称ドラゴン、先日亡くなられた水木しげる先生に多大な影響を受けながら、日米のヒップホップを呼吸するように聴いて育った、新進気鋭の、いま注目の若手イラストレーター/アニメーターです。PSGの〝寝れない !!!〟のPVのアニメーションが話題となってから、あれよあれよという間に売れっ子になってしまいました。いまやPOPEYE、BRUTUS、TRANSIT、Numberなどメジャー誌での挿絵……。後藤正文や快速東京、group_inouなど音楽関係のMVをやったりと大忙しです。時代はオオクボリュウで間違いないです。
 ele-kingでもずいぶんとお世話になっています。『HOUSE defintive』と『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』の表紙イラスト、紙エレキングでの「転生バカボン」(文:三田格)、前回の紙エレキングvol.17では政治特集の扉ページのイラストを描いてくれました。
 言うまでもなく、彼はカタコトというヒップホップ・グループのラッパーでもあります。
 オオクボリュウの初の個展、4月8日からはじまります。悪いことは言いません。絶対に行ったほうがいいです。

David Sylvian - ele-king

 ポップスターを止めてアートの道に入る人は珍しくないけれど、デイヴィッド・シルヴィアンほどその転換をはっきりと、潔く打ち出している人もそうそういない。
 UK音楽業界の伝説的な仕掛け人サイモン・ネピア・ベル(ヤードバーズ〜Tレックス〜ワム)がニューウェイヴ時代に手掛けた美形4人組のバンド、ジャパンの中心人物だったデイヴィッド・シルヴィンは、バンドを解散させると、華やかなポップの世界から身を退いて、さっそうと芸術的冒険に乗り出す。ジャズ、エレクトロニック・ミュージック、アンビエント、フリー・インプロヴィゼーション、エレクトロニカ/IDM……それら音楽シーンの周縁的領域は、ジャパン時代のファンの誰もが望んでいたことではなかったかもしれないが、それでもデイヴィッド・シルヴィアンは、ポップの世界への未練を残さず、ときには思い悩みながら、しかし自らの芸術的な欲望に忠実に突き進んでいる。
 この度ele-king booksから刊行された世界でたった一冊の評伝、本書『デイヴィッド・シルヴィアン』の原題は『周縁にて(On the Periphery)』という。文字通り、シルヴィアンが飛び込んだ〝周縁〟をことこまかに解説するもので、ジャパン解散後のソロになってからのすべての作品、共作、全歌詞、そしておもだった共演者のすべてが丁寧に紹介されている。
 坂本龍一をはじめ、ジョン・ハッセル、デレク・ベイリー、フェネス、ステファン・マシュー、大友良英、サチコM、高木正勝……などなど多くの個性的な共演者たち。シュトックハウゼンやジョン・ケージといった現代音楽の巨匠やAMMを起点とするフリー・インプロヴィゼーション・シーンのソロ活動をやるうえで参照した音楽家たち、そしてタルコフスキーやコクトーなど、インスピレーションの源となった作家たちについても詳細に解説されている。
 本書『デイヴィッド・シルヴィアン』は、もちろん稀代の音楽家たる彼のいまのところ世界でたった1冊の評伝であり、その冒険的な活動の軌跡の詳細を追ったものではあるが、同時にこの30年間におよぶエクスペリメンタルな音楽シーンの変遷をも眺望できる。(伊達トモヨシがデレク・ベイリーが好きでなぜアンビエントへと転じたのか、松村正人が好きなモノとは何か……などなど、その他いろいろな発見もある)
 たいへんな大著であり、とにかく、ものすごい情報量ではある。デイヴィッド・シルヴィアンが発表してきた、ひとつひとつの作品の背後には、これだけの情報が孕んでいるということでもある。それは過去と未来、あらゆるジャンルを横断する。
 ぜひ、デイヴィッド・シルヴィアンという名の大いなる周縁的冒険を知っていただきたい。

デイヴィッド・シルヴィアン
クリストファー・ヤング (著)/沼崎敦子 (翻訳)

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Kerridge - ele-king

 サミュエル・ケーリッジの新譜『ファタル・ライト・アトラクション』が、カール・オコーナー(リージス)主宰の〈ダウンワーズ〉からリリースされた。〈エディションズ・メゴ〉が送り出した刺客イヴ・ドゥ・メイの新譜と並んで、2016年初頭の重要トピックといえよう。これらの作品にはインダストリアル/テクノのモードを刷新する新しさがあるように思える。それは何か。ひとつは人間以降の世界への渇望ともいうべき終末論的な雰囲気が濃厚であること。さらには、そのアトモスフィアを体現するために、サウンドの分裂性や分断性がより推し進められ、テクノの領域に強烈なノイズが侵食していること。とくに『ファタル・ライト・アトラクション』は、その傾向が非常に強い。まさに、闇の中に生成する光とノイズの饗宴だが、ベルリンで開催されたアブストラクトでモダンなテクノ・ミュージックのフェス〈ベルリン・アトーナル〉でのパフォーマンスを元にしているという点も大きな要因かもしれない。

 〈ベルリン・アトーナル〉は、ディミトリ・ヘーゲマンにより1982年から開催され、ベルリンの壁が崩壊した1990年にその歴史に幕を下ろした「伝説」のエクスペリメンタル・ミュージック/テクノ・フェスで、2013年に23年ぶりの復活を遂げている。
 2015年の同フェスにおいては、トニー・コンラッドとファウストの名盤『アウトサイド・ザ・ドリームシンジケート』のパフォーマンスをヘッドライナーに、リージス、ペダー・マネーフェルト、モーリッツ・ヴォン・オズワルド、マイク・パーカーらのパフォーマンス、カンディング・レイとモグワイのバリー・バーンズの競演、そして日本からはリョウ・ムラカミを迎えるなど、じつに見事なアーティスト・キュレーションで話題を呼んだ。しかも会場は、2014年に続き原子力発電所跡地=クラフトヴェルク(現在はディミトリ・ヘーゲマンの〈トレゾア〉がある建物内にある工業スペース)という。

 ケーリッジのライヴ・パフォーマンスの模様は、映像でも(わずかな時間だが)観ることができる。会場である原子力発電所跡地=クラフトヴェルグは、まるで西欧の廃墟となったカテドラルのようなダーク・ロマンティックな雰囲気を漂わせており、まさに完璧なロケーション。その巨大な天井の高さは日本では再現不可能とも思えるほどで、薄暗い巨大な空間に縦に長くそびえる純白のスクリーンに投影される光と影と音響のコントラストが途轍もなくクールだ。これは会場で体験してみたいという欲望を強く持ってしまう。

 このアルバムには、そんな彼のパフォーマンスの記録が冷凍保存されている。高圧的な電子ノイズと、歪んだアジテーション・ヴォイスと、性急なリズムによって脳髄を刺激するようなサウンドは、この会場からの影響も大きいとも思えるが、しかしもともとケーリッジの音楽/音響の中に炸裂していた終末論的な思想とフィードバックを起こした結果でもあるのだろう。私などは、その融合の結果として、本作のようなインダストリアル/テクノ「以降」の現在を象徴するような作品が生まれたのではないかと想像してしまう。

 1曲め“FLA1”からして凄まじい。高周波電子ノイズとアジテーション・ヴォイスのループとレイヤー、錆びた鉄を打つかのような打撃音、生々しい電子音、性急なキック、強烈な電子ノイズが鼓膜を強烈に刺激する。このような音こそ、2010年代のインダストリアル/テクノのモードを刷新するサウンドではないか。ノイズから律動へ。アタックから絶滅的光景へ。光の律動(爆心地?)のような終末的な音響。不穏な世界の空気を、モダン/クールなアートフォームにトランスレーションしてきた先端的なインダストリアル/テクノが描き出す光景は、いま、別の領域へとシフトしつつある。光の臨界点の中で。

 それほどまでに、このアルバムが放射している光の刹那のようなノイズには新しいモードを感じるのだ。もはやインダストリアル/テクノというよりも、パワーエレクトロニクス/テクノとでも形容したいほどである。リリースされたばかりのジェノサイド・オルガンの新譜(最強にして最高)とともに聴いてもまったく遜色がない(とあえていってしまおう)。

 2010年代的なインダストリアル/テクノのネガティヴ・モダン・モードは、いま、刷新されたのかもしれない。怒りと衝動、それを俯瞰する人類絶滅以降の冷徹さ。光。絶滅的。そんな「いま」の気分とモードが、このアルバムには、たしかにある。 だが、それは世界不穏そのものであり、いま、西欧社会がクラッシュしつつあることの反映でもあるはずだ。そう、音楽は世界の無意識を映し出す鏡なのだから。

Aphex Twin - ele-king

 1日前から話題になっていたようです。エイフェックス・ツインのライヴ音源(1992年、BBCのラジオ番組『Peel Session』のための演奏/1993年、シェフィールド・ハーラム大学でのライヴ音源)がsoundcloudにアップされて聴かれまくっています。我々のように遅れて知った方もいるかと思い、お知らせします。

 1992年といえば、エイフェックス・ツインが最初に脚光を浴びた年でした。その年の夏、ちょうどポリゴン・ウィンドウ名義の作品を出して間もない頃でしたが、イギリス在住の知り合いにお願いして彼の取材を試みたことがあります。すべての質問に対してすべてひとことで答えられてしまい(例:サマー・オブ・ラヴのときあなたは何をされてましたか? 答:夏は大好き)、そのとき代役を務めたイギリス人はちょっとムカついてましたが、写真はしっかり撮られていて(ちょうど“クオース”のジャケの写真のような構図でした)、あとから思えば当時の彼は20歳そこそこ、リップサーヴィスなんてやってられない年頃。撮られた写真では、彼は階段を走っているように見えました。
 その初々しさ、駆け抜けていくような若さが出ている初期ライヴ音源です。

Peng and Andy Compton - ele-king

 キミが家で打ち込みの音楽を作っているなら、ハウス・ミュージックは聴いておいたほうがいいと思う(もちろんクラブでも聴いたほうがいい)。なぜなら、ハウスをある程度わかっているだけで、キミの音楽がより多くの人に聴かれる可能性はいっきに高まるんだから。ことネット時代の今日においては。
 シンプルでありながら、ハウスのビートの上にはいろいろなものを載せることができる。ハウスほど雑食的に多くを受け入れるビートはほかにはない。ソウルやジャズ、エレクトロニックな響き、実験的な音響、クラシカルな旋律、オールド・ロック,すべての歌モノ、そしてダブ、アフロ、アラブ、ラテン……この音楽が何かを拒むことはないように思えるし、本当にあらゆる音楽はハウスの上でミックスされる。
 ここで用語解説。ディープ・ハウスとは、90年代半ば以降に意識して使われはじめたタームで、別に深さを競って生まれたわけではない。当時は、いまでは信じられないくらいにハウスはメジャーな(コマーシャルな)音楽で、数多くのスターDJが生まれ、いまで言うEDM状態だった。シカゴやデトロイトやNYやニュージャージーのアンダーグラウンドは切り捨てられ、テンポもアッパーになり、若い白人向けの音楽になった。ディープ・ハウスはそうした状況へのカウンターとして、主にUK中北部で広がった。当時ぼくもこのシーンを追いかけ、力を入れてレポートしたので、個人的にも思い入れもある。サブカル的に受けているのではなく、そのへんで働いている普通の姉さんや兄さんが週末ハウスのパーティに出かける。無駄に着飾らず、ロンドンよりも自分たちのほうが正しい音楽を好んでいるんだという自負も彼らにはあった(数年後にダフト・パンクがフックアップするロマンソニーのような連中もグラスゴー~ノッティンガムあたりでは人気だったし、ピッチをなるべくマイナスにしてミックスするという技法も彼らは早くから好んでいた)。
 UK最良のディープ・ハウスの多くにはソウルやジャズの成分が含まれている。それはノーザン・ソウルの伝統だという分析は当時もあった。ブリストルを拠点にする〈Peng〉とアンディ・コンプトンは、UKディープ・ハウスの精神とスタイルを継承している。1999年にはじまったこのレーベルは、伝統を守りながら、デジタル環境もポジティヴに受け入れて、毎年コンスタントなリリースを続けている。ちなみにアンディ・コンプトンはThe Rurals名義では、すでに10枚以上のアルバムを発表しているほどの多作家。
 インターネット時代は、地球の距離が縮まったというけれど、実際ele-kingは海外からのアクセスも少なくない。先日掲載したブリストル・ハウスの記事を見て、アンディ・コンプトン本人から編集部にメールが来た。ブリストルには俺もいるぜということなのだろう。良いレーベルだし、ちょうど良い機会なのでメール取材した。彼は南アフリカのシーンとも強い繋がりがあり、そのあたりの面白い話も聞けた。
 記事の最後には、アンディ・コンプトンに選んでもらったUKディープ・ハウスの名曲も紹介している。これを機会に、UKディープ・ハウス、そして〈Peng〉とアンディ・コンプトンの音楽の温かい魅力に触れて欲しい。



あなたはどのようにしてブリストル・ハウスの記事を知ったんですか?

A:Facebookで知ったんだよ。良いプロデューサー、アーティストが日本でも気に入られているのを知って嬉しかったよ。

ぼくはUKディープ・ハウス・シーンのラフでパワフルな感じが本当に好きなんですけど、あなたの名前を初めて見たのは、1997年のDiY(※)のコンピレーション『DiY: Serve Chilled Volume 1』でした。

A:俺は、1992年/1993年とノッティンガムに住んでいたんだ。それまでは南西部で暮らしながらロック・バンドをやっていたんだけど(ギター担当)、ナイトクラブに行きはじめてからエレクトロニック・ミュージックとディープ・ハウスに恋してしまったんだ!
 幸運だったのは、俺が住んだノッティンガムにはDiYがいたってこと。なにぜ俺は彼らのイベントに行くようになって、最良のディープ・スピリチュアル・ハウスを聴いたんだからね! 俺はそれからデヴォンに戻って、友だちのピート・モリスといっしょにハウス・ミュージックを作るようになった。そしてデモをDiYに送ったんだ。1997年に彼らのレーベル〈DiY Discs〉からリリースされた「Groove Orchard EP」がそれだよ。

1997年ぐらいにぼくがイングランド中部で経験したディープ・ハウスのシーンは、ロンドンのともすればファッショナブルなそれと違って、ごくごく普通の労働者たちが踊っていることに衝撃を受けたものでしたが、この20年のあいだでディープ・ハウス・シーンはどのように発展したのでしょうか?

A:昔のシーンは大きかったよな。エクスタシー文化によって、誰もが愛と良いヴァイ部ブの素晴らしい週末を望んでいたからね。今日の事情はあの頃とは少々違っている。ディープ・ハウスは玄人の音楽、通の音楽になっているんだ。それに、現代の多くの労働者階級が好むのは、おおよそコマーシャルな音楽なんだよ。

あなたはなぜブリストルに越したんですか?

A:ブリストルに来たのは3年前。それまではデヴォンに住んでいた。デヴォンは美しいところだった。The Rurals(彼のプロジェクト)はそこで生まれたからね! とはいえ、音楽シーンはとても静かなんだ。だから俺はブリストルに引っ越すことにした。ブリストルのシーンは驚異的で、多くの偉大なミュージシャンがジャムしたがっているし、音楽を作っているんだ。

あなた自身のレーベル、〈Peng〉はどのように生まれたのですか?

A:90年代後半、俺はThe Ruralsとして多くのレーベルと仕事をしてきたんだけど、自分たちのジャジーでソウルフルな音楽のためにレーベルをはじめようと思った。〈Peng〉といえば高品質だって、みんなもうわかっているよ!

あなたはいまでは南アフリカとの繋がりも深く、南アフリカの人たちといっしょにプロジェクトもやっていますよね。

A:2000年、〈House Afrika〉という南アフリカのレーベルがコンピレーションのためにうちらの曲をライセンスしたいと言ってきたんだけど、そのコンピが10万枚売れているんだよ! それで俺は、南アフリカにはでっかいハウス・ミュージックのシーンがあることを知ったんだ。それからも〈House Afrika〉に〈Peng〉の楽曲や俺の曲をライセンスしていたんだけど、2011年、思い切って南アフリカをツアーしてみることしたんだ。自分で日程を調整ながらね。素晴らしい体験だったよ。俺は主に白人が住んでいないエリアでまわすんだけど、彼らは本当にハウス・ミュージックを愛している。ハウスは彼ら(南アフリカ)の文化の一部なんだ!! ちなみに来月は、俺の18回目の南アフリカ・ツアーだよ! 
 南アフリカでは、ハウスはもっとも人気のあるジャンルで、ラジオもTVもすべてハウス・ミュージックを流している。俺のグループ、Ruralsだってあそこじゃ有名なんだ。南アフリカこそハウス・ネーションだ!
 2014年、俺はソウェト(ヨハネスブルグのエリア名)でAndy Compton's Sowetan Onestepsというグループを結成したんだよ。来たる4月にその最初のアルバムが出る。それが俺にとっての30枚目のアルバムになるんだけどな!





Andy Compton’s Sowetan Onesteps
Sowetan Onesteps

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ダンス・ミュージックは細部化されて、シーンにはトレンドがあります。しかし、ディープ・ハウスはそうしたトレンディなシーンとは距離を置いているように思いますが、いかがでしょう?

A:ハウス・ミュージックは本当に重要なジャンルで、あらゆる多くの他のジャンルのなかで大規模に進化している。いまUKでディープ・ハウスと呼ばれているものは90年代にそう呼んでいたものとは別モノだな。現代のそれはテック・ハウスよりだし、チャートを意識したり、まったくトレンディな音楽だよ! とはいえ良いこともある。この時代、一部の人たちはより深く掘って、ハウスのルーツを見つけているんだ!

UKのオリジナル世代はいまどうしているんですか?

A:ほとんどの90年代世代のレイヴァーはいまは落ち着いて、もう家族があって、それほど出かけていないね!

若い世代がいまディープ・ハウス・シーンに入って来ているって本当ですか?

A:その通り! ブリストルのディープ・ハウス・シーンでは、1000人の若者に会うことは珍しくない。ここブリストルにはアンダーグラウンド・ミュージックを扱っている小さなクラブとともに素晴らしい繁栄がある。キミも知っているように、ブリストルからはどんどんすごいプロデューサーが出てきている。

〈Peng〉はこの15年、コンスタントに作品をリリースしていますが、それはどうしてでしょう?

A:俺たちはこの時代、130枚のEP、35枚のアルバムを(フィジカルあるいはデジタルで)発表している。俺が焦点を当てているのはサウンドが新鮮であること、そのことにエネルギーを注いでいる。デジタルの時代においては、実験はやりやすくなっている。フィジカルと違って、かかる諸経費はないからな。デジタルではより安価にリースできるんだ!

あなたの将来の計画は?

A:音楽を作り続けること! 俺は30枚のアルバムを発売できて満足している。そして俺はさらに世界をツアーするつもりでいる。うまくいけば、日本にも行けるかもしれないな! 俺は、すでに驚くべきに場所に行けて幸せだ。俺の使命は、できるだけ遠くに俺の音楽と愛を広げることなんだ!

(※)ノッティンガムのフリー(無料)パーティ集団。1989年に発足され、英国最大規模となったフリー・レイヴでは、当局が軍をもって鎮圧させたほど。かずかずの伝説を残している。のちにレーベルも運営して、英国中部/北部のディープ・ハウス・シーンの拠点となった。



Brain Eno - ele-king

 昨年のブライアン・イーノは、アフリカ・エクスプレスやコールドプレイのアルバムにひっそりと参加したり、失われたアルバムと言われていた『マイ・スケルチィ・ライフ』を正式にリイシューしたりするなど、散発的な動きは見せていたものの、とりたてて目立つ音楽活動を行っていたわけではなかった。
 とはいえイーノは決して隠遁生活を送っていたのではない。労働党党首ジェレミー・コービンへの支持を表明したり、ギリシャの元財務大臣ヤニス・バルファキスと対談したり、パリ襲撃事件の後にはシリアへの空爆に反対するデモで演説したり、ベーシック・インカムの会合でデヴィッド・グレーバーらとともに講演したりと、昨年のイーノは音楽以外の分野で精力的に活動を行っていたのである。
 年が明けてすぐにボウイという盟友を失ったイーノだが(ふたりはもう一度一緒に仕事をしよう、『アウトサイド』について再考しようと話し合っていたらしい)、おそらくいまの彼には涙に明け暮れている時間的余裕などないのだろう。昨年から続く政治活動の一区切りとなるイベントが2月9日にベルリンで開催され、DiEM25 というプロジェクトが正式に発表された。
 DiEM25 とは Democracy in Europe Movement 2025 の略で、昨年バルファキスによって起ち上げられた、EUの改革を目指す政治運動である。その参加者リストにはイーノの他にも、ジュリアン・アサンジ、スーザン・ジョージ、ケン・ローチ、クリスティアン・マラッツィ、アントニオ・ネグリ、サスキア・サッセン、スラヴォイ・ジジェクなど、錚々たるメンバーが名を連ねている。この新たなムーヴメントのアンセムとしてイベント当日に公開されたのが、イーノによる書き下ろしの新曲 “Stochastic Processional (DiEM)” である。



 ドラムとベースが不穏な雰囲気を形成しながら、暗くも美しい旋律を誘導する。そう、これがいまのイーノのムードなのだ。このトラックは DiEM25 という運動のテーマ曲であると同時に、あまりに混沌としたUKの、ヨーロッパの、そして世界の情勢に対する、イーノなりの切実な応答でもあるのだろう。
 そのような緊迫したムードの中、ソロ名義としては3年半ぶりとなる新作『ザ・シップ』のリリースがアナウンスされた(4月27日、日本先行発売)。同時に公表されたイーノ自身によるメッセージを読むと、来るべき新作にもこのアンセムのような痛切なムードが引き継がれているのではないかと想像させられる。
 なお、イーノは3月9日にリリースされたフォウヴィア・ヘックスのEPおよび3月18日にリリースされたジェイムスの新作にひっそりと参加している。また、4月1日にリリースされるスリー・トラップド・タイガーズ(TTT)のセカンド・アルバムにもカール・ハイドとともに参加しており、TTTのトム・ロジャーソンとイーノとの共作アルバムも年内にリリースされる予定だそうだ。さらに、イーノは同じく年内リリース予定のU2の新作『ソングス・オヴ・エクスペリエンス』のプロデューサーも務めており、今年は音楽の分野でも精力的に活動を行っていくようである。(小林拓音)

Oneohtrix Point Never - ele-king

 1月23日、ファッションブランドのケンゾーがパリ・コレクションにてメンズの新作を発表した。そこでOPNがジャネット・ジャクソンのヒット曲をカヴァーしている。

https://www.facebook.com/nowfashion/videos/10154566478983289/
https://m.nowfashion.com/video-kenzo-menswear-fall-winter-2016-paris-18139

 原曲は1989年リリースの「リズム・ネイション」。これまでのOPNにも声に対する意識は垣間見られたが、実際に合唱隊まで従えた曲を公表するのは今回が初めてだろう(因みに合唱隊のアレンジを手掛けたのは、ジェフ・ミルズとの仕事でも知られるパリの作曲家トマ・ルーセル)。キャッチーなR&Bだった原曲がまるで別物のような声楽ドローンへと生まれ変わっており、なるほど、『ファクト』誌が「脱構築」という言葉を使いたくなるのも頷ける。


(ジャネット原曲)

 2年前にルトスワフスキの「前奏曲」を独自に解釈してみせたときもそうだったけれど、ここまで大胆に改変してくれるとやはり聴いている方も楽しい。カヴァーたるもの、かくあるべし。今後何らかの形で音源化されることがあるのかどうか、気になるところだ。

 2月19日。フォー・テットはOPNの “Sticky Drama” を1時間のロング・ヴァージョンへと仕立て直し、ボイラー・ルームにてストリーミング配信を行った。そのお返しなのか、3月4日にはOPNによるフォー・テット “Evening Side” のエディットが公開されている。まるで往復書簡のようなやりとりだが、もしかしたら今後この二人が本格的にコラボレイトする可能性もあるのかもしれない。



 2月29日。テックライフの一員であるDJアールは、OPNと一緒にアルバムを制作していることを明らかにした。ローンチされたばかりの同クルーのレーベル〈テックライフ〉からリリースされる予定とのことだが、アールによれば、ダニエル・ロパティンは彼に自身のレーベルである〈ソフトウェア〉に来て欲しいとまで語ったそうで、今回の共同作業はOPNからの熱烈なアプローチによって始まったものなのではないかと想像させられる。
ともあれ、このふたりの出会いに興奮するリスナーも多いだろう。なぜならこの邂逅が示唆しているのは、「上」も「下」もどちらも面白い音楽が生み出される可能性なのだから。昨年行われたリキッドルームでのライヴでも明らかになったように、OPNの弱点は「下」にある。「下」とはつまりベースやドラム、ビートやリズムのことだ。これまで圧倒的な強度の「上」を呈示し続けてきたOPNが、フットワークすなわち「下」の精鋭とコラボレイトする。これは期待せずにはいられないだろう。

 そして、ようやくである。昨年から何度も報じられていたアントニー・ヘガティによる新プロジェクト、アノーニのアルバムが5月6日にリリースされる。この新作でOPNはハドソン・モホークとともにプロダクションを手掛け、全編に渡って参加している。3月9日に公開された “Drone Bomb Me” のMVはナオミ・キャンベルが主演を務めており、アントニーとハドモーとOPNというそもそもなぜ成立したのかよくわからない不思議なトライアングルの緊張感が伝わってくる映像になっている。(小林拓音)

https://itunes.apple.com/us/post/idsa.c9f49974-e62f-11e5-a769-f18b118b72da

対人対物無制限 - ele-king

 東京の音楽好きオリエンテッド・クラブシーンにおける立役者、Toby Feltwellと1-Drinkによるテクノ・パーティ、対人対物無制限が3月20日曜日(祝前日)に開催される。その突き抜けた感性で彼にしかできない世界観を作り出すプロデューサーのBRF、〈The Trilogy Tapes〉など数々の人気レーベルからリリースを続けるAnthony Naplesといった面々が登場してきた不定期開催なのが惜しいほどのパーティだ。今回ゲストには、ヤング・マルコなどでお馴染みのレーベル〈ESP Institute〉といったレーベルからのリリースが、コアなDJやリスナーの心を掴んでいるPowderが登場し、ラウンジではThe Very Best of Rare Groove (Vol's 1-42)がその名の如く、ホットなレア・グルーヴをなんとオープン/ラストでプレイする。毎回表情を変えるパーティに是非足を運んでみたい。フライヤーが今回も秀逸です。

対人対物無制限

会場:
CIRCUS TOKYO
3-26-16, Shibuya, Tokyo 150-0002 Japan
+81-(0)3-6419-7520
circus-tokyo.jp

日時:
2016.03.20 (Sun) 11:00 pm ~

料金:
2,000 Yen

*20歳未満入場不可。要写真付身分証明書

Powder
2015年、Born Free Records(SWE)、ESP Institute(US)より12インチアナログをリリース。
2016年4月、自身3枚目となる12インチアナログをBorn Free Records(SWE)よりリリース予定。
soundcloud.com/thinner_groove

1-Drink
TECHNO、HOUSE、BASS、DISCOの境界を彷徨いながら現在にいたる。 DJユニット"JAYPEG"を経て現在は個人活動中。 ときどき街の片隅をにぎわせている。
soundcloud.com/1-drink
soundcloud.com/t-o-b-o-r

Toby Feltwell
英国生まれ。1996年からMo'WaxのA&Rを担当。2003年にはXL Recordings傘下の音楽レーベルPlatinum Projectsを立ち上げた。2011年よりC.Eのディレクターを務める。
www.cavempt.com

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